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シナリオ詳細

秋の空、秋の味を楽しんで

完了

参加者 : 3 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「どなたか……どなたかお手伝いをお願いできませんかぁ」
 か細い声でそう声がする。
 幻想――レガドイルシオン王国に存在するローレットの本部に、そんな声があった。
 身なりは良いものの、貴族という雰囲気も商人と言う雰囲気も無い――そんな人物だった。
 遥かな北方では鉄帝が群雄割拠の様相を呈し、南方ではシレンツィオリゾートの決戦が最終段階に至り。
 東方には天義にて大規模同時作戦が行なわれようとしているそんな時。
 この幻想もまた政変が混迷をきたすまま。
 その状況で、その声はある種、後回しになっているともいえよう。
「なんやろねぇ」
「お困りの事が、あるのでしょうか」
 はんなりと呟いた蜻蛉(p3p002599)にこてんと首を傾けるネーヴェ(p3p007199)が続ける。
「聞いてみるのよ!」
 そう呟いたのはキルシェ=キルシュ (p3p009805)である。
 仲の良い3人はこの日、一度ローレットに集まってからお出かけする予定だったのだが――ああも困っている様子を見せられては話を聞かないという選択肢は取れなかった。
「そうやねぇ……」
 頷いた蜻蛉が視線をネーヴェに向ければ、こくんと小さく頷く彼女の姿。
 ゆっくりと車椅子を引いて蜻蛉が歩き出せばキルシェがそれに続いた。
「あの! 何か困ってることがあればルシェたちが聞くのよ!」
「あぁ! 良かった! この程度の依頼ではお忙しい皆さんには聞いていただけないのかと……」
 そう言って安堵の息を漏らす男は、年齢にすると20代の半ば程。
 苦労しているのか10歳は老けて見えるが――何となく声色からそう感じた。
「なにか、ありましたか?」
「はい……実は私、幻想の南部にて畑と山を所有しております。
 秋口に入りましてちょうどこれから収穫の時期なんですが、畑の近くに魔獣が現れてしまったのです。
 普段であれば領主様の私兵が討伐してくれるのですが、どうにも別の村にも同様の問題があり」
「なるほど、手が回っておらず、困っている、と」
 ネーヴェが繋げば、彼はこくりと小さく頷いて肯定する。
「それはあかんねぇ……その子らも冬越えのためには必要なんやろうけど」
 蜻蛉は困ったように首を傾げながらそう言えば。
「そういうことなら依頼を出せば何とか出来るかもなのよ!
 どうして出さないのかしら……?」
 そう首を傾げるキルシェに、彼が少し申し訳なさそうな顔をして。
「……皆さんは普段、8人で行動されると聞きますが、
 その……英雄と名高き皆様を8人も割いて頂くほど、魔獣が強くないのです。
 それでも、一般人では防ぐのも難しいのです……」
「それで微妙に腰が引けてまうんやねぇ」
「はい……」
 更に申し訳なさそうに頷いた男に、ネーヴェが声をあげる。
「……もし、よろしければ、わたくしたち3人で、いきませんか?」
 蜻蛉を見上げるように言って、続けて視線をキルシェに巡らせれば。
「そうなのよ! ルシェたちはこれから遊びに行く予定だったけど、困ってる人は無視できないのよ!」
「そうやねぇ……うちもかまへんけど……」
「ほ、本当ですか!?」
 男が再び目を輝かせる。
「ありがとうございます! ありがとうございます!
 それでは、早速ご案内します!」


 そうして、幻想の南へと赴いた3人は、依頼人の農家の場所へと訪れていた。
「……おっきいとこやねぇ」
 蜻蛉は思わずそう呟いていた。
「失礼な言い方になってしまいますけど、
 農家の方にしては、身なりがいいと、思いましたけど、これなら納得ですね」
 それに続けるネーヴェも納得する。
 農家は農家でも、いわゆる豪農とでもいうべき人物だったのだろう。
 広大な敷地が広がり、その分だけ畑も広い。
 畑になってない場所もあるように見え、そこにはお花が咲き誇っていた。
「あそこのお山も敷地って言ってたのよ……」
 そう指さすキルシェの示す方には色づく小山が一つ。
「……問題の魔獣は、あの子達、でしょうか」
 ネーヴェの耳が感じ取った物音の先、姿を見せたのは10匹の猪たち。
 魔獣だと一見して分かった理由は単純。
「……ウリ坊は可愛いのね」
 9匹ほどの愛らしい子供の猪たちは1mほど。
 対して大人の方は3mはありそうだ。

