シナリオ詳細
<竜想エリタージュ>エントマChannel/遭難編。或いは、メイヤーズ・ゴールド号の冒険…。
オープニング
●シレンツォの沈没船
地上の楽園、シレンツィオリゾート。
かつての悲劇も今は昔……というには些か経過した時間は足りていないが、少なくとも今のシレンツィオリゾートには多くの笑顔が溢れていた。
けれど、フェデリア島から少し離れた海域では船の遭難・行方不明が相次いでいる。
世はなべてことも無し……とは、なかなかどうしていかないものだ。
問題の海域……ダガヌ海域と呼ばれるそこは、3つの島を頂点に三角形を描くような形をしている。
そのうち1つ、ディンギル岩礁地帯はその名の通り岩礁が多く、船の事故が多い地帯であった。
おそらく、その海底には幾つもの船が沈んでいることだろう。
「そしてこれが、沈没船“メイヤーズ・ゴールド号”ね。なんでもゴーストが住みついていて、船内では数多の不可思議な出来事が起きるとか」
そう言って船の周囲を撮影するのはエントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)と言う名の女性だ。練達出身の配信者であるエントマは“メイヤーズ・ゴールド号”の噂を聞きつけ、単身ディンギル岩礁地帯まで足を運んだ。
おそらく、船内に出没するゴーストとは、不思議な幽霊『フリーパレット』のことだろう。
フリーパレットは思念の集合体であり、死んだ個人あるいは団体の想いや未練が集まって海に漂っているものだ。言葉を発することもあるが、意思の疎通を図れることは滅多に無いと聞いている。
「うぅん? 甲板の一部以外は海に沈んでいるね。徐々に沈んでいったんだろうけど……これはちょっと、探索も難航しそうな予感?」
少しの間、思案した後にエントマは潜水服の着用を始めた。顔を覆うゴーグルに、背中に背負った酸素ボンベ。海中へ潜る準備は万全だ。
こうして彼女は、不可思議の待ち受ける“メイヤーズ・ゴールド号”へ1人乗り込んで行った。
そのまま遭難することなんて、ちっとも予想していなかったのである。
●エントマChannel
画面一杯に映っているのは、眼鏡をかけた少女の顔だ。
周囲は海水。酸素ボンベから肺いっぱいに酸素を吸い込み、にこやかにポーズを決めてみせた。
『 Opa! エントマ・ヴィーヴィーの~! エントマ! チャンネル~!!』
顔の横でピースサイン。
明るく、大きく、はきはきと。
エントマ・ヴィーヴィーが撮影中の動画のタイトルを告げる。
自分の姿を見せつけるように、カメラの前でくるりと一回転。
それから彼女は、ガクリと肩を落として見せた。
『え~、開始早々こういう話をするのもアレなんだけど、絶賛遭難中で~す。それなりに大きい船とはいえ、全長はせいぜい150メートルぐらいかな? ちゃんと道順も記録しながら進んだはずなんだけど、どうしてこうなったのかと言うと~」
カメラが離れて、エントマの隣に立った半透明の人型を移す。
明らかに生きている人間ではないその姿。
撮影されていることを自覚しているのか、そうでないのか……身じろぎもせずに、ただそこに浮遊しているようだ。
『こちら、不思議な幽霊『フリーパレット』くんです。名前が無いのもあれなんで、ふーくんって呼んでるんだけど……何でも私たちは、ダンジョン化した沈没船に“囚われちゃった”みたいなんだよね』
エントマは“私たち”と言った。
つまり、沈没船から出られないでいるのはふーくんも同様ということだ。
『ふーくんはずっと“黄金、黄金”って言ってます。たぶん船のどこかにある“黄金”を探しているんだと思ったんだよね。だから私は、ふーくんと一緒に黄金を探すことにしたんだけど』
と、ここで映像が切り替わる。
画面に映されたのは、船に入ってから現在までのダイジェスト版冒険譚である。
【致死毒】を有したクラゲの群れ。
【泥沼】を付与する、汚泥のような海流に、時折増えたり、消えたりする壁。なお、余談ではあるが正規のルートの壁は増えたり、消えたりしない模様。
目にした者に【呪い】を付与する不気味な絵画が、所々に。
そして極めつけは【塔】【封印】【懊悩】を付与する、うじゃけた水死体。こちらはどうにもタコやイカのように数本の手足を有しており、時折姿を現しては、エントマとふーくんを追い立てる。
