PandoraPartyProject

シナリオ詳細

幸福なひと時

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

・最期にせめて

 周囲から望まれない結婚だった。
 愛し合っているのだと伝えたところで、家のことを考えろとか、ただの勘違いだとか、そんな言葉をぶつけられた。でも自分たちはそんな言葉で揺らぐような関係でもなくて、ただお互いの手を握りしめて、愛していると囁き合った。

 駆け落ちするのに、躊躇いはなかった。だけど二人とも、それぞれの家を背負わなければならなかった身の上で、代わりを務めてくれる誰かがいるわけでもなかった。だから連れ戻そうとされるのは、おかしなことではなかった。

 元居た場所に戻されてしまえば、お互いの手を取ることは二度と叶わないだろう。二人が愛し合った事実すら塗りつぶされるように、それぞれ送るべきだった人生をなぞるだけだ。しかしそんなことは耐えられないからと、二人で綺麗に終わらせてしまおうと決めた。

   ***

「私たち、アフタヌーンティーが好きなの」

 透き通るような青空が広がる日だった。古びた洋館に呼び出された『青薔薇の奥様』
レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)は、軋む床をそろりそろりと歩いて、依頼主の前に立った。

 若い男女だった。身なりや漂う雰囲気から貴族であることが伺えるが、詳しいことは教えてくれなかった。ただ、今が一番幸せなときだから、あと一日だけ幸せに過ごしてもう終わりにしようとしているとのことだ。

「準備を頼めるかい?」

 僕たちは料理が苦手なんだ。恥ずかしそうに笑う男性が、『黄金の旋律』フーガ・リリオ(p3p010595)を見る。フーガはどこに視線の先を向けるべきか迷って、やがて男性の喉元を見た。

 この今にも朽ち果てそうな洋館は、女性が幼い頃に住んでいた家らしい。そこでこの二人は出会い、恋に落ちたという。そしてこの場所で最期に幸せな時間を過ごしたいと望んでいる。

 レイアとフーガはお互いに顔を見合わせ、それからゆっくりと頷いた。死を望みつつも穏やかな表情をしている男女を、放っておくことができなかった。

「私たちで出来る事なら」
「おう、任せてくれ」

 せめて最期は幸せに。そう呟いて、レイアとフーガは準備を急いだ。


・お茶会は優美に

「最後の晩餐ならぬ、最後のアフタヌーンティーってことらしいよ」

 食べたことある? と笑みを浮かべているのは『茨の棘』アレン・ローゼンバーグ(p3p010096)だ。

「依頼主は二人。駆け落ちしたばかりの男女だね。今が幸せの絶好調だから、ここで終わりにしたいんだってさ」

 依頼主の男女は、自由な結婚を許される立場ではなかった。しかし周囲の反対を振り切り、二人になることを選んだという。ただ、二人を離れさせようとする者が現れるのも分かっていて、この先の苦しみを味わう前に死を選ぼうとしているのだ。

「で、二人が好きなアフタヌーンティーを食べたいらしいんだけど。お料理苦手らしくて、準備を手伝ってもらいたいんだって」

 そう言いながらアレンが見せたのは、メイド服や執事服、それからパーティーに着ていくような上品な服だった。

「クラシカルメイド、だっけ? 昔からあるメイド服。あとは執事服とか、正装っぽいやつとかあるんだけど、まあこれを着て依頼に行ってほしくて」

 雰囲気は大事だよ。そう彼はウィンクする。

「料理とお給仕を手伝うのがメインになると思うけど、その時はメイド服や執事服を着てほしい。あと彼らの話し相手になるんなら正装っぽいのでもいいね」

 それじゃあ、彼等の幸せな最期を彩ってあげてね。アレンはゆるりと笑みを浮かべて、執事のそれにならってお辞儀をした。

NMコメント

 こんにちは。椿叶です。
 メイド服やおしゃれな服を着てお給仕やおしゃべりをする話です。

目的:
 アフタヌーンティーを依頼主の男女に用意して、二人が楽しめる時間を作ることです。
 依頼主は料理が苦手のようなので、アフタヌーンティーのお菓子やお茶を用意するところから始めてください。準備ができたら一緒にアフタヌーンティーを楽しんだり、お給仕をしたり、彼らを見守ったりしてもらえたらと思います。
 クラシカルなメイド服、執事服、その他おしゃれな服を貸してもらえますので、着たいものを着てください。持ち込みも可です。

