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シナリオ詳細

<最後のプーロ・デセオ>水底より誘う人魚姫

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 そこは深い、深い海の底。
 白き光を通すにはあまりにも複雑怪奇なる洞穴の果て、勇ましく散ったもののふも、無念にも沈んだ無辜の民も。
 それらすべてが誘われるはずもなき深き底。
 全てを呑みこむ、深淵の洞穴の奥深く。
「どうして――どうして、起きないの? 私を置いていくの――」
 悲しむような、妬むような声がする。
「結局そう。貴方も私を置いていくの……フィデル、フィデル。許さないわ」
 嘆く姫は、翻って怒りに近い嫉ましげな声をあげる。
 その腕に抱かれるは一人の男――だった者。
 深淵にある女を、一人きりになった女を、そうせしめた男。
「嫉ましい、妬ましい、なんで、なんでみんな私を置いていくの――」
 深淵のような暗い髪を海水へ遊ばせる人魚姫は、物言わぬ亡骸を抱きしめて嘆いている。
 思い出すのは、これと初めて出会った時の事。
 神様が数多の人間を骸に変えていく戦場で。
 大いなる嫉妬が、行く手を阻むその戦場で。
 私は、ここなら死ねるのかもと、そう思って――けれど。
 私は死ねなかった。
 でも、良いの。だって、その分沢山の『お友達』が出来たから。
 ――なのに、なのに。アイツらが、ローレットが、全部奪っていったって。
(赦せない、赦せない。定命の人間すべてが許せないの)
「貴方を殺す者がいないと? なるほど」
 彼は、そう言って笑ってくれたの。
「私を殺してくれないなら……皆、私と同じように海の底で眠りましょうよ」
「それもいいかもしれませんね――誰も貴女を見ていないなら。
 ええ、確かに私は貴女を倒せないでしょう。
 けれど、私はあの子ほど道を譲れもしません。――それなら、私は」
 そこから先は、結局教えてくれなかったけれど。
 彼は私の傍にいてくれた。
 一人ぼっちの私。お友達にもなってくれなかった子達の代わりに。
 彼は私の傍にいてくれるって――なのに。
「結局、貴方も私を捨てるのね、フィデル」
 涙は流れない。
 ゆらりと人魚姫は泳ぎ出す。
 あの日以来、大きな2つの存在が彼らに眠らされたあの日以来――見上げたことのなかった水面へ。


「……見つけました」
 小金井・正純(p3p008000)は姿を見せたソレの前に立つ。
 深海に存在していた大穴、その奥へ。
 フィデルの亡骸を抱いて消えていった強力な原罪の呼び声の主。
 その存在を追うべく動いていた正純は、反対にこちらへと向かってくる魔種をみた。
「貴女……あの時もいた人。 何、しにきたの?」
 嫉妬と怒りに震える声で彼女はそういうと、輝くような双眸が正純を射抜いた。
「……正純さん」
「シンシアさん……大丈夫ですか?」
「はい……」
 小さく頷いたシンシアは、正純の前へ立つと、魔種を見つめる。
「――貴女の、名前は?」
「……クララ」
「……クララさん、もう、止めてください」
「止めるって……」
「死んでしまった人たちを、これ以上……連れて行かないで」
 思いつめたように切り出したシンシアに、クララが目を見開いた。
「――どうして、そんなことを言うの。
 みんな、私を置いていくのが悪いのに!」
「……私達が、今度は貴女を連れて行きますから」
「――ッ」
 激情が人魚姫の瞳を見開かせた。
「――オルカッ」
 絶叫が響いて、大穴が揺れる。
 刹那――大穴の向こうから、ソレが姿を見せた。
「食らいつくして、食らいつくして、おねがいよ、オルカ」
 シャチ型の魔物。
 けれど、強烈な原罪の呼び声を放つソレがただの魔物でないことは明白だ。
「……怪王種」
 魔物による反転現象。
 シャチのようでありながら、鰐をも思わせるそれが、牙を剥いていた。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 死者に誘い、死者を共にする人魚姫との戦いを始めましょう

●オーダー
【1】『人魚姫』クララの討伐
【2】オルシヌス・オルカ〔オリジン〕の討伐


●フィールドデータ
 インス島周辺の海底に存在するぽっかりと開いた大穴です。
 複数に入り組んだ地形は奥へと向かえば迷いかねません。
 海底火山があるらしく、異様な熱があります。

