PandoraPartyProject

シナリオ詳細

パルクールオブザデッド!!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●駆け抜けろ、ゾンビの街を
 息を切らせて走る。
 うめき声をあげ左右から手を伸ばすのは、顔が半壊した屍――アンデッド・ゾンビだ。
 伸ばされた手をスライディングでかわし、素早く上体を起こしながら速度をゆるめず跳躍する。
 壁を駆け上がるような勢いで脚をかけ僅かに身体を上昇させると屋根に手をかけ勢いよく這い上がる。歩くより素早く建物の屋根へよじ登れば、もうゾンビたちは手が届きさえしないだろう。
 振り返れば呻きながら壁際に集まることしかできないゾンビの集団が見える。男女混合様々だが、一様に身体の損傷は激しいらしい。できることといえばよたよた歩くことと、掴んで囓ることくらい。飛び上がって壁を這い上がろうという動きは無かった。
 安堵の息を漏らそうとしたところで、遠くから狂ったような叫びが上がった。狼の咆哮にも似たその声に、びくりと肩をふるわせる。
 遠くからゾンビの群れをかき分けるように疾走する真っ黒なゾンビが見えたのだ。
 バイラル・ゾンビだ。略してバイラルと呼ばれるそれは、肉体を黒い菌類のようなもので覆いそれを筋繊維のごとく屈強に動かしている。故に常人より遥かに動きが俊敏で、かつ跳躍力も高い。ゾンビの群れがあるというのにその肩や頭を足場に素早く距離を詰め、建物へのよじ登りも難なくこなしてしまう。
 このままではバイラルに追いつかれてしまう。
 屋根の上での休憩をとりやめ、再び走る。
 スラム街のトタン屋根を走ればぼこぼこという音が鳴り、その端から跳躍すればゾンビがまばらに往来する細い道を飛び越え向かい側の屋根へと至る。着地の勢いを殺さぬためにごろんと一度前転をはさみつつ更にダッシュ。後方からはバイラルがまだ追跡してきているようだ。
 今度は側面側に二階建ての建造物が見えてきたが向かいの建物まで距離がある。よじ登っている暇はどうやらなさそうだ。
 走る勢いを更に加速させると、建物の壁を走る勢いで個を描き、向かい側の屋根へと至った。
 目的地はまだ先だ。
 屋根から飛び降り大通りへと出れば、横転した馬車や死んだ馬によって停車状態になった馬車が乱雑に並んでいる。
 周囲のゾンビたちがこちらを見た。
 さあ、再び走り出す時間だ。

●運び屋と、呪われた街
「やあ、急ぎの仕事があるんだけれど……いいかな」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)が小さく手を翳し、あなたを呼び止めた。
 海洋王国のローレット支部、とよく呼ばれる酒場でのことだ。
 丁度仕事を入れるつもりだったあなたに歩み寄り、ショウはある街の写真をテーブルに置く。
「クレインという土地だよ。知ってるかな。西南部にある島で、昔は海底資源採掘が盛んだったんだけど、資源を取り尽くしたことで今ではスラム化しててね」
 スラムといわれるだけあって、街の様子は錆び付いたトタンに彩られている。
 一階建ての建物ばかりが広く並び、人々の装いも簡素だ。
 そこへ、もう一枚の写真が重なる。同じ場所を撮影したもののようだが、路上には血がひろがりボロボロの死体としか思えないような人物が両手をだらんと下げたままとぼとぼ歩いている様子が写っていた。
「ある呪術の暴発が起きてね……スラム街一帯の死体がアンデッド化してしまったんだ。その被害にあった人達もアンデッドに変わって、かなり酷い状況だ。
 街の中心部にタワーがあるのが見える?」
 写真の中央をトンと叩くと、確かに高い建物がある。タワーと呼べるほどかは微妙だが、周囲の建物に比べればはるかに金がかかっていそうだしなにより高い。
 だがよく見れば建物は建設途中で止まっているようで、中央などは骨組みがむき出しになっていた。
「この場所の最上階に生存者が立てこもって助けを待ってる。脱出させることは不可能じゃないけど、まずは呪術に対する治療薬と脱出用のアイテムを届けないといけない。
 ローレットに依頼されたのは、その運び屋ってわけさ」

