シナリオ詳細
こいつ超でっけえから見たら超でっけえよ!
オープニング
●
どうして彼がそうなったのかを語るには、まず、彼の幼少期にまで遡らなければならない。
それは彼がまだ5才の頃のことだ。
鉄帝のとある所で産まれ育った彼の周りは、とにかく屈強な者が多かった。
お国柄もある。
特に、祖父がスゴかった。
齢90を迎えていた祖父だが見た目は若く、頭は禿げ上がっていたが肉体はエネルギーに満ち満ちていた。
身長は2mを越え、子供の彼から見たらそれは、まさしく巨人だったのだ。
「うっわーじいちゃんでっけー! すっげぇー! マジやべぇ! マジかっこよさやべぇ!」
この瞬間から彼の中で、大きいはイコール、かっこよさの象徴となった。
「この家横になげぇー! でっけー! マジやばくね? マジすげえええ!」
10才の頃には建物に感動した。
「おいおいマジかよ海でっけぇな……こんな広いなんてマジでけぇよ……めっちゃふけーよこれ底無し海だよ……」
二十歳を迎えて旅した海洋の風景にも感動した。
「うおぉ山! 山だでっけぇ! 頂上みえねぇくらい高い頂上だからでっけぇ山だよこれ!」
三十路を越えてもでかいものを探し、定期的に旅に出て彼はたくさんの大きなものを見てきた。
そんな彼が、一度、かっこいいとは思えない大きなものがある。
それは、
「なん、だ……これは……でけぇ……でか、え……生きて、いる、のか……」
巨大な動く影。
深い霧の立ち込める場所で出くわしたその姿を、はっきりと見ることは出来なかったが、とにかく。
そんな存在があるのだと。
そう思った時、彼は決心した。
「俺も……でっかくなりてぇ……!」
●
「いやなんでだよ」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)が笑いながら語る話に、イレギュラーズのツッコミが入っていた。
「つまりこれは、いままでカッコいいと憧れだったものが、ついには目標になったという事さ。ただ見ているだけじゃない、自分もそうなりたいと思う、すごい成長じゃないか?」
「あ、え、うーん……」
たしかに。そういわれてみると。進歩している。
「わけねーだろ」
そんなことはなかった。
「まあいいよ。それで? 今度は何をすればいいんだ?」
わざわざそんな話を聞かせるためだけに呼ばないだろう。どうせ今回も依頼の話だ。
そんな信頼と信用はあると、イレギュラーズはその先を促した。
「うん、そうだな。ここからが本題だ。
さっきも言った通り、大きなものに憧れた彼は、自身もそうなろうと思い立ったわけだが、ここで最重要な問題に直面する」
それは、
「それはなんと、人は巨大化なんてできないと言うことだ」
「いや当たり前だろ何言ってるの」
まあまあ聞いて、と手で制す。
「そこで考えられたのが、ガワを作ると言うことだ。自分が大きくなれないなら、大きなモノを自分に被せればいい、というわけだね」
ショウは、一枚の紙を机においた。
真新しいその紙面に描かれているのは、人型の設計図だ。
「トラッシュマン」
仔細に記される部分。
人体で言う骨の部分に使われるのはしっかり作り込まれた鉄だ。しかし、それ以外、主に材料に使われた素材は、クズ鉄やガラクタになっている。
故に付けられた名が、ごみ男。
「人間で言う、各関節駆動部に、支えとなる術式が組み込まれている。
それを、胸の部分に搭乗した人間が操縦するわけだが、なにせ大きい。5人程の人間が分担して操縦することになる」
複数人が動かすので、正直な話、複雑な動きや細かな動きが全く出来ない欠点がある。
「さて前置きはここまでとして、皆への依頼は、このトラッシュマンと戦うことだ。倒してしまっていい、むしろ倒してしまおう。でかい敵を倒すのは、爽快だろう?」
「いや、まあ、そうだろうけど……そもそもなんで戦うの?」
でっかくなれたのだから目的は達成できたのでは?
