PandoraPartyProject

シナリオ詳細

人形達の葬送歌

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ある人形師の死
 幻想にて『ルドル人形店』を営む少年、エリオット・ルドルの下へ、人形師・ベリナの館を訪れてほしい、という客が現れたのは、つい昨日のことだった。
 老齢の人形師、ベリナは、界隈でも名の知られた『凄腕』である。彼女の作品は「ベリナ・コレクション」とも呼ばれ、時に好事家の間にて高値で取引される物もあるという。
 ルドル人形店へと訪れたその客が言うには、ベリナへ仕事の依頼をしに行ったのだが、留守であったという。しかし屋敷の鍵は開いている。何かあったのでは、と思った物の、無断で館に入るのもはばかられ、はてどうしたものか、と考えあぐねていた所、ルドル人形店の存在を思い出し、慌ててやってきたのだ、と。
 ベリナは非常に人間嫌い・かつ偏屈な人物であり、その生涯にて弟子はおろか、家族すら持つことはなかった。ルドル人形店の先代であるエリオットの祖父は、数少ない『知人』の一人でもある。つまり、「ある程度交友のある相手ならば、無断で入ったとしても、ベリナも気分を損ねないだろう」という思惑である。
 エリオット自身はベリナの事を知っていたし、幼い頃には、祖父と共に何度か屋敷に訪れたこともあるのだが、果たして向こうはこちらを覚えているものか、あまり自信はなかった。とは言え、実際に事件が起こっていたとしたら、それはそれで問題である。エリオットは客の要望に応じて、ベリナの館へと向かった。
 結論から言えば、人形師ベリナは、亡くなっていた。
 エリオットは館へと入り、ベリナの自室へと向かった。自室では、ベッドで眠るベリナの姿があったが、その土気色の肌を見て異常を感じ取ったエリオットは、ベリナの脈拍と呼吸を見、それらが止まっていることを確認した。
 知人の死というショックを受けながらも、しかしエリオットがある程度冷静に行動できたのは、ベリナがあまりにも安らかに眠りについていたからだろう。綺麗すぎるがゆえに、ある種欠如した現実感。エリオットがその喪失を実感するのはまた後になるのだが、それは今は置いておこう。
 エリオットは客に事情を説明し、教会へと連絡をつけてもらった。ほどなくして神父と医師が現れて、ベリナの死亡を確認した。細かい検死は後からになるが、外傷などもなく、老衰、つまり天寿を全うしたのだろう、という事だった。
 さて、遺体が出た、となっては、このままにしておくことはできない。本来なら、その対応は家族に任せる所だが、ベリナには身内がいない。やむなく、葬儀を行うまでは教会で遺体を管理しよう、という事になった。ほどなくして数名の修道士が現れ、ベリナの遺体を棺桶に収納しようと、その身体に触れた瞬間、
「触らないで!」
 という、少女のような声が響いた。
「お母さんを連れて行かないで!」
 また、別の少女の声が聞こえた。
 きりきりと、紐が絞られるような音が聞こえた。その場にいた大半の人間は、何の音かと首をかしげたが、エリオットだけは、それが人形の関節などに取り付けられている、ポーズを固定するための紐が出す音である、と瞬時に気付いた。
 途端、部屋に置いてあった二体の人形が、突如動き出したのである。
 その人形は、160cmほどのサイズの、少女を模した人形であった。一見すれば、人形のフリをしていた少女が、悪ふざけをしているようにも見えただろう。それほどに精巧に作られた人形である。
 少女人形が動くたびに、きりきりと、紐が絞られるような音が鳴る。先ほどのエリオットの予想は的中していた。
 これはまずい、と本能的に悟ったエリオットは、
「逃げましょう! 外へ!」
 叫んだ。その声を合図に、部屋の中にいた者たちが、慌てて廊下へと飛び出す。廊下へと逃げ出したエリオットたちを待っていたのは、再びの紐が絞られるような音である。
「出て行って!」
「出ていけ!」
 少女の様な、少年の様な、様々な声が、館中から響いて聞こえた。廊下の影から、等身大の少年少女の人形が、ゆっくりと現れる。手にはナイフのような物や、鈍器のような物。それが脅しの為なのか、或いは明確な殺意を持っての装備なのかはわからないが、いずれにせよ、ここでゆっくりしているわけにはいかないようだった。
 エリオットたちは、慌てて廊下を駆ける。紐が絞られる音=人形たちの稼働音に追いかけられながら、エリオットたちは這う這うの体で、屋敷から飛び出した。
 街路へと飛び出したエリオットたちを、人形たちは追ってはこなかった。ただ彼らを拒絶するかのように、屋敷の扉が大きな音をたててしまった。