 タワーの最上階というのだから飛行種ひとりで事足りるのでは、という疑問は当然浮かぶだろう。ショウもそれを察していたようで、苦笑と共に腕組みをした。
「実際それを試したみたいだけど、街に入った途端に飛行能力が失われたそうだよ。呪術の影響だね」
 同じ理由で簡易飛行装置も使いものにならず。馬車やバイクといった道具も狭い通路が入り組み違法に増築されまくったスラム街を通り抜けるにはむしろ邪魔だ。
 故に、この場所を全力で走り抜ける必要があるのである。
「これを届ければ多くの命が助けられる。任せたよ」
 最後に届けるためのアイテムを入れたリュックサックを手渡し、ショウは頷いてみせたのだった。

GMコメント

●オーダー
 ゾンビだらけのクレインのスラム街を、アクロバティックに駆け抜けよう!

 街はゾンビだらけですが、屋根を伝ったりロープの上を駆け抜けたりとアクロバティックに駆け抜けていきましょう。
 大抵のゾンビは路上でうろうろしているだけなので脅威になりませんが、急いで駆け抜けなければ大量のバイラル・ゾンビに追いつかれて時間を大きくロスしてしまいます。要は急げばよいのです。

●パルクールアクション
 今回のシナリオ内において、皆さんはアクロバティックに街を駆け抜けることができます。
 元々できていたことにしても良いし、インストラクターの指導をうけて習得したことにしてもよいでしょう。
 非戦スキルの跳躍やアクロバットなどがあれば尚クールにアクションできるでしょう。
 飛行スキルはこのシナリオ内でキャンセルされますが、跳躍と同じ程度には使えるものとします。

●シナリオ前半と後半
 前半は街を駆け抜けるアクションになります。
 全員で同じ場所を通っていくと群がったゾンビが確実に邪魔になってしまうので、いくつかの侵入エリアからバラバラに街へと入り、個別に中央のタワーへと向かうことになります。
 もし「この人とペアで進みたい!」といった要望があればプレイングにご記載ください。

 シナリオ後半は待ち構えている強力なゾンビ『パニッシャー・ゾンビ』たちとの個別の戦いになります。
 ランダムにマッチアップされたPC2~3人チームでパニッシャー1体と戦闘する形になるでしょう。
 パニッシャーは非常に大柄な人間に見えるアンデッドモンスターで、その体組織はほぼ黒い菌類によってできています。
 そのため身体は頑丈かつタフ。パワーも凄まじいため大きなスレッジハンマーなどを振り回して戦うでしょう。得意な戦術を駆使して対抗してください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • パルクールオブザデッド!!完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年02月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
クラサフカ・ミハイロヴナ・コロリョワ(p3p000292)
あやしい香り
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。
糸巻 パティリア(p3p007389)
跳躍する星
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標

リプレイ

●パルクールオブザデッド
 盾によるバッシュ。回避不能な壁の殴打によってアンデッド・ゾンビが纏めてノックバックされる。後方に群がったゾンビたちにぶつかったことでそれほど後退していないが、眼前に僅かなスペースが出来たのは事実である。
 『あやしい香り』クラサフカ・ミハイロヴナ・コロリョワ(p3p000292)は盾を一度側面にずらして視界を確保すると、傾いたゾンビの上を跳躍。美しく広げた蝶のごとき翼が一度羽ばたけば跳躍力は常人のそれを遥かに超える。
 ゾンビの頭を踏んづけてそのまま屋根へと飛び乗ることが可能なくらいには、遥かに。
「障害物と地形を利用し、迅速に救出を行う。いかにも私向きではありませんか。
 我が翅は飛ぶだけでなく跳ぶ事にも十全に発揮される事、実証して見せますわ」
 羽ばたきを終え、走るために鋭く畳んだ翼をどこか自慢げに指先で撫でると、クラサフカはコンクリートの屋根を走る。
 クラサフカが定期的にヘイトを集めているせいで周囲のアンデッド・ゾンビたちはクラサフカへ集中し、多少遠い個体も強引に引き寄せられていることだろう。
「船上のような限られた足場で高速戦闘を何度もこなしたこの身ならば、障害物があればあるほど有利になるというものですわ」
 が、そこはクラサフカの望むところ。建物から建物へわたされた洗濯物用のロープを、まるで低い平均台であるかのように平然と駆け抜けると、後方より吠えるバイラルの声にちらりと振り返る。
「スピードをあげる頃合い、でしょうね」