そう疑問するイレギュラーズの声に、表情を引き締めたショウは、
「完成したからには動かしたいだろう? 戦闘を可能なように設計したから、その性能を試す、という意味合いが大きいね。かといって、普通の人相手には使えないから、戦闘経験豊富な君たちを選んだというわけだ」
と、そこで言葉を切ったショウは、別の紙をイレギュラーズに渡して、言う。
「詳細はそこに書いておいた。場所は鉄帝の領地内にある広場で、物見遊山な観客もいるだろう」
武力で大抵の事を済ませるお国柄だ。興味を持たないわけがない。
「一つ、いいとこ見せにいこうじゃないか」
- こいつ超でっけえから見たら超でっけえよ!完了
- GM名ユズキ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年09月19日 21時40分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
そこは、多くの視線にさらされていた。
広く、円形に、腰ほどの高さの柵で囲い、人為的に作られた広場だ。
その外側に、たくさんの人が円に沿って並んでいる。
そうして見るのは、円の中央にそびえ立つ大きな物体。ごみ男と呼ばれ、トラッシュマンと名付けられた巨人だ。
「…………でかいな」
「でかい……」
「超でっけえですね」
囲いを越え、内側。トラッシュマンから少し離れた位置に、イレギュラーズは居る。
呆れたように、ただ感想として言うように、または感嘆して。
声を漏らした『信風の』ラデリ・マグノリア(p3p001706)と『天翼』ナギ・アルスノーヴァ(p3p005258)、そして『特異運命座標』リリアーヌ・リヴェラ(p3p006284)は、見上げた顔を正面に戻す。
「いやー、超でかいですねー、着く前から見えてましたもんね」
あははと乾いた笑いは『布合わせ』那木口・葵(p3p000514)の物だ。後ろ首を手で押さえながらコキッと気持ち良く音を鳴らす。
首にダメージだ。
「巨大ロボで五人乗りとか、戦隊物のようですね……なんというか、まあ……」
男の子だなぁ。
と、溜め息混じりに呟いた『強襲型メイド』ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)の声に、異議を唱える声が返る。
それは、前方。高い位置から落ちてくるもので、
『ロボじゃあないぞメイド君、トラッシュマンだ!』
今回の依頼主。トラッシュマンのメイン操縦者の声だ。
「何が違うのでしょう……」
よく違いはわからないが、とにかく違うらしい。
「おーっ、巨大なゴミのおっさん!」
そして『特異運命座標原人』リナリナ(p3p006258)は単純に理解してなかった。
見上げる瞳が見るのは、とにかくデカイ一人のおっさんとしか認識出来ていない。
「まぁ、大きなガラクタですわねー……お掃除が大変そうですわ」
「なんていうか、ロマン溢れてるわね……!」
ろまん? と首を傾げる『トラップ令嬢』ケイティ・アーリフェルド(p3p004901)に頷いた『あま〜いお菓子をプレゼント♡』タルト・ティラミー(p3p002298)は「ロマンよ」と再度言って、にっこり。
「でも依頼は依頼。すべてぶっ壊してあげるわよ!」
弾む声を合図に、八人は行動した。
●
「負けんなよ嬢ちゃん達!」
「と、あんちゃん一人!」
回りからの野次が飛ぶ中、八人が動く。
散らばる様にして広がり、トラッシュマンを丸く取り囲む陣形を成した。
「それじゃあ、始めましょうか。安全第一、かつ、スタイリッシュに!」
一番に動くのは葵だ。
トラッシュマンを正面にして左側。右足の斜め後ろに位置した彼女はまず、太く長い糸をオーラで生成。
密に編み込ませ、丈夫さを獲得したそれを、遠心力がかかるように振り回してぶん投げた。
『ぬ?』
メキッ、と、砕く音を鳴らしながら、ロープがゴミの皮にめり込む。
絡み付き、締め付ける力だ。
『やるな、流石だぞ!』