●人形たちの宴
「お願いしたいのは、ベリナさんのご遺体の奪還です」
 エリオット・ルドルは、ローレットのテーブルにて、集まったイレギュラーズ達に向けてそう言った。
 ベリナの屋敷から逃げ出したエリオットたちは、その後数度にわたり屋敷への侵入を試みたのだが、そのたびに人形たちに襲撃され、撤退を繰り返したのだという。
 ほとほと困り果てたエリオットは、自分の知人も世話になっているローレットへの依頼を思いつき、こうしてやってきたのだ。
 エリオットの話によれば、妨害しているのは、男女の姿を模した等身大の球体関節人形達であるという。
「数は、15体です。何度か確認しましたし、人形たちの筋肉ともいえる関節固定用の紐、あのマーレン鯨のヒゲが軋む、歌うような独特な音……聞き違えるはずがありません。アレは、15体分の音でした。あ、マーレン鯨のヒゲは、いわゆるゴムの様な特性を持っているのですが、それを使っているのがベリナの人形の特徴の一つでもあるんです。扱いと加工が非常に難しいのですが、上手く扱えばゴムよりも繊細な動きが表現できて……さっきも言いましたけど、特徴的なのは、その音です。まるで人形が歌っている、と評される華麗な音は、まさにマーレン鯨のヒゲならでは! それに、マーレン鯨のヒゲでできた紐の奏でる音は、一つとして同じものはない、と言われていて、今回の人形も確かに15体分の異なる歌が聞こえたんです! 僕も使ってみたいのですが、最近はマーレン鯨その物が減少傾向にあるせいで捕鯨の反対運動が激しく、中々手に入らない上に、かなり高価で手が出せないんですよね……」
 どこか熱っぽく語るエリオット。はっ、と何かに気付いた様子で頬を赤らめると。
「ああ、あのその、ええと。い、今のは忘れてください」
 と、うつむきつつ、咳ばらいを一つ。
「兎に角、このままではベリナさんのお葬式をあげることもできません。人形たちの気持ちもわかりますし、その身を傷つけることは非常に不本意なのですが……」
 しゅんとしつつ、エリオット。人形師であるエリオットだ、人形たちが、親であるベリナを守ろうとする気持ちを理解していることはもちろん、芸術的ともいえる出来の人形を傷つけざるを得ない事に心を痛めているのだろう。
 だが、このまま放っておくわけにもいかないのも事実だ。
「それでは、その。皆さん、どうかお願いします」
 そう言って、エリオットは頭を下げたのである。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 こちらは【儚き花の】 はぐるま姫 (p3p000123)さんのご関係者様からの依頼になります。

●依頼成功条件
 人形師ベリナの館に潜む人形全てを無力化し、ベリナの遺体を搬送可能な状態にする。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●状況
 人形師ベリナの館へと向かい、遺体の搬送を妨害する人形全てを無力化してください。
 その精緻な造形故魂が宿ったのか、或いは低級霊のような物が宿ったのか定かではありませんが、何らかの理由で人形たちが動き出しており、ベリナの遺体の搬送を妨害してきます。
 人形たちは基本的には知能は低く、常識や価値観なども人間とは異なっているため、話し合いなどはできないものと考えてください。よっぽどクリティカルな手段があれば、或いは話し合いでの解決が可能かもしれませんが、とても難しいと思います。
 作戦の決行時刻は昼。人形たちは屋敷から出てきませんので、屋敷内での戦闘になる事と思います。屋敷内部は充分広く、明るく、一般的な戦闘や行動などには一切支障がない物とします。
 人形一体一体の戦闘能力はさほど高くはありませんが、数が多いため脅威となりえます。十分注意してください。

