PandoraPartyProject

シナリオ詳細

しょこらとるパーリー

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●きっかけ
「見てほしいのよ!」
 ハーモニアのキルシェ=キルシュ (p3p009805)が、ばあ~ん! って感じで雑誌の切り抜きを取り出した。ここは深緑のローレット支部。窓からはさんさんと日の光がこぼれ落ちてくる。
 ふんすと胸を張っているキルシェに、蜻蛉 (p3p002599)はちょっと困った笑みを浮かべた。
 そんなに自信満々に掲げられても、切り抜き自体が小さいうえに、フォントもちっさいので、ぜんぜん読めないのだ。
「貸してくれはる?」
「もちろんなのよ、蜻蛉ママ」
 キルシェは喜んで蜻蛉へ手渡した。
「えーと、なんやろ。フォンデュの森?」
「観光名所なのよ!」
「名所案内の記事なのかしら」
 お茶の準備をしたネーヴェ (p3p007199)が微笑んでみせた。ほんのりと。彼女は両足を、とある事件を経て、失ってしまった。また、体調も思わしくない。けして本人はそう見せないが、蜻蛉とキルシェはよーくわかっていた。彼女の、言いだしたら聞かないところも含めて。
【魔法使いの弟子】リリコ (p3n000096)が、今日のお茶の葉をネーヴェへさしだす。ネーヴェはゴールデンルールに則って紅茶を入れていく。ティーカップに濃い紅の海が広がるつど、フランボワーズの甘酸っぱい香りがたちこめた。
「んん~、ええ香り。お茶請けがほしくなるなあ」
「それならフォンデュの森へ行くの!」
 ほっこりと笑みを浮かべる蜻蛉に、キルシェが元気よく進めて、ネーヴェの視線にからめとられる。
「フォンデュの森とは、どんなところなのでしょうか?」
 その問いを受けて、リリコの大きなリボンがさやさやと揺れた。
「……深緑、キルシュ領からすこし歩いたところにある小さな森。グラオクローネの時期にだけチョコレートフォンデュのような樹液を流す樹がある」
「そう、そうなの! よく知ってるのよ! えらいえらい!」
 キルシェがリリコをぎゅうってした。ちんまりして華奢なキルシェよりも、さらに一回りリリコは小さい。体温も低くて、まるで陶器のお人形を思わせる。
「森の真ん中に空き地があるのよ。そこでみんなでチョコレートフォンデュをするのよ。だってグラオ・クローネなんだもの!」
 ネーヴェと蜻蛉が顔を見合わせる。
「おいしそうですね。行ってみませんか?」
「せやったら、うちはお菓子を用意しよか。カステラに、ウエハースに、ナッツに……」
「でしたら、わたくしはおなかがふくれるものにしましょう。ワッフルやクロワッサン、そうそう、パウンドケーキを焼きました。あれも食べ頃です」
「ルシェはフルーツを用意するのよ、まかせて! リチェといっしょに集めてまわった朝採れフルーツがそろってるのだわ」
 リリコさんも行くのよ、と、キルシェはひまわりみたいににっこり笑って、リリコを再度ぎゅってした。