賛辞の声が頭上から聞こえ、フッと笑いながら行く姿がある。
リリアーヌだ。
長い金の髪を速さで引っ張り、彼女が行く先はやはり右足だ。
「まずは、こちらに偏らせます」
事前に決めた攻撃手順に則った狙いは、右側から破壊するというもの。
拳を握り、大地を踏み締め、行く。
「俺も、合わせよう」
それに呼応したのはラデリだ。
両手を前にし、刻印された呪印を光らせ発動させる魔術は、蝕みの一撃。
「喰らえ……!」
毒だ。
生成された毒を固められたそれは、飛ぶ過程で楕円型になりぶつかる。
ロープで割れた中に染み込み、腐蝕させていく。
「行きます」
結果、ゴミ同士の結合が緩くなったそこを、リリアーヌの拳が抉る様に破壊した。
『やるであるな!』
グラリと、右足が浮いた。
くっついた土を引っ張りながら上がる足は、ダメージ故。
では、ない。
「っ」
攻撃の為だ。
リリアーヌを基点にした蹴り薙ぎは、シンプルなものだ。
ただ浮かせて、ただ蹴る。
ただし、その巨体を支える足のリーチと破壊力は大きい。
その蹴りが、リリアーヌを引きずりながら発動した。
『どうかねこの動き!』
「ええ、すごいですね」
凄いだろう? と自賛する声に応対したのはヘルモルトだ。
元々の立ち位置であるトラッシュマンの正面から、蹴りを放つ隙に肉薄をしていたヘルモルトの動きは速い。
攻撃後の蹴り足の着地を待たずしてそこに飛び付き、先の攻撃でめくれた鉄とゴミの間に片手を突っ込む。
「失礼致します」
そのまま足を迂回する動きで回り、ガワを剥いで投げ飛ばす。
『器用だねぇ!?』
「ありがとうございます」
トラッシュマンの慌てて振り払う動きの時には既に、ヘルモルトは足から離れて元の位置へとバックステップしていた。
蹴りの動きで180°振り返った位置に収まったトラッシュマンからは、背後になる。
『やりにげはさせーん!』
だから、トラッシュマンは射撃した。
背中から射出した鉄クズが、空気を切りながらヘルモルトの場所へと突き立っていく。
「あんまりそっちばかり見ないで欲しい、わ!」
「私達もいること、忘れないでほしいですわねっ」
タルトとケイティの声が、同時に発生する。
「キーンとするよ?」
「ガツンとしますわ!」
そうして発動する攻撃は、お菓子と金槌だ。
タルトはふわりと羽ばたいて、抱えあげるように持ったアイスキャンディを。ケイティは召喚陣から呼び出した大きめのハンマーを。
それぞれ、右足へと投げつける。
『な、なにィー!?』
砕け散る。
驚きの叫びに震える様に、右足のゴミ達がボロボロと崩れていく。
「おーっ、みんなやるな!」
それを嬉々として見たリナリナがダッシュする。
「リナリナも、いっくぞー!」
勇ましく叫んで突っ走った少女はとりあえず、トラッシュマンの股下を目掛けて、そのまま通りすぎた。
『おぅ?』
「行きすぎた!」
急ブレーキ。
足を横にして地面を削り、振り替える動きで跳躍。
ゴミが剥がれて、鉄の肌が見えるようになった右足に向かう。
「リナリナ、登る!」
まばらにくっついたゴミを足場に、リナリナは器用に登る。
『ちょこまかとー!』
それを、振り下ろしの右巨腕が攻撃する。
上体を直角に折り、前に倒れての振り子の様な攻撃だ。
空間ごと圧す一撃。それを、リナリナは迎え撃った。
ゴミの足場を思いきり蹴って飛び上がり、手にした剣ーーさわっちゃだめ剣を振り上げる。
『力比べのつもりかね、無謀!』
弧を描いてぶつかるリナリナの剣が、拳とぶつかりあう。
当然、質量差でリナリナの体は弾き飛ばされて地面に転がり落ちる。
「無茶がすぎるであるな」
だが、
「しかし、流石である」
ナギが見る、右腕の拳。その先端は真ん中から裂け、肌が見えている。
リナリナの一撃による破損の後だ。
だからそこに向けて、ナギは追撃を仕掛ける。
使うのは、射程の長い魔術式。
ふわりと翼を羽ばたかせ、拳を正面に捉える位置に付いて、それを発動させる。
『なんというコンビネーション……だがこちらとて!』
