シナリオ詳細
<カマルへの道程>剣客鬼は月下に刃を鳴らす
オープニング
●剣客どもよ月夜に踊れ
血色の刃が月夜に閃を斬る。
砂漠の夜、月明かりに鋭い音を立てた白刃の音色が響き渡った。
「――ッ! さいッ――あく!」
黒髪を躍らせ、はじめは声をあげる。
2本の愛刀を重ねて防いだ太刀筋はあまりにも重く、ずん、と砂地に足が取られた。
「――腕をあげたな、はじめ!」
月の夜に爛々と輝く紅の瞳が反射し、遅れて白の髪がふわりと揺れる。
振り上げられた血色の刃が振り下ろされる寸前に、割って入った刀があった。
「はじめちゃん! 大丈夫ですか! というか。これ、どういう状況です!?」
バックステップで間合いを開ける女とはじめの間に割り入れば、すずな(p3p005307)は聞かずにいられない。
「だから、言ったでしょ、手伝ってほしいって……!」
はじめが体勢を立て直しながら言う。
「え、え、もしかして、あれですか、はじめちゃんが言っていた探してほしい人って……」
「そうよ、あいつ……っていうか、あんた、髪と眼の色変わってない?」
「『探してほしい』って『攫われてるかもしれないから』じゃなくて、吸血鬼になってるかもしれないからってことだったんです!?」
「わたしも、そうじゃなければいいなとは思ってたわよ! 奇人というか、変人というか……イカれてるというか」
「誉め言葉と受け取ろうか」
間合いを開けた女が笑う。
「さて、自己紹介と行こう――アタシの名前は菖蒲。『吸血鬼』って呼ばれるようになっちまったよ。
人為的に『魔種』の紛い物を作り出すって話、如何にも面白そうじゃないか。
これはひとつ、アタシ自身もなってみたくてね。ほら、アタシらってしたくともできないだろう?」
「……あいつは、わたしやすずなと同じ『旅人』なのよ」
「なるほど。だからと言って納得はできないのですが!」
「でも、強いわよ?」
「みたいですね……」
はじめに頷きながらすずなは愛刀を構える。
周囲に感じ取る気配は数を増していく。
彼女の後ろに姿を見せたのは晶獣らしき存在か。
ぽつぽつとこちらに近づいてくる多数の影は――
「偽命体(ムーンチャイルド)の連中もアンタ等に気付いて近づいてきたみたいだ。
こいつらは『博士』が作りだそうとした人造生命体、その失敗作さ」
両腕が鋏のようになったケンタウロスらしき何かが順調に近づいてくる。
●昔馴染みからの招待状
砂の都ネフェルストにて発生していた紅血晶なる魔の宝石より始まった一連の事件は新たな段階に移っていた。
事もあろうにグラオ・クローネの夜に発生した『晶竜(キレスアッライル)』や『吸血鬼』達の襲撃を退けた後――
無数の落とし物や『匂い』を覚えていた『凶』ハウザー達はとある遺跡へと辿り着いた。
過去に『夜の祭祀』と呼ばれる死と再生を司る儀式が行なわれていたとされる『古宮カーマルーマ』、その内側には幾つかの転移陣が遺されていた。
陣を抜けた向こう側、そこは『太陽の昇らぬ月の王国』が広がっている。
いざや敵の本陣とばかりに乗り込もうとするも当然ながらに障害は多く。
徐々に肉体を『吸血鬼』へと転じさせるという『烙印』なる存在を刻まれた者もいる中のことだ。
「すずな、ちょっと手を貸してくれない」
そう声をかけてきた相手にすずなは少しばかり驚いていた。
「どうしたんです、はじめちゃん」
永倉肇――すずなの同郷にして同僚でもあった少女である。
(珍しいですね、はじめちゃんが私の事を名前で呼ぶなんて)
出会いがしらに『くそワンコ』などと噛みついてくるのが常な彼女だ。
そんな少女が自分の事を素直に名前で呼ぶ――只事ではない可能性を感じて、すずなの表情も真剣になるものだ。
「わたしがラサにいた頃にお世話になった人が、今回の件に巻き込まれてるみたいなの」
「そういえば、はじめちゃんはラサを拠点にしてたんでしたっけ。その頃の知り合いってことです?」
「ええ、ちょくちょく仕事を斡旋してもらったりしてたんだけど……その人が紅血晶のことを調査しに出てから戻らないみたい。
古宮カーマルーマに向かったって話も聞いたわ」
