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シナリオ詳細

【月夜の華】道しるべとなりて

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

・懐かしい場所へ

 華国と呼ばれる場所がある。それは季節を問わず牡丹の香りが漂い、月と星に空を支配された、常夜の国だ。

「俺が帰るのを、皆は待っていてくれるかな」

 この国は、死者の国と隣り合っている。華国で生まれ死んだ者は鬼と呼ばれる死霊になり、生まれ変わるその時まで、死者の国に住み続ける。

「今まで怖くて帰れなかったけど、この時期は温かく迎え入れてくれるはずだから」

 鬼は死者の国と華国を自由に行き来することができる。だけど生きている人間は、死者の国に行くことはできない。だから死者を迎え入れ入れようとするときは、儀式を必要とする。
 儀式と言っても、伝統に則った祭りのようなものだ。夏の終わりに提灯を並べ、死者が迷わずに帰って来られるように道しるべを作る。特別なのはそれくらいだが、死者にとっては元居た場所に戻るための光となる。

「でも俺、意気地なしだから」

 一人で帰れるか自信ないや。鬼はそう困ったように笑った。

 遺してきた家族がいた。友人がいた。その人たちが、自分を失ったことで悲しんでいるのを知っている。だから、帰るのが怖い。
 死は誰にも平等に訪れる。それが自分に回ってきただけだと分かっていても、自分がそれを受け入れるのも、周囲に受け入れさせるのも苦しみがあった。だが時間は確かに一人の人間の命を吸いつくして、その形を鬼へと変えたのだった。

 皆を遺していった自分が、何て思われているのかが知りたくなかった。だけど自分を大切にしてくれた人たちが今どうしているのか、気がかりだった。

「でも、皆が元気にしているところが見られたら、嬉しいから」

 死者は成長をしない。その心の在り方も、変わらない。だから一歩を踏み出すのに、誰かの助けが必要なのだ。

「皆に会いたい。俺がちゃんと帰れるように、見送ってくれないかい」


・郷愁

「鬼は死者の国にいるのも、華国に行くのも自由なんだけどね」

 最初にそう呟いたのは、境界案内人の雨雪だ。彼は本の表紙を軽く見せながら、ぽつぽつと言葉を紡く。

 死者の国と隣り合った場所、華国。そこでは死霊は鬼と呼ばれ、生まれ変わるまでの時間を生前の姿のまま過ごしている。

 鬼は死者の国から華国に自由に行き来できるが、様々な理由で華国に向かいたがらない鬼も存在する。だがそういった者たちの中には、夏の終わりだけは足を運ぼうとするものもいるのだ。

「皆が知るところのお盆みたいなものかな。鬼たちが迷わないように、生きている人間たちが提灯を並べて、道しるべにするんだ」

 生者は死者の国に向かうことはできない。だから死者を迎えるために、祭りめいた儀式を行う。

「すんなり帰れる鬼もいるんだけどね。そういう人ばかりじゃないから」

 死者は成長をしない。生前のわだかまりも、苦しさも、自分の力だけでは解消することはできない。だから提灯の並べられた道を歩くだけでも、誰かの助けが必要な者もいるのだ。

「助けてやってほしいんだ。鬼たちが帰れるように」

 手を引いてあげるのでもいい。言葉をかけるのでもいい。帰り方が分からなくなっている彼らの背を、押してあげてほしい。

NMコメント

 こんにちは。椿叶です。
 中華風味の世界で、死者の帰郷を見守る話です。「月夜の華」の五番目のお話ですが、今までのものを読んでいなくても問題ありません。

世界観:
 中華に和が混ざったような「華」という国です。月や星が空を支配する常夜の世界で、牡丹の花が年中咲き乱れていることが特徴です。
 華国では、人間は死ぬと「鬼」と呼ばれる死霊になります。華国は死者の国と隣り合っており、鬼であれば両方を自由に行き来できます。
 華国にもお盆に似た習慣があります。夏の終わりに鬼たちは提灯の灯された道を歩き、生者たちに迎え入れられます。帰ることができるのは生まれ変わる前の鬼たちですが、すでに生まれ変わった者たちも、魂の鱗片は帰ることができます。

