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シナリオ詳細

<総軍鏖殺>死してなお繋ぐもの

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ジアストレントとオートンリブス
 レイモンド偵察隊、通称『朱のランタン』は鉄帝都市部で編成された優秀な部隊であり、野営を初めとしたフィールドワークは勿論索敵能力や隠密能力、そして記録や通信に長けたメンバーを無駄なく配分させた複数個のチームからなる部隊だ。
 そんなレイモンド偵察隊のうち彼らは第三班にあたる。先行した第一第二班との連絡が、この『ジャガラハの森』で途絶えたためだ。
 音の出ない革の兜の下で、部隊のリーダーであるケシミズ少尉が呟く。
「霧が濃いな。それに、みょうにツンとした匂いもする」
 彼は勘が鋭く五感も鋭いことからこの班のリーダーをつとめている男だ。
 酔うと必ず娘と妻の自慢をし始めるので最近部下が一緒に飲んでくれないという悩みをもっている。
「警戒すべきでしょうか。少尉」
 後ろから声をかけてきたのはパッコ軍曹。精霊や植物と疎通する能力を持っている。
 軍への入隊前にえん罪で五度捕まった過去があり、それが低位精霊や花に対して口頭で会話していたためという奇人ぶりだ。
 ケシミズ少尉が首を縦に振る。
「ワシの鼻が効かん。音も籠もって聞こえるし、視界も通りづらい。だが……敵は近いぞ。ワシの勘だが」
「少尉の勘は当たりますからねえ」
「それより、植物や精霊の様子はどうだ」
 尋ねられ、パッコ軍曹は身をかがめる。足元にあるタンポポの花にこそこそと話しかけているのだ。動物とならともかく、植物が口頭会話レベルの知性を持っていることなどほぼないので、これは彼のルーティーンだろう。
「うん、うん、そっか……ありがとね……。少尉、この辺りで巨大な何かが移動していた形跡があります。それに、この霧は一時的なものです。花がみずみずしく、光を多く浴びた育ち方をしてる。この状態が一日でも続いていたならこうはなりません。それに、精霊たちは低位のものしかいませんが、このあたりの精霊の混ざり具合は霧の発生条件にあまり合致しません」
「魔法による霧ということか。探知阻害と見てよいかな?」
「おそらくは……」
 ハッ、とパッコ軍曹が振り返る。
 そしてようやく気付いた。
 後ろをついてきていた筈の隊員が、既にもう一人だっていないのだ。
「少尉! 仲間がいません!」
「幻影の可能性は!」
「ありません、消えました!」
 咄嗟に二人で背をあわせ、剣を抜く。
 が、それで終わりだった。
 目の前の巨木が『身をかがめ』て、ケシミズ少尉に太い枝を振りかざしていた。
「な――!」
 それだけではない。パッコ軍曹めがけ、巨大なカブトムシ型の怪物がまっすぐに突っ込んでくるではないが。
 だがそのことで、分かった。
(ジアストレントにオートンリブス! それに、この探知阻害の霧を出す何かの魔物がいる! この情報を届けなくては! 我等が信じた真なる国家のために――!)
 歯を食いしばった二人は、死を悟りながらも、強く祈った。
 どうかこの情報が、後に続く者の糧となりますようにと。

●死してなお繋ぐもの
「彼らは、立派な兵士でした。我々のために、重要な情報を持ち帰ってくれた。
 いいえ……届けてくれた、というべきでしょう」
 僧兵、ミアナブ軍曹は手を祈りの形にして目を閉じている。
 ここは鉄帝首都から東にある補給所。『ジャガラハの森』をこっそりと通り抜けることで非常に危険なエリアを迂回し拠点へ物資を補給することができる利点をもっている。
 が、最近『ジャガラハの森』に入った運送部隊が帰ってこないという事件が多発していた。
 調査に向かった偵察部隊『朱のランタン』は全滅。しかし、霊魂となってまでギリギリ補給所までたどり着いたケシミズ少尉とギリギリのタイミングで使役したリスにメッセージを走り書きしたメモを持たせて走らせていたパッコ軍曹の機転によって、情報は補給所へと伝わるに至ったのだった。
 ひどく断片的ながら、伝えるべき情報を伝えきった少尉の霊が溶けるように消えていく。
 ミアナブ軍曹は敬礼をすると、あなた……つまりローレット・イレギュラーズへと振り返った。
「今ある情報は二つだけ。森の樹木に紛れて潜む『ジアストレント』と、探知阻害効果を持つ魔法の霧を放つ魔物。そしてその中に紛れこちらを狙う『オートンリブス』。これらを倒し、ジャガラハの森の安全を確保して下さい」

