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シナリオ詳細

<昏き紅血晶>ポールスターの災難。或いは、“法を守る銀の騎士”…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ポールスターへの来訪者
 ラサ、南端の港街。
 “ポールスター”の執政官に、2人の女が跳び込んで来た。
 カウボーイスタイルの細身の女たちである。
 執務室の扉を蹴破る勢いで、彼女たち……アン・バゼットとメアリー・バゼットという名の彼女たちは部屋へ跳び込み、窓の外を指さし叫ぶ。
「おい、ラダ! トラブルだ! 鉛弾の出番に違ぇねぇぜ!」
「“法を守る銀の騎士”とか、名乗る連中がやって来ています!」
 慌てた様子……というには、少々凶悪な顔をしている。鉄火場の気配を察して、気が昂っているのだろう。許可さえあれば、すぐにでも腰に下げた拳銃へ手を伸ばしそうな勢いだ。
 帳簿に目を通していたラダ・ジグリ(p3p000271)は、眉間に皺を寄せてペンを机においた。
「今はジョージの旦那が相手をしてるけどよ、連中きっと厄ネタだ! 撃っていいか?」
「真面目な商会員の真似事ばかりしていると、どうにもストレスが溜まります」
 喧嘩腰である。
 だが、それも当然だ。
 港町“ポールスター”と、件の“法を守る銀の騎士”という連中には、ちょっとばかりの因縁があった。“ポールスター”の発足にあたり、港の利権を巡って多少、争ったという経緯があるのだ。
 しばらく音沙汰がなかったが、どうにもまだ連中は港の利権を狙っているらしい。
「却下だ。まずは話を聞いて……ドンパチはその後に決まっている」
 それとお前たちは決して“真面目”ではない。
 そう言い置いて、ラダは壁に立てかけていた自身の得物を手に取った。
「この場は任せる。執政館には誰も近づけないでくれ」
 
 ポールスターの街の外れにずらりと並ぶ騎士団がいた。
 銀の重鎧を身に付けた男たちで、その数は実に20人。ジョージ・キングマン(p3p007332)をはじめとしたポールスターの面々が、騎士団の前に壁を作ってその進行を防いでいるのが現状だ。
「あれか……得物は剣と槍。弓無し、銃無し、馬無し、と」
 少し離れた位置から騎士の様子を窺い、ラダはポツリと言葉を零す。様子を見に出張って来たが、対応はジョージに任せておけば問題はない。
 そもそもラダは狙撃手だ。前線に出張るより、少し後ろで息を潜めて、ライフルを構えている方が役に立つ。相対している連中が、味方でないと分かっている場合はなおのこと。
「さて……どういう風な厄介ごとだ? 次第によっては容赦はしないが」
 ライフルに弾を装填しながら、ラダは小さな溜め息を吐いた。

「だから“無ぇ”って言ってんだろうが。うちの港が“紅血晶”の流通に関係しているなんて根も葉も無いような噂に踊らされて、こんなとこまで遥々ご苦労さんだったな」
 紫煙を燻らし、ジョージは告げる。
 相対するのは、騎士の中でもひと際大きな体をしている、いかにも“生真面目”そのものといった風体の男だ。名は確かジャン・パトリックと言っていたか。
「“紅血晶”の流通に関係していないというなら、捜査ぐらいさせてくれてもいいだろう。悪党は決まってそう言うのだ……“うちは何も関与していない”、“証拠を揃えて持ってこい”とな」
「そりゃ当然だろう。何が悲しくて、敵か味方か分からぬような見知らぬ他人を、好き好んで自らの懐に招き入れるような真似をしなけりゃならん?」
 パトリックの足元に、ジョージは煙草の吸殻を投げた。
 馬鹿にされた、とそんな風に思ったのか、パトリックは顔を顰めて、槍を握る手により一層の力を込めた。かなりの怪力と見て取れる……金属製の槍の柄がミシと軋んだ音を立てる。
「あれは危険な代物だぞ? 隠し立てするのなら、きっと酷いことになる」
 ラサで流行り始めた宝石……“紅血晶”は美しい。そして、それ以上に怖ろしい。所有者を徐々に怪物に変えるという性質についても、既に広まり始めているか。だが、それでも美しい宝石を求めようと、貴族などが大枚叩いて買い漁っていると聞くから始末に負えない。
 果たして真に怖ろしいのは、“紅血晶”か、それとも人の欲望か。
「覚悟をしておけ。我ら“法を守る銀の騎士”は、決して不正を許しはしない」

