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シナリオ詳細

<被象の正義>芽吹いたならば、踏みつけてはならぬ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●寒空はまだ生きていて
「領主さま領主さま、ラディッキャベツが採れましたよ! 見てください、こんなに立派に!」
 竹の網籠に野菜を山と積んだ少年が、頬に土をつけたまま小走りにやってくる。
 二月のまだ冷たい空の下。雪すらぱらつきそうな薄曇り。
 少年がアッと地面の小石に躓き、抱えていた竹籠が宙を舞う。籠に詰められていたラディッキャベツもまた自由を得たかのように宙を舞った。
 うわあと目を見開く彼の前に、スッと白い手が翳される。
 まるで魔法のように竹籠が手に乗ったかと思うと、宙を撫でるように動いた籠の上にラディッキャベツがトトトンッと一つ残らず乗っていき……。
 最後の一個が乗ったのを見てから、彼女――マリエッタ・エーレイン(p3p010534)はその金色の目を細めた。
「本当、立派なラディッキャベツですね。それよりも……」
 空いたもう一方の手を差し出し、転んだ少年に伸ばす。
「足元には気をつけないとだめですよ。怪我はありませんか?」
「は、はい。大丈夫です。ごめんなさい」
 しょんぼりとする少年。彼女の手を掴まないのは、自分の手が今しがた土に汚れたせいだ。
 けれどマリエッタはそんな少年の手を自分から掴み、彼を引いて立ち上がらせる。
 そして籠を手渡すと、彼の膝や腰についた土を払い落としてやった。
「怪我がないならなによりです」
 にっこりと笑う。
 マリエッタの笑顔につられたように、少年がはにかんで笑った。
 ここは天義北方教区。ある襲撃によって滅び去った筈の地。
 未だ正しい名前は無く、『復興地』とだけ呼ばれている。
 マリエッタは、そこでは領主と呼ばれていた。

「復興地もだいぶサマになって来ましたね」
 建物の再建が進み、治安も最悪だったこの土地にも少しずつだが余裕が戻ってきた。
 食料や水の確保はまだ人口に追いついておらず失業率の回復もまだ先だが、ここが滅び去った荒野であったことを思えば天地の差と言えるだろう。
 人が生きていて、作物が育てられ、何より子供が笑顔を時折ながら見せるようになった。
 住民の一人が復興中そのものといった風景を見やり、先ほどのようなことを言うのもわかるというものだ。
「これもあなたのおかげだ、領主さま」
「いいえ。私は、なにも」
 マリエッタは苦笑した。領地割譲の権利をたまたまこのために使ったにすぎない、などと言ってしまえばそれまでだ。
 立て直したのは少しずつだが集まってきた住民たちであり、彼らの成果と言っても良い。自分に対しては控えめになりがちなマリエッタは、そんな風に評価する。
「このまま何事もなければよいのですが――」
 そう呟いた途端、遠くで大きな声が上がった。
「■■■■■■■! ■■■■■■■■■!」
 解読できない意味不明な言葉。
 昨今の天義の情勢を知る者なら、知識としては知っている。
「――『異言(ゼノグロシア)』!?」
 マリエッタが反射的に立ち上がり身構えるのは、それはやはり当然のことだ。
 なぜなら遠方にある薄曇りの空には『影の天使』たちがばさばさと翼を羽ばたかせて飛び、その中心には巨大な翼あるガマガエルめいた『ワールドイーター』が飛んでいるのが見えたのだ。
 やがて、馬に乗り真っ黒な旗槍を掲げる集団が見えてくる。
「「■■■■■■■■■!」」
 ゼノグラシアを叫ぶ彼らの旗は、これもまた理解不能。おそらくは異言都市(リンバス・シティ)を示すものだろう。
 同じ現象を、知っている。
 この先にあるのは……リンバス・シティの帳に村々が墜ちていく光景だ。

