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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>シュネー・フラオの彷徨

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●シュネー・フラオ
 薫風は遠離り、寂しげな秋がやってくる。痩せた大地は滅多なことでは実りを齎さず、越冬に怯える声も忽ち上がった。
 濃紺のワンピースの上には薄汚れたローブを身に纏っていた。洒落っ気を感じさせぬ無骨な藜の杖は僅かな装飾だけが飾られている。
 フードより毀れ落ちたミルクシフォンケーキを思わす柔らかな長髪を秋風に揺らがせて女は小高い丘に立っていた。
 宵兎を名乗る一族の集落が消えた。
 怒濤の如く訪れた暴虐が、飢えを凌がんと冬越えの用意を始めた者達を襲ったのだ。
 働き蟻のように夏の季節も働き続けた宵兎を獲物にしたキリギリスは歌って踊り、酒を呷るだけの日々であっただろう。
 荒れ狂う波濤は全てを飲み込んだ。
 暴虐の渦だ。其れを咎める声もない。すべては、この国が変わってしまったからであった。
『誇り高きハイエスタ』、そう己を位置づけていた若き妖精遣いは外道の行いを許しては置けなかった。
 それも、己の誇りに雁字搦めになったおんならしい正義感だ。

 この地を襲ったのはノーザンキングスのおとこたちだった。
 暴徒と化した彼等はきりきりと働き続けた『働き蟻』の住処から越冬の蓄えを奪い尽くす。
 抗うものは首を刎ね、腹に深く突き刺したスピアは肉を剔るに適していた。
 大地に転げた子供の泣き声が盛った炎の向こうに失せる。
「酷い事」
 おんなは嘆息する。
「ねえ、イエティ。ノーザンキングスの誇り高きハイエスタを名乗ることを止めようと思うわ」
 勇猛果敢なる誇り高きハイエスタ――口癖のように己を位置づけていたアンナ=マーヤは相棒の巨躯を撫でる。
 ふさふさとした真白の体毛が上等な絨毯のようにアンナの軀を包み込む。
「ふふ、今からは流浪の勇猛果敢なる誇り高き妖精遣いよ。イエティ、手伝ってくれる?」
 いつかの日、イレギュラーズと名乗った者達が手を差し伸べてくれたことを思い出す。

 ――私が、もしもノルダインやシルヴァンスに襲われたら助けてくれる?
   イレギュラーズの……あ、今度は名前、教えなさいよ。

 今なら仲良く手を取り合って悪逆非道なる『誇りを忘れた者達』をしがらみなんてなく却けられるはずだから。

●鉄帝国
 国家を揺るがす号令は、麗帝の転落より始まった。
 無敗であったというそのひとが、敗北を喫したという。玉座に君臨した男の勅令がこの図体の大きな国を揺らがした。
 寒々しい荒廃した大地。領土は広けれど、ひとが生き抜くには過酷なこの場所に戦乱の灯が灯る。
 ただ、蹂躙すれば良い。
 それがこの国の在り方だった。玉座さえ、己の誇示する全てで勝ち取る場所であったのだから。
 弱いことが罪なのだと、知らしめる様に暴虐の徒は奪った。奪い、殺し、生き残る術を身に着けようとした。
 ヴィーザル地方、小高い丘より見下ろした先にあった『宵兎』の一族はそうやって消えていった。
 いつ自分たちが牙を突き立てられ獣の餌になるかと恐れる者の声も聞こえる。
「だからこそ、私は来たの。こんにちは、イレギュラーズ。ノーザンキングスよりこの地を解放せんとする者達。
 私は『雪女』アンナ=マーヤ。妖精遣い。それから、これは私の相棒のイエティよ」
 グオオ、と唸った巨大な妖精はずんぐりむっくりとしていた。
 イレギュラーズが集うローゼンイスタフの居城にやってきたおんなは薄氷の眸でまじまじと見詰める。
「あら? アンナちゃんじゃない!」
 ひらひらと手を振ったジルーシャ・グレイ(p3p002246)にアンナ=マーヤは「いつぞやのイレギュラーズだわ!」と手を叩いて喜んだ。
「あなた、名前を教えなさい。それから、あなたも」
 ノルダインに騙され、のこのこと戦場に飛び出してくる少し間抜けな『雪女』はイレギュラーズとは旧知の仲であった。
 また彼女が誰ぞに騙されてしまわぬかマリア・レイシス(p3p006685)も心配していた程だ。
 雪女の異名を持ち、誇り高き部族であると公言するアンナ=マーヤは少しばかりぼんやりとした所作がある。
「また騙されてきたの?」
「濡れ衣じゃないわ。私は暴漢を倒す為にあなた達の力を借りに来たの。
 勇猛果敢なる誇り高き『雪女』の私なら一人でも倒せるかも知れない。けれど、安全は期すべき。こんな時だもの、助け合いは必要でしょう?」
 胸を張ったおんなは柔らかなミルクシフォンケーキの長髪をふわりと揺らした。
 共に戦わせて欲しい。
 その言葉を口に出来ない誇り高きおんなは「妖精の使役術だって教えられるし、仲良く喋りだってできるわ」と呟いた。
 暴虐の風に、波濤に、許せぬと言う気持ちはきっと同じだから。