●“騎士”を名乗る者のやり方
 “法を守る銀の騎士”という騎士団は、ラサの一部で精力的に活動している“騎士を名乗る自警団”といった風な組織である。
 彼らは正式に騎士としての位を持ってはいない。傭兵の一部が、他国を真似して「騎士団」を名乗っているに過ぎない存在だ。
 だが、一部の地域では彼らの存在が治安の維持や法の整備に役立っているというのも事実。
 それと同時に、暴力による過剰な制裁や、高い税の取り立てといった悪評も聞くが……つまり彼らの狙いはきっと、ポールスターの利権であろう。
 税金を取り立てるための、新たな餌場の1つとして、彼らはポールスターに狙いを付けたのだ。

「と、おそらくはそんなところだろうな。うちが“紅血晶”の流通に関与しているってことだが、まぁ、連中がそう言うのなら“きっとそうなる”んだろうぜ」
 執政官の前庭で、紫煙を燻らせジョージは言った。
 現在、“法を守る銀の騎士”たちは、一時的に退いている。その際、パトリックが浮かべていた嫌な笑顔が、ジョージの脳裏に張り付いていた。
「連中の狙いは港の利権……私たちが危険な“紅血晶”の流通販売に関与していたという証拠を掴んで、港の運営権を取り上げようという魂胆だろうな」
 そのためには『ポールスターの倉庫かどこかに“紅血晶”が備蓄されている』必要がある。
 それを事実とするためには『ポールスターの倉庫かどこかに“紅血晶”を備蓄する』必要がある。
 つまり、マッチポンプというやつだ。
 捜査の過程で調べた場所に『自分たちで“紅血晶”を運び込み、自分たちでそれを見つける』という算段に違いない。
「連中、装備がいいな。【失血】【封印】【致命】あたりか」
「馬がいなかった。小回りが利かないからだろうな」
 馬は足が速い。けれど目立つし、小回りが利かない。
「夜か?」
 ジョージが問う。
「夜だろう。夜襲をかけて、混乱に乗じて別動隊が“紅血晶”を運び込み、それを連中が発見する手筈……じゃないか?」
 ラダが答えた。
 場合によっては、混乱に乗じて執政官の実力支配にまで手を伸ばすかもしれないが、やっていることは結局同じだ。
 つまり、これは戦争だ。
「“法を守る銀の騎士”たち本隊の抑えと、工作員の捕縛……その2点さえどうにか出来ればいいか?」
「あぁ、それで問題はないだろう。ジョージの方で人は呼べるか? それともローレットに話を回すか?」

GMコメント

●ミッション
“法を守る銀の騎士”を港町から追放すること

■ターゲット
・法を守る銀の騎士(本隊)×20
治安維持、悪人の捕縛、法の整備などを担う秩序の番人たち。
街の治安維持に長ける。一方で暴力による過剰な制裁や、高い税を住人に課すこともある。
代表者はジャン・パトリックと名乗る騎士であり「すべての不正を許しはしない」と宣っている。
構成員は戦闘に長けており、その攻撃には【失血】【封印】【致命】が付与される。

・法を守る銀の騎士(工作員)×?
騎士団の別同部隊。
倉庫や執政官、或いは重要施設に相応の量の“紅血晶”を運び込もうとしている者たち。
本隊の夜襲と同時に行動を開始するものと予想される。

