シナリオ詳細
<帰らずの森>クリスタラードを追って
オープニング
●クリスタラードを追って
「まさか、クリスタラードがピシュニオンの森に移っていたなんてね。それじゃあどこを探しても見つからないわけだ」
竜骨から削り出したとすら言われる両手剣、『レジェンドボーン(伝説殺し)』をがつんと地面に突き立てるように握り、ペイト鉱山警備隊のアダマス・パイロンはぼやいた。
「灯台もと暗し? きゃは、こんなに近いのに気付かないんだから、森の暗さも相当だよね」
対して、妖艶にころころと笑う鈴家当主、鈴・呉覇。
彼女たちは『アルティマ』という集落群の解放を目指しローレットと共に活動していた亜竜種たちである。
トスト・クェント(p3p009132)や伊達 千尋(p3p007569)といった面々の活躍によってアルティマは解放され、今では互いに支え合いながら自治が行われているという。
何からの解放かと言えば……そう、六竜として恐れられた天帝種(バシレウス)のひとり、『霊喰晶竜』クリスタラードによる支配である。
彼が力を維持、回復するために必要なエネルギーを亜竜種たちを飼育することによって継続的に得るという巨大な七つの人間牧場は、住民たちの蜂起や管理亜竜たちの討伐によって終わりを告げた。
肝心のクリスタラードはアルティマに見切りを付け、関連施設からもすっかりと姿を消してしまったのだが……。
その足取りがピシュニオンの森へ続いていることが分かったのである。
「流石にあそこはヤバすぎるから、うちの子たちも入れられないよ?」
「だな。少数精鋭で入るしかねえ。おねーさんが言っても構わないんだが……」
「オイオイオイオイ、そこは『オネガイ☆』してくれる場面じゃねーの」
軽く両手を翳しておどけてみせる千尋。
アダマスはむすっとした顔をしたが、代わりに呉覇が両手を可愛らしく合わせて頬にぺたっとつけた。
「おねがい☆」
「熟練されてる……」
あまりにサマになった様子に、トストがむしろひいた。
話しは済んだのかなという様子でアダマスが続ける。
「クリスタラードの痕跡は、力の残滓を辿ることで追跡できるんだけど……場所が場所だしね。とんでもない強敵が出てくる危険にも、しっかり対策しとくんだよ?」
「危険、危険ねえ……」
人を丸呑みにする大蛇や巨大魚、空を支配した大鴉に炎の巨人。果ては暴食の魔種などなど。アルティマの管理者たちはどれもクセのある強敵揃いだった。
そんな連中を従えたクリスタラードがピシュニオンの森に引っ込んだとあれば、その守護者もまた強敵であるに違いない。
「途中、亜竜による妨害は当たり前にあると思っておいてね。命の危険もばりばりだと思って」
「帰ってくるのが失敗の報告と皆の死体ってんじゃ、あんまりにもやりきてないしね。クリスタラードの力の残滓を追跡する魔法装置は預けるから、ちゃんと生きて帰って返すんだよ」
アダマスがパスしたそれを、千尋はイエスといってキャッチする。
さあ準備を整え、ピシュニオンの森へと突入しよう。
待つのは危険。あるいは死地か。
●未知なる守護者
それがいかなる存在であるか、まだわからない。
男性なのか、女性なのか、はたまた性別が存在するのか。
亜竜なのか、魔種なのか、はたまた恐るべき竜種の一角であるのか。
その存在は、亜竜たちより時としてこう呼ばれていた。
「『守護者』どの――例の人間達が森への探索を進めている様子。アルティマを襲ったというローレットなる輩でありましょうや」
「………………」
『守護者』はしばし沈黙したあと、迎撃を命じるジェスチャーをした。
「は、必ずや」
跪き答えたのは、赤き羽毛に包まれた準ワイバーン型の亜竜エーデルワイス。慇懃な態度で『守護者』に頭を垂れ、そして周囲にひかえる亜竜たちに号令をかけつつ空へと一直線に舞い上がった。
「――ローレットなる者どもに、死を!」
- <帰らずの森>クリスタラードを追って完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年03月29日 22時20分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●
ただの森に思えた、と言ったら流石に語弊があるだろうか。
極彩色の鳥やカメレオンめいた生物。木の上でじっとしている哺乳類。ついでに親指サイズくらいある馬鹿でかくてキモい虫。
こういうどこにでもあるような森を想像していたし、実際『愛娘』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が進む森もそんな場所だった。
実際、アルティマの探索内容を知っている彼女だが、ここまであからさまな森はそうなかったように思う。
(流石に、森の奥にアルティマと同様の集落を、作っているわけでもなかろう、が……この森が、本来の拠点かもしれない、な。
もしそうなら、管理者達以上の脅威も、どれだけ居ても不思議ではない、な)
