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シナリオ詳細

悪人と飢えた牙
悪人と飢えた牙

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

「いつまでもニヤニヤしてんじゃねえよ」
 果実酒を呷って、ダッカスは手下に唾を飛ばした。もっとも、髭に覆われた口元が微笑を刻んでいるから、本気で叱っているわけではない。
「いやぁお頭、へへへっ……」
 それがわかっているから、禿頭の大男も戦利品を弄うのをやめなかった。太い指の中、焚き火の光を受けて輝くのは金色の装身具だ。
「こいつ、売ったらいくらになりやすかねぇ」
「さあなぁ。ま、貴族さまの持ちもんだ。当分、食うには困らんだろうぜ」
「うっひょ~ありがてぇ、貴族さまさま……ん?」
 女性の髪に似合うお宝に分厚い唇でキスをしたとき、入口から物音が聞こえた。何かと思えば、仲間である痩せぎすの男が洞穴に入ってきていた。
「お頭、ただいま戻りやした」
「おう、ご苦労。ちゃんと隠してきたか?」
「それはもう。俺たち以外には絶対わかりゃしやせん……」
 報告の間も、痩せた男の目はちらちら焚き火を、正確にはそこでよく焼けた獣肉を盗み見ている。
 よそ見する手下の頬に、ダッカスは杯を押し当てた。
「食って飲め! その分、明日はしっかりお宝を担いでもらうからな!」
 そして男たちは肉にかぶりつき、酒をかっくらった。大金を得る、そう遠くない未来に思いを馳せながら。

 岩場の陰から一対の緑瞳が現れた。
 四、六と数は増え、合計十四の緑瞳が薄闇に瞬く。
 灯り、そして焼けた肉の芳香が漏れ出てくる洞穴を遠く見据えて、最後尾のひと際大きな獣が鳴く。それが合図のように獣の群れが荒野を駆け出した。


●盗まれた品々を取り戻せ
 ギルド・ローレットに届いたその依頼は、単純明快なものだった。
 盗みを働いた賊を討伐し、盗品を取り戻すこと。
「この依頼は被害に遭った貴族の方からのものなのですが、この盗賊たちはそれまでにも、たびたび窃盗を繰り返しているようなのです」
 自前の調査結果を補足しつつ、ユリーカ・ユリカ(p3n00002)が内容を説明する。
 その盗賊は、ダッカスという髭面の男を頭目とした三人組だ。
 被害に遭った貴族はすぐさま子飼いの兵に盗賊たちを捜させ、そして首尾よく、盗賊たちがフィッツバルディ領はずれの荒野に身を潜めているのを突き止めた。
 そこまでいけば、もうギルドの手を借りる必要もなさそうなものだが……。
「盗賊たちが隠れている洞穴周辺は、人喰い狼の縄張りになっているのです。だからうかつに手を出せないのですね」
 野生の獣を追っ手避けに利用するとは、小悪党にしては考えたものである。
 だが、特異運命座標(イレギュラーズ)にそんな策は通用しない。
「皆さんの戦闘力なら狼の群れが相手でもへっちゃらなのです! でも、できるなら狼とは遭わない方がいいですし、戦うことになっても油断はしないようになのです」
 盗賊が潜んでいる洞穴の場所は教わっているので、現場まで迷う心配はほぼないだろう。
 なお、盗賊の討伐は生死を問わないが、可能なら生け捕りが望ましい。
 もしも盗品をどこかに隠していたら、隠し場所を聞き出す必要があるからだ。
 とはいえ自分自身の命が最優先。危なければそうも言っていられない。
「帰りは捕まえた盗賊を連れて狼の縄張りを通ることになるので大変とは思いますが、皆さんならできると信じています。無事の帰りをお待ちしてるのです!」
 そこまで言ってから、ユリーカは小首を傾げた。
「それにしても、盗賊たちはどうやって狼に襲われずに済んでるのでしょうか。真っ先に襲われてもおかしくないと思うのですけど……」

GMコメント

 特異運命座標の皆様、こんにちは。
 吉北遥人(よしきた・はると)と申します。
 このたびはシナリオのご参加をありがとうございます。

 本シナリオは皆様の行動しだいで、戦う相手や状況が若干変化します。
 悪人を守るか、見殺しにするか。
 皆様はどうしますか?


