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シナリオ詳細

常夏の島、ヴァカンツァ。或いは、海賊マリブの高級カジノ…。

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●騒がしい夜に乾杯
 歓声と悲鳴。
 つまり、勝者と敗者が決まったということだ。
 ところは海洋。常夏の島、ヴァカンツァ。この夜、歓楽街の高級カジノで、人知れずある大きな事件が起ころうとしていた。
「何でも“ラッキーセブン”とかって名前の博徒が、今夜、うちのカジノに遊びに来るらしいの」
 そう言ったのは、丸サングラスをかけた細身の女性であった。名をマリブという、ヴァカンツァの賭場を仕切る海賊だ。
「ラッキーセブン、なんて名前で通っているけれどね、カジノからしてみれば“アンラッキー”にもほどがあるわよ」
 片手にチップを1枚摘んで、マリブは疲れた風な顔で溜め息を零した。
 それからマリブは、カジノフロアをぐるりを見回す。スロット、ポーカー、ルーレット、そのほか多数の賭け事がそこかしこで行われていた。この一夜だけで、一体いくらの額が動くのか。想像するだけで背筋が冷える。
 中には「客とディーラー、どっちが勝つか」なんて種類の賭け事まで行われているほどだ。ここに集まる客たちは、誰も彼もがギャンブルに魅了されている。
「とはいえ、客だし無下に追い払うわけにもいかない。ラッキーセブンの勝ちが業運によるものなら、こっちとしては文句を付けるわけにもいかない」
 ただし、と。
 そう言ってマリブは、あなたの前に数枚のチップを転がした。
「もしもイカサマでもしているようなら、言葉に出すのも憚られるような目に遭ってもらわなきゃならないわ」
 マリブの笑みは冷酷な肉食獣の浮かべるそれのようにも思えた。
 あなたは問う。
「イカサマをしている奴を見つけて、突き出せばいいのか?」
 問いを受けたマリブは肩を揺らして笑う。
 それから彼女は、あなたの前からチップを一枚取り上げた。
「減点。ここはカジノよ? お客様はもちろん、スタッフだって楽しんでなきゃ興醒めってものでしょう? つまりね、あなたたちには好きに遊んでいてほしいの」
 露骨に警戒していては、誰もイカサマに手を染めようとは思わないだろう。
 マリブはそんなことを言いたいのだろう。
「好きに遊んで? お金をじゃぶじゃぶ使ってちょうだい? そして、もしもイカサマをしている者がいれば、証拠を掴むお手伝いをしてくれたり、私のところに連れて来たりしてちょうだい」
 場合によっては、イレギュラーズを警戒したラッキーセブンが“早々に切り上げて退散する”ということもあるだろう。そうなればマリブの勝ちだ。今日の帳簿を“黒”で記入できたのなら、それはマリブの勝ちなのだ。
「ここはカジノよ? さぁ、どうぞ遊んで。お金を賭けて?」
 なんて。
 冷酷な獣の笑顔で、マリブはそんなことを言う。

GMコメント

●ミッション
カジノの売り上げを黒にしたまま1日を終える

●NPC
・ラッキーセブン
性別、年齢、容姿も不明なギャンブラー。
ラッキーセブンが来た賭場は壊滅的な不利益を被ることで有名。
ある種の賭場荒しだが、単なる業運によるものか、イカサマでもしているのかさえ不明である。

・マリブ
海洋の海賊。
常夏の島、ヴァカンツァで高級カジノを経営している。
ルーレットのディーラーとしてフロアに滞在しており、客たちが“楽しめるように”気を配っている。例えば時には派手に負けてみせたり、派手に客を負かしてみせたり……そういう手練手管に長けているようだ。

●フィールド
海洋。
常夏の島、ヴァカンツァの高級カジノ。
スロット、ポーカー、ルーレットを中心に、様々なギャンブルを行っている。
フロアには数ヶ所のバーカウンターが存在し、客たちは無料で酒を楽しめる。


動機
 当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】遊びに来た
単なる客として遊びに来ました。

【2】ローレットの依頼で来た
ローレット経由でマリブの依頼を受けてやってきました。

【3】こっそりと忍び込んだ
何らかの目的、または気紛れによりこっそりと忍び込みました。


ヴァカンツァの楽しい夜
高級カジノでの過ごし方です。遊んだり、ラッキーセブンの正体を探ったりします。

【1】スロットで遊ぶ
スロットで遊びます。どうやら当たりやすい台と当たりにくい台があるようです。

【2】ポーカーで遊ぶ
ポーカーで遊びます。ディーラーは新人らしい若い女性です。男性客が多いようです。

【3】ルーレットで遊ぶ
ルーレットで遊びます。マリブがディーラーを努めています。女性客が多いようです。

【4】調査および散策を行う
ギャンブルをせずに過ごします。フロアを歩き回ったり、バーで酒を楽しんだりします。
※未成年の飲酒はお控えください。

  • 常夏の島、ヴァカンツァ。或いは、海賊マリブの高級カジノ…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月26日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
メイメイ・ルー(p3p004460)
約束の力
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
ナール・トバクスキー(p3p009590)
ろくでなし

