PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<天牢雪獄>希望を嘯く病

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●希望を嘯く
 『新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)』。鉄帝のレフ・レフレギノ将軍により創設されたこの舞台は、英雄とは名ばかりの、『悪党どもによる愚連隊』に近いものである。それはそうだろう。新皇帝派におもねるものたちが、この部隊にいる。となれば、必然的に『悪党が集う』というものだ。
 だが、その中にも『真っ当な人間』というのは存在する。そういった人たちは、おおむね『鉄帝を離れられなかったが、何らかの庇護は必要である』人たちをその身内に抱え込んでいる人たちだった。現在の鉄帝は、『弱肉強食』といってすら聞こえの良い言葉であり、実際には暴力がすべてを支配するような、そんな状況だ。その中で『すべての人たちが何者よりも強くある』事は絶対的に困難であったし、不可能だった。例えば、あなたが強かろうとも、その親兄弟関係者すべてまでがあなたと同等、あるいはそれよりも強いなどということは稀なのだ。
 そのために、『自分の力を売り、家族の庇護を求める』者たちは多数存在した。それが、『新時代英雄隊の真っ当なメンバー』であり、これは決して少なくない数が存在した。その部隊のほとんどをまとめていたのが、イレギュラーズたちがかつて遭遇した少女――ソフィーヤ・ソフラウリッテという名の魔道の天才児であったりした。ソフィーヤは、家族を冬の上から守るために、自分の力を担保に国に庇護を求めた。レフ・レフレギノ将軍はそれを認め、彼女を新時代英雄隊の使える駒として使っている――というわけなのだが。
「ひどいですね」
 そういうのは、オリーブ・ローレル(p3p004352)である。手にしたメモ帳。そこにはいくつかの名前と村や町の名前が書いてあって、そのうちの一つにバツ印を付けた。リストの中には、多くのバツ印が並んでいた。
 オリーブの目の前にあったのは、昨今の『尋常ではない厳冬』により、ほぼ崩壊した一村だった。思い出すのも嫌な気分になるが、村の中には凍死体や餓死体が多く転がっていて、彼らが壮絶な最期を迎えたことは想像するに難くはない。
 そういった、「おぞましいもの」を、オリーブ、そしてカティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)や鵜来巣 冥夜(p3p008218)は、この数か月の捜索の果てに、いやというほど見せつけられていた。それは、鉄帝の今のありありとした現実であり、こうして自分たちが見つけたそれ以上に、無念のうちに死を迎えたものたちは多いのであろうということをまざまざと想像させていた。
「なんなんだ……」
 カティアが、呆然とうめいた。オリーブの持っていたリストは、『新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)の真っ当な人間』の故郷や、家族、つまり身内の住まう村であった。『真っ当な彼ら』が、自らの命を差し出してでも、守ろうとしたはずの者たちだった。
 カティアたちは、ソフィーヤと約束し、彼らの故郷を回っていた。そしてそのほとんどが、支援などされず、打ち捨てられるままになっていることを、確認していたのだった。
「なんで、こんなことになってるんだ……!」
 カティアが、あえぐようにそう言った。あのソフィーヤという少女は……確かに、家族のために戦っているといっていた。自分たちの稼いだ金は、少しでも、家族に送っているのだと……たとえ自分たちの手を汚してでも、家族を救わなければならないのだと……彼女たちは、苦しみながら、イレギュラーズに、カティアたちに、刃を向けた。
 その覚悟の果てが、これか。
「……支援などは行っていなかったということでしょう」
 冥夜が言った。
「レフ・レフレギノ将軍と遭遇した作戦の報告書などを読めば……彼の動機は、おそらく鉄帝国民すべてへの怒りと憎悪。
 なれば、死ぬかもしれないものを助けるなどという慈悲など、持ち合わせていないのでしょうね……」
「……予想はしていましたが」
 オリーブが言った。
「しかし、こうして事実だと見せつけられるというのも」
「僕は、彼女になんていえばいいんだろう」
 カティアが言った。
「なんて、言えば……」
「別に、何も言う必要はないぜ」
 そう――下卑た声が響いた。
 ざ――と、足音が響く。
「囲まれていますね」
 オリーブが言った。
「構えてください」
「おっと、やる気満々だな。怒ってるのかい?」
 小ばかにしたように、声の主が言った。
 大刀を携えた、男だった。
「ラド・バウで見たことがありますね。ダーティファイターだったはずです。
 なるほど、今のラドバウから追い出されて、新皇帝派に与したと見える」
 冥夜の言葉に、男はうなづいた。
「ちっ、気持ち悪い男だな。見透かしている、って顔してるぜ。
 まぁ、そうだ。だが、追い出された、ってのは違うな。自分から出ていったのさ」
 追い出された奴はみんなそういうのだ、という言葉は飲み込んでやった。馬鹿を挑発するよりも、今はやることがある。
「その様子ですと、口封じ、ですね。この実情を、新時代英雄隊のメンバーには知らせたくないということですか?」
 オリーブがそういうのへ、男は笑う。
「お察しの通り。まぁ、別にあの連中がいなくなってもどうでもいいんだが、それでもプロパガンダは継続したいってのが将軍の意向だ。来るべき日まで、何も知らずにぬくぬくしていてほしいらしい」
「ふざけるなよ……!」
 カティアが、ぐっ、と怒りをこらえて、言った。
「これ以上、お前たちの思い通りにさせるものか!」
「ふん――だが、囲まれている状況で、どうするってんだ?」
 囲まれている。イレギュラーズたちは、完全に包囲されているようだった。それが、この男の自身の根拠なのだろう。
「この程度。私たちにとって危地だと思いましたか」
 冥夜がそういい、
「ええ。その根拠のない自身、うち砕いてあげますよ」
 オリーブがかまえる。
「……別にこの惨事を招いたのはお前たちじゃないけど」
 カティアが、構えた。
「わるいけど、八つ当たりさせてもらう……!」
 かくして、戦いの幕が上がる。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 明かされた真実。それを葬り去ろうとする者たちに、怒りの鉄槌を。