『そんな風に数多の苦難を乗り越えて、私たちは今、船室の1つに隠れています。そう、つまり……遭・難・中!』
ぱっぱら~♪ と、場違い極まる軽快なBGMが鳴る。
逃げ場は無い。
先へ進むにも、もはや自分たちの居場所がどこなのかも分からない。
ふーくんはずっと「黄金、黄金」と口にしている。
『画面の前の皆! チャンネル登録&高評価よろしくね☆ ……じゃなかった。この動画を見たら、ローレットって言うところに連絡してもらえる? きっと何とかしてくれるから!』
- <竜想エリタージュ>エントマChannel/遭難編。或いは、メイヤーズ・ゴールド号の冒険…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年09月07日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●沈没船“メイヤーズ・ゴールド号”
地上の楽園、シレンツィオリゾート。
ディンギル岩礁地帯に無数に転がる沈没船へ、イレギュラーズが立ち入ったのは今からおよそ2時間ほど前。
ダンジョン化した沈没船の名は“メイヤーズ・ゴールド号”。
船内にはゴーストが住みついており、不可思議な現象が幾つも起きると噂される幽霊船だ。海水で満たされた船内では、膨大な数の毒クラゲや不気味な絵画が目に出来る。
なるほど、たしかに視界を過る毒クラゲたちの姿はある種幻想的で、通路に飾られた絵画はいかにもそれらしい。
心霊スポットの探索でもしている気分だ。
これを動画に撮影すれば、きっと再生数を示すカウンターもくるくるとよく回るだろう。
「……まぁ、そこを探索しようっていう気持ちは少しも分かりませんが」
そう言って『不屈の障壁』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)が少年から巨大たい焼きへと姿を変える。
砂埃を巻き上げながら水中を漂うベークの体に、数本ものクラゲの触手が巻き付いた。
「まだまだ湧いてきますね。どうします?」
触手に巻き付かれながら、ベークはそう問いかける。
「相手してちゃキリが無いから、無視していこう。どうしても避けて通れない分だけ斬って行けばいい」
ベークに巻き付く触手を刀で斬り落とし『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)が通路をまっすぐ泳いで抜けた。
クラゲの群れの真ん中を突っ切った史之は、そこで一瞬動きを止める。
「……っと。絵画だ!」
「なんとも不気味な場所じゃなぁ……早くエントマと、あと黄金とやらを見つけ出さねばなぁ」
通路の奥の曲がり角には、赤黒い絵具を塗りたくったみたいな絵画が飾られている。絵画から放たれる不可視な、けれど心臓に直接指を這わせられるような確かな不快感に、史之は思わず足を止めたというわけだ。
絵画を一瞥した『飛び出し注意』エメリア・エメラ・グリュメーア(p3p002311)が、視線を左右へ泳がせる。
「……右の通路が怪しいかな?」
絵画へ刀を突き立てながら史之がそう呟いた。
「っと、待った。右の方向、壁かなにか……あ、いや、海流だこれ!」
先へ進もうとした史之を『元魔人第十三号』岩倉・鈴音(p3p006119)が慌てて呼び止めた。
直後、4人の視界が灰に染め上げられた。
ぐるり、と。
上下の区別さえつかなくなったのは、海流に飲み込まれたからだ。
泥を多分に含んだ海流に飲み込まれ、4人は左の通路へ流されていった。
海水にふやけ、腐り爛れた肌をした男女の別さえ判然とせぬ水死体。
初めにそれを目にした時、『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は溺死した“メイヤーズ・ゴールド号”の船員だと思った。
けれど、あろうことかそれは白濁した目をぎょろりと動かして、マリエッタへ向けう皮膚の剥がれ落ちた腕を伸ばしたという。
見れば、下半身にはタコかイカのような無数の触腕がある。
「っ……あれが」
じわり、とマリエッタの腕に刻まれた紋様から、赤い血が滲む。
瞬間、マリエッタの胸部に鈍い痛みが走った。
ほんの数瞬。マリエッタが目を閉じている間に、いつの間にかうじゃけた死体は消えている。はじめから何もいなかったように、まるで泡か影のように。
