PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<蠢く蠍>世代交代

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●死にゆく父親、復讐を誓う息子
「親父!!! 親父!!!」
「へっ、しくじっちまった……。寄る年波には勝てねえか……」
 駆け寄る息子の前で、男は崩れ落ちる。
 もはや虫の息だった。
 息子は治療を試みるが、あふれる血を止めることはかなわなかい。
「弱小盗賊団もしまいだな。なんていったっけ? ドラン山賊団? ドラゴン山賊団? えーと。まあいいや……どうせ、俺たちのもとに下るんだし、みんないいよな、蠍で?」
 盗賊団<砂蠍>、木蛇のヤカル。
 新生・砂蠍のメンバーだ。
 射殺さんばかりに仇を睨みつける息子には構わず、店員の誰もいない酒場に座り、ぐいと酒の杯をあおった。……店員は、店のあちこちに転がっている。死体となって。
「あっけなかったし、パフォーマンスとしてはイマイチもの足りないが、力比べは俺の勝利。約束通り、これでお前たちも<砂蠍>だ」
 ぱん、と手を打ち鳴らす。乾いたわざとらしさがあたりにこだました。
「はい、今から兄弟姉妹だ。仲良くやろう」
「テメェ!」
「マクドラン坊ちゃん、止めてください。……分かりました。俺たちもあんたらの手足となります」
「ウン。仲良くやろう」
 空っぽになった杯を、ヤカルはその辺に投げ捨てる。
「親父、親父……! あああああ!」
 息子が慟哭する。
 父親は息を引き取った。
 古き悪し山賊であった。
 一つの悪が、また一つの悪に飲み込まれようとしている。

●力が欲しい
 あれから随分な時間が経ったように思われる。
 マクドランは、小さな部隊を率いて山村の襲撃を繰り返していた。

 力が、欲しい。
 力が欲しい。父の仇を討てる力が。いや、いっそ、仇を討つのは自分でなくとも構わない。

「行こう。派手に暴れよう」
「くれぐれも引き際は見極めて下せえ」
 蠍は異常なまでに警戒心が強く、それゆえに逃げ延びている。

 復讐心を悟られているのか、用心深いのか、ヤカルは自分を近くに近づけようとしない。
 ならば、力で成り上がるまでだ。
 今までの任務は、かつての仲間とは散り散りに配置されていたが……。
「喜べ、今回の任務は、顔見知りも配置してやっておいたから」
 ヤカルは言った。唇をかみしめる。隣にいるこの男は、かつて、父親を殺され、ヤカルに刃を向けようとした自分を止めた男だ。
(あわよくば末端をまとめて討伐させるつもり、か……)

●緊急事態
「緊急事態、なのです!」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、依頼の内容を聞きに来たイレギュラーズたちの前で、あわただしく羽を羽ばたかせた。
「幻想地方の村に<砂蠍>の一群が侵攻中なのです! 時間がないのです! さあ行くのです! ほらほら!」
 まくしたて、ろくな説明もなしに追い出される。……聞きに来た意味あったか?

GMコメント

●目標
 辺境地方に侵攻中の<砂蠍>の襲撃の撃退。
(討伐も可能だが多少難しい)

●状況
 地方、ガブリエル・ロウ・バルツァーレク領。
<砂蠍>の一群が農村に侵攻してきている。
 現在進行形であり、きわめて時間の猶予がない。

●登場
マクドラン率いる15名。
元、ドラン盗賊団が複数名。

マクドラン
 才走る血気盛んな若者。
 武器は弓、接近すれば剣を用いる。
 いずれにも毒を仕込んでいる。

マクドランの側近
 マクドランを坊ちゃんと呼び、慕っている。かつてのドラン盗賊団のボスを敬愛していた。回復、バフなどの補助的な役割を持つ。

他、盗賊が13名。統率はあまりとれていないようにも見受けられる。
むしろ、何名かは仲間の動向をそれとなく見張っているようなそぶりも見える。

●盗賊たちの行動
・馬に乗り、家畜を含む略奪行為を行っている。
・殺しもいとわない。すでに何人かの犠牲者を出している。
・不利を悟ると逃げる。

●補足
マクドランや側近、かつてのドラン盗賊団のメンバーも、蠍に反目するような説得に応じることはありません。

いずれも末端の盗賊であり、ろくな情報は持ち合わせていない。幹部の木蛇のヤカルの名前と顔くらいだ。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
 背景を探る時間がありません。

