PandoraPartyProject

シナリオ詳細

護衛任務:銘酒、白銀の雫。

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●とある酒造の受難
「助けて、助けてくれぇ!!」
 闇夜の平原で馬に必死に鞭を入れ只管走る御者。
 今年も良い酒が出来たから街に卸しに行く最中だった。
 銀の森を抜け平原に差し掛かった時に、遠くに数匹の馬と何やら叫び声が聞こえてきて、なんだろうかとみると武器を構えた男たちが此方に猛スピードで近づいてきている所だった。
「わ、わぁ!?」
 顔色を真っ青に変えた御者は慌てて馬を走らせる。ひゅんと頬を矢が掠めていき「ひっ」と上擦った悲鳴が上がる。そういえば最近この辺りで行商人の馬車を狙う賊が出没しているのだと主人が話していたことを思い出した。まさか自分が狙われるなんて露ほどにも思っていなかったけれど。
 そして冒頭に至る。

「おらぁ! 命が欲しけりゃ金品おいてきなぁ!」
「まだ死にたくねぇだろぉ!?」
「な、なんて速さだ……!」
 賊たちは片手で武器を操りながらもしっかりと馬を操り、そのスピードはどんどん増している様だった。途中から射掛ける矢に火がついており、命の危険にさらされている心臓が五月蠅いほどに脈打っている。もし御者に土地勘が無く、咄嗟に別の街に逃げ込む判断が出来なければ彼は此処で命を落としていたかもしれない。

「――なるほど、これは困ったな」
 命からがら帰ってきた御者の報告に酒造主たるイージン・トーニクは頭を抱えた。
 商売仲間から賊の報告を受けてはいたし、忠告もしていたがまさか実際に襲われることになろうとは。ことりと机の上に置かれたボトルには【白銀の雫】と刻印されていて、中の純真無垢な液体は光を浴びてきらりと輝いている。文句なしに最高の出来だ、今年も多くの愛好家がこれを求めるだろう。だがしかし、どれだけ酒の出来が良くても手に届かなければ、酒場に降ろせなければ意味がない。
「ふむ……」
 そうして、イージンはペンを取った。
 依頼内容をしたため、最後にこう締めくくる。
『もし、依頼が無事に成功した暁には我が酒造の誇る最高傑作【白銀の雫】を特別にお送りしよう』

●銘酒【白銀の雫】
 場所は鉄帝の街の一角。
 橙色の灯りが暖かに灯り、酒に酔った男たちの笑い声とジョッキをいくつも抱えたウエイトレスが行ったり来たりを繰り返す店内の奥の方。バーテンダーがグラスを磨いているカウンターで座っている背の高い白狼の男性が居た。
 リーディア・ノイ・ヴォルク(p3p008298)。
 あなた方を呼び出した張本人である。気配に敏感な彼はゆっくりと振り返り、あなた方を認めると片手を挙げた。
「やぁ、よく来てくれたね。座るといい、ご馳走するよ」
 リーディアに促され、あなた方は席に着いた。注文を受けたバーテンダーは壁からボトルを取り出すと慣れた手つきでグラスに注ぎ、あなた方の前に置いた。
「飲んでごらん」
 勧められるまま、そっと口づけるとガンっと強烈なアルコールに一瞬目を見開くも上品なハーブの香りが広がり仄かにベリーの様な甘酸っぱさがじんわりと舌の上でとろけていった。
「美味しいかい?」
 リーディアの問いかけにあなた方は何度か頷いた。
「それは所謂ジンと呼ばれるお酒でね、ハーブの香りが特徴的なお酒なんだ。
 特にそのジンは【白銀の雫】という銘柄でね。特別な材料と手法で作られていて、人気が高いんだよ。この時期しか飲めないから、そのお酒のファンはみんな楽しみにしているんだ」

 まじまじと手の中のグラスをあなた方は見つめる。もしかして所謂【高級酒】なんだろうか。
 恐る恐るリーディアに振り返ればにこにこ笑っているだけだった。
 あなた方の態度も気にせずリーディアは続ける。

「結論から言うと、君達にはお酒を運ぶ馬車の護衛をしてほしいんだ。依頼人はこのお酒の酒造主だね」
 依頼人が言うには最近町に向かう馬車を襲う賊が出没しており、金品を強奪する事件が後を絶たないのだという。不幸中の幸いか未だ怪我人が一人も出ていないがそれも時間の問題だろう。