「……どうしてこんなようになってしまったんでしょうね。どうにかして救ってあげたいですが」
「消えちまったもんはしょうがねぇ。しかし、こんな所に長居してたら命がいくつあっても足りねぇや。早いとこ見つけてやろうぜ」
構えていた拳を降ろし『金剛不壊の華』型破 命(p3p009483)が溜め息を零した。
一体、何が目的なのか……時折姿を現しては、ほんの少しだけ邪魔をして、あっという間に姿を晦ます。
エントマはまだ無事だろうか。
そんな不安を胸に抱いたマリエッタは、唇を噛み締め先へと進むことにした。
割れた木扉の向こうには、すっかり腐った女の遺体が浮いていた。
「げぇー! あのエントマちゃんが配信中にあんなことになってしまうなんて! でも安心しな……骨はウチらが拾っとくぜ。あと高評価も押しておくぜ!」
抱きとめるように遺体へ腕を伸ばしながら『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)が悲鳴をあげる。
けれど、腐りかけた遺体に触れる気は無いのか、絶妙に距離を保ったままだ。
「いやぁ、これはエントマとは関係のない遺体じゃないかな。だいぶ腐敗が進んでいるし、死後数週間は経っていそうだ」
きっと潮の流れに運ばれて来たものだろう。
遺体の様子を観察し『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)はそう結論付けた。
何しろ女の遺体が身につけている衣服は、およそ海を泳いだり、海辺で活動するのに不向きなものなのだから。
「陸地で死んだ遺体かな? 誰かが海へ投げ込んで、ここに流されて来たんだろうけど……今はどうでもいい話だね」
「えっ? 無事っぽい? マジで? オッケ、オッケ! エントマちゃん助けにいくぞー!」
「……まぁ、そのために来たわけだしね。それにしても、沈没船の探索とは、ロマンがあって良いねえ」
沈没船“メイヤーズ・ゴールド号”が、いつ沈んだのかは定かではない。
しかし、船名が特定できている辺り、そう古い時代の船と言うわけではないのだろう。しかし、その割には船内に遺体や遺骨は一切、見当たらない。
不可思議なこともあるものだ、と。
そんなことを考えながら、ゼフィラは船の見取り図へと視線を落とした。
●沈没船の探索
辺りは一面真っ暗だ。
海流に流され、逃げ込んだ先はおそらく船底近くの貨物室だろう。
大量の泥と、毒クラゲも一緒に部屋へ雪崩れ込んでいる。動けば手足が毒クラゲの触腕に触れるような状態だ。不用意に動けば、ダメージを喰らう。
少しであれば問題ないが、ダメージが蓄積すればそうもいかない。海中で体力が尽きれば、ろくな結果にならないことは明白だからだ。
「仕方ないですね。さて……うまく凌げるといいのですが」
燐光を纏ったたい焼きが、クラゲの群れの真ん中目指して泳ぎ出す。毒の触手など物ともせずに、悠々と泳ぐその様は、ともすると巨躯の鯨のようにさえ見える……かもしれない。
悠然と。
毒の触手を引き千切りながら泳ぐベークの後を追い、クラゲたちが一ヶ所に集まっていく。
「……一緒に吹っ飛ばすなら一声掛けて欲しいとは思います」
「OK! えーっと、出口は……あっち! それと治療と……いそがしいネ!」
大盾の影に隠れた鈴音が告げた。
りぃん、と海水が震え、周囲に淡い燐光が飛び散る。
クラゲの触手により負った傷を治療し、音の反響を頼りに貨物室の出口を察知。史之へ指示を送りながら、周囲の警戒も怠らないと、何とも忙しく立ち回っている。
「道を開いたら、ベークさんを回収して、さっきの場所まで急いで戻ろう。えぇっと、順路は!?」
「マッピングをしておるからな、おそらく案内できるはずじゃ」
「じゃあ、エメリアさんが先頭で……行くよ!」
史之が刀を一閃させる。
薙ぎ払うような斬撃が、毒クラゲたちを2つに引き裂く。
1度の攻撃で一掃できる量では無いが、数が減れば動きやすくもなるだろう。史之が切り開いた空間へ、まずは1匹の魚が……その次に、蛇の下半身をくねらせ泳ぐエメリアが身を進ませる。
「っ!? 壁じゃ! 通路に壁が出来ておる!」
そう叫んだエメリアが、身を翻し貨物室へと帰還した。通路へ出ても、先へ進むことが出来ない。
「壁、壊すのはどうですか?」
クラゲに群がられているベークが策を出す。