当然警戒は怠らない。十人のメンバーで固まり、前後左右にいつでも構えられるように進むのだ。武器を手に取っていないのは、いざ戦闘が始まるまでは探索に集中したほうが安全だからだ。
(クリスタラード……アルティマの存在理由でトルハの両親が死んだ遠因。
バルバジスはこの手で討ったがクリスタラードを討たなけりゃ第二第三のアルティマが出来た時、また被害が増えちまうのは……)
『老兵の咆哮』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)は自分の顔ほどはあろうかという巨大な葉を手でよけながら、レッドレナの悲劇を思い返していた。
自分がクリスタラードで、もし体力の回復を目的に『巣』を作っていて、それが外からきた何者かに奪われたなら?
別の場所に巣をつくるか手早く回復する手段を模索するだろう。探索を早めることは、クリスタラードの回復を万全にしないという意味でも重要な意味をもっていた。
なにせあの存在ひとつで(直接襲うことすらせずに)七つの亜竜集落が関節支配されたというのだから。
「そういやこういう調査はアルティマ以来だな、これもなんかの縁ってことか」
「たんさく? あ、そっか。あれってそういう依頼だったよね」
『魔法騎士』セララ(p3p000273)は一度はきょとんとしていたが、アルティマの、具体的にはブラックブライアのことを思い出して目をぱちくりさせた。
セララはとにかく強者とタイマンを張り続け頂上に登ったクチなので探索らしい探索はしていない。目指していたのは支配だの解放だのというよりむしろ……。
「ブラックアイズと仲良くなるためにもクリスタラードを倒さないとね。
頑張るぞー!」
で、ある。
「クリスタラード……あの竜たちの親玉でしたね。
ブラックアイズは『遅かった』のでそれより守護者とやらが速ければいいんですけど」
『後光の乙女』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)はそんなことを言って、過去の記録を抜粋した報告書を手に取っていた。
「速い遅いの次元で語れる強さじゃなかったな、あいつは。ただまっすぐ飛んでるだけで俺たちはズタボロにされた。ローレットの精鋭チームがだ。屋台も一度スクラップになったしな」
『恋揺れる天華』零・K・メルヴィル(p3p000277)がハアと当時を思い返して身震いをした。
あやうくドラゴンの餌になるところだったのだ。もしあのまま食われていたら、フランスパンが何百個だせてもそればっかりは回避しようがなかっただろう。あの場で死んでいておかしくなかったし、実際生きているのはちょっとした奇跡と運命の悪戯、そして生へ執着した自分達のあがきの結果だ。
「にしてもクリスタラードの奴、こっちに移ってたのか。守護者がどんな奴かは気になるが……」
『Go To HeLL!』伊達 千尋(p3p007569)が真顔だった。
真顔から、一瞬でへにゃっと笑顔を作る。
「美しい女性に「おねがい☆」ってされたら行かない訳にはいかねーよな」
「それって呉覇のこと?」
『星灯る水面へ』トスト・クェント(p3p009132)が問いかけると、「アダマス姐さんがやってるとこ想像できなくね?」と千尋が真顔に戻って問い返してきた。
ほわんほわんと回想してみると……。
『だぁいじょうぶだってアダマス姉貴! 俺が返ってきた時の為に宴の準備でもしててくれ!』
千尋のそんなCOOLな言い分に、アダマスは拳を突き出したグータッチで応えてくれた。
横で『呉覇くんは何かくれないの?』とトストが冗談交じりに問いかけたら、顔を赤くしてしていたのを思い出す。
温かい思い出だ。
それがあるのも、オーシャンオキザリスの集落を開放できた今があるからこそだった。
「クリスタラード。人間を餌として牧場で繁殖させた龍種。おれたちは『ひと』なんだ、自分で運命を選び取って逆らうよ」
解放のあとは、反撃だ。
それを『守護者』なるものが阻むなら、それを乗り越えるまで。
「クリスタラードの痕跡を辿って未開の秘境でボウケンかぁ……ワクワクするね!」
『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)のさっぱりとした言葉に、『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)はフッと不敵な微笑を浮かべてこたえた。
「確かに。ピシュニオンの森という秘境を探索できるのは冒険家として嬉しい限りだけれど……。
クリスタラードが絡んでいるとなると、楽しむ余裕はなさそうだ。確実に追跡を進めたいところだね」
「だね」
と言うことで頼むよ? と二人に振り返られ、『深き森の狩人』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)が肩に弓を背負って微笑んだ。
「ああ、森といえば俺、狩人の出番だな!