●成功条件
 すべての敵の撃破。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

●状況
 新時代英雄隊。これは新皇帝派に所属する、いわば皆さんの敵ですが、その中にも、『家族を守るため』『故郷に金を送るため』などとといった理由で、いやいや付き従ている者たちも多くいました。
 皆さんは、そんな『真っ当な兵士』たちの願いを受けて、故郷の様子を確認に来たのです。
 しかし、その多くの場所では、支援などは行われず、家族は、故郷は、既に厳しい冬の果てに屍をさらしていたのです。
 皆さんは、この情報を持ち帰り、『真っ当な兵士』たちへの説得材料にしようとしています。
 しかし、それを妨害するように、新時代英雄隊の『悪漢』たちが現れ、皆さんの口を封じようとしたのでした。
 彼らは直接の加害者ではありませんが、しかし悪に加担したクソ野郎どもです。
 今の怒りを、彼らにぶつけても罰は当たらないでしょう。それに、ここを突破しなければ、『真っ当な兵士たち』も救われません。
 作戦結構タイミングは昼。周囲は明るいですが、フィールドが雪深い場所になっているため、少々移動に足を取られる可能性があります。
 何らかの対策があると、敵よりスムーズに動けるでしょう。

●エネミーデータ
 クラック・クラックズ ×1
  OPに登場した、大刀を持った男です。元ラド・バウのファイターで、悪辣なファイトをするために人気はなかったようです。
  とはいえ、実力は確かにあり、イレギュラーズの皆さんを前にして、余裕を見せるだけに実力はあるようです。
  EXAの値が高めで、複数回の行動で得意の大刀で斬りつけてくるでしょう。中距離レンジくらいまでは対応できますが、遠距離以降は不得手なため、前衛で足を止め、後衛が調理してやると、スムーズに倒せるでしょう。

 新時代英雄隊兵士 ×18
  新時代英雄隊の兵士たち。何れも犯罪者などの悪漢たちで、同情の余地はないです。
  9人が刀で、9人が銃で武装しています。
  前衛と後衛の役割は割としっかりしており、結構組織だった動きをします。
  マニュアル通り、といってしまえばその通りです。それを崩せることができれば、慌てふためき本来の力を発揮できなくなるでしょう。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <天牢雪獄>希望を嘯く病完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年03月01日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 志(p3p000416)
遺言代行業
武器商人(p3p001107)
闇之雲
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)
グレイガーデン
鵜来巣 冥夜(p3p008218)
無限ライダー2号
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女