GMコメント

●オーダー
 天衝種(アンチ・ヘイヴン)を倒し森の安全を確保します。
 出現するモンスターの特徴は以下の通り。
 個体数は不明ですが、被害規模からみてそれぞれ複数体はいると見られています。

・ジアストレント
 巨大な樹に変じた魔物です。普段は一切動かず、獲物が来るのを待ち構えています。
 地上から栄養を吸い上げているのか、再生や充填の能力に優れています。
・オートンリブス
 人よりも遥かに巨大なサイズを持つ、大型のカブトムシ型の個体です。
 動きは遅いですが圧倒的な防御力と耐久力を宿しています。そして自らの重さを最大限利用した攻撃を成してくる事でしょう。
・『霧の魔物』
 森の中に探知阻害効果を持った魔法の霧を発生させる正体不明の魔物がいます。
 超人的な五感すら鈍らせ、エネミーサーチなどの探知能力もここでは降下が低いでしょう。
 ですが逆に言えば、この魔物を見つけ出し倒す事が出来れば森の中での探知が楽になるとも言えます。

 『霧の魔物』を先に倒してジアストレントの奇襲を感知、対策するか。
 あるいは奇襲上等で守りを固めまくって突き進むか。
 集まったメンバーの個性や性格次第で戦術が変わってくるでしょう。

  • <総軍鏖殺>死してなお繋ぐもの完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年10月12日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)
キミと、手を繋ぐ
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
プラック・クラケーン(p3p006804)
昔日の青年
冬越 弾正(p3p007105)
終音
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
ガイアドニス(p3p010327)
小さな命に大きな愛

