シナリオ詳細
<奇病奇譚>涙石病
オープニング
●<奇病奇譚>第一頁
とある名医の手記。その手記は原因不明の病のみが綴られ、社会に広まることはなく、ただその病気の罹患者と医療従事者のみが知るものとなっていた。
此度綴られるのは『涙石病』。
涙が宝石に変わるという、なんともロマンティックなものである――
一頁目。
症状の自覚:一ヶ月前
患者の症状:涙が宝石に変わる
上記より涙宝病と判断。宝石病――突発性加爾叟謨硬化病(idiopathic calcium mineralization failure)とはまた別個のものであろう、と考える。
如何せん原因が不明なため今回も薬を投与し経過を観察し、化学的なアプローチをかけていく他無いと考察する。
ニ頁目。
進行度:重症。完治は不可能と見たほうが良い
重症患者は指先、末端から宝石に変わり、最終的には全身が宝石化し死に至る
治療方法:大切に思うひとが涙を食らう(但し感染リスクを伴う)こと
彼女から話を聴くに、思慕の心が宝石へと変わったものだろうと思われる。これは強い感情が影響するのだろう。
彼女の涙に合わせて宝石図鑑を買ったが、宝石図鑑に載っているようなものもあれば、彼女の瞳の色に似ただけの名前もない石もある。硬度や成分が既存のものとは全く異なるため、新種であるのだろう。
その為、この病気で新しく誕生、発見された宝石は持ち主の判断で、
・新しく発見されたことにし社会へ流通させる
・持ち主と研究者のみで流通させる
かは選べるものとする。
●
「……っていうロマンチックな……でも、そうなっちゃったら不安になれそうな物語の世界を見つけたんだ」
ぺらぺらと頁をめくりながら笑う絢。
特異運命座標を物語へと向かわせる前に自らもまた体験してみたのだという。
「治療方法があるかどうかは人次第だけど。どうなるかも体験してみると良いんじゃないかなあ」
自身の内側に眠る強い心を自覚することが出来るのだ、と。
絢は己から溢れた石で気付かされたのだという。
「それに、おれの中に……自分の中にある心が手にとって見えるようで楽しいでしょ?」
それが恋であれ、嫉妬であれ、悲哀であれ。
美しいもので象られる。それは、混沌では起きることはない奇跡なのだと。そう笑った。
「実際に行ってみるかはともかくとして。気になるなら、ちょっとだけ覗いてみるのもありなんじゃないかな?」
例えば、涙を拭ってくれる誰かと一緒に行ってみるとかね。
絢は尻尾を緩やかに揺らして、笑った。
- <奇病奇譚>涙石病完了
- NM名染
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年09月17日 22時05分
- 参加人数4/4人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
●
「まったく、夢の広がる病気だな。涙を流すだけで金が手に入るってんだから人生イージーモードだ」
真っ赤になった己の左腕を見、『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)はうんと伸びをした。
(致死率は高いし、症状の進行も思ったより早かったが、まあそこら辺は楽して稼げた代償と考えればいいか。老いを知らずに死ねるというのもある意味幸運だと言えるだろう)
家であくびをする。うんと伸びをする。
その度に煌めくガーネット。一つ残らず回収して売り捌く。軽症の際からのルーティンだ。
特に涙腺がゆるいわけではないけれど。生理的な涙からは誰も逃れられまい。ということで暇さえあれば己の利用価値を研究していたのであった。
「欲を言えば高値で売れるダイアモンドを生み出したかったが、宝石の王様は流石に高望みというか不相応だったか」
つまんだガーネットは皮肉気にきらめいた。
今日の予定は通院。左腕をなるべく隠して着替え、そして外へと出ていく。
「体まで宝石に変わっていくこと以外は文句ないから、どうにかしてこの世界の医者には軽症のまま抑える薬でも開発してほしいもんだがな」
大切に思うひとが涙を食らうという眉唾な治療方法もあるらしい。
が、世界曰く、人間関係には恵まれていないのだとかなんだとか。
(いや死ぬのは一向に構わんのだが、イチャイチャしてる奴等が助かってぼっちには死あるのみというのが純粋に気に食わねえ。早急にぼっちにも救いをくれ……)
どうしようもない。
こればかりは奇病である性なのだ。
放置しているわけでもないが治る見込みもないのでまた少しずつ悪化している、との説明を受ける。
進行ペースは少しずつ上っているらしい。この状態だと脚が宝石化するのも時間の問題だろう、という医師の診察。はいそうですか、と返して、世界は病院を立ち去った。
「有り余った金で株とFXでもやってみるか……」