●芽吹いたならば、踏みつけてはならぬ
 ――『正しき』天義。厳格なる神への、決して揺るがぬ忠誠と信仰とともに、絶対正義と汚れなき『白』の都、『絶対正義圏(オリジナル・ジャスティス)』をここに顕現させる。
「そう宣言した後、天義の巨大都市テセラ・ニバスには帳がおり、一夜のうちに『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』たちの住まう『異言都市(リンバス・シティ)』に変貌してしまった。
 マリエッタ。君が手がけているという復興地にも、彼らの手が伸びようとしているようだ」
 ローレットが天義の出張所代わりにしているある教会で、布の覆面を頭にすっぽりと覆った神父が重々しくそう説明した。
 集まったローレット・イレギュラーズたちは木製のベンチにこしかけているが、そんな彼らに目を向ける。
「ゼノグロシアンたちを放置すれば天義は次々と異言の世界へと書き換えられてしまうだろう。
 そうなる前に、彼らを撃退しなければならない。これは天義という国からの依頼として受け取ってもらえるか」
 金貨の入った布袋を取り出し、まずはそれをマリエッタに放り投げる。
「ですが――」
「土地の復興をローレット頼みにするなど、大人として恥ずべきことなのだよ。
 本来我々がやらねばならないことなのだ。せめて、こうして依頼の形をとらせてくれ」
 冠位魔種ベアトリーチェに刻まれた爪痕は深く、天義は未だ力不足だ。
 それでも膝を屈し滅びを受け入れるほど、彼らは零落れてはいないらしい。
「復興地の人々を頼む。ゼノグラシアンたちを、撃退してくれ」

GMコメント

 天義にある復興地に、『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』たち野間の手が伸びています。
 もし彼らがこの地を支配したならば、きっと帳がおりこの土地の人々が異言を話し始めリンバス・シティの一部となってしまうでしょう。
 そうなる前に、彼らを撃退しなければなりません。

●エネミーデータ
・『影の天使』×多数
 影でできた天使めいた兵士団です。
 彼らは影の弓矢を用い空からの攻撃を行います。

・村喰×1体
 翼のはえた巨大なガマガエルめいた『ワールドイーター』です。
 ワールドイーターがなんたるかは特に気にしなくて大丈夫です。要するにこれは強力な怪物であり、村を襲い異形のものへと変えようとしているということなのです。
 村喰の体表には毒液が分泌されており、それらを自在に飛ばすことでこちらへの攻撃も可能としているようです。
 ですが分泌液の主な役割は防御にあるようで、BS等への抵抗力や攻撃への防御・回避能力が高くこちらの作戦を壊しにかかるような大胆な動きをしてくることでしょう。
 また、巨大であるためマーク・ブロックするのに3人以上を要します。
 こういった具合になかなか面倒くさい相手なので、あえて大胆に突っ込んでいくことで意識的に攻撃を誘い、カウンターを狙う戦法が村喰には有効でしょう。

・ゼノグラシアン×多数
 旗槍を掲げたゼノグラシアを喋る者たちです。
 彼らはいわば地上部隊です。個体ごとが特に強いというわけではありませんが、軽鎧も纏っていることから戦いの素人というわけではなさそうです。

●復興地
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)さんの領地です
https://rev1.reversion.jp/territory/detail/p3p010534
すごい余談ですが、ラディッキャベツとは2月に収穫されるちょっと楕円形の紫キャベツとチコリーの中間くらいの野菜です。どうやらこの土地の土に合ってたようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <被象の正義>芽吹いたならば、踏みつけてはならぬ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月02日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
ファニー(p3p010255)
ムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)
焔王祈
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女

