PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ゲームクリアしないと対峙できません(退治にあらず)

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 彼には目的があった。ノーコンテニュークリア。それに与えられるのはヒロインの特殊セリフ。たった一言だ。もちろん内容も知っている。だが、直接自分の手でそれを聞く権利を勝ち取りたい。
 電子音と重低音ビートで腹の奥からゆすぶられる感覚。
 落とされた照明は薄暗く、ゲーム画面の照り返しが繁華街のネオンサインのようだ。
 ファミリー向けのパステルトーンでぬいぐるみやお菓子を吊り上げるゲームのフロアも閑散としている。
 他の客の気配はない。集中したいという理由からこの店を選んだのだがあまりにも異様だ。このゲームはそこそこ人気で他の店なら待ち時間も発生するくらいなのに。
 だが、そんな疑問もすぐ霧散する。戦いは過酷なのだ。一瞬の判断ミスがすべてを反故にする。
 フィールドが暗転し、BGMの曲調を変えた。ボタンと方向キーで画面の中のキャラクターを踊るように戦わせる3Dアクションゲーム。背中を向けて立つ自キャラと相対するのはサイズ感がバグっているボスキャラだ。
 家よりでかいジャイアントゾンビ。
 横長の画面の端から端まであるようなHPバーがどこまでも赤い。
 一つの攻撃で削れるのは雀の涙ほど。反して、こちらが当たれば一撃で体力は半分吹き飛ぶ。
 回復アイテムは湯水のごとく消費しながら、彼は培ってきた技術を駆使してボスキャラを攻略していく。死ぬことは許されない。堅実に。その分繊細に。
 長い長い格闘の末、ついにジャイアントゾンビは苦鳴を上げつつ、瓦解していった。差し込む朝日。感動のエンディングとスタッフロール。
 切ないBGMが熱いプレイの余韻を――。
『いや~、クリアしたとはいえ、あまりにも芸術点がクソでは?』
 ひび割れた声がどこからともなく聞こえてくる。
『あそこからコンボにつなげられないとか修行が足りないのでは? プレイ時間は何時間? いや? 逆に短かったら天才の方か、超絶運のいい方ですかぁ?』
 ぐげひゃひゃひゃひゃひゃという嘲笑に、かそけきヒロインの特殊ヴォイスは掻き消えた。
 スチルの彼女は美しい。ただ、その唇がどんな音を紡いだのかが聞こえなかった。
 スタッフロールに画面が変遷する。取り返しがつかない。
「――」
 彼の決断は早かった。
 再び聞くためにはまた初めからボスまでノーコンテニューで駆け抜けるしかない。
 彼は、ヒロインのために再び戦う決意をした。
 筐体から踵を返す。
 だが、戦場はここではない。長蛇の列に並ぶこともいとわない。

「――二度と来るか。こんな店」
 モニターの中で、薄く誰ともつかない顔が笑った。


「――ということがあったんだってさ」
 希望が浜では、謎の留学生という立ち位置。
『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)は、抹茶シェイクをすすっている。
「そこそこ流行ってた店はあれよあれよと業績悪化。お店ってあんまり人が入ってないと逆に入りづらいよね? ファミリー層も姿を消しましたーってね」
 ゲーセンには縁がないけど、お店にはちょっとうるさい商人がソースを提供いたしますよ。
「で、該当の迷惑の発生源は夜妖なんだけど、発生条件が特殊な上、危険度が低いもんで今まで優先順位が低かったの」
 人命がかかってるとこから片付けるよね、そうよね。
「でも、協力者さんから直で声掛けされちゃったんじゃ行かない訳にいかないよね? 学園職員設定だしね? じゃ、お願いしようかなって」
 迅速かつ丁寧。それが地域に愛される秘訣だ。
「今のとこ、不快な声が発生した筐体は4つ。クレーンゲームと音ゲーとレースゲームと最後のアクションゲー」
 それぞれでゲームクリアするのだ。
「何。やってるうちにうまくなるって。何回やってもタダだから」
 というか、できるようになるまで帰れません。
「モニターに顔が出てきたらこっちのもんよ。つかんで殴れ。終わる」
 そんな弱いの?
「生まれてから、ヒトをののしることしかしてない奴がそんな強い訳ないでしょ?」
 行け、イレギュラーズ。
 己が素養を駆使して、ゲームに立ち向かえ!