■成功条件
 盗品の奪還。
 盗品を全部取り戻せたら大成功、全部じゃなければ小成功といった扱いです。
 盗賊たちの生死は問いません。

■戦場と状況
 時間帯は夜。星明かりがあるくらいで、外は薄暗い。
 岩場が点在する荒野。凶暴な狼の縄張りとなっています。
 その岩場のひとつ、天然の浅い洞穴に、盗賊たちが潜んでいます(場所が判明しているので、そこまで問題なくたどり着けるものとします)。
 洞穴内は動き回れる程度の広さがあり、中央の焚き火が唯一の光源です。片隅に盗品入りの袋が置かれています。

 狼たちは肉の匂いに誘われ、盗賊たちに襲いかかろうとしています。
 そのため、皆様の行動や介入するタイミングによって、戦う相手・状況が変化します。
 主だった行動・タイミングを例示します。

A:狼が襲ってくる前に盗賊を討伐する。
 戦う相手は、盗賊。その後に狼。
 戦闘が長くなるパターンですが、犠牲は抑えやすいです。
 盗賊との戦いが早々に終われば、狼戦に備えた工夫(プレイング次第です)もできるかもしれません。


B:狼が盗賊を襲っている最中に、突入する。
 戦う相手は、狼と、弱体化した盗賊。
 盗賊側は一人か二人死にます。戦闘の経過によっては全滅もありえます。
 狼の不意を突けるので戦闘の難易度は低いです。


C:狼によって盗賊が全滅した後に、突入する。
 戦う相手は、弱体化した狼。
 盗賊たちの全滅後、狼は洞穴に居座ってしまうので、盗品回収のためには戦わなくてはいけません。
 満腹になった狼たちは動きが鈍くなっているので、戦闘の難易度は最も低いです。


D:先に狼を倒す。
 戦う相手は、狼。その後に盗賊。
 ABCが洞穴の中やその周辺での戦いになるのに対し、こちらは荒野での戦いとなります。
 最も戦闘が激しくなりますが、うまくいけば犠牲を完全に抑えられます。
 ただし戦闘の音を聞きつけて盗賊たちが逃げる恐れもあるので、注意が必要です。
 

 ここに挙げた以外の行動やタイミングもあります。
 それぞれ利点・注意点を考慮し、どう動くかを決めてください。


■敵情報
【人喰い狼(キラーウルフ)】
 数は七匹。
 民間人には脅威ですが、特異運命座標の皆様にとってはたいした敵ではありません。

・使用スキル
 咬みつき:物・至・単。鋭い牙で咬みつきます。

 ウルフパック:物・中・ラ。ランダム対象を数匹がかりで襲います。四匹以上いるときのみ使用。


【盗賊】
 ダッカスという男を頭目とした三人組。
 この荒野が狼の縄張りとも知らずに、洞穴に隠れています。今までは幸運にも襲われてなかっただけです。
 酒で酔っ払っているため、非常に弱いです。

・使用スキル
 斬撃:物・至・単。所持したナイフで斬りかかります。

■その他
 例えば、探し物を見つけやすくなる技能など、
 有用そうなギフトやスキルがあれば積極的に試してみてください。有利な判定を行うこともあります。
(その技能を使ったせいで不利になる、ということはないのでご安心ください)


 状況説明や補足等は以上となります。
 それでは皆様のプレイングをお待ちしております。

  • 悪人と飢えた牙完了
  • GM名吉北遥人(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年02月04日 21時10分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