●エネミーデータ
・『人魚姫』クララ
 強烈な原罪の呼び声を放つ嫉妬の魔種です。
 一見すると人魚のようにも見えます。
 かなりの量の毛髪で表情を窺い知るのは難しいです。
 とはいえ、見えている部分でも鱗が剥げ落ちて肉が露出していたり、
 肉さえ落ちて骨が見えていたりと生きているとは思えない容姿をしています。
 それはさながら廃滅病の末期近くのまま治癒してしまったようにも見えます。

 高いHPとEXFを持ち、神攻、命中、防技、抵抗も高め。攻撃の主体は神秘。
 自域範囲の攻撃を基本として、
 【毒】系列、【痺れ】系列、【出血】系列、【足止め】系列、【呪い】、【呪殺】などのBSを用います。

・『冥府の使』オルシヌス・オルカ〔オリジン〕
 大型のシャチ型魔物の怪王種です。
 流線型の肉体はシャチのようですが、大きく開く口は鰐のようですらあります。

 超音波による神秘攻撃や放電、強靭な顎による物理戦闘を用います。
 高いHP、AP、物神攻、命中、防技を持ちます。
 パッシヴに【反】を持ちます。

 物理戦闘は【毒】系列、【凍結】系列、【出血】系列、【邪道】を持ちます。

 神秘戦闘は【痺れ】系列、【石化】系列、【呪縛】を持ちます。

●友軍データ
・シンシア
 イレギュラーズです。
 皆さんより若干ながら力量不足ではありますが、戦力として十分程度です。
 怒り付与が可能な抵抗型反タンクです。上手く使ってあげましょう。

●特殊ルール『海中戦闘』
 当シナリオでは完全な海中での戦闘となります。
 後述特殊ルールの他、水中戦闘などの非戦スキルがあれば判定に上方修正が加わります。
 無い場合のペナルティはありません。

●特殊ルール『三次元戦闘』
 当シナリオは完全な海の中での戦いのため、
 三次元的な戦闘時に特殊なスキルを持つ必要はないものとします。
 逆に言えば、敵も三次元的に攻撃してきます、ご注意を。
 例:敵の上の方から見下ろすように攻撃する、真下の位置から攻撃する、など


●特殊ルール『竜宮の波紋・応急』
 この海域ではマール・ディーネーの力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができます。
 竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。

●特殊ドロップ『竜宮幣』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
 竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
 https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <最後のプーロ・デセオ>水底より誘う人魚姫完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年11月03日 23時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
あたしの夢を連れて行ってね
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)
生イカが好き
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
一条 夢心地(p3p008344)
殿
型破 命(p3p009483)
金剛不壊の華

