PandoraPartyProject

シナリオ詳細

金の星の降る街で

完了

参加者 : 2 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 街と外を区切る門扉が遠くに見え、どちらともなく「嗚呼」と息を吐く。
 ゴールが見えた途端、安堵で足の重さが増す思いがした。予想外に激しい仕事の後ではなおさらだ。
 もう少しだ、という気持ちとこんなはずではなかった、という気持ちが『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)の中で二重に渦巻いた。
 街の近くの山道に魔物が出るからと聞いて行楽気分で『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)を誘って出かけてみれば、予想以上に凶悪な魔物が待ち構えていたのだ。
 依頼人が見間違えたのか、それとも情報屋の不手際か、或いはどうせ人里の近くには大した魔物は出まいとタカを括った自分の心得違いか。
 ともかく依頼にかこつけたデートの目論見は完全に潰えた訳である。

「ん~最近各地結構荒れてんのかな。しんどい依頼が増えたよねぇ。タイムちゃんはそういうの感じる?」

 隣を歩くタイムは小さく唸ってから「あるかも」と答えた。
 タイムが小さな肩に羽織ったニットの外套は秋らしい深紅の愛らしいデザインのものだ。
 今更言うまでもないが、自分と彼女の思惑は同じだったと改めて直面して夏子の胸を小さく刺した。

「なんだか新しい種族の魔物とか増えたし、そういうのかなぁ」

 失敗の痛みに気づかない振りをしながら夏子は「かもね~」と頷く。
 なんにしろ、街に戻ればいい食事を出す宿を予約しているのだ。失点はそれで取り返せるはず。

「あ~あ、夏子さんの誕生日の時みたいに旅行みたいな依頼ばっかりだといいのになぁ」

 それは。
 それは、タイムにとってはきっと大したことのない言葉だったに違いない。
 だって夏子は誕生日にデート気分で依頼に誘ってくれたのだから。
 ちょっと失敗があったって特別不機嫌になるような事じゃないのだ。それはそれで残念だけれど。
 だが。
 だが、夏子の何時もは緩く開いている口がきゅっと締まっているではないか。

(誕生日、かぁ~)

 10月の初めには覚えていたはずである。
 カレンダーを見て今月誕生日だなと確認した覚えがある。

(ここから、いい「誕生日」の思い出にしなきゃなのか~)

 10月31日、世がファントムナイトで騒がしく彩られる一日。
 その日こそがタイムの誕生日である。

「そのくらいに平和ならいいね~」

 再び口元をゆるっとさせながら夏子は近づいてくる街の入り口を見た。
 あの門を超えてから宿に着くまでの間にタイムの誕生日を祝う準備を整えなければならない……。


NMコメント

 ハッピーバースデー!トゥ!ユー!
 ご指名ありがとうございます。言子です。
 素敵な誕生日の思い出を一緒に紡いでいきたいと思います。

●目標
 タイムの誕生日をお祝いする。

 夏子さんはまだプレゼントの用意もしていない状態です。
 現在時刻は昼過ぎたあたり。
 街の中を観光しながらなんとか誕生日のお祝いの準備を整えましょう。

●オスマンサス市観光案内
【オスマンサス市】
 幻想ーラサ間の交易の中継地点を担う幻想の都市の一つです。
 名前の通り金木犀が特産品で、お酒やお茶、シロップなどに加工して親しまれています。
 この時期は町中に植えられた金木犀が一斉に開花し、甘い匂いで満たされています。

【正門前】
 夏子さんとタイムさんはここから街の外に出かけて、今帰ってきたところです。
 物流の拠点で常に人が多く活気のある区画です。様々な商店が軒を連ねています。
 表通りには高級感のある店が多いですが、一本通りを外れると庶民向けのお店がたくさんあります。
 貿易都市である為か商品のラインナップは幅広く、ラサ~幻想までの品は当然として時々は遠くの豊穣の物まで流れ着く事があるそうです。
 街の玄関口であるためか、旅人向けのフットマッサージの専門店などもあります。存分に疲れを落としてください。

