シナリオ詳細
<カマルへの道程>従属たるアポーラフシ
オープニング
●
蝕む感覚が体を巡る。
それは実際に肉体をか、それとも魂をか――
先のネフェルストにおける戦いでマリエッタ・エーレイン(p3p010534)にラダ・ジグリ(p3p000271)は敵性存在から妖しげな干渉を受けていた。それが『烙印』なる代物。
「くっ……月夜を跨ぐたびに、なんだか症状が深くなっている気がしますね……」
「あぁ。今の所治療方法も分からない……どうしたものか」
「……俺の身内がすまねぇな」
マリエッタはなんとか身に起こっている事態を調べる事ができないかと、喉が渇く様な感覚に抗いながら四苦八苦している最中だ――ラダは咬まれた痕をさする様に。されば ルナ・ファ・ディール(p3p009526)が彼女らへと語り掛けるものである。
この事態を引き起こしたのは彼の兄たるソルが原因。
より厳密にはその動きを助力した『もう一人』の存在もあったが……と、その時。
「――ラダ、無事か!? 聞いたぞ、ネフェルストで負傷したと――」
ローレットのラサ支部へと飛び込んできた一人の男の姿があった。
その人物の名は――ラルグス・ジグリ。
ラダの実父だ。ジグリ家はラサの商人一家であり、彼もまた商人として各地を巡る一人である。商売の中で自らの身を護る自衛能力も磨いていれば……純粋な商人と言うよりも武装商人という方が『らしい』雰囲気を醸し出してしまっているが。
ともあれ娘の危機には、商売上で出す強気な態度よりも根の方が出でようか。
出先で話を聞いた彼は心配性な面がでて飛んできたわけである――が。
「……!? 婆様!?」
「おぉ久しいな、ラダ。いや何、偶然ラルグスと会って事情を聴いてね」
「婆様――? ラダの祖母、か?」
ラダにとっては父が来たことよりも、父に続いて現れた人物の方にこそ驚きがあった。
あっけらかんと。親しい仲であるかのように言を零すのは、ニーヴァ・ジグリ。
――此方はラダの『祖母』だ。
風貌は大分若い。その理由は彼女が幻想種であるからか――
いつだったか『珍しい動物探してくるからな。竜とかいいかも』となんか凄い事言ってふらりと放浪の旅に出て以来、中々顔を出さない人物だったのだが……まさかこんな機会に再会する機会になろうとは。
和らげな笑み。ああ、全く、この人は変わらないな――などと思っていれば。
「ふむふむ。これは……なんとも、妙な術に掛かってるじゃないか。
ラダも、そっちのキミも」
「分かりますか?」
「分かるとも。これでも深緑出身だからね――術の匂いには敏感だ。
まぁこれは術というよりも……更にいじくられた『何か』な気もするが……」
ニーヴァは紡ぐ。ラダとマリエッタを見据えながら。
烙印。これはなんとも厄介そうな代物だと、曲がりなりにも昔は深緑にいた幻想種であれば気付く事もあるのだろうか――とはいえ仔細の知れないモノに対抗する事までは出来ない。が、このまま放置していれば孫娘たちがどうなる事か。
「放ってはおけないね――ラルグス。たしか……」
「あぁ。ラサの古代遺跡の一角が、最近騒がしいという情報は入手している。
恐らく件の吸血鬼絡みだろう……古宮カーマルーマ。
かの地には妙な転移陣が出ているとか」
「よし、決まりだな。それじゃあ直に乗り込んでみるとしようじゃないか!」
「――マジか。いや、烙印を調査するとすりゃ……確かにソレが一番か」
故にニーヴァは事態打開の為、敵地への歩みを提案する。
場所は商人たるラルグスが既に情報を掴んでもいるのだ。
それは古宮カーマルーマ。
ラサに存在する古代遺跡の一つだ。此処から、先日ネフェルストを襲撃した様な敵性存在が度々目撃されているという……つまり奴らの拠点も近いのは間違いない。転送魔法陣らしきモノもあるらしく、その奥であろうと目されているのだ。
烙印は、今の所致命的な被害を齎す様子はない。
しかし『いずれ』の問題であるのだとすれば……ルナとしても古代遺跡への進行は頭の片隅で考えていたものである。烙印の事を知る為には、烙印の事を知る者を引っ張り出せばいい――正にその通りだ。
無論、敵地の奥底にまで乗り込むのは無謀だろう。
故に今回はあくまでも表面をなぞる程度。
烙印の事を知る様な者がいれば、その者から聞き出す――
捕らえる事が出来れば最上だが流石にソレは難しいだろうか?