GMコメント

 日下部あやめと申します。宜しくお願い致します。
 アンナ=マーヤは『吹き攫うシュネー・フラオ』『深雪に途惑うシュネー・フラオ』に登場しておりますが、何方様とも仲良くさせて頂きたいです。

●成功条件
 暴徒ノルダイン鎮圧

●暴徒ノルダイン 10名
 皇帝の勅令を受け、集落を襲い冬の蓄えを奪う暴徒たち。強さを誇りにしています。
 前衛タイプが多く、タフなファイターであることが見受けられます。
 回復などの小細工の前にダメージで叩き潰せ、を信条にしているようですが詳細は不明です。
 彼等は村を襲い蓄えを奪い抵抗したものを殺してまわりました。理由は「気に食わなかった」からです。
 ノーザンキングスに所属しています。アンナ=マーヤは「汚らしい田舎者が暴れてる」と誹っていました。

●『雪女』アンナ=マーヤ
 ミルクシフォンケーキの様な柔らかな長髪と薄氷の瞳を持った鉄騎種。
 妖精使いと呼ばれており、氷や雪を好み使役するために雪女の異名を持ちます。
 儚げな風貌をしていますが勇猛果敢なハイエスタとしての誇りを胸に抱いています。
 誇り高いが故に、此度の国家の動乱を許せずに居ます。後衛タイプ、イエティの支援を行います。

●『イエティ』
 大柄な雪男。妖精です。アンナ=マーヤが使役しており、非常に凶暴で強力です。
 アンナ=マーヤを護るように立ち回り、ハイエスタ以外の種族に対しては非情です。
 前衛タイプで拳を武器に立ち回ります。とても凶暴な性質です。

●現場情報
 ヴィーザル地方に存在する丘より見下ろせる村。そのひとつが『フィン・ルード』です。
 冬の蓄えを準備している風光明媚な村です。この村にノルダインが向かう相談をしていることをアンナ=マーヤの妖精達はキャッチしました。
 アンナ=マーヤ&イエティは暴徒ノルダインを倒す(何なら、殺しても良いと思っている)つもりです。
 皆さんと協力してフィン・ルードを護りたいと考えています。村人達は昨今の情勢的にお家に閉じこもっているようです。

●特殊ドロップ『闘争信望』
 当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
 闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
 https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran

  • <総軍鏖殺>シュネー・フラオの彷徨完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年10月18日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
皇 刺幻(p3p007840)
六天回帰
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す
燦火=炯=フェネクス(p3p010488)
希望の星