こー見えて経験豊富なんだぜ? 頼りにしてくれよな!
にしても、今まで見てきたどの森よりヤバそうな気配だ。まァ、それだけ楽しみだけどな!」
一行は森の中を慎重に進んでいく。この先にいかなる危険が待ち受けるか、分からぬままに。
●
『ピシュニオンの森』は未知の土地だが、完全に未知かといえば実はそうではない。
ROOにて、仮想世界とはいえ一度入ったことのある場所なのだ。
確かに王国やら帝国やらの様子が現実と全然違うのでまるっきり信じ込むことはできない。
が、覇竜の領域までの道のりをROOの情報をもとに踏破した実績があることからも分かるとおり全くアテにならないわけではない。
「わかるか? 水の臭いと音がする」
エクスマリアがそう小声で呟くと、ミヅハがそれに頷いた。彼の場合は身に染みついた直感で川が近いことをなんとなく察知したというところだろう。
「レーダーに反応は?」
「今のところないな。エネミーサーチでもしてるヤツがいればすぐわかるんだけど」
ミヅハの言葉を受けて、トストは植物の様子を観察する。確かに水場の近くにはえる植物であるように思えた。特に、葉のみずみずしさはそれを物語っている。
木の上をムササビめいた移動法で飛び移っていく動物に尋ねてみたが、確かにこの近くには水場があるらしい。それが川なのか湖なのか池なのかは分かっていないようだが。
「危険なモンスターは避けて通ろう。この先でどんな敵が待ち構えるかわからないし、消耗はさけたいからね」
「それなら任せてくださいですよ」
ブランシュはマッピングを行いながら地形を瞬間記憶していた。
「エルフレームシリーズのCPUならばこの辺の道くらい覚えてられるですよ。
この前歩いた時ひどい目に合いましたからね……」
彼女の言う『この前』がどんなものであったかはここではあえて語らぬとして、行きの際に見つけたモンスターを迂回するルートをそのまま覚えておくことは撤退時に大いに役に立つ。ブランシュが覚えてくれたルートを使えば危険な状態になっても足止めをくらうことなく逃げられるということなのだから。
「けど気をつけろよ。動物っていうのは強力な個体が通るときはその縄張りを一時的に離れることがある。自分達にとって危険なエリアには入らないようにするのが普通だけど、それに期待してルートをそのまま辿るのはリスキーだからな」
零が自分のもっている様々な知識を活用し、ブランシュと一緒にマップを覚えながら性格な地図を書いてくれている。正直マッピングというのは方向感覚がモノをいうのでむずかしかったのだが、ミヅハが適時方角を教えてくれたことで地図の作成は難しくなかった。
「おっと、ストップ」
零とミヅハが危険な雰囲気を察知して足をとめ、バクルドに視線を移した。
「ああ、近くにドレイクタイプのモンスターがいるぜ。こっちに気付いてる様子はないな。やりすごすか?」
広域俯瞰を使うことで(森のように視界が遮られる場所とはいえ)周囲の様子を別視点から見てくれている。ファミリアーと違って撃ち落とされたり食われたりする心配が無いというのがいい所だ。
「やり過ごすなら、風下に移った方がいいな。それほど風がないとはいえ臭いで気付かれるかもしれん」
バクルドの知識をうけ、仲間たちはゆっくりと移動する。
「しかし、このあたりの生態系は厳しいな。小動物を放てばすぐに天敵に見つかって殺されてしまう。ピシュニオンの森全体がそうなのか?」
ゼフィラがファミリアーのしにくさに苦心していたようなので、千尋が五感を鋭く働かせながら周囲を観察した。
「そこまでの話はきかねえから、この辺だけじゃね? あ、みっけた」