「……そういえば婆様。気になる事が。
実は――私を『ジグリの小娘』と呼んだ人物がいまして」
「んっ? ……なんだって。まさかそれは、ガルトフリートか……?」
「ご存じで?」
「ヴァズに祀られていた大精霊『ギバムント』の守護者だよ。
いや『だった』というのが正しいのかな。
遺跡が滅茶苦茶に荒らされた日と同時に姿を消したんだが……」
まさか、孫娘に手を出してくるなんてね――
呟くニーヴァ。幻想種たる彼女であればこそ、知る存在もいるものだ……どうやら先のネフェルストの一件が無かったとしても、ジグリ家として看過出来ぬ事態であったのかもしれない。
――いずれにせよ。今回はガルトフリートなどとは会えぬでも。
烙印の事を調べる為に――乗り込んでみるとしようか。
●
古宮カーマルーマ。『夜の祭祀』と呼ばれる死と再生を司る儀式が行なわれていたと歴史上に残されている地――には、幾つかの転移魔法陣が存在していた。その陣を利用した先にあるのは……
『月の王国』だ。
美しい月が常に天に浮かび、夜が辺りを占める世界。
特殊な神秘空間だろうか。主は一体誰なのか……
遠く。空間の中央には――中核らしき王宮も見える、が。
「――誰か来たね。誰か来たわね」
あそこにまで今回行くのは無理であろう。
なぜならば――王宮の周囲には、守護する様に至る存在がいるのだから。
「あぁ偉大なる純血種(オルドヌング)に逆らう子達。
――あの人に属する喜びを教えてあげなくちゃ。
大丈夫。抵抗しないで? 一緒にあの人に仕えましょ――?」
それは一人の女。名を、ベルンティアと言う人間種の者であった。
だが、その瞳に正気はない。
その魂は濁り切っている。首筋に浮かぶ『烙印』が魂にまでしみ込んだ末路。
『吸血鬼』へと至ってしまった存在なのだ。
彼女は侵入者の存在を感知すれば女王に捧ぐ供物を捕らえんと往く。
「ピオニー。博士。使わせてもらうわよ、この子達を」
ベルンティアの背後には幾つかの人影もまた、あった。
しかしそれは……近くで見れば正常なる人間でないと誰もが気付くだろう。
全身が白い、まるでのっぺらぼうの様な個体共。
ソレは作られし存在。女王に近しき『博士』なる人物が作った『失敗作』
ただただ吸血鬼などに忠実に従うだけの存在――
『偽命体(ムーンチャイルド)』と呼ばれる、悲しき者達であった。
- <カマルへの道程>従属たるアポーラフシ完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年03月31日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「吸血鬼の住処、って感じよね……
此処に烙印の手がかりがあるのだとすれば見つけたい所だわ……!」
「あぁ――だが早速の御出迎えの様だ。連中から聞き出せる好機と見るべきだろうかな」
厭な気配のする場所だ、と『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は紡ごうか。だが如何なる地であろうとも、ここに謎の一端があるとすれば調べてみるより他は無い……しかし『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)は気付くものだ。
此方に急速に接近しつつある敵影がある、と。
――一閃する。獣が如き存在へと、自らの刀技を。さすれば。
「あら野蛮。外の子達は礼儀も知らないのかしら?」
「出てきたな――安売りの吸血鬼達め。どれだけ出てくるんだ」
それらを引き連れてきた存在が言葉を紡いできた――吸血鬼だ。『可能性の壁』アルトゥライネル(p3p008166)は即座に戦闘の態勢を整えよう。早速のお出ましとは……だが焦った方が足元を掬われるのだ。着実に道を作らねば。
「速攻をかけます。理想は何もさせぬことですが……ついて来ますかね」
「さて――全ては試してみてから、ね!」
次いで動き出すのは『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)に『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)の両名であった。珠緒の駆け抜ける勢いに呼応する形で蛍も同時に――そして霍公鳥の声を紡ごう。春雷を想わす鮮烈の響きが晶獣らへと……