カイン・ルディム・スティレット(p3p000739)
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
楔 アカツキ(p3p001209)
軋む守り人
サングィス・スペルヴィア(p3p001291)
宿主
ラデリ・マグノリア(p3p001706)
ポイズンキラー
シルシィ(p3p002089)
一神導体
エイリーク=トールズ(p3p002096)
快賊王
ルチアーノ・グレコ(p3p004260)
Calm Bringer

リプレイ

●荒野
 星々が頼りなげに瞬いている。
 荒野にわだかまる闇はイレギュラーズの行軍に支障をきたすほどではなかったが、触れそうなくらいの密度はあるように思えた。それでもランタンを覆う黒布を外さないのは、ここがすでに人喰い狼のテリトリーだからだ。
 狼の到着を少しでも遅らせるべきだろう――『特異運命座標』楔 アカツキ(p3p001209)の提案による消灯は、道中で彼らが狼に襲われるリスクを下げていた。その分、視界が悪くなってしまっても、索敵に関しては『メルティビター』ルチアーノ・グレコ(p3p004260)がギフトを発動し、常に警戒しているので不意の襲撃を受ける心配はない。
 それに、目的地を見失うという心配も、もうなかった。
「さーて仕事だ仕事――っと……今はまだ小声だな小声」
 整った顔立ちに似合わず荒っぽい声をひそめたのは、カイン・ルディム・スティレット(p3p000739)だ。火の付いてない松明を片手に持ちつつ、彼の金瞳は、目と鼻の先まで迫った岩場に――正確には、そこから漏れ出ている灯の光に向いている。
「盗賊、か。彼等のことは、よく分からん。なぜ他者の物を盗むのか。奪われた者から、何をされるか、予想さえ、していないのだろうか」
 光、そして焼けた肉の匂いに、中に隠れる者たちを想ったのか。ラデリ・マグノリア(p3p001706)が独りごちた。所業そのものよりも因果を度外視した思考に疑問を呈して、狐の賢人は大きな帽子の下でかすかに息を吐く。
「……その結果の、俺たち、か」
「できるなら穏便に解決したいね」
 他の者たちの膝下くらいの高さで、『一神導体』シルシィ(p3p002089)がぴょんと跳ねた。ふわふわな白毛が揺れる。
「ちゃんと心を篭めて説得すれば、盗賊さんだって分かってくれて改心してくれるかもだしね!」
「『説得』……そう上手くいけばいいわね」
 無邪気とも言えるシルシィの言葉に返ってきたのは、どこか含みのある微笑だった。短く切り揃えられた銀髪の下、『宿主』サングィス・スペルヴィア(p3p001291)が切れ長の瞳でシルシィを横目する。
「依頼内容は盗品の回収――盗賊たちが素直に言うことを聞かない場合は、強引な手段に出ることになるわ。相手が口を割るまで拷問する覚悟、シルシィ、アンタにはあるかしら?」
「待て、スペルヴィア」
 挑発的な視線からシルシィを庇うようにアカツキが割って入った。その目つきは常よりも険しい。
「ときには手荒な手段も必要だ。それは否定しない。だが、もしも拷問を強行するつもりなら、そのときは全力で止めさせて貰うぞ」
「あら、強行なんて。あくまで『必要なとき』よ。仕事仲間の裏をかいてまでするほど、盗賊の苦鳴に興味はないわ」
 どこまでが本心か探るようにアカツキが睨み、スペルヴィアが冷然とそれを受け止める。両者間の空気が張り詰めるが――。
「みんな、狼だ」
 固い警告はルチアーノのものだ。ほかの皆には見通せぬ闇を、ギフト『夜目』をもって真昼のように透かし見る。
「ここから南東の岩場。数は六、いや七匹。まだ遠い……けどこっちを見てる」
「そうとくりゃあ急がねぇとな。さてと……」
『快賊王』エイリーク=トールズ(p3p002096)が巨体のわりに音のない動きで洞穴に近づいた。入口脇で屈み、罠の有無を調べる。
「貴族から盗みを成功させて、野生の狼を使って守りを固めるか」
『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)が洞穴と荒野を見比べた。メイド服という場にそぐわなさそうな出で立ちだが、まるでここがお屋敷の一室であるかのように冷静な面持ちで敵を分析する。
「なかなか油断ならない相手のようだね」
「そのわりにゃ不用心みてぇだがな」
 いささか拍子抜けしたようにエイリークは囁いた。
 入口に侵入者への備えはまったくなかった。それだけ狼の守りに自信があるのだろうか。
「罠がないなら好都合だ、さっさと行こうぜ――オラオラァ! 頭目は誰だぁ!?」
 カインが真っ先に突入し、皆もランタンを置いて、追うように洞穴内に入っていく――スペルヴィアを除いて。
 中から怒号や喧騒が聞こえるのも気にならぬげにスペルヴィアは入口周りの壁を観察した。手頃な位置にランタンを置いて黒布をはずす。
「はぁ、愚かにも程があるわね」
 もういくつかランタンを設置して照明を確保すると、スペルヴィアは何事もなかったように洞穴へと歩み入った。