リプレイ

●衝突
 めまいのするような光景と現実。
 悪夢のような、というたとえがふさわしい事実。
 本当に悪夢であったならば、と願うことすら胸の内に浮かんでくる。
 悪夢であったのだ。ひどい夢を見た。
 起きて現実に戻ってみれば、そもそも――鉄帝に起こった異変がすべて悪夢であって。
 苦しむ人たちもみんな、笑顔で笑って生活している。
 そんな現実が待っているのだと――。
 そうであればよかったと。
 『現実逃避』してしまいたくなるくらいに、吐き気のするような、現実。
「ぐ、う」
 『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)は――。
 ただ、胸を強く抑えていた。何かが、生まれるような気配がした。それは感情のうちの一つで。ひどく暗くて、怖いものだった。
 それが身の内から生まれることが、とても怖かった。でも、その怖いというものすら、その生まれた感情に飲み込まれて、大きくなって、聞こえなくなっていく。
 きーん、と耳鳴りがするような気がした。外界と途絶されるような感覚だった。目も耳も抑えてうずくまって、この衝動にすべてを明け渡してやりたい、そういう思いがわずかに浮かんだけれど、セレナはしっかりと前を見据えた。
「許さない。
 ――してやる」
 言葉になんと乗せたのか。セレナにも、誰にもわからない。ただ、心からのそれは、愚鈍な悪党には聞きなれた安っぽい怒りの発露に聞こえたのだろう。クラック・クラックズは鼻で笑った。
「随分とお怒りのようだ。そこらの雪に顔を突っ込んで頭を冷やしな」
「やはり下劣な悪党のようですね」
 『カチコミリーダー』鵜来巣 冥夜(p3p008218)が、冷静に言い放った。
「あなたとなにがしかを語る価値も、意味も、存在しません。
 こちらにはまだ仕事がある。生存者が残っている希望は、捨てたくはない」
「その一縷の望みってやつを捨てさせてやろうか? なんで俺たちがこんなところにいると思う。
 万が一でも、逃げおおせて帝都まで向かうかもしれないやつを、処理してたからさ」
 クラックが、おどけるように言った。
「全部雪の中に埋めたよ」
「は――」
 『グレイガーデン』カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)が、ゆっくりと息を吐いた。白い世界に、白い熱情が立ち上っていく。
「大丈夫。冷静だよ。
 冷静でなくちゃいけない、誤らない為に。
 僕の役割は見て聞いて判断する事、そして何をすべきか考える事だから」
「ええ、そうです。私たちは、冷静でなくてはならない」
 冥夜がうなづく。
「囲まれてはいますからね」
 『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)がうなづいた。
「第一に突破。第二に彼らの全滅。これが狙うべき戦果です。
 道は、見えますね?」
 そこまでの道は、見えるだろうか? そう、仲間たちに問いかける。皆はうなづく。
「ならば、そこまでを冷静に、進むだけです。
 突破し、下しましょう。この外道どもを」
「そうだね。さて、同じ闘士としては、一応言っておくよ」
 『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が、声を上げた。
「世の中にはやってイイこととやっちゃいけないことがあって、コレは言うまでもないよね?
 ……いいや、わからなかったから、ラドバウからもオイダサレタわけかな?」
「俺は」
 クラックスがわずかに顔をゆがめた。
「自分から出ていったのさ」
「言い訳は結構ですよ」
 『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)が言葉を続ける。
「それがあなたの地雷ですか。随分と安っぽい。まぁ、だからこそ、こんなつまらない任務を押し付けられているのでしょうが。
 ああ、一応、降伏なさるのでしたら、武器を捨てて両手を上げておいてくださいね。
 ”私は”対象から外しますから」
 じ、と見つめる、赤の目。しかし、その鮮やかなそれの中には、真っ黒な闇を覗いた経験が根付いているように見えた。見るものを竦ませる、それは経験からくる実力と迫力。僅かに息をのみつつ、クラックスは声を上げた。
「ふん……いい気になるなよ。お前たちが不利なのは、事実だ」
「だとしたところで、俺達を抑えられると思うな」
 『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)が、睨みつけるように言った。
「おまえたちが腐ったミカンか、お役目ご苦労さま、危険任務だ。遺書くらいは書いてるよね?
 ……俺は怒っている。いや、俺たちは、だ。
 おまえたちに慈悲があると思うなよ。一切合切、この雪原にまき散らして逝け」
 ゆっくりと、史之が刃を握った。
 仲間たちも、合わせるように構える。
 思いは一つ。
 正しき怒り。
 それを胸に。
 悪しきを断つ!
「さァて、始めようかねぇ?」
 ヒヒヒ、と『闇之雲』武器商人(p3p001107)は笑う。
「我(アタシ)たちは、すぐに帝都に引き返して、このことを伝えないといけないからねぇ。
 こんなところで時間はかけていられない――楽に死ねるのだけは、感謝しておくれよ?」
 その言葉が――雪上に、ぴしりと空気を張り詰めさせた。刹那。それは弾けるように一陣の風を巻き起こして、そして包囲の中で、イレギュラーズたちを追い風の様に、跳びだたせた!