GMコメント

 リクエスト有難うございました。
 それでは秋の味覚を愉しみに参りましょう。

●オーダー
【1】魔獣の討伐、または懐柔。
【2】秋の味覚を堪能する。

●フィールドデータ
 幻想の南部、肥沃な土地に広がる大農家さんの敷地。
 害獣が魔獣化した奴らが実ったばかりの食材を狙っているようです。

 広大な畑が広がっており芋類やゴボウ、
 カボチャ、レンコンなどの野菜や、葡萄、梨などの果物が実っています。
 また小さな山を持っているらしく、
 栗やきのこ類(松茸、しいたけ等)も取れる他、小川を秋鮭が昇っているようです。

 戦闘の終了後はこれらの食材を使って食事を堪能したり、
 収穫予定の食材を獲る体験なんかもさせてもらえるそうです。

 また、敷地の中には花の咲き誇る草原のような場所も存在しており、
 ピクニックの雰囲気で愉しむことも出来そうです。

●エネミーデータ
・貪猪×10(親1、子9)
 3mほどある大きな猪と1mほどのウリ坊たちです。
 放っておくとあっという間に畑の野菜や果物を食い荒らしてしまいます。
 また、突進によって果物の木に衝撃があれば実っている物が落ちることもあるでしょう。

 強烈な突進力をもち、その激しさは【飛】【崩れ】などを与えるでしょう。
 一方、急には曲がれないという弱点があります。
 結果的に命中精度はやや低めでしょう。
 正直、あまり強くありません。3人で戦っても割と簡単に勝てます。

●お料理
 大体プレイングで名前が出てくればあります。
 以下の物は一例です。

【ランチメニュー】
・和食
 カボチャ、レンコンなどの煮物
 松茸と栗のご飯
 肉じゃが
 猪肉と青梗菜の塩炒め
 ゴボウと猪肉のあえ物
 秋鮭と大葉の春巻き
 鮭大根
 ……などなど

・洋食
 ほうれん草とジャガイモのキッシュ
 ガーリックじゃがバターのきのこ添え
 秋鮭とバジルソースのばん粉焼き
 サーモンのクリーム煮
 サーモンのクラムチャウダー
 ……などなど

【デザート】
いちじく、梨、葡萄、桃などなど。
そのまま食べてもよし、何らかの調理してもよし。

●収穫
 葡萄や梨、桃などなど、果物狩りや
 きのこ類の採集などを楽しむことも出来ます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 秋の空、秋の味を楽しんで完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年11月12日 23時20分
  • 参加人数3/3人
  • 相談7日
  • 参加費200RC

参加者 : 3 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(3人)

十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
※参加確定済み※
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
※参加確定済み※
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
※参加確定済み※

リプレイ


 ざぁ、ざぁ、と風がそよぐ。
 秋の音色を奏でる木々は彩りを持ち、広大な畑には収穫を今か今かと待つ野菜たちが埋まっている。
 心地よくも肌寒い風が撫でる。
 ひょっこりと顔を出していた猪達はこちらに気づいたのか、様子を伺うように草むらへと身を隠す。
 それを見て『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)は2人に声をかける。
「秋の味覚はイノシシさんたちにもご馳走なのね」
 秋は実りの季節、動物達にとっては越冬のための大切な時期だ。
「今日は、何とかして倒さずにええ方向へ持って行けるように、頑張りましょ。
 そして、お仕事の後は美味しい秋の実りを頂きましょね」
 はんなりと首を傾げながら『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)は一緒にきた2人にふわりと微笑む。
 義足を固定していた『星に想いを』ネーヴェ(p3p007199)は車椅子から立ち上がって微笑みを見せる。
 ぱふりとウサ耳が踊った。
「そうですね、そのためにも、まずは悪い子たちをめっ! しに行きましょう」
「出来れば倒すよりイノシシさんたちも無事な方が良いわ!」
「そうやねぇ……なにか、あの子達にも依頼してきた人のためにもなる落とし所があればええんやけど」
 キルシェが言えば、それに応えるように首を傾げる蜻蛉の尻尾がゆらりゆらりと揺れ動く。
「そう、ですね……うーん……」
 それに合わせてこてりとネーヴェも小首をかしげて考えを巡らせれば。
「……イノシシさんたちに売り物にならないご飯あげて、代わりに土地を守って貰うのはどうかしら?
 売り物にならない奴なら依頼人さんも困らないと思うし、イノシシさんたちは見た目気にしないと思うから、みんな幸せよ!」
「たしかに、そうかもしれません、ね。依頼人さんに、聞いてみましょう。
 ただ退治するだけでは、別の動物がきてしまうかも、ですし」
 キルシェの提案にネーヴェが頷き、それに蜻蛉も微笑んだまま肯定する。
 作戦が決まれば、あとはお願いをしに行くところからだ。
 3人は依頼人へと一度足を運ぶ。
「イノシシさんたちと仲良くなるのに使いたいの!」
 自分が立案したからと依頼人にまずお願いしたのはキルシェである。
「ううむ……そうは言いますが、野生の動物が簡単に御せるものでしょうか……」
 依頼人が悩まし気に唸る。
「不安はあると思います、ですが、あの子達を倒しても、別の子が来るだけかもしれませんよ?」
「ふぅむ……たしかに、それは一理ありますね……」
 ネーヴェが思い当たっていたことを言うと、依頼人はそう言って頷きつつも承諾まではいかない。
「うち、猛獣の躾けもできるんよ。
 うちの説得であの子らが良い言うたらそれで構へんやろ?」
「……まぁ、それが出来るのであれば」
 蜻蛉の後押しを受けて、ようやく依頼人が頷いた。