 アンデッド・ゾンビの数は心なしか少ない。
 広い大通り。ハイウェイと呼んでもいいくらいの道路を駆け抜けながら、『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)は敵を引きつけてくれた味方に感謝した。
「――ッラァ!」
 助走を付けたドロップキックはまるでミサイルでもぶちこまれたかのようにゾンビたちを吹き飛ばす。これはノックバックするだのよろけるだのという次元の話ではない。四肢がちぎれて飛んだり、ソンビどうしが激突し絡み合って地面で一生もだえるような、そんな衝撃なのである。
「いつもならゾンビ共をぶっ飛ばしていくところだが、キリがないうえに強力な個体がいる。まずは避難民に物資を届ける事を優先しなければな」
 義弘はつい癖で蹴り飛ばしてしまったが、このままではいかんとばかりに立ち上がり走り出す。
 路上に駐車された馬車の御者台へと飛び上がると、そのまま非人間的な跳躍力で箱馬車の幌へと乗った。そこからぴょんぴょんと飛び石をわたるかのように乗り捨てられた馬車の上を飛び移っていく。
 バイラルへの警戒は、当然怠らない。優れた聴覚が狼のような咆哮を聞きつけたところで、義弘は走る脚を早めた。
 道路の端へと移動し、ガードレールめいた手すりの上からジャンプする。
 高所に建設された道路であったようで、飛べばすぐに民家の屋根。ボコンとトタン屋根がへこむ気配があったが、気にせず走ればすぐ後ろに着地したアンデッド・バイラルが今度こそ壊れたトタン屋根によって落とし穴のごとく屋内へ転落していく。
「タワーまでは、もうすぐ……か」

「飛行は呪術でおじゃん、こんなスラムじゃ乗り物なんてお荷物。なるほどなぁ、結構難儀しそうだ」
 飄々と語る『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)は、魔力伝達を行うために設置されたとおぼしき石柱の上に立っていた。四方八方に伸びた送伝線。その下ではゾンビたちがバクルドを目当てに集まっている。
「まあ放浪者らしくさっさと切り抜けてやらァな」
 バクルドはバックパックからアシカールパンツァーを取り出すと、進行方向とは若干ズレた方角へと発射した。
 その地点には、おそらくゾンビだらけになったエリアで生き延びようとしたであろう生存者(今ここにはいない)の設置したであろうスパイクつきのドラム缶があった。
 音につられて走ったゾンビたちが更に集まるゾンビに押されるかたちでドラム感のスパイクに突き刺さっていく。
 暫くあそこは奇妙な肉団子と化すことだろう。かつて森で虫取りやリスの狩猟に用いた罠を連想しながら、バクルドは笑う。
「スラムも森も俺にとっちゃ庭見てぇなもんだ」
 取り出したマントをぐるぐると絞って縄代わりにすると送伝線へひっかけ、そのままジップラインめいた機動によって石柱の上から離脱。ごろんと転がり着地ダメージを軽減すると、ゾンビのすっかり減った路上を走った。
「ゾンビをかわすだけなら楽なんだが……問題はパニッシャーだよなあ」