目的:
 鬼たちの帰郷を見守り、導くことです。
 鬼は生前の記憶を保持しています。そのため遺してきた家族や友人、恋人のことを覚えていたり、心残りがあったりします。そういった者たちの中には、自分ひとりで華国に戻ることを恐れている鬼もいるようです。
 彼らは帰りたがっていますが、そのための気持ちの整理がついていないようです。彼らと話をしたり、手を引いてあげたりして、帰りたがっている場所まで導いてあげてください。

鬼について:
 死霊のことです。生まれ変わるまでの時間を、生前の姿、生前の記憶をもったまま過ごしている者たちです。
 人間の域を出たものたちですが、大した力を持っていません。死者は成長をしないため、気持ちの整理がひとりではできない者も多いようです。
 ここで出てくる鬼は、ひとまず死者の国から華国に出て来てはいます。ただ、提灯の灯された道を歩く決心がついていないようです。

できる事:
・鬼と対話をする。
・鬼を見送る、導く。


サンプルプレイング:

 帰りたくても帰れない、か。まあなんだろうな。帰れる足はあるのに決心がつかないのは、わかるっつーか。後ろめたいこととか気になってることがあると、行くのが億劫になるもんだよな。
 でも帰りたいんだろ? 俺が付き合ってやるよ。さ、どこへ行きたいのか教えてくれるか。


 出会う鬼に希望があれば、特徴(性格、境遇、見た目など)をプレイングに記載してください。オープニングで登場した鬼以外にも、多くの鬼がいます。
 記載がなければ、こちらで出会う鬼を選ばせていただきます。
 よろしくお願いします。

  • 【月夜の華】道しるべとなりて完了
  • NM名椿叶
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年09月20日 22時15分
  • 参加人数4/4人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
フーガ・リリオ(p3p010595)
青薔薇救護隊
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

リプレイ

・餞別

 帰りたいのなら帰ればいい。そう安直に言ってしまえれば楽なのだろう。しかし、さすがに今の自分はそんなことは言わない。
 自分はちゃんと成長しているのだ。そう胸を張ったのは、『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)だ。

 ここ常夜の国とはいえ、月明りや星明り、それに提灯の明かりもある。さほど暗いというわけでもない。周囲を見回すと、提灯の向こう側に一人の男がいるのが見えた。あれが鬼か。

「僕はランドウェラ=ロード=ロウス。好きに呼んでおくれ。よろしく」

 鬼と呼びかけるにもおかしな感じがするから名前を尋ねてみたが、黙って首を振られた。ならば仕方ない。あだ名で呼ぶことにしよう。

「うん。青目、だね」

 男の目は、透き通るような青い色をしている。だから青目だ。そう伝えると、彼は照れ臭そうに笑った。

 他愛ないお喋りをしながら、提灯の灯る道まで導く。そろそろ気持ちがほぐれてきた頃だろうからと、帰れない理由を聞いてみた。

「後悔、だな」

 彼はまだ、道には足を踏み入れない。
 彼はかつて、愛する人に「迎えに行く」と約束したらしい。しかしその約束を果たせないまま、命を落としたという。

「ずっと、待たせてしまった」

 笑って迎えてくれればいいのだが。そう目を伏せる彼の手を、静かにとる。

「話してくれてありがとう。これは、君が打ち明けられる強さを持っているという証だよ」

 打ち明けられるということは、本当は乗り越えようとするだけの意思を持っているということ。ならば足りないのは、少しの勇気だけ。

 彼の手のひらに転がったのは、色とりどりの星。こんぺいとうだ。
 死霊に食事ができるのかは分からない。ただ、持っているだけで勇気を与えてくれるかもしれないのがこんぺいとうだ。だから、彼がそれを手のひらの上でそっと転がしているのが、どこか印象的にうつった。

「もう行かねばならないな」

 彼が一歩足を踏み出し、明るい道へ入る。

「大丈夫。あと数百歩を、あと数歩にしたんだよ?」

 実は自分にも、帰りたいけど帰れない場所があった。もう帰りたくなくなってしまったし、違う理由もできてしまった。だけど彼を気持ちよく送り出すべきだろうから、言わない。

 思っていることが顔に出ないように、ポーカーフェイスを繕う。

 餞別はあげたから、言葉をあげよう。

「これからの君に祝福を」

 僕みたいになる前に、早く帰らないとだめだよ?