斬り込む。数多を巻き込み、続けざまには蛍の満開の桜の結界が満ちようか。
桜吹雪の幻影が誰しもの目を奪い、敵の戦意を釘付けにしよう――さすれば。
「……月の王国。ええ、貴方はさしずめ、この地の住人――と言った所ですか」
同時。『敵』たる者の姿を確認すれば『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は晶獣らへと撃を放つ。血を操りし魔女としての一端を、此処に。
あぁ……烙印。かの吸血鬼達が齎す、呪いの一種だろうか。
この烙印をこの身に受けてから――
何故か、死血の魔女としての力が湧く気がするんです。
「術を紡げることが証左。参りましょうか――『魔女』として」
「あらあら……抗わなければ我が主と共に歩めるというのに」
「――悪いが、お断りだ」
ベルンティアを見据えながら言を放つマリエッタ。同時に『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)の射撃も降り注ごうか。先の、蛍が引き付けた個体共を特に狙い定め多くの敵を巻き込んでいく。
「そう――この地に烙印をもって訪れたからには『そう』だと思ったのだけど?」
「私はな、別に諦めてはいないんでな」
どうせ無理だの誰にも迷惑はかけたくないだの。
一人で勝手にネガってグチグチ言うのは嫌いなんだよ。
――無駄でも動いてた方がよほどいい。そう、こっちから乗り込むくらいで丁度いいんだ。
「と言う訳で父さん、婆様。アレに吸血されない様には」
「ああ無論だ。ミイラ取りがミイラになる訳にもいかんしな」
「さてさて孫娘の為にも――ね」
直後。ラダは共に至っている父と祖母に声を掛けるものだ。
……父さんは大丈夫そうだが婆様は大丈夫だろうか? まぁこの人はこんな感じの人だが。どこかのらりくらりとしながらも、自由な風の様で。吸血鬼に捕らえられる事は無いだろう――多分。
ともあれ二人にも動きが見えるものだ。ラルグスは接近しうる敵へと銃撃一つ。
ニーヴァも偽命体の放つ拳を躱して笑みの儘に戦場を謳歌しようか。そして。
「ラダの婆様に親父さんか」
「むっ。君は……」
「あいつは俺のせいじゃないとか気にするなとか言うかもしれないが」
それでも、と『黒き流星』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)はいうものだ。
身内が、すまなかった。
守れず、すまない。
俺が――あの時――
「気にするな、というのはそれこそ酷か。
……今はただ。一つ一つ問題を解決しようではないか」
「なぁに。生きてさえいればなんだって成せるさ。
年長者として助言するよ。そう、私だって生きていればいつか竜を飼える」
「婆様。まだソレ目指してたのか」
ラグルスはやや渋い顔を見せようか。だがルナを責める様なソレではない。
ニーヴァも同様である『最悪』に陥った訳ではないのだから、と。
彼女は己が夢も語りながら――ラダは吐息零すが――とにかく前を向くものだ。
さぁ往こう。きっと希望はある筈だから、と。
●
ベルンティアに連れられた異形達。
真っ先に飛び出してきたのは偽命体だ。彼らは忠実な『駒』の様に動きて……
「よう、べっぴんさん。そっちに、俺を数倍筋肉ダルマにしたみてぇな奴いねぇか?」
だがルナの跳躍が上回った。彼の機動力は尋常に非ざる。
その上で飛翔する事も可能であれば――止める事が出来る者などいなかった。
紡ぐ言の葉の意味はルナの『兄』の事。先日ラダやマリエッタに烙印を施した存在。
「俺の兄貴でよ。仲間になれっていいながら、招待状も忘れやがってな。脳みそまで筋肉になってやがる」
「あぁソル殿の事? ふふ。今ので分かるだなんて、自分ながら笑ってしまうわ」
「ハッ。まぁあの兄貴だからな――どうせ印をもらうんなら、むさ苦しい血縁よかアンタみたいな綺麗処からもらいてぇもんだ。で、どうなんだ? 兄貴の事は」
「ええ知っているわよ? でも、そうねぇ」
来たいなら。貴方も『此方』にいらっしゃい――?