リプレイ

●カジノ“マリブ”
 常夏の島に夜の帳が落ちるころ。
 ヴァカンツァの中でも一等大きなカジノに、威風堂々と近づく男女の影が4つ。シックな、けれど鋼の扉を守っているのは黒いスーツに身を包んだ巨躯の女性だ。
 サングラスの奥で瞳を細くし、4人の前へ手を翳す。
「ん? あぁ、そうか……ほら、これでいいかい?」
 『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)がポケットから取り出したのは、黒い4枚のカードである。カードの四隅や中央には、金色のラインが刻まれている。おそらく、薄く伸ばした金だろう。
 カジノ“マリブ”は会員証制の高級カジノだ。
 会員証を確認し、スーツの女性は右へと退いた。それから彼女は、小さく扉をノックする。それを合図に、ギィと重たい、けれど静かな音がして重厚な扉がゆっくりと開いた。
「どうぞ、お楽しみください」
「あぁ、そうさせてもらうよ。そっちもどうかいい夜を」
 そう言ってモカは、スーツの女性に幾らかのチップを握らせた。

 スロットにルーレット、ポーカー、バカラ、ダーツ、etc.
 多種多様なギャンブルが4人を迎える。
 着飾った男女が、思い思いの時間を過ごしているようだ。ある者はバーカウンターで静かに1人で酒を楽しみ、ある者は真剣な眼差してスロット台を注視している。またある者は苦い顔をしてカードを睨み、またある者は積まれたチップを前に上機嫌な顔をしている。
 ギャンブルとは、カジノとはこういうものだ。
 誰も彼もが上機嫌に、湯水のように大金を使う。ある者は儲けを出すだろうし、ある者は大きな損失を出す。そんなものだ。ギャンブルは人から正常な判断力を奪う。一攫千金という言葉が、金の持つ魔力が、留まるところのない欲望が、人をおかしくさせるのだ。
「わぁ……ここが、カジノ……大人の世界、です」
 入口の近くで足を止め、『あたたかい笑顔』メイメイ・ルー(p3p004460)は視線をきょろきょろと右へ左へ彷徨わせている。
 カジノに入るのは初めてだ。モカのアドバイスで身に付けている薄いドレスには慣れないが、それでもメイメイはわくわくしていた。
 そんな様子のメイメイに、何人かの客が目を付けたらしい。まだ年若い女性だ。きっとどこかの世間知らずの令嬢か。だとすれば、生粋のギャンブラーにとっては絶好のカモだ。
 ……なんて風に判断した者たちは、悲しいかなあまりにも“目”が悪い。
「カジノで遊んだ上に報酬が貰えるとは気前のいい依頼だ。遠慮なく楽しむとするか」
「ヌーハッハッハ! だなぁ! 仕事としてギャンブル出来るとは参加せぬ訳にはいかんな!」
 メイメイから少し離れた位置に立っている2人の男……『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)と『ろくでなし』ナール・トバクスキー(p3p009590)は、きっと“カタギ”じゃないだろう。
 例えば“そっとカードを1枚すり替える”ような真似をすれば、容赦なくその者の手をナイフでポーカー台に突き刺す類の男たちである。
 カモにするには、些かリスクが高すぎる。頭のうちでメリットとデメリットを天秤にかけた数人が、苦い笑みを共に視線をメイメイから外す。
「しかし、まぁ……こうも人が多いと“ラッキーセブン”が誰かなんて皆目見当が付かねぇな」
 通りかかったフロアレディの手から酒のグラスを受け取り、縁は肩を竦めて見せた。今宵、縁をはじめとした4人はローレットの依頼でカジノを訪れている。曰く、ラッキーセブンという名のギャンブラーを牽制するのが目的らしいが……残念ながら、今のところそれらしい人影はいない。
 酒精の濃いカクテルで唇を湿らせ、縁はフロアの端へと移動した。
「まあ縁さんと俺、海洋名声1、2が揃ってりゃ、警戒されるんでない?」
 フロアの端で待っていたのは『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)だ。片手にチップの束を持ってはいるものの、どうやら増えても減ってもいない。
「なんじゃ、遊んでないのか? もしかして遊び方が分からんわけじゃあるまいな?」
 史之の手元を指さしてナールは口元をにやりと歪めた。遊び方が分からないのなら、教えてやろうと思っているのだ。何しろナールは、酒も賭博も大好きなので。
「そういうわけじゃないさ。ポーカーで遊ぶよ。勝っても負けても楽しむつもりだ」
 あっち、と史之が指し示した先にはポーカーやルーレットのテーブルがあった。見知った顔が機嫌よくチップを賭けているが、きっと彼女は勝てないだろう。
「あのディーラー、手慣れとるな。あぁ、ありゃいかん」
 グラスの酒を一息に干すと、ナールは苦い顔をした。それから彼は縁と史之に軽く手を振り、ポーカー台へと向かって行った。
「どうせなら若い姉ちゃんと楽しく遊ぶかのぅ」
 ポーカーのディーラーを務めているのは、新人らしい若い女性だ。