  • <蠢く蠍>世代交代完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年10月01日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

陰陽 の 朱鷺(p3p001808)
ずれた感性
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
コゼット(p3p002755)
ひだまりうさぎ
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
イーディス=フィニー(p3p005419)
翡翠の霊性
飛騨・沙愛那(p3p005488)
小さき首狩り白兎
空木・遥(p3p006507)
接待作戦の立案者

リプレイ

●地を駆るイレギュラーズ
「なんだぁ? 俺ら、わざわざ一旦呼びつける意味ねぇじゃねえか」
『距離を詰める好色漢』空木・遥(p3p006507) はぼやいたが、ナックルをはめて素早く身をひるがえす。
「時間が惜しいんだろ、さっさと行くぞオラ」
「とにかく、急いでいかないと、だよね」
『孤兎』コゼット(p3p002755) は馬車と2頭のパカダクラを用意していた。
「移動手段はありがたいな。あそこまで急かされるとは思わなかったが……まぁ、盗賊退治なんてものは、迅速に行うのが一番なのは確かだ。奪った財で力を付け始めると、面倒な事になるしな」
『翡翠の霊性』イーディス=フィニー(p3p005419) は、冷静に敵を分析している。早く動けば動くだけ被害が減ることだろう。
「ありがとう。アタシはヘラオスで並走するよ」
『寄り添う風』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は、二足歩行の恐竜、ヘラオスに風のように華麗に飛び乗った。
 コゼットは頷き、自らのパカダクラに乗る。
「また<砂蠍>っていう悪い人達が暴れてるんです?」
『小さき首狩り白兎』飛騨・沙愛那(p3p005488) のつぶらな瞳に、悲しそうな影が落ちる。どうして、と無垢な呟きが漏れた。
「砂蠍……ねぇ?」
『蒼ノ翼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535) は訝しむ。急激な盗賊団の台頭には、何らかの意図を感じないでもない。
「砂蠍……有名な盗賊団ですか?」
『ずれた感性』陰陽 の 朱鷺(p3p001808)は、砂蠍の名に聞き覚えがなかった。
「まあ急な勢力拡大に気になる部分はあるけど、私は決められた仕事をこなすまで。誰であれ降りかかる火の粉は払うもの」
「だな!」
『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377) は拳を打ち鳴らす。
「ムシ退治は巣から潰していかなきゃならないんだろうけれどね。まずはオレたちに出来ることをやろう。ヨウシャはヒツヨウない相手だし、大アバレだ!」

 村へ向かう道中。
 平和な村そのものの風景は、突如として異変を現していた。畑が荒らされ、そこには人が倒れている。すでに、明らかにこと切れている農民の姿があった。
「……」
 無益な殺生だ。
 ミルヴィは、犠牲を前に唇を噛み締めた。
「もう、被害が出てる、みたい……」
 コゼットはぱたりと黒い耳を伏せる。けれど、立ち止まったわけではない。前へと。前へと。より一層、手綱に力を込め疾駆する。

●かち合う
 喧騒が近くなってきた。
 盗賊団が姿を現す。一人、二人……。その数、おおよそ15名。
「数が多いですね。それに馬ですか」
 朱鷺は切れ長の目を細め、敵の数を悠然と数えていた。相手もこちらに気が付いたようで、いくつかが徒党を組んでこちらにやってくる。
 朱鷺は前衛を仲間に任せて、自身は後衛に位置をとる。
「動物をいたぶる趣味はないですが……馬は邪魔ですね」
 駆けてくる盗賊たちを前に、朱鷺は一切怯む様子はない。
「ニンジンとかあれば、なんとかなったのでしょうかね。まぁ、無いですが」
「なら、引きずり下ろすまでだ」
 イグナートは鉄拳を握りしめた。
「これ以上、好きには、させない!」
 コゼットの宣言が、高らかに響き渡った。