●深緑 フォンデュの森にて
「ええお天気やねえ、リリコさん」
「……とっても、ぽかぽか」
 箒へ腰掛け、ひるるとかすかな飛行音をさせながら、リリコは3人へついて行っていた。
 先頭にはジャイアントモルモット、リチェルカーレ。その上に、キルシェが乗っている。
「ついたのよ。ここが空き地なのだわ」
「チョコレートの甘い香りがします」
 ネーヴェと蜻蛉がかわいらしいレジャーシートを敷いてフォンデュセットを並べ、バスケットの蓋を開けた。
「それじゃー、森の木さん、ちょっとごめんなさいなのよ、えいっ」
 キルシェが木を傷つけると、とろりと樹液が流れ出した。色も香りもほかほかっぷりまで、チョコレートフォンデュにそっくり。それを鍋いっぱいに受け取ったキルシェは、笑顔で森の木へお礼を言い、幻想福音を施すと、樹液はぴたりと止まった。
「それじゃ、フォンデュの森パーティー、始めるのよ!」
「ちょい待って、キルシェちゃん。フルーツの籠は?」
「えっ?」
 えっ? えっ? えっ?
 蜻蛉、ネーヴェ、リリコの順番で、微妙にニュアンスの違う「えっ?」が唱えられた。
「フルーツはキルシェちゃんの担当やろ?」
「あ、あは、あははは~」
「忘れちゃいました? 朝採れフルーツ」
 冷や汗ダラダラ、キルシェは青い顔をしている。悪気はまったくないようではあるけれど。
「昨日は、あんまり楽しみで、ぜんぜん寝れなくって、寝坊しちゃったのよ……」
 起きたらもう集合時間だったものだから、フルーツのことは頭からスッポ抜けて急いでやってきて、そのままになってしまったらしい。
「それやったらお菓子とパンとケーキだけにする?」
「すこし、もったいないかもです。やはりチョコレートフォンデュには果物が欠かせません……」
 ネーヴェが垂れうさ耳をさらにしょんぼりとさせる。
「だ、だいじょうぶなのよ! この森ではいろんな果物が採れるのよ! まず、蔦イチゴ!」
「……蔦状植物になるイチゴの仲間。甘味が強くて、おいしい」
 拳握りしめて力説するキルシェのとなりで、リリコがぼそぼそとつけくわえていく。
「どっかんバナナ!」
「……低木のバナナの一種。ラフレシアより大きな、黄色い花が咲いているようにみえる。香りがいい」
「しゅわっとオレンジ!」
「……この森でしか手に入らない、炭酸を含んだ喉越し爽やかなオレンジ」
「サウザンドグレープ!」
「……小指の先程のぶどう、房はこじんまりとしていて見落としやすい。旨味が凝縮されていて栄養価が高い」
「ふんわりマンゴー!」
「……なぜか鳥の羽がはえているマンゴー。熟したものは空を飛んで移動し、遠くまで種を届ける」
「味はどれも一級品なのよ!」
「ほほう」
 蜻蛉がきゅぴんって目を光らせた。
「つまり、探してきたら、おいしいフルーツがそろうわけやね?」
「ふんわりマンゴー、気になります」
 ネーヴェがさっそく立ち上がった。森の中はほどよく整備されていて、ネーヴェも自由に動けそうだ。
「なら、みんなでフルーツ狩りして、あらためてフォンデュパーティーなのよ!」

GMコメント

みどりです。ご指名ありがとうございました!

やること
前半)フォンデュの森でフルーツ狩り
後半)チョコレートフォンデュパーティー
プレは50:50くらいがちょうどいいでしょう。このシナリオでは戦闘が起きません。

●戦場? フォンデュの森
木漏れ日がすがすがしい森の中です。森は人の手が入っているため、ペナルティのたぐいはありません。
まだまだ冬ですし、フローズヴィトニルの影響でちょっと北風が寒いかもしれません。あったかくしておいでやし。

●ターゲット
 蔦イチゴ 木の幹に巻き付いているイチゴ 目立ちにくい
 どっかんバナナ 地面にどかんと咲いている花状のバナナの木 香りがいい
 しゅわっとオレンジ 見た目は普通のオレンジ フォンデュの森名産品
 サウザンドグレープ こじんまりとしたぶどうの房 おいしいが見落としやすい
 ふんわりマンゴー なぜか鳥の翼がはえており、低空をゆっくりふわふわ飛んでいる
 普通に歩きまわっているだけで、だいたい手に入りますが、人数分の量をコンプリートしようと思ったら、手分けして非戦を活用したほうがいいでしょう。