●盗賊
「オラオラァ! 頭目は誰だぁ!?」
 ときならぬ怒声、そして洞穴内に飛び込んできたイレギュラーズたちに、盗賊たちは飲んでいた果実酒を吹き出した。
「名乗ったら真っ先にぶっ潰す、そうでなくてもぶっ潰す!」
「だとぉ!? やれるもんならやってみやがれ!」
 カインの選択肢のない威喝に対する盗賊の反応の速さは、賛嘆に値した。すぐさまナイフを抜き放ち、突き込んできたのだ。惜しむらくは足取りがふらふらだったことだろう。ナイフを悠々とかわしたエイリークの巨腕が盗賊の首に巻きつく。
「おう、ダッカスってのはどいつだぁ? 全員同じケチなツラしてるんで見分けがつかねぇぞ! 頭張ってる奴が、名乗る度胸もねぇとか腰抜けたことは言わねぇよな!」
「エイリーク。口元が髭に覆われた男がダッカスだ」
「おう、そうか! ってこたぁ……」
 アカツキの追加情報に、エイリークが改めて洞穴内を見回す。
 ドーム状の空間は洞窟と呼ぶには浅いが、動き回れる程度のスペースと高い岩天井のため閉塞感はさほどない。中央には焚き火。少し離れた所に転がっている松明は、暗がりを減らすために今しがたカインが着火したものだ。
 そして炎の照り返しを受けて立ち尽くす男が二人。腰が引けた禿頭の男に、怯えを隠せてない痩身の男。いずれも髭は薄い。つまり……。
 自分の腕の中でもがく髭男をエイリークは見下ろした。
「アンタが頭目ってわけか」
「はなっ……し、やがれ!」
 ぐいぐい締め付けてくる腕を力ずくで引き剥がし、盗賊ダッカスはほうほうの体でまろび出た。赤ら顔は青くなっていたが、咳き込みながらもナイフはしっかり持ったままだ。
「盗賊さん、お願いだから降伏して!」
 シルシィが切々と訴えた。
「人数も武器もこっちの方が多いんだよ。おとなしく捕まってくれたら、痛いことはしないから」
「そいつはお優しいこって……なんて言うかよ!」
 だが勧告は無情にも切り捨てられた。依然としてふらつきながらもダッカスが立ち上がる。
「大金まであと少しだってのに捕まってたまるか! いくぞお前ら!」
「へ、へい!」
 ダッカスの号令に二人の手下が弾かれたように動いた。こちらも酔いが回っていて足取りが危ういが、その手のナイフはなかなか刃渡りがあって侮れない。
「やはり、容易くは、受け入れられないか」
 だがナイフを前にしてもラデリに怖じる気配はなかった。むしろ自分から肉薄すると、痩身の盗賊に掌を向ける。
「っ!?」
 不可視の衝撃に痩せ男が呻いた。威嚇目的の術のため威力はさほどないが、充分だ。呻く盗賊をルチアーノが横合いから蹴り飛ばす。
「さっさと抵抗やめとけ、手加減し損ねて殴り殺しても知らねぇぞ?」
 一方、禿頭の盗賊のナイフは、エイリークがその持ち手ごとがっちり掴んでいた。降伏を呼び掛ける間にも顔面に一発、二発と拳骨をかます。
「ごめんね!」
 鼻血を噴きながら目を回す禿頭の男の腹を、シルシィがトンとつついた。直後、衝術によって大男の体が冗談のように吹き飛び、奥の壁に叩きつけられる。
「――こんな具合に動けなくなるまで叩かれてから捕縛されるのと、無傷のまま優しく捕縛されるのとではどちらがいいかな?」
「舐めやがって!」
 くの字に折れて真横を通過していった手下に一瞬声を詰まらせながらも、ダッカスはメートヒェンに吼え返した。しかし威勢に反して、アカツキを狙って突き込むナイフは空を切るばかりだ。
「力の差は理解できたか?」
 顔をわずかに傾けて刃をやり過ごし、アカツキは盗賊の胴に膝を叩き込んだ。間髪容れずにカインがローキックで呻く敵の脚を刈る。転倒をこらえるようによろめいたダッカスが、最後の足掻きとばかりにナイフを投げつけた。その先にいるのはメートヒェンだ。奇跡的なまでに心臓にドンピシャの投擲は、メイド服の上で硬い音をたてて跳ね返った。
「え?」
 ダッカスが目を丸くする間に、メートヒェンは宙空のナイフをキャッチし、刃をグニャリと飴のように曲げてしまっている。さらに、ダッカスにすっと歩み寄ると、お返しとばかりに髭面にとどめのビンタを見舞った。