しかし、大量のクラゲが邪魔で壁を壊すには暫く時間がかかりそうだ。
「鈴音さん! トラブル発生の合図を!」
「了解っ! 上手く伝わりますように!」
史之が刀を振るう背後で、鈴音が大きく口を開いた。
直後、響く大音声。
水中において、音は陸の約5倍の速さで進む。
鈴音の放った咆哮は、果たして仲間たちへ届いただろうか。
女の声が聞こえた気がした。
暗い部屋の片隅で、息を殺して身を潜めていたエントマは、隣に漂う思念体……フリーパレットへと視線を向けた。
『おうごん……おうごん』
「……うん。聞こえたよね? 此れってきっと助けが来たってことじゃない?」
意思の疎通ができているわけではない。
エントマが勝手に“会話が成立している体”をとっているだけだ。
誰もいない、光も届かない沈没船の一室で、1人で過ごすと心が折れてしまうだろう。そうならないようエントマは、フリーパレットに“ふーちゃん”の愛称を与え、まるで旅の道連れのように扱っているのだ。
実際、フリーパレットはどういうわけかエントマの後について来る。
出来るだけ音を立てないように、エントマは行動を開始。隠れ潜んでいた船室から、通路へ顔を覗かせた。
「っ……タイミングが悪い!」
歯噛みして、エントマは進行を止めた。
探索の途中で何度も見かけた、うじゃけた死体が通路の奥にいたからだ。
音を立てないように注意し、誰もいない船室に身を潜ませることで、これまでどうにか“アレ”をやり過ごして来た。
今回もそうするべきだ……けれど、しかし。
「通路の向こうに光が見えるぅぅぅ! あぁー……もう、賭けるっきゃないか!」
エントマを探しに来てくれたらしい何者かは、うじゃけた死体を避けてどこかへ行くかもしれない。
もしかしたら、エントマが助かる最後のチャンスが今かも知れない。
そう考えれば、この機会を逃すわけにはいかなかった。
一瞬で覚悟を決めたエントマは、口の前へとハンドスピーカーを寄せた。
酸素ボンベから供給される空気を大量に吸い込んで、エントマは声の限りに叫ぶ。
『エントマ! チャンネルで~すっ!!!』
ビリビリと海水を震わせて。
エントマの声は、ゼフィラの耳に届いたはずだ。
「そこの角を曲がった先だ!」
声を聞くなり、ゼフィラが通路の奥を指さす。
うじゃけた死体を避けるために、その場を離れようとしていた矢先のことだ。
ゼフィラ自身は前に出ず、その場で歌を奏で始める。
魔力を孕んだ歌声が、暗い通路をぽぅと微かに白く照らした。
「秋奈さんは死体の相手を! 命さんは、エントマさんのところへまっすぐ向かってください!」
姿の見えぬエントマの状態は不明だが、万が一のことを考えるのなら壁役もこなせる命の方が適任だろう。
マリエッタの指揮のもと、2人は同時に通路の奥へと泳いでいった。
2人の接近に気付いたのか、うじゃけた死体が白濁した目を秋奈へ向ける。ゼフィラの支援を受けながら、秋奈は2本の刀を抜き放った。
「今からここはキラキラのパリピ空間だ! 魂と共にフェスれ!」
低い姿勢で滑るように死体へ接近した秋奈は、まずは無数の脚を狙って刀を一閃。
死体がよろけた隙を突き、その横を命が駆け抜ける。
クラゲを拳で殴打して、命が声を張り上げる。
「生きてるか!?」
「生きてまーす! ヘルプ! ハリーハリー!」
「よし、生きてるな! 悪運の強いやつだ!」
助けを求めて差し伸べられたエントマの手を引っ掴み、力任せに引き摺って行く。
進路を阻むクラゲの群れを押し退けながら、命はまっすぐ仲間たちの元を目指した。
いつの間にか、うじゃけた死体は消えていた。
秋奈と交戦していたはずだが、突如として泡のように輪郭を崩して姿を晦ませたのである。
「非常に厄介ですね。いつの間にか現れ、そして消える。察知できない敵……後をついてくる……ですか」
難しい顔をして、マリエッタは周囲の様子を窺うが死体の姿は見当たらない。張り巡らせた血の糸には、クラゲばかりが引っ掛かる。
元々気配も希薄な相手だ。
こちらから見つけ出して、仕留めることは難しい。
「まぁ、エントマ君の救助という目的は果たしたわけだし、今は気にしても仕方ないだろう。さて、このまま一緒に黄金を探すとしようか」
そう言ってゼフィラは、視線を秋奈へと向ける。
別行動をとっている仲間へ、合流の合図を送るのだ。
●黄金の部屋
1匹の魚に導かれ、現れたのはたい焼きだった。