「このままではお酒を卸せなくなってしまう、という事でその賊たちを撃退してほしい。彼らは器用に馬を駆りながら戦闘を仕掛けてくる上に、火のついた矢なんかも射掛けてくるみたいだ。高アルコールのお酒を乗せた馬車に引火すればひとたまりもないだろうね」
 つい、とグラスの淵をリーディアのグローブ越しの指がなぞり水面が僅かに揺れた。
  
「本当は私が担当するはずだったんだけれどね。急な任務で行けなくなってしまったんだ。
 代わりに君たちが向かうことは、酒造側には連絡しているし、贈られる筈だったそのお酒は君たちに譲ろう」
 それでは健闘を祈るよ、リーディアは緩やかに目を細めた。

NMコメント

 初めましての方は初めまして、そうでない方は今回もよろしくお願いします。
 カジュアルシナリオ実装されてから出したい出したいと思っていて気が付いたら9月でした。なぜ?
 今回は鉄帝を舞台にしたお話です。

●目標
・【白銀の雫】を乗せた馬車の護衛
・盗賊たちの撃退 
 
 後述する盗賊達から馬車を護り、また今後安心して商売ができるように彼らの撃退をお願いします。
 成功した暁には銘酒【白銀の雫】が贈られるとのことです。
【白銀の雫】……名前の通り透き通り白銀にも見える美しいジンです。特別な製法と一年の内僅かにしか取れない貴重なハーブが材料で所謂高級酒です。
 
●戦場
 時刻は夜、遮蔽物は無い平原での戦闘です。
 薄暗く視界があまりよくありませんが御者はカンテラを腰につけており、馬車の位置は常に目視での確認可能です。
 また馬車には【白銀の雫】の他たくさんのお酒を乗せてあり、火が付けばひとたまりもありません。

●敵
 盗賊達(6名)
 御者の証言、リーディアの調査にて以下の情報が判明しています。

・全員が馬に乗っており騎乗戦闘を仕掛けてくる。
・斧を持った近接タイプが二人。
・矢を射掛けてくる遠距離タイプが二人。
・馬の上で長い棒を振り回し、複数への攻撃をしてくるタイプが二人。
 一人一人はそこまで強くないですが、連携がとれており夜目が効くようです。

●味方
 御者、並びに馬車。
 酒造に雇われている二十代前半の青年です。運転技術と土地勘は目を瞠るものがありますが戦闘能力は一切ありません。
 馬とは幼い頃からの付き合いで相棒の様な存在で互いに信頼しあっています。
 もし、馬が怪我を負ったりすれば彼は無理に走らせたがらないでしょう。

●備考
 イージン・トーニク
 今回の依頼主です。白髪に白髭を蓄えたイケオジな酒造の当主。
 現場には居ませんがあなた方に馬車を護り、賊を追い払うように依頼をしました。
 プレイングに彼と会話をしたい旨を記載してくだされば、依頼終了後に彼の酒造にて会話が可能です。

 OPに出てくるリーディアは本編には登場しません。
 
●サンプルプレイング
 依頼に成功したらお酒がもらえるって聞きました!! しかも珍しい奴!!
 こうなったら自慢のお馬さんと一緒に頑張りますよーーー!
 
 こんな感じです。それではいってらっしゃい。

  • 護衛任務:銘酒、白銀の雫。完了
  • NM名
  • 種別カジュアル
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年09月16日 22時01分
  • 参加人数6/6人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
ウルリカ(p3p007777)
高速機動の戦乙女
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
スースァ(p3p010535)
欠け竜
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