直撃し、ゴミを焼きながら剥がす攻撃に、トラッシュマンの反撃が行く。
それは、どうせ剥がれるなら、と、自らゴミ皮を飛ばす行為だ。
魔術砲撃を逆上るようにして、鋭く射出された鉄クズがナギの体を切り裂く。
「ぐぅ……!」
元々の大量の低さに加え、トラッシュマンへの対策が不十分だったのが災いする。
故に、ナギはダメージを負って墜落していく。
その最中、しかし、彼女は口角を上げて笑う。
視界の中に、仲間を見たからだ。
「ーー任せてください」
それは、持ち前の能力を総動員してかけ上ったリリアーヌの姿だ。
跳び、登り、さらに飛んで。
一度胸元に、逆さになる体勢で着地した彼女は、
「行きます」
攻撃後の隙が残る右腕へ急降下し、ただ破壊力だけを求めた回し蹴りをぶちこんだ。
●
「すごい笑顔だぁ」
せっせと右腕へ上る葵は、先んじて一撃をぶちこむリリアーヌを見ていた。
蹴り込んだ足を鉄クズの塊にめり込ませて破砕する。それを実行する彼女の緩んだ頬は、なんというか。
「楽しそうですねー」
巨大な敵と戦うというシチュエーションに、ワクワクを隠せていないように見えた。
「気持ちはわかります、よっと!」
誰しもそういう、スペクタクル的刺激は好きだろう。
と思いつつ、具現化させた黒く大きな縫い針を、リリアーヌが割った隙間に突き立てる。
『させぬぞぅ!』
そしてゴミを剥がすべく力をいれようとした矢先に、左腕による平手打ちが迫る。
「……軽いから大丈夫、軽いから大丈夫……!」
それを回避するために葵の選んだのは、飛び降りだ。地面に向かってジャンプし、同時に、ぬいぐるみを先に落ちるように投げる。
受け止めてもらうクッションにするためだ。
ボフンと空気が吹き出す音を立て、そこに落ちる。
「では、葵様の代わりに」
入れ替わりで登るヘルモルトは、トラッシュマンの背面を選んで登る。
左足から登り、背中を斜めに横断して右腕へといく経路だ。
それは、
「おっさんはおっさんだから、きっと体、柔らかくないぞ!」
両腕の攻撃を封じる目的がある。
だから、リナリナも同じようにして行く。
『無駄だローレットの諸君……!』
人体が上手く背中を掻けないという理屈は、人間なら、という前提だ。
人間を模したと言っても、関節の駆動に制限をつける訳もない。
故に、背中から行く二人を挟む動きで、左右の拳が迫った。
「っう!」
「ぎにゃ!」
直撃する。
リナリナは横から、ヘルモルトは正面からそれぞれ、拳の一撃をもらう。
「ーー!」
衝撃に吹き飛ぶ二人の動きは、ちょうどトラッシュマンの中心で行き違うものだ。
このままなら揃って地面に落下するのを待つだけだろう。
「しかた、ありませんね」
言ったのはヘルモルトだ。
しかしそれは、諦めの言葉ではない。
「リナリナ様、お願いしますね」
「おーっ!」
短いやり取りで行ったのは、投げ飛ばしだ。空中でリナリナを掴んだヘルモルトが、吹き飛ぶ軌道を右腕へと変更するという、そういうもので、
「ぶったおす! ぞ!」
物理的に勢い付いたリナリナは、さわっちゃだめ剣を振りかぶる。
そうして溜めを作り、更に、葵が突き立てたままの縫い針に足を乗せ、
「せー、の!」
バキリと食い込んだ針を蹴ってゴミを剥がし、剣による追撃をそこに叩き込んだ。
「……あの子はまさか、下着を着けていないのか……?」
一瞬の連続を下で見ていたラデリが、帽子を目深にし直しながら呟いた。
あの子、とはリナリナの事だ。遠目からでよく見えないが、チラリとした感じ、布的なものが見受けられなかった。
「見たんですの?」
「見てないからな?」
ケイティの素朴な声かけに否定を返しつつ、ラデリは治癒術式を展開する。
そうして用意したそれを、先に着地としたヘルモルトへと投げ、一端のしのぎとするのだ。
「大丈夫か?」
見た限り、深刻と言うほどのダメージでは無さそうだ。と、ラデリは判断する。ただ、油断出来ない損傷だ、とも、思う。
故の問いかけだ。
