PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<獣のしるし>国境沿いの悪魔

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●冬が来る前に
「もうすぐ、もうすぐだ……!」
 その鉄機種の一団を率いる男はそう言った。
 天義・鉄帝の国境沿い。そこには『殉教者の森』と呼ばれる森がある。その名は天義での呼び名であり、鉄帝では『ベーアハルデ・フォレスト』と呼ばれているのだがさておき、とにかく一行はその森を目指し進んでいた。
 目的は、逃亡であった。今や冠位魔種が皇帝の名を戴き、各地に弱肉強食を布く事態となった鉄帝。弱者に分類された人々は、真っ当に生きることも困難なほどに追い詰められつつあった。
 そしてさらなる問題が発生しつつあった。冬が来る、のだ。鉄帝の冬は厳しい。元々食糧に関しては心もとないのが鉄帝という過酷な大地の問題点であった。それはこれまではうまく処理され、国家にて過度に飢えるものは存在しない状態に維持されていたが、今やその状況は変わっていた。前述したとおり、新皇帝による弱肉強食の世が訪れたのである。ただでさえ少ない食料は『強者』によって食い荒らされ、弱者に回ってくる分は多くはあるまい。そうなると、彼らにとっての直近の問題は、暴力などではなく飢えになってくる。
 そうなる前に、逃げなくてはならない。この国から。
 強者による暴力からようやく生き残り、国中に放たれた天衝種の襲撃にも耐え、何人もの仲間が命を落としてなお、進み続け、ようやくたどり着いた国境――。
 その森はいつもより鬱蒼と、暗く見えたが――しかし、この地獄より脱出すらための、唯一の『蜘蛛の糸』であることに間違いはなかった。
「いこう、これで、俺たちも――」
 鉄機種の男がそういう。命を拾える。そうなる。天義に逃げ込んだとしても、さらなる困難が待ち受けているだろうが――それでも、今の鉄帝にとどまり座して死を待つよりはましなはずだ。
「またれよ」
 と、一団に声がかかった。森の中からである。現れたのは、天義のシンボルをまとった、騎士の一団である。真白きその騎士の一団は、
「我らは天義聖騎士団である。汝らは鉄帝よりの亡命者なりや?」
 そう尋ねるので、男は首肯して、頭を低く下げた。
「如何にもでございます。今や魔種の治める国となった祖国にはいられません。どうかお慈悲を」
 聖騎士は「そうか」と頷くと、ゆっくりと男の元へと歩み寄っていった。聖騎士の後ろには、無数の人影が見える。だが、鉄機種の一団の中から、あっという声が上がった。聖騎士の背後にいたもの、それは最初は、同じ聖騎士団かと思ったのだが、良く視れば、黒い、影のような泥のような、得体のしれない人影の何かであったのだ。
「鉄帝の魔に侵された異分子を入れる由など無し。
 不正義の輩にかける慈悲はただ一つ――」
 男が異常に気付き、顔をあげる間もなく、聖騎士は剣を抜き去って、男の首を切り落としていた。あまりにもあっけない音ともに、男の首と身体が転がる。
「ひっ」
 鉄機種の一団の一人が悲鳴を上げた。
「に、逃げ……!」
 声上げた刹那、無数の影が、一団に襲い掛かった。鉄機種の一団は逃げる間もなく、その陰に蹂躙される。影は騎士をまねるように無数の刃を抜き放ち、その刃は一団を逃がすことなく、その切っ先の露へと変えていく……。
「不正義の輩、通す由など無し。
 我はここを動かず……我こそがこの地の番人なり……」
 そういう聖騎士のフルフェイスマスクの隙間から、影のようなものが零れ落ちるのが見えた。もしこのマスクをとることができたのならば、その相貌を伺いすることができただろう。それは確かに、以前魔種との闘いによって命を落とした聖騎士の顔をしていたが、その構成要素は『影のようなもの』で作られたかのように、グラグラと不安定なものであった……。