リプレイ


「白銀の雫ですか……くくっ、こう見えて酒には目がないんですよねぇ」
 『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)が馬車に積み込まれていくボトルを眺めていた。鉄帝の銘酒、ぜひともじっくりと味わいたい。
「ああ、こんな美酒を無茶苦茶にされんのは嫌だね」
 その隣で『欠け竜』スースァ(p3p010535)が頷いている。一口ですっかりこの酒に惚れこんだスースァの後方では『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)が御者の袖を引いていた。
「メイも頑張るですよ! 頑張ったら、ちょーっとだけ、飲んでもいいですかっ!
 メイ、見た目は幼いけど年齢は3桁ですし! 大人ですし!」
「……えっと」
 御者は自身の隣に立つイージンに視線を送る。イージンは首を横に振った。
「え。だめですか? ぷー……」
 不満げに頬を膨らませるメイは幼子そのものだが、そんな彼女を諭す様に『暖かな記憶』ハリエット(p3p009025)が肩に手を置いた。
「私も飲めないから、一緒だね」
「! はい、一緒、です!」
 にぱっと笑ったメイにハリエットは釣られて笑み零す。
「これが白銀の雫……綺麗ですね。お酒にはツマミがあるといいと聞きます。どのようなものと飲むのが主流でしょうか?」
 ボトルを透かし、輝きを楽しんでいたウルリカ(p3p007777)の問いかけにイージンは応える。
「チーズやローストビーフ等がよく合いますな。後程、用意させましょう……どうぞ、よろしくお願いします」
 頭を下げたイージンに一同は頷き、任務へ向かった。


「この街道は盗賊から狙われてる。ならば、私たちがそいつらを叩けば、同じような奴らへの抑止力になるのかな」
「ええ、自分たちが止めを刺せば”今後安心して商売ができるようになるでしょう」
 馬車に揺られるハリエットに、リトルワイバーンで並走していたオリーブが返す。
 今まで死人は出ていないがそれは運が良かっただけだ。今後の憂いを断つためにもオリーブは全員仕留めるつもりだった。
 暫く馬車を走らせていた御者が不安げに零す。
「……大丈夫でしょうか」
「大丈夫だよ」
 スースァがドレイクを繰りながら応えた。ドレイクの鼻息にも馬は驚く様子を見せない。御者本人も怖がるどころか興奮すら見せていたので変なところで肝が据わっているとスースァが感心している時だった。

「……ああ、来たね」

 研ぎ澄まされた鋭敏な聴覚がこちらに迫る音を拾う。上空から見下ろした空の目はその姿を捉え映していた。
「後方より六名、内訳は報告通り槍が二名、弓二名。それから近接が二名」
「馬さんも、御者さんも、みんなも護ります!」
 むんと眉を吊り上げメイが葬送者の鐘を構える。
「では作戦通りに……盗賊諸君にはここで大人しくご退場願いましょうか」
 カンテラを多く着け、目立たせた囮の馬車を運転していたウィルドがわざと拙い運転をして見せる。幻想貴族たるもの馬の扱いには慣れてはいるがあくまでもこちらは囮。『狙いやすい』ということを魅せつけねばならない。

「あっちだ、あっちの馬車からやれ!」
「あんなにカンテラつけてよぉ、襲ってくださいって言ってるようなもんだぜ!」
 案の定釣り針に食いついた。狙撃手の一人が自身の馬のスピードを上げ火矢を射掛ける。
「……もしや噂の盗賊でしょうか。困りましたねぇ」
 胡散臭い笑顔のままで、ウィルドは右へ左へ馬車を揺らす。不規則な動きに狙撃手は翻弄されていた。
「なんで当たらねぇんだ!?」
 苛立ちに任せて放った矢は命中精度がさらに下がる。ウィルドは御者台から顔を覗かせた。
「この程度の弓の腕だとは……些か、心配し過ぎましたかねぇ?」
「んだとテメェ!!」
 青筋を浮かべた賊がウィルドの馬車に急接近する。
 自慢の弓の腕を胡散臭い笑みの男に馬鹿にされたということしか頭にない男はこの後の運命を知らない。ウィルドに接近した賊は下卑た笑みを浮かべた。
「へへっ、この距離なら外さねぇ……!」
「ええ、そうですね。おかげで助かります」
「え」
 まんまと自身の間合いに入ってきた賊に愛らしささえ覚えながらウィルドは右手に魔力を集中させる。至近距離で魔力の塊を身体に打ち込まれた賊は断末魔さえ上げる暇を与えられなかった。
「盗賊をやるなら、もう少し警戒心を身に着けたほうが賢明ですよ?」
 にっこり笑うウィルドに御者がひっと声を上げる。頼もしい味方だとは解ってはいるが怖い。その声に馬車の中で待機していたハリエットとメイが顔を上げた。
「どうしたの?」
「敵さんですか!」
「えっ、いや……ウィルド様のお顔にびっくりしちゃって……失礼しました」
 申し訳なさそうな御者に呆れたような笑みを返しハリエットは荷台の前方に腰を下ろす。メイもハリエットの隣に待機した。よくこれで生きて帰ってこれたなとハリエットは内心思う。腰で揺れるカンテラも事故防止の為なのだろうが、賊たちからしたら格好の餌食だろうに。
「馬さんも、御者さんも、疲れてないですか?」
「大丈夫です、ありがとうございます。メイ様」
 ひょっこりと顔を覗かせたメイの愛らしい姿に御者は微笑む。
 この緊張感に包まれた戦場でほんの一瞬だけ和やかな時が流れた。
 そう、ほんの一瞬だけである。
 空気を切る音と共に飛んできた矢が御者の頬を掠めた。