 ルーレットのディーラーは、丸サングラスをかけた細身の女性である。
 彼女の名はマリブ。
 カジノ“マリブ”の支配人である海賊だ。
「イカサマなどなさいませんよう」
 薄く笑みを浮かべたマリブがそう告げる。彼女がディーラーを務める際に必ず告げる“お決まりの口上”というやつだ。
 ルーレット台についているのは馴染みの客ばかり。マリブの台詞に笑う程度の余裕はあった。かつてマリブの忠告を無視してイカサマに手を出した客が、どんな酷い目に遭ったのか……彼らはその末路を知っている。
 マリブやその部下による制裁が、自分の身に降りかかるとなれば肝も冷えるが、他人が制裁を受けるというなら、それはある種の娯楽だという輩であった。何しろ金は腐るほどある。金を払えばたいていのことは思い通りになるし、その気になれば他人の生き死にさえも左右できるのだ。そんな彼らにとっての娯楽と言えば、それはもう“偶発的に目の前で起きた他人の不幸”ぐらいのものなのである。
「わたしはイカサマはしないよ! タコ助の母だからねっ」
 忠告に気が付いたのか、そうでないのか。『タコ助の母』岩倉・鈴音(p3p006119)はチップの束を手元に置いて、にこりと笑みを返すのだった。
 “タコ助の母”が何を指すのか、マリブや他の客にはさっぱり不明であったが、鈴音が賭ける金額はそれなりに多い。
 マリブはルーレットを回し、小さなボールを投げ込んだ。
 コロコロ、カラカラ、小気味のいい音を鳴らしてボールが転がる。鈴音はチップの束を『RED』の枠へと移動させ……その寸前で「おや?」と小首を傾げてみせる。
「あ、こっちか」
 なんて。
 何を閃いたのか。鈴音はチップの束を『BLACK』へ。
 数秒後、ボールが止まった枠は「33」の黒。
 つまり、鈴音の勝利である。

●海洋・ナイト・フィーバー
「フラッシュだ」
 手札をテーブル上に広げて、縁は告げた。悪い手札では無いが、良いというには少し足りない。
「フルハウス。ははっ! 今日はどうもツイてるね!」
 案の定、縁は負けた。
 縁の手元のチップの束が、隣の席の女海賊へと移る。褐色の肌に金の髪をした彼女の名は“ティブロン”。海洋周辺で多少、名を知られた海賊である。
「っても、これで五分五分ってところか。もうひと勝負いっとくかい?」
「あぁ、いや今日のところは船長に花ぁ持たせておくよ。俺ぁ、酒でも飲んでくる。あんたもどうだい? ツイてるお前さんに祝いの一杯を奢ろう」
 知らぬ相手でも無いのだ。酒の1杯を奢ることに何の躊躇があるだろう。
「なんだ? 随分と太っ腹じゃないか?」
「なに、今日はほどほどに遊ぶって決めてんだ」
 かくして縁とティブロンは、そこそこの勝ち金を手に取るとバーカウンターへ移動する。なお、同卓ではその後、立て続けに客側が負け込むという事態が発生している。
「……こういうのは、欲をかいた奴から身を持ち崩すんだよ」
 なんて。
 誰にも聞こえないように、声を潜めて縁は言った。ツキは移ろうものであるので、客側が延々と勝ちを重ね続けることはあり得ない。
 さらに言うなら、ディーラーの中には“ツキ”を自由に動かす類の輩もいるのだ。縁も若い頃にはひどい目に遭った。

