シナリオ詳細
<総軍鏖殺>戦略的遅延行動
オープニング
●ノーザンキングスの見果てぬ夢
夢。
見果てぬ夢。
凍てつく大地を滑っていく風が冷たく耳を冷やす。引きちぎれそうなほどに寒い、夜。
それでも空は明るい。皮肉なほどに。
――ノーザンキングス解放戦線。
その名は、イレギュラーズによって改められるのであろう。それでも僻地に届く便りは遅い、あまりにも……。
鉄帝北東部、ヴィーザル地方。
そう、ここは僻地だ。
中央に顧みられぬことのない、僻地なのだ。
鉄帝国が一枚岩となっていない、今ならば、偏屈狼(ローゼンイスタフ)を打ち破れるかもしれない。
……甘い誘いに、住民たちは浮かされ始めていた。
幾度となく鉄帝国と小競り合ってきたこの地方の者たちは、鉄帝をよく思っていない人間も多い。何人殺した、と自慢する戦士たちだけではない。狼の世話について話してくれる、ごく穏やかな老人が、鉄帝となれば金切り声をあげて憎悪の言葉を吐き散らかすことも珍しくはない。
ラグナル・アイデ(p3n000212)の兄は領土争いで死んだ。そして、そのことを父はひどく恨んでいた。ラグナル自身も、最初は思うところはあった。
でも、今は……。
(戦いたくない)
ラグナルは知っている。彼らのことを知ってしまった。
彼らだって人間で、生まれだって様々で、血も涙もない冷血漢じゃないと知ってしまった。それだけじゃない。こんなところまでくるほどにお人好しで、何かあれば「蛮族」を手助けしてくれるようなやつらだった。
父、アイデの族長の号令で、集められた小部族たちが会議をしていた。ノーザンキングスの名のもと、父はいち早く使いを出していた。
アイデはシグバルド統王に首を垂れる。
族長への賛同と快哉が続き、どれだけを差し出せるかを誇る中……。
「我々は、ノーザンキングスにも、鉄帝にも下るつもりはない」
一人が、人員を出すことを拒んだ。
一瞬で空気が張り詰める。
声を上げたのは、ラクトの一族。細々と工芸で暮らしていた穏やかな一族である。族長の狼が飛びついた。幾多も見事な細工彫を編み出してきたのであろう手に噛みつく。言葉を通り越し、主人の意図を汲んで……。
……それをアイデの族長が制止する。あっという間の出来事だった。
「鉄帝の檻から解き放たれた獣どもが、我々よりも友愛を持っているといいな?」
●
ラクトの村の代表を追い出し、兵士の配置が決まった。
もとより、ヴィーザルは資源にも兵士の数にも、恵まれた土地ではない。……主要なところは守り、辺境は切り捨てざるをえない。
手薄になったラクトの村は旨味のある土地ではない。主要な運河もない。
だから「守れ」ない。
しかし、族長は暗黙のうちに言っている。
資源は奪い取ってもいい、と。
たしかに、少しでも資源は欲しい。占拠し、めぼしいものを奪い取ったらあとは放棄してもいい。たとえあそこで賛同していたとしても、どのみち、ラクトの連中にしたら同じだったはずだ。食料と物資を出せ、といわれて、飢えてしまえば冬を越せない。
……ラクトの集落は、今、戦争に人を取られてほとんど女子供しか残っていない……。
「で、どうだ。相手は……血も涙もありそうか?」
ラグナルが仲間を振り返る。
「あー、だめです。力自慢で赤子の首をひねるような鬼畜ですね。勅令で解放された犯罪者です」
望遠鏡を覗き込んだ仲間が言った。狼も賛同するように首を振っている。
「よし! じゃあ遠慮はいらないな。ぜんぶやっつけよう」
「今は、無理です。こちらが少なすぎる。数が違いすぎますよ」
「……じゃあ、なんとかラクトの連中を説得して」
「逆らえば殺せとの命令が下ってますね、族長から」
「タイム」
「はい」
「くだらねぇ、くだらねぇ、戦って死ぬのがそんなに大事かよ。……俺は戦いたくない。怖いよ」
誰もいないところに言って弱音を吐いていた。穴を掘って叫ぶのだった。
逃げ出したい。
ラグナルの隣にはベルカとストレルカが肩を並べている。番の狼である。狼とともに生きる一族であるアイデの盟友であり、友だ。
逃げ出したい、と思ったが、思っただけだ。𠮟責してくれる顔が浮かんだ。勇猛な戦士にならなくては、と……。
……。
勇猛な戦士?