リプレイ


「朱のランタンの魂に――」
 『空の守護者』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)は森にさしかかる小道に立つと、正式な敬礼を行った。
 ワンマンアーミーになりがちな鉄帝の国民性のなかで、鉄帝軍が鉄帝軍たりえているのはこうして情報を繋ぐ者たちがいるからだ。
 もしなんの情報も無く自分達がこの森に突入していたらと考えると、先人達の情報のありがたみがわかる。
「情報を持ち帰ってくれたヒトたちと、それまで調査してたヒトたちのためにもオイラ達ががんばらないとね!」
 そしてだからこそ無駄にしてはいけないと、『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)はぱたぱたと翼を動かして見せた。
 全く同意だ。ハイデマリーはアクセルのそんな言葉に頷いて、森へと歩を進める。
 森は背の低い木が多く、太陽の光が地面に比較的届きやすい環境であるようだ。
 木漏れ日を多少なりとも感じることが出来る。
 これが、木の背が高いエリアとなると地面が真っ暗になりがちで、飛行による戦闘が不利になりやすかったりするのだが。今回は状況がよかったらしい。
 ……というのも。
「霧の魔物が状況を悪化させているというのなら、それを先に叩くべきですね。はるか上空から様子を確認すれば、霧の中心部を図りやすいはず。そこへ突入すれば、オートンリブスやジアストレントに邪魔されることなく霧の魔物を攻めることが出来るというわけですね」
 『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)が連れてきたワイバーンへと跨がり、早速上昇を始めた。
 ハイデマリーやアクセルも飛行を開始している。
 『超合金おねーさん』ガイアドニス(p3p010327)も呼び出したワイバーンに跨がると、他の仲間達と共に空へと上昇し始めた。
 はるか上空から見下ろした森は、その内側だけがうっすらと白く濁っているように見えた。
 森の外からでは分かりづらい形で霧が部分的に展開し、その範囲はかなり広いように見える。
「まかせて! おねーさん目がとてもいいでっすので! 木々が邪魔で見えないとかでもめげないわ!」
 ガイアドニスはそう言うと、片手で輪っかをつくって片目に翳した。これを前後させることで距離感を図るという、わりとアナログな技だ。
「やっぱり、中心はあのあたりね」
 ガイアドニスが指さしたさき。それは、オリーブのワイバーンに相乗りしてきた『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)からみても『なんとなく中心はあそこかな』と思える程度の場所にあった。
「けど、本当に中心にいるのかな?」
 魔物から霧が出ていると仮定すれば、霧の中心はすなわち魔物の居る場所だということになる。
 それには全く異論はないのだが、決め打ちで全員が突入するリスクを、どうやらイグナートは本能的に感じているらしい。
「おそらくは」
 ガイアドニスのワイバーンに相乗りしていた『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)が小さくぽつりと呟いた。
 この上空から視認して突入するという作戦は、『霧の魔物』の存在を知っているからこそできることだ。知らなければ、あらゆる探知能力を駆使しつつも空振りするというなかなか地獄めいた状況に直面していたことだろう。
 ケシミズ少尉とパッコ軍曹の届けてくれた情報のおかげで、この作戦は格段にスムーズになったのである。
「命を賭しての偵察任務……そして、其れによって齎された情報。決して無駄に出来ませんね」
「だな。命を失くそうと後に託すとか……。
 かかっ、最高にカッコいいじゃねぇか。助けられなくて悪いな…あの世で茶でも飲んで、後は任せな」
 『救海の灯火』プラック・クラケーン(p3p006804)は腕組みをしながら森を見下ろしている。紅蓮の海賊コートがばたばたと風にあおられているが、これはむしろ風をとらえて浮遊するためのものだ。『マントがついているんだから飛べる』の原理にちょっと近い。
 一方で、『残秋』冬越 弾正(p3p007105)はまるで無風であるかのように空中にぴたりと制止していた。
 イーゼラー教のコードにそって作られた黒衣を纏い、ヘッドホンも外した今日の彼はどこか牧師めいて見える。
「むぅ。色々な音が遠のいているように感じる。音の精霊種である俺としては、少し寂しいな。早く霧の魔物とやらには退散して貰わなければ」
 弾正は『無響和音』の能力を発動。小さな光の楔を仲間達の片耳に差し込むような形で配ると、コホンと咳払いをした。
「どうだ、聞こえるか?」
「確かに。風の強い上空でもよく聞こえます。まるでワイヤレスイヤホンですね」
 今の状況でこれはとてつもなく便利だ。離れすぎるともしかしたら声が届かないかもしれないが、そうする予定も今のところない。
「音の遮断に対して有効な能力なのか? これ?」
「いや、聞こえる相手を限定する能力だ。今回は相手との相性がよかっただけだろうな」
 などと言いながら、彼らはゆっくりと霧の中心へと降下していく。
 この作戦で危険なのは降下中の無防備状態だが、どうやら途中で狙われる心配はなかったらしい。
「地面についた、皆はどうだ」
 弾正が着地すると、あたりの霧はすさまじい濃さだった。手を伸ばすと指先がかすかに見えなくなる程度の、もはや煙幕の域である。
「ハイデマリー到着。視力を強化すると多少先まで見えるようでありますね」
「アクセル到着だよ」
「イグナート到着。まだ攻撃されてないね」
「オリーブ到着」
「プラック到着。なんか嫌な感じがしてきたぜ」
「アッシュ到着。一旦固まりましょう。各個撃破は困ります」
「ガイアドニス到着。賛成ね。手をつないであげましょうか?」
 八人は比較的目が見えるガイアドニスの案内で密集し、全方位に向けて警戒する。
 どこから来る?
 そう警戒する彼女たちの耳に

