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シナリオ詳細

1000000文字の想いを追って

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●1000000文字の想いを綴り
 手紙というものは、事実だけを見ればただの文字だ。
 紙に綴られた文字。
 それ以外の何物でもない。
 だが、そこに書かれているものは、間違いなく『想い』そのものである。
 近況を綴った手紙があるだろう。
 過去を綴った手紙があるだろう。
 未来への想いを綴った手紙もあるだろう。
 今現在への嘆きを綴った手紙もあるだろう。
 そのいずれにも共通することは、綴られているもの全てが、人の想いに基づいているということ。
 郵便屋さんの鞄には、1000000文字の想いが詰め込まれている。
 それがもうすぐ、全て、失われようとしていた。

●メイズクラブを追いかけろ
「大急ぎ! 大急ぎの依頼なのですよ!」
 『幻想(レガド・イルシオン)』国内のとある街、とある酒場で、情報屋ユリーカ・ユリカ(p3n00002)が勢いよく声を出していた。
「ついさっき来たばっかりの、ピッチピチの新鮮な依頼なのです!」
 とにかく慌てている様子だ。
 何だ何だと、集まってきたイレギュラーズも彼女を見る。
「今から十数分前に、郵便屋さんの鞄がひったくられてしまったのです!」
 郵便を狙った強盗事件が発生したらしい。
 それ自体は特に珍しい事件ではない。
 手紙と一緒に現金が収められた郵便はそこそこある。きっとそれを狙った犯行なのだろうが、
「犯人はこの街にいる窃盗団の『メイズクラブ』らしいのです!」
 この街の地下には、複雑な造りをした地下迷宮遺跡が存在する。
 その遺跡をねぐらにしている窃盗団。それが、『メイズクラブ』であるという。
「『メイズクラブ』は地下迷路に逃げ込んでしまいます。それで今まで、捕まっていないのです」
 なるほど。話を聞いていると、なかなか厄介な手合いのようだ。
 そんな連中が盗んだ郵便屋の鞄を取り返す。
 普通であれば、それは官憲の仕事となるが、ユーリカは首を横に振った。
「依頼人の郵便屋さんは、盗人を捕まえることじゃなくて、鞄を取り返してほしいと言っているのです」
 それだけの大金が詰まっているということだろうか?
「違うのです!」
 ユーリカはこれにもかぶりを振った。
「取り返してほしいのはお手紙です! みんながいろんな想いを込めて書いたお手紙なのです!」
 鞄に詰まった、千通近い手紙こそ、郵便屋が取り返したいものだ。
 だが、『メイズクラブ』にとってそれは逃げるのに邪魔なお荷物でしかないだろう。
 鞄の中から現金をせしめれば、連中はきっと捨てるか燃やすかするに違いない。
「だから、事態は一刻を争うのです!」
 切羽詰まったユーリカの声に、イレギュラーズは地下迷宮への出発を決意した。

GMコメント

 はいどーもー、天道です!
 昨今、EメールやらSNSでメッセージのやり取りが簡単になっておりますが、
 手紙もやっぱりいいですよね。
 手書きの文字のぬくもりと申しましょうか。
 今回は、みんなの大事なお手紙を逃げる窃盗団から取り返せ、というシナリオです。

●成功条件
1.『郵便屋さんの鞄』を取り返す。
2.『メイズクラブ』をとっ捕まえる。

 条件1を満たした時点でこのシナリオは成功扱いとなります。
 条件2を満たした場合は成功にさらに+αの評価が加わります。

●メイズクラブ
 この街の地下に広がっている地下迷宮をアジトにしている窃盗団です。
 ほとんどが少年少女であり、
 自分たちだけが知っている出入り口から街に出て盗みを繰り返しています。

 シナリオ開始時点でまさに追っかけられている最中ですので、
 『郵便屋さんの鞄』は持ったまま逃げています。
 鞄を取り返すのならば、今というタイミングを逃してはならないでしょう。

 すばしっこい連中で、大体みんな足が速いです。
 しかしチンピラにもなり切れていないしがない街の不良連中ですので、
 とっ捕まえれば戦闘になることもなく観念します。

●地下迷宮
 街の地下に広がっているデッカイ迷宮です。
 地下三層までの地図はあるものの、それより下層は未探索のようです。
 罠の類はなく魔物なども生息はしていません。
 ただし、かなり造りが複雑で迷いやすいです。ご注意ください。

 『メイズクラブ』はこの地下迷宮を逃げています。
 地下四層まで逃げられると、追うことが困難となり依頼は失敗となります。
 ですので、連中が地下三層にいるまでの間に捕まえましょう。
 なお、リプレイはこの地下迷宮に入ったところから始まります。