リプレイ


 長風が連れて遣ってきたのは冬の気配。おおらかに冬を纏ったずんぐりむっくりとした精霊はイエティとその名を呼ばれる。
 雪男と囁かれた妖精は主たるミルクシフォンケーキを思わせる綿毛の髪の娘を護るように立ちはだかっていた。北辰連合の結成を耳にして、藜の杖を手にやってきた『妖精遣い』アンナ=マーヤの高潔なる守護者のように。
 彼女が語ったのは餓えた獣が他者を蹂躙する悍ましき光景。ひとはそれぞれ誇りを胸に生きている。其れを愚弄し、弱者だと誹る行ないをアンナ=マーヤは非道な者達と非難する。元はノーザンキングスの一員であった彼女は今より流浪の妖精遣いを名乗るのだという。
「働き蟻のように冬を越える蓄えを用意した彼等を力で捩じ伏せて、従わねば殺すという行為を許してはおけないわ。
 改めて、私は『妖精遣い』アンナ=マーヤ。雪女とも呼ばれているわ。氷と、雪を、この冬に覆われたヴィーザルで生きるハイエスタよ」
 踏ん反り返るように胸を張った娘は薄汚れたローブを揺らがせる。宵の色を閉じ込めた濃紺のワンピースは氷晶の飾りが静かに揺れていた。
「アンナ君、久しぶりだね! 君と再び共に戦えることを嬉しく思う!」
「あら、久しぶり。元気そうね。名前は、ええと……」
 名乗りなさいと声を張り上げるアンナ=マーヤに『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)は破顔し応える。
「アンナちゃん達の方から会いにきてくれるなんて嬉しいわ。
 それじゃあ改めて、アタシはジルーシャ・グレイよ、ジルって呼んで頂戴な。フフ、やっと名前を伝えられたわね♪」
 うっとりと唇に音を乗せた『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)にアンナ=マーヤは頷いた。イレギュラーズとは二度、面識のあったおんなは『イレギュラーズ』と『ハイエスタ』という別たれた道に立っていた。それでも、今は行く道も交わり共にひとの誇りを護る為に戦いたいと云う。
「皇帝の勅令を受けたらそれはもう完全なる敵でしかないよねっ」
 頬を膨らませる『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)。楢の木に腰掛けた小さな彼女に『六天回帰』皇 刺幻(p3p007840)は頷いた。
 ふと、呟いたのは鉄帝国の見舞われた未曾有の惨事――無敗の麗帝の代わりに玉座に君臨した男の発する勅令に随分と慣れてきた己の身の上の事であった。
「なんというか……パワーの権化みたいな奴らとばかり戦ってる気がするな」
 鉄帝国は武力を誇る。空席になる事無い玉座は最強と無敗の称号を欲しい儘にする場所だ。そして、新皇帝バルナバスの勅令は――
「呆れた~!バルナバスの勅令って要は力を誇示して好き勝手奪うってこと? そんな馬鹿みたいな話ないわ。ぷんぷん!」
 真白の頬を膨らませて『揺れずの聖域』タイム(p3p007854)は拗ねたように声を張った。秋の稲穂のようにその髪がふんわりと揺らいでいる。
 生きる為に、奪わねばならない。
 餓えを凌ぐ為に何かを犠牲にしなくてはならない。厳しいばかりのヴィーザルは頻繁に人が死ぬ。
 倫理観という硝子を派手に砕けさせ略奪と略取に心を傾けさせたのがバルナバスの勅令であるというのだから許しては置けない。
「強者のみの国? 強さを誇りにしている、ですって? ……それ、野蛮さの間違いでしょ。ねぇ?」
 嘆息する『希望の星』燦火=炯=フェネクス(p3p010488)にアンナ=マーヤは「そうなの」とずいずいと詰めた。薄氷のいろの美し瞳が燃えるような燦火の双眸を覗き込む。
「そう、そうよ。私はハイエスタとしての誇りを胸に生きてきた。ノルダインやシルヴァンスは元から野蛮だと思ってた。
 けれど、違うわ。野蛮なヤツが野蛮なだけ。素晴らしき誇りを胸にする人は沢山居る。其れを理解したらどうしようもなく腹が立ったの」
「……厳しい冬を乗り切るために資源を奪い合うのは仕方ねぇからよ。
 連中が絶対悪だとはいわねぇが、気にくわねぇから殺すっつーのは筋違ぇだぁな。
 ――個人的にゃ、今はノルダイン全体のイメージを下げたかねぇし、邪魔クセェのはさっさと片づけちまうに限るわな」
 友もこの寂れた荒野を生きている。『探す月影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)は知っている。ヴィーザルの三部族はそれぞれがそれぞれの信念と誇りを胸に生きている。道を違えた者が誰かの誇りを傷付ける可能性があるならば、許してなんて、いられるものか。