状況:
 場所は幻想のとある洋館です。依頼主の女性が昔住んでいた家ですが、手入れされていないため今にも朽ち果ててしまいそうになっています。
 お菓子作りに必要な道具や材料はすでに揃えられています。キッチンはまだ使えるので、依頼主に食べさせたいものや作りたいものを作ってもらえたらと思います。

依頼主について:
 依頼主は駆け落ちした男女です。結婚を周囲に反対され駆け落ちしましたが、連れ戻されるのが分かり切っているので、幸せなうちに終わりにしようと考えています。二人が出会った場所で、二人が好きなアフタヌーンティーを楽しみたいそうです。
 女性の名前は「リズ」、男性の名前は「ミカエル」だそうです。


 着たい服や作りたいお菓子があればプレイングに書いていただければと思います。それではよろしくお願いします。

  • 幸福なひと時完了
  • NM名椿叶
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年10月21日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談8日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
祈光のシュネー
フーガ・リリオ(p3p010595)
君を護る黄金百合
※参加確定済み※
佐倉・望乃(p3p010720)
生きて帰りましょうね
レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)
青薔薇救護隊
※参加確定済み※

リプレイ

 古びた洋館の床は軋み、歩けば埃が舞う。それでもシャンデリアや壁時計をはじめとするインテリアはまだ息をしており、古い時間と今の時間が混ざり合っているような雰囲気があった。

 依頼主の二人にとっては、今が幸せで、だからこそ終わらせるものだという。

(最後のアフタヌーンティー、楽しんでもらえるように頑張るよ)

 執事服を着こみ、鏡に向かってお辞儀をしているのは、『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)だ。少しでも彼等の最期を彩るべく、幻想国での礼儀作法を練習している。
 料理方法の練習もしたいし、料理の材料も買いに行きたい。しかしその前に何を作るかを決めなければ。そう思い、皆が集まりつつあるキッチンに顔を出した。

「お茶会する場所、簡単に掃除してきたんだ」

 祝音と同時にキッチンに入ってきたのは、『黄金の旋律』フーガ・リリオ(p3p010595)だ。フーガも執事服に着替えて、少し照れ臭そうに笑みを浮かべた。
 衛兵も執事も、相手を思って見守る仕事だ。執事は慣れないけれど、そう思えば普段とすることは変わらない。リズとミカエルが喜んでくれるように努力するつもりだった。

「リズとミカエルの好きな食べ物、一番はアップルパイらしいな。あと――」

 フーガが聞き耳を立てて得た情報を伝えると、『赤薔薇の歌竜』佐倉・望乃(p3p010720)がにこりと微笑む。

「アップルパイがお好きなのですね。ふふ、お二人が好きなものを、好きなだけ作っちゃいますよ」

 望乃はクラシカルなメイド服に、買ったばかりのブローチを身に着けている。上品に、優美に、お茶会を作り上げるためだ。

(生きて、幸せになることができないのならば、せめて)

 お二人の最期に、最高のひと時を作ろう。だから今日はメイドとして、旦那様と奥様を精一杯おもてなししたいのだ。

「紅茶はこれでどうでしょう」

 華やかな装飾がされた缶を取り出したのは、『青薔薇の奥様』レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)だ。纏ったクラシカルメイド服には、青薔薇のブローチがつけられている。普段は奥様だが、今日のレイアはメイドさんだ。

(世の中には結ばれない方々もいるのですね)