「それは心配ですね……」
「だから、お願い。あんたが古宮カーマルーマに行くついででいい。探すのを手伝ってほしいのよ」
なんとも珍しく素直なはじめに、すずなも思わず「わかりました!」と答えるものだ。
――だから、まさか『そう言う意味で言っていた』とも思うまいに。
- <カマルへの道程>剣客鬼は月下に刃を鳴らす完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年03月26日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
砂塵が月明かりに舞い上がる。
砂に埋もれ馬蹄の音なく、迫りくる異形。
「魔種になりたいだなんて奇特な方もいらっしゃったものです。
この手の戦闘狂は、ああいう一足飛びのパワーアップを嫌うものかと思っておりましたが」
その影を遠めにしつつ『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)は菖蒲の発言に疑問を呈す。
(それにしても、魔種の代わりに手にした力が『吸血鬼』ですか。
私の知るそれとどこまで弱点が一致しているか、いささか興味がありますねえ)
旅人たる瑠璃はかつての世界にて記憶にある『それ』の弱点を思い起こす。
「とはいえ。ガヤが多いと落ち着いて話もできません。数を減らしましょうか」
砂漠に刻んだ陣に愛刀を突き立てれば、戦場を駆け巡る斬撃が迫る獣を切り開く。
「バトルジャンキーの武人との戦いは若いもんに任せるとして邪魔もんの露払いは任せな」
その姿を確認して『老いぼれ』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)は義腕の機構を活性化させつつ。
「全くムーン・チャイルドってのはどいつもこいつも見た目が気味悪いのばっかなのか?」
逆光の向こう側に確かな姿を定め、刹那の内に義腕より射出した鉄球が月明かりに煌き戦場に落下していった。
「はじめちゃん……説明不足にも程がありますよ?」
『ふるえた手』すずな(p3p005307)は軌跡を描いた銀の太刀筋のままに昔馴染みたる少女へ声をかければ。
「それは……悪かったわね。
でも、私もあいつがどっか行ったってくらいしか知らなかったのよ!」
そういうはじめも体勢を立て直しながらいうものだ。
「まあいいでしょう、強い剣士との仕合は望む所。
はじめちゃんの腕前も確認できそうですし、わくわくしますね!」
「なるほどねえ、すずなってのはアンタか」
菖蒲が観察でもするようにこちらを見てくるのに気づいて、すずなは愛刀を構える。
「キミの相手は我(アタシ)達でしようか」
すずなの前に出たのは『闇之雲』武器商人(p3p001107)だ。
「人間が吸血鬼になる話自体はありふれた話だが、この場合は碌な結末にはなるまい。
血を吸うことに特化している生命なら我(アタシ)の血を吸ってもカタチを喪うことはなかろうが……
腹壊しても知らないよぉ? ヒヒ……」
「へぇ、そりゃあいい。その辺の奴を食うのにも飽きてきたところだ。
同じ変なのを食うにしても、別のも食ってみたいところだね」
妖しい光を宿す武器商人の瞳が菖蒲を射抜き、応じるように彼女の紅色の瞳が武器商人を射抜く。
(強くなりたかった、旅人の女性……ですか。
世界の悪になってでも、強くなりたいという想いは……よく、わかりません、が
吸血鬼となった菖蒲様を、思い通りにはさせられません)
それに続くようにして『星に想いを』ネーヴェ(p3p007199)もまた飛ぶように駆ける。
「白い髪に、赤い瞳。この頃は、わたくしとお揃いの外見を、よく見ます、ね?
この兎とも、遊んでくださいませ」
その身を躍らせ、スパークを爆ぜる義足を叩き込む。
「はっ、面白い。白兎が――そんなに言うなら、ホントにお揃いにしてやろうか?」
ネーヴェの脚を剣で受けた菖蒲がにやりと笑う。
「私も全力でお掃除して加勢しますので――それまでの間、お相手してあげて下さいね?