 寂しい森と小高い丘。全てを見下ろすことが出来るフィン・ルードを護る為に息を潜めて姿を隠す。
『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)は傷だらけの拳を固め、時を待つ。餌に釣られて姿を現す驕り高ぶった者達は村の者達を弱者と認識してやってくることだろう。
 貴道やイレギュラーズ達がこの場所で虎視眈眈と獲物が掛かることなど知らず――捕食者の振りをして牙と涎を剥き出して、彼等はやってくる筈だ。
「アンナちゃん、手伝って頂戴ね」
「勿論よ、ジル。何をすれば良いのか教えて頂戴」
 漂う甘い香りにイエティが鼻をすんすんと鳴らした。竪琴の音色に弾かれてやって来たノーム達と村の入り口に罠を設置して、村人達に事情を説明する。指先から小鳥を羽ばたかせ、タイムは周辺に冬に飢えた獣が村を襲わぬようにと作られた柵を見回った。
 村人達には避難を促すタイムにフィン・ルードの村民達が「一体何が」と恐れるように声を掛けた。冬眠をする事無く餌を求めてやってくる無作法な熊のように暴徒がやってくるという簡単な説明に村人達は戸を固く閉ざす。
「少しの間、外を騒がしくするけれど……そのまま家の中でじっとしていてね。アタシ達が守るから大丈夫よ」
 家の外から声を掛けるジルーシャに《精霊》ノームが準備が出来たと微笑みかける。おひさまの香りに惹かれるとんがり帽子帽子そのひとにアンナ=マーヤは「賢い子ね」と指先で挨拶を。
「……来るよっ」
 妖精の使役術。妖精遣いであるアンナ=マーヤに師事をしてみたいとリリーは仄かに考えた。自身とて精霊を使役した事がある。小さな身体で、大きな仲間達と戦ってきた彼女にとっての原点をアンナ=マーヤが使用するのだ。
(アンナ=マーヤは完全な味方ではないけど、戦力としては頼りになる、って感じかなっ。
 ……こっちとしては色々な面で協力してもらえると助かるけど、今はそうはいかないよねっ。こっちが有用って所を見せなきゃ)
 協力者として、共にヴィーザルを護るならば彼女の願い出たフィン・ルードの誇り無き暴徒を却けなくてはならない。
 相手は単純そのもの。小細工などせず真っ向勝負で拳を振り上げる戦士達。彼等が直情であるならば、リリーは小細工(いたずら)めかして、倒すダケ。パワーを捩じ伏せる小細工はリリーの大好きな戦い方なのだから。
 秋風を凌ぐ外套で身を包み、息を潜めて耳を澄ませる。音に、気配に。その全てが飢えた獣の足音を捉えるのだ。
 ルナは身を屈め、斧を背負い上げた男達をその双眸へと映す。ぎらりと、眸に乗せられた敵意と共に男の首を噛み千切らん勢いでルナは飛び出した。
 ノルダインの男達はジルーシャが仕掛けた罠に掛かり足元を掬われる。姿勢を崩した最中、ルナと共に飛び出した燦火の渦巻く衝動が灼熱の波濤として広がった。
