シナリオ詳細
揺らぐ愛はおしまい
オープニング
●恋人は見た
最近、交際して五年になる彼氏の様子がおかしい。
「いいかげん、確かめるわよ」
幻想の西方にある小さな村の自宅の、生まれた時からずっと使っている自室で、ロゼフォンは決意をこめて呟く。
結婚すると誓いあった仲である男、ロダンがなにか隠し事をしていることも、夜な夜などこかに出かけていることも掴んでいた。
それとなく問いただしても教えてくれないことに不信感を募らせていたが、プライバシーを容認するのもいい女の務めだと、今夜までずっと自分に言い聞かせてきていたのだ。
だが、それも限界だった。
今夜もロダンが出かけたのを、自宅の庭木の陰から確認して、ロゼフォンはそっと後を追う。彼の夜のお散歩コースの途中に私の家があってよかったと、少しだけ安堵した。おかげで尾行しやすい。
光源はロダンが持つランタンだけ。ロゼフォンは足元に気をつけながら、音を立てないよう歩く。
村を出た。
ほんのわずかに盛り上がった、丘と呼ぶのもおこがましいような場所が見えた。村の共同墓地だ。墓石と今にも朽ちそうな空き家があるだけの場所だ。
そういえば、とロゼフォンは思い出す。半年ほど前、村に墓守を自称する女がやってきて、その空き家に住まわせろと言ってこなかったか。
どうせ誰も使っていないから、と村長が安易に許しを出さなかったか。
「いらっしゃい、ロダン」
「こんばんは、メルメ。待たせたね」
そんな言葉を、墓守の女とロゼフォンの恋人はかわし、当然のように熱烈な口づけまでした。
●この手で制裁を
「浮気現場を見てしまったロゼフォンさんなのですが、その姿を墓守さんもロゼフォンさんを見ていたそうなのです」
こういう話はボクより向いている方がいませんか? と満面にかきながらも、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は説明を続ける。
「墓守さんはにやっと笑って、ロダンさんとおうちに入って……、直後、墓の中から複数の骸骨が現れて、ロゼフォンさんを襲ったのです」
「大丈夫だったのか?」
特異運命座標のひとりが不安そうな声を上げる。ユーリカは頷いた。
「どうにか逃げたそうなのです。骸骨も村までは追ってこなかったのです」
さすがにロゼフォンはロダンにつめよったが、のらりくらりとかわされるばかりらしい。
「そこで、ローレットに依頼されたのです。墓守さん……死霊術師メルメをこてんぱんにして、村から追い出して、ロダンさんに平手打ちをして、別れたいのだそうです」
痴話げんかに巻きこまれることになった特異運命座標たちが、複雑な顔をした。
「皆さんには夜に死霊術師メルメのもとに行っていただき、骸骨兵を倒してほしいのです。ロダンさんは一般人ですので、一応、手は出さないでほしいのです」
浮気は罪だが、特異運命座標が殴り倒すほどのことではない。依頼主も自分で平手打ちをすることを望んでいる。
「死霊術師メルメは今回、見逃して構わないのです。無力ではないですが、やっていることが主に浮気なので、次に事件を起こしたら捕縛するのです。それでは、よろしくお願いするのです~!」
ボクに色恋沙汰は早すぎるのです、とユーリカは最後にこぼした。
- 揺らぐ愛はおしまい完了
- GM名あいきとうか
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年09月12日 22時00分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●草陰にて
依頼主ロゼフォンに隠れているよう言い置いて、特異運命座標たちは木陰や草陰に隠れつつ墓地に接近する。
月の明るい夜だが、それだけに影は濃かった。