ばかばかしいって笑ってくれる人間がいるじゃないか。
「よし、決意がついた」
ラグナルはぱん、と手のひらを打ち合わせると、友人の手紙を燃やし、灰を飲み込んだ。
「俺には無理!」
鉄帝にはあの土地は渡せない。
……鉄帝の、それも辺境にやってくるような連中が物分かりが良いとは思えない。
なにより、あんなところを守ったところで、「見返り」はない。
――小さな寒村を「守って」くれるくらいはお人好しで。
――かつ、自分たちが一方的に蹂躙できないほど「強い」相手……。
ラグナルが知る限り、そんな連中は彼らしか……。
●
「今回の依頼は、大きく言えばローゼンイスタフからということになる」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)の息は、白く、冷たく拡散されていった。
北の大地、ヴィーザル地方は本来であれば実りの秋だ。……これから本格的な冬を予感させる。
「第一の目的は、暴徒からのラクトの村の保護というものさ。戦略的に価値はない……といってもいいだろうけれど、ヴィーザルのアイデの一族、鉄帝の別勢力が『ついで』のように踏みつけている位置にある。
彼らを手ひどく扱わないというアピールを兼ねてローゼンイスタフが救援を出したいようだけれど、厄介なことに、やってくる鉄帝の援軍どもが、よほど紳士とはいえない連中さ。渡したくはないね。
あまり顧みる魅力のない小村をどう扱うか、これはこれからの作戦にも関係してくることだろう……さあ、どうかな?」
- <総軍鏖殺>戦略的遅延行動完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年10月20日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●その名はポラリス
景色を置き去りに、四足獣型の亜竜が地面を駆ける。ドレイク・チャリオッツはすさまじい速度で――ローレットが想定していたよりもずいぶんと疾く、凍った雪道をものともせずに走っていた。
『探す月影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)が先頭を駆ける。数名はチャリオッツに乗る。自ら至れるものは空から、あるいは、ルナが踏み固めた道を急ぐ。
「部族というのは、しがらみだらけで、動きにくそうですね」
「ヴィーザルの部族、事情、色々。うちも、そう。
でも、良くなるように、みんな、頑張ってる。今回も、そう。頑張る」
『高速機動の戦乙女』ウルリカ(p3p007777)の追跡は正確で迅速だった。
リトルワイバーンを自らの一部であるかのように巧みに操り、空から舞い降りてきた『新たな可能性』シャノ・アラ・シタシディ(p3p008554)は、単独だけであれば通れそうな道を見つけた。
より、良くなるように。少しでも良い方向に。
「あの親父さんだ。こうなんのは正直見えてたがな……」
「事情は何となく想像がついたわ」
『月香るウィスタリア』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)はやはり今回の敵は彼ら、アイデの一族なのだと改めて知ることになる。
(正直ショックだけれど……それでも)
ジルは、ラグナルたちを責める気にはならなかった。
「ポラリス・ユニオンは友好関係を築けそうな部族と友好関係を結んでいく事を考えているんだよね。であれば、彼らのためにもラクトの村は必ず守らなくちゃならない」
マルク・シリング(p3p001309)は情報をまとめ、作戦をわかりやすく説明してみせた。
――ノーザンキングス解放戦線は、名前を改め、ポラリス・ユニオンと呼ばれるようになる。
「それに。蓄えのないまま冬を迎える事が、どれほど悲惨な結果を招くか」
マルクの口ぶりは穏やかなままだが、けれども確かな決意が見えた。
