PandoraPartyProject

シナリオ詳細

キハダロケッティカ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●異常事態
 海洋首都リッツパークの近海漁業の一部は今日も大漁だった。
「ウハハハ! こりゃ良いや、今夜はメカワで刺身に一杯と行くか!」
「今年は良い量獲れてるっすね親方!」
「だな! 他所の組合はどうか知らねえけどよ、俺らはこれで食ってるからな」
「あ! ボクの給料も上がるカンジ?」
「まだはえぇ!」
 彼等もまた海藻みたいな触手の生えたタコが掛かった網を大量に引き揚げ、その成果に歓喜の声を挙げていた。
 稀にこうして意味も無く大漁な時がある。そういった時は彼等はボーナスと称して街へ繰り出すのだった。
 だが、必ずしも大漁となる事象が『意味も無く』起きる事は無い。彼等もそれまで時折耳にしてはいても、対岸の火事の如く素通りしていただけなのだ。
 大手の漁業組合(ギルド)ならば話は別だろうが、少なくとも彼等はそうだった。

「ん……?」
「どしたァ!! まだまだ気合入れて行くぞぉ!」
「親方、なんか船の下をデカいのが通ったっす」
「サメだろんなもん!」
 鮫の海種である親方がそう怒鳴った直後、彼等の頭上を全長3mの巨大魚が飛び越えて行った。
 視界を一瞬覆う影に気付いたのは親方。飛び上がった魚の姿を見てしまったのは見習いの青年だった、
「ひ、ひああああ!!? あわわわわー!?」
「なんだ、どうした……っウオ!?」
 次は飛び越えるなどという生易しい物では無かった。
 今度は大きく船体を衝撃が襲い、次に彼等の真下から船体を突き破って来たのだ。撒き上がる破片とせっかくの収穫が宙を舞う。
 親方が怒りと悲しみの叫びを上げるも相手に聞く耳は文字通り無く。高速振動する背ビレの鎌状のブレードが船体を切り裂き両断するまでに彼は何も出来なかったのであった。

●高速! 強靭! 美味!
 『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)は章タイトルを迫力たっぷりに力説した。
 力説し過ぎてシャツが弾け飛んだのは恐らく最近判明した彼女のギフトによるものだろう。
 というわけでテイクツー。ミリタリアはボードの資料をそれぞれ卓上へ並べた。
「今回皆様にご依頼したいのは、漁獲です。
 どういうわけか海洋の首都近海には本来見ない筈の種である『キハダロケッティカ』が大量に近海域に流れ込んで来ており、
 本来の海域に棲む魚達がロケッティカを恐れ漁業組合の幾つかに影響が生じている様です。
 そこで……せっかくなので皆様に討伐ついでに獲って頂き、様々な観点から美味しく依頼を遂行してしまおうという事なのです!」
 イレギュラーズの一人が挙手する。ミリタリアは彼を指した。
「ミリタリアさんの好きなキハダロケッティカの料理は何ですかー」
「バター醤油ステーキです! あぁっ、でもカルパッチョも捨て難い……」
 どうやら依頼を無事に終えた暁には食事が出来るようだ。と、イレギュラーズは納得した。

「こほん。キハダロケッティカは主に自身より『強そうな個体』を狙って全身で突撃して行きます。
 恐らく船体や、彼等に迫る体格の方は狙われるでしょう。そして一番の特徴はその身から生やした背ビレとクチバシです、
 これらは成体となって非常に硬化しているため。例えるなら突進攻撃や斬撃攻撃を可能とします、鋼の鎚と鎌といった所でしょうか」
 その場の面々はひそひそとキハダの味はどんなものだろう、とざわついているが。正直ミリタリアも頭の中は魚の事でいっぱいだった。
「ブレードは常に高速で振動しており、これによって海中で高速突進を可能にし、高威力で【出血】効果も与えてきます。気をつけて下さいね」
 ……故に、最後に説明を忘れてしまう。
 獲る数は20匹だと。