 二階建てのぼろけたアパートメントもどきが並ぶ細い路地を、青き閃光がジグザグに駆け抜ける。
 それが、『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)が壁から壁へ飛び移りピンボールめいた機動で空中を駆け抜けているのだと気付けるものはここにはいない。
「ふっふっふ、飛んだり跳ねたりは得意分野、ここは一つ『本物のアクロバット』を見せてしまいますか……」
 ザッと両足でブレーキをかける形でコンクリートでできた屋根へと着地。外付け階段は見えたが、無視して壁を無理矢理駆け上る。
 屋上までやってくると、側面方向からバイラルの方向。 
 黒い菌類に肉体を覆われたバイラルが凄まじいスピードでイルミナへと接近していた。
「休む暇もなしッスか。しょーがない、どかどかいくッスよ!」
 イルミナはバイラルの撃退は早々に諦め、タワーの方角めがけて跳躍した。
 階段を使ってなんとか屋上をめざしていたゾンビたちを翻弄するかのようにダイブしたイルミナは、積み上がっていた藁をクッションにして着地。
 パッと藁を弾いて再び走り出すのだった。
 建物から飛び降りこちらを追うバイラルだけが今は厄介。イルミナは『それなら勝負っすよ』とばかりに各四肢のパーツにブルーカラーの光を宿すと、自らを猛烈に加速させた。
 そして曲がり角――から突如姿を見せたバイラルを、ハイキックで蹴り飛ばす。
「うわ! びっくりしたッス! 反射的にヤっちゃったッスけど大丈夫――じゃないけど大丈夫ッスね!」

「まあなんていうか、妙に馴染みのある空気というか。
 同じことを延々とやったことがあるような気分というか。
 変に懐かしいのはなんでかしらねえ」
 こきりと首をならし、『狼子』ゼファー(p3p007625)はその辺に落ちていた板材を脚で蹴って持ち上げ、手に掴む。釘の刺さったそれは、いかにもゾンビを殴るに丁度良い。
「ワルいことして逃げ回るなんてよくよくやってましたしね?
 パン屋のオヤジに比べりゃ、アンデッドなんて諦めが良いモンよ」
 ブラックな冗談を言いながら、ゼファーは後方から猛烈な速度で追いついてきたバイラルに振り向き両手で持った釘板材で殴りつける。顔面にささった釘。ぶつかる板材。へし折れたそれを清々しく放り捨て、倒れたバイラルを尻目にゼファーは走り出す。
 『一発殴って逃げる』は逃走における極意である。
 ゼファーには、どこになにが置かれているのかすぐに察することができた。道ばたに放置された鉄の箱。立てかけられた板。それらをまるで最初から分かっていたかのように足場につかい、凹凸が激しくごみごみしたスラム街をまっすぐタワーめがけて進んでいく。
「そうそう。例えばこういう所から――」
 建物の三階。落ちればろくでもないことになる高さだが、まるで目印みたいに板が外側に突き出た状態で縛り付けられている。
 飛び込み台だ。ゼファーはそれを使って跳躍すると、細い路地を一本挟んだ向こう側に到達する。そして、積み上げたブルーシートに隠されたクッションが彼女を受け止めたのだった。
「ま、悪戯をして逃げ回る悪ガキがいたって名残でしょうけど」
 ゼファーは小さく笑い、フックのついたロープをぐるぐると振り回す。遠い建物の屋根へ、強引によじ登らんとするために。

 日を避けるように目元に手を翳し、『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)は目を細めた。
 木造家屋の三角屋根。その頂点に、片足のつま先だけで立った彼は、さながら家を守る彫像のようでもあったが……軒に群がるゾンビたちの様子を見れば、むしろその逆なのかもしれない。なにせ彼にこそ、ゾンビは集まるのだから。
「なんとも俺向きの依頼があったものだが……塔に立て籠もる民の恐怖を思えば、そんなことは言っていられんな」
 エーレンは遠くでバイラルの咆哮があがるのを聞きつつも、あえて冷静に自分の立ち位置からタワーまでのルートを計算する。
 直線よりも速度の出せるルート。屋根の材質や建物の密集具合からみて安全なルート。ちらちら見える小物の利用価値。
 それはさながら、フリークライマーが己が登攀するルートを素早く策定するさまに似ていた。いや、同じだと言ってもいいだろう。
「さて、行くか」
 肩に一度とまったツバメが空へと飛び立ったと同時に、エーレンは非尋常の速度と高さで跳躍。宙返りを一度だけかけると、眼下のゾンビたちとはるか遠くより走り来たるバイラルたちをファミリアーの俯瞰で眺める。どうやら呪術によって非行が制限されているのは人だけらしい。試してなかったとはいえ好都合だ。
 エーレンが着地したのは仮組みされた鉄パイプの上。そこから常人の数倍のスピードで走り出すと、正座でも作るような的確なラインどりで家々の間を素早く駆け抜けていく。不思議なことは、それだけのスピードとアクロバットを見せているにもかかわらず足音がごく小さいことだ。ゾンビの中には彼の存在すら気付かない者もいる。
 そろそろタワーだ。さて、誰と合流できるだろうか……?