(絶対に、そんな事はさせない)
力強くブラウベルクの剣を握りしめたマルクは、身に染みて知っている。身を切るような冬の寒さを。凍えるひもじさを。
「……招かれざるお客さんもいるみたいですね」
『力いっぱいウォークライ』蘭 彩華(p3p006927)の耳が鋭く遠方を気にかける。
「アイデは小部族の纏め役である……ということでいいのかな。ははっ、向いてないんじゃない?」
『叡智の娘』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)はばっさりと言った。
「そもそも彼らが言う勇猛さって、蛮勇だろう。蛮族だし」
リウィルディアの言葉には、為政者としての実感が伴った重みがある。
北方の彼らのやり方は、流す血の量が多すぎる。事情はあるのだろう。だが、それで取りこぼすものは、まとめ役には適さない。
「ああ、ラクトの村の民は違うよ。工芸で暮らしノーザンキングスから距離を取りローレットに助けを求めた。真っ当な保護対象さ」
彼らが切り捨てようとしているものは、不要なものではない。村の入口の美しい柵をちゃんと見たなら、それがわかるはずだ。
「フリック 到着」
『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)がそっと霜を払うと、草花が顔をのぞかせた。
ちょうど、彩華の声が遠くから聞こえる。
「ローレットです、お助けに参りました! 皆さんには一時の避難をお願いします。今日のうちに解決しますので、旅支度は要りません。貴重品だけ手荷物にまとめてください」
●ラクトに至る
「よし、作戦開始だ」
マルクの鳥が二手に分かれて飛んでいった。片方はアイデのものたちに、片方は「援軍」と称する者たちに向けて……。
彼らは決して味方ではない。ばかりか、マイナスの影響をもたらす。それをどう調整するかが、今回の肝だ。
ラクトの村に響いたのは、戦いの音ではなく、心安らぐ竪琴の音だった。
「ママ、ママ! ほら、楽器の人。おまつりだよ」
「だめよ。あ、あなたたちは……」
「アタシ達が来たからもう大丈夫よ。落ち着いたら、アンタ達の作った品を見せて頂戴ね♪」
呼び出された存在が、ジルーシャのまとう何かを喰らった。子どもが目を丸くした。
(アラ、視えるほうの子かしら)
ごめんなさいね、と、それでもちょっとした手品のように、秘密よ、と言えば口止めはおしまい。一足も二足も早く春が訪れたかのように傷をいやしていく。
「あがめなくていいのよ。等身大の、イレギュラーズよ」
「春だ! 春のロボット!」
母親が、フリックによじ登ろうとする子どもを慌てて止める。
「フリック 味方」
「わかるよ! だってお花だもん。悪い人はお花なんてのっけてないもんね」
荒れ果てた花壇には、ほんの少しだけ花が植わっていた。けれども、維持をすることはできていないのだろう。……今は命が大切だ。
「資源 ホボ置イテク 推奨」
「いや、これは朗報じゃないか。援軍もくるって聞いてるぞ、まだ余裕が……」
フリックは村人に首を横にふって、村人の前からどかなかった。
「残念ながら、そうはいかないのよ」
怯えさせないように穏やかに、それでも、しっかりとジルは伝える。偵察していたシャノが降りてきた。
「これから来るやつら、ならず者。鉄帝だけど、解放された犯罪者中心」
「ああ、その羽……もしかして森の……」
「大丈夫。このままだと村、蹂躙される。貴重品持って、一旦逃げて。村、自達、守る」
「守る? 守るって?」
知らぬ彼らに、身柄を預けてしまっていいのだろうか。
そんな逡巡はいらなかった。彼らは知っている。遥か北の辺境にでも手を伸ばし、困っていると見るや、助けてくれるのがイレギュラーズであったと……。
手を借りながらも懸命に避難する彼らは、同じ人間だった。
そう、アイデの者たちともおなじ……。
(だってアタシは知ってる
アンタ達が優しいって