GMコメント

 田奈です。
 リクエストありがとうございます。
 ゲーセンで強くならないとそもそも夜妖が出ない。なんて過酷な現場でしょう。健闘をお祈りしております。

 場所:ゲーセン
 お客さんはいないので、存分に奮闘して下さい。

 夜妖:愚霊無理(ぐれむり)
 ゲームがクリアできない怨念から生じた化け物。
 ゲームクリアした者に負け惜しみを言うだけの存在だが、ゲーセンを瀕死にする。
 クリアできていないエアプ勢なので、クリアした者にめっちゃ弱い。

*クレーンゲーム
 中央にドカンと鎮座しているくそ重たいぬいぐるみ「ぬえちゃん」を穴に入れられればクリアです。
 よわよわアーム、微妙にずれるレスポンス。穴を通ると思えないでっかいおしり。飛び出したしっぽ。おっきな頭。
 このゲームに向いているのは、精密作業が得意なヒトです。

*音ゲーム
 音楽に合わせて、タッチパネルの指定された位置に触れるゲームです。
 超高速の複合テンポ。異様な音域、妙なタメ。
 このゲームに向いているのは、音楽的素養があったり反射神経に優れたヒトです。

*レースゲーム
 悪路を走るレースゲームです。最後の一人になるまで走り続けるロングラリー。片が付くまで延々とゲームは続きます。
 過酷な条件に痛むマシンをだましだまし乗り続けなくてはなりません。
 ゲームさながらに座席が動くようになっていますので、酔いやすいヒトは危険です。
 このゲームに向いているのは、運転技能があったり、耐久性に優れたヒトです。

*アクションゲーム
 冒頭の「彼」がやっていたゲームです。
 実際に備え付けの銃を使うリアルアクションモードとゲームパッドで行うモードがあります。
 このゲームに向いているのは、銃技能を持っていたり反射神経に優れたヒトです。

 とにかくクリアすればいいので、分担してもよし。スキルや携行品で技能の底上げしてもよし。
 ただし、戦闘スキルはゲームに反映されないのであしからず。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • ゲームクリアしないと対峙できません(退治にあらず)完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年12月04日 22時05分
  • 参加人数7/7人
  • 相談6日
  • 参加費---RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

皇 刺幻(p3p007840)
六天回帰
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの
ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)
陽気な骸骨兵
セス・サーム(p3p010326)
星読み
フーガ・リリオ(p3p010595)
君を護る黄金百合
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい
佐倉・望乃(p3p010720)
貴方を護る紅薔薇