GMコメント

 【キハダロケッティカを討伐せよ!】

 以下情報。

●依頼内容
 キハダロケッティカを20匹獲る(燃やしても切ってもOK)

●情報精度A
 不測の事態は絶対に起きません。

●闘争に身を晒す鎌魚
 『強そうだと感じた個体を狙う』特性に従い【物中単・高威力】の突進や、【物至単・BS出血】の背ビレによる被害が予想されます。
 他にも組合や近海警備隊が捕獲作戦を展開する中、皆様には20匹程度を獲って頂きます。
 本作戦では漁船を二隻まで貸し与えられ、皆様の戦術に合わせ好きに利用して頂いて構いません。(ただしあくまでも船は足場の延長線の存在です)
 余りにも攻撃を船体に受けた場合、沈没して乗組員は強制的に水中戦闘を強いられるので、それらを視野に入れた作戦や連携がプラスとなるでしょう。

●今回の水中戦闘での判定
 海種以外で水中での行動を補正するスキル等が無い場合、各種判定にFB+10されます。

●味
 生では刺身。焼くならローストもボイルもステーキもイケる。割と美味で評判の魚である。
 肉団子のスミレ汁もたたき丼も、中には塩釜焼きなんて珍味もあるとか。素の味は油の乗ったローストビーフの如きちゅるんとした味わいである事が料理人に親しみのある理由。
 今回の依頼を終えた後、もしかしたら食事させて貰えるかもしれません。

 以上です。
 宜しくお願いします。イレギュラーズの皆様。

  • キハダロケッティカ完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年09月24日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
Suvia=Westbury(p3p000114)
子連れ紅茶マイスター
詩緒・フェンリス・ランシール(p3p000583)
銀蒼棄狼
リッキー・ヴォルコア(p3p000729)
格闘黒虎娘
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
イオン アギト(p3p006512)
特異運命座標

リプレイ

●海原を駆ける大魚
 ───海洋の朝は早く、潮風は常に吹いている。
「キハダ! ロケッッティカ!!!」
 早朝、船首で仁王立ちした『格闘黒虎娘』リッキー・ヴォルコア(p3p000729)が大空に向かって叫ぶ。
「お魚! 美味しそう! 海のお魚はあんまり食べたことがないから今回も食べたいなぁ、頑張ろう!」
「みーとぅー。あまり魚類を食す機会はなかったんですごくワクワクしてる。だがその前に腹ごなし……もとい熾烈なバトルを敢行せねばならないのだー!」
 隣接して並走する漁船の船首に座る『髭の人』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)とリッキーは腕を振り上げて気勢ある声を張り上げた。

 波打つ海原には幾つもの漁船達が黒煙を上げて戦闘を繰り広げている。
 海洋国が誇る海の男達はそれぞれ慣れぬ獲物を前に悪戦苦闘しながらも、時には他の船にまで聞こえる様な勝鬨の声を挙げていた。
 海の戦場と化した首都近海へ来たイレギュラーズ。
 その任務とは先程リッキーが叫んでいた『キハダロケッティカ』を20匹討伐……もとい獲る事である。
「キハダロケッティカ……この辺りの海には姿を見せない種なのだがね。
 さて……大海原をゆく者よ、よろしく頼むよ?」
 海洋の海で何か起きているのか。
 不穏な物を感じて思考を巡らせるも、『放浪カラス』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)は軽く首を振った後に甲板上で船に手を添えて言葉を交わす。
 微かにだが「まかせて」と言う様なイメージが彼に伝わり、静かに頷いた。
「わーい、キハダキハダー。近海の安全を確保した上で美味しくいただこうねー」
 リッキーやレイヴンと同じ船に乗っているのは、自身が育った島の事を思い出して張り切っている『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)だ。
「どう考えてもキハダマグロ……刺身、食べたくなってきたわね……」
「キハダか。おいしいんだよね。女王陛下は召し上がられたことはあるのかな。それとも同じ海種だから食べないかな?」
 途中、サメが見事な飛翔した所をロケッティカに真っ二つにされる瞬間を目撃した『特異運命座標』秋宮・史之(p3p002233)もまたその味が気になる所の様だった。
 ムスティスラーフのいる船に乗る『銀蒼棄狼』詩緒・フェンリス・ランシール(p3p000583)と彼は見覚えのあるフォルムに加えて聞き覚えのあるネーミングに、元の世界でよく知る魚類を浮かべていたのだ。
 キハダロケッティカは情報屋から聞いた時点で既に美味か否かはよく知らされている。
 期待も膨れるというものだろう、特に未だその味を知らぬ者にとっては。
「あらまあ、なんということでしょう。お仕事のついでに美味しいお魚をいただけるなんて、家計が大助かりですの」
 『年中ティータイム』Suvia=Westbury(p3p000114)も船内で淹れた緑茶の水筒を傍らのパックに詰め微笑んでいた。
 この日の彼女は異国のメイド服……いわゆる『和装』の類に身を包んで袖を捲ってやる気を見せている。特に美味しい魚とティータイムのひとときの為なら頑張らねば。

