PandoraPartyProject

シナリオ詳細

「オタクくんたちー、こういうの好きなんでしょ?」「すきです!!!!!!!」

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●爆発して死にます
「学校の教室で『オタクくん』が好きそうなシチュエーションを演じたら――相手は爆発して死にます」
「うそでしょう?」
 この二行が今回の全てであり、画面の前の視聴者諸兄もお気づきの通り今回はカオスとギャグとナンセンスの世界にご案内するつもりである。ええい待て、逃がすか!
「本当にそんな怪物がいるんですか? 本当の本当に?」
 短いスカートを揺らして困惑するトール=アシェンプテル(p3p010816)。
 うえのイラストにも出てるキレイめのガールである。今日はこの子を紹介するね。
 やってはいけないことは脱ぐこととスカートを捲ることだよ。
 多分大半の人類にやっちゃいけないと思うけど、彼(彼!)の場合自分が女装男子(女装男子!)であることがバレたら死なのだ。いや死にはしないけど。
 なのでこの子は女の子ってことで今日は扱ってあげてね。
「本当の本当です」
 対するは丸眼鏡をキラリと光らせた学校教師。
 みるからにファンタジーしてる混沌世界に学校教師とか学校の教室とかあるの? って思うかもしれないが、本当になんでもあるのが混沌世界である。
 ここは探求都市国家アデプト。通称『練達』。その中でも現代日本的世界からやってきたウォーカーたちが作り上げたとされる再現性東京202X、希望ヶ浜地区。
 大きな学園を抱えるこの『現代日本風』の都市が、今回の舞台である。指定の学校制服も可愛いから是非みてね。

「通称『オタクくん』――学園旧校舎に出現した怪異です」
 この都市にはよく怪物が現れてそういうのはだいたい夜妖(ヨル)て呼び方をされますけどここでは都合良く出てくるおばけだと思って頂きたい。だってあとで爆発して死ぬから。
「旧校舎はすでに閉鎖し、一般生徒たちにもガス漏れのカバーストーリーを与えて近寄らせないようにしてあります」
「近寄らせないって……近づいたら危険なんですか?」
 おずおずと尋ねるトールに、丸眼鏡の教師は眼鏡をキランと光らせながら『いかにも』と頷いた。
「とにかくすごいきけんなのです」
「とにかくすごいきけんなんですか!?」
 具体性がミリもないが、トールはハッとして震えた。想像力が豊かなのかもしれない。
 ならば倒さなくてはと輝剣『プリンセス・シンデレラ』を手に取るが、教師は眼鏡をまだ光らせながらゆっくりと首を横に振った。
「およしなさい。『オタクくん』を武力で討伐することは困難を極めます。なぜなら彼らは攻撃されることに怯え、すぐに転移してしまうのです。これ以上大規模なカバーストーリーを『オタクくん』ひとりに適用し続けることはできません」
「で、でもどうすれば……ハッ!」
 困惑しかけたトールの脳裏に電流がはしる。
 そう!
「『オタクくん』が好きそうなシチュエーションを演じたら――相手は爆発して死にます」

GMコメント

すきです!!!!!!!!!!!
よろしくお願いします!!!!!!!!!!

●『オタクくん』
学園旧校舎に現れた怪異です。オタクくんが好きそうなシチュエーションを演じたら勝ちです。相手が爆発して死にます。
なお、複数の教室にひとりずつ居るっていうなんか都合のいい状態で発生しているので、1人1シチュエーションくらいの気持ちでトライしてください。
本音いうとただ「こういうの好きでしょ」シチュが書きたいだけなのでOPにある大半の事情は忘れて貰って大丈夫です。

●教室
学校の教室です。日本全国にありそうな普通のやつです。
夕暮れの光が差し込む放課後っぽい雰囲気がします。

●シチュエーション
色々言いましたが自由です。なにやってもいいし急に幼なじみや部活の先輩設定をつけて頂いて多いに結構です。オタクくんは乗ります。乗せます。
その他何が来てもうまいことキャッチして描写するので全力でかかってきてください。こちらも全力でお相手する。