ベルンティアはルナの接近に微笑みながらも……警戒もまた崩さぬものだ。
抵抗しない素振りだが、いつ何時にこちらを払うと限らぬから。
実際ルナはポーカーフェイスで心中を悟らせんとしている。物理も神秘も遮断しうる結界を展開していれば、そうそう打ち倒される事は無い筈。尤も、血を流す事に躊躇いはないが。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。お前達の行い。とても見過ごせん。
仲間の借りは返させてもらうぞ」
「ルナ、無理はしないようにね……! こっちも出来る限りの事はするわ……!」
一方で周囲では偽命体らとの衝突が始まっていた。
流星の如く駆けるエーレンが敵を一閃する。吸血鬼を片付ける事が最大の目標であるが……その前に、やはり偽命体や晶獣を排しておかねば始まらぬのだ。偽命体の振りかぶる拳を紙一重で躱しつつ――返しの一撃を穿ってやろうか。
同時にジルーシャも数多の撃を遮断する術を自らに施そう。
彼は先の蛍の誘導を抜けてくる個体共の相手をせんと立ち回る。
それはベルンティアの守りに往かせぬ為でもある。
近付いてきた個体へと小魔術の極大斉射を展開して。
「晶獣側は治癒も行うみたいだしね……まずはあっちを片付けないと!
もちろんジグリさんのご家族には指一本触れさせない。好きにさせるもんですか!」
「回復をさせては戦いを長引かせるだけ……
ここは敵の領地と考えれば、長期戦に持ち込む意味はありませんね」
次いで蛍と珠緒も晶獣らに狙いを定めていた。
連中は偽命体が傷つけば即座に治癒せんとしてくる能力がある。故に珠緒は、空へと飛ばしていた使い魔より戦場の――特に晶獣の位置を把握し射線を調整する。蛍が敵を引き付け桜吹雪を舞い散らす桜技を放てば。
続く形で魔力密度を高めた斬撃を即座に繋ごう。
抜刀一閃。砲撃の如く貫く撃が敵を薙ぐのだ――
「痛い? それとも苦しい? 貴方達のように命じられるだけの連携に、お互いを思いやるボク達の連携が――絆が負けるはずがないのよ!」
「救われぬ魂よ、砂の底へ眠れ。かの地に汝らの救いがあると祈らん」
そしてアルトゥライネルの熱砂もまた放たれようか。狙いはやはり晶獣側。彼もまたファミリアーを用いてラダの家族に危機が及ばぬか常に観察を続けている――いざとなれば身を挺してでも庇ってみせよう、と。
「なに。こちらも身の守り方は心得ている、安心してくれ」
「父さん――ああ。気を付けてくれよ。婆様もな」
「はっはっは。なぁに油断はしないよ」
然らばラルグスは銃撃によって晶獣らを狙おう。そんな彼をラダは見据えつつ自らも火力支援を続行。特に婆様の方にはいかせまいとラダは位置取りを常に意識。かの婆様はイレギュラーズを支援する術を紡ごう。
体が軽くなる。これも幻想種として知る術だろうか、ともあれ。
『――』
「やれやれ……偽命体もひと山幾らで出てくるな。
だが数が出てくれば出てくるほど……それだけ多くのモノを犠牲にしたという事。
博士とやらは一体どれだけ実験したのか――成功例はどれだけいるのか」