 人々の思いが詰まった『郵便屋さんの鞄』を何としても取り返しましょう。
 それでは、皆さんのプレイングをお待ちしています。

  • 1000000文字の想いを追って完了
  • GM名天道(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年01月28日 21時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オフェリア(p3p000641)
主無き侍従
ナルミ スミノエ(p3p000959)
渦断つ刃
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)
受付嬢(休息)
クロス・ラプラエロ(p3p002059)
あらぶる
XIII(p3p002594)
ewige Liebe
メイル(p3p004383)
郵便屋さん
片輪・凛(p3p004466)
器物姐

リプレイ

●飛び出せイレギュラーズ!
 最寄りの入り口から階段を降りてみると、もうなんか、早速迷宮だった。
「薄暗いけどー、天井に光源はあるねー。魔法の光かなー」
 『Gifts Ungiven』クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)が、その優れた視力で高い天井に連なって灯る光を見つめていた。
 彼女の言う通り、石造りの迷宮遺跡の天井には明かりがあった。
 しかし十分ではない。少し先まで見通せるものの、そのさらに先には黒々とした闇が蟠っている。
 さらに見えている範囲からして、すでに道が入り組んでいる。
 隠れようと思えば、幾らでも隠れ場所はありそうだった。
「さーて、こっちも出発するかい?」
 酒場で受け取った迷宮の地図を片手に、『器物姐』片輪・凛(p3p004466)が気炎を上げている。
 傍らでそれを見ていた『郵便屋さん』メイル(p3p004383)も、グッと拳を握り締めて、
「同業者の郵便屋さんのたメェにも、頑張るぞ……!」
 そう、彼もまた郵便屋さん。手紙に綴られた想いの尊さを知る者である。
「でも本当、地図がなかったら迷いそうね」
 入り口から続くうねった石の通路の先を、『あらぶる』クロス・ラプラエロ(p3p002059)が覗き込んでいた。
 クロスの言葉通りだ。
 地図があるからこそ追えるのだ。と、今の時点でイレギュラーズは実感しつつあった。
「メイズクラブ、聞けばまだ少年少女ばかりとのこと、できれば更生の機会を与えたくもありまするが……」
 ツルンとした頭をなでて、『渦断つ刃』ナルミ スミノエ(p3p000959)が言う。
「私も子供を痛めつける気はありません。なるべく穏便に済ませましょう」
 思いを同じくする『ewige Liebe』XIII(p3p002594)もナルミに賛同した。他の皆も同じだろう。
「しかし、それはそれとして罪は罪」
 だが『主無き侍従』オフェリア(p3p000641)はあえて物言いを厳しくする。
「頼まれたことを果たしましょう」
 イレギュラーズ達を見渡す彼女に、皆が揃ってうなずいた。
 そして――
「準備OK、いつでもいいよー」
 迷宮入り口すぐ近く、『輝煌枝』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)が軽く手を挙げた。
 その少し後方にはメイルがいる。
 メイズクラブへの素早い追撃。それをするためにムスティスラーフが発案したのがこの、
『メイルの衝術を背中に受けてあえて吹っ飛ばされてその速度でスタートダッシュがんばるぞ作戦』
 であった。
「行きまーす!」
 メイルが元気よく応え、ムスティスラーフの広い背中に向かって衝術を行使しようとする、が、
「ところでー、このすぐ先ってかなり急なカーブになってるけどー、曲がりきれるのー?」
 割って入ってくるかのような、超視覚持ちのクロジンデの一言。
「…………」
「…………」
 ムスティスラーフとメイルの動きが、同時に止まった。
 二人からすると入り組んでいてもある程度道はまっすぐ続いているように見えたが、そのすぐ先はどうやら違うらしい。
 さて、果たしてこの条件でスタートダッシュをつけて激突せずにいられるか。
「…………」
「…………」
 ムスティスラーフとメイルの目線が互いを見合った。そして、
「「探索開始で!」」
 二人は賢明だった。
 飛び出せイレギュラーズ! ならず!