永倉肇ともあろう人が、その間を保たせられないなんて……言いませんよね!?」
「はぁ? 当たり前でしょ。
そっちこそへばったら承知しないわよ、クソわんこ!」
すずなの挑発にいつもの様子で噛みついてきたはじめに内心笑みをこぼして走り出す。
「……そうか。旅人も吸血鬼となる以上、魔種よりも厄介な面もあるのか」
改めて菖蒲を見た『騎馬崩し』アルトゥライネル(p3p008166)は小さく呟く。
(しかし、強くなれて羨ましいと随分なことを。
魔種を肯定するつもりはないが、
どうしようもなく追い詰められてなった者を嘲笑うような言動は気に食わない)
個人的な感情、言葉にするつもりはなくともアルトゥライネルの技捌きは導かれるようにキレを増す。
魔力で紡がれたテリハノイバラは砂漠を物ともせず盛んに広がり、動き出した獣たちを絡めとる。
地を蹴った勢いのままに、絡め取った獣たちの懐へと打ち込む蹴撃が舞うが如く撃ち込まれていく。
遅れるようにして菖蒲の後ろに控えるようにいたリール・ランキュヌが嘆きの悲鳴を上げる。
強烈な毒性と気を狂わせる絶叫がイレギュラーズの耳を打った。
それと前後するように戦場に辿り着いた幾つかの偽命体が腕を振るい斬撃を見舞う。
(強さを追い求める人間っていうのは軒並み刹那主義だよねぇ。
旅人が魔種になれないことを嘆いた結果、吸血鬼になるっていうのもどうかと思うけど)
聞きかじった情報に『氷狼の封印を求めし者』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)はぼんやりと思う。
「さっさと片付けて、あっちに合流しないとだし、手抜きしてる余裕はないからね」
淡い光が絶えず零れ落ちる夜の魔典がルーキスの魔力に呼応するようにその光を強め、術式は月明かりの夜に刻まれる。
世界へと干渉した魔術は空間に風穴を開け、非ざる月の王国でなおソレを戦場に齎していく。
「力に飢え、力に驕り、力に溺れる。そんなあり方を人は鬼と言うのだろう。
理性で本能を抑えられないのなら、もはやそれは人でなし。
おまえを野に放つわけにはいかない。出来ることならここで仕留めさせてもらう」
そう言う『泥人形』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)は周囲の様子を確かめ迫りくる偽命体と晶獣の位置を把握し、泥人形は詩人の如く名乗りを上げる。
生者に反応するように乱雑な動きで近づいてきていた多数の獣たちがその意思表示に惹かれるように矛先を変えた。
「固まっているのなら良い的だな」
アルトゥライネルはその場で舞踏を始めた。
月夜の砂漠に踊るその舞は攻撃に非ず、熱砂に向けて送る奉納の舞。
生み出されるは苛烈なる熱砂の嵐。
降り注ぎ、掻き乱し、抉り取る熱が偽命体たちを地へ伏していく。
「貴方達の相手に時間は取れないんですよ」
すずなは振り抜かれた鋏の乱舞を撃ち返して一つ踏み込んだ。
蛇の如く攻め立てる蛇剣は彼女のそれに比べれば相応に正直なれど、偽命体を屠るにはあまりにも暴力的だった。
「流石にケイオスは効率が悪そうだね」
言うやルーキスは愛銃を射程内の1体へ向けた。
金鎖の紋様と共に瞬くは、血涙の如き災禍の赤月。
銃口に浮かぶ術式はルーキスの魔力を吸い上げて魔弾を構築する。
真っすぐに打ち出された蒼と紅に軌跡を描いた魔弾は戦場を突き抜け偽命体を串刺しにする。
●
「悪いがお前たち程度にくれてやるほど脆い身体はしていない」
多くの偽命体を引きつけていたマッダラーはその斬撃の多くを身体に受けていた。
初手となる突撃を受け止め、振り下ろされる鋏をその身体でもって飲み干せば、その役割は充分として果たせているといえよう。
(しかし、偽命体か……俺の命はどこにあるんだろうな)
見下ろし、或いは見上げながら泥人形は思う。
この身は泥人形だ。少なくとも、そういう体質だ。
(ふむ、この疑問さえも誰の疑問なのか……)
哲学のような自問自答の海に思考を浸す余裕さえ持ちながら、泥人形は苛烈なる攻撃を受け流す。
「順調に減ってきてますね……」
順調に数の減りつつある偽命体に向けて瑠璃は斬撃を放つ。
見るからに動きの鈍いその個体は不可避の斬撃にスパンと真っ二つに斬り裂かれる。
「逃げられると思うか?」
バクルドは後退していくリール・ランキュヌめがけてクラシックライフルWカスタムを向ける。
切り詰められたライフルが放つ銃声が月夜の王国を劈いた。
不可避の狙撃がそいつの肉体へと食い込むと同時、既に義腕機構は衝撃を生んでいる。