 パカラクダに乗ったコゼットの前を、ヘラオスが前へ前へと突出する。戦乙女のマントをひるがえし、ミルヴィが軽やかに戦場に突っ切っていく。
 先陣は任せる、そういう手はずだ。
「狙え!」
「アンタ達にどんな事情を抱えてるかなんて知らない……」
 矢がミルヴィに降り注ぐ。だが、ミルヴィは退かなかった。身をかがめ、恐れることなく前へ進む。
「ケドね! こっちはそれを見過ごすワケにはいかないのよ!」
 矢の雨をかいくぐり、ついにミルヴィは目的地へと至る。ひらりと戦場のど真ん中に舞い降りた。
「ありがと! アンタは逃げときな!」
 ここまで送ってくれた相棒を逃がし、ミルヴィは六方昌の眼差しを向ける。
 それは、戦場の舞だった。
 美しい紫の瞳が、盗賊たちの脳裏に焼き付いた。鮮烈な光景だ。大音声響き渡る戦場で、なぜかミルヴィの円環状のピアスの鳴る音が、はっきりと耳について離れない。
 目を奪われる、いや、奪われたことにすら気が付かない。無意識の衝動がふつふつと腹の底から湧き上がってくる。
 ミルヴィは、犠牲者たちへと手を伸ばした。
「おい、おい、しっかりしろ!」
 盗賊の数名が動きを止める。略奪の手を止め、するべきことも忘れ、衝動のままにミルヴィの元へと突っ込んでくる。
「隊列を守れ! ドランの誇りを忘れたか!」
「それじゃ、ここは任せて」
 ミルヴィの舞が、リズムを乱さずに様相を変えた。艶やかにステップを踏みかえ、敵を招くように惹きつける。
 妖剣イシュラークの剣筋は、幾筋も美しく動き、その剣先は上手く読めない。
「なッ……カハッ……」
 鎧の下から、賊たちの皮膚が切り裂ける。
 ミルヴィに挑む盗賊たちが、次々と傷を負っていた。
 ミルヴィに攻撃が集中するが、イレギュラーズたちがそれを許すはずもない。
「任せろ」
 イーディスが名乗り口上をあげ、敵の一隊を引き受けた。
「もらった!」
 イグナートのイルアン・グライベルが、単純に馬を引き倒した。
 小細工のない単純な攻撃だ。イグナートの拳は、常人のものとはまるで違う。質量をまとった拳が、馬を横倒しにし、盗賊の一人が地面に放り出される。
「人の財を奪う事でしか生きていけない屑が、雁首揃えてお祭り騒ぎか?」
 イーディスの言葉に、マクドランの頭に血が上る。
「ドラムだかドラマだかしらねぇが大したことねえな、お前ら」
 遥が続けざまに挑発する。ふるまいから言って、おそらく、こいつが頭目だ。
「殺して略奪、やばけりゃトンズラ。狡猾で臆病とかひでぇモンだな、親の顔が見てみたいぜ。さぞかしひどいツラなんだろ?」
「貴様ら……ドランの名すら侮辱するか!」
「雑魚はザコらしく寝てろ!」
 遥の視界の遠くで、年老いた女性がふらついているのが見える。息子と思しきがそれを助け起こし、肩を貸して逃げようとしている。
 あちらに注意のいかぬよう、遥は声を張り上げる。
「来い!」
「望むところだ……殺してやる!」
 気取られるわけにはいかない。
 クイックアップで自らの俊敏さを増しながら、遥はぎりぎりまで敵を引き付けた。
 逃げおおせろ……念じたとおりに、親子は視界の奥へと消えて行った。
 力任せの攻撃を、遥は冷静に後ろに引いてかわした。体勢を立て直そうとするマクドランに、イーディスが聖光を浴びせかける。