「ひっ!?」
「……あいつだね」
 ゴーグルを装着していたハリエットの目が馬車の後方を走る獲物を捉えた。
 全てを見通すその眼に見つかったが最期、賊の逃げ場はなくなった。
「気づかれたか」
 ゴーグルを上げ、愛銃を構える。
 安全装置を外し、スコープを覗いて引き金に指をかけた。
「当てるだけならちょっと自信ついてきたんだ」
「女の狙撃手か……おもしれぇ!」
 一歩は弾丸を。一方は矢を。
 同時に放った。どちらも真直ぐ、真直ぐ飛んで。
 矢はハリエットの頬を、弾丸は賊の心臓を撃ち抜いた。ゆっくりと後ろに斃れ、地面に転がった賊と彼に寄り添うように佇む彼が乗っていた馬を確認し、ハリエットは馬車の中に戻る。

 これで少しは彼に、近づけただろうか。

「ハリエットさん、御者さん。お怪我治すです! 痛いのやだやだ」
 白百合に包まれた銀の鐘が清らかな音色を鳴らす。祈りは歌に、歌は癒しに。真白の柔らかな花弁がハリエットの、御者の頬を優しく撫でるとあっという間に傷は塞がり痛みも消え去った。
「す、すごい……女神様みたいだ」
「へへ、メイもねーさまみたいに、たくさんの人を元気に、するです!」
 陽だまりの様な暖かい笑顔だった。
 夜に包まれているというのに周囲一帯を包み込むような笑顔だった。

「さて厄介な狙撃手は向こうで片付けてくれたみたいだし。後はシンプルな肉体勝負ってとこかね」
 スースァは残った賊を見た。二人が倒され狼狽えている様だが、逃げ出す様子は無い。もはや意地なのか、憐れにすら思えてくる。
「さて、こっからはアタシらの番だ。やれるかい?」
 力強く走るドレイクに声を換えれば当たり前だという様に短く鳴いた。
 右側から馬車に接近してくる賊との間にドレイクごと身体を割り込ませる。
「竜!?」
「ドレイクを見るのは初めてかい? 二度はお目に掛かれないよ。今のうちにたっぷり目に焼き付けておくんだね」
 鉄帝ではまず見ないドレイクの馬車に驚いた賊は一瞬身じろぐも、操縦手のスースァが女だと気付くと口角を盛大に釣り上げた。
「なんだ女かよ、驚かせやがって……! ちょうどいい、お前も細切れにしてやらぁ!」
「おお、怖い怖い。こんなか弱い女に暴力なんてねぇ」
 思ってもいない軽口を叩き、突き出された槍をスースァはなんなく躱す。
「ちょっとはやる様だなぁ……? だが、その手じゃ武器は使えねぇだろ!」
 スースァは隻腕だ。一本しかない腕で器用に手綱を握っている。
 それゆえに躱すことはできても反撃はできまいと、賊は高を括っていた。腰に差したご自慢の剣も形無しだろうと。だがそれはスースァが特異運命座標でなければの話だ。
「なら、見せてやろうじゃないか」
「あん?」
 手綱を離し、自由になった右手で剣を抜きすぐさま手綱に噛みついた。
 心を通わせたドレイクは御者が手で自身を繰ろうが、口で繰ろうが気にしない。
「くっ、口で手綱を握っただとぉ!?」
 スースァのアドレナリンが脳からこれでもかというくらい分泌され、この戦いに集中すべく身体が造りかえられていく。脱色された翼は禍々しい紫玉の輝きを放ち、剣の切っ先にありとあらゆる東方の呪が纏わりついた。そのまま右手を振るうと不自然に賊の乗っていた馬がバランスを崩す。
「おわっ!? くそ、いう事聞け!」
 馬の身体を伝った火は賊に燃え移りその身を包みこむ。
「あ、あづっ、ぎゃあ!?」
 必死に振り払おうとするも呪の業火は衰える気配が無い。
 やがて賊はぴたりとも動かなくなった。