リプレイ


 駅から歩いて数分。治安もいいエリアのファミリー向けのはずなのに。
 なんか、もう、外観からして景気が悪いっていうか、淀んでるっていうか、ここに金落とすのやだなっていうか、そういう雰囲気。
「まーた下らねェ夜妖だこって。妬み嫉みだかなんだか知らねェが、他人に迷惑かけんなっつの」
『悪戯幽霊』クウハ(p3p010695)が、自虐交じりにそう言う。
「取り敢えず遊ぶか。タダだしな?」
 無限コンテニューでタダだよ!
「あおーん! ゲーセンだゲーセンだ〜っ!」
『牙隠す赤ずきん』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)のテンションは高め。
「ボクここに来るの初めてなんだ」
(……懐かしいな。ゲームセンターに入り浸って、仲間達と筐体を囲んで、何度も喧嘩して……楽しかったな。そういえば……初めて今の名を作ったのもゲームだったか)
『六天回帰』皇 刺幻(p3p007840)が腹に響く重低音と淀んだ空気に望郷の念を刺激されている。
「ゲーセンは冒険者にとっての酒場。大切な社交場の危機となれば、スケさんも冒険者として、ゲーム好きとして一肌脱がせていただきますぞ!しかし、皆さんとゲームで遊ぶことが仕事になるのは嬉しいですな。楽しみましょうぞ!」
 テーマパークを作るのが夢で配信者まで始めてしまった『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)、ゲーセンの概念も習得済みとは恐れ入る。
「おいら遊ぶのは好きだが……『げーせん』は初めてだからよく知らねえ」
「ええ。げーせんは、学生の社交場と聞きましたので着てきたんですよ」
『黄金の旋律』フーガ・リリオ(p3p010595)と『赤薔薇の歌竜』佐倉・望乃(p3p010720)の一言に、キュピンと何人かの瞳孔が収縮した。
 新鮮な初心者だ。囲め!
「放課後の寄り道気分で遊んじゃいます♪」
 望乃が恥ずかしげに笑うのに主にフーガの胸はきゅんと痛んだ。
 病弱で召喚前は家族の負担になることをすまなく思って育った子だ。たんと遊ぶがええ。
「遊戯は皆様にお任せ致します」
『星読み』セス・サーム(p3p010326)は、面子の数合わせとしてもはや自分のお役目終了と感じている。だって、ここ、窓もないから星も見えない。
 誰も口には直接出しはしないが、いや、でも、せっかくだから。の波動が出る。
 星詠みは空気も読める。
「わたくしも?」
 そうそう。みんなで頑張ろうよ。
「承りました」
 逆に言うと、金の切れ目が存在しないから、クリアするまで帰れないよ!
 大丈夫。マッサージチェア付きリラクゼーションコーナーもあるからね。なぜって、お疲れ気味ご父兄のニーズがあるからだよ!


 稲妻からスラローム、画面中にちりばめられるタブ。呪い満載アラン編みセーターの編み図だってここまで混沌とはしていない。
 クリア条件の曲は、ラスボスにふさわしい譜面だった。
 画面も美しい。常人の指をへし折る可動域ではあるが。
「階段に、トリルに……縦連微ズレ? 作者これ正気か? いやでもまぁ出来なくは……うっわソフラン入ってるわ……」
 何言ってんだかわからない時、崩れぬバベルはいいものだ。グキグキと指を滑らせて左右交互に連打して一つの落としもなく連打してリズムが体にしみこんだところでテンポが変わると言っているのが感覚でわかる。難所が多いんだね。さらに簡潔に言うと、クソしんどい。突っかかったら、指が過労死する。
「クウハ、勝負だ。お前の記憶と私の経験反射、どっちが上か試さねえか?」
「あ?」
 クウハは、他の仲間に関しては集中が途切れないようそっと見守ることにしていた。成し遂げた時はほめたたえようと心に決めていた。
 だが。
(但し、刺幻。テメェは駄目だ。プレイをニヤニヤ見守りながら盛大に煽り散らかして)
「悪い勝負じゃない……むしろ、試させてくれ」
 これっぽっちも悪気はなさそうだ。
 一触即発。協力プレイというルートもあるのにどうしてヒトは――魔王は――修羅の道に踏み入ろうとするのか。
 きりきりと引き絞られる空気に眉尻を下げる者にクウハは笑顔を向ける。
「なあに、ただの戯れ合い。悪ふざけサ」
 仲裁に入ってくれるなという意思があった。
「難易度の高い音ゲーは覚えゲーみたいなとこあっからな。リズムに乗ろうとすると逆に失敗しやすいんだよ」
 カードスリットに無限カードを突き刺し、ゲームスタート。
「頭で覚えてたとこで体がついてくるかは別の話だが、その辺りは慣れだ、慣れ。何回もやってる内に体がついてくんだろ」
 骨身に染みるまで付き合ってもらう。
 フーガは、人外真境なプレイを一歩引いて
「じゃ、私たちは連弾モードで」
 フーガと望乃は協力プレイだ。ここに式場を立てよう。で、いいんですよね。初めての共同作業? そこんとこ詳しく。
「タッチパネルを楽器、画面で雪崩れてくる光の印も楽譜として捉えることさえ出来れば『演奏』できるようになるかもしれない」
 軍楽隊員の誇りにかけて。トランペットではないが楽器であることに変わりはない。
「楽器を【演奏】する感覚で大丈夫そうかしら」
 望乃はデモ演奏を聴きながら、指でラインを確認している。
「――クウハほどのテクニックは無いが」
 連弾モードは分割される分スコア評定がソロモードと異なる。調和。余裕の中に生まれる解釈。芸術的加点。
「……『音楽』に関しては誰にも負けない!」
「超難ステージまでやってやる!」
「何度か挑戦すればクリアできる、はずです。大丈夫です。わたし、やればできる子なので!」
「ああ――それだ!」
 応援のリコリスはしっぽフリフリ。無音の調子取りで皆を応援した。