●国境沿いの悪魔
「というわけで、お仕事になるわけですが!」
 と、ぱたぱたと飛んでいるのは、ローレットの情報屋、ファーリナ(p3n000013)である。天義の国境沿い近くの街、そのローレット出張所。集められたイレギュラーズ達は、新たな事件の発生を知った。
「なんでも、『関所番』と呼ばれる敵が現れたようです。えーと、そもそもの話として、天義の国境沿いに、天義聖騎士団を名乗る謎の敵が現れたのはご存じ?」
 そう言われて、あなたは思い出してみる。つい先日から、天義の国境沿いに現れた謎の一団の事だ。影の軍勢や、ワールドイーター、或いは『死者の姿をしたもの』達が聖騎士団を名乗り、鉄帝への侵攻を企てているのだという。
 その自称聖騎士たちは、『魔に堕ちた国への正義の執行』という名目で侵攻を正当化しているという事だが、当然ながら、天義本来の聖騎士たちは、この様な存在のことは一切承知していない。
「そうです、その不穏な輩どもですねー。で、今回現れた『関所番』と呼ばれる敵なんですが、その謎の自称聖騎士……死者の姿をした聖騎士、の一人のようです」
 ファーリナの話よれば、この関所番は天義と鉄帝の国境沿いに布陣し、天義に逃げ込もうとする鉄帝の市民たちを待ち伏せ、虐殺しているのだという。昨今の状況から、今のうちに鉄帝から逃げ出そうとするものも居るようで そう言ったものを『正義の名のもとに』処理しているのが、この関所番だというのだ。
「もちろん、殺されてしまった鉄帝の人達に何の罪もありません……状況から考えれば、この関所番たちは間違いなく、怪物の類。
 このまま放っておくわけにはいかないわけです!」
 そういうわけだから、ローレットに討伐の依頼が来たのである。
 となれば、話は簡単だ。実際に国境沿いに向かい、敵を討伐する……! あなた達は力強く頷くと、ファーリナに依頼の受諾を伝えた。
「ありがとうございます!
 では、くれぐれもお気をつけて! しっかり働いて、しっかり稼いできましょう!」
 ファーリナは、そう言ってあなた達を送り出してくれた――。

 さて、早速現場にたどり着いてみれば、異臭が鼻についた。まるでこれは、血の臭いだ!
「た、助けて! だれか!」
 声が聞こえる! 耳を澄ませてみれば、逃げ惑う人々の声や足音も響いていた。どうやら、此方が現場に到着する前に、避難してきた市民が敵と鉢合わせしてしまったようだ!
「まずい、すぐに彼らを助けるぞ!」
 仲間の一人の言葉にあなたはうなづくと、武器を抜き放って走り出した。
 混沌とした戦場での戦いが、今始まる――!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 国境沿いの悪魔、『関所番』を討伐しましょう!

●成功条件
 すべての敵の撃破。
  オプション――『市民たち』の可能な限りの生存。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●名声
 当シナリオは天義/鉄帝に分割して名声が配布されます。

●状況
 鉄帝より、天義へと逃げる人たち……それを狙い、攻撃を仕掛ける謎の一団が現れました。
 彼らは天義聖騎士団を自称していますが、勿論、天義聖騎士団はそのような任務を行っているわけがありません。
 となれば、これは何者かの策略です。
 その何者かの正体は今はつかめませんが、しかし今やるべきことはシンプルです。
 敵を倒し、無辜の市民を救う。
 シンプルですが重要な任務です――皆さんのご武運をお祈りします。
 作戦決行エリアは、『殉教者の森』付近。フィールド奥にはうっそうとした森があり、手前は街道の存在する開けた場所です。
 意図的に森に入らなければ、特に戦闘ペナルティなどは発生しないでしょう。
 また、ここには敵の他に、襲われている8名の市民が居ます。初期配置を簡単に示すと、以下のような感じです。