・見守る

 ああ全く。この世界の鬼という存在はどうしてこうもまだるっこしいヤツが多いのか。

 溜息をついたのは、『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)だ。いつも通り薄暗い、牡丹の香りがする場所を眺めて、ここにいるであろう誰かを探した。

 帰るのが怖いのなら、最初から死者の国に籠っていればいいのだ。わざわざここまで出てきた時点で、答えなぞ八割方決まっているようなものだというのに。

 グズグズしている奴がいたら、さっさと行くように促そう。でなければ生まれ変わるまで無駄に後悔し続けることになるのだから。そう思ったとき、後ろから声がした。

「少し、私に付き合ってくれる?」

 若い女だった。長い髪を耳にかけて、彼女は微笑む。

「妹と弟たちに会いに行きたいんだけど」

 どうせここで彼女が行こうが行くまいが、最後は生まれ変わってしまうことに変わりはない。例え彼女がどうしても決心がつかないと言って帰ったとしても、そんなのは勝手だ。どの道、忘れてしまうのだから。

 女は語る。彼女の妹弟たちが大きくなる前に、亡くなったこと。妹弟たちはまだ小さかったから、彼女を覚えていないであろうということ。姉を失った苦しみを知らない者たちに、死者である自分が会って良いのかが分からないということ。

「勇気がないんだ。お願い」
「どうしても一人では無理だと言うのなら、仕方ない」

 俺が付いていくとしよう。そう伝えると、彼女はふわりと笑みを浮かべた。
 後々、やはり行っておけばよかったと泣き疲れても困る。知らない人間が付いていったところで何の足しになるのかは分からないが、彼女が望むのなら腕を引っ張っていくことだってできる。とはいえ、そこまでしないといけないのであれば、死者の国に戻る方がいいのだろうが。

 歩きながら、彼女は妹と弟たちについて話してくれた。彼等が可愛くて、会いたくてたまらないのだということが、言葉の端々から伝わってくる。彼女の中で答えは決まっていたのだ。
 彼女が求めていたのは、「会いに行ってもいい」という許しだったのかもしれなかった。

 いずれにしろ、生まれ変わるという最終的な結末には何ら変化はない。だから、望んで関与したりはしない。だから自分のすることはせいぜい彼女の意思を尊重して、その行動を見守る程度だけだ。

 そう思いながら話を聞いていると、彼女が静かに微笑んだ。
 ありがとう。牡丹の香りが満ちる中で、そんな言葉を与えられた。


・歌を

 ここが「華」という国か。周りをゆったりと眺めたのは、『黄金の旋律』フーガ・リリオ(p3p010595)だ。永遠に続く夜に、花がいつまでも咲き誇る場所なんて、眠るには絶好の場所だ。ついシエスタをしたくなるが、それは今できることではないと思い直した。

 提灯の灯る道に沿って歩いていると、子どものすすり泣くような声がした。それが鬼かと思い、薄闇の中を声を頼りに進むと、一人の少年が目元をこすっている姿が見えた。

「どうしたんだ?」

 屈みこんで子どもと目を合わせ、優しい笑顔を浮かべる。すると、子どもの泣きはらした目がこちらを捉えた。

「真っ暗で怖いの」

 だから一人で行けない。彼が指さす方向を見ると、道の一部分が提灯の明かりが途切れていて、ひどく暗くなっている。これでは、その先がどうなっているかも分からない。一人で行けないわけだ。

「なら、お兄ちゃんと一緒に行ってみようか」

 月や星の明かりはあるから、薄闇の先にあるものは見える。子どもの恐怖を紛らわすことができれば、この子も進むことができるだろう。『黄金の百合』を演奏しながら行くのもいいけれど、もっと安心できる方法がある。