ベークに続いて、エメリア、鈴音……最後尾に史之が顔を覗かせた。
「随分と大所帯で来たんだね?」
へぇ、と感心するようにエントマがそんなことを言う。
「危険が見えている沈没船の探索だからね。いや、見えてる地雷を踏みに行くその蛮勇、嫌いじゃないよ」
呆れているのか、感心しているのか。
史之は肩を竦めて言った。
『 Opa! エントマでっす! 現在、私たちは沈没船の最奥目指して進行中です!』
カメラの前でピースを決めるエントマは、胸の前にベークを抱え込んでいる。ベークの防御力に目を付けた彼女は、探索の間、彼を盾として使い倒そうと考えたのだ。
「壁の出現・消失の無い経路を辿ってゆくと……そこは右じゃの」
「まさに虱潰しといった感じだけど……ふふっ、冒険はこうでなくてはね」
エメリアとゼフィラの先導で、探索は順調に進んでいた。
慣れているのか、ゼフィラの指示は的確だ。
探索に役立つ知識や道具を適宜、上手く使うことで道中の危険やトラブルを未然に防いで見せる。
実際のところ、エントマが遭難した原因の1つが知識と準備不足なのである。
「っしゃ! いくぜゼフィラちゃん、命っち! 黄金は私ちゃんたちが見つけたらぁ!」
進路が分かれば、秋奈と史之が先陣を切って前進を開始。
道を阻むクラゲを斬り捨て、時に回避し、絵画があれば刀で斬り裂き、強引に道を切り開く。
『いやぁ、やっぱり探索は数だね! 数! 頼りになるったらないよ!』
なんて。
どこか陽気な調子で告げるエントマの横では、フリーパレットの“ふーちゃん”が、踊るように旋回していた。
『ところで、何でたい焼きが喋ってるんだね?』
「……鯛です。まぁ、お気になさらず。僕は探索の能力はそう高くは無いですからね……精々壁役として頑張ります」
『んー?』
よく分からないが、ベークを連れていれば安全性もあがるのだから文句はないのだ。
船の船底付近。
明らかに他とは違う、金属製の大扉。
『おぉ! それっぽい! 船の設計者は撮れ高ってのを理解しているらしいねー!』
上機嫌なエントマと、高揚しているふーちゃん。
それに反して、マリエッタは緊張した面持ちで視線を背後へと向けた。
「また……正解のルートを知っていたみたいですね」
うじゃけた死体がそこにいる。
思えば、うじゃけた死体を見かけた通路はどれも“正解”のものだった。言葉も通じない、会話の意思を示すこともしない奇妙な死体に問うても意味は無いだろうが、きっと何らかの意図があって船内を彷徨っているのだろう。
「ブチかましてやるよ。邪魔はさせない」
鈴音が先頭に立って、死体を真正面から待ち受ける。
その後ろには、秋奈と史之が位置取ることで防衛線を展開する。
一行の頭上に、淡い燐光が降り注ぐ。消耗した体力を回復させるための治癒の術式だ。
「APは回復できる故、遠慮は不要じゃよ」
ひらひらと手を振りエメリアは言った。
戦闘準備は完了だ。
けれど、死体は襲って来ない。一定の距離を保ったまま、ただこちらの様子を窺っているだけだ。
「何のつもりでしょうか?」
「分からないけど、睨み合いを続ける時間がもったいないかな。キミ、この扉を開けられないかな?」
エントマを庇うようにして、マリエッタとゼフィラが言葉を交わす。
「あぁ、すぐに開けるぜ」
拳を握り、床に両の足を着け、命は腰を後ろへ捻った。
一撃。
命の拳が、鉄扉の端を打つ。
歪んだ鉄扉の隙間から、錆び付いた鍵の破片が零れ落ちた。
『よし! いよいよ対面だね! 果たして黄金はここにあるのか! さぁ、オープンザドアー!』
『黄金、黄金……黄金!』
にわかに沸き立つエントマとふーちゃん。
それを見守る命とベークが、一瞬視線を交差させた。何かしらのトラブルがあれば、飛び出していって盾となる心算なのだろう。
命が扉を強く押した。
ゆっくりと、鉄の扉が内へと開き……。
エントマがカメラを部屋の中へと潜行させた。ゼフィラがライトで部屋を照らす。
果たして、そこにあったのは床一面に散らばった大量の金貨や黄金塊。
ライトの光を反射して、エントマの視界が金に染まった。
『黄金、黄金! 見つけた! やっと!』
『っ……ふーちゃん!? あ、あれ……? ふーちゃん?』
嬉しそうな声が聞こえて。
気づけばふーちゃん……フリーパレットは消えていた。
代わりに、エントマの目の前に竜宮幣が降って来る。