●雪・火
「敵は19。前衛が9,後衛が9。そしてリーダーが1」
 カティアが言う。
「隊列から考えれば、オーソドックスな動きをしてくる!」
「つっこむわ!」
 セレナが叫ぶ! 自身はほうきで低空を飛行、雪が舞い上がり奇跡を描く!
「まとめて、潰す!」
 普段よりも物騒な言葉づかいで、セレナがその手を振るった。巻き起こる、強烈な魔力の奔流! 前衛も後衛も関係なく、憎き敵をまとめて薙ぎ払う! そのままセレナは、ノンストップで敵陣に突っ込んだ!
「――、ね!」
 憎悪にらんらんと輝く瞳、その輝きをまるで打ち上げるように、その手を掲げた。狂・月。雪原に現れた満月は、そのルナの光で兵士たちを圧する!
「隊列を崩すな!」
 兵士が叫ぶ!
「マニュアル通りにやればいい! それが一番効率がいい」
「そうでしょうね」
 つぶやいた。
 オリーブ・ローレル。
「それが一番効率がいい。
 でも、自分たちはそれでは倒せない」
 踏み込んでいた。
 内部深くまで!
 死の間際にて、兵士の一人は述懐する。
 いつの間に入り込まれた!? あの魔女とともにか?! いつの間に、いつの間に、こんな深くまで!
 斬、と。その刃が、自分の命を奪うのを、男は自覚した。その冒険者に、今は慈悲などない。
「付け焼刃の効率で、想定外(イレギュラーズ)を御せると思うな」
「突っ込め!!」
 イグナートが叫んだ。
「さぁ! クズのやり口に乗っかるしか出来ない腰抜けたち!
 ちょっとでも恥を知るなら前に出てオレたちと殴り合ってみなよ!」
「かかってくるといい! 少しでも、お前たちに恥を知る概念があるなら――!」
 史之もまた叫ぶ。
「来い!」
 立ちはだかる、脅威! 前面に立つ者たち。そして内部から切り崩さんと攻撃を続ける者たち!
 なるほど、確かに敵――彼らは訓練された兵だ。元はならず者である彼らが、ここまで戦術と隊列の概念を理解したのは称賛してもよいだろう。
 が、そこまで。
 それ以上を研鑽するだけの克己心を、彼らは持たなかった。
 なぜなら彼らは奪う側だったから。
 ここまで、奪うことしかしてこなかったから。
 それでよかったのだ。
 今は違う。
 相対する想定外(イレギュラーズ)は、ただ食われるだけの獲物ではない!
 ましてや、その瞳に正しき怒りを燃やしているのならば。
「くそ! 近づいてきたやつから何とかしろ!」
 クラックスが叫ぶ。
 それは後衛を守るという意味でもあり、保身からくる焦りでもあった。
 いずれにしても、隊列を崩し、崩壊させたということは――想定外(イレギュラーズ)による想定(プラン)通りだ!
「ヒヒヒ、だめだねぇ」
 武器商人が笑う。焦るクラックスを包む闇から顔を出すように、その下卑た表情をあざ笑い、覗き込むように、武器商人はクラックスに『笑いかけた』。
「それじゃあだめだ。一軍の小の器じゃあないよ」
「なめ、るな!」
 クラックスが、大刀を振り下ろした。武器商人の体は捉えられない。彼のは斃れない。斃れない。そういうものだから。
「バケモノか……!?」
「そういわれるのも、大概になれてきたよ」
 ヒヒヒ、と笑う。恐慌に陥ったように刃を振るうクラックスに、しかし攻撃を仕掛けたのは瑠璃である。
「あなたに降伏を促す気はありません」
 ざくり、と、クラックスの肩に何かが突き刺さった。刃物か、と思った刹那に痛みが走る。忌々しげにそれを引き抜いてみれば、なんのことはない、シャープペンシルであった。
 こんなもので、俺を刺したのか?
 困惑する。
 これが、人を、刺した?
 瑠璃の修練の成果といえた。
 ペンは剣よりも強し。あるいは鉛筆一本で人は殺せる。それを文字通りに行えるのは、瑠璃の修練と技術の業である。
「ああ、あなたは随分と、ダーティな戦い方をしていたようで。
 降伏して見せるふりなど、お手の物でしょう。
 こんな寓話を知っていますか? 嘘つきの羊飼いの話です。
 年中嘘をついていた羊飼いは、本当に助けを呼ぶ声すら、嘘だと認識されて見捨てられるのです。
 まぁ、あなたは幼いゆえに過ちを犯した羊飼いではなく、なんといいますか。いい大人なのに悪党なのですから、救いようがないといいますかね。
 あきらめてください」
 す、と、再びシャープペンシルが放たれる。あざ笑う死神の狙撃が如きそれが、クラックスの腕に再び突き刺さった!
「くそっ!」
 瑠璃は冷静であり冷徹である。彼の射程内になどは入ることはあるまい。となれば、クラックスは自ら前に出なければならない。自ら、瑠璃に切り込むべきなのだ。だが――。
「――ッ!」
 息をのむ。目の前にいる闇がそれを許さない。闇――いや、何か恐ろしいものだ。武器商人と名乗るそれは、おそらく――そうやすやすとは、クラックスを逃すまい。
 確かに、イレギュラーズたちを包囲していた。絶対的に、優位なはずであった――だがそれは、あっという間に、イーブンの状態にまでは持っていかれていた。それこそまさに、想定外の事態ではあった。
「くそ! 何やっている! さっさと奴らを何とかしろ!」
 クラックスは指揮官としては無能であっただろうが、反乱の意志をくじく暴力装置としては十分に働いていた。それ故にこの時も部下はその命令に背くことはなかった。そしてそれ故に、部下たちには必死さ、があった。それは攻勢に出ていたイレギュラーズに、一定の損害を与える程度には、もえさかる――末期の炎ともいえた。