地面にスッとかがみ込むと、赤い結晶の破片のようなものを拾いあげる。
「これがクリスタラードの痕跡ってやつか」
借りてきた魔法道具を翳してみると反応が出た。ただの石ではなく、クリスタラードの力の残滓であるらしい。
「とりあえず、このまま探索を進めてみるか……」
モンスターの気配を探り迂回しながらの探索はそれなりに順調に進んでいた。が、全てのモンスターを避けてというわけにはやはりいかないようだ。
「皆、気付かれたよ!」
セララがカードを翳すと、どこからともなく剣と盾が出現。それらを装備するとあえて自分から飛び出していく。
「セラフインストール!」
放ったカードが魔法のゲートを作り出し、カード型のゲートを走り抜けたセララはそれだけで白いセラフィムフォームへとチェンジした。相手もこちらに気付いているとは言え、まさかこうして襲いかかってくるとは思わなかったようだ。
ドレイクタイプの亜竜は咆哮をあげセララへと襲いかかろう――として。
「ギガセララブレイク!」
それよりも速く繰り出されたセララの剣によって前足を切り落とされた。
がくんと前のめりになり、転倒するドレイク。それでも片前足で立ち上がり攻撃に転じることができるのはさすが亜竜といったところだろう。が、こちらとて歴戦の猛者揃いだ。
「トドメ!」
木の上にいつの間にか登っていたイグナートが宙返りをかけながら飛び降りてくる。
勿論、彼の得意技であるパンチをドレイクの頭へ叩き込むためだ。
強烈に握力を加えた拳は岩石よりも硬く、それを真上から叩きつけられたドレイクが一瞬で意識を奪われその場に崩れ落ちる。
周囲からは様子をうかがっていたドレイクたちが姿を見せるが、イグナートにはのぞむところだ。
片膝と拳を地面に叩きつけるようなポーズで着地していた彼は立ち上がり、スッと格闘の構えをとりなおす。
さあ誰から来る? と挑発するように構え――たかと思うと、練り込んだ気にきりもみ回転を加え正拳突きのように解き放った。
誰から行くか迷っていたドレイクたちにとっては結構な不意打ちだろう。一体がまともに喰らって派手に血を吹き上げる。
この二人によって開かれた先端は、流れるようなコンボへと繋がるのだ。
「フランスパン食ったことあるか!? 試しに喰らえ!」
茂みから立ち上がった零は雷槍を放つために狙いを定める。イグナートたちに集中していたドレイクたちはその気配に気付いて困惑の様子を見せるが、待ってあげる義理は勿論ない。
零の突き出した手から限界まで堅くしたパンを発射する。もはやパンというより小麦で作った弾丸だ。
激突によって爆発のような衝撃が走り、ドレイクの一体が派手に吹き飛ぶ。
「今だ!」
合図を受け、エクスマリアがすっくと立ち上がる。
いや、それだけだ。零と比較すれば攻撃にかかるモーションは非常に少ない。要は、見つめるだけなのだから。
エクスマリアの青い瞳がきらりと光ったかと思うと、吹き飛んだドレイクが空中で真っ二つに切り裂かれる。レオンに教わった技を彼女なりに再現したものだが、はたからみれば相当なオリジナリティだ。
周囲のドレイクも彼女の視線から放たれる力に気付いたのだろう。スッと視線を動かしたエクスマリアに抵抗するように吠え、魔法を発動させる。発動させたのは中位の魔術障壁を形勢する魔法のようだ。半透明な甲羅のようなものが生まれ、ドレイクの前面を多う。
そう、前面だけだ。
「後ろががら空きになってるぜ」
後ろ側に回り込んでいたバクルドが茂みから腕を突き出し、義手に仕込んでいた機構を発動。