小屋の前では、恋人が近くにいることに気づかない浮気男、ロダンと、制裁のときが迫っているとは思ってもない死霊術師メルメが談笑している。
「人間種の女性かぁ」
やりづらいな、と『眠り羊』灰塚 冥利(p3p002213)は苦笑した。
それに、美人と言って差し支えのないメルメを見ると、ロダンの気持ちも分からなくはない。今回は擁護してやれないが。
「さっさと終わらせたい……」
レモン味の飴を口の中に入れ、ケイド・ルーガル(p3p006483)はげんなりした。どちらも煩そうで、嫌だ。
「恋とかもう全然分からないッスけど、浮気はだめッス」
声を潜め、『自称みんなのコウハイ』明野 愛紗(p3p000143)は主張する。『異形の匣の』アブステム(p3p006344)が頷いた。
「私も愛についてはよく分からない」
巨大な狼のようなアブステムは、それよりも骸骨兵に興味がある。
「死んだ人様を巻きこむとか、それってどうよ」
苦々しく言ったのは『特異運命座標』不動・醒鳴(p3p005513)だ。
『翡翠の霊性』イーディス=フィニー(p3p005419)は、なんとも言えない顔でため息を吐く。
「面倒なもんだぁ、恋愛ってのは」
「どこの世界でも、惚れた腫れたはあるんやね」
ほう、と『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)は憂いの吐息で眼前の木の葉を揺らした。
「死霊術師なんてものは、死体にしか興味のない奴らだと思ってたけど」
けっこうまともに歪んでいると、『PSIcho』狩金・玖累(p3p001743)は笑って、陰から出る。
「誰!?」
「愛と正義の味方、かな」
挨拶と同時に無数の見えない糸を放つ。マリオネットダンスが直撃する前に、メルメはロダンを杖で殴って昏倒させた。
最後尾にいる蜻蛉は、腰を浮かしかけたロゼフォンを視線でとどめる。メルメはマリオネットダンスをかわし、杖を掲げた。
「おいで、私の可愛い骸骨たち!」
墓地の墓石が傾き、土の下から白い骸骨が次々と現れる。武器を手にした骸骨兵は、戦闘態勢に入った特異運命座標たちとメルメの間に展開した。
●死霊術師と骸骨兵
作戦は簡単だ。骸骨兵は排除、メルメは捕縛。
醒鳴が懐からとり出した楽器で勇壮のマーチを奏でた。アブステムが超大型の火器で、骸骨兵の間を狙う。
そのままメルメに着弾しそうだった銃弾を、ボロボロの杖を持った骸骨兵の一体が身を挺して防いだ。
「あたらぬか」
「倒れてもない、し……」
アブステムと同じ得物を操るケイドが肋骨を半分失った骸骨魔術兵の頭を狙う。着弾。頭部も砕けたが、問題はないらしい。
「四肢と頭部を砕かんとあかんのやっけ? 困りもんやねぇ」
蜻蛉が遠術でさらに骸骨魔術兵を砕いた。集中砲火を食らった敵は、杖を振ってマジックロープを使う。
ちょうど剣兵と切り結んでいた冥利に、オーラの縄が絡まった。
「おっと」
「そりゃぁっ!」
動きがとまった冥利に錆びた剣で斬りかかろうとしていた骸骨剣兵に、愛紗が礼装武具を叩きつける。
「大丈夫ッスか、センパイ!」
「あー、うん、どうにか」
左の太ももに突き刺さった弓矢を一瞥してから、冥利は曖昧に笑んで手を振った。
「これ抜くから、軽く治療してくれるかい?」
「任せるッス!」
厄介なのは魔術を使う骸骨兵と、メルメと、弓を扱う骸骨兵だ。
「回復持ちまでいるね」
ずるりと玖累の袖から有刺鉄線が伸びる。拒絶反応と名づけられたそれは、意思を持つように動き、玖累に向かって飛んできた矢を叩き落した。
「死霊術師メルメ。キミはその体で男を誘うしか能がないのかい?」
剣戟の音が響く戦場においてなお、玖累の悪意はよく響く。メルメが死霊弓を玖累に放った。
メルメの攻撃が玖累に集中している。
「無茶しはるわ」