 ミルヴィは傷つけられながら、その反撃で容赦なく刃を振るう。それでもなお、その足運びは乱れることはない。戦場のリズムに乗せ、美しく攻撃を繰り返す。

●二兎が舞う
「右、後ろ……」
 コゼットの耳にノイズが走る。戦場を飛び交う悪意に交じって、密やかに息をひそめる気配がある。
 高らかに天を舞う鳥が鳴いた。ルーキスのファミリア―だ。
「させないよ」
 馬を駆り、機動力を生かして。敵が後ろに回り込もうとしている。ルーキスは素早く仲間たちに指示を出し、背後からの奇襲に備える。
「奇襲ですか。残念ですが、そうはいきません」
 朱鷺の魔性惨華が、遠くから的確に敵を狙い落とした。
「どこの誰だか、興味ないので知らないですが。お仕事なので、壊滅してください」
 朱鷺の攻撃により、一人がバランスを崩した。
「好きに選んでいいよ」
 ルーキスの降魔の禁書は、風もないのにぱらぱらとめくれた。そして、あるページでぴたりと止まる。
 ルーキスの呼び出したのは、恐ろしい狼の影。『グラーシャ・ラボラス』 第25位にして伯爵、殺戮者。翼を広げ、 敵対者を呑み込んでいく。
「くそっ!」
 盗賊の隊列が乱れる。イーディスはいち早くそれを察して、思い切り斬りこんでくる。
「坊ちゃん。落ち着いてください。怯んではいけません。囲みなさい!」
 側近が叫ぶ。
 この男は……先ほどから攻撃はしてこないが、仲間の援護や回復をしていて厄介だ。何とかして倒せれば、攻略の大きな助けになるだろう。
 このまま包囲を突破する方がいいだろうと判断したイーディスは、右翼の敵を引きつけながら、ゆっくりと距離を調整していく。
 そして、不意に。
「……!」
「お前は、なんか面倒そうだからな。その動き、止めさせて貰うぜ?」
 イーディスのマリオネットダンスにより、側近が動きを止めた。即座に数名が戦線に割り込んだ。
 沙愛那がわずかうつむく。
「どうしてそんな悪い事をするんです? ……皆で仲良く出来れば幸せに暮らしていると思うんですが?」
「ああ? お嬢ちゃん、きれいごと……を……」
 盗賊は絶句した。瞬きの間に、沙愛那は素早く距離を詰めていた。その見た目と頭身から、後衛だと無意識に侮っていた。
 オッドアイの双眸に、光がきらめく。
「悪い事するなら償わないと駄目です……命でもって」
 血しぶきが上がる。一刀両断。鋭い包丁の刃は、油断していた盗賊の首を的確に落とした。乗り手の制御を失った馬は、惰性で走り、そしてゆっくりと止まる。
 盗賊たちは恐怖する。
「さあ、今日も悪人さん達の首を狩って狩って狩りつくしましょう……首狩り白兎の名に懸けて! アハ! アハハハ!」
 沙愛那は続けざまに、側近に向かってオーラキャノンを放った。
 それでも馬にしがみつく側近の男に、コゼットが素早く回り込む。砕杵ツキウサギを大きく掲げ、風のように相手の足元をさらって投げ落とす。
 そして鋭く踏み込むと、一撃を食らわせる。
「ぐ……油断しました」
 別の仲間が馬に引き上げ、側近を守ろうとする。そこにコゼットが距離を詰めていた。
「行く、よ」
「くそ! 俺たちは、ここで負けるわけにはいかないんだ! ここで……」
「なんだか……事情があるみたい、だけど」
 コゼットは武器に力を込める。
「関係ない、そんなの、知らない」
 事情なら、ここで暮らしていた人たちにだってあった。
「あなたは、悪い人、だから、殺す、それだけ」
 刃を向けた以上は。向けられる覚悟をせねばならない。
「……なにか文句、ある?」
 側近は笑った。
「ありませんね。ありませんが、我ら腐っても盗賊、最後までしぶとく暴れてみせましょう」
「山賊のクセに大した忠臣ぶりだネ!」
 ミルヴィのステップが、また新たなものとなった。暁の響宴。ミルヴィの生命力を媒介として、仲間たちは力を得る。
「アハッ!」
 いつも以上に上手く包丁を振るえる。
 沙愛那の攻撃は、炎を帯びて苛烈になった。フレイムバスターの攻撃で、盗賊が地面に崩れ落ちる。
 マジ狩る★首狩り包丁を握りしめ、赤い炎に照らされて、白ウサギが可憐に笑った。