●エネミーデータ
 ベリナの人形 ×15
 
 基本的には、手にしたナイフや棍棒などによる、至近レンジでの物理単体攻撃を行ってきます。
 ナイフによる斬撃では、出血のバッドステータスを、
 棍棒による打撃では、乱れのバッドステータスを、
 それぞれ付与してくる可能性があります。
 また、まれに全身を回転させて、自分を中心とした至近円形範囲内の全ての敵にダメージを及ぼす攻撃をおこなってきます。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加お待ちしております。

  • 人形達の葬送歌完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年09月10日 21時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

はぐるま姫(p3p000123)
儚き花の
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
御堂・D・豪斗(p3p001181)
例のゴッド
六車・焔珠(p3p002320)
祈祷鬼姫
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風
蓮乃 蛍(p3p005430)
鬼を宿す巫女
鞍馬天狗(p3p006226)
第二十四代目天狗棟梁

リプレイ

●第一楽章
 静かに、静かに、幕は上がります。

 ベリナ邸へと進入したイレギュラーズ達を迎えたのは、不気味なほどに静まり返った玄関ホールである。耳を澄ませど、人の息遣いや気配などは、無い。
 そんなイレギュラーズ達の足元へ、小さな影が駆け寄ってきた。それは、小さなネズミだった。『夢色観光旅行』レスト・リゾート(p3p003959)は、足元で立ち上がるネズミを優しく抱き上げると、感謝の言葉を一つ、呟いた。
 途端、ネズミは煙のように消え失せた。レストのギフトにより召喚された小動物である。
「インフォメーションによれば――」
 『不知火』御堂・D・豪斗(p3p001181)が声をあげた。
「ドールズたちは各々のポジション……定位置に収まっている、と。やはりベリナ女史への物理的なコンタクトが起動のキーのようであるな!」
 事前の情報と、レストのギフトにより召喚したネズミからの情報により、邸内の大まかな構成と、人形たちが待機している場所は把握する事は出来た。
 ネズミの侵入、そして自分達の邸内への侵入があってなお、館は静けさを保っている。エリオットたちによる、何度かの侵入からは日が開いているから、人形たちも警戒を解いているのだろうか。
「チャンスではあるわね」
 『桜火旋風』六車・焔珠(p3p002320)が言う。
「人形たちが動き出すタイミングが分かっているのなら、奇襲を受けたり、包囲されたりする可能性は減るわ」
 焔珠の言うとおりだ。事前の襲撃されることが分かっているのなら、対処の取りようはある。すでに動いている人形の群れの中へ突撃するわけではない分、いささか気は楽だ。
「では、参ろうか。くれぐれも油断はめされるな」
 『第二十四代目天狗棟梁』鞍馬天狗(p3p006226)の言葉に一同は頷き、警戒しつつ、歩を進めた。玄関ホールにある大階段を登り、二階へ。
 ベリナの屋敷は確かに大きく、広かったが、ベリナ自身は生活環境に頓着はしないタイプの人間だったのだろうか。些か辺りは汚れていたし、事前に人形たちが暴れていたとしても、あまり片付けが行き届いていない。二階廊下、真正面にある開かれた扉からは、室内に様々な色合いの布が散乱しているのが見えた。作業場兼、倉庫兼、住居、と言った風情である。
 イレギュラーズ達は、ベリナの寝室へと到着した。ゆっくりと扉を開ける。部屋の中にはベッドがあり、そこにはベリナと思わしき老女が眠っていた。
 事前の情報通り、寝顔は安らかである。しかし、その顔色は死者のそれであり、一目で死んでいると分かった。