●フィールド
ラサ南端の港町“ポールスター”。
海の近くにあるため、家屋の背はあまり高くないようだ。
船の停泊した港。
港の近くには、執政館や商品倉庫区画。
学者たちの住まう研究所区画。
住人たちの居住区画や、商店街といった施設がある。
昨年出来たばかりの港町であるため、街の各所は未だ工事中。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <昏き紅血晶>ポールスターの災難。或いは、“法を守る銀の騎士”…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
トスト・クェント(p3p009132)
星灯る水面へ
ロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す
ファニー(p3p010255)

リプレイ

●ポールスターの災難
 時刻は夜。
 ラサ南端の港町。
 ポールスターの港の外れ、停泊している船の影に数名の人影がある。
「騎士団はジョージ達に任せ、私はモカやルナと共に工作員捕縛を目指す。そこで皆には倉庫や執政館周辺の警邏を頼みたい。あぁ、怪しい者を見かけても、決して近づかないように。警邏ルートにはワザと隙を作り特定の倉庫へと誘い込みたいんだ」
『天穿つ』ラダ・ジグリ(p3p000271)は声を潜めてそう言った。船の影に集まっているのは街の住人たちである。例えば商会の部下や街の発展に尽力してくれている学者たちだ。
「誘い込みなんてまどろっこしいことしてねぇでさぁ、見つけ次第、弾丸をぶち込んでやればそれで解決するんじゃないかい?」
 集まっていた者の中から、そんな声が上がる。
「いや、それじゃあ殺してしまうかもしれない。それに、連中は“紅血晶”を所持している可能性が高いからね。近づくのは危ないかもしれないんだ」
 肩を竦めて『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)はため息を零す。
「“法を守る銀の騎士”って集団は、法は守るかもしれないが、倫理は守らないんだよ」
「あぁ、モカの言う通りだ。だが、捜索やら伝達役やら、あとは抑えた騎士連中をふんじばって見とくのまかせんのもありかもしれねぇな」
 モカの言葉を『探す月影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)が引き継いだ。住人たちのほとんどは、ラダやモカの話を聞いて自分の役割を十全に把握したようだ。
 けれど一部の、血気盛んな者たちには、若干の不満があるらしい。
「そういう命令なら……まぁ、仕方ねぇか。仕方ねぇか? 不審者撃って、何か悪いか?」
「誘い込んでその後は? その後はどうするんです? 撃ちますか?」
 作ったばかりの港町だ。何かと物騒なことの多いラサの住人だ。血の気が多くて、纏める側も大変なのだ。モカとルナの何か言いたそうな視線を無視したラダは「とにかく」と一言置いて、話をまとめた。
「誘い込んで……後は私達がやる。皆、頼りにしてるぞ」