最後尾から全体に気を配る蜻蛉は、苦笑交じりに言って玖累との距離を測る。すぐにでもハイ・ヒールが必要になるだろう。
「前は剣兵の相手で精一杯といったところか」
「数が多いから……」
精密射撃を行うアブステムと狙撃を行うケイドは狙いを、回復術を用いる骸骨兵に変えていた。奴はすでに骸骨魔術兵の修復を終えている。放っておけば厄介だ。
左足、脇腹、胸をアブステムが射抜く。骸骨回復兵は自身にライトヒール。
右腕、右大腿骨、頭蓋骨をケイドが打ち砕く。骸骨回復兵が崩れ落ちた。
それでも回復しそうだったが、隙を見た蜻蛉の遠術でようやく沈黙する。
「次の作戦の時間だが」
「いけるんやろか」
「まぁ……やってもらうしかないし……」
憂鬱そうに言い、ケイドは前衛を援護するために骸骨剣兵の足に狙いを定めた。
前衛の一歩後ろ、後衛の前。中衛の位置に、イーディスは立つ。
「はぁっ!」
負傷した冥利を愛紗が癒している。その邪魔をしようとした骸骨剣兵に、聖光を叩きこむ。遺骨で作られた骸骨兵に、この清浄な一撃はよく効いた。
「数ばっかり揃えやがって!」
両手の手袋からあふれた光が、一振りの大戦斧の形になる。フォトンブレイクと名づけられた両手武器を、イーディスは振り下ろした。
骸骨剣兵の右肩から左の股関節にかけて、両断。体勢を維持できなくなった骸骨剣兵が崩れるが、懲りずに動く。
「手足と頭を砕かないとだめそうだな」
右肩に刺さった矢を引き抜いた醒鳴が、苦い顔で言った。イーディスは舌を打ち、醒鳴にキュアイービルをかける。
「助かる。これ、毒矢だ」
「面倒くさい奴らだ!」
骸骨剣兵の相手に夢中になっていれば、骸骨弓兵に毒矢を撃たれる。
さらに、骸骨回復兵は脱落し、メルメの相手は玖累が単独でつとめているとはいえ、骸骨魔術兵は破損が修復されたことで立ち直り、妨害を続けていた。
「まぁ、こっちはどうにかするから、早く終わらせて帰ってきてくれればいいよ」
「頑張るッス!」
回復した冥利と気合十分の愛紗が合流する。
「……すぐに戻る」
頷いてくれた三人に隠れるように、醒鳴は戦線を一時、離脱した。
死霊弓をかわす――間にあわない。マジックロープだ。キュアイービルが痺れをとってくれる、が、一瞬にも満たない時間だけ、遅い。
回復が定期的に行われていたとはいえ、ダメージが蓄積していた上に死霊弓の直撃だ。意識が吹き飛びそうになる。倒れたのが分かる。
だが、死だけは回避する。最後の足掻きの振りをして、近くにいた骸骨剣兵の足に触れる。
贋作・御伽は無し。
ぶるりと骸骨兵が震えた。遺骨にも因果律の交渉は有効らしい。
これで玖累は死んだと、思わせる。
「センパイッ!」
「大丈夫大丈夫。あれは生きてるからね」
玖累に駆け寄ろうとした愛紗を冥利がとめる。
口を動かしながら、手はとめない。間一髪のところで蜻蛉のキュアイービルが麻痺を癒してくれた。
骸骨剣兵の斬撃をオーラでできた剣身で受けた冥利は、ブロッキングバッシュによるカウンターを決める。頭蓋骨を破砕、返す刃で右ひざから下も砕く。
すかさず、イーディスが左ひざから下を砕きにきてくれた。倒れ伏した骸骨剣兵から離れると、アブステムの銃弾が両手首から先を粉砕する。
「よくもセンパイをッ!」
「だから生きてるけどね?」
玖累が倒れる前に片足を骨片に変えた骸骨剣兵に、愛紗が突撃する。
「危ねぇ!」
彼女の身に迫った毒矢と五体満足の骸骨剣兵を、イーディスが衝撃の青でまとめて吹き飛ばした。
「はぁぁっ!」
ふらついていた骸骨剣兵の右腕を愛紗は粉砕し、片足を軸に回転して、さらに頭蓋骨を叩き落す。
「本当に、危ないよね」
メルメのマジックロープに、骸骨剣兵二体の刺突。歯噛みしているイーディスが視界の端に映る。彼女は骸骨魔術兵により麻痺になっていた。