 イレギュラーズ達の何人かは扉を開け放って廊下の左右を警戒しつつ、残りのメンバーがゆっくりとベリナへと近づく。途端。
 何か、紐を引き絞るような音が聞こえた。澄んだ高い音。近くから・遠くから、いくつもの紐の音が聞こえてきた。
 或いは、イレギュラーズの中には、エリオットのように「異なる15の歌声」として聞き分ける事の出来たものが居たかもしれない。ただ、それ以上にイレギュラーズ達が感じ取ったのは、明確な敵意であろう。静かな館に突如発生した、うるさいほどの存在感。イレギュラーズ達の間に、緊張が走った。
「はなれて!」
 聞こえた。少女の声のようであった。イレギュラーズ達は顔を見合わせ、頷いた。ベリナの人形たちが動く。そう悟ったイレギュラーズ達は、そうと悟られぬよう、己の獲物へと手をかける。
「――人形様方ですね?」
 『鬼を宿す巫女』蓮乃 蛍(p3p005430)がゆっくりと声をあげた。
「蛍達はベリナ様を、貴方達のお母様を送るために来ました」
 その言葉に、きりきりと紐を絞る音が重なる。
 がたり、と部屋の隅で何かが動いた。
 少女――いや、人形である。
 きらびやかな赤いドレスを纏ったそれは、一見、人間の少女とも見間違う赤い唇を震わせた。
「送る?」
 その原理は不明である。元からの機能であるのか、魂を得たがゆえに肉体のごとく変容したのか、或いはそのように見える幻術の類なのか――いずれにせよ、その人形は口を開き、声をあげたのである。
「死したひとのからだは、腐って、崩れて、直すこともできない」
 『儚き花の』はぐるま姫(p3p000123)が、静かに、静かに、言葉を紡いだ。
 それはどこか、自分を抑えるような声であったかもしれない。
「同じ人形だもの。綺麗である事の価値はわかるでしょう?」
 そう言い聞かせるように。誰かに言い聞かせるように。穏やかに。穏やかに――。
「お母様は」
 今度は、少年の声だった。少女人形とは反対側、ベッドを挟むような位置から現れた、黒い燕尾服を着た少年の人形が声をあげた。
「動かないだけ」
「きっと糸が切れたのよ」
 少女人形が相槌を打った。
「おめめが開かないのは」
「きっとガラス玉が曇ってしまったのね」
「そうか、この子たちはきっと――生命と言う物を理解していないんだ……」
 『瞬風駘蕩』風巻・威降(p3p004719)が、呻くように言った。
 どう言った形か、ヒトガタには命が宿った。だが、そのヒトガタはまだ未熟であるがゆえに、自分と言う物を基準に世界の全てをとらえているのだ。
 ベリナがそう望んだのかはわからない。或いは、それを教える前に亡くなったのかもしれない。
 常識が違う、価値観が違う――その通りだ。彼女たちはまだ、世の理を学んではいないのだ。
「……あの子たちが、ベリナさんを直そうとしなかったのは幸いね」
 『蒼海守護』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が呟いた。人形たちの常識によって、動かない人間を直そうとしたらどうなる事か――。
「お母さんを連れて行かないで」
「お母さんから離れて」
 二体の人形が、じりじりとイレギュラーズ達ににじり寄る。
「やれやれ、では戦いながら、ライフの尊さについてのレクチャーをせねばな」
 豪斗が言う。
「部屋の外からも来るよ。囲まれないように気をつけて」
 焔珠が声をあげた。確かに、あちこちの部屋から、様々な人形たちが姿を現していた。
「悪い子じゃないのよね。できれば、加減してあげたいけれど……」
 レストが言う。とは言え、数が数だ。加減して切り抜けられる場面ではないだろう。
「止めましょう。きっとそれが、ベリナ様のご意志のはず……!」
 蛍が言う。少しずつ、少しずつ、紐を絞る音が近づいてくる。
 イレギュラーズ達はついに、己の獲物を抜き放った。人形達もまた、明確な敵意をイレギュラーズへと向ける。
 一触即発。極限の緊張状態の中、先に動いたのは、イレギュラーズか、人形達か。それすらも判然としない中、屋敷での戦いは始まりを告げた。
「――ずるい」
 はぐるま姫の小さなつぶやきは、戦いの喧騒に紛れ、誰の耳にも届かなかった。