変わった病気に感染してみたは良いが、結局大して何かが変化するなんてこともなかった。
金が欲しい。あとつまらない日常に刺激が欲しい。
痛み無く死ねるならば本望だけれど、結局のところ無味乾燥な人生は代わりはしない。
太陽に透かして見たガーネットは脈打つはずもないのに、酷く赤く見えた。
●
『涙。ニルの涙も、ニルとおんなじ。シトリンの涙。
なら、ニルがシトリンになっていくことは そんなに不思議じゃない感じがするのです
ニルは、人間じゃないから。』
『眠らぬ者』ニル(p3p009185)の書いた日記。
闘病日記、というものだろう。医者に頼まれたニルは、クレヨンでそれを書いていた。
空腹も。睡眠も。性別も。
ニルにはいらないものだった。不必要なものだった。
『それでも
ぎゅうってしたときに、やわらかくて、あたたかくて
そういうのがひんやり硬いものになってしまうのが
なんだかかなしくて』
神経系が侵されていると医者はいっていたか。
難しい言葉はニルにはわからない。
少しずつ。心の内側が固まっていくようだった。
人の体温が。鼓動が。脈が。呼吸が。冷え切ったものに変わっていく感覚が怖くて。
また、涙がこぼれていく。
『会いたい人に会いに行くための足が動かなくなるのが
抱きしめたくて伸ばす手が動かなくなるのが
なんだかさみしくて』
こうして日記を書いている間にも病状は進行していく。
ぼんやりと窓の外を眺めれば、遠くから子供の声が聞こえる。
はしる。あるく。だきしめる。
そういったひとの営みから切り離されてしまったのだと、嘆く。
「……ああ、でも」
『ナヴァン様にごはんを持っていってあげられなくなるのは
ともだちとごはんを食べられなくなるのは
とってもとっても……いやだなぁって思うのです』
ぐるぐると日記に書いた文字を隠す。塗りつぶす。
そうして、ぽたぽたと落ちた涙が。ノートを濡らす前に宝石に変わっていくのも。
なんだか妙に虚しくて。だから、また涙がこぼれていく。
(みなさまに感染ってしまうほうが、ニルはもっともっといやだもの)
だから、食べてほしいとは思わない。
憎いシトリンをかきあつめ、それをベットの傍らの籠に入れておく。
無害なそれが、誰かを脅かす危険性をはらんだものだとは。言われなければわからない。
(ニルの涙だなんて知らず、そばに置いてもらえたらいいな)
日記には書かない。
これは痛みだ。
そして願いでもある。
いつか、大切なあなたをおいていってしまう自分の願いだ。
どうか。
死んでしまっても。声すら届かなくなったとしても。
この色で、ニルを思い出して。
「……なんて。わがままですかね」
●
ばかだなぁ。
どちらがぼやいたかはわからない。
「涙石病です」
乾いた喉奥から出そうな嗚咽を飲み込んで「そうですか」と返したのはどちらだったか。
ただし。今、この診断を受けた『悪戯幽霊』クウハ(p3p010695)と。それをたまたま。同病の診察、そして治療。経過観察のために、『たまたま病室の前を通りがかっただけ』の『黄金の旋律』フーガ・リリオ(p3p010595)においては。
どちらも、に、なるのだろう。
前に泣いたのはいつだったか。理由すらも覚えていない。
自分の内面と向き合うのは苦手だ。妙に気が沈む。
考えてみれば、常に孤独に苛まれているような気がしなくもない。
だから夜が好きだ。
ぼやいたとて。嘆いたとて。恨んだとて。
誰にも気付かれること無く。月だけが見ているから。
奇病に罹ったのが重ねた罪に対する罰だとするなら、この世界の神は随分と優しいらしい。いや、生易しいのか。温情なのか。
(溢れた涙が宝石に変わるなんて、清らかな幻獣かなにかか? ……そういう存在に憧れた時期もあったっけな)
最後に。こんなにもあたたかな夢を見て死ねるなら本望だ。苦しいとも。悲しいとも思わない。
運命とはそんなものなのだから。
(俺の涙の理由は俺だけが知っていればいい)
慰められるのも、慰めるのも苦手だ。
いまいち共感能力というものが働いていないことを思い知るから。
適当に笑って。楽しんで。からかって。それができなくなるから。辛いだとか、そういった感情を捨ててしまったのかもしれない。
だから。知っている、だなんて言われたときには笑ってしまった。
やけに真剣な親友の顔も。
自分よりも死が間近にある彼の顔も。
ずっと、ずっと、鮮明に残っている。
「お互い、本当の死の経験を堪能しようじゃないか」
「寂しいなら一緒にいてやるさ」
「はは、寂しいか。……そうかもしれない。おいらは、いつも通り昼寝して余生を過ごすつもりだけど」
「ったく、最後まで昼寝がしたいとは、オマエらしいよな」
皮肉なのか。愛嬌なのか。からからとクウハは笑うだけ。
ぽろぽろと涙が溢れる。そんな姿が痛ましくて。苦しくて。
「……おいおい、泣くなよ。抱きしめるぐらいなら幾らでもしてやるから泣くなって」