 地面を走り、『跳躍する星』糸巻 パティリア(p3p007389)は海星綱(カイセイコウ)を発射。つまるところ己の触手なのだが、長く伸びた紐状のそれはパティリアの手首から発射され、硬化し鉤爪状となった先端部が遠い建物の屋根に引っかかった。
「ところで上谷殿! 絶叫マシーンは得意でござるかな!」
「えっ?」
 背に向けて語りかけるパティリア。背には、あろうことか『恋揺れる天華』零・K・メルヴィル(p3p000277)が背中合わせにくくりつけられていた。
「おいおいおいまさか」
「舌噛むでござるよ」
 パティリアは伸ばした触手を巻き取るように短縮させると、壁を蹴り蹴りジグザグな機動を描きながら、腕を伸ばすゾンビたちを強引によけて民家の屋根へと至る。ひっかけたのが屋根部分なので片手でしっかり屋根淵をキャッチし、そこから両腕と脚の力をフルに使って這い上がるのだがこの動きが覚悟していない者にとっては最悪の極み。もしこれが側の出前だったら一分足らずで全部ひっくり返していることだろう。
 だが安心めされよ。配達しているのは人間であり、そのなかでもとびきり頑丈な零である。上下左右に振ってもひっくり返って流れ出す心配はないのだ。
「うおおおお!? なんだこりゃ! 進行方向が見えないだけに余計に怖え!」
「ナビはどうしたでござるか」
「デキルカァッ!」
 なぜかカタコトになって叫ぶ零。
「で、絶叫マシーンはお得意で?」
「嫌いじゃねえけど……安全装置とゾンビを交換してほしいなぁ」
 折角だとばかりにフランスパンを召喚し、それを弾丸のように追いすがるバイラルめがけて発射する。
 グガッと叫んで建物の上から転落するバイラル。
「それじゃあ本番でござる!」
 意気揚々とパティリアは両手の手首から触手を順に発射し、高い建物に挟まれた大通りへと侵入。
 この状況でやることといえば……そう、『スイング』である。
 左右の触手を器用に使って振り子運動を起こし、まるで飛ぶように街を駆け抜ける独特の技術。はるか20世紀地球のハリウッド映画で再現されてからおよそ人類の脳裏に刻み込まれた独特の動きであった。
「上谷殿ー、折角だからフランスパンをばらまくでござるよ。拙者らと美味しいフランスパン比べたら流石に後者に軍配が上がると思うでござるしなぁ」
 あははと笑いながら、ずるいくらい安全にパティリアはタワーを目指すのであった。

●パニッシャーゾーン
 章をわけこそしたが引き続きパティリア&零。
 彼女たちはスイング機動で軽々とタワーまでたどり着くと、勢いよくタワー中階層へとたどり着いていた。というか、最初からそこに乗り付けるくらいには余裕があったようである。
 そんな二人を待ち受けていたのは……そう、アンデッド・パニッシャーである。
「上谷殿ー、出番でござるよ」
 結んでいた紐がスパッと突然切れると、背中にくくられていた零が解放される。
 見れば水忍刀『ユダチ』がいつの間にかパティリアの右手に握られていた。腕輪が変形したものだろう。
 よし、と呟き零も手をかざす。堅いフランスパンを召喚すると、それを翳し構えた。
「ここは二人。いや」
 かと思うと、パティリアがはるか下に向けて触手を発射。引っ張り上げるようにして――義弘を呼び出したのだった。
「三人でいくでござる!」
 放り出された義弘が『応』と叫び思い切りパニッシャーへと殴りかかる。もはや投擲武器と化した義弘の拳はパニッシャーの不意を打ち、ハンマーを構えようとした腕をごきりとへし折る。
 更に飛びかかったパティリアの斬撃と、零が跳躍し斜角を取った《Bread bullet》の乱射によってパニッシャーは細い鉄骨の足場からよろめき、はるか下へと転落していったのだった。