『ガウス・インパクト』と呼ばれるその技は、磁力的な衝撃を発生させることで相手の位置まで急速に接近。そこから思い切り殴り飛ばすことで吹き飛ばすという陣形をかき乱す技だ。
さっきまで味方のいた場所にバクルドが入れ替わるように現れ、そして味方のひとりが孤立する。集団戦をしかける相手からすればこんなに嫌な技はないだろう。
「そっちのヤツは任せた」
「ああ、任されたよ」
応えたのはゼフィラだった。義手の両手を突き出すと仕込まれていた魔術を発動。ホログラムのミニペリオンの群れが召喚され、孤立したドレイクへと浴びせかけられる。浴びせたミニペリオンは障壁をめりめりと破壊し、ついにはブレイクしてしまった。
「攻撃支援はこんなところかな。あとは治癒に回らせて貰う。交代だ、アタッカー」
ゼフィラはスッと後ろに下がり『コーパス・C・キャロル』の発動準備に入る。
対して前に出たのは千尋だった。
「魔法の剣に気弾にスーパー義手かよアメコミみてーだな! よっしゃじゃあ俺は――」
千尋はグッとファイティングポーズをとってから、半秒くらい停止した。
「フンッ!」
障壁の壊れたドレイクめがけてまっすぐ走ってグーで殴った。
ドレイクの頭の骨がボッという嫌な音をたてて壊れる。
もう一発と繰り出した回し蹴りが、ドレイクの開いた口にそのまますっぽりはまった。
「あっヤベ――ウオオオオオ!?」
相手も相手で急に口に足を差し込まれたものだから強引に振り回し、千尋は人間だったらまあありえない動きでぶん回された。
「助けてミズハー!」
「ええっ!?」
ミヅハは困惑しつつも、しかし冷静に弓をかまえる。
優れた狩人であるミズハにとって、弓を構えるというのは『息を吸う』くらいにあたりまえの動作だ。故に早く、正確で、次とそのまた次への動作は既に終わっている。
困惑の声を上げたときには既に矢は放たれており、ドレイクの首へと矢は刺さる。小さくキースペルを囁くと、矢尻に仕込んでいた魔法の罠が発動。森の罠が発動しドレイクは足元から伸びた植物のつるに絡め取られた。
「仕上げを頼めるか!?」
ウワーといって放り出された千尋をよそにミヅハが頼むと、トストとブランシュがそれぞれ動き始める。
トストは空中にスッと手のひらで円を描き、キュッと架空の何かを結ぶ。
すると複雑な紋様が空中に描かれ、そこから大量のサンショウオ型エネルギー体が出現。空を走るようにドレイクの集団へと突っ込んでいく。
一方でブランシュは『クリストスペシャル』を発動。いわくクリスト=Hades-EXが『練達救援の御礼に』ブランシュをハッキングして植え付けたプログラム、らしい。まき散らしたジャマー効果によってドレイクたちはブランシュに注意を向け、そして飛びかかろうとして鈍化した自らの肉体によって派手に転倒してしまう。
その間にバングル状の補助装備からブースターを起動させ加速。ブランシュは大型メイスでドレイクを思いきり殴り潰してしまった。
残る敵めがけ、セララとイグナートが再び突進。こういうときの戦い方は心得たもので、最初に突っ込んだイグナートがその腕力にものを言わせてドレイクたちをぶん回し、そんなイグナートを巻き込まないように位置を調整してセララが繊細にギガセララブレイクをぶちかますというコンビプレイだ。
そんな彼らのもとへ――。
「上空警戒!」
ミヅハは叫び、上空を見上げた。
白き翼を広げたワイバーン、エーデルワイスが舞い降りるのはそんな瞬間のことだった。
警告がなければ仲間たちが左右に飛び退くことはできなかったろう。