●希望ヶ浜と学園
詳細はこちらの特設ページをどうぞ
https://rev1.reversion.jp/page/kibougahama

  • 「オタクくんたちー、こういうの好きなんでしょ?」「すきです!!!!!!!」完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年11月28日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ノア=サス=ネクリム(p3p009625)
春色の砲撃
玄野 壱和(p3p010806)
ねこ
トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス
※参加確定済み※
リリーベル・リボングラッセ(p3p010887)
おくすり

リプレイ

●ワンポイントアドバイス
 今から【オタクくん】という単語が沢山出るけど、これを自分の名前におきかえて読むと幸せになれるよ。

●『愛の方程式』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)のこういうの好きでしょ


 放課後。夕暮れの教室。オレンジフィルムのかかった景色に、開く扉。
 がらがらと、すこし立て付けのわるい引き戸をあけた彼女は同学年の生徒、ココロだった。
 希望ヶ浜の制服は彼女のためにあったのではとおもうほど、その茶目っ気のあるデザインは彼女の可憐さに似合っている。
 放課後すぐに教室を出る雑多さが苦手で、話して過ごすような相手もおらず、本を読むのに夢中ですというテイを装い放課後にまで残っていた自分を見て、ココロはパッと目を小さくみひらいた。
 まるで野原に小さな花を見つけて喜ぶ少女のようなしぐさにどきりとしていると、ココロは軽い挨拶と共に席へと近づいていく。
「ねえねえ、ここ座っていいですか?」
 あっ、とかんーとか、なんともいえない返事をする【オタクくん】。ココロは返事を求めては居なかったのか、椅子を引いてちょこんと座った。
 ココロと【オタクくん】の間にあるのは、机と、本だけ。
 座ったはいいものの、ココロはしばらく自分の頬あたりにある髪をゆびさきでつまんで弄っていた。
 もじもじとした様子の彼女が気になって本をおろすと、彼女は机にぺたんと肘と腕をついて、覗き込むような上目遣いをしてきた。
 放課後。夕暮れの教室。オレンジフィルムのかかった景色に、上目遣いのココロ。
「ちょっと、聞きたいのですが」
 問われてさすがに無視はできない。今度こそ『なに?』と答えてみると、ココロはすこしだけ目を泳がせてから【オタクくん】を見た。
「あ、あの……彼女って、いたり、しますか?」
 その言葉の意味するところを。
 あまりにもあまりな発言を。
 【オタクくん】はできるだけ冷静を装って『べつに?』と返した。
「あ、そう、ですか。よかっ――いえ、なんでも」
 ない、です。とフェードアウトしていくココロの声。机面をじっとみつめるように目をそらし、頬は徐々に赤らんでいく。
 それからしばらく、沈黙の時が流れた。
 放課後。夕暮れの教室。オレンジフィルムのかかった景色に、ふたり。
 沈黙を破ったのは、ココロのほうだった。
「あの! だったら――」
 机に手を突いて、身を乗り出すココロ。
 胸元のストライプが、そしてなによりココロの星空のように深い瞳が【オタクくん】をとらえる。
 次の言葉を待つ【オタクくん】に。
「お、女の子の方から言わせないでください」
 と、ココロは先を促した。

 【オタクくん】は爆発して死んだ!

●『矜持の星』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)のこういうの好きでしょ
 ある秋の終わりに、【オタクくん】の世界にマリアは現れた。
 転入生を紹介します。教師がそう説明して連れてきたのは、青い瞳に金色の髪をした小柄な少女。褐色の肌と、どこか現実離れすらした顔立ちに、誰もが異国の血を想像する。
 親の都合で海外から急に引っ越してきたという彼女は、黒板に流ちょうな字で『maria』と書いてみせた。
 けれどそれだけだ。日本語が不自由なせいか、それとも寡黙な性格なせいか。マリアは黙って、自己紹介のための15分間を消費しきったのだった。

 マリアの噂は学年じゅうに広がった。他のクラスから様子を見に来るやつもいれば、部活の繋がりからか上級生が教室の扉から中を覗き込んでくることも多々おきた。
 当然クラスのなかでは彼女を囲んで質問大会がおこったのだが……マリアは口をぱくぱくさせるばかりで、言葉らしい言葉を発することはなかった。
 彼女は日本語がまだ話せないからだと周りは知っていたし、ここまで端正な美少女を困らせて楽しい者などいない。しだいに彼女を囲む輪は薄くなり、数日のうちにそれは消えた。
 そう、席が隣り合った【オタクくん】を除いて。