  森側

 敵の一団

 市民の一団

 イレギュラーズ

 街道側

 というわけで、市民を挟んで敵と対峙することになります。市民を助ける場合は、素早く動いて盾になってあげたりする必要があるでしょう。


● エネミーデータ
 致命者・関所番 × 1
  聖騎士のような格好をした何か得体のしれないものです。致命者と呼ばれ、その姿は天義で亡くなった人を模したような姿をしています。
  もちろん、完全な死者復活などではなく、外見だけを再現したようで、中身は全く伴っていないか、或いは非常に断片的な記憶や意識しか持たないようです。
  彼は『正義のため、魔種に汚染された国の民を断罪する』という思想の下に動いています。
  大剣を持ち、強力な攻撃力と高い防御力を誇る、アーマーナイト、といった性能をしています。
  攻撃には『出血系列』を付与するものや、『背水』をもつ高威力の攻撃なども持っているでしょう。
  半面、少々搦め手には弱いようです。

 『影の兵/汚泥の兵』 × 10
  聖騎士のような姿をした、影や泥で作られたような異形の怪物たちです。
  かつての冠位強欲の使役したそれを思わせますが、正体は今のところ不明です。
  性能としては、やや高性能な人間敵、と言った感じです。剣を利用し、積極的に前に出てくるインファイター。
  変幻自在の身体は、中距離まで届く範囲攻撃などを行ってきます。
  関所番の取り巻き役のようなものですが、数の多さに注意してください。

●NPC
 市民たち × 8
  鉄帝から天義に逃げ込もうとしている住民達です。
  全員酷く疲労しているため、戦闘能力は一切ありません。
  影の兵からの攻撃くらいなら、2~3発は耐えられるでしょうが、その程度の性能です。
  上手く誘導するなどして守ってあげてください。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <獣のしるし>国境沿いの悪魔完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年12月06日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
一条 夢心地(p3p008344)
殿
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女