 ボォーン――

 という異様に陰気な鐘の音が聞こえた。
 森の中に鐘? そう思った途端、巨大なヤブ蚊めいた怪物が眼前に出現した。


 なまじ目が良いと、見たくないものまで見える。
 具体的に何が見えたのかについては、あえて述べないことにするが――。
「う――わあ!?」
 ガイアドニスはのけぞりつつ後方に飛び退き、どすんとしりもちをついた
 手元にまだ持っていたパラソルを開き、追撃を防御。したかと思った途端、すぐそばのオリーブが剣を逆さに握って巨大なヤブ蚊をぶったたいた。剣というものは実は持ち手側に重心があつまるため、こうして握るとハンマーのように打撃力が増すのだ。
 払いのけたヤブ蚊がブゥンと音をたて離れていく。
「あれが……『霧の魔物』?」
「想像してたのとダイブ違うきがするね?」
 オリーブとイグナートが別々の方向を警戒する。が、そうしておいて本当によかった。
 先ほどの巨大なヤブ蚊――かつてフロリダ州を襲った生物学的怪現象から『ノートリアス』と仮称しよう――が全方位から一斉に襲いかかってきたのである。
「うおっ!?」
 大抵はマイペースにやれるイグナートですらぎょっとするその光景。イグナートはこの瞬間、彼らの意識を自分に集中させるべきかどうか判断に困った。
 イグナートほどの場数を踏むと『名乗り口上をしてはいけない場面』に遭遇することがある。相手が密集するとマズイ状況だったり、そもそも相手の抵抗力が高くて空振り(ターン損)になりかねないケースだったり色々だ。
 一瞬の熟考の饐え、イグナートは広く気を発してノートリアスたちを自分に密集させた。
 全身に鉄の串で刺されたような痛みと熱がはしり、イグナートの膝ががくりと地面につく。
 BSに対する高い抵抗力をもつイグナートをここまでさせるのはいかなる能力か。判別はまだ難しいが、対抗策はもっている。
 イグナートは拳に力を込めると目の前のノートリアスを二連続で殴り飛ばす。それによって体内を気で浄化し、再び立ち上がった。
「走れ、一回ブッ散らす!」
 プラックはイグナートに呼びかけると魔術をくみ上げた。握りしめたガントレットの甲部分に紋章が浮かび、それまでイグナートが立ってた場所から激しい水流が吹き上がった。
 密集していたノートリアスたちが四方八方へ散っていく。
「一匹ずつ確実に潰せ! 霧の中に逃げたら判別できねえぞ!」
「わかった。手を貸してくれ――」
 弾正は仲間に呼びかけると剣を抜いた。
 刀身からフォンという大きく柔らかい音がしたかと思うと、音波を纏った斬撃によって空中をジグザグに飛んで後退しようとするノートリアスを一撃で墜落させた。
 アッシュが弓を構え、アクセルが指揮棒を振りかざす。
「一緒に行くよ!」
「承知しました」
 アクセルが指揮棒を華麗に振り回すと、空中に生まれた五線譜がノートリアスへと巻き付きその動きを封じ始める。
 アッシュは銀の矢を弓から放ち、見事にノートリアスのボディを貫いた。
 ギッという鳴き声ともとれない音を発して動かなくなるノートリアス。いや、よくみればぴくぴくと動いているのだが……戦闘が続行できるありさまではない。
 アッシュは素早く反転すると後方へ回り込んできた別のノートリアスめがけて矢を放った。
 矢が放たれたことを空気の動きで察したのか、ノートリアスは素早く横方向にスッと回避行動をとっ――た途端矢の軌道が曲がりノートリアスのボディを貫通。
 驚いたようによろめくノートリアスに、今度は振り向きざまに指揮棒を振り抜いたアクセルが五線譜を飛ばしてノートリアスをからめとった。
「ハイデマリー、おねーさんごと撃てるかしら?」
 一方でガイアドニスはパラソルを畳んでずんと前に踏み出していた。
「狙いがあるのですね?」
「おねーさんを信じて」
 ぱちんとウィンクするガイアドニアス。ハイデマリーは黙ってライフルを構えると、拡散能力を持つ特殊弾頭をセットした。
 周囲のノートリアスがガイアドニアスめがけて密集。した所で、ハイデマリーは弾を発砲。
 弾頭の回転によって描かれた魔方陣が無数の釘(フレシェット)を生み出し広域に拡散。
 対して、ガイアドニアスは身をかがめながらパラソルをゆるく広げて回転。ハイデマリーの弾をはねのけてしまった。これによって被害をうけたのは密集したノートリアスたちだけだ。
 びくりと身体をふるわせなんとか起き上がろうとするノートリアスに、オリーブがボウガンを撃ち込んでトドメをさす。
「どうやら……なんとかなったようですね」
 オリーブの言葉通りというべきか、周囲の霧が徐々に晴れていく。
「ったく、『霧の魔物』がまさか巨大なヤブ蚊の群れとはな」
「これにて一件落着……あ」
 おはなしを締めようとスタイリッシュなポーズをとろう……としたプラックの目の前。
 霧の晴れたその場所に、巨大なカブトムシ……オートンリブスが出現していた。
 更には擬態をやめて集まってきたであろうジアストレントまで。
「やっべ、こいつらのこと忘れたぜ」
 ハッと笑うプラック。
 突進をしかけてくるオートンリブス。
 プラックは翳したグローブで突進を受け止めた。