 授業中、袖を引く感覚に【オタクくん】がちらりと見ると、マリアは【オタクくん】の顔をじっと見つめていた。
 目があう。深い深い海のような、あるいは秋の青空のような。どこまでも遠くて、果てが無いような多い目。
 けれどそんな目を見つめていると……なぜだろう、彼女の気持ちが分かるきがするのだ。
「消しゴム、忘れたの?」
 筆箱からそっと取り出すそれに、マリアは頷く。
 それが多分、『はじまり』だったのだろう。

 マリアは【オタクくん】との交流を好んだ。携帯ゲーム機を弄っていればそれをのぞき込み、本を読んでいればそれを覗き込む。
 はじめはその干渉に戸惑うこともあったが、マリアから香るふしぎないい香りが、警戒を忘れさせた。
 自然と【オタクくん】とマリアは二人でいることが多くなり、それが周りから見ても当たり前になっていた。
 けれど、『いつまでも』というわけには、やはりいかなかった。

 別れの日がやってきた。
 親が海外へ帰るに当たって、マリアもまた海外の学校へと移るのだという。
 その日は送別会が開かれ、ひとしきり盛り上がり、そして自然と解散する。
 全て終わったはずの、夕暮れの校舎裏。
 【オタクくん】のもとへ、マリアは現れた。
 歩み寄るマリア。
 ぱくぱくと口をうごかして、そして。
「オトナに、なったら、あいに、くる」
 そうとだけ囁いて、【オタクくん】の手を握った。

 【オタクくん】は爆発して死んだ!

●『誘惑者』ノア=サス=ネクリム(p3p009625)のこういの好きでしょ
 ノア先生は学校でも人気の美人教師だった。学生からは勿論、教師陣からも一段特別な存在として扱われている。その理由はなんと言ってもその豊満な胸であり、それを豊かに彩るバイオレッドの髪であり、濡れたような赤い瞳であった。
 ミステリアスで扇情的。そんな彼女には当然噂がつきもので、想像力豊かな男子高校生たちは様々な(そして時には下品な)噂を語ってはそれを娯楽にする。
 逆に言うならば、ノア先生はそれくらい遠く、手の届かない存在でもあったのだ。
 【オタクくん】とて、例外であったわけではない。男子高校生の『メールで合い言葉を送ればヤれる』とかいう嘘100%の噂を当然疑いつつも、合い言葉を探して学校じゅうをうろうろしてしまったことだってある。その間でくわす何人もの同級生たち(&教師)と無言のシンパシーをかわし、頷き合うことすらあった。
 だがそんな、ミステリアスなノア先生の秘密が……ある日突然にして明かされるのであった。

「【オタクくん】、悪いわね残って貰って」
 ある日突然に放課後遅くまで残ることを求められた【オタクくん】。
 なにかしら期待がなかったといえば嘘になるが、まさか自分がという気持ちがそれを上回り、彼を一度は沈めていた。
 目の前にいるのも、いつものノア先生だ。
「ねえ【オタクくん】……【オタクくん】が好きなもの、先生あててあげよっか」
 どこか艶っぽく言うノア先生の指は、自らのネクタイにかかっていた。
 しゅるしゅると緩めるネクタイ。
 流れるようにスーツジャケットのボタンを外し、ワイシャツのボタンを外す。
「せ、先生!?」
「ねえ、【オタクくん】……」