リプレイ

●死の関所
 血の臭いがする――。
 大地にしみ込んだ黒は、少し前にここで斬られたものの血か。
 厳しい冬と圧政から逃れるために、決死の覚悟で国境越えを決行した鉄帝の避難民たちが目の当たりにしたのは、無数に転がる、同法の屍――。
「なぜ」
 一団のリーダーと思わしき、老人が言った。
「なぜ、このような事を……!」
 ず、と。男が動く。フルプレートのそれは、聖白に彩られた聖騎士のものであったが、今は罪なき人の血に穢れた悍ましき色をしていた。
「ただ一つ。汝らに不正義ありき」
 フルプレートの男は、そう言った。関所番。そのようにローレットの情報屋から仮称されたそれは、天義の聖騎士を名乗る、魔であった。
 フルフェイスマスクの隙間から、影のような何かが零れ落ちた。覗く目は、正気を保っているとは言えなかった。もしその相貌を見ることができたならば、かつて天義で亡くなった騎士の顔をしていることに間違いはなかった。でも、その性根までもが、高潔であったその騎士と同等であるとは限らなかった。
 むしろ、異なる。
 元来持ち合わせていたであろう思慮深さと柔軟さは消え失せ、ただ愚かにも、うわごとのように避難民たちの断罪を口にするそれを、魔と言わずに何と言おうか。
「魔に汚染された国より来るものよ、汝らもまた魔と知るが良い。
 魔に我らが白檀の都を侵させることは許さぬ。
 不正義の輩よ、その死をもって、己が不正義を償え!」
 ざん、と、関所番が老人を切り捨てた。その刃が、老人の身体に食い込む。ぐ、と老人は悲鳴を上げた。
「いかん……みな、逃げよ……!」
 老人も多少は鍛えていたのだろう、即死こそしなかったが、既に致命傷であった。命失われる最後の瞬間に、彼は同胞に逃げることを伝えて果てた。
「逃げるぞ!」
 男が言った。老人の息子であり、一団のサブリーダーのような立場だった。
「逃げるんだ……!」
 父が死に、即座にそう切り替えられたのは、非情さ故ではなく責任感故だった。一団を守らなければならなかった。自分を含めて、残る八名。子供もいた。彼らを守らなければならなかった。
 だが、その緋想の責任感すら打ち砕くように、関所番の背後から、影の軍勢が現れた。影、或いは汚泥。ぐずぐずと崩れた、黒き悍ましき騎士たち。
「くそ……子供から優先して逃がしてやってくれ……!」
 引き絞る様に、男は言った。死を覚悟していた。もはや逃れられないと理解していた。
 それ故に。
 現れた者たちは、輝いて見えた。
「うむ――もう安心じゃ」
 そう言った男は、殿である。
 派手な衣装。白塗りの顔。手にした日本刀。
 冗談ではないかと思われる状況に、しかし白塗りの殿は力強く笑ってみせたのだ。
「助けに参った。巻き込まれぬ様、街道の方へ離れておれ」
 殿は――『殿』一条 夢心地(p3p008344)は、そう言って、笑ってみせたのだ。
「ばばん、ばばばん、ばんばんば」
 鼓舞するように、或いは威嚇するように、殿は歌ってみせる。
「さぁて……今宵の東村山は血に飢えておるぞぉ~?」
 些か仰々しいそのしぐさも、避難民たちにとっては頼もしい救出者のように見えたものだ。
「ほどほどにですよ、御殿様。引き付けるのは僕の役目ですから」
 『不屈の障壁』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)が、きっ、と影の軍勢を見据える。
「全く、天義ではいったい何が起こっているのやら……どう見てもまっとうな人じゃないですよね、アレ。
 いやお前が言うなとかそういうのではなく。
 ええ。まっとうじゃぁ、ない」
「もう、犠牲者が出てしまっているのね……!」
 『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)が悔し気に言うのへ、『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)はそのそばに侍り、気持ちを分け合うように、触れて見せた。
「蛍さん……」
 そう呟いてから、珠緒はきっ、と騎士を睨みつける。
「非道に追われた民を守ることもできず、何が正義ですか。騎士ですか!」