 同時刻、ポールスターの入り口付近。
 横一列に並んだ5人の人影が、砂塵を巻き上げラサの砂漠を突き進んでくる騎士の一団を睥睨していた。
「おぉ、本当に来やがった。そういう手段を取ると言うなら、宣戦布告と見て良いんだろうな」
 咥え煙草に火を着けながら、『絶海』ジョージ・キングマン(p3p007332)がそう言った。誰かに問うたわけでもないが、『キミと、手を繋ぐ』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)が返事を返す。
「騎士というものがそのようになるとは片腹痛いというかなんというか。まぁ、傭兵らしいといえば傭兵らしいのでありましょうな」
 軍人らしく、ハイデマリーは直立の姿勢を崩さない。まっすぐに背筋を伸ばし、胸を張って騎士団たちを見据えていた。
「あれが“法を守る銀の騎士”ですか。はてさて……紅血晶を縄張り争いに利用して、そこまで港に執着する理由はなんですかね?」
 騎士たちの目的は、ポールスターの実権だ。ロウラン・アトゥイ・イコロ(p3p009153)は騎士団と街の様子を交互に見比べて「さて?」と首を傾げて見せる。
「紅血晶に魅入られたひとがどうなるのか、知らないわけじゃないだろうに、どうしてそんな回りくどいやり方に使うのかな」
『星灯る水面へ』トスト・クェント(p3p009132)も同様に“法を守る銀の騎士団”のやり口には納得がいっていないようである。
 ともすると、港の権利を横取りする気さえ無いのではないか、とそんな風にさえ思えて来る。例えば“紅血晶”を口実にポールスターに攻め込むことや、“紅血晶”を使ってポールスターに混乱をもたらすことが目的なのではないか。
 トストはそんな考えに至る。
 一方、『スケルトンの』ファニー(p3p010255)は騎士たちの思惑になど興味無い様子である。苛立ったように爪先で地面を蹴りつけて、被っていたフードを脱ぎ捨てる。
「どうだっていいさ。ただ、やり口が気に入らねぇ。法を守るってことは、法に縛られ、そして法に裁かれる覚悟があるってことだよな? さてその矜持、どこまでが本物かな?」
 顕わになるのは、白骨そのものといった頭部だ。
 ファニーの顔を視認したのだろう。騎士たちのうち数人が、ほんの一瞬、足を止めた。
 だが、ざわついたのはほんの一部だ。騎士の大半は、ファニーの顔がどんなだろうと構うことなく、まっすぐにポールスターへ向けて突き進む。
「手段を選ぶなら交渉の余地はあったが、仕掛けてくると言うなら、徹底的にやらせてもらおう」
 紫煙を吐き出し、ジョージは告げる。
 騎士団とイレギュラーズが接触するのは、これより数分後のことだ。

●“法を守る銀の騎士”たち
 ジャン・パトリックは騎士である。
 正義の御旗のもとに、規律を何より重んじる法の番人である。
 そんな彼が組織より受けた命令はこうだ。
『ポールスターへ向かい、“紅血晶”の流通に関わる証拠を掴んで帰還せよ』
 場合によっては、ポールスターでの要人殺傷や市民の捕縛も許可すると。“法を守る銀の騎士”の上層部はパトリックたちの部隊へ上記のような命令を下したのである。どうやら上層部は、“紅血晶”の流通にポールスターが関与していることを確信している風だった。
 聞けば彼ら“ポールスター”の要人たちは、“法を守る銀の騎士”による治安の維持を以前にも断ったことがあるという。法の番人の関与を断るということはつまり、探られては痛い腹があると宣言しているのと同義である。
「我らの案内を……という顔ではないな」
「あぁ。俺はこの街の頭だ。頭が右に左にと、ぶれてちゃ体や手足が困る」
 パトリックの目の前で、ジョージは煙草に火を着けた。その間も、睨み殺すような鋭い視線はパトリックから逸らしはしない。
「法を守る銀の騎士なら、法に従ってもらおうか。ここは俺とジグリ嬢が再建した街だ。当然。この街のルールも、俺達が制定したからな」
 ジョージの言葉を耳にして、パトリックは僅かに歯噛みした。
 ジョージの言葉を継いだのはロウランだった。
「我々はローレット、紅血晶疑惑の調査に来ております。協力し、立ち去るなら結果は教えますよ?」
 ロウランは問う。
 パトリックは何の言葉も返さない。
 パトリックが腰から下げた銀の剣へと手をかける。鞘のうちで刃が擦れる音がした。これ以上、抵抗をするようなら剣を抜く。実力行使も辞さないという言外の警告。だが、ジョージやロウランがその程度で怯むことはない。
「ほほう、ラサの実質的な当主ディルク、その元相棒たるレオンのギルドでさえ、騎士さんたちは信用に足らないというのですね?」
「ジョージ、こいつら話にならねぇ。得物をちらつかせりゃ、誰もが大人しくなると思っている類の連中だ」
「然り。軍人とは似ても似つかぬところでありますな」
 ファニーは肩を竦めて、ハイデマリーは鼻で笑って、騎士たちを挑発してみせた。統率の取れた騎士団だ。その程度の挑発に乗って剣を抜くことは無いが、明らかに苛立った様子を見せている者たちも多い。
 パトリックは、剣を握る手に力を込めて告げる。
「もう1人の代表はどこだ? 臆して逃げ隠れているか?」
「あん? 何言ってんだ、あんた」
 ジョージは肺に溜めた紫煙を吐き出した。
 燻る紫煙を目で追って、ジョージは言う。
「役不足だってよ。もっと偉い奴らを連れて出直して来いよ」
 その一言は、まさに“白い手袋”である。
 喧嘩を売った。
 喧嘩を売られた、とパトリックは正しくジョージの意図を理解した。
 ゆえに彼は剣を抜く。
 己の正義を成すために、彼は銀の剣を抜く。
「総員、抜剣! これより正義を執行する!」
 一体、何人の騎士たちがその一言を待っていただろう。「応!」と気勢を吐いた騎士たちが一斉に剣や槍を抜いた。
 それと同時。
 ごう、と空気を押し退け、膨大な量の水が辺りに降り注ぐ。
 まるで海をひっくり返したかのようだ。
 虚を突かれたのか、騎士たちは思わずといった様子で足を止めた。
「悪いけど、ここから先は通さないよ!」
 水を撒いたのはトストである。
 ぬかるんだ地面を、サンショウウオの脚で踏み締め静かな声で警告を発した。
 淡々と。
 囁くようなトストの声は、誰の耳にも確かに届いた。