【中央広場】
 夏子さんが予約した宿がある区画です。
 美しく紅葉した木々を眺められる公園の周囲にお洒落なオープンカフェなどが立ち並ぶ市民憩いのエリアです。
 カフェ同士の競争が激しい地区で、長年一位の座に君臨する「星の桂樹亭」の金木犀茶とスイーツは絶品だと言われています。
 特にオレンジにほんの少し金木犀のシロップをしみこませて作ったパウンドケーキは上品な味わいで、ここでしか食べられないと評判です。

【その他】
 オスマンサス市は極めて風光明媚で治安のいい街です。
 行きたい場所があればいい感じに生えてきます。

  • 金の星の降る街で完了
  • NM名七志野言子
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年11月19日 22時05分
  • 参加人数2/2人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 2 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(2人)

コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
タイム(p3p007854)
女の子は強いから

リプレイ

●マッサージ店にて
「あ~」

 まずはどうぞ、とマッサージ師に言われるがままに暖かい湯の中に足を浸すと思わず声が出た。
 へとへとの状態で正門をくぐった後、マッサージの幟を見つけてまずは疲れを癒そうか、という事になったのだ。
 じわりと染みわたっていく温もりが心地よいと同時に存外に体が冷えていた事を『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)は自覚した。
 誕生日にデートに誘って貰えたなんて浮かれていたのは自分だけなのかも、なんてクサクサした気持ちが疲れと一緒に湯の中に溶けていくようだ。
 午前中は散々で、降ろしたての外套も汚れてしまったけれど、心がしぼみ切らずに熱を持っているのは隣にいる『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)のせいだ。ならばこのまま思いっきり楽しむ事に切り替えてしまってもバチはあたらないだろう。

「はぁ~キクぅ~」

 ちらりと横目に見た夏子は一足先に施術を受けているらしい。ぐいぐいと足の裏を揉みこまれて悶えている。
 タイムも丁度体が温まったところで足を温めていた湯が片付けられて、固くなった筋をぐいともみほぐされる。

「そこ、あっ、ふぁ、すごぉい、さいこう……」

 寄せては返す心地よさが勝る絶妙な感覚に段々と力が抜けて瞼が重さを増していく。
 そういえば今日は朝早かったもんね。なんて、軽口も頭から出る前にとろけてしまう。

「……夏子さん?」

 ふと、気が付くと隣で施術を受けていたはずの彼が椅子から降りている。

「ん……トイレは向こうだって。むにゃ……」

 少し困った風にこちらを見ているなんてきっとトイレの場所が分からないのね。席に通してもらった時に教えてもらったのに抜けてるんだから、なんて。
 とろけた頭であっち、と視線だけで示してタイムはとろとろとまどろみの中に落ちて行った。



「……はっ、寝てた!?」

 終わりましたよ、と肩を叩かれてタイムは体を起こした。
 足の疲れはすっかり抜けていて、全身がぽかぽかとして気持ちいい。

「あれ夏子さんまだ戻ってない?」

 施術が終わるまでぐっすり寝てたなんて気づいたら真っ先に揶揄ってきそうな彼が隣に居ない。
 まだトイレかな?
 様子を見に行こうとタイムが立ち上がると入り口の方がにわかにどたどた騒がしくなった。

「およよ。ゴメンね、待たせ、ちゃった?」

「いたいた。ううん。もしかして……お腹の調子よくないの?」

 心なしか息が荒い様子の夏子をタイムが心配そうに見やるが夏子はゆるく首を振り。

「大丈夫大丈夫。宿の時間まで少しあるからなんかオヤツたべてこ~」

●舞台裏
(痛恨迂闊極まりないうおーぉぉ)

 マッサージ店で眠りに落ちていくタイムを見守った後、夏子はマッサージ店を飛び出した。
 とにもかくにも時間がない! なにしろこれからタイムの誕生日祝いの準備をしなければならないのだから!