 そろそろ停船して戦闘準備に入ろうとした時、彼等イレギュラーズの乗る漁船に何かが体当たりし。リッキー達の居る方の船体が大きく揺さぶられた。
 数秒して、船体横に引き裂かれた漁獲用の網と濁った液体が浮かび上がる。
「あらまぁ……駄目でしたか、残念ですの」
 Suviaが困った様に頬に手を当てる。
 漁船の船腹には予め二隻共、彼女が考案した罠を船腹に張っていたのだ。しかしその効果は一度目の攻撃を凌ぐだけに終わってしまった。
 いつの間にか周囲に数多くの魚影が見え始めると、船を動かしていた船員や屈強な漁師達がガトリング砲を持ち出していよいよ臨戦態勢に入る。
「さて、今の私にどこまでできるか腕試しと行きますか。
 とはいえ、あまり濡れたくはないんだよな……髪を乾かすのが面倒なんだ」
 周りの激戦ぶりを見るにイオン アギト(p3p006512)は水に濡れる事は必至だろうと覚悟を決める。
 号令と共に彼等の船が更に寄せられて行く中、威嚇する様に高振動する背ビレを水面から突き出して泳ぎ回るキハダロケッティカの群れ。
 開戦の合図は。
「狙いは大漁! ───むっち砲発射!!」
 魚影が複数交差したその瞬間を狙う。
 ムスティスラーフの口腔に刹那の輝きと瞬きが繰り返され、夢と希望が詰まったお腹が大きく拍動した直後。聞いた事も無い様な音と共に新緑の閃光が海面へ突き立てられた。
 極太の光線が爆撃に等しい衝撃を生み出した後の海面には三匹のキハダロケッティカの姿があった。
 瞬間。彼のいる船だけを周囲の巨大魚達は一斉に狙い出したのと同時に史之がムスティスラーフの横から海へダイブした。
「この風に乗る感じ、サーフボードを思い出すな。さて、キハダども、おいしく狩ってやるから待ってろ!」

●その活き様はまるで打ち上げられたマグロの如し
 海面の照り返しによる暑さも忘れ、海の戦士達があちこちで雄叫びを上げ。あるいは悲鳴を挙げていた。
「……仮初めの衣を捨てる」
 勢いよく天に伸びる黒い翼。一度羽ばたけばレイヴンの体は揺れ動く船から僅かに離れて足場として一定の補正を得る。
 丁度その時、彼の背後から飛び出して来た大魚がミサイルさながらの突撃を船に行い、甲板に突き刺さった。
「保護結界が効いてないのを見るに……やはり船も狙われているのかな」
「物による。さっきはムスティスラーフを狙っている奴等は船に傷一つつけていなかった! 流れに変わりはないだろう、迎え撃つ……!」
 身動き取れずにビチビチしているキハダロケッティカを見やりながら、レイヴンの翼が宙を叩いた瞬間。背後から顕現した魔法陣の中より薙ぎ払われた巨大な“鋏”が勇敢な大魚の腹部を貫いて薙ぎ倒す。
 同時にイオンが魔弾を海中へ数発撃ち込んでは近付かせることを阻んでいた。
「っと、と。Suviaさんまたお願いできるかしら?」
「勿論ですの」
 袖を捲ったSuviaが再びきゅっと検め。その手から魔力を養分とした茨の鞭が横薙ぎに振るわれた。
 瞬間、船の真下から急浮上したロケッティカの背ビレに幾重にも絡み付き、動きを止めたそれに詩緒が二丁の拳銃から光弾を連射する。
 血飛沫が上がりつつ船体の横腹を浅く切り付けたキハダロケッティカは船の真下へ逃げ込んで行く。
 宙を流れ落ち、パラパラと飛び散る甲板の木片が船のダメージを視覚化する。
 二隻の船、特にムスティスラーフのいる船は既に猛烈な爪痕が刻まれているが、それは開戦時のもの。今は船や彼だけを狙うその数も減り、戦場は上手く分割されていた。