 巨大なぬいぐるみが鎮座している。「うみのいきもの」シリーズ。とげがとりわけ細く長いウニ――ガンガゼのぬいぐるみ。長いとげに阻まれ本体へのキャッチが浅くなり、とっかかりになるには棘が細すぎ頼りない。シュルシュル生地、パンパンに詰められた綿。防護点が高い。
「位置の微調整は古書修復作業で慣れておりますが、落下させるだけでこの形状のぬいぐるみが本当に取れるのですか?」
 落下させても場所によっては穴からバウンド、ノーカンになりやすい形状だ。
 セス、ぬいぐるみの形状を確かめるために図らずも屈伸運動中。
「いけるいける」
 クウハのノリが軽い。
 修復針を刺す位置を間違ったらふぁっさあと分解しかねない遺物レベルを調律できる自らの技量を信じて、セスはボタンを押し込んだ。
「これでだめなら交代してもらいます」
「いやいや、三回まではデフォだから」
(これも一種の才能だろ? 使えるもん使って何が悪い?)
 クレーンの動きに合わせてポルターガイストで上手いこと景品を浮かせているのだ。
 クレーンのアームは負荷がかからなければ元の位置に戻ってしまう。しかし不自然な動きがあれば誤作動としてスタート位置に戻る。
(クリア判定にならなきゃなんなきゃで、正攻法でやるだけだ)
「もう、いやです」とごねるセスをなだめすかして、ガンガゼをゲーットするまでに3回の3回の3回ほど費やした。
「クウハ様の御力は便利ですね」
「いや? 最後のは行けそうだったから手を出していない」
 温かな拍手が送られたセスは、差し出された人生初ゲットぬいぐるみを受け取りながらそう言った。


 ラリーゲームはスピードもさることながら悪路に耐えるコース取りが大事だ。
 チュートリアルでサーキットを2周してから本コースにエントリーですよ。
 シートががっくんがっくん揺れる。シートベルトが六点固定な理由が分かった。はっきり言ってデートに向かない。
「わはーい! 筐体が揺れる〜!」
 リコリスが歓声を上げる。
「より速い者が頂点。シンプルな勝利条件ながら繊細なテクニックを要するゲームですな。どんな車体も乗り手次第で如何様にもなりましょう」
 車種やチューニングまでこってるとセレクト時間がぶっとぶぞう!
「【マスタードライブ】を駆使しながら最速を……いえ、レコードを狙いますぞ! 速さの先へ!」
 スケルトンの眼窩の中で、赤いかがり火がハイビームのごとく光っている。
「マップは【超方向感覚】で把握、ショートカットできそうな道を【捜索】、後続車に着かれたら【逃走】で振り切る! コーナーで差をつけろ! レコードのテッペンにオレの名前を刻んでやるぜ!!」
 ステアリング握ったとたんに人格変わるヒトっているよね~。
「ゲーム配信をなさるヴェルミリオ様は初見でもゲームに早く馴染むようですね。生者の方々の三半規管は大丈夫でしょうか」
 セスの心配はもっともながくがく具合である。
「――おいらも衛兵の端くれ、伊達に体を鍛えちゃいない。三半規管は――普段昼寝で寝転がって鍛えてるから大丈夫、と思いたい」
「望乃、酔いは大丈夫か? 『やればできる子』って言い聞かせるのは良いが、強がり過ぎるなよ?」
「今日のわたしは【幸運】がありそうな気がしますので、初見のゲームもいけるはず~!」
 プラシーボ効果。
「むむ、このままの速度で突っ込んだら曲がりきれない……いえ、直前で減速すれば大丈夫! わたし、やればできる子なので!」
 そんな、望乃車の前を走るリコリス車。ぴろんと画面にアイコンが発生した。
「あっ、なんかバナナの皮みたいなアイテム拾ったよ! これぶつければいいの? えいっ!」
 それはチェックポイントで持ってるとごみ拾いして偉いともらえるジェントルポイントアイテムです! 投げるとペナルティが付きます!
「あ~~~~~~~っ!」
 ぎょんぎゅらるとスリップする望乃車。
 2周目に突入して追いついてきたヴェルミリオ車。
「オレのテクにひざまずけ~っ!!」
 スピンする望乃車とダンスを踊るように回避。ソフトなバンパータッチで望乃車はコース上でストップしたがクラッシュは免れた。
 ヴェルミリオのゲームクリア時点のベストムービングショットはその時の華麗なスラロームが選ばれた。