 依頼人の下から3人が戻ってくると、ちょうど猪たちが草むらから姿を見せて、畑の方へ歩き出した頃だった。
 鼻を地面すれすれに向けながら、すんすんと鳴らして歩く猪たち。
「よい、しょっ」
 廃棄してしまう野菜の切れ端やらサイズが不揃いな物を籠に詰め込んだネーヴェはそれを掲げるように持ち上げた。
「ご飯は、ここに、ありますよー!」
 軽やかな足取りを以って飛び跳ねながら、猪たちの前へと進み出るネーヴェに反応して、猪たちが顔を上げる。
『ぶひひ、ぶひっ!』
 顔をしきりに動かして、ネーヴェの方に意識を向ける姿は明らかに注意を向けられた証拠だ。
『ぷぎぃ!』
 高らかに鳴いた大きな個体が足で地面を蹴り、一気に突っ込んでくる。
「ふふっ」
 突っ込んできた猪を命一杯引き付けて、兎はぴょん、と真横へ跳んだ。
 軽やかに跳ねた兎のいなくなった場所を、土ぼこりを上げて猪が通過する。
「わたくし、そう簡単に、突進されたりしません、から!」
 籠に詰まった野菜を零すことなく、くるりと回ってみせる。
「ほらこっち、うちはこっちやよー!」
 続けて蜻蛉が猪たちへと自らの存在をアピールする。
 瞬く神気閃光、眩き神聖の光が瞬けば、眩んだ猪たちが混乱した様子を見せる。
『ぷぷぃ!』
 若干可愛らしい音感のままに、小さな猪たちが一斉に蜻蛉目掛けて突っ込んでくる。
「ふふふ、可愛らしいわぁ……」
 微笑を零しながらも、突っ込んでくる猪たちをゆらりと躱して見せれば、蜻蛉の背後にあった木へと衝突する。
『ぷぃぃ』
 くらくらとウリ坊たちがたたらを踏む。
「保護結界があって良かったのよ!
 木が折れちゃったり熟してない実が落ちちゃったら大変だもの。
 猪さん達も怪我しちゃうかもしれないし……」
 キルシェは安堵の息を漏らしてそういうと、猪たちの様子をざっと眺めた。