「イリス・アトラクトス! キハダが食べたくてここまで来ました!!」
 水中から飛沫を上げて飛び跳ねるイリスを追って二匹のロケッティカが同じく跳ぶ。
 言葉が分かっているのかいないのか、少なくとも明確なまでに挑発されている事に気付いた感度の高いものが彼女を執拗に追いかけていた。
 イリスは身体の殆どを本来の姿に戻して水中を駆け回り、四方八方から突撃して斬りつけて来る鎌背ビレを曲刀で捌き受け流す。
 撫でつけられた刃と鎌の間で、高速振動によって溢れ起こる大量の気泡。
 直後、再度の突撃をしてきたロケッティカのエラにイリスのカウンターの一突きが刺し込まれる。
「はぁ! チェーンソー背ビレがなんぼのものよーー!」
「ぷっは……っ! 獲ったどー!!」
 浮上したイリスの前にどぼーん、と盛大に降って来たのはヒレが粉砕されて頭部が焼け焦げたロケッティカに跨るリッキーだった。
 その姿はあちこちに細かな傷が刻まれているものの、行動に支障が出るレベルではないと笑い飛ばして見せている。
 彼女達の周りには挑発したり、船を狙う事に固執している尾鰭に不意打ちを食らわせ、ロケッティカの持つ特性によって標的を変える事に成功した者が泳ぎ回っている。
 後方から飛来する小瓶。後ろ手に咄嗟に振り上げてキャッチしたリッキーがその中身を飲み干す。
 Suviaが投げ込んでくれた回復薬である。
「良い肩してるわね」
「リッキー様が上手く取ってくれるおかげですの」
 船上で肩を並べるSuviaと詩緒の眼前で、開戦から四度目の閃光が海上に放たれる。
 余波を受けずに済んでいる辺りはイリスの保護結界の恩恵か。ムスティスラーフが撃つ『むっち砲』は極太の光線となって今度は二匹に直撃し、近くに浮かび上がって来ていた。
「ローレットのムスティさんまじサイコー!!」
「ひゅう! これで六匹も仕留めてるぜぇ!」
 どう見てもカタギではない男達が船から身を乗り出して死体を掻き寄せ、イレギュラーズ達へ称賛の声が挙がる。
 彼等はこれから船の内部に置かれている品質保持の機能を持った装置へ獲った魚を投げ入れる役目があるのだ。
 激しい水飛沫が雨の如く降り注ぐ。
 その向こうから船上に見える黒いシルエット目指し突撃して来たキハダロケッティカ。鋼鉄も貫く嘴が鈍く唸り、レイヴンの眼前に迫る。
「さて……」
 ───”起動せよ、起動せよ、魔砦の巨蟹”
 涼やかな詠唱が凛と響き浸透していくのと同時。黒光弾が周囲に浮かび上がる。
 彼の衣服の下にある肌を微か切り裂いて、飛び抜けようとした巨大魚が不規則な軌道を描いて宙へ弾き飛ばされた。
 錐揉みして海面に叩きつけられたロケッティカへ容赦なく撃ち込まれる……否、投射されたのは黒く光る銛の数々であった。
 続く襲撃者はその亡骸を飛び越えてレイヴンへ襲いかかろうとするが、横合いから叩き込まれた銃撃に吹き飛ばされ落ちる。
「別に、仕留めてしまっても構わないんでしょう、ってね」
 クルクルと拳銃を手の中で回して決める詩緒に船員達からの拍手が起きる。
「よし! そろそろ半分は獲れただろうし、僕も降りようかな!」
 それまで位置取っていた船首から軽快に飛び降りると、暫し海水に浸かりながら彼は水中での動きを確かめる。
 それから直ぐに、船から離れて囮役をしていた史之の方へと向かう。