「この地に蔓延る闇は吸血鬼だけではなさそうですね……
博士の件も気になりますが、しかし今は我々も我々の事を」
多くの撃が叩き込まれているというのに恐れる様子もなく立ち向かってくる偽命体を見れば思い巡らすものだ。連中の拳は只人を超えた膂力と共に振るわれる……マリエッタは言を紡ぎながらも皆を助けるべく力を振るおうか。
治癒術だ。前線を担っているエーレンや蛍などを中心に、彼女の術が振るわれる。
厄介な負をいつまでも背負わせぬとしつつ隙があらば攻勢にも転じようか。
魔女として。相手を呪いの鎖で縛りて、トドメの鮮血で命諸共穿たん。
さすれば晶獣に攻勢を集中させた甲斐があったのか明らかに弱り始めていた。治癒を振るおうと追いつかぬ。偽命体らは蛍やジルーシャなどに押し留められ、上手く動けてもいない。
反撃の拳があらば無傷とはいかないが、ラルグスやニーヴァの支援もあれば――戦局の流れは徐々にイレギュラーズ側に流れんとしていた。
「ふふ。流石というべきかしら。
でもね、だからこそ貴方達は我が主の配下になるに――相応しい」
が。まだまだ油断は出来なかった。
敵の中心人物たる吸血鬼ベルンティアは、まだ其処にいるのだから。
●
ルナは常に観察を絶やさなかった。
情報を探らんとしていたのだ。烙印以外は左程人間に代わらぬ様に見える……ただ『内』の気配がおかしい。只の人間ではないとは感じえて、そして。
「さて。招待状を渡しても良いけれども……邪魔をしないでもらえる?」
「さて。――そういう訳にはいかねぇな」
刹那の瞬き。ベルンティアがイレギュラーズへと雷撃の魔術を繰り出せば。
ルナは奇襲するが如き一撃をもってして全力を叩き込んでやった。
彼の太き前足がベルンティアの腹を穿たんとする。あぁ。
「俺はてめぇらを」
ラダを歪める血吸い蝙蝠どもを許さねぇ。
強き意思が彼にはある。ポーカーフェイスの下に確かな熱が。
「ふふ。やっぱりそうよね――でもそうはいかないわ」
直後。ベルンティアはルナを振り切らんと動くものだ。
射線を確保する為に。だがルナは逃がさぬ――全霊たる鬼ごっこの開始だ。
奴を自由にさせぬ。轟音と共に放たれる魔術の数々。強烈にして強力だ、が。
「ね、それじゃあアンタの言う『あの人』について教えて頂戴な。まだよく知りもしない相手に仕えるのは不安だし、何よりその人に対しても失礼でしょ? 少しでもいいわ。烙印の主ってのは――どんな人なの?」
「素晴らしいお人よ。ええ。貴方も烙印の果てへ至れば分かるわ。
あの方にお仕えするのが私の生まれた存在意義だったのだと知るでしょう――
お美しい方。我らの主。白色の女王――」
ジルーシャは恐れぬ。威力自体は妨げる術を展開しているのだから。とはいえ齎される負までは防御出来ぬ。生じる出血の痛みは奥歯を噛みしめて耐えつつ言の葉を紡ごうか。
烙印。見た目は綺麗だけど、怖い術。
このままでは心配なのだ――皆が血を呑む様になっちゃったら。
(栄養の偏りとか! お肌への影響とか! あぁでもいい影響があったらどうしようかしら!?)