●第二楽章
 ここより始まるは、大騒ぎの舞踏会。
 主なき屋敷を舞台に、葬送の舞を踊るのです。

 イレギュラーズ達は、敵の数の有利を、こちらの地の利にて封じる戦法をとった。前線にて盾となる者の負担は大きいが、四方八方から襲い掛かられるよりははるかに良いだろう。レストのギフトによる事前調査や、事前に邸宅内の内部状況を調べていたのも、功を奏したといえる。
「君達のお母さんは此処にはいないよ……別の場所に、向かったんだ……!」
 威降が言いながら、その刃を振るった。人形の皮膚に鋭い切り裂き傷が生じるも、人形はその動きを止めない。
「お母さんは、ここに『いる』!」
「違う……! 此処に『ある』のは、お母さんが置いていった体だけなんだ!」
 人形が激しく回転し、威降を強かに打ち付ける。舌打ちを一つ、威降は人形の攻撃を受け止める。
「これは人の定め……『死』と言う終焉なのです」
 蛍が、その人形へ、式符より生まれ出でた黒鴉を差し向けた。一筋の矢のように走るそれは、人形の腹部を大きく貫いた。
「人……いえ、遍く命はやがて死を迎える。それを……」
「うるさい、うるさい! でていけ!」
 駄々をこねる子供のように――実際子供のような物なのではあるが、人形たちが口々に声をあげる。そのたびにきらめくナイフと鈍器が、時にイレギュラーズの体を傷つけていった。
「これ位、我慢できるわ……でも!」
 傷つきながらも、その傷は少しずつ癒えていく。焔珠は掌に球形のエネルギー塊を生み出し、人形へと叩きつける。接触したエネルギー塊は爆発し、人形を吹き飛ばした。
 焔珠に人形たちが殺到する。振り下ろされる凶器を武器で、或いはその身で受け、しかし焔珠はなおその身を戦場へとゆだねる。
「本当は分かっているんじゃないの!? ベリナさんは――」
「うるさい!」
 人形が叫ぶ。喚く。
「――どうして」
 そんな人形達へ、静かに疑問符を投げつけるのは、ココロだった。術式の炎を放ち、人形の一体を焼いた。人形はその炎に焼かれながら、窓を突き破り、外へと転落。そのまま動かなくなった。
「どうしてあなた達は、ベリナさんを守ろうとするの? ベリナさんを――生みの親を大切にする、その気持ちは一体、なんなの?」
 ココロが首をかしげる。
「お母さんは、お母さんだから」
「僕達を作ってくれた人だから」
 人形たちは武器を振るいつつも、そう答えた。
「生みの親だから……作ってくれたから? でも……」
 ココロの問いは、激しい紐を引き絞る音でかき消された。複数の人形が、なだれ込むようにココロへと攻撃を繰り返す。
「あらあら~、たいへ~ん」
 声をあげ、レストはココロの回復を試みた。ココロの傷が癒えていくのを確認し、
「この位の傷なら治せるわ。でも、命は永遠ではないのよ、いつかは皆にさようならしなくちゃいけない時が来るの。お別れはとても辛いけれど、これは誰にでも必ず訪れる事。おばさんや皆にもね」
 だから、と、レストは言って続けた。
「残された人達は、送ってあげなくちゃいけないの。お母様を心配させずに、安らかに眠れる様に見送ってあげられない?」
 しかし、レストの言葉に、人形たちは答えなかった。或いは、答えられなかったのかもしれない。
「――ずるい」
 と、はぐるま姫が呟いた。戦いながらも、何度か呟いた言葉だった。
 抑えていたはずなのに、たまらず、口を突いて出てしまう。
 言い聞かせていたはずなのに、爆発してしまう。
「ずるい、ずるい、ずるいずるいずるいずるいずるい!」
 呟きは、やがて叫びとなった。
 目の端に涙が浮かぶ。
「創造主に……親に、さよならを言える機会があるのに! どうしてそうしないの!? わたしには、わたしには――そんなもの、与えられなかったのに!」
 一度決壊してしまえば、それをせき止めるものはなかった。叫びと同時に放たれたロベリアの花は、或いは、この時発露した感情を乗せていたのかもしれない。
「わたしはさよならを言おうって思うことすら、できなかったのに! あなた達には、こころもことばも、機会も、全部あるのに! ……あなた達は、ずるい!!」
 人形達への嫉妬もあった。自身の境遇を思い起こさせるが故の悲しみもあった。はぐるま姫自身ですら全ては理解していないだろう、様々な感情がない交ぜとなった言葉。
「命を得たが故の、そして命を理解せぬ故の、二つの悲しみか……」
 鞍馬天狗が呟き人形の一体を撃ち抜いた。
「ドールズたちよ、ライフとは限りあるもの! そしてユー達の心はエンジェル・ベリナより受け継がれしものである!」
 豪斗が大声で叫ぶ。ゴッドなオーラを纏いし叫びは、一際人形たちの注意を引いただろう。
「どうか、ユー達もベリナの為そのソウルを伝え、見送ってはくれぬか!」
「っ……!!」
 声にならぬ声をあげながら、人形達は豪斗へと襲い掛かる。
 幾度となくイレギュラーズ達より投げかけられる言葉を、人形たちも或いは、察していたのかもしれない。
 しかし、うすうすとそれを理解出来はしても、納得する事は出来なかったのだろう。如何様な物かはさておき魂を手に入れた、その結果生じた感情――それが、納得を拒み続けていた。
 そして、その感情に突き動かされるまま、人形たちはイレギュラーズ達への攻撃を繰り返した。
 攻防が続く。やがて人形たちはその数を一つ減らし、二つ減らし……そして。
「もう……もういいだろ……!?」
 威降が言った。
 あたりには、何体もの人形が倒れている。
 残った数体の人形も、その姿はボロボロであり、人形の限界を物語っている。
「おかあさんは……」
 人形が言った。
「死ん、だ」
 その言葉に、イレギュラーズ達は視線を落とした。
「はい……悲しい、事ですが」
 蛍の言葉が、人形に届いたかどうかはわからない。人形たちは呆けたように、辺りを見ていた。
「ねぇ、良かったら、教会の人達に掛け合ってあげるから、そこで働くといいわ。お母さんのお墓の近くに居られるんだから……」
 レストの言葉に、人形たちは頭を振った。
「お母さんは、いない」
「ここに、いない」
 かたかたと、人形たちが体を震わせた。
「……泣いてる、の……?」
 焔珠が呟いた。その姿が、何処か、涙を流しているように見えた者も、居たかもしれない。
「お母さんは、死んだ」
「お母さんは、ここにいない」
「お母さんの所へ行く」
「私達も、行く」
 続く人形たちの言葉に、
「! 待っ……」
 思わず叫び、手を伸ばした豪斗の目の前で、人形たちの身体が力なくくずおれた。
 横たわるその顔からは、先ほどまであった生気と言う物が見受けられない。
 しん、と。
 あたりが静まり返った。
 動く者はいない。
 何の気配もない。
 戦いはあまりにも唐突に、あっけなく、その幕を下ろした。
「……そうまでして、親と一緒に居たかったの……?」
 呆然と、ココロが呟く。
 はぐるま姫はくずおれた人形達へと視線をやりながら、
「――……」
 何かを、呟いた。その言葉を聞いた者は、誰もいない。