 好きな人と結ばれている。そういう意味で自分は幸せなのかもしれない。そうレイアはシビック家の紅茶をそっとキッチンに置いた。

「それから、アレンさんにはお給仕を手伝ってもらうことにしました」
「うん。みんなよろしくね」

 キッチンに顔を出したアレンも、執事服に身を包んでいる。

「最高のお茶会になるように頑張ろうな」
「おー。料理の材料、買える分は買ってくるね」
「よろしくお願いしますね」
「はい、頑張りましょう」

 皆が頷いて、それぞれ準備を急ぎ始めた。



 部屋に飾られているのは青いカーネーション。綺麗に掃除され、華やかに飾り付けられた部屋を見て、リズとミカエルはほうと息を零した。

「すごいね。こんなに素敵な部屋に戻るなんて」
「ええ、なんだか懐かしいわ」

 リズがテーブルクロスをそっと撫でて、望乃とフーガに向かって微笑んだ。

「それでは、これから素敵なお茶会にしましょう」

 望乃の言葉にフーガは頷いて、祝音と共にお菓子をケーキスタンドに並べ始める。

「サンドイッチやスコーン等が出されるって聞いたから」

 そう言いながら祝音は、手の届く範囲の場所にお菓子を置き始める。
 祝音が選んだ料理は、紅茶に合いそうなもの。サンドイッチにスコーン、そしてクッキーは、リズとミカエルの好みの味に合わせて作ってみた。

 スタンドの少し高いところに祝音がスコーンを置こうとするも、あとちょっとのところで届かない。それをフーガが受け取って、スタンドに並べた。

「それからこれは、ポルボロンです」

 ポルボロンは、小麦と砂糖だけで作られたお菓子だ。繊細でほろほろとした口当たりが特徴で、口に含んだまま三回願い事を叶えると、本当に願い事が叶うという言い伝えがある。そうフーガは爽やかな笑顔を一生懸命浮かべて説明する。
 給仕は意外と難しかった。衛兵のほうがまだ簡単なように思えてきたが、依頼主たちに楽しいひと時を過ごしてもらうためだ。何事も笑顔で優雅にしたいから、慣れないことでも頑張りたかった。

「紅茶に合うと、思いまして」

 望乃も上品に微笑んで、綺麗に色づいたお菓子を運んでくる。

「林檎を薔薇の花のように並べたアップルパイをお作りしましたが、如何でしょうか」

 作法は見様見真似で、ちょっぴり難しい。でもこの二人がお茶会を楽しめるように、笑顔で頑張りたい。

「最後に、レイアさんに紅茶を淹れてもらいましょうか」

 望乃に呼ばれたレイアが、スカートを摘まんでそっとお辞儀をする。優雅な動作だった。

「一日限りの奥様、旦那様。優雅なティータイムをお送りください」

 お茶を淹れるのは得意だから、リズたちを満足させることはできるだろう。そう思って、レイアはゆっくり息を吸い込む。
 アレンが並べたティーカップに紅茶を注いでいく。ふんわり空気が混ざるように注がれた紅茶から、柔らかな香りが漂った。

「どうか、最期となっても楽しいアフタヌーンティーが楽しめますように」

 お茶会のはじまりの合図。しんみりしたような、希望を持たせるような言葉に皆は頷いて、テーブルに並べられたお菓子と紅茶を眺めた。

「とてもおいしそうで、嬉しいわ」
「どれから食べるか迷ってしまうね」

 リズとミカエルがお互い顔を見合わせて、くしゃりと表情を崩した。

「皆も一緒に食べましょ。せっかくだわ、皆の話も聞かせてほしいわ」

 メイドと執事も席につき、何から話そうかと首を傾げる。レイアも顎に手をあて、少し悩んでから呟いた。

「皆さんの恋愛トークなんていかがでしょうか」

 れんあいとーく。

 祝音、フーガ、望乃が声をそろえて呟く。「最期になるのでしたら、こんな話も良いのでは?」とレイアがほんのり恥ずかしそうに首を傾げた。
 フーガが顔を真っ赤にしていたが、祝音の「楽しそう。みゃー」という一言で、恋愛トークの開催が決まった。