リプレイ

●種
「「■■■■■■■■■!」」
 教会から『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)たちが戻って暫く、復興地を襲おうとしていたゼノグラシアンたちは隊列を整え、攻撃へと移ろうとしていた。
「異言を話すものに、異言都市…ワールドイーターという存在。それらを率いる『遂行者』達。答えなんて何一つわからないですし、理由もまた不明なまま……」
 謎だらけの存在に、しかし明確にこちらを敵対視する存在に、マリエッタたちは立ち塞がるように展開する。
 村を戦場にするわけにはいかない。それこそ復興が始まったばかりなのだ。植えた麦の種がこの先芽吹くかどうかという頃なのだ。
 この地の人々をゼノグラシアンに変えてしまうだけではない。畑を踏み荒らすだけでも、それは許しがたいことなのだ。
「今を、精いっぱい生きている人達から、勝手に間違ってるものとし、理不尽に奪おうとする……それを、私は許しません」
 マリエッタは翳した腕に小さなナイフの刃を這わせると、スッと小さく切り傷をいれた。流れる血が武器の形状を取り始める。
 両手をジャケットのポケットに入れていた『Stargazer』ファニー(p3p010255)が、視線だけをそのマリエッタへと向ける。
「ま、そりゃあそうか」
 少しは役に立つかもな、と保護結界を展開し、一緒にエネミーサーチを展開した。
 ワールドイーターはともかく、空を飛ぶ『影の天使』や武装したゼノグラシアンの数は相当なものだ。
 情報によれば彼らの戦闘力はこちらに大きく劣るらしいが、数が居るというのが厄介だった。例えば一発殴られた程度ならなんともないが、これが数十発を一度に受けるとなると防御ががら空きになってしまう。そこへワールドイーターの一撃を加えられると相当に強固な防御でさえ陥落しかねない。
(うーん、何を言ってるのかわかりませんねぇ。いや本当に。
 まぁ、そうはいったってやることは変わらないんですけどね。
 何とか少ない被害で終わらせられればと思いますが……はてさて、どうなることやら)
 その点は『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)とて同じ事だ、雑魚の群れと侮るつもりは勿論ないが、彼の再生力を上回るレベルでスリップダメージを流し込まれたり、行動を阻害するタイプのBSでハメ殺されるといったことは避けなければならない。防衛に高い自信をもつ彼とて、弱点はあるのだ。
「しかし、『リンバス・シティ』も厄介ですね。都市一つを飲み込みながら、未だ裾野を広げる余力まであると……。
 未知数な部分も多いですが、あまり望ましくない方向に事が進んでいるのは確かな様です」
 『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)がそんな風に話しを振ると、『北辰より来たる母神』水天宮 妙見子(p3p010644)がやれやれといった様子で畳んだ扇子を額にトンと当てた。
 うつむき加減に垂れた髪が、肩から滑り落ちる。
「言葉が通じれば話し合いも……なんて、甘いですよね。お友達の領地が踏み荒らされるのを黙って見過ごす妙見子ちゃんでも、ありませんし」
 皆さんは? とその姿勢のまま目を動かし同意を求めると、アッシュが灰色の反応を示しながらかわった形のブレードを革の鞄から引っ張り出した。ギターケースにすら見える鞄から、灰色の大鋏。流体金属のそれは、開いてくにゃりと曲がった様から兎の耳を連想させる
 一方で、『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)の反応は銘菓腐った。
「なんで現れたのかよくわかってないけど、マリエッタが復興している土地を壊しにきたのはよくないかな!」
 Uh! と独特のうなり声をあげ、今にもゼノグラシアンたちへと襲いかかりそうだ。
 特に強く警戒しているのは敵陣の中央でばっさばっさと翼を羽ばたかせ微妙に宙に浮いている巨大なカエル型ワールドイーター、通称『村喰』である。
 『焔王祈』ムエン・∞・ゲペラー(p3p010372)はグリーザハートを抜刀すると、夢焔を燃え上がらせる。
「ふらりとマリエッタの領地に遊びに来てみれば、こんな事態に遭遇するとはな。オンネリネン、アドラステイアの事件と決戦が終わったというのに天義も休まらないものだな」
 同時期に活動を活発化させたこともあって、マリエッタたちとは仲の深いムエンである。そんな友の危機に、ムエンの焔もその勢いを増していた。
「これが済んだら復興を手伝うとしよう。ラディッキャベツ……興味深い」
「ちょっと、それならわたしもやるわよ! その前にあいつらを片付けないとだけど!」
 『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)が革のカバーケースを取り外してその場にぽいっと放り投げると、中から現れた『箒星』へと軽やかに横乗りした。慣れた様子で浮きあがる箒。元はコレこそが主体だったのだ。きっと手を離していても自在に操ることだろう。
「土地を……ううん、まるで世界ごと書き換えてしまうような現象、未だに信じられないけど。それが、マリエッタが守る領地に来るなんて……!
 マリエッタの領地を、村を侵略しようだなんて、見過ごせる訳が無いわ! 夜空を翔ける魔女の本領、見せてあげる!」
 叫んで大きく上昇していくセレナ。それを合図にしたのか、全員がゼノグラシアンへと走り出した。
 ここから先へは行かせないとばかりに。