「否。魔に我が国を汚染させぬことこそが第一」
 関所番がそういう。
「守らなければならない……あの、魔から。恐ろしき、魔から……」
 どこかぼんやりというそれに、珠緒は直感的に気付いた。なるほど、なにか欠落しているような感覚。
「あの人……やっぱり、どこかおかしいんだよね……?」
 蛍がそういうのへ、珠緒は頷いて見せた。
「はい……!」
「どんな理由や素性があっても、わたしには許せない!」
 『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)が悔し気に声をあげた。鼻をさす血の臭いは、古いものから新しいものまでを感じられた。大地に染みた赤黒い液体。そして、今まさに倒れたばかりの、老人と『目があって』しまった。ぐ、とセレナは奥歯をかみしめた。
「許せない……! 絶対に!
 何が「魔に侵された」よ、魔、そのもののクセして……!」
「我は正義の騎士……だ……!」
 それはまるで、壊れたレコードのよう、であった。自動的に、一部分だけを再生される、壊れたレコード。
「……そうね、セレナの言う通り。
 どんな理由が素性があって、アンタ達がこんな事をしているのかは知りませんけれど?
 ただまあ、そうね。弱い者虐めって奴は嫌いだから。
 だから、此処に来た。其れだけで殴る理由には十分よね」
 りぃん、と悪しき魔を払うように、鋭い音を立てて槍を振るった『凛気』ゼファー(p3p007625)。凛気、と呼ばれるその名のごとく、まるで持つ気配が、魔を祓うようなそれすら感じられた。
「なるべく街道側に逃げて頂戴。
 絶対安全を約束はできないけれど、ここでこいつらは食い止めるわ」
 ゼファーの言葉に、近くにいた女性が頷いた。その腕の中には、まだ幼い少女がいた。その少女が状況を理解していたかはわからない。ただ、その少女にとって、ゼファーは間違いなく、この瞬間おとぎ話の英雄に見えただろう。たとえその思い出が、ギフトの力によって一陣の風になったとしても――少女はきっと、この時、風が吹いたことは覚えていくのだ。
「さて」
 『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)が声をあげた。抜き放つ、機械刃。雲間から差し込む陽光を受けて、光る!
「関所番だか何だか知らないけれど……無辜の民を害する者に情状酌量の余地は無し……。
 ここから先は死線……そう簡単には抜かせないよ?」
「成程。貴様等もまた、魔に侵されしか」
 関所番が、ゆっくりと大剣を構えた。同時に、影の軍勢も動き出す。
「――HA!!!
 悪魔と人の違いも解せない、まったくアザトホートな連中め。
 善良な市民の貌すらも忘れたのか?
 嗚呼、失礼。貴様は既に今を失くしていた。
 Nyahahahahahaha!!!」
 『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)が哄笑をあげる。その言葉は、きっと正しかったに違いない。関所番はもはや過去のものである。そして今、この場にあること自体が間違いであった……。
「――貴様等、此処は我等『特異運命座標』に任せよ。
 ――慌てず騒がず冷静に在れば、何れ、楽園への機会、扉は開かれる。
 ――楽園とは即ち『生きる事』酸いも甘いも悉くが待っているのだ」
 そういう、オラボナ。その言葉は、避難者たちの心に、深く染み入っていた……。
「逃げるんだ、皆! 諦めないで!」
 避難民の誰かの放ったその言葉に、またほかの避難民が頷いた。駆け抜けていく。イレギュラーズ達と、すれ違うように、ゆっくりと、逃げ惑う人々の中を進む。勇者たちが。
「逃がすな」
 関所番が言った。
「不正義の輩を、斬れ」
 泥の兵士たちが、ゆっくりと進む。進む。立ちはだかる。ひとりの少女。いや、ふたり。蛍と、珠緒。
「無辜の命を救うことこそがボクの『正義』! あんた達の独り善がりな『正義』――ううん、『不正義』なんかで崩されるような軟な『正義』じゃないわ! かかってきなさい!!」
 叫んだ。懸命に。もうこれ以上、被害は出させたりしない。決意と、願い。実現する。ここで!