 ――歓喜の絶叫、憤怒の鉄槌、悲哀の波濤、歓楽の灼熱。我が内なる衝動こそを力と成す。
「喰らいなさい!」
 薔薇色の髪が大仰に揺らぐ。灼熱の色を湛えた眸がノルダインを捉えれば、男達は気にもとめていなかった方角からの敵襲に目を剥いた。
「どうやら彼らは気に食わなかったものを襲っているらしい、ならば同じことをされても文句はあるまい」
 弾ける音と、広がる紅雷。罠の位置は脳裏に刻み込まれている。外套をはためかせたマリアが身に纏ったのは朱き鎧。
「――私はね、君らが気に食わない。故に叩き潰させてもらおう! 貴様らは本当に戦士か?
 私の知る戦士は決して弱き者を一方的に虐げるような存在ではない! 恥を知れ! タイム君! 気合を入れていくよ!」
「こういう時のマリアさんってすごーく頼れて絶対負ける気なんてしないわ。……うん。みんなもこの村も、絶対に守るわ」
 唇に乗せた音色は確かな信頼。タイムの指先から浮き上がった虹色の軌跡がノルダインへと叩きつけられる。
 あくまでも冷静に。頭脳は冷え冴え、魔力を手繰る指先が魔性を手繰り男達を蹂躙する。
「何だァッ、テメェら!」
「……いやいや、全く笑える連中だな、ユー達?
 絶対出てくると思ったんだよ、『強さが誇り〜』なんて言う輩が。あー、まず脳味噌ピンポン玉サイズのユー達にも分かりやすく教えてやる」
 拳を固め、その眼前へと飛び出した貴道は濁流に暴雨、颶風吹き荒ぶ、大蛇が飲み干すかの如き嵐の予兆。災害をも体現する構えで矜持を固め男達を嘲笑うように三日月に唇を歪めた。
 ただただ、倒すだけでは芸も無い。存分にコケにしてやればいい。自慢と誇りの強さを打ち砕き、驕り高ぶるその性根をたたき直すが先決だ。
「強ェ同業者に、いかつい雪男と、それ以上におっかねぇ女が集まってんだ。正面は任せたっていいだろ」――と。ルナは後方より奇襲を狙う。鋭き一撃と共に、姿を隠す。楽しい楽しい鬼ごっこ、姿さえ見付けられぬようにと林に隠れてその出足を挫くことを狙う。
 小鳥たちの囀りを耳にして、狼の刻印が刻まれた魔導銃から炎の弾丸を叩きつけたリリーの呪いはノルダインの脚を撃ち抜いた。呻き声と共に男達は悟る――今までと同じように略奪は不可能だと。
「『宵兎』の人達の時のように、また何もかも、思い通りに奪えると思った? お生憎様――奪われるのは、アンタ達の方よ」
 鋭く声を上げたジルーシャの災厄のかおりは土地を守護する精霊達の眠りを醒ます。わざわいは大地の息吹が如くノルダイン達へと絡みつく。
「そうよ。誇り無き者達。この誇り高き私が彼等と共に成敗してやるわ! ね?」
「……お、おう」
 イエティに抱きかかえられて藜の杖を向けたアンナ=マーヤに同意を求められ、思わずたじろぐ貴道はその拳を緩めることはない。