●ゼノグラシアンとオオガエル
「そう簡単に墜とせると思わないでよ――ね!」
 空を飛ぶセレナは、箒に両膝を引っかけると思い切り身体を後ろ向きに倒した。それまで上半身があった場所を無数の矢が抜けていき、膝だけで箒に引っかかった状態のセレナは箒のスイング移動と自らの逆レッグレイズ動作によって素早く横乗り姿勢に戻すと、祈願結界を展開。遠距離攻撃に不利を察した影の天使たちがナイフを手に斬りかかるのを、結界の力で無理矢理に弾きながら突っ切っていく。
 一度突っ切ったことで距離をとったゼレナは横向きに8の字ターンをかけながら、今度は月の魔術を展開する。
 再び突っ込んできた天使たちに『狂ウ満月』の術式をぶつけるためだ。
「――そこ!」
 砲撃、と同時に狂気に陥った天使たちが自らの胸にナイフを突き立て、次々に墜落を始める。
 空中戦闘のキモはこの墜落だ。体力を一定まで失うと墜落を始め、何かしらの対策をしなければ地面に激突することになる。
 天使たちはセレナへの攻撃を一度中断し、墜落した仲間を助けるべく急降下を開始した。
 が、それはセレナの読み通りの流れであった。
 全力で飛行し、地面へ衝突するギリギリのところで味方を抱くようにキャッチする天使たち。ロッドを持った天使が治癒の魔法を唱え回復を始めたその途端、激しい月光が彼らの中央で炸裂した。
 『神気月光』とでもいうべきセレナの秘術によって、天使たちの防御能力が極端に落とされたのである。
 咄嗟にこれも治癒しようとヒーラーらしき天使がロッドを振り上げるも、箒から飛び降りたセレナの豪快なキックがヒーラーの頭部とロッドをそれぞれ踏みつける。直撃をうけたヒーラーが転落を始めるなか、高速で追いついてきた箒にすとんと座るように着地したセレナはまた別の月光で周囲を照らし始める。
 見る者の意識をセレナへと釘付けにする魔性の月光によって、ヒーラーを救出することすら忘れ天使たちが殺到していく。
 次にやるべきは……そう、先ほどの繰り返し。セレナは薄く妖艶なほどに微笑み、結界を拡大した。