●人喰い狼
 終わってみればあっという間の制圧だった。
「やっぱり足りない」
 洞穴にあった盗品入りの袋と、事前に作成していたリストを見比べると、ルチアーノはリボルバーの撃鉄を起こした。銃口の先では、洞穴奥の壁際で盗賊たちが縄で縛られている。三人とも顔がびしょ濡れなのは泣いているわけではなく、ラデリが酔い覚ましに水をかけたからだ。
「隠し場所を吐いてもらわないとね」
「では聞き出すとしましょうか」
 スペルヴィアが進み出る。盗賊戦は参加前に勝負がついていたが、彼女にとってはここからが本番だ。しかしアカツキがその歩みを制止する。
「まずは説得に応じて貰えるか、か……」
「ねぇ、ほかに盗んだ物をどこに隠したか教えてよ?」
 優しい口調で問いただしたのはシルシィだ。禿頭の盗賊の鼻血を拭いてあげながら、悲しげに眉を寄せる。
「持ち主さんが困ってるし、返してほしいんだ。このままだと盗賊さんたちをここに置き去りにするか、然るべき所に突き出さなきゃいけなくなっちゃう」
「脅そうってか。今さら恐かねぇよ」
 だが、ダッカスは鼻で笑った。
「隠し場所なんざ知らねぇ。知ってたとしても、教えるくらいなら死んだ方がマシだ。おい、そこのガンマン。遠慮なくズドンとやってくれよ」
「……命と健康があれば、どうにかなるものだよ」
 銃を向けながらも、ルチアーノにはそれほど敵意はなかった。
 持てなかった、という方が正しいかもしれない。悪事で生計を立てる男たちは、孤児だったルチアーノにとってありえたかもしれない未来の姿だ。だから他人事とは思えないし、叶うならば更生してほしい。悪行の報いが、最悪の形をとってやってくる前に。
 そのためにも彼らには、自分から隠し場所を話してほしかった。そうすれば、彼らの罰が軽くなる可能性も生まれるかもしれない。
「だんまりを決め込むなら、こっちも強引な手段に出ることになる。指一本失うだけでも生活に支障が出るよ? それにこれから狼の縄張りを抜ける事になる。怪我してたら逃げ切れずに食われかねないよ?」
「ハッ、指だろうが足だろうが好きに……狼? 縄張り? 何言ってんだ?」
 ルチアーノの言葉に、ダッカスが不可解そうに首を傾げ、そのとき――。
 高い遠吠えが聞こえた。
「おい、なんだ今の?」
 状況を飲み込めていない髭面がわめくのをよそに、イレギュラーズたちは武器を構えて戦闘態勢に移っている。その目は洞穴の外に向いていた。
 入口付近には焼けた獣肉が転がっている。盗賊を縛る間、エイリークが放り投げていたものだ。投げ捨ててるときは、痩身の盗賊が恨みがましい顔をしていたものだったが、その顔が今、恐怖に引き攣った。
 ランタンの光の中、肉に喰らいついた獰猛な獣に、眼球がこぼれんばかりにダッカスが目を見開く。
「なんだよ、あれ!?」
「おかしなことを言うね。ここが人喰い狼の縄張りなのを利用して、ここに隠れていたのだろう?」
「なわけねぇだろ!」
「なるほど……。手なずけていたわけではなく、偶々襲われていなかっただけなんてね」
 呆れるでもなく、どこか納得したように頷きながら、メートヒェンは入口へと走り出した。狼の侵入を防ぐために、前衛たちで入口を固める。
「盗みなんてセコい真似で食い繋いで、果ては狼の腹の中じゃ哀れすぎて涙も出ねぇ。そうなる前にちっとは人生改める機会になりゃ良いんだがなぁっ!!」
 洞穴を飛び出したエイリークが豪腕を一閃した。疾走の勢いが乗った拳に、肉にむしゃぶりついていた狼が掬われるように吹き飛んだ。岩場に叩きつけられ、狼が細い苦鳴をこぼす。