皆が言うような「蛮族」だなんて嘘ばっかりだって)
彼らを知らなければ、こんな気持ちにはならなかったのだろうか。
(ううん、知ってしまったから、知らなかった頃にはもう戻れない
でも知らなかった頃より今の方がずっといいわ)
ジルは、はるか遠くに懐かしい匂いを感じ取る。泣きたくなるような気持ちにもなる。
「よし、あとは任せてくれ」
リウィルディアは、せき込む女性にためらうことなく手を差し伸べる。
「あんなやつら、寄せ付けたりしないから」
傷ついた手。何かを作り出そうとしてきた手。彼らを「戦闘では役に立たない」と切り捨てるアイデの連中は――ほんとうに、愚かだ。
●猶予一刻
まだ、猶予がある。
「くそっ、なんだあのカラスは、邪魔しやがって」
「いい、かまうな。もっとやることがあるだろう!?」
ならず者たちは、巨大なカラスの影に邪魔され、思うように進めずにいた。この土地を知らない彼らは、『シタシディ』などという部族は知らない。ましてや、カラス様などは……。
「うわあっ」
また、部隊の後ろのほうで悲鳴が上がった。
「チイッ、誰にやられたんだ!?」
「獣だ! 黒い……」
「狼か?」
「違う!」
あれがアイデの一族なのか。いや、そうとは思えない。狼ではない。速すぎて姿をとらえられない。
「おい、しっかりしろ!」
致命的なダメージを与えるに至っていない。だが、それはわざとだ。足を負傷した仲間が邪魔になってくる。行軍の速度を落とさざるを得ない。
「くそ、獲物が目の前にあるってのによぉ!」
汚れた泥が、戦車の車輪をからめとる。ひっくり返った台車を起こすのにすら、それだけで時間を取られる。
あの獣を追うこともできない。
「やってられねぇ。なんだってこんなついてねぇんだ?」
「略奪でもすりゃ気が晴れるってもんよ」
「……よし、今だね」
今だ。
ルナに背を預けたマルクが、目を閉じ、ワールドリンカーに魔力を込めた。それを見たリウィルディアは火を放った。
むろん、せいぜいが何の利用価値もない廃材の山にだ。
「足りない頭では判断できないトラップ、精々引っかかってもらおう。まあ、もっとマシな連中だったら、気が付いただろう」
マルクが作り出した幻影は、罪のない隊商の群れだった。本来であれば、鉄帝の軍には戦闘には関係なく、身なりで中立を示した彼らを略奪する道理などない。
だが、ならず者でしかない彼らにとっては獲物だった。
「助けてくださるのですね。援軍に感謝します」
ウルリカを見て、連中は色めき立つ。……美しくふるいつきたくなるような美女だった。
「こいつは上物だ……」
「悪いようにはしないからよ……」
ウルリカはくるりと背を向け、走り出す。
「っと!? おい、逃がすな、追え、気が付かれたぞ!」
リウィルディアはため息をついて頭を振った。
「他愛ないものだな、しかし……」
「狼が狙ってるな」
ルナがうなった。
「じゃ、俺ァちと野暮用だ」
●ラグナル
数名。人と、狼たちは待っていた。
けれども、今回は味方ではない。めいめいに武器を構えている。
奇襲をかけられるか先行していた彼らではあったが、気が付かれてしまった。
現れたルナはたった一人。たった一人だが、それでも、アイデの小隊は勝てるとは思えなかった。
「ルナ……」
「つれねぇなぁ、黒獅子さんからのお手紙を白狼さんは読まずに食べちまったってか?」
「何の話だか……つっても無駄なんだろうな。ほんとならこんなところで会いたくなかったんだがな」
「ヘェ?」
「……」
「冗談だよ。あの親父さんだ。士族のためなら、そう選択すんだろうたぁわかってたさ。
そして自分達を守るために、弱い他士族は切り捨てる。
なにも悪かねぇさ」
敵だ。
けれども、ためらいはあった。
隙を狙って、合図して。
いや……。
勝てるとは思えなかった。だが、ルナは戦うでもない。
「ラグナル、お前はどうしたい。
俺がお前とベルカ、ストレルカを保護するよう働きかけることはできる。