それにヘルモルトは無表情に頷き、
「ありがとうございます。リナリナ様は穿いてませんでしたよ」
「それは聞いてない……!」
全然大丈夫だ。判断をそうし直す。
『和気藹々だねぇ君ら!』
と、忘れていたわけではないが、頭上のトラッシュマンから声がした。
ちょっと怒った様な勢いに見上げると、左足を大きく振り上げる動作の真っ最中だ。
ちらりとみると、右腕の装甲はほぼ壊滅したらしい。
『踏み潰すぞ……!』
足が落ちてくる。
ラデリを狙ったその動きに反応したのは、ケイティだ。
「大分、バランスの悪い格好になりましたわね」
地面に手を当てた彼女が発動させるのは、土を使った形成の魔術。
巨人を模した拳によるアッパーだ。
そのカチ上げる攻撃で生まれる一瞬の停滞で、ラデリは足の範囲から離脱する。
「行くぞ……!」
踏み鳴らした震動を受けながら、ナギは攻撃の照準を向けた。
ギリギリの体力で、恐らくこれは最後の一撃。
そう自覚しているから、彼女は用意した魔力弾に全力を込める。
『面白い……!』
阻止すべく、上空からクズ鉄の雨が落ちる。
それに身を裂かれ、出血しながら、
「撃ち抜け!」
弾丸を射撃した。
それは人で言うふくらはぎ辺りを貫通し、ゴミのガワを弾いて、鉄肌を曝させる。
「その一撃、ボクが無駄にさせないわよ~!」
小さな体を羽ばたかせて放つ、タルトのアイスキャンディーが、鉄肌をひんやりと覆う。
「勿体ないお菓子は後で美味しくいただくけれど、今は……!」
隙間へ隙間へと押し込まれる冷気の固まりが、駆動関節の中まで浸透する。
ガチリ、ガチリと噛み合わせの悪くなる音を立て、左足の動きも鈍くなった。
『ええいやめろやめろ! 美味しくないから!』
どこにキレてるのかわからない叫びと共に、タルトの方向にスライサーが放たれる。
妖精的縮尺の小さなタルトには、逃げ道を無くすようにと分厚いクズ鉄が壁のように飛ばされていった。
「きゃん!」
叩きつけられた板は、思いの外強い。
タルトの体力的に、二回は受けられないものだろう。
「よっこいしょ」
と、そんな攻防の最中。
二度目の登山を、葵は行っていた。
と言っても目的の位置はそこまで高くはなく、たどり着いた先は左足の付け根部分だ。
両手指に式の符を挟んだ彼女は、それをゴミの隙間にズボッと突っ込む。
「毒蛇さん、よろしくね」
そうして産み出した蛇に、皮の内を這いずり回させ、接着点を毒で溶かしながら下へと下ろさせた。
『なんてエゲツナイことを……』
ボロボロとめくれ落ちる破片には、毒々しい煙が昇っていた。
●
「無理をせず下がった方がいい」
タルトへの忠告と癒しを行うラデリは、自分達の優位を確信していた。
残る部位は左腕のみ。それぞれの部位耐久から見るに、二巡ほどの攻撃でトラッシュマンは活動限界を迎えるだろうと予測も立つ。
「リナリナ、攻めるぞ!」
それは全員の共通認識だ。
だから、リナリナは攻め手を強めていく。
『まだまだ負けないぞ!』
そう言って落ちる、打ち下ろしの拳をやり過ごしたリナリナは、そのまま腕を伝って登る。
その最中に二度、三度と剣で斬り払い、肩にたどり着く直前に跳躍。
『そこだぁ!』
空中に身を出した一瞬を狙い、スライサーがリナリナを刻む。
が、気にしない。
振り上げた剣を、兜割りするように真っ直ぐ立て、彼女は左腕を上から下までを深く刻む。
『いい加減に大人しくしてもらおうか!』
再度のスライサーが、リナリナを襲った。
「っ、あぐ!」
砲丸の様な塊が、運悪く額にぶつかる。
上体を弾き飛ばされて体が跳ね、リナリナが地面を転がって沈黙した。
「中々やるわね……だけど!」
ゴミの装甲が大きく剥がれた左腕。
それを目掛けて、タルトは魔法を一つ、発動させる。
それは、切断の事象。
「この勝負、ボクたちが絶対勝つわ!」
小さな切り傷が左腕に現れ、それが大きく開いた。
『いいや……!』
最後のゴミが、剥がれ落ちていく。
残る胴と頭にあるゴミ以外をほぼ剥かれたトラッシュマンは、しかし、諦めていない。