リプレイ


「あれがフィデルから託された魔種の姫さんか。
 なんつーか……想像以上に見てて痛々しくなる姿をしてるな」
 そう思わず言葉に漏らすのは『金剛不壊の華』型破 命(p3p009483)である。
「とはいえ己れもフィデルを地上に返すと決めたんだ。
 これ以上、死者を引き摺り込ませるわけにもいかねえ。
 だから……これで決着といこうぜ」
 拳を握り、遥かな海底へと視線を向けた命に、クララが顔を上げた。
「フィデル――フィデル? フィデルは渡さない。渡さない渡さない渡さない!」
 激情を露わに、クララが絶叫する。
 音が海を打ち、波を起こす。
「へっ! オルカでもイルカでもオイラ達にかかりゃあイチコロだぜ!」
 そう笑った『生イカが好き』ワモン・C・デルモンテ(p3p007195)は敢えてオルカの目の前を横切るようにして突っ込んでいく。
『グゥルゥォォォ』
 動き出したオルカから距離を取りながら、くるりと身を翻せば。
「いくぜぇ! ガトリングMADACO弾発射!」
 背中に背負った銃から凄まじい勢いの真蛸弾が放たれた。
 弾丸はワモンを喰らおうと口を開けたオルカの口腔へと炸裂していく。
 海の中だからか、たこ焼きの匂いがしてこないのはなんだか少しばかり物足りないが。
「群れてないだけマシじゃが、鯱の狩りの能力は侮るワケにはゆかぬ」
 そう呟きながら、『殿』一条 夢心地(p3p008344)は竜宮の加護を降ろす。
 そのまま、一気にオルカ目掛けて肉薄すれば、その位置はオルカの真上。
 死角であろうそこは、もう一つの意義がある。
(その顎も、そのタフネスも脅威じゃが、最も警戒すべきは当然のことながら、海中での機動力じゃ)
 即ち、狙うべきは2ヶ所。その両方を切り捨てやすい位置取り。
 振り抜かれた妖刀が為す殺人剣。
 静かに描かれた邪道の剣がオルカの身体を切り刻み、竜宮の加護が力を発した。
(先日邂逅したフィディル、彼の最後の言葉。
 託す、彼女を地上に返す、と。
 その真意は推し量ることしか出来ないでしょうが、魔種に落ちてもなお捨てなかった願いが、どれほどの熱を帯びているのかは分かる)
 弓を手に、『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)は先だっての事を反芻する。
「シンシアさん、必ず彼女を連れていきましょう。フォローは任せてください!」
「――はい、ありがとうございます! 必ず……!」
 正純の言葉にシンシアが頷き、剣を握る手に力が入ったのが分かった。
 そのまま視線をオルカに向け、正純は一気に肉薄すれば、引き絞った弓から零距離で魔力を打ち出した。
「――何度も戦った相手とは言え、油断はしません。喰らいなさい!」
 放たれた魔力の塊がオルカの身体を撓ませ、隙を作り出す。
(海は誰に対しても平等。
 辛い気持ちも、無念も、怒りも。
 海の底に沈めてしまえる。だから海に捨て去って忘れてしまえられる――でも)
 姿を見せた魔種に『愛を知りたい』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は視線を向ける。
「あなたは海の奥から出てきた。忘れることなく。熱を伴って。
 わたしにはわからない。そこまでの気持ち……強い気持ちを生み出す力はどこから……」
 その呟きはクララには届いているのだろうか。
(魔種はわたし達の敵。でも、わたしの知りたい事の多くを彼らは持っている)
 迷うことはない。けれど、知りたいのだと思う。
「――教えて、あなたの心を」
「――私の心?」
 確かに、クララから声が返ってきて、視線がココロを捉えるのが分かった。
「人魚姫はさ、最後は泡になって消えるんだよ。
 大切な姉たちよりも自分の命よりも、愛する人を優先してさ。
 なのにおまえときたらわがまま放題だね。聞こえてる? 聞こえてないか」
 愛刀を構える『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)の言葉は、ココロと視線を交えるクララには届いていない。
 それを理解すれば、直ぐに史之はオルカの方へ視線を向けた。
「凶暴なのはあいかわらずか。ご主人さまへ絶対服従なのもね」
 雄叫びにも似た声をあげるオルカへと小さくそう言って、史之はその腹部へと潜っていく。
 振り抜いた斬撃が鮮やかにオルカの腹部に傷を入れた。
「魔種が生死を妬むなど、愚かな。私からしたら既に死んでるのと同じですがね」
 海に溶けるように『雨宿りの雨宮利香』リカ・サキュバス(p3p001254)は声を漏らす。
「どう、して……? 私は、生きてるの。死ねるなんて妬ましいわ。羨ましいわ。
 私、貴方達も羨ましいの。だって――死ねるのでしょう?
 妬ましいわ! 呪ってやりたいぐらい!」
「呪えるものなら呪いなさい、妬むものなら妬みなさい。
 醜さも美しさも皆私の糧にいたしましょう。
 夢魔(わたし)が優しく眠りにつかせてあげますからね」
「そう――貴方もそういうのね。みんなそうよ。そうやって、私だけ置いていくんだもの!」
 激情を露わにする魔種へ、リカは笑む。
 その微笑は魅了の響きがあり、夢魔はゆっくりと、確かにクララの精神性を絡めとっていく。
 気づいた時には既に瘴気とチャームによって身動きが取れないほどに。
 ――そも、彼女が気づけるかすら不明だが。
「貴方が『人魚姫』クララ……一連の『物語』の、始まり」
 その姿を見据え、『浮遊島の大使』マルク・シリング(p3p001309)はそう言葉に漏らしていた。
「……シンシアさん、少しだけ無理をしてもらう。正面、頼むよ」
「――は、はい。分かりました!」
 マルクがオルシヌス・オルカへと視線を向けて言うと、シンシアが頷いて動き出した。
 その頷きに合わせて、マルクは一気に肉薄する。
 巨大なシャチを思わせるその側面、肉薄と同時、マルクの手に剣が生み出される。
 収束した魔力が剣を象ったそれを、側面から一気に撃ち抜いた。
 零距離より打ち出された極光の斬撃が傷を生む。