●決着
「くそ、くそっ!」
 兵士の一人が切りかかってくるのを、イグナートはスウェーの要領でよけて見せた。そのまま、反動をのせて、兵士の顔面をぶんなぐってやる。ぐえ、と悲鳴を上げて、兵士が倒れた。手加減をしたつもりはないが、死んだのを確認するほど暇ではない。
「シノ、キミは大丈夫かい!?」
 背中合わせにイグナートが尋ねるのへ、史之は頷いて見せた。
「まだまだ、だね。でも、さすがに必死ってところかな。勢いは激しい!」
 飛び込んできた銃弾を、史之は太刀で打ち落とした。
「けどね、それがどうしたっていうんだ? 俺の怒りはもっと激しい……こんな連中、許しちゃ置けない!」
「おなじキモチだね!」
 イグナートがそういう。実際に、彼らの心には怒りの炎はまだ燃え盛っていたのだ。
「狂月の光にもだえ――無残に朽ち果てなさい、外道」
 振りかざす手から放たれる満月のルナティックは、セレナの心にも同期しているように感じられた。強烈な圧力が、銃を持った兵士をついに打倒した。肩で息をしながら、次の獲物を見据える。
「アンタ達は、嘘をつき、戦う意思の無い人を利用した挙句、その人達の家族さえも見捨て殺した!
 魔物以下の屑が……その報いは受けて貰うわ!」
 それは、どうしようもない感情を吐き捨てるかのような声色だった。でも、
「充分です、一度下がってください」
「けど……!」
 オリーブの言葉に、セレナはかみつくように叫んだ。心のうちから吠える何かが、足を止めることを赦してくれない。
「怒りはもっともです。ですが冷静に……敵の陣形は壊滅状態。あとは掃討のフェーズです。
 ならば、既にダメージの大きい自分たちは、一度息を整えるべきです。
 敵の陣形を崩しても、こちらの作戦が崩れては意味がない」
 オリーブの言葉に、セレナの瞳にわずかに「いつもの様子」が戻った。はあっ、と強く息を吐いて、頭の中をクリアにする。
「そう、そうよね。ごめん。ちょっと頭を冷やす。
 カティア、サポートおねがい!」
「任せて!」
 カティアがうなづく。
「皆は引き続き、敵を圧していって!
 大丈夫、傷口は、敵の方が深い!」
 カティアの齎す祝福が、セレナの、オリーブの傷口をいやしていくの感じる。その光を背に受けながら、イグナートや史之は傷の痛みに耐えつつ、前線の敵兵士たちを抑えつつ、迎撃を行った。
「くそっ! なぜだ、何故斃れない――!」
 一方で、クラックスは必死の一撃を武器商人に食らわせた。その執念が、わずかに武器商人の本質をとらえたのだろうか。まぐれか奇跡か、なんにせよ必殺の一撃が、武器商人の体を捕らえたのは事実だ。
「おっと、さすがに遊びすぎたかな?」
 ヒヒヒ、とそれでも余裕を崩さぬ武器商人へ、
「下がるならどうぞ――もうあれの足止めをする必要もありませんからね」
 瑠璃が心配するように語る。
「そうだねぇ、お任せしようか。ねぇ、エゴロヴィチの旦那。
 それに我(アタシ)としても、夜守の魔女の様子を少し見ておきたいからねぇ」
「オッケーだ! 任せて!
 さぁ、オレたちがアイテだよ、クラックス!」
 イグナート、そして史之が飛び出す。抑え込むように、方や剣で、方や拳で、クラックスを攻撃!
「くそが! なんなんだよ! 黙ってやられてればいいだろうが!」
「奇遇だね、同じ気持ちだよ!」