後ろは後ろで、前衛が処理しきれなかった骸骨剣兵の襲撃と、骸骨弓兵一体からの嫌がらせを受けている。
徐々に、相手の数は減ってきていて。
勝機は見えているのだが。
「これはちょっと、大変だ」
死の可能性を覆し、冥利は苦笑する。
超大型のド級火器の本領は、敵から離れた位置でこそ発揮される。
「くるなくるな……!」
空に逃れたケイドは、空中から射撃を行う。毒矢が飛来し、翼を射抜いた。
ああ本当に。練達の外は生きづらい。
「数、多すぎやわ」
地上では蜻蛉が離れた位置から骸骨剣兵に遠術を行っている。
「弓使いか魔術使いを封じたいのだがな」
無駄のない動きで骸骨剣兵の攻撃をかわすアブステムは、苦渋の色を黄金色の双眸に浮かべた。
そろそろだろう、と玖累は目を開いた。
「な……っ」
するすると地を這い進んでいた拒絶反応が、メルメと骸骨弓兵、骸骨魔術兵の眼前に出現。
殺傷能力の低い、痛めつけるためにあるような武器だが、撹乱には十分役立つ。
「死んでないよ。キミの友達にはなりたくないからね」
死体しか友がいないと、暗に言われたメルメの表情が怒りに染まる。
直後、骸骨弓兵の一体の上半身が、後ろから砕かれた。
醒鳴は細心の注意を払って、迅速に行動する。
「……ここだ」
墓地の近く、メルメの家の裏。
彼女は恐らく逃走手段を用意している、という情報があった。醒鳴はメルメの退路を断つため、それを発見しにきたのだ。
薪が積まれている一角に違和感。
「あった」
魔術に使用するのだろう、不思議な文様が描かれた護符を破り捨てる。足音を殺し、メルメや後衛の骸骨兵たちの後ろに回り、そして。
墜落したケイドを狙っていた骸骨弓兵の上半身を、剣の平で叩き壊した。
まずい。
気がつけば骸骨への数が減っている。
こんなはずじゃなかった。私は悪くないのに。あっちが言い寄ってきただけなのに。
「この……っ」
憤怒と憎悪を無理やり腹の底に沈める。じきに憎らしい特異運命座標たちの刃はこの身に届くだろう。ちょっと男と遊んだだけで罰を受けるなんて、ばからしい。
いつでも逃げられるよう、あらかじめ家の裏にしかけておいた、脱出用の仕掛けを励起させ――
「……あれ?」
仕掛けが、メルメの意思に、反応、しない。
「馬鹿にして!」
ようやく敵の数がひとり足りないことにメルメは気づいた。そいつだ。そいつが仕掛けを破壊した。
骸骨兵を再召喚するには、力が足りない。遺体も遺骨も操れる死霊術師ではあるが、潜在的な能力が低いメルメは、無尽蔵に兵力を確保できるわけではなかった。
一晩で十二体が限界。今夜はもうだめだ。
「な、ん……!」
すぐ近くにいた骸骨弓兵の上半身が破壊される。いなくなっていたひとりが現れた。
全力で距離をとったメルメの表情に焦りが見え隠れする。まだ戦力はあったが、退路は断たれ、骸骨兵たちは着実に手傷を負わされ、修復もできない。
逃げるか。
今なら、自分だけなら、走って逃げられる。時間も稼げる。
「寝取った相手の恋人がする表情ってのは、見てて面白いもんね?」
嘲弄する声に、メルメはぴくりと反応した。
「夜な夜な、恋人を放って自分のところにやってきて、鼻の下を伸ばす男を見ているのも、面白かったよね?」
メルメの怒りに反応した骸骨兵の一体が、不遜な言葉を吐き出す拘束衣の男に切りかかろうとする。男の袖口から飛び出た有刺鉄線が、その剣を絡めとった。
動きをとめられた骸骨兵に、超大型の火器から放たれた弾丸が殺到する。
「だから、その優越感が地に堕ちる様を僕に見せてよ。男を誘うことしかできない死霊術師さん?」
男が笑う。邪悪に笑う。メルメの頭の中が一瞬白くなり、怒りが爆発して炎上した。
「お前! さっきから! ふざけるなぁっ!」
こいつだけは絶対に許さない。私を侮辱し私の力を甘く見たこいつは、絶対に!