 突如!
 窓ガラスを割って数人のダークニンジャが現れた!
「「キリステ!」」
 命乞いすら許さず無慈悲に殺すことを意味するスラングを吐き、一斉にクナイを握り飛びかかるダークニンジャ。
 ノア先生は自らのワイシャツを片手で掴むと、たったの1モーションで上下全ての衣服を脱ぎ捨て、その下にあったぴっちりとしたボディスーツを露わとしたのである!
 と同時に教室の扉を突き破って現れる漆黒のバイク、『メタル・アクセル・ワイバーン』。分厚いタイヤがギッと威嚇するかのように鳴りブレーキをかけるが、反動で吹き飛ぶ机と椅子。その中を駆け抜けるダークニンジャと、それをパープルカラーのニンジャカタナで次々に切り捨てるノア。
「【オタクくん】、こういうの好きでしょ?」
 ノア先生……いや影に潜み戦う戦士ノアは、ワイバーン形態へ変形するメタル・カオス・ワイバーンへと跨がり窓から外へと飛び出していった。
 最後に、ウィンクひとつを残して。

 【オタクくん】は爆発して死んだ!

●『ねこのうつわ』玄野 壱和(p3p010806)のこういうの好きでしょ
 【オタクくん】のクラスにはあるうわさ話があった。
 それは昼と夜の境界、黄昏時にある儀式を行うと願いが叶うというもの。
 あまりにも眉唾な、しかしどこか魅力的なその噂は広がり、陽キャグループはそのまねごとをして旧校舎でパーティーまがいのことをして出禁になるという事件まで起きる始末。
 だがそれは逆に、誰も噂を真に受けてはいないという事実の現れでもあった。
 重要なのは噂を語り合う相手が居ることであり、環境そのものなのだ。
 だが【オタクくん】は違った。
 朝起きて学校に行き、授業を受けて休み時間に寝たふりをし、放課後部活にも入らずそそくさと変えるという日常のループは、彼が日常に飽くのに充分であったのだ。
 願いがもし叶うなら。
 この日常を破壊して――。
 そんな、非現実的な希望を抱いて【オタクくん】は噂の旧校舎へとやってきた。
 夕暮れの差し込む旧校舎は静かで、まるでその場所だけが時間から取り残されたかのようだ。
 それは【オタクくん】が望んだ非日常への入り口のようで……思わず。そう、思わずだ。
 夕暮れの光とは明らかに違う、怪しい光を放つ教室の扉を、【オタクくん】は不用意に開いてしまったのだ。

 床を多うほど巨大な魔方陣。吸い寄せられるかのようにその中央へと進む【オタクくん】の背後には、見たこともないような怪物が現れていた。
 悲鳴をあげる暇も無い。死を覚悟した。望んでいた非日常は、彼を殺すに充分な危険を孕んでいたのだと知りつつも。
 恐怖に目を瞑る――その瞬間。
 光が、教室の中に満ちた。

「無事カ?」
 目の前には、見たこともない存在――壱和が建っていた。
「従者(サーヴァント)、バーサーカー。召喚に従い参上しタ」
 しりもちをつく【オタクくん】を見下ろし、壱和は囁く。
「――問おウ。あんたが、オレの主殿(マスター)カ」
 それは間違いなく、非日常への誘いであり……運命の扉が開く声だった。

 【オタクくん】は爆発して死んだ!

●『甘やかなる毒花』リリーベル・リボングラッセ(p3p010887)のこういうの好きでしょ
 ある日、【オタクくん】はリリーベル先輩から呼び出しを受けた。
 リリーベル先輩は一学年上の先輩で、学年という垣根を越えてすら噂が届くくらいの美少女である。
 甘い果実を思わせる桃色の瞳に、白桃色の髪。透き通る肌と、非現実的なほど豊満な胸。
 リリーベル先輩に対して恋心を抱く男性は後を絶たず、中には彼女を神聖視(あるいはアイドル視)する者すら現れるほどであった。
 そんな彼女と【オタクくん】が接点を持ったのは、彼が(クラスのホームルームに欠席していたからという理由で)保健委員に選ばれたためであった。
 月に一度程度行われる委員会の集まりに、リリーベル先輩の姿があったのだ。
 いや……逆に言えば、たったそれだけである。
 同じ委員会の先輩。
 百凡の接点に、心が躍るかといえば難しい。難しいが……それまで大して何かに打ち込んでこなかった【オタクくん】をやる気にさせるには、充分な刺激だったのだろう。
 皆が面倒くさがるような書類仕事を進んでこなし、ボランティア活動にも積極的に参加した。
 リリーベル先輩の役に立ちたいからだとか、同じ場所にいたいからだとか、そういう下心が無かったと言えば嘘になるだろう。