「ヤバい奴等揃いだからね、背中を見せると死ぬわよ? ――本当の強さ、味わっていきなさいな」
 より強大な渦のような。力を誇るならば、更に強力な暴力によって捩じ伏せられる。叩きつけられた強固な一撃に燦火は「これが因果応報よ」と悪辣なる魔力を奔らせ微笑み漏す。
「慣れた頃がいちばん危ないと言うが……いやいい、貴様らにも同じように果てを見せてやろう。弱肉強食なんだ、覚悟くらいできてるんだろ?」
 派手に片付けて村人達を護ってやれば良い。護りなど捨てた形無し。それこそが刺幻の戦い。
 生故に罪ありき。罪故に、生である。敵の戦意さえ減し去るように魔刀を振り下ろす。たん、たんと。リズミカルに地を蹴って捻り挙げた肉体は薙ぐ如く宝玉の力を持って敵を一閃す。
「あなた達がやってるのはただの無法で、恥じるべき行為だわ。
 鉄帝が混乱してるこんな時こそ助け合うのが力であり誇りでしょ――アンナさんみたいにね!」
「……私、あなたがすき!」
 タイムに名を挙げられた誇り高きハイエスタの娘は眸をきらりと輝かせた。
 咲かせた笑みは輝き、誇りに雁字搦めになっていた女の心に雪解けを走らせる。
 前線で身を砕けども、折れること無きタイムの背後より無数の氷の刃がぎらりと輝いた。藜の杖に乗せられたその凍て付く一撃に重ねられたのは朱き雷光。
「ふふ! 何がノルダインだ。腰抜けの集まりじゃあないか。戦士ごっこは楽しかったかい? ――君らの遊びはここで終わりだよ」
 雷の気配を乗せた眸が色を帯びた。「アンナ君、イエティ君! 暴れすぎて建物を壊さないようにね!」と。揶揄う声音にアンナ=マーヤは「勿論よ」と地団駄を踏んだイエティを宥める。
「小細工の前じゃパワーは無意味、だよっ! というか、パワーを発揮する前に小細工(ワナ)に掛かってるんだもの、へったくれもないと思うの!」
 リリーがべえ、と舌を見せる。小さな彼女に腹を立てたように踏み出したノルダインの脚を阻んだ罠が膝を強かに地へと打ち付けさせる。
 堕天の輝きを放ったのはリリーの魔導書の文言。それは男達を絡め取る鎖となって顕現し続ける。
「『誇り』ってのはテメェを縛る鎖だ。
 気高い我はその他大勢とは異なる存在だと知らしめる為の制限……それが『誇り』だ、分かるか?」
 誇りに雁字搦めになったのはノルダインもアンナ=マーヤも同じ。鎖を振り払うことが出来る事が強さだと貴道は云う。
 ただ、コンパクトな一撃は極まれば臓腑さえも破る衝撃を放つ。
「ユー達のようにボクちゃん達は偉いんだぞースゴいんだぞー、と喚き散らすソレは『驕り』と言うんだ、分かるな?
 強さを『誇って』はいない、強さに『驕って』いるんだ。これで一つ賢くなったな。つまりユー達は……無駄飯食らいって訳だ、HAHAHA!」
 前線を立ち回る刺幻の一撃を遁れ、何としても前線へと飛び出したいノルダインの男の刃がタイムに迫る。
 華奢な乙女は微動だにせず、唇に軽い音を乗せた。一方をタイムが、もう一方を燦火が。
 おんなだからと舐めたおとこたちを嘲笑うように癒やしの気配がふわりと躍る。
 彼女達を見くびっていたのはアンナ=マーヤとて同じ。「すごい」。そう呟いた言葉に乗せられていたのは羨望。仲間達との協力が、悪逆非道なる者達をも打ち倒す。
「ねえ、楽に殺せると思った? 以前そうしたように……。ごめんね? わたしって実は見た目より結構頑丈なの」
 瀟洒に、そして、淑やかに。タイムは男の刃を受け流して囁いた。共に前線を護る燦火は快活に声を張る。
「――こちとら、弱肉強食上等な覇竜の出身よ。舐めないで欲しいわね!」
 獣を狩り取ることは無く淑やかに全てを受け入れる乙女と対照的に獰猛なる牙さえも受け流す事に長けた竜域の娘は烈火の如く全てを受け止める。
 生き残る術には長けている。生き残り、己の存在を誇ればその周囲へとマリアの雷撃が降り注ぐ。
 穏やかな笑みを浮かべるタイムが視線を後方へと一度移した。罠の裏側、家屋の傍より姿を見せたルナの痛烈なる一撃がノルダインを地へと伏せさせた。
 男達のかんばせに浮かんだ僅かな焦燥。
 弱い者を打ち倒せ。逆らうならば首を刎ね、己が物としても良い。強奪は新なる皇帝が許可した弱肉強食の法。
「狩られる側になった気持ちはどうだい?」
 獰猛なる獣が突き立てる牙は、鋭き気配を宿し決して折れることはない。マリアの囁きにたじろぐ男の腹へと叩きつけられた貴道の研ぎ澄まされた拳は命を狩り取るわけではない。
 ヒクつく声に、此処で退いては戦士の誇りを保てぬと叫ぶ男の周囲へと精霊達の囁きが躍る。軽やかなジルーシャの立て琴の音色と躍るように。
 響く音色の傍に小さな少女の弾丸が雨あられと降り注ぐ。
 雁字搦めになった誇りという名の鎖。断ち切るのは其れを捩じ伏せるほどの力しかない。
 ――だからこそ、イレギュラーズは彼等を捩じ伏せる。
 悪逆非道たる行ないに言葉での平和解決は無意味だと、この国の有様を見てまざまざと感じてしかたがないのだから。