 水中で踊る様に攻防を繰り広げている中、イリスは初撃に手負いとなっていたロケッティカが数匹近付いてくるのに気付いた。
「これまた活きがいいね!」
 身を捻り、突撃を受け流して凌いだ彼女は続く背ビレによる擦れ違い様の一撃を上手く弾いて水の中をクルリと回る。
 微かな隙を見逃さず、一気に水中で加速した彼女は突撃後のロケッティカが僅かに方向感覚が狂っているのを見切って腹部へ斬りつけ、怒涛の勢いで攻めて行った。
 一方で、イリスより少し離れた位置では。
「とぉーりゃぁあ!」
「ぐっ! 何があろうとここは通さん!」
 海面から一瞬飛び上がり、水面を一歩、二歩と蹴りつけて駆け寄って来たリッキーが掌に光を収束させて振り下ろす。
 爆砕、尾鰭が焼け焦げても尚跳躍して前転する大魚。
 船の方向へは行かせまいと史之が正面に泳ぎ出た後、赤い理力障壁で弾いた所へ続くリッキーのダガーがエラから内部へ刺し込まれて絶命させた。
「よっし……ごぶ!?」
 息を吐く間もない。真下から撃ち出されたロケッティカの嘴が史之を障壁の上から押し込み、水中へ落とした。
 もがき、目を見開いて史之は近づいて来た魚の頭へ障壁で殴り付けて、頭上で漂っていた浮輪へ手を伸ばして浮上しようとする。
 しかしそれを彼に殴られたロケッティカは許さない。凄まじい速度で追い抜きながら背ビレブレードで史之を三枚の開きにするべく追撃する。
「ぷは……!」
 無防備な彼に気付く術はない。だがそこでこそ支援に回って来ていた後衛達の働きが窮地を救う。
「上がって来た所悪いけど頭を下げて!」
「ー!?」
 突然伸びて来た怒号に弾かれ咄嗟に水中へ沈んだ史之の頭上を、無数の鉛玉と光弾が通り過ぎて背後へ突き抜けて行った。
 驚き振り向いた彼の視界を更に埋め尽くしたのは、頭上から伸ばされた茨の蔓に絡みつかれたキハダロケッティカの姿とムスティスラーフに締め上げられている巨大魚達だった。
「ごっぶふ!?」
 思いっきり水を飲んでしまうのも無理は無いだろう。
 直後、リッキーとイオンが放ったオーラキャノンと魔弾が降り注いで更に水中が地獄絵図となった事は語るまでもなく。やはり無理もなかった。

「はぁ……はぁ……ひどい目に遭ったけど、任務はやり遂げたぜ」
「……む。誤射はしていないはずだが」
「多分そういう問題じゃないのかもね?」
 首を傾げつつ。浮かび上がって来たキハダと、ぐったりした史之を回収しながらイオンは訝し気に呟いた。
 いずれにせよ、こうして前衛の活躍により船は沈まなかった。