怒り狂ったメルメが攻撃を再開する。しかし、彼女も骸骨魔術兵も魔力が尽きかけているようだった。
骸骨弓兵を一体沈めた醒鳴は戦場を駆け、後衛と交戦していた骸骨剣兵に斬りかかる。
「っらぁぁ!」
「再び眠れ」
崩れた骸骨剣兵にアブステムがとどめをさし、ケイドは魔術弓兵を射撃する。
「骸骨にはもっぺん、お墓で眠っといてもらわなね」
倒れていた蜻蛉が立ち上がり、戦場を見据えた。
形勢逆転。
特異運命座標たちの猛撃により、残り骸骨剣兵三体にまで追いこんだ。
とはいえ四肢と頭蓋を砕かない限り動くのが骸骨兵だ。倒れた一体が足を掴んでこようとしたので、玖累は踊るような足どりで数歩、後退する。
「いい性格してるよね」
「褒められてるのかな?」
振り下ろされた冥利の剣が、地を這っていた骸骨の右手を砕く。
苦笑とも感嘆ともつかない顔になった彼に、玖累は底の知れない笑みを返しながら拒絶反応を用いて骸骨の頭を粉砕した。
「まぁ……、なんだ。逃げる気はなくなったみたいだけどな」
我を忘れているメルメに呼応し、骸骨兵は玖累を集中的に狙っている。おかげで骸骨兵の背後もとりやすくなっていた。
玖累に剣を振り下ろそうとした敵を得物の平で殴った醒鳴も、やり方はともかく結果は悪くない、と思う。
「仕掛けの解除、お疲れさまッス!」
骸骨剣兵の頭をこぶしで殴り飛ばした愛紗が、称賛を双眸にたたえる。醒鳴は「どうも」と照れ気味に肩をすくめて、二歩下がった。
放たれた弾丸が、骸骨兵の肩と腰を容赦なく欠片に変える。
「正気に戻る前に終わらせるぞ」
射撃を行ったアブステムが後方から声を上げた。その近くでは、ケイドが新しい飴をとり出して口に入れながら、残念そうに目を伏せている。
「この距離じゃ、魔眼は厳しいか……」
おや、と愛紗は瞬く。
センパイが二人、足りない。
その二人はメルメに接近していた。マジックロープを使用しかけていたメルメは、真横から声をかけられて体を硬直させる。
「あんなぁ。ちょっとええやろか?」
「……っ!」
とっさに魔弾を放ったが、掠りもしない。
たおやかな女は困ったように眉尻を下げた。その斜め後ろには、勝気な、女にも男にも見える特異運命座標がいる。
「最後やし、向こうさんが言いたいことあるみたいやから、喋ったってもらえんやろか?」
「嫌よ」
話なんてない。メルメは自分の安全のために、すぐにここから離脱したい。
そうだ、逃げるのだ。どうして戦いに固執してしまったのだろう。正気に戻ったメルメに、大輪の牡丹のような女は、ほう、と息をつく。
「あかんみたいやわ」
「そうだな」
ゆらりと後ろにいたハーモニアが動いた。攻撃がくるとさとったメルメが、オーラでできた縄を向かわせる。捕らえた。
「おとなしゅうしといてな?」
瞬時に麻痺が解除される。
「あ」
「可能なら捕縛する、ってことになってるんでね」
懐に入りこんだ緑髪がこぶしを握る。清い光がメルメの目に映った。
「その意識、ふっ飛ばさせてもらうぜ!」
そもそもメルメは、前に出て戦えない。身体能力的な問題であり、得意とする戦略の問題であり、なにより。
一撃でも食らったら、意識を保っていられないからだ。
聖光一発で伸びたメルメを、イーディスは手早く縛り上げた。ロープはメルメの家から拝借している。
「しまいやね」
骸骨兵はすべて砕かれた。厳密には頭蓋骨がひとつだけ形を保っていたが、術者が気絶した今、動き出すことはない。
そして。
「うぅ……?」
「起きたな」
戸口で気絶していたロダンが目覚め、骨を避けながらロゼフォンが大股で近づいてきていた。
怒りに頬を染めたロゼフォンは、沈黙している。
縛り上げられてぐったりしている浮気相手と恋人を見比べたロダンは、助けを求めるように特異運命座標の面々に視線を向けた。
煽言刃によりメルメの感情を掻き乱した玖累は、満足そうに有刺鉄線で骨をつついている。
あとでメルメの血を吸おう、と魔眼を用いて催眠をかける算段を立てながら、ケイドは両手で耳を塞いだ。蝙蝠の鋭敏な聴覚が、今は恨めしい。
骸骨は食べられるかどうか、考えた愛紗はまずそうだと判断して、空腹をなだめた。
「色恋沙汰って不思議なもんっッスねぇ。愛しさ返って憎さ百倍でしたッスか? こわこわッス」
「愛しさ余って、じゃなかったか?」
訂正しつつ、醒鳴は骨をできるだけ集めていた。
「墓守が死体を使って攻撃してきたのは、犯罪だよな」
呟き、意識をとり度したメルメに視線を向ける。浮気はともかく、死者の冒涜は重罪だ。
「私も片づけよう。……村人の骨、か」
アブステムも骨を選別する。死霊術師が作った骸骨兵であれば回収したかったが、罪のない村人の遺骨ならば埋め直したい。
「年貢の納めどきや。歯ぁ食いしばっといた方がええんやない?」