そんな中でもあえて避けなかったブランシュがエーデルワイスの爪にかっさらわれるように上空へと舞い上げられる。
ブランシュは滑空砲をエーデルワイスに突きつけると至近距離で砲撃。翼を打たれたエーデルワイスはバランスを崩して墜落し始めた。
相手の身体を蹴りつけ、飛び退くブランシュ。大木の枝をクッションにしてばきばきとへし折りながら地面へと落下する。
「手応えは?」
「あったですよ。けど――」
ブランシュが見上げると、地面へと着地したエーデルワイスが大きく咆哮をあげた。
ワイバーンの咆哮ととるにはあまりに威圧的なそれに、皆の心に鎖でも巻き付いたかのように重圧がかかる。
が、それでもイグナートは平気そうな顔をして飛びかかった。
エーデルワイスの拳が繰り出される――と同時に別方向から飛び出した千尋の拳がエーデルワイスの顔面とボディそれぞれを殴りつける。
身体を大きく揺らされたエーデルワイスだが、すぐにイグナートへと噛みつき振り回した。
そのスイングによって千尋も吹き飛ばそうとするも、千尋は地面を転がるような奇妙なスライディングをみせ攻撃を回避。素早く身体を起こすと逆に相手の首を蹴りつけた。
ガッとイグナート吐き出そうとするが、イグナートはなんとエーデルワイスの牙を凄まじい握力で掴み状態を維持。そのまま足をかけ、無理矢理口を開かせた。狙いは……。
「零!」
「デリバリーだな、任せろ!」
零は巨大なフランスパンを召喚するとそれを凄まじいスピードで射出した。
古代ギリシャの槍投げめいたフォームに連動したパンの砲撃はエーデルワイスの顔面へと接近。ギリギリで飛び退いたイグナートと入れ替わりに口に放り込まれたパンに苦心したところで、セララは靴から魔法の翼を展開させた。
「それじゃあいくよ! 援護して!」
「……」
エクスマリアが黙ってセララの後方につく。見開いた目から放たれるのは見る斬撃こと『魔剣・蒼』。
幾度も放たれた斬撃を背景に、セララはエーデルワイスへとジグザグに突進する。エーデルワイスもまた反撃にと魔法を使い、空中に生み出された白い魔方陣群から次々に白い羽根型の矢を射出するがそのすべてをセララは華麗に回避した。まるで踊るように。
最後のスピンにあわせてスラッシュを繰り出すと、至近距離で爆発した魔法――にあわせてゼフィラが治癒魔法を発動させた。カウンターヒールである。
「もう一発いけるか。ついでに――」
「ああ、もう向かってる!」
バクルドがダッシュからのスライディングでエーデルワイスの巨体の下へと滑り込むと、至近距離でガウスインパクトを放射した。
腹に衝撃を喰らったエーデルワイスが派手に転倒。
バクルドは反撃をさけるべく距離をあけながらライフルによる乱れ打ちを叩き込んだ。
「お前さんがここの指揮官ってやつか、お前さんが守護者……ってわけじゃあなさそうだな」
「隙を与えるな。撃ちまくれ」
ゼフィラの呼びかけに応じたのはミヅハとトストだ。
ミヅハは空に向けて山なりに五本の矢を放ち、それらは見事なまでに正しい五角形を描いてエーデルワイスの周囲の地面へと突き立った。それを見たエーデルワイスが何かを察して身体を起こそうと――する間もなく、ミヅハは次なるスペルを唱え魔術を発動。細い何本もの木の幹が地面から生えエーデルワイスを拘束しにかかる。
それを無理矢理引きちぎって逃げだそうとする……も、真上に現れた魔方陣を見上げハッと息を呑むように口を閉ざした。
なぜなら、トストが召喚したなんとも巨大なジャイアントオオサンショウオヘッドが魔方陣から飛び出し、エーデルワイスをぱくんと飲み込んでしまったのである。