 ほぼ攻撃らしい攻撃をせず、猪たちの攻撃をかわし続けてから少しばかり時間が経った。
「ねぇイノシシさんたち、もしよかったら話を聞いてもらえないかしら?」
 疲弊し始めた猪たちへキルシェは声をかけて行く。
『ぶひぃ……』
『ぷぎぷぎ』
 鳴き声を上げる猪たちへ、近づくネーヴェは持っている籠を置いて、猪たちの前にしゃがみこんだ。
「折角ですから、安全に、ご飯を食べたくはありませんか?」
『ぶひ?』
 疑問符の着いてそうなニュアンスの鳴き声に、ネーヴェは微笑んだ。
「沢山の、子供がいるから。その分ご飯が、いるのですよね」
『ぶひひっ』
 子供達を守るようにして動いた大きな猪に、ネーヴェは微笑を絶やさない。
「あのね、この辺りの畑とか山を守ってくれたら、お礼に美味しいお野菜とか貰えるの。
 ほら、お野菜とっても美味しいのよ! どうかしら?」
 子供達の方へと近づいて、キルシェは自分の持っていたお野菜をそっと差し出してやる。
『ぷぎ』
『ぷぎぷぎ』
『ぷぎぃぃ』
 子供達が相談するように鳴き声を上げて、恐る恐るお野菜へ近づいて、すんすんと臭いを嗅ぎ、ぱくりと口に含む。
「ええ子やね」
 子供達の様子を見て、蜻蛉が優しく声をかければ。
『ぶひ! ぶひひ! ぶひっ!』
「うんうん、でもな、このままやとあなたたち退治されてしまうんよ。
 作物を荒らすんは止めて?」
『ぶひひっ……ぶひぃ』
「あなたたちがええんやったら、此処の主さんに言うて用心棒にしてもらえたらと思うてるんよ」
『ぶぎぃ?』
「うぅん……あなたたちみたいにここの作物を勝手に持ってこうとする子らからここを守ってもらいたいんよ。
 まだ小さい子供たちを育てるんは大変でしょう、悪いお話やないと思うの」
「えぇ、これだけ元気いっぱいな、子たちなら。大きくなっても十分、畑を守れると、思います」
 首を傾げる猪に頬に手を添えて蜻蛉が続ければ、それに続けてネーヴェは頷いて見せる。
 一番激しく猪の突進を受け流していたのは実はネーヴェである。
 その分、勢いの良さは身に染みていた。
『ぷぎぷぎぃ!』
『ぷぎ!』
 キルシェから餌付けされていたウリ坊たちがしきりに親の方へ近づいて鳴き始めれば。
 『ぶひぃ……ぶひぶひ……ぶひ』
 その鳴き声に親が鳴き声を放ち、こくりと頷くような仕草。
「話もまとまったみたいやね、それならあの人に言いに行こか」
 蜻蛉は猪たちの様子を確かめると立ち上がり、依頼人のいる方へと歩き出した。


 戦い――もとい懐柔が終わって、いよいよその時が来た。
 広大な敷地には様々なものが存在している。
 依頼の報酬の一つはこの地で採れる野菜や果物、きのこ類――秋の味覚を堪能しても良いということだった。
「ルシェお芋掘りやってみたいの!」
 あまりにもたくさんありすぎて何をしようか――と、考えていた3人の中で一番に思い至ったのはキルシェだ。

「それなら先にお芋さん掘りに行こうかぁ」
 キルシェに微笑んで、蜻蛉が歩き出す。

「ええ、面白そうです! その後で、小川、見に行きませんか?
 お魚が登ってきてる、とか」
「それも見てみたいわ!」
「そうやねぇ……一緒に魚釣りもしてみるのもいいかもねぇ」
 目を輝かせるネーヴェは自らも思い立ったことを言えば、キルシェが目を輝かせ、こちらも蜻蛉は微笑んで返す。
「魚釣り、難しそうですね」
 むむっと唸りながらも、ネーヴェも期待に似た表情を浮かべて、3人は歩き出す。


 依頼人から用意されたちょっとした地図を参考に、3人はまず芋堀りへ。
「んっしょ……」
 キルシェは掘り出したお芋を掴んで、ぐっと力を籠めて足を踏ん張った。
 土で靴が滑って、ぎゅっ、ぎゅっと力強く粘るお芋はその力強さを見せる。
「わあっ!」
 ――と、不意にすぽんと引っこ抜け、キルシェは思わず尻もちをついた。
「いたた……」
「大丈夫、ですか?」
「大丈夫なのよ! それより、見て! 大きなお芋さん!」
 ネーヴェが駆け寄ると、キルシェは引っこ抜けたそれをネーヴェの方へ向ける。
 引っこ抜けた芋はキルシェの両手よりも大きい。
「本当、ですね、すごく立派な……美味しいそうです!」
 美味しそうなお芋にネーヴェも又、目を輝かせた。


 採れたてのお芋を依頼人に預けて、3人は山の中へと足を踏み入れていた。
 山の中に入ってから少しして3人の前に姿を見せたのは栗の木だった。
「まあ……すごいトゲ、ですね。怪我をしないよう、気をつけなくては……!」
 地面に落ちた真っ黒のとげとげにネーヴェは目を瞠りながらも、用意しておいた厚手の手袋を2人に手渡しつつ、それを拾い上げた。
「とげとげがとっても硬いのね!」
 同じように拾い上げたキルシェは驚いた様子を見せつつ、それを籠に入れて行く。

「ふふ、2人とも、あれ見て?」
 栗の収穫をしていた2人の様子を微笑みながら見ていた蜻蛉はふとそれに気づいて2人を呼んだ。
「何か、ありましたか?」
 まずネーヴェがそちらに近づこうとして、まず音に気付いた。
「……もしかして、近くに」
「うん、川が流れてるみたい」
 そちらへと歩き出してみれば、せせらぎの音が聞こえていた。
 背の低い草木を分けて辿り着けば、陽光に煌く川の流れが見える。
「あっ! あそこ、お魚がいるのよ!」
 小川を行く、魚影を見つけてキルシェがそちらを指さした。
「本当、ですね!」
 その景色は力強い自然の神秘を見せる。
 ある種生々しくもある光景を目に焼き付けて、3人はその場を後にした。