 夜闇に紛れて、こそこそと街を行く者がいた。
 一見して旅の商人のような服装をした、ありふれた容姿の男たちだ。馬車が1台。御者席に2人と、馬車の護衛に3人の合計5人。
 腰には護身用らしい安物の剣を差しているが、柄の部分はきれいなものだ。実戦に使った形跡はない。
 ガタゴトと音を鳴らして馬車が進む。
 ポールスターではよく見かける光景だ。
「馬車の車輪も、連中の靴もきれいなものだ。護衛を含めた全員の剣に、使用された形跡がないのもおかしい。その割に体は鍛えられている……と。決まりだな」
 屋根の上に身を伏せて、モカは商人らしき男たちの様子を観察していた。1つ、2つと彼らが怪しい証拠を述べて、別の場所に潜伏しているラダやルナへと言葉を投げた。
 ルナは大通りの影から、ラダは倉庫の2階部分からモカの方へと目を向けている。
「自作自演をしてまで、他人の利権が欲しいか……俗物どもめ」
 やがて、およその予想通り、馬車は倉庫の前でゆっくりと車輪を止めた。
 彼らはきっと、今頃「作戦が上手くいった」と、そんな風に思っていることだろう。ポールスターの警備隊を出し抜いて、見事に積荷を倉庫へ運び込んだものと思っているだろう。
 だが、それは間違いだ。
「頭の弱い連中にも分かるように、喧嘩売る相手を間違えたって身体で覚えさせてやろうや。証拠も抑えて、な」
 ルナが唸るように吠えた。
 足音を殺してルナが移動を開始する。
 モカもまた、急ぎ屋根の上から降りた。