●ジアストレントとオートンリブス
 霧の魔物が合流する前に単独(?)で倒せた時点で、この作戦の成功は成ったようなものである。
 ゆえに、ここからはただただ美味しいところだけをご覧頂くことにしよう。
「いくわよー、せーのっ!」
 ガイアドニスは足をグッともちあげると、片足で思い切りオートンリブスを正面から蹴りつけた。
 にっこりしたお姉さんによる『前蹴り』というなかなか見れない絵ヅラだが、それだけではない。そもそもの高身長もあいまってちょっと小柄な人なら顔面を打ち抜ける位置で蹴りが入っていた。
 それもタイミングよくオートンリブスの突進を受け止めたことで、オリーブと弾正が両サイドからオートンリブスのボディをぶっ叩き始める。
 オリーブは先ほども使ったハンマー持ちで、弾正は剣に纏わせた音波を直接流し込むことで内部をボロボロに破壊する戦法でオートンリブスを攻略していく。
 一方で最初のオートンリブスを受け止めていたプラックはイグナートに目で合図を送ると、握った拳でアッパーカットを仕掛けた。
 巨大なカブトムシにアッパーカットが意味をなすのかといえば、ものすごく成す。具体的には、カブトムシ同士の喧嘩が基本アッパーで決着する程度には意味があるのだ。
 咄嗟に地面をつかもうと足を踏ん張るが、さっきまで霧でしめった土はもはや足場でもなんでもない。派手にひっくり返されたオートンリブスめがけ、機を駆け上っていたイグナートが流星のごとき急降下パンチを叩き込む。
 こういう生物が大抵『腹が弱い』というのはお決まりらしく、比較的やわらかい装甲を突破し派手になにかをぶちまけた。
「で、残りはジアストレントでありますが……」
 ハイデマリーは、どこか切ない気持ちになった。じっとしていて木に擬態することで奇襲するジアストレントがのっしのっし向こうから歩いてきちゃった時点で、その利点は完全に失われている。こうなるともう再生能力の高いモンスターにすぎない。
 そしてそういうヤツは……。
「集中ワンターンキル、ですね」
 弓を構えるアッシュ。指揮棒をスッと掲げるアクセル。
「ごめんね?」
 アクセルは指揮棒を情熱的に振り回し、宙を踊る五線譜がまるで竜のようにジアストレントを滅多打ちにし始め、アッシュの放った矢を中心に灰色の炎が燃え上がっていく。
 ばたばたと暴れるジアストレントがやぶれかぶれの突進を始めたところで、ハイデマリーは目を細めてトリガーを引いた。
 ズドンという激しい発砲音ののち、ジアストレントのまんなかに巨大な穴が開いたのだった。
 諸行無常。
 このありさまには、アクセルたちも敵ながらちょっと可愛そうになるくらいだった。

●ジャガラハの森、開通
「お疲れ様です。皆さん」
 僧兵、ミアナブ軍曹が森の入り口で出迎えた。
「『霧の魔物』を見事倒されたとか。『朱のランタン』の第四偵察部隊が残る危険がないか調査にはいる模様です。皆さんは拠点へ戻って休憩なさってください」
「そうさせてもらうであります」
 ハイデマリーがそう答えると、統一した革鎧装備の兵隊たちが入れ違いに森へと入っていく。
 が、ハイデマリーやアクセルたちに気付いたようで、ぴたりと足を止めてこちらに身体ごと向き直った。
「ん?」
 アクセルがなにごとかと首をかしげそうになった所で、彼らは踵をガッと強く合わせ、背筋を伸ばして一斉に敬礼の姿勢をとったのだった。
 イグナートと弾正がぎょっとした顔をするが、プラックはそんな彼らに敬礼を返し……そして森へと振り返ってから、もう一度敬礼をした。
 そのことの意味を指したのだろう。オリーブたちも、アッシュやガイアドニスも同じように森に向かって敬礼をした。
「死に瀕して尚、道を切り開かんとした高潔な人がいたこと。必ず後世に伝えましょう」
「そうね。新皇帝を妥当した、そのあとに」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

 『ジャガラハの森』の安全が確保され、補給物資の移動が再開されました。

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