「で? お前さん、何をぼうっとしてんだ?」
 バーカウンターのすぐ前で、しきりに周囲を見回しているメイメイがいた。縁が声をかけると、メイメイは安堵の表情を浮かべる。
「メニュー表が……ない、です」
「ん? あー……この子にノンアルコールのカクテルを。ミルクベースでいいか」
 カジノ“マリブ”のバーカウンターにはメニュー表が無い。客のオーダーに何でも応えてみせるという自信の現れだろうか。無言で首肯し、バーテンダーがカクテルを作り始める。
 しばらく待つと、ミルクとチョコレートのカクテルが供された。
 舌で舐めるようにカクテルを楽しむメイメイへ、縁は問う。
「ところで、ラッキーセブンは見つかりそうか?」
「ラッキーセブンが稼ぎに来ているなら、きっと沢山、当てている人の筈……」
 囁くようにそう言って、メイメイはスロット台の方へ視線を向けた。
 ファンファーレが鳴り響き、ジャラジャラとコインの降って来る音がする。どうやら誰かが大当たりを出したらしい。
 カクテルを飲み終えたメイメイは、ぽてぽてとした足取りでスロット台の方へと向かった。

 コロコロ、カラカラ。
 ルーレットの上をボールが転がる。
 鈴音は手元のチップとボールを交互に見やった。こうしていると、時々「ここだ」と思える瞬間がある。大局的見地からからのひらめきか、それとも鈴音の目がいいのか。
「ところで皆さんは“ラッキーセブン”という名のギャンブラーをご存知?」
 ボールが止まるまでの時間を潰すためか。或いは単なる気紛れか。
 マリブはそんな問いを投げかけた。
「うん? 知らないよ。知らない……あれ、聞いたかも? 聞いたことあるっけ?」
「……いえ、知らないけれど」
 首を傾げる鈴音以外の客たちは、一様に苦い顔をしている。
 ラッキーセブンという名のギャンブラーは有名だ。しかし誰も容姿も年齢も性別さえも知らない。だが、それでも確かにラッキーセブンは存在している。
 事実として、ラッキーセブンの被害に遭って、廃業へ追い込まれたカジノは幾つも存在しているのだから。
「皆さん、他人の不幸が何より甘いって性質でしょう? でしたら今日は最後まで遊んでいくのがいいわ。何でも今夜、この店にラッキーセブンが来ているそうよ」
 なんて。
 さもどうってことないかのようにマリブは言った。その言葉を耳にして、何人かがいかにも悪辣な笑みを浮かべる。「ヴァカンツァでも1番のカジノ“マリブ”がラッキーセブンに荒される」なんてことになったなら、明日は1日、楽しい気分で過ごせるだろう。
 何しろ彼らは常連だ。そこそこに稼がせても貰っているが、トータルで見れば損失額の方が多いのである。稼ぎに稼ぐマリブの高い鼻がへし折れるところが見たいのだ。
「ところで……」
 と、マリブは視線を鈴音の背後へと向ける。
 いつの間に現れたのか。鈴音の背後には、チアガール姿の応援団が並んでいたのだ。
「彼女たちは、なに?」
「なにって、モアブの娘さん達だよ?」
「……え、なに?」
 何と聞かれても、鈴音にも詳細は分からない。褐色ギャルのチアガールたちは、いつの間にか鈴音の背後に現れるのだ。そして、いつの間にか消えるのである。