 蛍が構えた! 突撃する、関所番! 巨大な大剣が振り下ろされる――それを、受け止める、桜色のオーラをまとった剣。
「珠緒さん!」
「はい!
 『関所番』……汝こそが、不正義なり!」
 続く珠緒の放つ赤の刃。強烈なる一撃が、関所番の鎧を切り裂いた。覗くのは、死体のような肌。否、影のような物体で作られた、虚妄の身体。
「こちらは、ひとまずは珠緒たちに!」
 そういう珠緒に、ベークが頷いた。
「了解です。影の人達は、僕と――」
「私が」
 ベーク、そしてオラボナが声をあげる。吹きあがるは、甘い香り。そして、『甘い』香りか。どちらも誘引する魔性。されど属性はまるで違うのだろう。ベークの甘い香りに釣られたのか否か。影の軍勢に食欲があるかは不明だが、いずれにしても、影はベークを狙う。襲い来る、影の刃。斬撃を、ベークは手にした大国旗の柄を、槍のようにして受け止めた。
「ここから先は通しませんよ。通すものですか!」
 声とともに、大国旗をふるう。斬撃は生命を借り、生命を駆り、悪しきを狩る。ギガント・ライフ・ブラスター。生命賛歌の滅魔の一撃! 陰がその生命の光に打ちのめされ、消え去る――同時、さらに迫る影を、オラボナが受け止めた。
「通行止めだ。後にも先にも、道は無し――」
 ぐわり、と空間が歪む。魔法の言葉。紡がれたそれが空間ごと影を喰らう。ぐしゃり、と歪んで倒れる。影。べちゃりと倒れて、そのまま消える。
「頼むぞ! きゃつらをとめい!」
 夢心地が、「キエエエエエエイ!」と叫びをあげ、東村山の刃を横なぎに払う。ずばり、と切り裂かれた影の騎士、首が転がり落ちて、地面に落下。そのまま消える、影のように。
「夢心地……とは麿の名ではあるが。まるで『悪夢心地』のような光景じゃのう……!
 そこな幼子には刺激が強すぎるか!」
 走り去る、母子のすがたを視界の端に確認し、夢心地が嘆息する。だが、ゼファーはその忌気を吹き飛ばすように、豪快に、鋭く槍を振るってみせた。切り裂かれる影が、凛とした風によって吹き飛ばされるかのように立ち消える。
「ええ、そうね! 斃してもリアクションが淡白なのが、君の悪さに拍車をかけているといいますか!」
 苦笑するように、ゼファーが言う。なんとも、手ごたえがない。いや、強敵、という点での手ごたえはあるのだが、斬っても、斬られても、何とも淡白なものだ。
「ええ、ええ、気味の悪い。
 本当に、悪夢のよう。夢だったらよかったのにね」
 ゼファーが言うのへ、戦場の端に転がる死体を見やる。倒れた、唯一の犠牲者。イレギュラーズ達が嗅いだ、血の香りの大元。
「絶対に、許せない!」
 セレナが叫んだ。掲げるその手に、黒紫の月光を輝かせて。光は圧して、圧して、影をぶすり、と焼きつぶす。それは、セレナの怒りのようにも感じられた。
「けど、行きたいんでしょ?」
 ラムダがそういう。セレナが、驚いたような顔をする。
「戦うより……避難してる人達についていきたいって顔してる。
 良いんじゃない? ま、何とかなるよ」
「好きになすと良い」
 オラボナがそういう。仲間達も、それに頷いた。
「ごめん……! ありがとう……!」
 セレナが、避難民たちの方に向かっていく。この戦闘の間は戻れないだろう……セレナの抜けた穴は、イレギュラーズ達に重くのしかかるはずだ……。
「ま、いいよね。元より避難民は全員助けるつもりだったから。
 それに! こんな奴らには負けない、でしょ?」
 ラムダがそういうのへ、ベークが頷く。
「ええ、当然。負けるのとか失敗とか、嫌いですから」
「セレナさんは、ボク達の代わりに、みんなを助けに行ってくれるんだから」
 蛍が言った。
「ええ、珠緒たちも、セレナさんを負けて迎えるわけにはいきません」
 戦力は減った。されど戦意はこれまで以上に。避難民対tの安全は確保されただろう。戦いの趨勢はこれで分からなくなった。だが。
「倒すわよ。これで負けたら、かっこがつきませんからね!」
 ゼファーの言葉に、仲間達は頷いた。
 未だ影の軍勢は多く、苦戦は免れない。
 されど――決意は固く。イレギュラーズ達は、悪しきものと激突する!