 ここに至るまでの長い長い戦いがあったが、すべて割愛させていただく。
 アクションゲーム、ボス戦だ。何回目のコンテニューかは無粋な話だ。
「やっぱりボクはオオカミだからね!アクションゲームでババババン!てするのが一番性に合ってるんだ」
 と、ガンコン振り回していた笑顔のリコリス。
「……ふむ、覚えがあるな。どうせならアケコンと思ったが、この際両方やってやる。全く、手に馴染んで仕方ない」
 と、わくわくしていた刺幻。
 そんな二人はもういない。
 撃った弾丸、空にしたマガジン、持ち替えたガン、試した戦法、そんなものはもう数えていない。
 全ての難易度、すべてのルート、必要アイテムを拾いつくし、トロフィーコンプリートの末にようやく開かれるエクストラルート。
 これが最後のエネミーだ。
 数多の死と筋肉痛を乗り越えた勇者と同じ道を踏破してきた。
「良き星巡りでありますように。お望みとあれば【アカシアの枝】が行くべき先を示すでしょう」
 セスは、携帯端末片手にいつでもゲーム攻略情報にアクセス準備済みだ。楽しく遊ぶ事に重きを置くタイプに助言するのは不適切という知識はあるから、問われなければ他者には教えない。愚霊無理に爪の垢を煎じて飲ませたい。発生しそうにないが。
「天下の魔王サマがこれぐらいで乱される筈ねェよなあ?」
 クウハ、煽りよる。 応援する方も他ゲームでコンテニュー地獄を味わっているのだ。疲れ果てている。リラクゼーションコーナーでマッサージされてていい。
 だが、煽られて強くなるものがいるのだ。
「この感覚――本当に懐かしいな、灰皿でもなんでもかかってきな!」
「今度こそ、超視力で見切って、あとはとにかくEXAと追撃で数打って当てる!!」
 しかして、その通りになった。


「――乙乙ですけど、なんとも損耗の激しい戦いでしたなー――」
 戦いの後の余韻をぶち壊す下品な笑い声。ついに出たな、夜妖・愚霊無理
「愚霊無理……貴様に2つ、いいことを教えてやる」
 今しがたまでトリガーをソフトにひくことに従事していた刺幻の目は座っている。
「1つ、私がゲームに魂を売った廃人プレイヤーであること」
 あらゆる世界において胸を張っていいことではない。
「そして2つ。かつて、別世のゲームにおいて世界でただ1人最強であることを許された本物の《王》であったこと」
「それこそ別次元というかー、よその栄光持ち込まないで下さいというかー、レギュレーションという言葉をご存じではない?」
 愚霊無理、すかさず揚げ足を取るが、論旨はそこではない。
「私の名はすめ……いや、最初はSumeragiSigenだったな。恨むなら、本物に喧嘩を売った己自身を恨め」
 結果出すエターナルチャンピオンを叩き潰すには実力がいるのだ。
「こんなところで大人気ないことしてないで、ボクとガンアクションゲームして遊ぼうよっ!」
 リコリスはパチパチと大きく瞬きをした。白目が充血気味である。
「――キミが的役ね!」
 リコリスが悪い笑顔を浮かべた!
 アクションゲームゾーンはやばい。何しろ、ガンアクションなのだ。