 収穫を終えた3人は、山を降りて依頼人が調理してくれたものを手にピクニックへ。
「ええ景色やねぇ」
 秋空の下、花の咲いた美しき原っぱへと訪れた蜻蛉はぽつりと呟いた。
 紅葉に桔梗、色とりどりの色づく木々が映える空間に人工的に広げられた空間へ敷物を敷いて座れば。
「ちょうどいいぐらいにお腹も空いてきたし、食べよか」
「おなかぺこぺこなのよ!」
 蜻蛉が言えば、キルシェが頷いて。
 くぅと誰からともなく可愛らしいお腹の音がして、3人は各々の食事を広げた。

「お2人も、これを」
 ネーヴェは取り出した3枚のブランケットのうち2つを2人に差し出した。
「ネーヴェちゃんは用意がええのよね、頼りになります」
 ぺこりと頭を下げながら言えば、ネーヴェは照れたように笑う。

「それじゃあ……改めまして。頂きます」
 ブランケットをそれぞれお膝に広げてから、改めて蜻蛉は言って、3人はいよいよ待ちに待った食事に口を付けて行く。
「良い匂いやねぇ……松茸と栗の匂い」
 蜻蛉はまだまだホカホカと湯気を上げる松茸と栗のご飯の香りにゆらゆらと喜びに尻尾を揺らす。
 炊き込みご飯なのか、混ぜ合わされた2つの食材を包むお米と共に、箸を入れれば、そのまま口へ。
 ホカホカご飯の向こう側から、鼻を抜ける香りが嗅覚に幸せを送り込んでくる。
「鮭大根もホロホロと染み込んだ味が素敵やねぇ」
 さっくりと裂けたおダイコンは出汁を吸って色が変わっている。
 ホロホロの切り身が散らばり、ご飯が進んでいく。
「二人は何を食べとるの?」
 ほう、と恍惚の息を漏らしてから、蜻蛉は2人に声をかける。

「ルシェはキッシュとクリーム煮と、お芋と栗のパン!
 美味しいご飯が、楽しいピクニックだともっと美味しくて幸せね!」
 ほうれん草とジャガイモのキッシュは作り立てもあってまだ温かく、素材の旨味と調和した程よい塩加減と食感についつい食べ勧めてしまう。
 サーモンのクリーム煮は煮込まれた食材がとろりとしたクリームと絡み合って溶けるように消えていく。
 お芋と栗の練り込まれたパンはそれだけでも凝縮された甘みに手が動いてしまう。
 意外にもクリーム煮を付けても邪魔しない味付けなのが不思議だった。

 どれもこれも美味しくて、どんどん食べ進めてしまう。
 と、その時だった。キルシェの身体に程よい重みがかかる。
「リチェも満足みたい?」
 お野菜を貰って満足したリチェルカーレが眠そうに倒れ、キルシェと触れあっていた。
 キルシェは微笑を浮かべてリチェルカーレを撫で始めた。
「んん……満腹でぽかぽか、リチェぬくぬくで眠くなるわ……」
 数分もすれば、モフモフぬくぬくの毛皮に吸い込まれるように、キルシェはうとうととし始めた。
「キルシェちゃん、寝たらあかんよ? んふふ」
 その様子に蜻蛉は愛らしいものを見るように笑みをこぼして。
「まあ、寝たら風邪を引いてしまいますよ?」
 ネーヴェもまたそれに気づけば、そっと近づいて自分の分のブランケットをそっとキルシェにかけてやる。
「……あなたたちも、食べますか?」
 姿を見せた小動物――ウリ坊に、持っていた梨と葡萄を差し出してみる。
『ぷぎ』
 すんすんと鼻を鳴らすウリ坊が梨を齧る。
 1匹が始めるとそれに続くように他の子達も食べ始めた。
「まぁ、ええの?」
「美味しいは、分け合うと、もっと美味しくなりますから、ね!」
 蜻蛉が驚いたように言えば、ネーヴェは柔らかく笑って。
「……それなら、うちのをネーヴェちゃんにはあげましょ」
 くすりと笑った蜻蛉はネーヴェを隣に座らせて、自らの分を分けて行く。
 穏やかな一日は、そうやって過ぎて行く。

成否

成功

MVP

十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜

状態異常

なし

あとがき

お待たせしました!
お腹が空いてしまう……

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