シナリオ詳細
<濃々淡々>小瓶に詰めて
オープニング
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からんからんと小気味良いベルの音が鳴る。曰く其れは東方より齎されたベルだそうで、折角の開店祝いにと友人に貰ったのだそうな。
新築だと言う其の家は平屋ばかりの街並みからは一風変わって人目を引いた。窓ガラスをきゅきゅっと拭けば背筋もしゃんと伸びる心地。
新装開店というには歴は短くて、だからと云って新規おうぷんだと名乗るには働き過ぎて居る。
外で屋台を引いているのも良かったけれど、なんて笑った店主――絢は、快晴が広がる空を遠く遠く眺めた。
ご機嫌に揺れる尻尾はカレンダーの日付にまたひとつバツ印を増やしていく。明日はおうぷん、つまるところ開店だ。
ふたつの天秤の皿にはこだわり抜いた飴を乗せて重さを測る。重すぎたっていけないけれど、かるすぎたってだめなのだ。それから、瓶にいれる量は均等に。
ラベリングは勿論手書き。シールに万年筆で文字を書いたら貼り付ける。単純作業の繰り返し。
愛車たる手押しの荷台は一旦店の裏でお役御免、しばらくは店が動かずともよいのだと。少しだけ寂しいような心地。
けれども新しい門出なのだからそうそうくよくよしていられない。なんたってこの店は、念願たる絢の飴屋なのだから!
「ようし、準備をしよう」
店の掃除はもう飽きるくらいにやった。けれど嬉しくてついついまたしてしまう、ので一旦ストップ。
お気に入りの羊皮紙は少々値段がはるのだけれども此処に万年筆を踊らせたときの気持ちよさと言ったら!
なので此の紙にレシピを書くことに決めている。
今まで作った飴をぱらぱらとめくっては記憶を懐かしんで。
其れから、此れから出会うであろうお客さんが喜んでくれそうな新作のアイデアを書き留めて行った。
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「皆、来てくれて有難う。今日はおれからの依頼だよ」
にこやかに笑みを浮かべた絢は、ちょっぴり緊張した面持ちではにかんだ。
「おれ、飴屋なんだけどさ。今まではこうやって屋台をひいてたろう?」
ほら、と素振りまでつけられてはイメージだってしてしまう。何度か訪れたこともあるのならばより鮮明に。
「だけど、ついに! おれも店を持つことが出来るようになったんだ」
嬉しそうに笑う絢の笑顔は穏やかな青年のそれ。ご機嫌に尻尾まで揺らされては、青年以上に猫であったが。
「だから皆に飴をプレゼントしてみたいんだ。来てくれると嬉しいよ」
へへ、と笑った絢は、ようやく夢を叶えたのであろう、今までにないくらいにご機嫌だった。
- <濃々淡々>小瓶に詰めて完了
- NM名染
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年09月04日 22時15分
- 参加人数4/4人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
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「桜並木に和の風景……。ふーん、初めて来る所だガ、何というか懐かしいニオイがすんナァ。中々風情があっていい店じゃねえカ」
「ようこそ。今日のお客さんだね?」
に、と笑みを浮かべた『迪ォのうつわ』玄野 壱和(p3p010806)はオーダーを書く紙とにらめっこ。
「そうさナァ、どんなものでもいいってンなラ……さらさらりっト、こんな感じで頼マァ」
「了解。ちょっと待っててね」
・オーダーメモ
好きな味付け:甘く、ほんのりと熱い
好きな後味:ドロッと残る
好きな色:少し薄めの赤黒
望む効能:猫になってみたい
特記事項:まるで血液をそのまま固めたかのような、そんな飴
・レシピメモ
溶岩付近で咲いた彼岸花をベースに、太陽に照らされて熟れた苺をどろどろになるまで煮詰めよう。
猫のひげを一本みじん切りに、その後は臼で細かく。
中央部分には熱したままの覆盆子を詰め込んで溢れるような飴に。
鉄のすぷうんで掬って召し上がれ。
「はい、おまたせ」
「じゃ、早速頂くゼ」
ぱくっと一口。口の中に広がる酸味、鉄臭さ。
「おぉ、こいつぁすげぇナ! ホントに猫耳が生えてラァ! あははは! にゃおーんなんてナ!