 ゴシャッとパニッシャーが地面に激突し動かなくなるのを、バクルドとエーレンはちらりと横目に見た。
 今まさに彼らを阻み戦おうとしていた別のパニッシャーも、大鉈を両手に構えた状態のままハッと振り返る。
 三者は空気を読むように互いの顔を見て……そして、改めてとばかりにエーレンが超高速で飛び出す。
 その機動は星型を描き、抜刀された剣は瞬く間にパニッシャーの腕や脚を切りつける。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。眠りを起こされて気の毒に思うが、それでも生者を道連れにはさせられん」
「行きも面倒だったがこりゃ帰るのも面倒そうだな、まあ面倒じゃなかったらこんなことせずとっとと脱出してるか」
 出番は残しといてくれよとばかりに、バクルドが義手に仕込んだ大砲に焼夷弾を装填。レバーを引いて発射する。
 弧を描いた弾は着弾と同時に爆発炎上し、刻まれ抵抗もできないパニッシャーを瞬く間に燃やし始めるのであった。

 炎とそれによる煙があがるのを建物の向こうにみつつ、クラサフカは『Мрія』とピストルを機動隊のごとく構える。
「競争というわけではありませんけれど……こちらも急ぎましょうか。活路は開きますわ」
 迎え撃つパニッシャーは鉄製の銛のようなものを握っており、それを古代ギリシャ戦士のごとく投擲する構えで握っている。クラサフカのコンパクトな防御姿勢はそのためだ。
「──ここまで、よく耐えてきましたね。さぞかし困惑した事でしょう。そして恐怖した事でしょう。
 ですがもう心配ありません。このクラサフカ・ミハイロヴナ・コロリョワが救出に来た以上、海洋に住まう者を一人だって欠けさせはしません」
 この先の人々にかけるべき言葉をあえて今述べると、クラサフカはピストルを乱射しながら突進。
 それを牽制すべく銛が放たれ――Мріяの装甲を貫く。
 が、それはクラサフカの狙い通りであった。
 軌道を先読みしたクラサフカは貫通してきた槍をかわし、くるんと身体をスピンさせると衝撃を逃がす。
 『彼女を止める』こと自体はできたパニッシャーだが、それが『詰み』であることには気付けなかったらしい。
 クラサフカの左右から回り込むように走ったゼファーとイルミナが、同時に構える。
「テネムラス・トライキェン――!」
 急加速し蒼く奔るイルミナ。各所のエネルギーブレードが連打を生み出し、無手となったパニッシャーを滅茶苦茶に斬り付ける。
 反撃しようと手を伸ばしたが、その手はクンッとクイックバック機動で回避したイルミナの眼前をからぶった。
 いや、それだけではない。イルミナが開けた『空間』めがけ、ゼファーが思い切り鉄製の投げ槍を投擲したのである。
 先ほどパニッシャーが見せたのと同じ古代ギリシャスタイルの槍投げはパニッシャーの身体を見事に貫通し、後方にあったコンクリートブロックの山へと突き刺さる。
 みをよじりもがくが、もはや無駄でしかない。ゼファーとイルミナ、そしてクラサフカたちの集中砲火が、パニッシャーを今度こそ死体へと変えたのだった。

 その後、八人は無事にタワーにある生存者のもとまで治療薬とアイテムを届けることに成功した。
 生存者たちはその助けを借りながら、エリアの脱出を成し遂げたのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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