●友軍NPC
【魔法使いの弟子】リリコ
 しゃべる前に一拍置くくせのある女の子。招待されたのでついてきました。
 紅茶の葉を提供してくれます。特に指定がない場合は、フランボワーズになるでしょう。
 非戦一覧>飛行・陣地構築・隠蔽工作・カリスマ・解読・気配遮断(弱)・生存執着(弱)・過酷耐性(弱)
 所持アイテム 氷砂糖・久遠 古ロリババア・千草(お手伝いをしてくれるみたいです)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • しょこらとるパーリー完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年02月24日 21時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
※参加確定済み※
リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
木漏れ日のフルール
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
※参加確定済み※
エリス(p3p007830)
呪い師
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
※参加確定済み※
ロリ☆ポップ(p3p010188)
おかし大明神
ピリア(p3p010939)
欠けない月

リプレイ


 グラオ・クローネのこの時期だけ、森の木々は甘い樹液を流すようになる。森みずからがキルシュ領の人々を喜ばせるために変異したのだと、『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)は胸を張った。
 直後、キルシェはしゅんと落ち込んだ。
「なのに、楽しみすぎてお寝坊さんして、迷惑かけたのは反省なのよ……」
「……キルシェさん」
 リリコはキルシェの手をきゅっと握る。そこへナイスアシスト。
「キルシェちゃんフルーツ忘れちゃったの気にしなくていいですよ~、可愛いです。可愛いは正義です」
『深緑魔法少女』リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)だ。
(妹にほしい……です)
 胸の中で拳をぎゅっと握り、しょぼくれ顔のキルシェをなぐさめる。
「そうですとも。フルーツを忘れてしまったのは、災難でした、が」
『星に想いを』ネーヴェ(p3p007199)もキルシェの肩へ両手を置く。
「皆様で採ったフルーツで、チョコレートフォンデュをするのも……よいもの、ですから! 頑張って、沢山フルーツを集めて、楽しいパーティにしましょう、ね!」
「これ、皆さんで使ってちょうだいな」
『羞花閉月』蜻蛉(p3p002599)は手袋とマフラーをとりだした。
「冷えて風邪引いたらあきまへんよって、皆さんぬくくしていきましょ」
 皆々、笑い合いながらマフラーと手袋を身につける。これでどんな寒風が吹いたってへいちゃら。やる気は充分。
 樹液がチョコレートなのが不思議でたまらない『陽だまりに佇んで』ニル(p3p009185)。ニルもキルシェへ寄り添った。ニルの足元には、猫のココアがいて、盛んに頭をニルのふくらはぎへ擦り付けている。
「キルシェ様、しょんぼりしないでくださいね? ニルは、みなさまと果物を探すの、とってもとってもわくわくなのです。一緒に採った果物は、きっと、とってもとっても『おいしい』のですよ」
 ニルには味覚というものがよくわからない。だけど、皆で共通の場を囲んで、談話しながら食事をとるあの雰囲気が、たしかに好きだった。猫のココアと居るときと、同じ「気持ち」を起こさせる。だからニルは猫のココアのことも、「おいしい」と感じている。
「ココアもチョコレートも、あまくて『おいしい』もの。おそろいですね、ココア! ココアもいっしょに探しましょうね」
 猫は答えるように鳴いた。主人が大好きでたまらない、あの鳴き声だ。
『呪い師』エリス(p3p007830)は両の頬を包み込んだ。瞳には無邪気な好奇心と喜びがあふれていて、星みたいにきらめいている。
「フォンデュの森……なんと素敵な森なんでしょう……! チョコレートフォンデュパーティの為にもフルーツ集めを頑張りましょうね!」
「パーティー、とってもとってもたのしみなの♪ ピリア、チョコレートフォンデュはしたことがないから、ドキドキなの! くだもの、がんばってとってくるの~!」
 えいえいおーってするのは、『欠けない月』ピリア(p3p010939)。にっこり笑う姿は二つ名通りの満月さじ加減。満ち足りた月は今日も淡く輝き、周囲をやわらかに照らし出している。
「うん、落ち込んでてもいいことないない☆ 元気よく行きまっしょー☆ ハロー☆ ハロー☆ お菓子の魔術師 ロリ☆ポップですっ! 今日は一日、よろしくねー☆! 甘味には自信たっぷりなので任せてちょーだいな!」
『おかし大明神』ロリ☆ポップ(p3p010188)は、相棒こと捕食器のぷりんちゃんといっしょにばっちり笑顔。その笑顔を眺めていると、たしかに終わってしまった過去よりも、これからのことを考えようと前向きな気分になってくる。
「わかったのよ。ルシェ、忘れた分まで美味しい果物いっぱい集めるわ! リチェの嗅覚にもこうご期待なのよ!」
 ぱあっと咲いた桜色の愛娘。うんうん、やはりこうでないと、と、一同は笑顔で答えた。
「リリコさんはエリスお姉さんたちとどっかんバナナ探し手伝って貰えるかしら? 一緒に探したほうがきっと美味しいのよ!」
「……うん」
 うなずくリリコを優しい目でみやり、蜻蛉は口を開いた。
「お久しぶりにお逢いするけど、大きゅうなったねぇ。よろしゅうお願いします。ほな、今日は美味しいもの沢山食べて、想い出作りましょ」
 はんなりと蜻蛉は微笑んだ。