ご丁寧に他の奴らまで生えてると来たもんダ。特に店長さん、アンタ一番違和感ねぇナ! まるで元から生えてるみたいだナ!」
「……ふふ、そう? それなら何よりだよ」
外の景色。往来をいく人々にすらも猫耳が生えている。壱和はくくくっと笑みを浮かべた。
「ところで店長さん、絢と言ったカ? こんな話を聞いたことはあるかイ? とある作家のセンセイが言ってたらしいんだガ……」
なんでも猫ってその瞳を通して人の魂が見えるという噂。その魂の中にはその人の本質が見えるのだという。。
「『おめが』だか何だか難しいのはサッパリだが、つまり猫の眼には嘘やらまやかしを除き真実だけを見抜く力があるって話サ。『人が猫のやうに見える』……今ならどんなモノでも見通せそうさネ」
ぼふん、と音を立てて消えていく猫の耳、尻尾。
「店長さん、アンタならワカルんじゃないカ?」
「ふふ、さあどうだろうね」
「……まぁ、いいカ! ごちそうさン! 中々に美味い飴だったゼ!」
「それは何より。また来てね」
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(今日、この世界に初めて訪れますので……少し楽しみなのですよね)
わくわくと胸を踊らせる甘露寺 結衣(p3p008114)は街並みに目を向ける。
「何故か……こう、心擽る様な街並みに大きな桜の木があります! 観光してみたい所ですが、依頼された方のもとに急がなくっては」
おだんごのお店や服のお店。どれも気になるのだけれど、と己を律して。後で見に来ようと誓ったのだった。
「初めまして」
「うん、こんにちは」
「さっそく飴の注文をしますね。味付けと好きな色は直ぐに浮かびますが……『望む効能』?」
「ああ、おれ達の世界では薬のような役割を果たしているんだ。簡単なものでもいいから、聞かせてくれると嬉しいよ」
「そうですね……出来ました、コレでお願いいたします」
・オーダーメモ
好きな味付け:爽やかな甘さ
好きな後味:すっきり
好きな色:白、又は黄緑色
望む効能:心が軽くなる
・レシピメモ
春につんでおいた乾燥させたたんぽぽを水で戻して一枚ずつ花びらをとる。
朝にとった薄荷を千切りに、熱湯で茹でてから丸く固める。その飢えから花びらを皮のようにつけていく。黄色と黄緑のまばらになるように。
粉砂糖をふるりとまぶせて甘みもほんのり残しておこう。
「これでどうだろう?」
「わぁ、ありがとうございます! 素敵です……!」
瓶のなかに多めに詰められた小さな粒は、結衣が小さく瓶を振るとそれに合わせて揺れていく。
これをどこで食べようかと思案するのもまた楽しい。
なにか悩み事ができたら、そのときに食べようと考えて、結衣は街の観光へと向かったのだった。
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「ほう、ちゃんとした店を持ったのか。なかなか儲かっているようじゃないか、おめでとさん」
「ふふ、ありがとう。来てくれて有難う、世界」
花束のような何かを抱えやってきた『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は店内を見渡した。
「そういえばこの世界には何度も来ているが、なんだかんだで絢の飴を食べる機会はそんなに多くは無かったな……。誘ってくれたってことは当然タダなんだろう? なら今日は腹が膨れるまで馳走させてもらうからそのつもりでよろしくな」
「飴で腹が膨れるなら勿論。さ、オーダーノートに記入をお願いするよ」
「ああ、任せろ。
・オーダーメモ
好きな味付け:甘め。甘ければ甘いほどいい。むしろ甘さしかいらない。いっそ砂糖をくれればそれでいい。
好きな後味:当然甘さが残るといい。例えるならばハチミツのような感じかな。
好きな色:特にない。こだわりはないが強いて言うなら明るめの色にしといてくれ。
望む効能:所持してる金が増えるようになるとか、急に女性にモテ始めるとかなんかそういうのは……ないですか、はい。まあ特別な効能とかいらないからその分飴の量を増やしてくれれば別に何でもいいさ。
・レシピメモ
砂糖の塊で良いらしいので砂糖を煮詰めよう。はちみつを一緒に練り混ぜて、厭味ったらしくならない程度に桃の甘さも。
虫歯になりそうな飴だよねこれ。
丸く大粒なものにしあげて、粉砂糖をこれでもかとまぶす。瓶いっぱいに砂糖で埋める。
……健康に悪そう。
「そういえばこの花束は……」
「ああ、それは花火だ。持って来たから夜にこれで遊ぼうぜ。ぶっちゃけ今年は一回もコイツで遊んでないから俺がやりたいだけなんだけどな」
「ああ、勿論だよ。ということで、これでどうかな」
「美味しそう……ってわけじゃあないな。見事に砂糖の塊だ」
「虫歯になりそうだよね。しっかり歯磨きはするんだよ?」
「勿論だ。そうしなちと甘いものを満足に楽しむことも出来ないからな」
早速口の中に入れる。
当然のことながら甘い。すごいあまい。頭痛さえしそう。だけどそれがいい。それでいいのか。
「じゃ、また夜に。ここで待ってるね」
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「絢様!」