(俺ってばナニ? どうしたの油断? 女性の、ソレもかなり良くしてくれてるタイムちゃんの)

「誕生日忘れるってどゆこと?」

 過去の自分の所業を口に出しても状況は変わらない。
 道を行く人の群れを避けながら全力で正門前通りを駆ける夏子の目指す場所は……金木犀専門店。
 マッサージ店までの道すがらリサーチしたところによると、どうやら彼女は特産品の金木犀製品に興味があるらしい。
 ……興味があるらしい、という所までしか時間不足で分からなかったが、幸い依頼の直後で懐は温かい。

(急げ夏子茶酒菓子香水シロップ御当地金木犀商品総浚いだうぉ~!)

 本物の金木犀の花が沈む洋酒、甘やかな香をそのまま写し取ったかのような香水。それから、自分の琴線に触れてよい、と思ったものをとにかく全部。

「一先ず大量の金木犀商品は宿部屋にモリッと飾って貰お!」

 全力疾走で宿に持ち込みホテルマンにチップをはずんで、ついでにスイーツの美味しいお店を紹介してもらったりしたのだ。


●そんなこんなで
「スイーツがべらぼうにイケてるらしいよ。タイムちゃんの為に情報収集しました」

 タイムの手を引いてやってきたのは中央広場にある『星の桂樹亭』だ。
 飴色のニスが塗られた重厚なドアを押し開けるとカランと軽快なベルが鳴る。

「あ、ここ! わたしも気になってた~。絶対美味しそうだもの。気が合うね!」

 席に通されて早速、メニューを開いて歓声を上げるタイムに夏子は心中でのみ小さくガッツポーズを作る。
 その情報収集がつい先ほど行われたなんて彼女は知らなくってもいいのだ。

「うーん美味~」

 注文した一番人気のパウンドケーキを早速ほおばってタイムは頬に手を当てる。
 口の中でホロホロに崩れる甘くしっとりとした生地と、オレンジの酸味。その後からすっと甘い金木犀の香りが鼻腔を通り抜けるのだ。
 セットの金木犀茶も金色の明るい水色で、甘くなり過ぎた口の中を中和してくれるだけでなく、茶と金木犀の香りが濃厚に絡んださわやかな香気がする。
 一つ一つの要素はタイムの予想通りであったが、それらが絡み合うと予想外の美味になっていた。
 そんな様子を夏子も快く見守っていた。いっぱい食べる彼女の姿は愛らしい。


「夏子さんも一口食べる?」

「ええ~いいの?」

 誘われるがままに口を開けた夏子にタイムの瞳がきらりと悪戯に光った。
 夏子の口元にケーキを持って行って寸前で「やっぱーあげないっ」と逸らしてやる。
 すると大袈裟に落ち込んで見せる彼が愛しくて。
 冗談と嘯いて今度こそ本当に手づからケーキを食べさせてあげるのだった。

●一日の終わりに
「えっ」

 宿に着いたタイムは目を丸くして室内を見渡した。
 まず部屋の中心には、気になっていた金木犀のお酒や、喫茶店で飲んだ金木犀のお茶、お菓子、それだけではない。
 金色の星が散ったかのような金木犀モチーフのガラス細工に、空のフォトフレーム。
 それから金木犀を中心とした秋の花やリボンで飾り立てられたこの部屋は、『偶然』じゃないと思い至るに十分な効果だった。

「いや~色々あったけど、呑気に楽しもーね。誕生日おめでと~」

 後ろからのんびりと声をかけてくる彼こそが犯人に違いない。
 一日楽しく過ごすと決めても、心の中でどこか誕生日を祝ってほしいと燻っていた気持ちが溶け消えていく。

「嬉しい……ありがと」

 僅かに声が震えた。
 夏子の背に腕を回し、半ば体を預けるように抱きしめる。
 そうすると部屋に満ちているはずの金木犀のかぐわしい香りが消えて、夏子の香りだけが何よりタイムを刺激した。

「今日の事は部屋一杯の金木犀と一緒にずっと覚えておくね」

 ウェッヘッヘなんて照れ隠しに奇声を上げる夏子に、もうっと頬を膨らませつつもタイムは寄り添ったまま離れない。
 そんな二人を金木犀の花が静かに見守っていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

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