だが、『ノーザンキングス傘下の』アイデは守れねぇ」
その通りだ。ぐっと言葉を飲み込むしかない。
「生きるために逃げるのは悪じゃねぇ。俺はおまえを責めやしない。
だがよ。
ガキどもが誘拐された時も、ケニングの時も。
おまえはいつも、誰かを、家族を守りたいっつってたな」
「その気持ちに嘘はないさ」
「選べラグナル。
今一緒に来るか。
向こうにつくか」
それとも、と、ルナは言う。
「俺は……」
●ラクトの村
「せーの、行きますよ!」
彩華が修理したソリが、斜面を気持ちよいくらいに滑っていった。まるで誘導灯のように狐火が道なりに燃えている。
下まで滑り降りたら、交代でひっぱってもいけそうだ。
「見たことのない花だ」
目の悪い老人が、自分を背負ったフリックを見て言う。
純白の花々。追福のカルム・ガルデニア。フリックはゆっくりとうなずいた。
「お前さんが来なければ見ることのなかった花だよ、死ぬまで」
「マタ 見ル 可能」
「……荒らされるのは悔しいですが、欲張って避難が遅れたら元も子もないので」
「ああ、村を捨てるばかりは気がかりじゃが」
彩華の言葉に、避難民はしっかりとうなずいた。
「いいえ、運が良ければ村は無傷です」
「なんだって?」
「ほら、ピッタリですよ」
マルクの鳥が、合図をした。
「よし、いまだ!」
一斉に狼たちが吠え掛かる。
(敵の敵は味方というわけだ。ならず者どもも戦利品の略奪はしたいだろうから、蛮族たちとも衝突する。なに、お行儀の悪い素人風情に負けるほど軟弱な部族ではないだろう)
リウィルディアは、読みが当たっていることを確かめる。
アイデの一族の本体と、ならず者たちが合流する。ならず者のほうは功を焦り、まばらな一隊。数は多いとはいえ、負けるアイデではなかった。
仕組んだように、均衡を保っている。
「ふうん、村に資源は残ってない……積まれたか。それじゃ、漁夫の利ってわけにもいかないな」
「誰が守ってそうだ?」
「あのレガシーゼロ……」
声を潜めていたはずなのに、フリックはこっちを向く。
「じゃあ、こっちの援軍と戦うしかないってわけだな。……仕方ない」
「くそっ、役立たずが! 仲間じゃねぇのか!?」
「私には同型機しかいませんので、そういった感情はいまいちわかりません。
が、守るべきを守らない兵士は、別に間引いてしまっても問題ないという意見には賛同致します」
ウルリカは冷たくいい放ち、ならず者に向き直った。
「戦わない人は間引きますね?」
「略奪、許さない。ここ、人住んでる」
シャノの放った矢が、ならず者の部隊を押しとどめる。
「ノーザンキングス、倒したら、好きにしていい。その後、何しても、止めない」
「二言はないよなあ!?」
二の句が告げなくなったのは、ならず者のほうだ。アイデの一族の放った矢が突き刺さる。
「フリック 守ル」
フリックの暖かなる風光は、大地の雪を解かしていった。
「倒れないぞ、こいつ……!」
(この音色と香りはきっとラグナルにも届いてる
そうよ、アタシ達が来たから――安心してね)
「ジル……」
ジルは遠い。けれども知らないにおいは、新しいにおいは、いつのまにか懐かしいものになっていた。
ルナと何か話しているのだろうか、狼たちが何か聞いている。
(いいなあ、お前たちは)
(アンタが捨てなきゃならないものはアタシ達が全部拾ってあげる
誰にもアンタを否定させるもんですか)
だから。
こうして、奇跡は起こるのだ。
一瞬タイミングを誤ればあたりはすでに火の海だっただろう。住民たちは無事に脱出できたようだった。
浮遊光源ユニットー妖精ーが雪の精のようにたゆたっている。ウルリカが撃ちだした弾丸は距離が足りず空で止まる。かにみえて、AAS・エアハンマーが撃鉄を押し出し、そして直線ではないあらぬ方向に飛んでいく。
ただ、淡々と淡々と、ウルリカは倒すべき敵を見極めて刈り取っていく。
(ちょっと余裕が出てきたな。……悪いけど、ここで漁夫の利……って危ねぇ!)