●影と、光と
「Nyahahahahaha!
 あの娘が後を任せたのだ!
 私も立ち続けなければなるまい――!」
 オラボナが、影の軍勢に立ちはだかる。隣ではベークが、再びの甘い香りを放って敵を誘引した。引き寄せられる、影。その一撃が、ベークを切り裂く。
「痛いですねぇ。僕はこう見えても、分割してパーティのお菓子にはなれないものでしてね!」
 大国旗で殴りつける。柄の部分で叩かれた影の騎士が倒れ、そこにラムダの機械刃が突き刺さる。
「大丈夫?」
「まぁまぁ、です!」
「問題あるまい――邪神を殺せるとしたら、それは業持つ人であるが故に」
 ラムダの言葉に、ベークがオラボナがそういう。とはいえ、既にその身体はボロボロだった。パンドラを削ってまでも、その場に立っていることは分かる。それほどまでに、敵の攻撃は苛烈。ひとり抜けた穴は大きい。とはいえ、その攻撃に、避難民を一切晒さずに済んだのはよい事であったが。
「影ももうすぐ処理が終わる――殿、どうだい?」
「なーっはっはは! 問題なしよ!」
 夢心地が影からの斬撃を受け流しつつ、返す刀で影を切り裂いた。影が、ぼわ、と世界に溶けて消える。ボロボロの身体で、にぃ、と夢心地は笑った。
「これで、仕舞いよ」
「良かった……!」
 蛍が叫んだ。その身体に、いくつもの傷を受けていた。
「ごめんなさい、そろそろ、限界……!」
「離脱して! 珠緒、蛍の離脱の援護を」
「はい!」
 珠緒が蛍の身体を支え、距離をとろうとする――が、関所番はうっそりと、
「逃がすものか、正義を騙る背信者め……!」
 声をあげ、その大剣を蛍に向けて振るう――珠緒が、赤の刃でそれを受け止めた。体に走る、強烈な痛み。衝撃。
「珠緒さん……!」
「大丈夫、なのです……!」
 珠緒は刃を振り払い、大剣を振り払った。そのまま、蛍と共に離脱――入れ替わる様に、ラムダが突撃した。機械刀が、関所番の肩鎧を砕く。覗く肉体は影の色。
「まったく、本当に人間じゃないみたいだね……なら、貴方は何なんだい?」
 ラムダが声をあげて、再度の斬撃――関所番はそれを受け止めるように、大剣を振るった。
「我は天義の騎士。正義の騎士――」
「ちゃんちゃらおかしいわね!」
 ゼファーが飛び込んだ。上段から槍の一刀! それを、膂力で受け止める、関所番!
「逃げて来た人間を不正義認定して虐殺するのがあなたの正義? 天義の正義? なめるんじゃぁ、ないっての!」
 ゼファーが槍から力を刹那、抜いて、関所番の体勢を崩した。そのまま、一撃、腹部に蹴りをぶちかます。ずさぁ、と滑った関所番に、ベークの生命砲撃が突き刺さる。
「ぬうっ!?」
「どうでもいいですけど……あなたのやってることを正義って言うの、少し、すこーし、頭にきます」
 ベークの攻撃に合わせて、オラボナが術式を解き放つ。カルネージ・カノン。災厄の魔力激撃よ。放たれた魔力光撃が、関所番を飲み込んだ――。
「まだだぞ、油断するな。やったか、等とは間違えても言うなよ」
 オラボナの言葉通り――その光の中から、関所番が飛び出す――その身体を包む全身鎧はすでにあちこちが剥がれ落ちている。肉体がのぞく。影の、肉体。
「不正義の輩よ! 我の、我の正義を――!」
「あなたに、今のあなたに、正義なんてない!」
 蛍が叫んだ。そのボロボロの身体を、珠緒が支えて。
「絶対に……絶対に……!」
「そうじゃ! 正義は麿たちにあり、じゃ!」
 夢心地が叫んだ。飛び掛かる、関所番。その一撃を、夢心地が受け止めた。体中に、強烈な痛みが走った。
「き、えええええい!!」
 痛みをこらえ、叫んだ。切り抜ける。刃。ずん、と、関所番の首を薙いだ。
 するり、と線が走ったようだった。落ちる。首が。衝撃で、フルフェイスのヘルメットが落ちる。中から現れたのは、確かに、亡くなった天義の騎士の顔をしていた。
「正義を……我の正義を……魔から、守らなければ……祖国を……」
 その想いは本当だったのかもしれない。だが、斬りとられたそこだけの想いは、今は何者かに利用され、虐殺の片棒を担がされていた……。
 すとん、とその首が大地に落ちる。刹那、その身体は影のようなものに包まれて、ぶあ、と大地に散っていった。消えていく。関所番と呼ばれた魔が……。
「終わりました、か」
 ふぅ、とベークが声をあげた。全く、激しい戦いだった……。
 傷ついたものも多い。だが、その分、確かに守れたのだ……此処に逃げ来てた、あの人たちを。
「ごめんね、おじいちゃん。間に合わなかった」
 ラムダが静かにそう言った。老人は、間に合わなった。どうしようもできなかった。気に病む必要はないのだ。でも、少しだけ、棘のように残った。
「あとは、セレナさんが戻ってくるのを待ちましょう」
 珠緒がそう言った。避難民たちには万が一でも危険はないはずだが、セレナが護衛についているならなおさら安全だろう。
 イレギュラーズ達が、少しだけ、座り込んで、披露した体を休めていた。
 やがてセレナが戻ってきて、避難民他達の無事を教えてくれた――。

成否

成功

MVP

藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 その後、避難民たちは無事、国境を越えたそうです――。

PAGETOPPAGEBOTTOM