 次々と天使たちが墜落してくる中を、ベークが泳ぐように駆け抜けていく。
「あなたたちはこっちですよ。それに僕は、食料じゃ、ないんです!!」
 おそらくベークにしかわからない悩みを叫びながら、ベークは甘い香りをばらまきゼノグラシアンたちの注意を引きつける。
 一部のゼノグラシアンの誘引には成功したようで、殺到した彼らは次々にベークに剣や斧を叩き込んできた。
 堅い装甲と再生力。そしてそれなりの反撃能力。ベークはハマれば無敵とすら言えるローレット屈指の再生系タンクなのである。
 そんなベークへ撃ち込まれる攻撃の量と圧が、徐々にだがベークの治癒能力を上回ろうとしている。
 が、ベークはこの全てを耐え続ける必要はなかった。極端に言えば、ベークが戦場全部を相手にすることはありえないのである。
 なぜなら――。
「下がれベーク! ここからは私が引き受けよう!」
 村喰が迫り連携を取ろうとしたのを察したムエンが焔ノ翼をカッと雷鳴のように広げながら、ゼノグラシアンたちへと突進していく。
 ベークは『任せましたよ』と言って引き下がり、未だ誘引状態が続いているゼノグラシアンへの防衛に集中する。一方でムエンは残るゼノグラシアンたちに夢焔の剣を突きつけてみせると、物理的圧力さえ感じるほどの気迫を見せた。
「さあ、来いゼノグラシアン。あなたがたとて、望んで狂ったわけではあるまい。この焔にて、解放してみせよう!」
 例えばリンバス・シティをその核となる聖遺物を破壊することで『奪還』できるという例がある。同じ理屈がもしあるなら、そしてこの村喰にも聖遺物の核が埋め込まれているなら、倒す事で彼らをゼノグラシアという狂気から解放出来るかもしれない。だがその時命まで落としていたなら、蘇ったりはしないだろう。故に、ムエンは『彼らすらも』守るべく剣を振るうのだ。ゼノグラシアンを「あなたがた」と呼ぶのも、そのためだ。
「燃えよ、タイニー・フェニックス。彼らを呪縛より解き放て!」
 一度飛び上がった火鳥型リフレクターオーブが宙を舞い、剣へと宿り直し、両手でしっかりと握った剣はゼノグラシアンの一人を豪快に切り裂いた。いや、切り裂いたにように見えた傷口は焔によって覆われ、ゼノグラシアンは浅い傷のみを残した状態でその場に崩れ落ちた。