直後。なんだかわからないワームホールから放り出され、どさりと地面に崩れ落ちるエーデルワイス。
「勝った!」
グッとガッツポーズをとるトスト。彼にしては珍しいポーズだが、ここまで綺麗にコンボが決まれば誰だってテンションがあがるだろう。ミヅハもそれに応えてサムズアップを送ってくる。
倒したエーデルワイスに近寄ってみると、その身体には赤い水晶体がひっついているのがわかった。
試しに装置を翳してみると、クリスタラードの力の残滓が籠もっているのがわかった。
「今まで追ってきた痕跡はこいつのものだったってこと?」
「いや、もしそうだったら反応がもっと大きいはずだろ。こいつもクリスタラードのまいた種だって所じゃないのか」
ミヅハがしげしげと見つめ、ゼフィラも興味深そうにそれらを観察している。
今更だが、クリスタラードの力の残滓を観察するための装置というのは小さな丸い水晶であった。
それが淡く光ることで力の残滓が残っていることがわかり、追跡できているのである。
……それが、突然強く光った。
一瞬のフラッシュめいた光だが、それが意味するところはクリスタラードかそれに近い何かが接近しているということだ。反応の強さ故に水晶がバキンと砕け散り、握っていた零が思わず顔を腕でかばった。
「今のは?」
「……後ろだ!」
誰がそう叫んだものだろうか。衝撃が全員を襲い、皆その場から吹き飛ばされた。
●
木が空を飛んでいる。
あるいは。
空が海になった。
あるいは。
暴力の爆発が時間を止めた。
気が『根っこから』外れて宙に浮かび、何本もが舞っている。
それだけのパワーが一度に発揮され、そのただ中に居たゼフィラたちが無事であることなど当然なかった。
「ぐ、う――!」
コーパス・C・キャロルを即座に発動。周りで同じように吹き飛ばされている真っ最中の仲間たちの体力を回復しにかかるが、当然補いきれるダメージ量ではない。
(これは、『戦闘を長引かせる』なんてレベルの話ではないな)
一瞬だけ見えたのは金色の角。そして地面に叩きつけられた次の瞬間に見えたのは、大地を歩く褐色の竜(ドラゴン)だった。
「――!」
間違いない。ビリビリと伝わるこの威圧がそう告げている。これこそが『守護者』であると。
エーデルワイスなど比ではないと。
「俺は零、パンを出すギフト持ちのパン屋さ、お前好きな食いもんとか有る?」
「好きな食べ物はニクと魚と野菜どれなタイプかな?パンって言ってくれれば仲良くなれるかもシレナイんだけれど」
零とイグナートが同時に襲いかかった。
戦わなくては話が始まらないとそう考えたのだろうか。
零は全力の『雷槍』を。
イグナートもまた全力の『ハンズオブグローリー』を叩き込む。
要するにパンの弾丸と強烈なパンチなのだが、その二つをボディに受けてドラゴンは微動だにしない。
身体にゴムボールでもぶつかったかのような、そんな反応をして二人を見下ろしている。
フンと鼻で笑ったように見えた。
「後光の乙女――いや、『航空猟兵のガーネット』ですよ」
ブランシュが名乗りをあげて追撃をしかけた。『オーバーブーストレッグフレーム』――つまりは脚部追加装甲を展開しキックに特化した形状をとると、流星のような跳び蹴りを叩き込む。
それでも、相手には通用していないようだった。
そして、こんな反応が返ってくる。
「君たち誰? 森の住民じゃないよね」
巨大なティラノサウルスレックスめいた見た目とは裏腹に、出す声はまだ幼さの残る少年のそれを思わせる。
ならば追撃だとばかりに、『セララバスティオン』をインストールしたセララが斬りかかる。
「ボクの名は魔法騎士セララ!