 オルシヌス・オルカとの戦いは激戦と言えた。
 けれど、夢心地による機動力を奪うという戦術と、脅威になりえた反撃を封じ込めたのは大きく、イレギュラーズは無事にそれを打ち倒した。
「オイラ達が安らかな眠りをあたえてやらぁ!」
 ワモンはクララの様子を確かめると、そちらに銃口を向けた。
 再び放たれた真蛸弾が一気にクララ目掛けて放たれる。
 苛烈に打ち出された真蛸弾がクララの身体を打ち据えて行く。
「残念じゃが、悲嘆に暮れる人魚の姫は泡となって消えゆく運命。
 自ら命を絶つことが叶わぬのであれば、代わりに泡へと、そして風へと導かねばならぬ」
 夢心地は東村山を手に、クララへと肉薄する。
 静かに、ただ斬るのみ。
 振り抜かれた邪剣の如き斬撃の軌跡が、クララの身体に傷を生み、致命的な一閃を打つ。
「嫉妬に狂った人魚姫。ここで貴女を止めて、地上へお連れします。
 その声で歌えなくなるその前に」
 正純は一気に肉薄していく。
 零距離まで肉薄して、弓を引き絞る。
(――あぁ、本当に妬ましい)
 小さく、胸の奥にある感情を擽られる同族嫌悪ともにた感情を、魔力に変えて撃ち抜いた。
「死んで、死んでよ――死んでよ!!
 私を愛してくれない奴らなんて、全員死んでしまえ!!」
 クララの絶叫にも似た声と共に、壮絶な音が波を打つ。
 呪詛とも歌ともとれる声は、音の刃となってイレギュラーズへ襲い掛かる。
「まだ止まれない。まだ終わらせない。
 わたしたちが勝つんだ――」
 それはココロ自身へと告げる決意表明だった。
 哀切に響く原罪の呼び声を振り払うように、前を向く。
「――私がいる限り、絶対に死なせません。誰も」
 そう告げるココロの祈りが打たれた仲間達の傷を大いに癒していく。
 クララの真下に近い位置を取るココロの動きに対して、クララも対応しようとしているが。
「――わたしも海種、泳ぎなら互角です!」
 見るからに元海種と分かる彼女のヒレは、反転の困難さをしめすもの。
 元は同類であればこそ――嫌という程わかるのだから。
「すこし散髪してあげようか。素顔が見れないってのもかわいそうだしね」
 そう呟いた史之は覇竜の一太刀を一閃する。
 綺麗に振り払われた斬撃が海底を思わせる深い髪を切り払い、その内側を暴きだす。
 その向こう側、どろどろに溶け落ちたようなその顔は、分かっていてもなお目を背けたくなるほどのそれ。
 髪が切り払われたことに目を瞠り、両手で顔を覆う。
 それだけでは到底足りぬその痛々しい顔から、殺意が覗く。
 マルクはそこへ飛び込んでいく。
「――幕引きは僕らがしよう」
 壮絶な覚悟を以って放たれたブラウベルクの剣。
 全霊を籠めた魔力の零距離砲撃がクララの身体を両断せんばかりに迸る。
 続くように動く命は戦場を突っ切った。
 握りしめた拳に、渾身のカウンターを籠めて。
(フィデル、アンタが己れらにどうして姫さんを託したのか、まだ分からないが)
 振り抜く拳に力を籠めて、全霊で叩きつけながら、命は思う。
 強かに撃つ拳が、クララの身体を軋ませる。