「では誰から」

 レイアがちらりとフーガを見ると、フーガがぶんぶんと首をふる。

「おいらには絶対振らないでくれ!」

 フーガから想っている人はいるけれど、それは一方的で実るとは一生思えない。だからこそここで話すのは躊躇われる。

「それよりおいら、レイアと旦那さん、そしてリズやミカエルの馴れ初めとか、祝音と望乃、アレンの理想の相手とか聞いてみたいな」

 レイアはそうですかと呟き、紅茶にそっと口をつけた。

「それでは私から」

 レイアが始めたのは、最初は夫のことを好きではなかった、という話だった。時折紅茶を飲んで、皆のティーカップが空になる頃に紅茶を注いで、静かに話す。

「お父様が言うから結婚するんだって。でも、ずっと私の車椅子を押してくれて。今では彼のことは信頼していますの」

 だから結婚式を挙げたときは、本当に幸せだったのだ。

「皆さんは大切な方はおられまして?」

 照れ隠しをしつつ周囲に目を配ると、祝音と目があった。

「僕自身の恋愛や恋心は、まだ分からないかも……」

 フーガやレイアの話や様子に驚いたり赤面したりしていた祝音だったが、いざ話を振られると少し困った。皆の話を聞くのは楽しいのだが、自分のこととなるとむずかしい。

「理想の相手、でいいんだぞ」

 フーガが出してくれた助け船に、祝音の目が輝く。それなら話せそうだ。

「優しくてあったかくて、一緒にいて楽しく……。猫さんが大好きな人かな。みゃー」

 祝音がにこりと笑みを浮かべれば、望乃も同じように微笑み返した。

「わ、わたしはまだ、お話できるような恋は……。でも、理想の相手、ですか」

 甘い物を楽しみながらわくわくどきどき聴かせてもらっているれんあいとーく。
 紅茶が甘く感じるのは、きっとお菓子のせいだけではない。レイアには末永く幸せになってほしいものだ。
 祝音は、猫が好き。同じものが好きな人と一緒なら、好きなものがもっと好きになれそうだ。
 フーガには一途に想い続けている人がいるみたいだ。それはちょっと、羨ましい。

「えぇと。誰かを守る為に一生懸命になれて、誰かの為に涙を流せる。優しくて、頼もしい」

 一緒にいると、お日様みたいにぽかぽかあたたかくて、安らぐような人、でしょうか。そう微笑むと、リズがにこりと笑いかけてくれた。

「アレンさんは?」

 レイアがアレンに話を振ると、アレンはふわりと笑みを浮かべた。

「タイプは、そうだなあ。ついつい守ってあげたくなっちゃう人かな」

 アレンが紅茶を一口飲み、リズとミカエルの馴れ初めについて尋ねた。

「私の誕生日パーティーで出会ったの、私たち」
「主役なのに、リズはテラスでぼんやり立っていてさ。つい声をかけてしまったんだ」

 二人は懐かしそうに、楽しそうに語る。だけど同時に悲しそうな様子も滲んでいる。
 きっと、本当は、まだ生きていたかったのだ。二人で幸せな生を歩みたかったのだろう。でもそれは、叶わない。

(二人にとっては、最期のお茶会だったけれど、最後なんかじゃない)

 フーガはそっと俯いて、ポルボロンを口に放り込む。星型のそれは、儚い味がした。

 これから何にも囚われず、永遠の幸せを二人きりで過ごすのだ。まるで夢のような時間だろう。

(本当に、羨ましいな)

 気が付けば、フーガの頬を雫が伝っていた。
 その様子を見た祝音の目にも、じわりと涙がにじむ。

 生を終わりにした後も、二人一緒に同じ所に行って、幸せな時間を過ごしてほしい。何一つ邪魔の入らない、幸せな時間を過ごしてほしい。心から、祝音はそう思った。

 目を伏せるレイアに、そっと唇を噛む望乃。そんなイレギュラーズたちの様子に、リズとミカエルは泣きそうな顔で微笑んだ。

 これから二人きりで、永遠に。

 誰かが呟いた言葉に、それぞれが祈るように頷いた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

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