問題の三人から少し離れた蜻蛉は、にこにこと愛らしく笑む。
「ただ追放するだけってんじゃなんだしな。きっちりとケリつけていけよ」
ロープの端を持つイーディスは、睨み上げてくるメルメに呆れをこめた口調で言い放った。
「今ね、ロダン君の浮気がばれて、修羅場になって、いろいろと終わったところなんだ。とりあえず、謝った方がいいと思うよ」
端的に状況を説明した冥利が、役に立たないだろう助言をして、距離をとった。
「あ、えと、ごめ」
ん、を言い終える前に。
パァン
と発砲音にも似たいい音がして、ロダンが勢いよく倒れる。ひっ、とメルメが青ざめた。
「さようなら。あんた、そこの馬鹿男、あげるわよ」
「い、いらないわよ!」
極上の微笑を浮かべ、吐き捨てたロゼフォンが身を翻す。
「女、怖い」
耳を塞いだ状態でがりがりと飴を噛み砕き、平手打ちの音を最大限、掻き消したケイドが怯え、何人かが大きく頷く。
「まぁ、なんだ。一件落着ってことでな。さぁ、夜が明けるぞ!」
東の空が薄く光っている。醒鳴は顎を上げて雄鶏の朝鳴きを真似た。
死霊術師が遺骨を操ったことにより、澱みを帯びていた墓地周辺の空気がさっと清く涼やかに変わる。
浮気男は再び気絶し、死霊術師は目に涙を浮かべていた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
このあとメルメは泣きながら骨を集めて埋葬し直したり、血を少し吸われたりしました。
ロゼフォンは新たな出会いを求めて村を出て行き、メルメはいつの間にかいなくなっていたようです。
二兎を追う者は一兎をも得ず……?
ともかく、浮気はよくありませんね。
MVPはメルメを煽りに煽り、単独で引きつけてくださった貴方に。
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
お久しぶりです、あるいは初めまして。あいきとうかと申します。
浮気はよくないです。
●目標
骸骨兵の全滅、及び死霊術師メルメを追いつめる。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●ロケーション
戦闘が行われるのは夜です。月が明るいので視界にはあまり困らないでしょう。
村の墓所のすぐ近くです。できれば墓石は破壊しない方がいいでしょう。
メルメの後ろにはメルメの家がありますが、こちらは好きにしてくださって構いません。
足元は乾いた土と背の低い雑草。周囲に背の高い木々はないため、見晴らしはいいです。
村から離れているので、村人が覗きにきたり、巻きこまれたりする可能性はありません。
●骸骨兵
見た目は完全に骸骨。一定のダメージを与えるとその部位(骨)が砕ける。砕けると再生はしない。
ただし、両足を砕かない限り移動を続け、両腕を砕かない限り攻撃し、頭蓋骨を砕かない限り噛みついてくる。それらすべてを砕くと動かなくなる。
また、メルメが逃走するとただの骨になる。
種類
錆びた剣を持った骸骨兵が七体、弓を操る骸骨兵が三体、魔術を操る骸骨兵が二体。
どの個体もメルメを優先的に守る。ただし、骸骨兵同士は守りあわない。連携もあまりとれない。
骸骨兵(剣)…近距離、至近距離。幅広の錆びた剣を使用。剣が折れても攻撃してくる。
骸骨兵(弓)…遠距離。毒矢を放ってくる。矢はなくなりそうになるとメルメが生み出す。矢を受けると毒になる可能性がある。
骸骨兵(術)…ボロボロの木の杖を持っている。一体はライトヒール(遠距離、単体、回復)、もう一体はマジックロープ(後述)を使用。
ライトヒールを使う個体は、メルメ最優先、次に最もダメージを受けている骸骨兵を回復。
どの個体も至近距離で「殴る」「噛みつく」「頭突き」を行う。
●死霊術師メルメ
骸骨の飾りがついた杖と黒いローブを装備した、グラマーな人間種の女。
「骸骨兵の全滅」「自身の体力が半分以下」「追いつめられる」などの状況に陥ると、捨て台詞を吐いて脱出用の魔術的仕掛けを用い、逃走する。
今回、追いかける必要はない。
攻撃方法
骸骨兵召喚…最初の一回だけ。今夜は十二体以上作れず、復活もさせられないらしい。
魔弾…中距離、単体。魔力弾を放つ。
マジックロープ…遠距離、単体。オーラの縄を放ってくる。一定確率で麻痺。多用してくる。
死霊弓…遠距離、単体。死者の怨念を弓矢のように束ねて放つ。一定確率で呪殺。
●浮気男ロダン
メルメの後ろでずっと気絶している。戦闘が終わると目覚める。
●ロゼフォン
戦闘中は邪魔にならないところでおとなしくしている。
●その他
油断しなければ勝利できる戦いだと思います。
よろしくお願いします!
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