放たれた弾丸を追うように戦場を突っ切って飛び込み、握りしめた拳を叩き込んだ。
「命を弄ぶとは、本当に趣味の悪い連中だ。せめて、一刻も早く砂へ還してやろう」
自身を切り刻まんと攻め立てる偽命体の斬撃をアルトゥライネルは軽やかに躱していく。
それは歩み慣れた舞踏を駆使した足取りと体重移動は例え砂漠の砂の上だろうと変わりない。
「いまさら気づいたか?」
それまで苛烈な動きを見せていた偽命体が身体の動きを止めて驚いたように呻き。
その身体に刻まれた無数の花片は美しく儚く――敵意を以ってその身体を貫いた。
「言っただろう? 手を抜いてる余裕はないってね!」
ルーキスは再び術式を発動する。
空より降り注ぐ混沌の汚泥は災厄となって偽命体へと降り注ぎ、その身体を絶対的な失敗の内に飲み干していく。
「ずっと夜で死体が動いて吸血鬼が暴れる、世も末ったらありゃしねぇなぁ」
バクルドは菖蒲を支援するような動きを見せるリール・ランキュヌめがけて駆け抜けた。
精霊鉱石から打った片刃剣を抜き、振り払う無明魘魅。
暗冥を裂く斬障は無明なる命を絶つべく一閃を斬り結ぶ。
美しきままに閃く確殺自負の絶技を以って追撃と開けば、アンデッドの核とたる紅血晶が露出する。
「これでしまいだ」
鋭く描いた連撃の邪剣は露出した核を見逃すはず等なく。
吸い込まれるようにその中心を打ち砕く。
(あちらはそろそろ片付きそうだね)
戦場を俯瞰する武器商人は偽命体との戦いが終わりに近づいていくのを見据え、冷静に決断を下す。
「人為的な魔種……吸血鬼、ね。
人間が吸血鬼になる話自体はありふれた話だが、この場合は碌な結末にはなるまい」
苛烈なる菖蒲の猛攻は成程確かに魔種相当には強力だろう。
(そろそろあの子たちも引き付けておこうか)
ソレの足元から姿を見せた獣が戦場を奔り抜ける。
菖蒲を支援するような動きを見せるリール・ランキュヌへと到達した獣がそれを締め上げた。
「アタシの相手をするのは止めにするのか? なら――次はアンタとやろうか、白兎!」
「そう易々と…狩られるつもりは、ございません、とも!」
菖蒲の殺気と剣が自身へと向いたのを察したネーヴェは軽やかに跳ぶ。
壮絶なる斬撃が振り下ろされれば、それを跳んで躱し、連撃の斬撃を受ければ幾つかを受けて流してみせる。
●
偽命体を打ち倒したイレギュラーズはいよいよ本命たる菖蒲を撃つべく動き出していた。
「借り物の力に溺れるような者に負けられない。
少なくとも、自らの足で前に進むことを諦めたのなら、潔く舞台から降りるべきだ。
嫉妬と憎悪を燃やしたところで、憧れの輝きにはなれないのだから」
はじめを庇うようにして菖蒲へと肉薄したマッダラーは挑発の代わりに菖蒲へと告げる。
「憧れの輝きね、随分と詩的だな、アンタ。
仮にアタシが自らの脚で前に進むのを諦めたのだとして、嫉妬と憎悪に漕がれてるんだとしてだ。
舞台から離れてやる義理はねえな! 最後まで舞台に縋りついて初めて勝ちだろ?」
笑う菖蒲の剣を受ければ、泥人形の一部は崩れ落ちる。
「やはりお前を野に放つわけにはいかない」
再生していく己の腕を見ながら、泥人形は敵を見据えた。
武器商人はその瞳で菖蒲を見据えている。
幾つかの遭遇例のある『吸血鬼』、その烙印がどういう特性を持つものなのか、あるいは解除法を解析できないかと。
肉薄した相手、視界にグラジオラスの花が咲き誇るほど近く、振り抜かれた菖蒲の斬撃がその身を穿ち、斜めに切り開いた。
「なるほどねえ、言う通りとんでもねえ奴みてえだな、アンタ!」
受け止めた一撃に驚きつつ菖蒲が笑った。
(兎の娘、守りは任せて攻め続けるといい。我(アタシ)を殺し尽くせる業はなさそうだ)
再生する身体のままに武器商人はハイテレパスでネーヴェと声をかける。
跳ねるように飛び込んだ彼女が背後から菖蒲へと迫るのを視野に収めつつ、蒼き槍が刹那の流星を撃つ。
壮絶極まる世界を灼く炎は剣士に大いなる隙を生む。
生まれた隙を衝くようにネーヴェが後方から駆け抜ける。
生み出された慣性を緩めることなく、勢いに任せてネーヴェは蹴撃を叩き込んだ。
完全なる死角より撃ち抜かれた一撃は菖蒲の身体に痛撃となって突き刺さる。
「白兎――!」
「貴女は、きっと、強い相手と戦うために……強い相手に勝つために、強くなりたかったのではないかと。勝手に、そう、思っています」
前に倒れかかりつつ踏ん張った菖蒲へネーヴェは声をかけた。
「けれど、『魔種』の紛い物…吸血鬼を作るという意志は、別の方から始まっているはず。
誰が……何の目的で、そのようなことをしているのですか?」
「博士のことか? それとも、女王陛下のことか?