「……ああ、ネーヴェ。どうしたの?」
「なんだか、お久しぶりな、ような……そうでも、ないような……いえ、なんでもありません。開店、おめでとう、ございます!」
「ふふ、ありがとう。来てくれて嬉しいよ。とても、ね」
からからと車椅子を揺らしながらやってきた『とべないうさぎ』ネーヴェ(p3p007199)は、ひらりと手を振って。
「いつもの屋台がなくて、ちょっとだけ、新鮮。このお店も、これからは屋台と一緒に、絢様の相棒、ですね」
「ああ、そうなるといいな。あんまり長居はできなさそうだけれど、せめて長くやっていきたいよ」
妖怪であるということは長寿であること。
永遠に近い時間をここで過ごすのは不可能だと悟っているのだろう。
「はっ。この前、頂いた飴舐めたら、とても、とても、眠くなってしまって。少し寝過ぎてしまう、のです。……いえ、あまり寝られない日が、多いので。丁度良いのかも、知れませんが」
ふむ、と瞬いた絢は頷いて。ネーヴェをカウンターの近くまで押してから、自身もまたカウンターへ入る。
「それに……夢の中で、絢様に会えるんです! 絢様が作ったから、でしょうか? 夢の中の絢様が、3日おきに食べなさいと、言うものだから……ほら、見てください!」
がさごそとポーチを漁ったネーヴェは、誇るように瓶を出した。
「あっという間に、減ってしまったのです、よ」
「……へぇ。そうか。うーん……」
表情が固いままの絢。ネーヴェから小瓶を受け取ると、しばしの間思案する。
(最初に貰った時と、味が少し、違うけれど。絢様の作った飴なら、きっと、きっと……そういう事もあるのでしょう)
ふるふると首を横に振る。友人を疑うなんて、とんでもない。
「だから、絢様。また、作って欲しいのです。優しく、ほんのりとした甘さで。それから、ゆっくり、眠気を誘ってくれるような……難しいお願い、でしょうか?」
「いいや。おれに不可能はないよ、ネーヴェ。きみの頼みなら尚更ね。少し待っていて?」
・オーダーメモ
好きな味付け:ほんのり甘め
好きな後味:微かに残る
好きな色:白、桃、青
望む効能:よく眠れる
・レシピメモ
牛乳と薫衣草をとかしてはちみつを入れたいつもの。
ゆっくり眠気を誘うように、という指定には、新月の夜の海底でくんだ水に桜を落とした水を混ぜる。
桜色と星夜の海色のマーブル。口溶けはなめらか、後はほんの少しだけ残るように。
それから、気付かない程度におまじないを。足が良くなりますようになんて、傲慢だけどね。
(この飴を舐めると、あの夢を見ず、寝過ぎてしまう……だから、でしょうか。次の日の夜に見る夢は、残酷過ぎるほどに、優しい夢で。そんな夢を、見たくなくて)
夢でもいいから、あの方に会いたい。
(……そんな思いを抱く自分が、たまらなく、嫌いで)
(だから。どうすることも出来ないままに今日が来ている。
(飴を断つこともできず、毎日舐めることもできず。相変わらず、3日にひとつ。決まったペースで、飴が少なくなるのです)
絢が調合する様をぼんやりと眺める。
それは長いようにも短いようにも思えた。
「ねぇ、ネーヴェ」
「はい、なんでしょう?」
「夢の中のおれが何ていうかは知らないけど、せめておれには頼ってくれたって良いんだからね」
「……はい。善処して、みます」
じゃないと、また会いに行っちゃうかも。
妖しい笑みを浮かべた絢は、どうしたってもう、昔の穏やかな彼ではないような気がした。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
オリジナルのなにか、がすきです。
どうも、染です。ついに店を開きました。
●依頼内容
飴のオーダー
お店をオープンする前に一度手を動かしておきたいのだそう。
どんなものでも構わないそうです。お好きなものを頼みましょう。
下記のオーダー表を利用するといいでしょう。
●オーダー表
好きな味付け:甘め/辛め など
好きな後味:すっきり/残る感じ など
好きな色:
望む効能:(例:よく眠れるようにしてほしい!)
●世界観
和風世界『濃々淡々』。
色彩やかで、四季折々の自然や街並みの美しい世界。
また、ヒトと妖の住まう和の世界でもあります。
軍隊がこの世界の統制を行っており、悪しきものは退治したり、困りごとを解決するのもその軍隊のようです。
中心にそびえる大きな桜の木がシンボルであり神様的存在です。
(大まかには、明治時代の日本を想定した世界となっています)
●絢(けん)
華奢な男。飴屋の主人であり、濃々淡々生まれの境界案内人です。
手押しの屋台を引いて飴を売り、日銭を稼いでいます。
屋台には飴細工やら瓶詰めの丸い飴やらがあります。
彼の正体は化け猫。温厚で聞き上手です。
店を開きました。
二階建ての小さなカフェのような内装です。
会計スペースのガラスケースには飴がサンプルとして入れてあり、また絢のいる背後の壁にはずらっと薬用効果のある飴が並んでいます。
以上、皆様のご来店をお待ちしております。
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