 しかしそのときにはエイリークも全力で身を反らさねばならなかった。
「チッ、こいつら!」
 裂かれた胸板が血に滲むが、反応が遅れていれば喉首に喰いつかれていたはずだ。キラーウルフと恐れられるだけあって、人間の殺し方をよくわかっているらしい。
 そして強襲は終わりでなかった。別の数匹が、四方から駆けて来たのだ。牙の鋭い輝きが、絶妙な時間差でエイリークに襲いかかる。
「ウオラアアアッ!!」
 煮えたぎる咆哮が獣の集団戦術に切り込んだ。鋭くカインが急接近し、悪臭をあげる毛皮を殴りつける。別方向から跳びかかっていた個体はエイリークに到達する寸前、スペルヴィアの遠術の矢が突き立ち、撃ち落とす。
 同時に反対側ではメートヒェンが別の狼を弾き返していた。高度な防御技術と牽制に阻まれた狼を、アカツキが追撃する。同一目標を狙っての各個撃破を戦術とするのは狼だけではない。リズミカルな拳撃が狼の顎を打ちすえる。
 洞窟へと退避するエイリークと入れ替わりに、シルシィが大きく息を吸った。
「――僕の名はシルシィ! 耳あらば我がもとに導かれよ!」
 小柄から発された朗々たる名乗りに、狼の意識が一斉に向いた。今しがたアカツキに殴り飛ばされた狼が、唾液の糸を引いて牙を剥く。だがそいつが跳びかかるより速く、銃弾がその前肢を撃ち抜いた。ルチアーノの精密射撃だ。
「今盗賊が餌になられると仕事ができねぇんだ。オレの野望の第一歩のために、テメェらはぶっ飛ばす!」
 銃声の残響に風切り音が重なった。脳天にカインの拳をくらい、狼がその場で失神する。
「……俺たちを守ってんのかよ?」
 イレギュラーズたちの布陣からそう悟るのは難しくなかったろう。ダッカスが近くに佇むラデリに訊ねた。
「お宝の場所を知るためか? ハッ、がんばるねぇ」
「俺としては、話そうが話すまいが、構わない」
 エイリークの傷を緑の抱擁の光で癒しながら、ラデリは淡々と答えた。
「盗賊の身を案じるのも、忙しいからな。ここに置いて、獣の胃の中に逃がしてやってもいいと思うが」
 片眼鏡の奥で真摯な瞳がダッカスを捉えた。
「ただ助けたいと、願う者もいる。これはその結果に過ぎない」
「……」
 ダッカスが何か考えるように口ごもったとき、前衛側で異変が起こった。
「ひっ!」
 息を呑む盗賊たちへと迫るのは一匹の狼だ。最も弱い者を襲うべく前衛を突破した狼が、大きく牙を剥く――だが噴き出した血はダッカスのものではない。
 ブロックに成功したルチアーノが、自らの肩に咬みつく狼の腹に銃弾を叩き込んだ。吹っ飛ぶ獣をスペルヴィアが魔力の矢で追撃する。標本のように岩壁に縫い止められた狼がもう動くことはなかった。
 高い遠吠えがそのときまた響いた。離れた場所に控えていたひと際大きな狼のその吠え声に、狼たちがさっと踵を返す。戦闘不能となった三体を置いて、残りの狼たちは荒野の闇に消えた。
「肉食獣とお隣さんなんてな。おめでたい奴らだ」
 洞穴奥に戻ってきたカインがパキポキと指を鳴らした。
「さて、まだ場所を吐かねぇようなら、間もなくテメェらに不幸な出来事が起こることになる」
「……ああ、吐くぜ」
 意外な返答に、カインが虚を突かれながらも拳を下ろす。
 手下に「お前らも文句ねぇな?」と確認すると、ダッカスはルチアーノに視線を移した。ラデリの術で完治しつつある肩を眺めつつ、髭面に微笑を浮かべた。
「指一本でも失くしゃあ、生活に支障が出るもんな?」