思考を巡らせながらもベルンティアを観察してみれば、なんとなし肌は艶らかな気がする。尤も……首筋に見える烙印が、マリエッタ達よりも蝕むが如く深く身に刻まれていれば羨ましいかは話が別だが。
ともあれベルンティア。此処で捕縛してみたいものだ。
戦力を削る意味でも。情報を得る意味でも。
同時。彼女から零れる言葉全て珠緒は捉えていた。
(ベルンティア……正気はなさそうですが、だからこそ)
眼前の偽命体に対応しながらも、聴覚による情報収集は絶やさない。
正気でないからこそ隠し事に特化しているとも思えないから。
全て覚える。その口端から零れる情報を、全て――
「吸血、か。魔に堕ちた者に相応しいと言えるモノを宿している様だが……
しかし殊更に恐れるつもりはないぞ」
アルトゥライネルも動く。治癒を成す晶獣が弱まれば、必然的に偽命体の耐える力も弱まるもの。ベルンティアより振るわれる魔術による出血は慈悲なる一撃共に振り払いて。
「ところで、今までこの混沌でイレギュラーズにナメた真似をした勢力が辿る運命を教えてやろうか――衰亡あるのみ。例外なくだ。今までの歴史を辿ってみるがいい、阿呆でないならな」
直後。偽命体を切り伏せたエーレンが言葉を放つものだ。
「お前たち、地獄の釜の蓋を開けたぞ」
「ふふ。面白い事をいうのね――貴方達はその釜の中に来たというのに」
「さっきからずっとずっと何を笑ってるの。その首筋の烙印――貴女、元は人でしょ!」
ベルンティアが再度魔術を振るう。然らばエーレンは刀で凌ぎて――
その時だ、声を張り上げたのは蛍である。
停滞の術を巡らせ敵を押し留めつつ彼女は。
「『そっち側』にいるなんて何考えてるの!? それが本意だとでもいうの!?」
「ええ勿論。幸せよ、ねぇ。貴方も知ってみる?」
声を張り上げるのだ。ベルンティアへと――しかし何の疑問もなく即答する。
幸せだと。
「あの方に仕える幸福を。極楽を。天上を教えてあげる」
「ッ! 蛍さん!」
まだ往く。残存の偽命体を使い捨てるように珠緒の側へと寄こしながら。
珠緒の光翼の一撃を受けながらも――止まらずに。
刹那の隙を突き蛍の首筋に吸血を。そして。
「ルナ!!」
直後――ベルンティアの目が別のイレギュラーズを見据えようか。
更なる吸血の意思。ラダやマリエッタも見据える。
烙印を深く刻まんと……だがルナが阻む。
ラダの声が聞こえる。あぁ――自分の怪我なんざ構やしねぇ。
俺は元々臆病者だ。
居場所のない部族に。出奔後も部族にさざ波を生むことに。
無価値の自分に、誰かとの新たな繋がりに、その先に待っている離別に臆病で。
だが、今なによりも臆病になるのは。
「――お前の未来が奪われることだ」
だから俺は、正真正銘の臆病者になってやるさ。
届かないなら、さらに速くなってやる。
――噛まれる。ベルンティアの牙が彼の身に立ち。
「これ以上は、させませんッ!」
であればマリエッタが踏み込んだ。吸血を更に行わんとしてきたベルンティアを掌底にて弾き飛ばす……それは不殺の意図もあっての事だ、が。
「あは、は。ダメね。沢山の人を誘いたかったけど――今日はここまで」
「ッ!? 体が、蝙蝠に……!?」
「吸血鬼とは、こんな事まで」
『ふふ。また会いましょうね――』
直後。ベルンティアの身が大量の蝙蝠へと変じた。
ラダの銃撃。珠緒の閃光が周囲に満ちる――さすれば耐久力は脆すぎるのか次々と堕ちていく、が。全て始末するには足りなかった……もしも症状が進行すればあのようなモノになってしまうのだろうか。
「……だが奴め、吸血を優先した無謀な突進だった。
最後の蝙蝠もな。浅くない傷を負っているはず……」
「――リミットはまだある。リミットより先に、順風なる結末へ至れるだろう」
エーレンとアルトゥライネルは呟くものだ。吸血鬼になど負けぬと。
そしてラグルスにエーヴァは無事であった。元よりラルグスは注意していたし、イレギュラーズが守護せんと気を巡らせていた事もあって万全であったか。
ベルンティアを捕らえるのは出来なかったが……これは止むを得まい。ベルンティアに側からすると偽命体らの多くが倒れた時点で、死ぬまで此処で相対する理由はなかった。彼女の捕縛は周囲を全滅させる前から圧をかけ続けられたかが重要だったかもしれない。
「それで婆様、どうだい? 烙印のこと何かわかりそうかな」
「あぁ、そうだね。あの中枢……王宮かな?