「退く者には死を」
ウルリカの作り出した暴風があたりを薙いだ。そうだ。そうでなくてはならない。イレギュラーズたちは強い。だから村は襲えない。略奪はできなかった。そう……望めるのなら。
「所詮は犯罪者、情けないですね」
ウルリカはならず者を切り払っていた。
助けてほしい。仲間とやりあいたくはない。けれども隙があればそうせざるをえない。だが、そこにイレギュラーズがいれば。
オオカミが返礼のようにウルリカを狙う一体の首筋にかみついた。
「アタシ達の可能性を甘く見ないで頂戴な!」
先ほど、「それとも」、と、ルナは言った。
「お前が士族の鼻先を変えるか」と。
今、戻るという道がある、と。
(なにもかも、助けられちまったな……)
「フリック 戦闘続行可能」
イレギュラーズは健在である。そう示せば。そうある限りは……。
「はっ」
彩華の散らした火花が、雪を振り払う。火輪平三郎は、輝かんばかりの勝利の一撃を掲げてつらぬいた。
風に乗って漂う香り。香りだから、ひいきなんてわからない、まるでアイデに味方したように見えたとしても、それは精霊のきまぐれにすぎない。
「挨拶は難しいかな、君たちにはね」
リウィルディアの動きは洗練された動きだ。けれどもそれは型通りの、ということを意味しない。正確な一撃があたりを血に染めた。
(堂々と協力することはできなくても、せめて少しでもラグナル達の助けになるように)
ジルは祈りを込める。
●風の手助け
(っと、まずい)
ラグナルは踏み込みすぎた。ならず者の間合いに入ってしまった。ジルが近い。ジルならこの隙を逃さないことは「できる」だろう。
今の共闘状態は、奇跡がかみ合った上でのものだ。
戦場で死んだら名誉だ。それはいい。悔しいが納得はする。そういうことにしている。
だが、ジルはくるりとラグナルに背を向ける。無防備に。どこまでも疾く、どこまでも自由に。間に合わないはずの距離を――。
ラグナルを狙っているものがいるからだ。
まずは香りがある。だからオオカミは気が付く。人は、いつも一歩遅い。
「お生憎様、アタシはアンタ達を味方とはみなさないわ。どっちが蛮族か、鏡を見てご覧なさい!」
ハウリングシャドウがならず者に嚙みついた。狼たちが一瞬、その畏怖を向ける。その名は、《リドル》。ジルは身の内に何を飼っているのだろう。
「背を向けていいのか?」
「……言ったでしょ、アンタ自身を信じなさいって」
ジルは微笑んだ。背を預けあう形になる。ほんの一瞬。
「ノルダインだとかノーザンキングスだとか
そんなの関係ない
アタシにとって、ラグナルもベルカ達もアイデの皆ももう大切な友達なんだから
命を懸けて守るに決まってるじゃない!」
一瞬だけの共闘だった。状況がそろったがゆえにできることだった。誰の采配なのか、見回してみるがわからない。明らかな群れのリーダーはいないように見える。
……マルク・シリングが放つ魔術が、ならず者の足をからめとる。
「てめぇら、裏切りやがったな」
「あなた方が援軍として歓迎されると思っていましたか? 能天気すぎやしませんかね」
「従うだけが人ではありません。戦わない勇気を持つのが人です」
彩華とウルリカが背を合わせた。火炎放射器を向けようとして、逆に、狐火にまかれたならず者が燃えあがる。ウルリカの片刃機械剣が、彩華の刀と交錯するように一撃を交わした。
「力添えが必要なら。我々はいつでも」
ラクトの村の人々に向けられた言葉は、本当は誰へのものだろう?