「わりぃな! これでおとなしく眠ってもらうぜ!」
 ワモンはそこそこ離れた距離から、一気に爆ぜるように飛び掛かる。
 錐揉み回転しながら弾丸の如く放たれたワモンは、渦を生みながらクララへと衝突する。
 強烈な衝撃を生んだ突撃のままに、反動を勢いへと変換、追撃の頭突きを叩き込む。
 慣性とあまり余ったエネルギーを使った頭突きは超新星爆発の如き一撃を生み、クララが悲鳴を上げた。
「置いていかれるのが許せないのですか?
 ……狂気に飲まれ堕ちなければ弱いまま早く朽ちて死ねたでしょうに
 力を求める程の、後悔があったのではないですか?」
 問いかけるように、誘うようにリカはその瘴気を以ってクララを食む。
「いやよ、嫌。私、死にたくないの。
 こんなにも、こんなにも穢れた姿で死にたくないの。
 『誰にも愛されない姿で死ぬなんて嫌』!!
 愛してよ、私の事を――愛し、てくれなきゃ――ひとりになって死ぬの。そんなの、嫌よ!!」
 絶叫が再び刃になり、振り払うようにクララが泣いた。
 明確な生への渇望は彼女の本音を露出させる。
「そうですか、貴女は」
 魔剣を手に、リカはその悲鳴を聞いて理解する。
 同情する程、優しくはいられないけれど。
「貴女が狂気に飲まれ墜ちたのはその病気に罹った後なのですね。
 ――もう大丈夫ですよ、ただ、魂を受け止めて、同化(あい)してあげましょう」
 リカが誘うように言えば、驚いたように目を瞠る。
 ――そうして。
「────哀れな人魚の姫よ、静かに眠れいッ!」
 その時を待っていたのは夢心地である。
 結局、物語の登場人物のような気の利いたこと一つも言えぬが。
 放つ斬撃にただ、渾身の力を籠めて、嫉妬さえも両断せんと一閃する。
 見開かれた人魚姫の瞳が、酷く晴れたように見えるのは気のせいか。
「――私、哀れ――なの? 哀れって、なに。
 愛して――愛してよ、憐れまないで、いや、憐れみじゃあ、私は、ひとりのまま――」
「ひとりになるってなに?
 人はみんな一人だよ、だから支え合うことはすばらしいんじゃないか。
 おまえのはただの妄執。かわいそうではあるけれどね」
 史之は静かに愛刀に力を籠めた。
 魔力と闘志を以って神代を思わせる膂力を抱き、振り払う斬撃が苛烈にクララの身体を切り伏せる。
「あぁぁぁ!!!!」
 傷だらけの姿をさらした人魚姫が絶叫と共に、最後のあがきをみせた。
(……そうか、フィデル。
 アンタはこいつを――どこかで、憐れんだのか)
 小さな思いは胸に秘めて、命は拳を握り締める。
 傲慢なる左。守りを為さぬ絶対の一撃を。
 自分では、殺せない。
 ただの軍人なら分かり切ったことだろう。
 そもそも、イレギュラーズだって、魔種を殺すに単身でとは難しいのだ。
(けどあんたは、だからって俺達にただで託すのは無理だったんだな)
 綺麗なクララの目と、視線が合う。
 振り出した拳は止まらず、その胸元を撃ち抜いた。
「君の寂しさに寄り添うことは、僕にはできない。
 だからせめて、断ち切って終わらせる――!」
 マルクはワールドリンカーの魔力を再構築して、1つの魔弾を作り出す。
 海水に溶けるような色のそれを、そのまま投射すれば、海水を切る魔弾がクララへと駆け抜ける。
 それは冷静な一撃だった。
 確実に命を奪う、必殺の魔弾。
 不可視の魔弾は、ただ静かに、絶叫を掻き消してその命を刈り取る。
「あっ――あぁ――わた、し――」
 小さな声が、海へ溶けて消えていく。
 手を海上へと伸ばしながら、人魚姫が落ちて行く。
 ――その沈みゆく亡骸の手を正純は取った。
(――ああ、妬ましいのはこちらの方です。
 死の間際に思われるほどに、貴女は誰かにとってのナニカではあったのだから)
 抜け落ちそうになる彼女の身体を無理矢理に抱きかかえるようにして、正純は胸中で小さな呟きを漏らす。
 続くように、命が海底へと進んでいく。
 それからしばらくして、命は1つの遺体を抱えて戻ってくる。
「これで全部、終わったよな……」
 その遺体へ――フィデルだったものへと問いかける。
 答えなどあるはずもないが――遺品と彼を、地上へと運び出した。

成否

成功

MVP

リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。
お待たせしまして申し訳ありません。

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