「イェーイ、大勝利ね!」
 ハイタッチを求めたジルーシャにアンナ=マーヤは戸惑ったように仕草を確認して、ぱちりと掌を合わせる。
 逃れるように走り出したノルダイン。其れ等に対しては追撃を仕掛け、これ以上のノルダインの風評被害は許せないとルナが暴徒達の行方を突き止めていた。
 生き残った彼等をどうするのかとアンナ=マーヤは緩やかに首を傾いだ。傍らのイエティも同じようにこてりと首を傾げる。
 斯うした時だからこそ、力を合わせなくてはならないと叱咤するマリアは飢え苦しみ凍え死ぬ者達を減らすことが出来てこそ誇り高きヴィーザルの戦士では無いかとノルダインの男達に告げて居た。
「手伝わせるそうよ」
 眺め遣れば項垂れた男達が文句を告げる。燦火は貴道が地をずしりと踏みつける様子を指差した。
「馬鹿やってないで働け! 今のテメェらは単なるゴミ虫だ、復唱しろ復唱!
 チカラが有り余ってるなら有効活用しろ、ゴミ虫ども! 返事はどうした、返事は! サーを付けろ、サーを!」
 ノルダインの男達は力自慢。刺幻も知る寓話のように。蟻とキリギリスの対比はこの国の未来の行く末を顕わしている。
 全てを奪い取ろうとするキリギリスは果たしてどうなったか。思い浮かべてからせっせと生き残る為に越冬を考えて働く者達の汗水垂らす姿を眺め続けるだけだった。
「ね、アンナちゃん、また何かあったら――ううん、何もなくても、いつでもアタシ達に会いにいらっしゃいな。
 まだまだ教えて欲しいことも沢山あるし、次は是非イエティと出会った時のお話も聞かせて頂戴ね♪」
 ジルーシャの穏やかな笑みにアンナ=マーヤはぴしりと姿勢を正す。マリアと、タイムと、ジルーシャと、イレギュラーズたちと。
「私こそ、何時だって呼んで頂戴。アンナ=マーヤは誇り高き妖精遣い。
 頼みを聞いて貰ったのだもの、この恩は忘れないわ。あなたたちは私と心を共にする者――でしょう?」
 微笑みは、誇りのためにある。
 志が同じならば、その行く道も交わり続ける筈だから。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

皇 刺幻(p3p007840)[重傷]
六天回帰

あとがき

 この度はご参加有り難う御座いました。
 アンナ=マーヤは孤独に、ひとりで誇りを胸に生きてきました。イレギュラーズの皆さんと共にあることに少しの憧れを抱いたのかも知れませんね。
 また皆様とお会いできる人を楽しみにしております。

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