●メイズクラブの隙を突け
 イレギュラーズは二手に分かれた。
 最短ルートを踏破してメイズクラブの行く先に先回りする先行班と、後から追いかける追跡班である。
 先を行くメイズクラブのさらに先を行って、その行く手を阻む。
 先行班に与えられた役割はそれだった。
 だが先回りできるのか。
 迷宮を知り尽くし、それを毎度逃走経路に使っている連中を相手にして、だ。
 結論からいえば、可能性はないワケではなかった。
「メェイズクラブは完全に大人をナメェきっていると思います」
 そんなメイルの説明こそが、イレギュラーズが付け入ることのできる隙だ。
 メイルが広げていた地図を丸めて、また一つ地面にバナナの皮を置く。
 ここまで、下り階段へと向かう最短ルート。先行班三名は未だメイズクラブと遭遇していない。
 先頭を行くのは視力に優れるクロジンデ、真ん中には素早く動ける凛。そして最後にメイルという隊列だ。
 地図はきちんと人数分持たされている。
 最短のルートを進んでいるはずなのに、窃盗団と遭遇しない。
 まさにメイルの説明が当たっている証左ではないか。進むクロジンデもそう思う。
 これまで、幾度も大人からの追撃を手玉に取ってきた子供たちだというならば、きっと気も大きくなっている。
 自分たちは捕まるがないという油断とて、その心にはあるかもしれない。
 だからこそ見せつけるように、追っ手をコケにするために、逃走時に遠回りをする。
 あり得ない話ではなかった。
「ここでもひとついいですか?」
「いいと思うよー」
 三人はまた止まり、メイルが地面にバナナの皮を置く。
「幾つ持ってきてんだい?」
 たびたび繰り返されているが、これで何度目になるのか。
 凛が尋ねてみた。
「たくさんです!」
 たくさんらしい。
 彼女がそれを仕掛けるのはいずれも人が通りやすい場所ばかり。
 事前に聞いていた通り、ここは相当複雑な造りをしていた。
 まっすぐ進んだ先で道が幾つにも分かれていたり、曲がったかと思えば戻っていたり、同じような景色が続いて方向感覚も狂いやすかったりと。
 イレギュラーズとて、もらった地図がなければ五分とかからず迷っていたことだろう。
 こんな場所を自由に行き来して追っ手をまいているというメイズクラブ。
 そりゃあ気だって大きくなろうというものだ。
 一行がそう思いながら進み続けると、やがて一つ目の下り階段が見えてきた。
 近くに人の気配はない。
 クロジンデが胸をなでおろす。無事、先行することができたらしい。
 彼女は持ってきた荷物の中から赤い糸を引っ張り出し、階段の前で何やら細工を始めた。
「そっちも罠かい? いくつ用意してきたんだか」
 近くで足首の高さにロープを張っているメイルと、細工と続けるクロジンデを、腕組みする凛が交互に見回した。
 もちろん、凛とて何もしていないワケではない。
 反応に優れる彼女は見張り役だ。
 周囲を最も広く見られる場所に立って、メイズクラブが来ないかを警戒し続ける。
 もし連中が現れれば、凛が真っ先に動くことになる。
 相手は少年少女。だったら――
「あわよくば一人くらい……」
 小さな声で物騒なことを呟いて、『器物姐』はその口元にだらしのない笑みを浮かべた。