●今日はここまでにしておいてやるよ
ならず者の部隊は、無残に、散り散りになっていく。村人は、何度もリウィルディアに礼を言った。
「これ、あげる」
避難していた子供が、小さい種をフリックに渡した。
「ちゃんとなおってね!」
群れの下っ端のオオカミ。
ウルリカに一瞬だけ飛びついたオオカミは、一舐めしてそそくさと去っていった……かに見えた。
おっと、いけない。うっかり薬草を落としたりもしたが、全部偶然だろう。
「だめだ、あれは勝てないな」
「ああ」
アイデの一隊は、戦場から離脱して村を眺めていた。何度目だろうか、フリックが立ち上がり、入り口と……それから、小さな花壇を守っている。
「フリック 戦闘続行 可 被害 双方に甚大 予測」
「自部族、闇討ち、得意。任せて」
シャノの一撃でならず者は滑り落ちていく。シャノの弓からは音がしない。矢が刺さっていなければ、事故で滑落したのかとも思うだろう。アイデの一族は思わず顔を見合わせた。
「……俺の部族にできるやついるか、あれ」
「無理だろあれは」
「悪いことする、後で返ってくる。因果応報。観念」
「ラクトは無理そうだな……」
「……あっちに逃げていくちょうどいい獲物がいるじゃないか。俺たちはそっちを追うべきだ。そうじゃないか?」
「それこそ合理的な判断ってものじゃないですか」
「よし、ターゲット変更。あの山賊どもを追い撃ちしつつ撤退だ!」
「……そんなだから蛮族って言われるんじゃねぇか?」
「結局、俺たちは誇り高き戦士よ。じゃあな。まあ、連中は全員やっておく……って、そんな必要もないのかもしれねぇけど」
また逃げたならず者の一人が、シャノに撃たれている。
「いのちだいじに、だな! お互いに……」
誰も言わない。何も言わない。
けれども、ありがとう、と、聞こえた気がした。
もしも。
さきほど、ルナと交わした会話が本当になったならよかったのに、とラグナルは思うのだ。
「おまえがもし、親父と争い道を違える選択をするなら。
あるいはアイデ全員でその選択を選べなくても、それこそ女子供だけでも連れて逃げる道を選ぶなら。
ラサでも、深緑でも、幻想でも。このヴィーザルでもいい。
俺がおまえ達の生きる場所を作ってやる」
ルナの夢は、本当に乗ってみたいような夢だった。
(いやになるくらいあったかいところがいいなあ)
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
ラグナル一派は首尾よく撤退することができたようです。
お疲れさまでした! 暖かい飲み物でも。
GMコメント
布川です!
●目標
・ラクトの村を、イレギュラーズが占拠・保護する
●場所
ラクトの村
ヴィーザル辺境の、小さな集落です。
急な斜面にある村です。
住民20名ほど。
たしかに、女子供と老人、けが人くらいしかいないのですが、それでもたくましいノルダインです。人々は背負い合い、手をつないで逃れる気はあるようです。
●状況
『ノーザンキングス』『鉄帝のならず者』『ヴィーザルの村+イレギュラーズ(ローゼンイスタフ)』
の三つ巴です。
ローゼンイスタフは辺境のノーザンキングスの勢いを強めたくはなく、また、小村の部族を手荒に扱わないというアピールをしたい狙いがあるようです。
ラグナルは立場的にラクトの村と敵対せざるを得ません。手助けをすることもできません。
うかうかしていると、鉄帝のならず者がやってきて蹂躙されてしまいます。
●勢力
・アイデの一族の戦士(ノーザンキングス)
ラグナルを筆頭に人が15名、狼の数は不明です。ラグナル父率いる主力部隊ではありませんが、狼使いです。
・望まぬ援軍――鉄帝のならずもの部隊(暴走する無頼者)
「蛮族なら、いくらでも的にしてもいいんだってなあ!」
鉄帝のならずもの部隊です。勅令で解放された犯罪者です。
悲しいことに今回は味方という体になってはいます。
(まあなにかするにしても、バレなきゃいいのかもしれないですね……)
指揮命令系統もしっかりしていない有象無象なのですが、今回は50名ほどを率いており、正面から戦うとちょっと厳しい感じです。
加勢という名の妨害に近いものなのですが、本隊が先に合流すると略奪が起こってしまいます。
こっちは、作戦やなにやらで遅らせることも可能でしょう。
●その他
ラグナル・アイデ(p3n000212)
ヴィーザル地方ノルダイン、アイデの一族の狼使いです。
族長の息子。主な狼はベルカとストレルカ。
手を抜く気はない(抜けない)のですが、なるべく持久戦を狙っています。
ラグナルを強襲することも可能です。
その場合、結果的にノーザンキングス勢力を削れる……かもしれません。
ほかにやってみたいことがあれば、試みてみてください。
ただ、話し合いと説得はちょっと難しそうです。お目付け役もいます。
●特殊ドロップ『闘争信望』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『闘争信望』がドロップします。
闘争信望は特定の勢力ギルドに所属していると使用でき、該当勢力の『勢力傾向』に影響を与える事が出来ます。
https://rev1.reversion.jp/page/tetteidouran
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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