 配られたカードを一瞥すると、ナールはそれを重ねて1つの束にした。
 それから1度、カードを手元に伏せて置いて、代わりに酒の入ったグラスへ手を伸ばす。
 一瞬、ナールの手首と伏せたカードの束が重なる。
 その瞬間、隣に座ったモカがチップを指で弾いた。くるくると回転しながらチップが舞う。ディーラーを務めていた若い女性が、モカの弾いたチップを思わず目で追った。
 刹那、テーブルの影でモカの手首が翻る。
 トン、と鋭い音がした。
ナールの脇を手刀で打ち据えたのである。
「ディーラーが新人……イカサマしようとしてる人間なら目を付ける卓だな」
「む……勝ったり負けたりのドラマを演出するには、こういうのも必要じゃろう?」
 ナールは慌てて、袖から覗く「ハートのA」を引っ込めた。配られたカードと、隠し持っていたカードをこっそりすり替えようとしたのだ。
 つまりイカサマである。
 けれど、ナールのイカサマは失敗に終わった。
 モカに見咎められたからだ。
「えっと……えーと、ではソ、ショーダウンです」
 ぎこちない様子でディーラーがショーダウンを告げる。
 ぱらり、とモカは手元に広げたカードを表へと返す。
 公開されたカードは「ダイアのA、K、J、Q、10」。
 “ロイヤルストレートフラッシュ”だ。
 周囲で見ていた客たちが、一斉に喝采を挙げた。
「イカサマなどいらないさ。正々堂々と盛り上げてみせるとも」
 威風堂々といった様子でモカは告げた。
 一方、ディーラーの女性は顔色を悪くしている。ポーカーとは、基本的に客同士の勝負であるため、ディーラーが損を被ることはほとんどない。
 とはいえ、あまりに配るカードに偏りが見られたり、強い役が揃い過ぎたりしてしまえば、ディーラーの不正を疑われることもある。或いは「イカサマを見抜けないディーラーだ」と客に思われてしまえば、店の信用にさえ関わって来るのだ。
 そうなれば自分はマリブにどんな目に遭わされるか。
 なんてことを考えて、ディーラーの女性は顔色を悪くしたのである。
「バカ勝ちする客ほど厄介なものはないよね。その点俺はギャンブルが苦手だからちょうどいいんじゃない?」
 あからさまに顔色を悪くする辺り、彼女はやはり新人である。苦笑いを浮かべた史之がカードを広げて、チップを前へ押し出した。
 揃った役は“ツーペア”。
 どうやら今夜の史之は、あまりツイていない風である。

●ラッキーセブン
 敗北はこれで何度目だろう。
 史之は用意していた予算を、すっかり使い果たしていた。
「はぁ……駄目だ。本当にツイてない」
 そう言って史之は席を立つ。これ以上、ギャンブルに金をつぎ込むつもりはないようだ。
 と、そんな史之から距離を取るようにして、ディーラーの女性は恐る恐るといった様子で問いかけた。
「あの、暴れたりしないでくださいね」
「え? あぁ、そんなことはしないよ。そんなに怯えないで……まぁ、中には負けて暴れる奴もいるだろうけどね」
「えぇ。時々……昔いたお店で、負けた腹いせに鉄鎚を振り回し始めた女性がいました」
 海には荒くれ者が多いが、それにしたってやり過ぎだ。
 呆れた風に史之は苦い笑みを零した。

「じぃ~……」
 っと、メイメイが女性の手元に熱い視線を送っていた。
 眉間に皺を寄せながら、女性はスロットのボタンを押した。ベルの絵柄が横一列に揃って、幾らかのコインが手元のポケットへと振って来る。
「……何なの?」
 いい加減に耐えかねたのか、女性はメイメイへと問うた。白と青の2色が混じり合った長い髪が、首の動きに合わせて揺れる。
「どうやって遊びます、か? 難しいです……か?」
「難しくはないわよ。そこの機械でチップをコインに変えて、コインをスロット台に投入して、レバーを下げて……スロットが回り始めるから、適当にボタンを押すだけよ。で、横か斜め一列に同じ絵柄が揃ったら勝ち」
「なるほど……こう、ですか?」
 メイメイは女性の隣に座ると、スロット台にコインを入れた。回転するスロットを興味深そうに眺め、ボタンを押す。
 当然のように、絵柄はまったく揃わない。
 2回、3回、4回、5回……ただただコインだけが消費されていくばかり。
「眼鏡が、大事?」
「私は目が悪いだけ。あーもう、もっと絵柄を注視して、タイミングを測ってボタンを押さなきゃ、いつまで経っても絵柄なんて揃わないわよ」
 適当にボタンを押そうとしていたメイメイの手を押さえ、女性は眼鏡の位置を直す。
 それから回るスロットを注視しながら、指を上下に揺らしてカウントを取り始めた。
「今!」
 女性の合図に従ってメイメイはスロットのボタンを押した。
 3回、同じことを繰り返せば、チェリーの絵柄が横一列に揃っていた。
「おぉ……」
「おぉ、って。もう、どこのお嬢さんか知らないけど、見ていられないわ。今日は稼いでやろうと思っていたけど……まぁ、いいでしょう」
 どうやら女性は、このままメイメイの手伝いをしてくれるらしい。
 
 それから暫く。
 ふと、思い出したようにメイメイは問うた。
「あなた、が……ラッキーセブン、ですか?」
 眼鏡の女性は鼻で笑った。
「そう呼ぶ人もいるかもしれないわね。まぁ、ラッキーセブンでもジェーン・ドゥでも、お好きなように呼んでちょうだい」
 かくしてこの日、メイメイは人知れずカジノ“マリブ”の売り上げを守ったのである。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
カジノ“マリブ”の売り上げは、無事に守り通されました。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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