●おかし大明神と呪い師と魔法使いの弟子
「ではでは!」
 さっそく森へ入っていったロリ☆ポップがくんくんと鼻を鳴らしだした。あっちへこっちへ首をやり、目を閉じて行くべき道を吟味する。エリスのほうは、リトルワイバーンのバナナンといっしょに、リリコへおいでおいでをした。
「高いところにある果物があったら、私たちが飛行でもって取りに行きましょう。ね、リリコさん?」
「……うん」
 リリコはほんのりと嬉しげだ。自慢の箒を活用できる機会が出来たからだろうか、とエリスは考えた。
「くんくん、くんくんくんくん☆ みっけ! こっち!」
「あっ、ロリ☆ポップさん、待ってください!」
 突然走り出したロリ☆ポップのあとを、バナナンに乗って追いかけるエリス。すいすいと森の木々を交わして飛んでいくリトルワイバーンは頼もしいの一言だ。
「あそこ! あそこにあるよ☆! 目当てのものがね! ボクの勘に狂いなし☆!」
 崖にぶつかりそうになるまで走っていたロリ☆ポップが、キキっと急ブレーキをかけて、元気いっぱいに上の方を指差す。エリスはちょっと悩んで、リリコを手招いた。
「ふたりがかりでなら、ロリ☆ポップさんを崖上まで運んであげることが、できるでしょうか」
「……きっと」
 手柄を独り占めする真似はしたくないエリスの優しさだった。
 バナナンの背中へロリ☆ポップとエリスのふたりでぎゅう詰め。ロリ☆ポップはエリスへぎゅっとくっついておなかのあたりへ手を回す。彼が落ちないように、後ろからリリコがその背を支えている。三人はゆっくりと上昇し、崖の上へと至った。
 日光がさんさんと当たるそこへどかんと咲いているのは、黄色い花、ではなく……バナナの木だ。
 ロリ☆ポップがバナナをもぎもぎし、エリスが古ロリババアの千草の背へ、せっせとバナナを載せていく。けれど、千草の背中はすぐにいっぱいになってしまった。
「どうしましょう」
「任せて☆ こういう時のためのぷりんちゃんだよ!」
 ぷりんちゃんがあんぐり大きな口を開ける。エリスはその中へひょいひょいとバナナを放り込んでいく。最後の方は面白くなって、三人でぷりんちゃん玉入れ状態になった。