 そんなある日。そう、そんなある日に、リリーベル先輩からメールが届いたのだった。
 委員会用のSNSメッセージグループとは別に、ダイレクトメッセージによって。
 時は夕暮れ、委員会の活動に使っている教室に入ると、窓辺にリリーベル先輩が寄りかかるように立っていた。
「ん」
 来てくれてありがとう。そんなふうに言うリリーベル先輩に手招きをされて、言われるまま椅子に座った。教室のものとは違うパイプ椅子。なにが始まるのかと構える【オタクくん】の背に、やわらかい感触が広がった。
 肩越しに回される腕。優しく後ろから抱きしめられたのだと気付いた時には、ゆっくりと頭を撫でられていた。
「ね、【オタクくん】……いつも、頑張っているのね。今日はね、だから、よしよししに来たのよ」
 耳元で囁くリリーベル先輩の声に――

 【オタクくん】は爆発して死んだ!

●『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)のこういうの好きでしょ
 三年という月日は短い。
 憧れや期待、そして不安を抱きつつも入学する学校から、卒業してしまうまでのほんの一瞬の時間だ。
 それを最も強く思わされるのは、卒業式の練習が続く頃だろう。
 はじめはだらだらと行われるそれに、皆が徐々に熱を入れはじめる。卒業を前にして何かを成そうと、旅行に出かけるグループや急に親密になるグループが現れる。
 【オタクくん】もそんな空気の中で、やはり時間の流れを感じていたのだった。
 そして今。
 そう、この今こそが、最もそれを感じている時間だと言えるだろう。

 急ぎ足で階段を上り、廊下を早足で通り抜け、そして、教室の前に立つ。
 昨晩ダイレクトメールで送られてきたメッセージに、こたえるために。
 扉をあけると、オレンジ色の光の差し込む教室があった。
 教室の窓辺には、机と椅子。
 等間隔に並ぶそれのなかに唯一、トールの座る椅子がある。
 窓の外で散る桜の花びらを眺めていた彼女は、扉を開く音に気付いてこちらを振り返った。
「ありがとう。来てくれたんだね」
 ああとか、まあとか、そんな曖昧な返事をしながら教室へと入る【オタクくん】。どの程度の距離まで近づいて良いものやら迷いながら、机三つ分の距離で立ち止まる。
 すると、トールは『こっちへおいでよ』と隣の椅子をひいて見せた。
「卒業しちゃう前に、ちゃんと伝えておきたかったから」
 ……と。

 ねえ、覚えてる?
 トールが散る花びらを眺めながら語り出した。
「入学したばかりの頃…私がデスワー口調の女コンバイン怪人に襲われた事件があったよね。
 あの時オタク君が助けてくれなかったら、私この世から命を刈り取られてたかもしれない……」
 そういえば、そんなこともあった。
 一瞬に思えた三年間のなかで、ごく僅かに存在するキラキラした思い出だ。
 それからずっとトールのことを目で追う日が続いた。
 彼女が時折こちらを見つめ、目が合うこともあったけれど、自分なんかがと目をそらす。
 そんな時間が……そう、『一瞬の三年間』のなかに何度もあった。
「【オタクくん】――あれがね、私の、初恋なの」
 振り返るトールの瞳。
 青くすんだ、朝の湖のような瞳。
 それを自分を見つめ、その瞳に映る自分もまた、彼女を見つめていた。
 『一瞬の三年間』の中に何度もあったそれが、偶然ではなかったと。
 彼女は、【オタクくん】の頬に手をそっと添えて微笑んだ。
「最後に、思い出をくれませんか?」
 ひとつの希望にすがるような声に、【オタクくん】は首を振る。
 最後なんかじゃない。今この瞬間から始まるのだ。
 大切にするよ。ずっと一緒だ。そうささやきかけると、トールの目尻に涙が浮かんだ。
「私――ううん、僕、男の子だけど、いい?」
 もう一度言おう。
 今この瞬間から始まるのだ。
 新たな目覚めが――

 【オタクくん】は爆発して死んだ!

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

【オタクくん】は爆発して死んだ!

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