 暗闇の中に炎が灯る。
 ギィ、と重たい音がして倉庫の扉が閉じ切った。
 馬車の荷台に被せられていた幌が払われ、幾つかの木箱が顕わになった。男が2人、木箱の1つを持ち上げて倉庫の奥へと運んでいく。
 と、その時だ。
 銃声が1発。火薬が爆ぜて、硝煙の香りが漂った。
「っ!?」
「なんだ!?」
 銃弾が撃ち抜いたのは、男たちの持つ木箱であった。木箱の側面が砕け散り、血に濡れたような真紅の宝石が床に散らばる。
「決まりだな。罪をでっち上げようとは大した騎士道じゃないか!」
 ライフルのストックを肩に押し付けたままの姿勢で、ラダは声を張り上げた。男たち……“法を守る銀の騎士”の工作員たちの視線がラダへ向いた。腰の剣を引き抜いて、突き刺さるような殺意をラダへ差し向ける。
 並みの胆力なら、その視線だけで気圧され戦意を失っていたかもしれない。
 けれど、ラダは“並み”ではない。そんな町娘のような胆力では、商会長などやっていられない。
「っ! 撮られているぞ! カメラを奪い取れ!」
「“紅血晶”はそのままでいい。カメラを奪い取って、あの女を斬れ! それですべて予定通りだ!」
 騎士たちが一斉に剣を振り上げ駆け出した。
 相手はラダ1人。いかに腕が立つとはいえ、5人かかりなら容易に斬れる。
 そんな工作員たちの思惑は、たった1手で覆された。
 扉が開く。
「開けたぞ! 行けるか!?」
 モカの声が暗闇に響く。
 次の瞬間、扉の隙間から黒い疾風が倉庫の中へと吹き込んだ。否、疾風ではない。それは獣の四肢を持つ、黒い肌の偉丈夫だ。
 一撃。
 鈍い音がして、男の1人が床を転がる。
「これ使ってどうするつもりだったんだろうなぁ? あ゛?」
 ライフルで、男の側頭部を殴打したのはルナである。片手に赤い宝石を持ったルナは、狂暴な笑みを男たちへと向けた。
「他人の不正は許さないが、自分の不正はノーカウントか……そういうのはダブルスタンダードと呼ばれるんだ」
 さらに1人。倉庫に入ると、モカは扉を締め切った。

●騒乱の結末
 魔弾が騎士の脚を射貫いた。姿勢を崩して地面に倒れた騎士の鎧が、泥水で斑に染め上がる。慌てて騎士が身を起こすが、その手をトストが踏みつけにする。
「ぐっ……!?」
「おっと。駄目って言ってるのに無理に入るのは不法侵入じゃないの!?」
 トストの全身は血に濡れていた。
 先手を取ったとはいえ、20人もの騎士を相手にしては無傷とはいかない。
 顔を濡らす血を拭い、トストは熱い吐息を零した。その背後から、闇に紛れて騎士の1人が回り込む。
 足音を殺して近づく騎士が、おもむろに剣を高く振り上げた。
 大上段からの一閃。
 銀の剣がトストの背を斬り裂く寸前、その後頭部を一条の流星が打ち据える。へこんだ兜が地面に転がり、白目を剥いた騎士が大地に倒れ伏す。
「死にたくなけりゃ地に伏せてろ。おまえたちは頭上の星々を見上げることすら許されない」
 地面に膝を突いた姿勢でファニーが吠えた。白い骸骨は、すっかり砂に汚れている。
 騎士たちはファニーを魔物の類と認識したのだろう。
 執拗に攻撃を受けた結果だ。
 だが、ファニーは戦意を失っていない。
 ファニーが空へ向かって両の手を翳した。
「こいつら連携取るのが上手ぇぞ。そういつまでも留めておけねぇ!」
 展開される魔法陣。
 降り注ぐ無数の流星が、砂煙を巻き上げる。

 騎士の剣がロウランの肩を深く抉った。
 ロウランは虚空に指先を走らせる。指先を濡らすインクでロウランは虚空に魔法陣を描く。放たれる不可視の刃が、騎士の全身を斬り裂いた。鎧を着こんでいるおかげか、騎士の負った傷は少ない。
「不殺の技を敢えて選んでいます。こちらの意は汲んでもらいますよ?」
 これで7人。
 半数近くの騎士は既に戦闘不能に陥ったが、ロウランたちの方にも大して余裕がないのが現状だ。