「手を繋ごうか。それで、歌を歌おう」

 フーガが子どもだった頃。夜道が怖かったときは、父と母に手を繋いでもらいながら、一緒に歌を歌っていた。今はもう二十歳くらいだけど、妹のレキエラが小さかった頃や、衛兵やイレギュラーズとして過ごしている今でも、子どもを安心させたいときにそうしている。
 歌うのは好きだけど、柄ではない。トランペットを吹いて落ち着かせてあげられたらいいのだけれど、夜なんかは迷惑になってしまうかもしれない。だからそういうときに、手を繋いで、歌を歌ってあげることにしているのだ。

 繋いだ子どもの手は、少し冷たい。ただ、子どもが安心したように手を握っていてくれているから、お互いの体温が伝わっていくような気持ちになれた。

 道に灯りが現れ、同時にぽつぽつと家が姿を見せ始める。
 そろそろ目的地なのだろう。子どもがそっと手を離し、ありがとうと微笑んだ。

「家族を大切にする心、忘れるんじゃねえぞ」

 楽しい時間はあっという間。だけど、もうお別れだ。

 お母さんに会ってくる。そう笑う彼を見送って、フーガはひとつ息を吐く。
 家族は、今頃どうしているだろう。思い出を手繰り寄せるように目を閉じると、牡丹の香りが一層強く感じられた。


・帰り道

 帰りたいけど帰れない。会いたいけど、会いたくない。そういう気持ちは分かるつもりだ。
 その場に留まれば留まるほど不安は膨らみ、進む足を重くする。思い切って前に進めさえすればいい結果になることが多いとはいえ、誰もがその一歩を踏み出すことができるわけではない。ならばせめて、それを手伝ってやろう。

 空気を吸い込むと、牡丹の香りで肺が膨らむ。その香りを吐き出して、『悪戯幽霊』クウハ(p3p010695)は薄暗い中一歩踏み出す。
 かさり。小さく鳴った足音に、数人の鬼が振り返った。

「よォ、俺はクウハ」

 彼等のことを尋ねると、ここで偶々出会った者たちだということが分かった。皆が頼りなさげに、行き場のない想いを抱えて寄り添っているように見える。
 話したいことを話してほしいと促すと、彼等の身の上話や、後悔がぽつぽつと語られ始めた。

 鬼たちの中にはきっと、故郷の誰かと喧嘩してそのまま鬼に変わってしまった、みたいな奴もいるのだろう。相手が今も怒っているのか、悲しみや後悔に沈んでいるのか。それを知るのは怖いに違いない。それが大切な相手であれば尚更だろう。いっそ自分のことなんか、忘れていてほしいと思うのかもしれない。

 だけどそれでも。またこうして会いに行く機会ができたのだ。伝えたい言葉や、渡したい物の一つや二つぐらいあるだろう。

「会いたいって思うのは勝手かな。きっとあいつは、僕に捨てられたと思っているよ」

 目を伏せる鬼に、クウハは笑みを浮かべる。

「なァに、悪いことじゃないさ」

 身勝手上等だ。霊ってのは基本的に身勝手なものなのだから。

「一人で帰れるかな、僕」
「なら、俺がついて行ってやるよ」

 どれだけかかろうと彼らに付き合ってやるつもりだ。望んだ場所に帰るまで、会いたい奴に会えるまで。その未練が解けて消えるまでだって構わない。

「でも、帰っていいのかな」

 馬鹿な事言うなよ。クウハは歯を見せる。

 駄目なら道を通れるはずがないのだ。招かれているからこそ、こうして元の場所へ歩くことができるのだ。


 一人ひとり時間をかけて話し、送り届ける。時間が許す限りそうするつもりだった。
 霊にもなれない、なれたとしてもそこで自我を喪う奴も大勢いるのだ。だからこうして意識を持って、帰るべき場所を望んでいること自体が、きっと幸せなことなのだ。

 再び鬼に声をかけようと足を踏み出すと、牡丹の香りがふわりと漂った。

成否

成功

状態異常

なし

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