●帰路
 残りの盗品は、盗賊たちが白状した通り、少し離れた岩場に埋められていた。
 盗品入りの袋を掘り出し、イレギュラーズたちは盗賊を連行しての帰路につく。
「めでたしめでたし、といったところかしら」
『――つまらなそうだな』
「あら、心外ね?」
 呪具――サングィスの声に、スペルヴィアは表情は微笑のまま応じた。
「ねえ、もう盗みなんてやめようよ」
 一方、ルチアーノは盗賊に更生を促していた。
「明るい稼業は地道にしか稼げないけど、心穏やかに生きられるものなんだよ」
「ありがてぇが今さら無理だ。ずいぶん人様から盗んだんだ……なかったことにはできねぇよ。手下はまだしも、俺は縛り首に違ぇねえ」
「……反省しているのなら、依頼主に一言添えてやらんでもない」
 淡々とアカツキが言い、シルシィも大きく頷く。
「改心したってわかれば、きっと刑も軽くしてもらえるよ! だから諦めないで」
「罪を償ったらオレの船を訪ねて来い。力仕事ができるんなら雇ってやるよ」
 エイリークの誘いに、禿頭の手下が感極まったように泣き出す。宥めるようにその背を叩くカインが、ふと闇に目を止めた。
「こっちを見てるみたいだな」
 闇の奥は見通せないが、遠くの小さな緑の光点は見覚えがある。
「本当は全滅させた方がいいのだろうけど、今は危険だね」
「早々に、縄張りを抜けるとしよう」
 メートヒェンとラデリの言葉に頷き、一行は脚を速めた。

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 冒険お疲れ様です。
 すべての盗品を回収できたので大成功です。
 また戦闘では、狼を追い払う程度にするなどの、任務達成を主眼とした良い工夫や作戦がされていたと判断しました。
 盗賊への対応も、盗賊の性格を考慮しながら、優しさと厳しさの両備えで向かったのは見事です。今回に関しては、ダッカスは優しさで心動かされました。

 この後、盗賊たちは裁きを受けますが、皆様の口添えもあり極刑は免れます。刑期を終えたら彼らは……という未来は未定ですが、この未来があるのは皆様の選択・行動の結果です。
 ご参加ありがとうございました。

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