 史之が太刀を振るい、クラックスを押し返した。ぐ、とクラックスが体勢を崩すのへ、瑠璃のシャープ・ペンシルが音もなく飛来し、その太ももに突き刺さる。
「くそおっ! くそっ! テメェもさっきから……!」
「戦法が気に入らないのでしたら、御気の毒ですね。
 ですが、あなたの戦い方も相当嫌われていたのでしょう? お互いさまということで」
 しゅっ、と解き放たれたシャープ・ペンシルが、再びクラックスの足を貫いた。縫い付けるような一撃が、クラックスの足を鈍らせる――。
「おわりだ!」
 殴りつけたのは、イグナートだった。強烈な拳の一撃が、アッパーカットの要領であごに叩き込まれる。ばきり、と顎を砕くような音が聞こえた。その衝撃は、おそらく体中を駆け巡る強烈なそれとなって、その意識を完璧に刈り取っただろう。
 げぶ、と断末魔の悲鳴を上げて、クラックスは雪の中に倒れ伏した。あたりを見てみれば、すべての敵は同様の様子で、雪上にその体をだらしなく投げ出していたのだ。
「終わったか……」
 史之が歯噛みするように言った。
「終わった……けど……ああ、くそっ」
 頭に手をやって、その髪をかきむしる様につかむ。戦いは終わった……ただ、命はすでに失われていたのだ……。
「とりあえず、情報収集を行います」
 場の空気を冷静にさせるように、瑠璃が言った。
「こいつらの生き残りを探すの? だとしても重要な情報は持っていないと思うけれど……」
 カティアがそういうのへ、瑠璃は笑った。
「……死者から聞くことのできるものもあるでしょうからね。弔いも、必要でしょう?」
「手伝うわ」
 セレナが言った。
「手伝う。何かしていないと……」
 肩を落として言うセレナに、瑠璃はうなづいた。
「ええ。では、よろしくお願いします。
 オリーブさんとイグナートさんは、念のため、警戒をお願いできますか?」
「はい、そのくらいなら」
 オリーブが頷いた。
「ですが、できるだけ早く帝都に戻る必要があります。
 こちらの派閥も、新皇帝派も、皆決戦に臨む時期です。
 なるべく早く、この情報を持ち帰り、フラウリッテさんの部隊に話をつけたい」
「そうだね。彼らを説得して避難させるにしても、リハンさせて戦いを手伝ってもらうにしても、あんまり時間はないはずだよ」
 イグナートの言葉通りだろう。決戦は近い。ならば、もたついてはいられまい。
「そうだねぇ。この情報、うまくすれば一つ、こちらに有利にもなる」
 武器商人が言うのへ、セレナは少しだけ苦い顔をした。
「結局、利用しなきゃいけないのはこちらも同じなのかしらね……」
「そうだとしても、正しいことなんだと信じたい」
 カティアが言った。
「じゃなければ……受け止めきれない……」
 そういうのに、誰もがうなづいた。悲しい現実を、しかし戦い、打破しなければならないのだ。
 戦わなければ――我らに、未来はない。
「こんなことをしても命は帰ってこない。そんな事は分かってるの」
 セレナはそういって、空を見上げた。
「でも、それなら……この感情は、どうしたらいいの?」
 灰色の空は、ちらつく雪だけを地上に落として、セレナの問いに答えてはくれなかった。

成否

成功

MVP

セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 この情報を受けて、帝都の新時代英雄隊の一部に動きがみられています……。

PAGETOPPAGEBOTTOM