●攻めの一手
「うおらああああ!」
 盗賊の数名が迂回して、後衛のルーキスを狙おうとする。だが。ファミリアが高く鳴き異変を伝える。
 襲ってくるのは、それほど熟練した武器の使い手ではない。ルーキスはあえて接近を許し、一瞥すると、近術を発動させる。
「後衛だからって舐めないでね、不用意に近づくと危ないよ?」
 エメスドライブによって生じた刹那の疑似生命が、盗賊を混乱に陥れた。盗賊の弓を引く手は定まらず、矢は明後日の方向にとんでいく。
 何人かは捕まえておきたいところだ。昏倒させると、縛り上げて転がしておく。

「キな!」
 イグナートが距離を測りながら、右手を突き上げた。バーンアウトライト……全身の力を右手に集め、爆発させる。
「まずい、戻れ!」
 マクドランが叫ぶが、馬がそれほど早く方向転換できるわけもなかった。二名の盗賊がお互いにぶつかり、盗賊たちはののしり合う。
 やはり、ほころびはそこだ。イグナートは、なんとなく動きを観察して分かっていた。……盗賊どもの連携はたいしてとれていないが、局所局所、特に弱いところがある。
「ケモノなら炎はニガテかな? ヤキツクスからあまり関係はないけれどね!」
 まばゆい炎があがる。男たちは馬から転げ落ちた。
「くそ、どけ!」
 側近の周りはまだしぶとく生き残っていたが、頭目であるマクドランの側の盗賊たちはずいぶん数が減っている。
 マクドランは、遥とイグナートを前に焦っていた。
 おかしい。包囲をしようとしているはずなのに、なぜか一向にうまくいかない。
「オシマイだ!」
 イグナートのコンビネーションが、群がる盗賊の一人を打ち倒した。返す刃で斬りつけるも、朱鷺の祈祷がすぐに傷を癒してしまった。
 遙は、力任せに防いでいる……はずなのに、あまりにも当たらない。戦っているうち、マクドランは遥の瞳に宿る意思が、ひどく冷静であることに気が付いた。
 遥は目の前の敵のことを見ているが、それ以上に広い視野を持っている。
 負けられない。
 思い切り勢いをつけて、斬りこんでいく。やはり、冷静だ。避けられないとわかると、致命傷を防ぐように防御をした。
 マクドランは柵に引っかかり、思い切り体制を崩した。遥の攻撃が来ると思ったが、遥は場所を開け、背後からの別の盗賊の接近を妨害する。
 イグナートの右手が、再び輝きだす。
 バチバチと恐ろしい炎が舞った。
 遥はその間に後退し、ゆっくりと深呼吸をする。
「毒か。治せるか?」
「ええ、任せてください」
 朱鷺が再び、流れるような動作で祈祷を行う。
 防衛線は揺るぐことがない。そうしている間にも、じりじりと盗賊たちは数を減らしていった。劣勢を悟ったころには、もう遅い。