●闇の道行き、音の導き
 迷宮、地下二階。
 追跡班の一人であるオフェリアが、分かりやすい場所にチョークで×印をつけていく。
 地図を持っているとはいえ複雑な造りをしていればいつ迷ってもおかしくない。
 来た道をキチンと戻れるよう、目印は必要だろう。
 だが、それをしている時間は限られている。
「ええい、待つで御座る!」
 少し先から響くのは、かなり大きいナルミの声。
 ドタドタと足音もけたたましく、追跡班のイレギュラーズ達はほぼ全員が駆け足になっていた。
 というのも、今がまさに追跡というか、追撃真っ最中だからだ。
 最後尾にいたオフェリアも、目印をつけてすぐに走り出す。
「……全く、跡を探すどころではないですね」
 人が通った痕跡を探って追おうとしていた彼女であったが、それよりも先に追跡班が逃げるメイズクラブを発見したのだ。
 ワーワーキャーキャーと、甲高い声はメイズクラブのものだろう。
 耳を軽くかすめる程度の小ささだが、幾つかある声はいずれも声変わり前の子供のものだと分かる。
「あ、いなくなっちゃった!」
 メイズクラブの罠を警戒し、先頭を進んでいたムスティスラーフが声を上げる。
 事前に聞いていた通りだ、メイズクラブの子供たちはやはり全員がすばしっこい。追いかけても、すぐに見失ってしまう。
 だが、そこで右往左往するイレギュラーズではない。
「ナルミさん、お願いできますか?」
「承知」
 XIIIに促され、ナルミがムスティスラーフの隣に立った。
 一瞬、場の全員の耳にツンとするものが感じられた。超音波。ナルミがギフトを使ったのだ。
 彼のギフト『海神の唄』は、いわゆるエコーロケーションである。
 音波の反響によって、周囲の地形はおろか壁の向こう側の状況まで知ることができる。
 ここまでメイズクラブを追いかけてこられた理由の一つが、このナルミの能力であった。
「むむ、あちらのようでござるが――」
 ナルミが向いた先を皆が見る。しかし、XIIIが首を傾げた。
「おかしいですね。この先は、地図によれば行き止まりですが」
「……メイズクラブしか知らない道がある?」
 言い出したのはオフェリアだった。
「その可能性は高そう、かもね」
 地図を見直していたムスティスラーフも彼女に同調する。
「なるほど、これまで追っ手が地図を持っていても追いきれなかった理由はそれで御座るか」
「さて、どうしましょうか」
 ナルミが腕を組み、XIIIがふむと考えこむ。
 イレギュラーズは足を止めて数秒、
「このままであれば、我らが先に階段に行けそうで御座るな」
 ふと、ナルミがそんなことを言い出した。
 それを聞いていたムスティスラーフが、地図から顔を上げる。
「じゃあ、そうしようか。僕にちょっと考えがあるんだよね」
 彼は、地図に描かれている階段の前から伸びるちょっとした長さの直線路を指さした。
 さて一方、逃げ続けるメイズクラブの面々は――
「ちくしょう、なんだよあいつら、しつこいな!」
 盗んだ鞄を両手に抱えて走る少年が、追いかけてくる連中のことを指して言葉を荒げた。
 共に逃げるのは三人、いずれもがまだ背が低く小柄な子供たち。
 地図には載っていない、大きく空いた壁の割れ目や横穴を使って迷宮中を自由に逃げ回る盗賊達だ。
 しかし彼らは今確実に追い込まれつつあった。
 ここまでしつこく追いすがられた経験は、今の今まで一度もなかったからだ。
 己の庭であるこの迷宮を逃走経路にしている限り、自分達が捕まることは絶対にない。
 そんな、絶対的な自信が彼らにはあった。
 だが所詮は慢心でしかないのも確か。こうして追い詰められれば、あっさりと崩れかける。
 鞄を放ってしまうか、とも考えた。
 しかし明日からの生活を考えれば、鞄の中にある金が必要だ。それもできない。
 結局、彼らは逃げるしかないわけだが――
「コラー、泥棒達ー!」
 だが、降り階段へ通じる直進路に出たとき、聞こえてきたのは追っ手の声だった。
「僕は遠くを狙える魔法を持ってるからねー! 止まらないと見つけ次第撃っちゃうよー!」
 聞こえたその大声にドキリとした。
 魔法。そんなもので攻撃されたら、自分たちはどうなるのか。
 身がすくんで、思わず立ち止まりかけてしまう。
「ど、どうするの……?」
 仲間の一人が不安そうに話しかけてくる。
 鞄を持つ少年も、他に頼れる者がいるなら同じように尋ねていただろう。
 だが年長者は彼だ。決めなければならない。
「し、知るか! ハッタリだ! 逃げるぞ!」
 言って、鞄を抱えたまま彼は階段へ向かうが、そこに、赤い糸が張ってあるのが見えた。
「ひっ!?」
 少年の脳裏に、一階の階段で引っかかった罠の記憶がよみがえる。
 実のところ同じ罠があったのだ。赤い糸があって、突っ切ろうとしたら、足元に塗ってあったワックスに滑って、と。
 それが記憶に新しい少年が、反射的に身をこわばらせると、
「ああ!」
「わぁ!?」
 とある者は張られたロープに足を引っかけ、とある者は物陰に置かれていたバナナの皮を踏んづけて、
「よっしゃ、入れ食いだ!」
 叫んだのは、先行班の凛だった。
「へ、は!?」
 鞄を抱えたまま、理解が及ばぬ少年へと、クイックアップの魔術によって速度を増した凛がその場で組み付いた。
「捕まえましたよ!」
「いやー、見事に引っかかってくれたねー」
 さらにメイルとクロジンデも現れて、ほどなく追跡班の面々も追いついてくる。
「ク、クソ!」
 倒れたまま毒づく少年だが、しかし、見上げればそこには自分達を囲むイレギュラーズの姿があり、
「郵便屋さんの鞄、返していただきますよ?」
 XIIIが、少年少女にそう告げた。