 ゼノグラシアンはベークたちが誘引してくれている。その間に、少量のゼノグラシアンのみにフォローされ相対的にフリーとなった村喰を倒さねばならない。
 アッシュはシャキンと大鋏型のブレードを畳むと、合わさった持ち手を両手でしっかり握り込む。
「急ぐなら脚と守りを削ぐのが得策、かと」
「まもり?」
 リュコスはそう言われ、村喰の体表を覆う分泌液に注目した。
 にゅっと流れるように動く分泌液が空中へ不自然に浮きあがり、いくつものダマを作り出す。
 それらが飛来するのを、マリエッタは勿論見逃さない。
「させません!」
 幾重にも別れた鎌の刃が砲弾のように飛来する分泌液に斬りかかり、そして海洋生物が餌を喰らうかのように分泌液を飲み込んで行く。
 血によって形作られた大鎌は、時として多頭なる大蛇のごとく動き回りもするらしい。
 当然そのダメージはマリエッタに行くはずだが、マリエッタはフウと細く息を吐き出すだけ。
 村喰はその様子に目をぎゅっと細くし、そしてより濃度の高い分泌液を一発分だけ作り出すとマリエッタへと発射した。
 再び巨大な海蛇のごとく鎌を展開し分泌液を喰らうマリエッタ。
 が、今度は平気というわけにはいかなかったようだ。ゾッと顔を青ざめさせ、めまいでも起こしたように身体をぐらりとと傾ける。
「どうしました!? おなか壊しました!? ポンポンをペインしました!?」
 慌てて抱き支える妙見子に、マリエッタが呻くように言う。
「私の抵抗力を突破してきたようです。注意してください。あの毒は強力です」
「なるほど、なるほど……」
 妙見子は畳んだままの扇子でとんとんとマリエッタの鎌を叩くとまるで呪術師のように彼女から毒のはいった血を抜き取った
「これは、二人三脚で行く必要がありますね。かけ声いります?」
「今は、いらないですかね」
 顔色のもどったマリエッタに、妙見子がにこりと微笑みかける。
 そして、今度こそ扇子を開いて黒い焔を纏わせた。
「それでは、反撃のお時間です。英語で言うと――HANGEKI TIMEです!」
「言えてない?」
 リュコスがハッとして振り返るも、妙見子は構わず扇子を振り込みリュコスとアッシュにそれぞれ黒い焔を纏わせる。
 様々な権能を切り離し付与したものである。
 実際、アッシュの両耳からは狐の耳と尾めいた焔がにょきっと生えてぴこぴこしていた。リュコスのほうは嫌がるだろうなってことで隠してあるという新設な設計である
「ありがと」
 リュコスは小さく唸り、そして村喰へと襲いかかった
 対する村喰もさるもので、リュコスの攻撃を分泌液のぬめりによってギリギリ回避するとその跳躍力によって頭上を飛び越え、後方から狙いを付ける。更なる分泌液の発射をマリエッタたちが防御する中、アッシュは早速村喰の足を切りつけた。
 どうやら鋏に見えて両刃の剣であるらしく、豪快にずばんと切断した前足が回転しながら飛んでいく。
 俊敏な跳躍力を損なったことで、村喰がその場に留まりつつ分泌液を全方位に向けて発射――しながら、あんぐりと口を開けた。
「……!?」
 アッシュが反応できたのは、超人的な聴覚によってカエルが舌をぎゅっと縮める微妙な音を聞き分けたからだ。
 そう、村喰は舌を凄まじく早く伸ばし、鞭のよううにしならせアッシュを攻撃したのである。剣をそれこそ鋏のように広く開いて攻撃を受け止めるアッシュだが、舌の堅さたるやガギンと金属音を鳴らしアッシュのほうが弾かれるほど。
「これは……また厄介ですね。こんなものを隠していたとは。
 分泌液と舌の両方を封殺する手はないものでしょうか?」
「なくは、ねえな」
 そう答えたのはファニーだった。
 それまでベークが誘引したまま倒されていなかったゼノグラシアンの処理を舞台袖の裏方のごとく手伝っていたファニーが、やっと表舞台に名脇役として戻ってきたのである。
「妙見子、ちょっと権能貸してくれ。確立をあげたい」
「かくり……あー」
 妙見子はブンと扇子をふり、飛んできた焔をファニーは空飛ぶ獣の頭蓋骨で受け止めた。
 ボウッと燃え上がる頭蓋骨が巨大な狐のような形の焔を纏い、その目をギラギラと燃え上がらせる。
「別に自前のでもあがるっちゃああがるんだが、やっぱ力を合わせてってのがイイよな」
 ファニーがにやりと笑うと、どこからともなくヒロイックな音楽が流れ始める。
 再び放たれる村喰の舌。が、対するファニーはその攻撃をまるで回避すること無く自らの腕を吹き飛ばさせ、ニッと歯を見せて笑うと焔狐から激しい光線を発射させた。
 視界の殆どを埋めんばかりの白と黒の光線が村喰へと直撃。かぱっと開いた口から再び舌をしならせようとするが、その舌はでろんと脱力したように地面にたれさがるばかりとなった。
 たった一発。しかし確実な一発だ。
「さあて、トドメだぜ」
 ピッと指さすファニー。焦ったように口をパクパクさせる村喰に、リュコスは弾丸のように突っ込んだ。
 自ら村喰に食われるかのように体内へと入ったリュコスは、一瞬の間をおいてから横っ腹を突き破って現れた。
 その手には何かの臓器らしきものが握られ、ドクンと一度脈打ったそれはどろどろと泥のように溶け始める。
 それが弱点だったのだろう。なんとか分泌液で反撃しようとした村喰は、それすら出来ずに自壊を初めていた。
 決着がついたのは……もはや、言うまでもない。

成否

成功

MVP

ファニー(p3p010255)

状態異常

なし

あとがき

 ゼノグラシアンとワールドイーターたちを撃退しました。
 復興地は守られ、土地や住民への被害はありませんでした。

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