逃げ隠れして手下を寄越すなんて、クリスタラードは臆病なんだね」
「?」
相手の自尊心をくすぐるような挑発をしたにも関わらず、相手は小首をかしげている。
「俺は放浪者のバクルドだ、お前さんは誰だ?」
回り込んでライフルを撃ちまくるバクルド。それもまた、効いている様子がない。
「自己紹介? いいよ、ボクの名前はバシリウス。クリスタラードさまの最後の守護者! じゃ、一緒にあそぼっか!」
自ら名乗ったバシリウスはぶんと地面を蹴りつけた。それだけで先ほどと同じような物理の爆発が起こる。レールガンでもぶち込まれたような衝撃が多段でぶつかってきた。
セララのシールドはその一撃目で破壊され、続けて襲った衝撃でまたも吹き飛ばされる。
バシリウスの強さは単純明快だ。高い防御力に高い攻撃力。付け加えるなら、無効化結界を張ってもすぐにブレイクされるだけのスマッシュ。
「近くに川があったはずだ。潜ってやりすごそう」
エクスマリアがそう提案して走ると、トストたちもその後に続いた。
大抵の獣は水に潜ってしまえば追ってこない。これはジャングルでピューマなどの天敵から逃れる動物などがとる手だが……。
「今度は泳ぐの? まてまてー!」
先ほどの衝撃がまたもおき、水柱が高く高く打ち上がった。
「な――」
エクスマリアとトストが吹き飛ばされるも、すぐに状態を回復。というより、彼らは逃げることに徹することにした。
「守護者の強さはマジでわかった。てことでじゃあな!」
千尋が思い切りダッシュで逃げるが、バシリウスはそれに追いつく速度で走ってくる。
本格的にヤバイ――と千尋が死を覚悟したとき、ミヅハが放った魔法のボールから罠を展開させた。
エーデルワイスを捕らえたのと同じ罠だ。バシリウスはそれをすぐに引きちぎる――が。
「あれ?」
引きちぎることに夢中になっていたバシリウスは、きょろきょろとあたりを見回しミヅハたちがもう見えないことに気がついた。
「逃がしちゃったかな? ま、いっか! この場所は守ったもんね!」
えっへんとバシリウスは胸を張り、そしてきびすを返してその場を後にしたのだった。
後に、無事に拠点へと帰還したイレギュラーズたちは守護者バシリウスの情報を伝えた。
ヤツを突破しなくては、クリスタラードの元までたどり着くことはできない、と。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
ピシュニオンの森へと入り、クリスタラードを追跡するルートを探索できました。
途中、守護者バシリウスに遭遇。あまりの強さから安全を重視し撤退しました。
情報を持ち帰ったことで、依頼は成功となります。
GMコメント
六竜がひとりクリスタラードを追ってピシュニオンの森へと入り込んだローレットたち。
痕跡を辿るうち、それを迎撃すべく亜竜たちが襲いかかります。
しかし襲いかかる敵は、彼らだけではないでしょう。
未知なる土地の、未知なる敵。そして未知なる『守護者』たる存在。
見事未知を既知とし、情報を持ち帰ることができるのでしょうか。
●オーダー
・成功条件:『守護者』を発見し、その情報を持ち帰る
・失敗条件:味方の戦力を5割以上喪失する。あるいは死亡者を出す。
・オプション:『守護者』の名や目的、その性格を探る
●パート構成
このシナリオは主に亜竜たちからの攻撃を凌ぎながら、クリスタラードの痕跡を辿り探索を続ける前半パート。
そしてついに現れる『守護者』との邂逅となる後半パートに分かれます。
・エーデルワイス
前半パートに登場する亜竜。指揮官的ポジションにあり、やや強力。
赤い羽毛をもった準ワイバーン型亜竜で、飛行能力に優れている。
・『守護者』???????
名前も姿も種族も不明な守護者。
クリスタラードを守護する役目を負っているだけあって相当な強者であることは間違いない。
かなりの激戦が予想されるため、万全の準備を怠ってはならない。
●補足情報
・鈴・呉覇
鈴家の当主を務める亜竜種の女。解放されたアルティマの一角オーシャンオキザリスを管理している。
・アダマス・パイロン
ペイト鉱山警備隊みんなの姉御。アルティマ解放に協力し、今ではその一角ホワイトホメリアを管理している。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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