さて、どっちでもいいが、アタシが知ってるとでも?」
「――知らないのなら、全力を持って、撃退する、まで」
「あぁ、それでいい! 兎らしく月の原野で跳ねてみな!」
ぎらつく笑みで菖蒲が笑った。
その意味合いこそ分らぬものの、挑発だろうと察してネーヴェは再び攻撃に移っていく。
「吸血鬼といえば弱点の多さにも定評がありますが、貴女はどういうタイプなのでしょう。
単に日光を浴びるとよくないだけなのか、血液以外は喉を通らないのか。
魔種と同様に呼び声があるのかどうか、あるいは吸血行為で眷属を増やすのか」
瑠璃は印を結びながら菖蒲へと問う。
「まあ、被験者さんに仕様が分かるかといえば、無謀というものでしょうけれども」
「はっ、そんなに気になるならなってみるか? 少なくとも――」
駄目で元々と皮肉を込めた笑みを浮かべて言えば、流れ弾を受け流した菖蒲が一気に肉薄してくる。
「――吸血行為ってのだけは正解だ」
耳元で笑う声、刹那の斬撃を感覚で躱して見せれば、興味深そうに笑う菖蒲を見た。
「どうにもアンタ、アタシと同郷と近い世界から来てる見てえだし、ついでに教えておいてやるよ。
別にアタシらは日光に弱いわけでも血液以外が喉を通らねえわけでもないさ。
まあ、弱い奴も血液以外を飲めねえ奴だっているかもしれねえが。
――少なくとも、アタシは血が飲みたくてたまらねえだけさ」
「『魔種』の紛い物と仰いましたが……いち剣士として、貴女は本当に納得出来ているのですか?」
すずなは菖蒲と競り合い、刃鳴を軋ませながら問う。
「納得だって?」
「悔しくないんですか! 自分で磨き上げた力ではなく! 与えられた力で高みに至る事が……!」
「与えられた力、ねぇ、なるほど、そんな見方もあるか」
ギリギリと押し込まれる剣を振り払い、すずなは最適の間合いを整える。
「だが、道具(ちから)をどう使うのかは使い手次第だろ? 悔しかねえよ。
それが悪いんだってんなら、はじめの剣だって大層な剛力の加護がついてるじゃねえか、なぁ?」
「まったく、強さを得るために何が何でも使うっていうのは厄介極まるもんだ」
菖蒲の発言を聞きながら、バクルドは肉薄する。
至近距離にまで辿り着いたままに振り払う斬撃、鮮やかに穿つ無明の閃光。
撃ち込まれた斬撃は瞬く間に菖蒲の肉体を撃ち、浸透した斬撃はその内側から暴れ狂う。
(流石に簡単な説得ぐらいで揺らぐような精神性ではないか……だが)
アルトゥライネルは仲間達と対話を交わしながらも苛烈に攻めかかる菖蒲を見据えて紫染を手繰るように振るう。
その身に宿す魔力に応じてひらりと零れる花弁が形作った毒蛇が砂地に潜り込んで姿を消した。
砂を潜り菖蒲の足元に姿を見せた毒蛇が彼女に食らいつく。
「前衛は本職じゃないけど、たまにはこういうのも悪くない」
小さく呟いてルーキスは割り込むように前へ。
「さて私達は何よりこの空間の情報が欲しい。
という訳だからキミが負けたら、この場所の情報頂戴ね?