●欠けない月と星に想いをと羞花閉月
「もしもし、こんにちはなの~! おいしいくだものさんがあるばしょ、しってる子いるかな?」
 おっきな声でピリアが話しかけると、周りの植物たちがわいわい言い始めた。あっちだよ、こっちだよ、これもいいよ、あれもいいよ。
「まってまって。ピリアはね、えーと、ふんわりマンゴー? と、しゅわっとオレンジをさがしているの」
 そっちにあるのがおいしいよ、なにおうぼくのともだちがいちばんだ。
「ケンカしないでー! でもおしえてくれてありがとうなの。さがしにいってみるの」
 植物疎通の結果を蜻蛉とネーヴェに話すそうとして振り返った時、ピリアはネーヴェの足に気づいてしまった。かすかに同情と哀れみを浮かべたピリアの頭を、ネーヴェはゆっくりと撫でた。
「そんな目で見ないでください、な。わたくしは、平気です。平気なん、です」
「……」
 ネーヴェの微笑みに、それ以上何も言えず、ピリアは無理をして笑みを浮かべた。
「目当てのもの、探しに行きましょ」
 蜻蛉が明るい声を上げる。三人はまず蜻蛉についていった。ほの酸っぱい香りが漂ってくるのを、蜻蛉は敏感にキャッチした。
「これやろか」
 辿り着いた先にあったのはどこを見ても普通のオレンジ。蜻蛉は念のため、実をひとつとって皮をむいた。一房口に入れてみると、
「んん~! 大正解! ピリアさんもネーヴェさんも食べはる?」
「いただき、ます」
「やったあなのです」
 炭酸入りのオレンジジュースに似た味わいが口の中で弾ける。三人は収穫を始めた。
「ピリアさん、こっちにもようけ実がなっとりますよ!」
「はーいなの」
 そのとき、ネーヴェの兎耳がぴくりと動いた。
「……あちらに何かがゆったり羽ばたく音、が」
 急いでその場へかけつけると、マンゴーが空を飛んでいた。
「話には聞いていましたが、珍妙な光景です、ね」
 ゆっくり近づき、後ろからえいっ。大粒マンゴーはネーヴェが確かに捕まえた。

●深緑魔法少女とリチェと一緒と陽だまりに佇んで
 難関、蔦イチゴとサウザンドグレープ探しへ挑戦する三人。
 ニルは白と黒の小鳥を呼び出し、いっておいでと声をかけた。小鳥は主人のため、喜んで羽をはばたかせる。右へ左へ、忙しく捜索しているのはリディアだ。しっかりと確実に、見落としがないように努力を積み重ねていく。
「ねぇ! 蔦イチゴとサウザンドグレープがある場所知ってるかしら? 知ってたら教えてほしいの!」
 元気よくリスへ話しかけるキルシェ。リスは応えて枝と枝の合間を縫うように飛んでいく。
「待ってなのよー!」
「だいじょうぶです、キルシェ様。ニルの小鳥たちが追跡してくれています」
 それなら安心だと胸をなでおろすキルシェに、リディアはほっこりした。
「もしかしてあれが蔦イチゴじゃないかしら」
 目ざとく見つけたリディア。ひととおり収穫したあとも油断なく周りを見回す。
「こういう茂みの陰とか、少し高い枝の下になってたりしますよね」
「さすがなのよ、リディアお姉さん!」
「……お姉さん!?」
 ぱああとリディアの後ろに花が咲いた。
「今のもう一度言って、キルシェちゃん」
「リディアお姉さん?」
「そう、それ! ああなんて甘美な響き!」
「そんなに喜んでもらえるなら、今後はそう呼ぶのよ」
「あのう、お二方、すこしばかりニルを手伝ってもらえませんか?」
 苦笑交じりの声に、リディアとキルシェは、はっと我に返った。ニルの妖精の木馬は、果物でこぼれんばかりだ。
「あとで妖精さんにも食べてもらおうと思ったら、欲張ってしまったのです」
 はにかみながら言うニルに、リディアとキルシェはいい笑顔。
「だいじょうぶ、まだバスケットには空きがあります」
「ルシェのもなのよ! いっぱい集めて、みんなみんなで幸せタイムを過ごすのよ!」
 バスケットにもフルーツ山盛り。足取りも軽く、三人は広場へと帰っていく。