「なんだかおいら、涙腺が緩くなったみたいでさ」
「心配させてくれるじゃねえの。……ん、よしよし、でっかい赤ちゃんだな」
「うるさいなあ。せめて感傷にくらい浸らせてくれないか」
クウハの体はとてもひんやりとしている。石とは違う肌触りで落ち着くし……ああ、生きているのだと。今を実感できる。
「おいらが眠ってしまったら、後は好きにしてもいいからな」
「霊に静止が効くわけないだろ」
「はは、確かに」
涙が石に変わっていく。クウハはそれを避けている。
……ああ、そうか。
だから、最後の願いは叶いそうにない。
「なぁ、クウハ」
「ん?」
「……なんでもない。おやすみ」
「ああ。おやすみ」
だからせめて。そっと眠ることにしよう。
死んだらクウハはフーガを置いてどこかへ行く。
(分かってる。分かっているのに。なんで泣いてんだ。気持ちが爆発しそうなんだ)
ぎゅう、と。膝を抱えるようにして。
目をつむって。意識をかきけしたいのだと、願う。
もう音もないオニキスの身体。
(ずっと一緒にいたい、怖い、寂しい)
またたいたブラックオニキス。
親友は死んだ。のだと、思う。
あまりにも音のない夜だ。
これは痛みだ。
心の痛みに鈍いクウハが泣かないかわりに。
身体が、泣いているのだ。
滴るはファイブロライトキャッツアイ。
「……大丈夫、これは悪い夢。目が覚めた時には元通りだからな」
そうでもなければ。彼が泣くこともなかったのだ。
(俺はコイツの親友だ。食わせる相手としちゃ充分だろう)
だから。
いいや。
せめて。
「……もう泣かなくたって、いいんだぜ」
嚥下したブラックオニキス。
きしむ身体。視界。
どこか遠くへ、いかなくては。
加速する宝石化。涙になったのは琥珀色だったのにどうして真っ黒なんだ、なんて。あんまりにも他人事で。
「死にゆく感覚も案外悪くないもんだな」
息が苦しい。
どうしたらあいつから離れられるのか。
「なあ、フーガ……っ」
遠くへ。遠くへ。
いかなくては。
でないと。
また親友が泣いてしまうところを見るハメになる。
「俺の影を。追う。の、は、いいが、……はぁっ。……地獄の底まで、は。付いてくるなよ……?」
遺言? いいや。これは呪いだ。
生きろ。
生きて、生きて。生きてくれ。
でなければ。飲み込んだ意味もなくなってしまうじゃあないか。
躓き。
海の中へ落ちていく。
凍てついたブラックオニキス。
一人で眠る。永遠に。
誰にも見つからない、暗い海の底で。
「…………?」
身体を苛んでいた痛みがない。
苦しみがない。
けれど。胸に残った痛みだけは本物で。
「クウハ……」
どこかへ行ってしまった。
死期を悟った猫のように。どこかへ。ふらりと。
涙が溢れる。それを覆う掌はもうひとのそれだ。
頬を伝う涙は熱く。熱く。
もう交わることはない友を思った。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
こういうライブノベル、書いてみたかったのです。
どうも、染です。ラノベって楽しい。
●目標
涙石病に罹患する
貴方は涙石病という、涙が宝石に変わってしまう病気になってしまいました。
だからといってどうということはありませんが、少しずつ異物と化していく人生を歩んでみませんか?
●できること
なんでも。
病院に行って治療法に絶望するもよし。
大切な人に涙を食べてもらうようお願いするもよし。
宝石に変わっていく自分の身体を見て悲しむもよし。
外で誰かに涙を見られて慌てるもよし。
●プレイングに記入をお願いしたいこと
症状: 軽度なのか、重度なのか。どこか痛いとか、もう指先は変化していたりするのか、とか
石: この石がいい! とかありましたら。オリジナルで石をお作りすることも出来ます
気持ち: どんな気持ちが原因で貴方はその石の涙を流しているのでしょうか
以上、ご協力頂ければ幸いです。
●世界観
混沌に似たどこか。混沌と同じように考えていただいて大丈夫です。
混沌と違う点は、原因不明の奇病がうじゃうじゃとあるところ。
<奇病奇譚>のタイトルでいくつか出す予定です。
●サンプルプレイング(絢)
症状:目の痛みが原因で受診。病院で涙が溢れたところ、宝石に変化した。軽症。
石:スフェーン(永久不変)、また独自の石
気持ち:凪いでいる。ああ、死ぬのかという気持ち。
目が痛いから、病院に行ってみたんだけど。
なるほど……おれは、不思議な病気になってしまったみたいだね。
でも、愛する人なんていないし……大切な友人にリスクをおかしてもらうわけにはいかない。
どう、しようかな。おれは……死ぬのかな。
以上となります。
皆様のご参加をお待ちしております。
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