ラダの首筋にあるその印と似た……いや『根源』の様な気配がしている。
間違いない。あそこまで行ければ解決の目途も分かりそうな気がするんだけどね」
「中枢、か」
ともあれ。この地へ至る事を勧めたエーヴァが地に手を置いて……何かの気配を探っている。だがあそこに行くとすれば少数では無理だろう。もっと多くの仲間の力が必要になる筈だ――
「作戦を立てるべきね。あの王宮に乗り込む策を……!」
「まだ時はあります。慎重に……往くべきでしょうね」
であればジルーシャにマリエッタは遠くに見える建造物を見据えよう。
マリエッタは烙印が刻まれた箇所も、さすりながら。
なんとなく……近付こうとすると烙印が滲む様に反応する気がする。
「……いるのだろうか。あそこに、前のヤツが。婆様の話していたヤツが」
「ギバムント……そうか。それに付いても話しておくべきだろうか、ね」
そして『奴』の事は道すがら話すとしようか、とニーヴァはラダへと紡ぐものだ。
ともあれ目指す先は目途が付いた。今は退こう。
天に浮かぶ偽りの満月を見据えながら――心に刻むのであった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
烙印の根源。王宮の様に見える地には――いずれ。
ありがとうございました。
※ルナ・ファ・ディール(p3p009526)さん、藤野 蛍(p3p003861)さんは『烙印』状態となりました。(ステータスシートの反映には別途行われます)
※特殊判定『烙印』
時間経過によって何らかの状態変化に移行する事が見込まれるキャラクター状態です。
現時点で判明しているのは、
・傷口から溢れる血は花弁に変化している
・涙は水晶に変化する
・吸血衝動を有する
・身体のどこかに薔薇などの花の烙印が浮かび上がる。
またこの状態は徐々に顕現または強くなる事が推測されています
GMコメント
●依頼達成条件
・敵勢力の撃退。
・可能であれば烙印の情報を探る事。
●フィールド
『月の王国』です。遠くに王宮らしきものが見えています……
時刻は夜。というよりも、いつ来ても此処は『夜』の様です。
空には満月が浮かんでいますので、視界には左程問題ないでしょう。
また、周囲はラサの砂漠の様な地平が広がっています。
●敵戦力
『吸血鬼』ベルンティア
月の王国に属する吸血鬼です。元々人間種の女性であったように窺えます。
晶獣らを使役し、己は後方より物理・神秘に優れた魔術を放ってくるようです。
彼女から行われる攻撃には全て【出血系列】のBSが付与される可能性があります。そして彼女から受けた出血系列のBSは効果発動時、ダメージが二倍になる事が時々ある様です。この二倍効果に関しては『特殊抵抗』の値が高いと発生確率が減ります。
また、彼女は隙あらば『吸血』しようとしてきます。
吸血された場合、後述される『烙印』が付与される可能性がありますのでご注意を。
『偽命体(ムーンチャイルド)』×8体
『博士』と呼ばれる者が作り出そうとした人造生命体……の失敗作です。
人型の形は見えますが非常に短命であり、意思疎通は出来ません。
ほとんど魔物みたいなモノです。ベルンティアに使役されており、襲い掛かってきます。
物攻に優れ、至近~近接攻撃を叩き込んできます。
『晶獣』リール・ランキュヌ×4
紅血晶が付近の亡霊と反応し、生まれたアンデッド・モンスターです。
ベルンティアに使役されており指示に忠実に従います。
強力な神秘系魔術を行使し、更に味方を治癒する魔術も振るう事がある様です。
●味方戦力
●ラルグス・ジグリ
ラダ・ジグリさんの実父です。商売の中で自衛能力も身に着けた結果、戦闘能力も宿す『武装商人』という形の人物です。とはいえあくまで本職は商人である為その力は敵を打ちのめすというより、降りかかる火の粉を払う事が主体でしょう。
今回、ニーヴァに強引に連れて来られる形で情報収集の為同行しています。
短剣と銃で敵に対しては応戦する事でしょう。
烙印の危険性は認識していますので、吸血鬼の動向には警戒しているようです。
●ニーヴァ・ジグリ
ラダ・ジグリさんの祖母です。
元々、軍馬やパカダクラ等、使役動物の調教師であった人物で、若いころはその技能を活かしてキャラバンを渡り歩いていたとか。幻想種である為に非常に長命な人物です。
戦闘能力は不明ですが、幻想種としてある程度の術を行使できるとか?
皆さんの支援を行ってくれるとの事です。
●特殊判定『烙印』
当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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