『勝つのは我々だ!』
胸元から、大量のゴミの射出が行われる。
大小様々な塊が降り注ぐ、トラッシュマンの全力攻撃だ。
「いいえ」
それに、リリアーヌが真っ向から突っ込んで跳ぶ。
「勝つのは私達です」
跳ぶ。
地面を蹴ったリリアーヌは、飛来する大きな鉄の板を着地点として活用した。
その板を大きく踏み込み、突っ込む加速を得て行く先は、壁の様な鉄の板だ。
「鴉さん、お願い!」
それを、葵の呼び出した漆黒の鴉が貫く。
真ん中に風穴を開け、さらにトラッシュマンを穿つ一撃だ。
さらに、
「ゴミの鉄なんてーー」
ケイティが、トラッシュマンの真下に立つ。
召喚の陣を真上に向け、呼び出すのは大きなスコップだ。
「固い地面より柔らかいですわ!」
射出する。
独特の窪みを持つスコップの形状が、一直線に鉄を掘削した。
『ナニィー!?』
そうして露出した胸の部分。操縦席のハッチがある。
そこを目掛けて、リリアーヌが更に加速した。
それは、背負ったジェットパックの推進力。
大きく吹かして得たその速度のまま、強く握った拳を、
「おおお……ッ!」
ぶちこむ。
連続した攻撃に、トラッシュマンは後ろへと倒れて行きーー
『まだ……!』
ズシンと踏み堪えた。
半端に半歩、片足を下げてギリギリで堪えたそこへ、
「失礼」
ヘルモルトが登頂を果たした。
「止め、刺させてもらいますが、よろしいですね」
トンッと、頭の上でジャンプ。それだけでグラリと傾いたトラッシュマンの頭を、だめ押しにヘルモルトは足で挟む様に抱きつき、
『ぬぁー!』
後頭部から地面に叩きつけさせた。
●
「あれ、でっかいおっさん動かなくなったのか?」
戦い終わりしばらく。
操縦席から出てきた五人の男と、八人のイレギュラーズが落ち着いていた。
最後に目を覚ましたリナリナの言葉に、男達は苦笑いを浮かべるだけに留め、まあいいかと納得するリナリナを見ていた。
「いやぁ、綺麗に倒されてしまった。でっかくなれたのに、ちょいと残念だ」
はっはっはっ。と笑うのは、発案者で依頼人の男だ。
残念という割りにはケロッとしているのが、性格の気持ちよさを表している。
「発想と、それを実現させる行動力に技術力。付き合ってくれる人望と、あなたはとっくに大きく立派な男性ですわ。後はそれで何を成すのかで、価値は決まりますのよ」
そんなケイティの励ましに、男は笑顔で応えた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
デカいのと戦うシチュ書いてて楽しかったのでまたやりたいなと思いました。
皆さんのプレイングが面白かったおかげです。
また参加をお待ちしています。
GMコメント
ユズキですどうも。ユズキです。
いやなんかもうでっかいの居たから倒そうぜでっかいから。
以下補足。
●依頼達成条件
トラッシュマンの破壊。
●トラッシュマンについて
二足歩行の20m巨人。
操縦者5人いるため、1ターンに5回行動してきます。
が、1回1回の行動の間にはラグがあります。
また、大きすぎるので、基本的にブロックとマークが通用しません。
攻撃は以下の通り。
右パンチ:物中範
左パンチ:物中範
右キック:物中列
左キック:物中列
トラッシュスライサー:物超単+万能
両腕、両足にはそれぞれ耐久値があり、攻撃するとガワであるゴミが剥がれ落ちて、パンチやキックが使用不可能になります。
部位そのものの破壊はできません。
また、両腕両足が使えなくなった場合、攻撃は全部スライサーになります。
●その他
トラッシュマンの体は足場だらけなので、登る事ができます。
腕や頭等を狙って近距離攻撃や至近攻撃する場合に活用してください。
駆け登って攻撃するってなんかかっこよくないですか? という、私の趣味です。
それでは、皆様の参加をお待ちしてます。
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