「悪いがそう易々と負けてやるつもりもなくてな。
女王陛下への最低限の義理ってやつだ」
「そうか――なら試してみるといい。本業は魔術師だけど、私の一撃は重いよ?」
その手に抱くは禍剣エダークス。
高純度の魔力を以って構成された仮初の剣を振り払うままに切り開く。
「って思ったが――っとと、危ない。それを正面から受けるのは拙そうだ!」
鮮やかに閃を描く純粋なる破壊の力は退避行動をとった菖蒲の腹部を強烈に穿つ。
溢れだしたグラジオラスの花弁が戦場にばら撒かれた。
「――ッ。あーあ。やっちまったか、改めて見るとどうにも最悪だね。
しゃあねえ、ここいらでお暇とするか……」
そういうや、菖蒲は脅威的な跳躍力で一気に後退していく。
「……終わった、みたいだね? いやはや明日は筋肉痛になりそうだ」
暫しの警戒の後、ルーキスはぐっと身体を伸ばす。
「ともあれ、やることは済ませたし、一先ずは帰ろう――」
「――あぁ、でもその前に。忘れてた、プレゼントだ」
ルーキスが言い終わるよりも前、ふとそんな声がした。
「――ッ、」
勢いよく振り返ったネーヴェは熱を感じてそこに手を添える。
「やられ、ました、か?」
恐る恐る手を退けたそこには烙印が刻まれている。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
※ネーヴェ(p3p007199)さんは『烙印』状態となりました。(ステータスシートの反映には別途行われます)
※特殊判定『烙印』
時間経過によって何らかの状態変化に移行する事が見込まれるキャラクター状態です。
現時点で判明しているのは、
・傷口から溢れる血は花弁に変化している
・涙は水晶に変化する
・吸血衝動を有する
・身体のどこかに薔薇などの花の烙印が浮かび上がる。
またこの状態は徐々に顕現または強くなる事が推測されています。
GMコメント
こんばんは、春野紅葉です。
●オーダー
【1】『吸血鬼』菖蒲の撃退
【2】『偽命体』及び『晶獣』の撃破
●フィールドデータ
月の王国に広がる広大な砂漠の一角です。
ラサの古代遺跡である古宮カーマルーマの転移陣の先に存在する広い空間。
まるでラサの砂漠そのものであり、映し鏡のような風景には美しい王宮と月が存在しています。
太陽の昇らぬ夜しかない空間です。
●エネミーデータ
・『吸血鬼』菖蒲
戦闘狂の奇人、ついでにスタイルの良い女性剣士。白い髪に赤い瞳をしています。
異世界から混沌へと転移してきた『旅人』でしたが現在は『吸血鬼』となっています。
右の鎖骨の下辺りにグラジオラスの花が1輪咲いています。烙印でしょう。
すずなさんの関係者がラサで傭兵稼業をしていた頃にお世話になった女性です。
当時は『似たような世界から来た気のする日本人風の女性』として仕事の斡旋を受けていたそうです。
武器は野太刀サイズの日本刀風の刀、刀身が赤黒い血を思わせます。
「なんかさぁー純種の奴らだけ魔種になれるのずるいよな。
いいよなぁ、あんな風に強くなれるの」などと常々言っていたとかいないとか。
能力はほとんど不明ですが、魔種にも似た非常に強力な力を有します。
ある程度の交戦の後に撤退していきそうです。
・リール・ランキュヌ×2
晶獣(キレスファルゥ)。
紅血晶が付近の亡霊と反応し、生まれたアンデッド・モンスターです。
もともと亡霊として強力な怨念を抱えていましたが、紅血晶によってさらに強化されました。
遠距離まで届くその『嘆き声』は、強力な神秘の魔術に匹敵します。
【毒】系列や【狂気】系列のBSを付与する効果もあります。
・『偽命体(ムーンチャイルド)』鋏手人馬×15
『博士』が作りだそうとした人造生命体、その失敗作。非常に短命です。
両腕が鋏のようになったケンタウロスを思わせます。
鋏で切りかかってくる他、馬の脚力から放たれる突撃も注意が必要です。
●友軍データ
・『吸葛』はじめ
すずな(p3p005307)さんの関係者さんです。
戦闘では二振りの刀を用いてのパワーファイトを繰り広げます。
【飛】や【連】属性の近接攻撃や、遠距離への単体攻撃を行ないます。
すずなさんよりは少しばかり力量不足ですが、誤差の範囲です。
戦力として十分に信用できます。
菖蒲を評して曰く
「そりゃあ最初の頃はお世話になったわ。けど流石に着いてけなくて距離を取ったのよ」とのこと。
●特殊判定『烙印』
当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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