●最後のあがき
「おっと、倒れさせるわけにはいかない」
 イーディスのキュア・イービルが、ミルヴィの毒を治療する。
「アンタみたいのが親分じゃ子分も報われないね」
 ミルヴィは流れる血を美しくぬぐった。
「アンタが悪事働くのを見逃す気もねーけど、アンタの目的の為には付いてくる連中どーでもいいってのかい?」
「おのれ……」
「来な! 張っ倒してやる!」
 マクドランは馬を反転させた。
 盗賊の数はおよそ半数となっていた。側近が破れたことで、士気はずいぶん低下している。だが、イレギュラーズたちもずいぶんと血を流していた。
「そろそろ不味いか……」
 ルーキスはⅩⅩⅩⅥ:蒼梟の天球を用意した。
「自然の力を分けてあげる」
「な、なんだこれは!?」
 輝かしい悪魔。君主、王冠を戴く梟。 偉大なる悪魔が魂と共に遺した天球儀。 天星と自然の力を宿し、宝珠から零れ落ちる光が、仲間たちの傷を癒していく。
「くそ、くそ!」
「坊ちゃん、これは退却です」
「止めるな! 俺は……みな、怯むな! まだ、まだ勝機はある!」
「何でこんな悪い事するの?」
 沙愛那の思い切りの接近に、マクドランはひるんだ。まっすぐな問いだ。剣を振るうが、怯みはしない。たしかに攻撃がかすったはずだが、どうやら、沙愛那には毒が効かない。
「そんなに<砂蠍>って所で悪い事するのが好きなの? 力で全て捻じ伏せて命を奪うなんて馬鹿のする事です!」
「俺は……俺たちは盗賊だ。奪って何が悪い!」
 叫んだが、その言葉は借り物のように響くのだった。
「止まらないなら、止めてあげなきゃいけません。上の人がいるなら、あなたも、その人も……お約束します。首狩り白兎の名に懸けて!」
 沙愛那は大きく包丁を振り上げる。
「坊ちゃん!」
 防ぎきれない。
 マクドランが死を覚悟した、その時だった。
 マクドランを庇い、側近が倒れる。
 あっけない幕切れだった。頭に血が上るかと思いきや、そうではなかった。頭がスッと冷静に冷めていく。
「お、お頭……」
「退却だ……」
 深追いはしない。この家業をやっている以上、こうなることは覚悟していた。

●守れたもの
 盗賊たちは去っていった。しばらくすると、何かがこちらにやってきていた。
 ヘラオスだ。
「ヘラオス! 良く戻って来たね」
 ミルヴィが駆け寄り、もたれかかる。この戦いで、ずいぶんと傷を負った。
「倒したのは7人、逃げたのは6人ってところか」
 イーディスは敵が逃げ去った方向を確認して頷く。かなりの成果と言えるだろう。
「2名ほど捕獲できた。情報も少しは得られるでしょう」
 男たちは完全に気絶していたが、ルーキスのファミリアは、今も捕らえた男たちを油断なく見張っている。
「ああ。そうだな」

「いつまでもビビってんじゃねぇよ。大丈夫だ」
 遙に促され、村人たちがおそるおそるといった様子でイレギュラーズたちの前に姿を現した。
「ありがとう、ございました……」
 遙に頭を下げたのは、戦いの最中、眼の端でとらえた男だった。年老いた母親を避難させていた男だ。母親はイレギュラーズたちの手を取って涙ぐむ。
「ああ、こんなに汚れてしまって……戦ってくれたんだねえ……私たちのために。ありがとう、本当にありがとう」
「ちょっとは、救えた、かな……」
 コゼットはつぶやく。
「無事でよかったです」
 沙愛那は晴れやかな笑みを見せた。

成否

成功

MVP

ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥

状態異常

ミルヴィ=カーソン(p3p005047)[重傷]
剣閃飛鳥

あとがき

<蠢く蠍>の襲撃依頼、たいへんお疲れ様でした!
今回は何かとせわしい戦闘依頼でした。
イレギュラーズの素早い決断と行動により、最大限、救える住民を救うことができました。
いずれまた、決着をつける機会もあることでしょう。
ご縁がありましたら、また一緒に冒険いたしましょう。

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