●実ッッッ食ッッ!!!
 一仕事終えられたイレギュラーズ達を迎えたのは海の戦士達を癒す漁業組合(ギルド)の食堂で並ぶ数多の料理スキルを有した屈強な男達だった。
 もしや丸焼きでも出て来るのでは……と一同は幾らか不安を覚えるが、それを払拭して余りある程の絶景が数十分後に広がる事になる。
「今回の『依頼報酬』に加えて、俺達からの討伐報酬って奴だ。
 雰囲気に品が無いのはすまないが味には自信がある、どうか食べて行ってくれローレット」
 テーブルに所狭しと並べられた皿に盛られているのは刺身を始めとした、キハダロケッティカを余す所無くふんだんに使った海鮮料理の数々である。
 組合の料理長らしき男の後ろから顔を出したのは、史之とリッキーの二人である。
「狩りが終わればメシの時間。……それはこの世の摂理、場所が海でも陸でもかわらんのだー!」
 食堂のあちこちから歓声が轟き、男達から謎の声援が殺到する。
「というわけでまずは味見してから、僕と史之でここの人達と作ってみたのだ!
 特に食べたい物が思いつかない人はお勧めの、前から食べたいと思ってた物がある人達は用意してあるからそっちも食べてってなー!」
「寿司を握ったのは今回料理スキルが捗った俺だぜ……」
 何処となくやり遂げた顔をしている史之が言うには、カルパッチョやバター醤油ステーキも作ってあるらしい。そちらは余程食べたがっていたと見える情報屋へ持って行くつもりらしい。
 というわけで他の仲間達も、仕事を終えた疲れを癒す目的も兼ねて食事の席に着く事にしたのだった。
「カルパッチョあるのは嬉しいなあ、妹に持って帰れるくらいの量あるし」
 並ぶ皿に乗った料理を眺めながら呟くイリスはテーブルの下にいた黒子からタッパーを受け取り、お土産に入れるのだった。
「いやー、海洋の依頼を受けるたびに何か食べている気がするよ。やっぱり魚はサシミだよね! サシミ!」
「生で刺身もいいが、少し炙ったぐらいが好みだな」
 舌鼓を打って頬を微かに緩ませるレイヴン。一方でイオンはそれとなく盛られていた炙りをフォークで取った。
 炙られた見た目は少し身が硬そうだ。しかしフォークで『刺した感触』が無い事に彼女は気付いたろうか。
 きっと甘いフルーツペーストソースのかかった炙りロケッティカを食せば、じゅわりと広がるジューシィさとさっぱりした脂身が彼女の舌を溶かす事だろう。
 食の娯楽を楽しみ、イオンは笑顔で今後の課題について思案を巡らせるのだった。

「今日の依頼は途中で何度船の底に穴を開けられるかと思ったよ~、うん! みんなで頑張って獲った魚は美味しいね!」
 ムスティスラーフは普段海の幸を口にする機会が少ない分、ここぞとばかりに種類豊富に皿を盛り付けていた。
 少し珍しく映った、『キハダのパイ』というロケッティカの頭がパイの包みから顔を突き出しまくっている物が一際オーラを放っている。
「んー、もう少し色々 “効かせて” も好かったかナ? もぐもぐ……」
「刺身は必須として……できれば主だった料理は制覇したいところね」
 いつの間にか席に着いてがっつりと、自身が調理した香草焼きに果汁をかけたステーキを食べているリッキーの隣で詩緒が小皿に少しずつ持って食べていた。
 そこへゆるりとした動きでお茶が添えられる。
「うふふ、皆様おつかれさまでした。
 おいしいお魚がいただけるということで、お茶は緑茶系のブレンドを準備して来ていますの」
 戦闘時に染み付いた潮の香りを漂わせて現れたSuviaに「どうぞ」と差し出された緑茶を詩緒は受け取った。
 気づけば他の仲間達の卓にも配られている様だ。
「食べ放題飲み放題、やったね! やっぱりアガリは熱い緑茶かな……うん、美味い!」
 自身のギフトで様々なドリンクを出しながら、Suviaに淹れられたお茶を飲んで……波に揺られ続けた疲れから来る気怠さが吹き飛ぶような爽快感を覚えた。

 海洋の朝は早く、潮風は常に吹いている。
 だからこそ、一仕事を終えた後の黄昏時は特別な時間を作り出すのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

依頼は成功、お土産を受け取った何処かの情報屋も大層喜んでいたそうです。
お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。
またのご参加をお待ちしております。

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