●1000000文字の決着
「何でだよ、何で分かったんだ!」
 メイズクラブの少年は不思議でたまらなかった。
 今まで、捕まりそうになったことは幾度かあった。だが、こうまでたやすく捕まったことはない。
「井の中のかわず大海を知らず、で御座るなぁ」
 ナルミがしみじみ呟いた。
「僕はね、暗くても君達のことがきちんと見えるんだよ」
 ムスティスラーフが少年に答える。
 彼こそが直進路でメイズクラブを脅した声の主。
 温度視覚を持つムスティスラーフには、薄闇の中でも直進路を逃げる子供たちの姿がはっきりと見えていたのだ。
 そして、そんな彼の大声は、階段近くに控えていた先行班への合図でもあったのだ。
「先に行ってるみんながいてくれたかどうか、確信は持ってなかったんだけどね」
「いやぁ、ちょうど三階に降りようか迷ってたところだったんだよねー、こっちもー」
 クロジンデが「降りないでよかったー」と笑みを浮かべる。
 そして、
「どうか鞄を手放してくれませんか?」
 メイルが一歩、前に出た。
「な、何だよ、お前らも金が欲しいのかよ!」
「違います。きっと、君たちが持っている鞄の中身は君たちが望んでいるだけの価値はない」
「なァ……?」
 彼の言葉に、少年は絶句する。
「だけど中に入っている手紙を待ち望む人たちには君たちが想像している以上に価値のある物です。人の想いというのは目に見えない、重さも感じない。でもこの世界の何よりも重くて、何よりも愛しいものなのです」
「…………」
「家族、仲間、戦友……縁には色々な形がありますが、手紙はそれを繋ぐ一助となるものです」
 オフェリアが、メイルの後から続くようにして言葉を紡ぐ。
「反対に、それが届かないことで絶たれてしまうものもあります。どうか、誰かの絆を断ち切る可能性を生むようなことだけは、しないでいただけないでしょうか」
 メイルとオフェリアの言葉は、ひたすらに真摯であった。
 鞄の中に詰め込まれた、1000000文字の想い。それを無碍にしないで欲しいという、純粋なまでの願いである。
 しかし、
「うるさいな、手紙なんてただの紙切れだろ」
 少年には通じなかった。
「こわっぱ……!」
 ナルミの声が、怒りに硬くなった。
「人によって、物の価値とは非常に異なります」
 だがそこに割って入ったのが、XIIIだった。
「金品が至上という人もいれば、想いや言葉が大切という人もいる。命こそ一番大事だという人もいるでしょう」
 彼女は少年と、彼が抱える鞄を交互に見た。
「いずれも違う価値観でありながら、いずれも間違っていない。そうではありませんか?」
 XIIIは言う。メイル達と少年とでは価値の基準が違うのだ、と。
「あなた達は、命は大切ですか?」
「た、大切だよ。金だって……、生きていくためにやってんだよ、当然だろ!」
「そうでしょうね。大切だからこうして遁走していたのでしょうし」
 少年の言葉に理解を示すXIIIだが、その瞳に途端に冷ややかなものが混じった。
「ですが、大切なものを守るために他者の大切なものを踏み躙っていいわけがありません。それが許されるのならば、私達は鞄を取り返すために、あなた達の命を奪っていいことになる。……納得できますか?」
「う……」
 少年は言葉を詰まらせた。
「あなた達が鞄を奪うということは、つまりそういうことなのですよ」
 そして一転、諭すような彼女の声に、少年は周りを見て、
「俺達を見逃してくれたら、鞄は返す。見逃してくれないなら、絶対離さない。死んでもだ」
 その声には、確かな本気がうかがえた。
 メイズクラブもまた必死で生きている。その絆の強さと生きることへの執念は、かなりのものであるようだった。
 イレギュラーズは互いに目線を交わし合い、やがてメイルが凛に言った。
「解放してあげてください」
「……仕方がないねぇ、はぁ」
 残念そうにしつつ、凛が少年から離れた。
 あわよくば可愛い子の一人でもさらっちまおうという凛の野望が瓦解した瞬間でもある。
「鞄を」
「……ほらよ!」
「わ!」
 両手を広げるメイルへ、少年が鞄を投げつける。
 彼が鞄の重みに転がっている間に、メイズクラブの子供達はさっさと逃げ去ってしまった。
「大丈夫かい、メイル」
 凛が起こそうと手を伸ばしかけて、しかし、すぐに止めた。
 メイルは自分の手の中にある鞄をしっかり抱えて、大きく笑みを浮かべていたのだ。
「お帰りなさい、手紙さん。きちんと届けてあげるからね」
 メイズクラブこそ逃がしてしまったが、1000000文字の想いは確かに取り返した。
 地下迷宮での追跡劇は、こうして落着したのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お帰りなさいませ。
郵便屋さんが届ける1000000文字の想い、見事奪還成功です。
お疲れさまでした。
それでは、次回の冒険でまたお会いしましょう!

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