「さぁて、沢山食べましょ。皆、用意はええやろか?」
 蜻蛉がそう言うと……。
「チョコレートフォンデュといえば、たくさんの具材ですよね!」
 今日のためにお菓子をたくさん持ちこんだロリ☆ポップだ。もちろんいくつかは蜻蛉とネーヴェが用意してくれているけれど、それだけじゃ我慢できないのがおかし大明神としての心意気。
「それじゃ、行くよー! おかしになっちゃえー☆」
 ぐるぐるぽん、花畑がマシュマロ畑になった。
「どんどん行くよー!」
 フルーツの皮や葉っぱ、いらない枝なんかを、クッキーやワッフル、シュークリームへ変えていく。
「やはり甘味+甘味は王道だよね☆」
 満足げなロリ☆ポップからお菓子を受け取り、いざ。
「皆さん、お疲れ様でした! 待ちに待ったチョコレートフォンデュの時間です!」
 エリスがそう言い、ロリ☆ポップが变化させたワッフルをくつくつしている鍋へ漬ける。とろりと甘い幸せなツヤ。
「いただきまーす」
 ぱくりと一口、エリスは顔をほころばせた。
「おいひい~~~! 甘味+甘味最高です!」
「でしょでしょ☆」
「次はフルーツを試してみましょうか」
 食への好奇心を隠しもせず、エリスは食べ進めていく。
「今度はうちの領地で採れる果物を使ってチョコレートフォンデュパーティーするのもいいかもしれませんね!」
「それはいい案ですね」
 リディアはにっこり笑顔。なのだが。
(程々に食べないと、おなかぷよぷよ幻想種魔法少女になってしまう……)
 大丈夫だ、魔法はカロリーを使うのだ。別の依頼でどっかんどっかん暴れまくれば大丈夫だ。
(うう、わかっていても……やっぱり食べたい。ある程度食べればお腹いっぱいになるだろうし、きっと大丈夫……だよね)
 大丈夫だ、幻想種は太りにくいのだ。彼彼女あるいは性別不明らが美しいのは理由があるのだ。
「き、キルシェちゃん」
「なぁになの?」
「あーん、とかどうかな? 迷惑かな?」
「気にしないのよ?」
「じゃ、じゃあ、あーん」
 差し出されたサウザンドグレープをぱくんと食べたキルシェ。
(きゃあああかわいいいい! 最高! 胸がバクバク言ってるーーー!)
 リディアはとっても幸せだった。一方、キルシェのほうは、ウエハースにどっかんバナナをのせてディップ。チョコレートに染まったそれを蜻蛉へ。
「この組み合わせとってもおいしいのよ、蜻蛉ママも食べてみて!」
 オレンジとマンゴーをぱくついていた蜻蛉がキルシェへ顔を寄せる。
「そしたらお相伴に預かりましょ。うん、おいし、さすがうちの愛娘♪」
「えへへなのよ」
 蜻蛉はあらためて頭を下げる。
「皆さんお疲れさまでした。実はうち、今日はご飯を控えめにしてきたんよ。おかげでお腹ペコペコです、ふふ」
「蜻蛉様はこの中だと、なにがいっとうお好きですか?」
 フォンデュ用のフルーツを下ごしらえして盛り付けていたニルが問う。ていねいに重ねられたそれは宝石の山みたいだ。
「……恥ずかしながら、イチゴに目がないんよ」
「でしたら蔦イチゴをどうぞ」
 赤い王冠が蜻蛉へ供される。
「んー! これこれ、この甘酸っぱいんがたまりません! キルシェちゃんたちのおかげやね、こんな素敵な果物にありつけたんは」
「うれしいのよ、蜻蛉ママ」
「さ、次はお菓子や♪」
「お菓子……」
 ピリアは思案顔。フォンデュなるものは初体験。こくびをかしげて、みんながしているようにとぷんと鍋へお菓子を沈めてみる。そしておそるおそるかじってみると……。
「おいしいっ!」
 びっくりして大きな声が出てしまった。