それを両手でしっかりとつかんで、エントマは目を丸くした。
『……ふーちゃん?』
「“願い事”が叶えられたのでしょう」
「帰るべき場所に還ったんだよ。そう辛そうな顔をするものじゃない」
マリエッタとゼフィラの言葉を聞いているのかいないのか。
突然の別れに、エントマは言葉が出ないようだ。
うじゃけた死体も、いつの間にか消えていた。
一行が黄金の元へ辿り着いたことで、彼は役目を終えたのかもしれない。
持てるだけの金を手にして、9人は元来た道を引き返す。
撮影を終え、カメラは既に止まっていた。
時々……いなくなった誰かの姿を探すみたいに、エントマは視線を左右へ揺らす。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様です。
エントマChannelの撮影は無事に完了しました。
また“メイヤーズ・ゴールド号”の財宝は無事に回収されました。
依頼は成功となります。
この度はご参加ありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
エントマの救出&“黄金”の発見
●ターゲット
・うじゃけた水死体(深怪魔)×1
タコやイカのように無数の脚を備えた“何か”。
無言のまま姿を現して、つかず離れず後を付いて来る。
そして気づけば、まるで影か泡のようにあっという間に姿を晦ます。
【塔】【封印】【懊悩】を付与する攻撃手段を有しているようだ。
・クラゲの群れ
【致死毒】を有したクラゲの群れ。
水中という場所柄、非常に視認しづらい。
積極的に襲って来ることは無いが、そもそもそこら中に浮かんでいる。
●フィールド
沈没船“メイヤーズ・ゴールド号”。
船内は暗く、ダンジョン化している。
船内の所々には【泥沼】を付与する、汚泥のような海流が流れている区画がある。
船内の所々には、目にした者に【呪い】を付与する不気味な絵画が設置されている。
通路の壁は時々増えたり、消えたりする。
ただし、エントマの見立てでは正解のルートだけには壁が発生しない。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●特殊ルール『竜宮の波紋・改』
この海域では乙姫メーア・ディーネ―の力をうけ、PCは戦闘力を向上させることができ、水中では呼吸が可能になります。水中行動スキルを持っている場合更に有利になります。
竜宮城の聖防具に近い水着姿にのみ適用していましたが、竜宮幣が一定数集まったことでどんな服装でも加護を得ることができるようになりました。
●特殊ドロップ『竜宮幣』
当シナリオでは参加者全員にアイテム『竜宮幣』がドロップします。
竜宮幣を使用すると当シリーズ内で使える携行品アイテムと交換できます。
https://rev1.reversion.jp/page/dragtip_yasasigyaru
----用語説明----
●シレンツィオ・リゾート
かつて絶望の青と呼ばれた海域において、決戦の場となった島です。
現在は豊穣・海洋の貿易拠点として急速に発展し、半ばリゾート地の姿を見せています。
多くの海洋・豊穣の富裕層や商人がバカンスに利用しています。また、二国の貿易に強くかかわる鉄帝国人や、幻想の裕福な貴族なども、様々な思惑でこの地に姿を現すことがあります。
住民同士のささやかなトラブルこそあれど、大きな事件は発生しておらず、平和なリゾート地として、今は多くの金を生み出す重要都市となっています。
https://rev1.reversion.jp/page/sirenzio
●フリーパレット
カラフルな見た目をした、海に漂う思念の集合体です。
シレンツィオを中心にいくつも出現しており、総称してフリーパレットと呼ばれています。
調査したところ霊魂の一種であるらしく、竜宮幣に対して磁石の砂鉄の如く思念がくっついて実体化しているようです。
幽霊だとされいますが故人が持っているような記憶や人格は有していません。
口調や一人称も個体によってバラバラで、それぞれの個体は『願い事』をもっています。
この願い事を叶えてやることで思念が成仏し、竜宮幣をドロップします。
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