 隻腕の女に何かできると、見くびったのが運の尽きさ。
 言葉にはできなかったが、代わりだと言わんばかりにスースァは鼻で笑った。

「くそっ……これでも喰らえ!」
「させません」
 背後から斧を構えたもう一人の賊がスースァに襲い掛かる。しかしそれをすんでのところでウルリカが身体を割り込ませ弾く。
「残念ですが、貴方たちの横暴もここまでです。ローレットを相手に、それでも目先の酒を奪いますか?」
「はっ、ローレットが怖くて盗賊なんかできっかよ!」
「でしょうね」
 溜息を吐き、ウルリカは銃口を向ける。最初から期待などしていない。
 ぎょっとした様子の賊だったがすぐに愛用の斧を構えた。
「残念だったなぁ……良い銃だが間合いに入っちまえばこっちのもんよ!」
 賊はウルリカの首を狙い、思い切り斧を振りかぶった。
「成程、一理ありますね。ではこうしましょう」
 取り乱す様子もなくウルリカはアクセルを踏み込んだ。刃は呆気なく空を切る。
「んなぁ!? 卑怯だろうがよ! おい、もっと速く走れ!」
 突き放された賊は鞭を急いでいれるが、いかなる駿馬でもバイクに。ましてやトップクラスの機動力を誇るウルリカが運転するバイクに追いつくことは至難の業だった。
「これでも追い縋りますか。その忠誠心には敬意を抱きますが……」
 目の前の鉄の馬を追いかけることに必死な馬は主人を乗せ、ウルリカの射線に入ってしまったことが分からない。
「しまっ」
「――遅い」


(くそっ、くそっ!! どうなってやがる!?)
 自分が最後の一人になった。
 漸くそのことに気が付いた賊は慌てて手綱を握り直した。
 一秒でも早くこの場を去らねば次は自分だ。六名いて一人も勝てなかったのに自分だけで勝てるわけがない。
「今はとにかく逃げ」
「逃げられると思っているのですか」
 無機質な声が聞こえたかと思うと身体が宙に浮いた。視界には斃れる馬と赤い飛沫。

 ああ、俺、死ぬのか。

 地面に叩き付けられ、身体に響いた痛みが思考と動きを鈍らせる。首筋に冷たく鋭い感覚。それはすぐに燃えるような熱い感覚になり、一人の男の人生が終わった。

「終わりました。これで大丈夫でしょう」
 返り血を浴びたオリーブに御者は短く悲鳴を上げたがすぐに礼を述べた。
「お酒は……うん、無事で良かったよ」
「壊れた、ものも、ないです!」
「皆様のおかげです、本当にありがとうございました」
 多少荷崩れはあったがイレギュラーズの尽力により、全ての酒は無事だった。勿論白銀の雫もである。
「御者さん」
「はい、なんですか?」
 メイは白銀の雫を指さした。引き攣った笑みの御者に対して酒が飲みたいわけでは無いとメイは首を振る

「ねーさまの墓前にお供えしたいです」

 目を見開いた後、御者は今度は首を縦に振りメイにボトルを差し出し、メイはそれを大事そうに抱えた。
「ねーさまはメイのお仕事の成果、喜んでくれるですか?」
「きっと喜んでくれるよ。こんなに頑張ったんだから」
 不安げなメイの背中をハリエットが優しく支える。メイはまた嬉しそうにはにかんだ。ハリエットは未成年で白銀の雫を味わうことはまだできない。だが、せっかくの好意を無碍にもしたくない。それなら酒が飲める知人に譲ろうと思い立ち、ふと浮かんだあの人。

 ……受け取ってくれるだろうか?

「飲める年になったら、飲みに来て感想言うね」
「はい! 是非いらしてください」

 出来ればあの人と一緒に。
 約束だよ、とハリエットは微笑んだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

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