「これもこれも、あ、これも! わあ、どれもちがったあじわいで、すっごくたのしいのよ! ロリ☆ポップさんのお菓子もおいしい! あまいのたくさんでうれしいの~♪」
 ゴキゲンなあまり、おうたのじかんの始まりだ。ピリアの周囲へオパールのような輝きが広がり、きらり、陽の光を受けてきらめく。
「みなさまとっても『おいしい』をありがとうございます」
 ニルもまた蜻蛉やネーヴェやロリ☆ポップのお菓子、それに新鮮なフルーツ。笑顔花咲く、なんて贅沢な時間だろう。味の良し悪しはわからない、わからないが、たしかにニルは「おいしい」と感じた。場に満ちたピリアの鼻歌。興奮でほてったエリスの顔。ご満悦な蜻蛉。うれしそうなリディア。どんどんお菓子を作っているロリ☆ポップ。やさしい笑みを浮かべているネーヴェに、クロワッサンへフォンデュしたフルーツを挟んで、ぱくつくキルシェ。これが「おいしい」でなくてなんなのだろう。ニルはコアが浮き立った。
「ネーヴェお姉さんのパウンドケーキもすっごく美味しいわ!」
「うふふ、光見えても、料理は、少しうまくなったのです」
 キルシェの瞳の輝きに、ネーヴェもまた心が踊った。こうして皆で集まって、わいわい楽しく騒いで。それは何にも代えがたい幸福な時間。ネーヴェは甘い香りを一杯に吸い込んだ。
 たっぷりとチョコレートの樹液を付けて、ぱくり。口の中に広がる甘さとコク。そしてフルーツの果汁。舌の上隅々まで広がり、まるで味覚の色彩パレード。
「ほっぺたがおちそう、です、ね。やっぱりチョコレートフォンデュに、果物はぴったりです! リリコ様はどれがお好み、ですか?」
「……どれも、とっても、美味しい」
 リリコはちょっとだけ渋いお茶をいれていた。呈茶はまだ半人前。だけど、今回に限っては、その渋みが口中の甘みを洗い流してくれる。
「持ってきてくださった紅茶、チョコレートフォンデュにぴったり、ですね!」
「うんうん、甘酸っぱくて口の中がさっぱりするの!」
「……とっても、ありがとう」
 リリコは嬉しすぎたのか、帽子のつばで顔を隠した。赤面を見られたくなかったのかもしれない。キルシェが急に真面目な顔になる。
「今回は、ルシェのせいで迷惑かけて、ごめんなさい」
 ええのよ、気にしないでください、いっしょに楽しみましょう。方々からそんな声があがる。
「うん、みんなが許してくれるだろうってのは、わかってたのよ。だからこそ、きちんとけじめをつけたかったのよ」
 キルシェはいつもの笑顔に戻った。あの大樹へ降り注ぐ、太陽みたいな笑顔。
「楽しんでもらえてるみたいで、すっごく嬉しいわ! みんなでパーティーを楽しむのよ!」
「「おー」」
 みんなが串を天へ突き上げた。楽しい時間はまだこれから。太陽はさんさんと照り、北風が逆に快いくらい。フォンデュの森は来訪者を歓迎している。きっと、来年も再来年も、ここは笑顔であふれるのだろう。
 ネーヴェが立ち上がった。
「素敵なひと時を、ありがとう」
 そう言いながら、樹液をくれた木の幹を撫でる。ざらりとした、だけど優しい感触が手のひらへ。
 ふわりと風が吹き、木々がざあっと鳴いた。よく来てくれたね、ありがとう。
 まるでそう言っているかのように。

成否

成功

MVP

ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

フォンデュパーティー、成功です。
MVPは森へ感謝を示したあなたへ。きっと森の方もうれしかったでしょう。

またのご利用をお待ちしております。

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