 ハイデマリーの銃弾が、騎士の膝を撃ち抜いた。
 激痛に泡を吐きながら、騎士が地面を転がっている。銀の鎧は砂に汚れ、剣さえも握っていない、無残な姿だ。
 騎士の中でもとくに若い男である。思えばこの男、最初の邂逅から浮足立っていたように思う。部隊長のパトリックは歴戦の騎士といった佇まいであったが、この若い男はそうじゃない。
「すべての不正を許しはしない のなら見て見ぬふりもできないでありましょうな?」
 物見櫓の上に陣取ったハイデマリーは、冷たい瞳で若い騎士を見下ろしていた。
 ライフルの銃口が騎士の頭部に向けられる。
 痛みに藻掻く騎士は、自分を狙う白い銃口に気が付いただろう。男の顔色が急速に青ざめる。慌てて身を起しながら「待て!」と、彼は口にした。
「俺たちに手を出してただで済むと思っているのか!? い、今ならまだ情けを賭けてやることもできるぞ!」
 交渉か、それとも脅しのつもりだろうか。
 これみよがしに溜め息を零し、ハイデマリーは淡々とした言葉を吐いた。
「偶にいるんでありますよな、俺たちが法だみたいな輩」
 細い指が、トリガーにかけられる。
「私が矯正してあげようか?」
 銃声が1発鳴り響き、若い騎士は気を失った。
 空へ向けたライフルの先から、白い煙が立ち上る。

 拳と拳の打ち合いだ。
 剣を失ったパトリックと、ジョージが殴り合っているのだ。
「悪は罰されなければならない。“紅血晶”の流通に関わっているのなら、貴様たちは法のもとに裁かれねばならない!」
 殴打がジョージの頬を打つ。
 ジョージの拳が、パトリックの腹を打ち抜いた。
「法を守るというなら、俺は法に抗ってても街を守るのが責務だ!」
 パトリックの体が浮いた。
 鍛え抜かれた騎士の巨体が浮いたのだ。
 骨の軋む音がする。ジョージの拳がパトリックの顔面を打った。
 渾身の殴打だ。
 パトリックは踏鞴を踏んで、けれど倒れる寸前でどうにか意識を繋ぎ止めた。
 けれど、負ったダメージが大きい。もはや立っているだけで限界といった有様だ。
「これはお前たちが仕掛けて来た戦だぞ!」
 パトリックの顔面へ、ジョージが拳を叩き込む。
 その刹那。
「そこまでだ! 双方、得物を収めてもらおう!」
 戦場にラダの声が響いた。

「さて、そろそろ、あなたたちの不正を明るみに出しましょうか? ええと、何でしたっけ? 我々はすべての不正を許しはしない、ですよね?」
 運び込まれた1台の馬車と、捕縛された5人の男を見下ろしながらロウランはそんなことを言う。
 男たちはすっかり意識を失っている。
 騎士のうちの何人かが慌てた様子で男たちに駆け寄ろうとした。だが、モカとルナに押し留められ、近づくことは叶わない。
 現在、ラダとジョージ、パトリックは撮影された映像を見ながら交渉中だ。
「このマッチポンプ自体もなんかの法律に引っかかるんじゃないの?」
 と、トストは言った。
 騎士たちから返事は無い。何も言い返せないのだ。
 それから暫く……。
「撤収だ。確認しなければいけないことがある」
 パトリックは撤収を宣言した。工作員たちは拘束されたままだ。
 謝罪は無い。けれど、証拠を提示された以上、ポールスターに攻め込む正当な理由もない。
 悔しさと困惑を滲ませながら、騎士たちは街を去っていく。
 その背中を見送りながら、ラダは押収した宝石をどう処分すべきか、頭を悩ませるのであった。 

成否

成功

MVP

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽

状態異常

ジョージ・キングマン(p3p007332)[重傷]
絶海
トスト・クェント(p3p009132)[重傷]
星灯る水面へ
ファニー(p3p010255)[重傷]

あとがき

お疲れ様です。
騎士たちは、工作員を拘束したままポールスターから撤収しました。
騎士たちの思惑を潰すことに成功しました。
依頼は成功となります。

この度はご参加いただき、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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