「にげたぞ! おえ!」

 音ゲーゾーンに現れた愚霊無理の前には望乃がムンと肩幅に足を開き腰に手を当てたお姉ちゃん立ちしていた。一般名詞ではなく、文字通り弟妹がいるお姉ちゃんがすると説得力がアップするポーズと言えよう。傍らにフーガが寄り添う。
 ゲームクリアで自信満々。
「――今のわたしは、未クリアのくそザコさんに何を言われても動じないつよつよメンタルです!」
 まぶたを閉じると見えてくる。
「あの途中で急にリズムが変わる譜面とか――」
 それが狭義のソフランです。
「連続S字カーブとか――」
 力加減間違うと液晶に指が引っかかって、ギュイとか言うんですよね。かといって力抜きすぎると途切れるんですよ。
「クリア出来なくて悔しい気持ちはわかりますが、努力してクリアした人を罵るのは駄目ですよ」
 真っ当な正論が夜妖を襲う!
「悔しかったらあなたも鬼モードでクリアしてみやがれです!」
 えぐった! 概念戦闘でえぐり切った!

「にげたぞ! おえ!」

 レースゲームゾーン。
 ああ、ここで消えていけたら楽だったろうに。しかし、そうは問屋が――いや、配信者が下ろさない。
 夜妖に忍び寄るのは陽気なヴェルミリオである。陽気だからって剣呑じゃないなんて言ってない。
「覚悟はよろしいか? クリアするまで逃しはしませんぞ〜ゲームを嗜むものとしてクリア放置は罪ですぞ☆」
 ママン、ガイコツが僕を筐体に座らせて、ステアリングを握らせるんだよ、ママン。
「どれだけ文句言おうが、皆は楽しんでクリア出来たんだ。だから初心者のおいらも最後まで楽しめたんだ。悔しかったら、アンタらもゲームしてみな」
 さあ、セーブポイントからボス出現ポイントまで往復する作業が始まるお。お前はこれからボスを倒すんだよ。今日も明日もボスを倒して裏ボスにたどり着いてトロコンするまでデータカードをスリットに入れる生活を続けるんだよ。
『おごおおおおおおおお――アリエナイデゴザル。バランスホウカイクソゲー! ジカンツイヤスノガムダナシニゲーウンエイノアクイシカカンジナイデゴザルゥゥゥゥウ」』
 なんだと。ちゃんとクリアできるぞ。ソースは俺らだ。
「むり、むり――」
 もう数えてる方がきつい。
 え~。めっちゃ下手じゃん。エアプ勢なの? いや、夜妖が筐体にネーム残してたら嫌なのでそれはそうなんだろうけど、なんかあるだろ。残留思念のスキルの継承的何かが。いや、ないからこそできた暴言か。あったら、むげに罵倒なんかできないもんな。
「口が回るばかりで煩わしいですね」
 ガンガゼぬいぐるみを小脇に抱えたセスがため息をついた。
 ゲームはさっぱりだが、理不尽なことをまくしたて往生際が悪いことは門外漢にもひしひしと伝わった。ゲームを楽しむことができない、公卿としか感じないなら、それ以上やるのはゲームへの冒涜だ。誰も幸せにならない。
「消えなさい」
 タクトではたいた。小脇に戦利品。クリアした者だけが手に入れられる品。
 それが致命傷となった。愚霊無理は消滅した。
「無理、無理、無理無理ムリ……」
 声は細く消え、淀んだ空気は一掃されたのだった。

「――これ、まだ使えるな。取り敢えず遊ぶか。タダだしな?」
 クウハはけろりとして言った。同じようなことを聞いた気がする。ずいぶん前のような気がする。
「スタミナ考えてやってないのもあるだろ? 興味ねえか?」
 お楽しみはこれからだ!

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。口だけ夜妖は消滅しました。ゆっくり休んで次のお仕事頑張ってくださいね。

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