●最終楽章
 どうか、全てのものが、安らかに眠りにつけますよう。

「よいしょっ、と。これで全部そろったかしら~?」
 レストはそう言って、人形の破片を床に並べた。
 玄関ホールには、総計15体の人形が揃えられていた。その損傷の度合いは様々ではあるが、流石にどれも、修復には一苦労かかりそうだ。
「エリオットさんも大変ね」
 と、ココロ。
 イレギュラーズ達は、人形達の修繕・修復を、エリオットにお願いするつもりだった。もし修復が不可能であれば、出来ればベリナと同じ墓に葬ってやりたい。
「ベリナさんの子供達……だものね」
 焔珠の言葉に、
「そうですね……」
 蛍は静かに答えた。
「しかし……彼の者たちは何処へ行ったのかな」
 鞍馬天狗が呟いた。消えて行った、母の所へ行くと残し去っていった人形たちの魂は、果たして何処へと行ったのだろうか。
 死んだのだろうか。
 消滅したのだろうか。
 それは分からない。
「……マザーの所へ」
 豪斗が言った。
「そうだね。きっとそうだ」
 威降が言った。
「創造主の所へ行くのね」
 はぐるま姫は、静かに、静かに呟いた。
「やっぱり、ずるい――」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 人形は可能な限り修復され、今は静かに眠っているそうです。

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