PandoraPartyProject

シナリオ詳細

それはペットじゃない。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●かわいい生き物。
 幻想に建つ貴族の邸宅で、少女は頬を紅潮させる。
「ふふふ……!」
 ほんの数時間前まで、少女は父である子爵とともに旅行に出かけていた。といっても、他国に行っていたわけではない。ほんの少し遠出をしただけだ。
 美しい森と湖がある避暑地だった。そこで、出会ったのだ。
「かーわいいー!」
 少女の小さな両手におさまる、毛玉のようなうさぎに。

●ペットにできない。
「それが三週間くらい前のこと、なのだそうです。うさぎはお嬢さんが大切にこっそり飼っていたのですがぁ……。どうやら普通のうさぎじゃなかったようなのです」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が依頼書に目を落としながら説明する。
 三週間でうさぎは体調三メートルまで急成長。挙句に増殖してしまった。
 現在は十匹。邸宅を乗っとる形で立てこもっているらしい。攻撃的な生き物に子爵らはなすすべなく、ローレットに討伐の依頼を出すと同時に別邸に避難した。
「森の固有種ではなく、森に住んでいる魔女さんが特別な術を施したうさぎだという情報も入っているのです。魔女さんも、まさかうさぎをとられるとは思っていなかったようなのです」
 とはいえ、こうなった以上は仕方ない。うさぎ討伐に関して、魔女は渋々ながら了承しているらしい。
「かわいそうですが、被害が広がる前にうさぎ狩りをしてほしいのですー!」
 森から勝手に生き物を持ち帰ったご令嬢への説教は、両親がすでにすませているとのことだった。

GMコメント

 はじめまして、あいきとうかと申します。
 勝手に生き物を持ち帰ってはいけません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●邸宅について
 うさぎたちはエントランスホールを陣どっています。戦場もエントランスホールになるでしょう。
 かなり広い場所です。窓は四か所。天井も高く、シャンデリアが吊り下げられています。
 できるだけ屋敷を破壊しないでほしい、と子爵は思っています。
 また、うさぎを窓やぶち抜いた壁から脱走させた場合、近隣の邸宅や通行人にまで被害が及ぶ可能性があります。

●巨大うさぎ
 森の魔所が大きなモフモフ欲しさに魔術をかけてしまったうさぎです。
 どの個体も体長三メートル。小回りはあまり効かないようです。知能は高くありません。問答無用で襲ってきます。
 倒すと二十センチほどに戻ります。

●攻撃
 パンチ……至近距離、単体。前肢による攻撃。
 引っ掻く……至近距離、単体。うさぎにも爪が生えています。
 体当たり……近距離、単体。巨体でぶつかってきます。
 のしかかる……近距離、単体。重いうさぎにのしかかられると、苦しいだけではすみません。

 強力な敵というほどではありませんが、油断は禁物です。

 貴族令嬢の自業自得の後始末を、どうかよろしくお願いいたします!

  • それはペットじゃない。完了
  • GM名あいきとうか
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年08月28日 21時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

猫崎・桜(p3p000109)
魅せたがり・蛸賊の天敵
如月 ユウ(p3p000205)
浄謐たるセルリアン・ブルー
テテス・V・ユグドルティン(p3p000275)
樹妖精の錬金術士
巡理 リイン(p3p000831)
円環の導手
アレクサンダー・A・ライオンハート(p3p001627)
百獣王候補者
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
鴉羽・九鬼(p3p006158)
Life is fragile
クレア(p3p006454)
ファッショナブル・ドッグ

リプレイ

●うさぎ狩り
 貴族の屋敷は不気味なほどに静かだった。
「ここが、うさぎが大量発生した場所であるか」
「わう」
『百獣王候補者』アレクサンダー・A・ライオンハート(p3p001627)の呟きに、『ファッショナブル・ドッグ』クレア(p3p006454)が応じて小さく唸った。
 彼女の超嗅覚は、エントランスホールに陣どっているうさぎのにおいをすでに嗅ぎあてている。
「うさぎさんも大変だね」
 嘆息しながら言った美咲・マクスウェル(p3p005192)は屋敷に保護結界を張る。
 これでうさぎたちが意図的に物品や建物を破壊しない限り、破損は抑えてほしいという貴族の願いは叶うだろう。
「本当に。連れ出した娘さんにも問題はあるけれど、監督不行き届きの魔女も問題だわ」
 同意した『浄謐たるセルリアン・ブルー』如月 ユウ(p3p000205)の目には、一方で迷いない闘志が宿っている。
「可哀想だけど、三メートルになって、増殖もして、屋敷を占拠したら、もうそれはペットなんて可愛いものじゃありません!」
 油断も容赦もしないと、『円環の導手』巡理 リイン(p3p000831)は大鎌を片手に屋敷を見据える。
「テテスもやったことがあるからな。気持ちは分かるが」
 元の世界にいたころにごく普通のうさぎを連れて帰ってしまったことがある『樹妖精の錬金術士』テテス・V・ユグドルティン(p3p000275)は、あのときの小さな生き物に思いをはせる。元気にしているだろうか。
「あの……。ところでどうして桜さんはバニーガールなんですか……?」
「うさぎさんの相手をうさぎさんがしてるの、絵的によいかな? とか思って!」
 移動中、誰も触れなかった部分に言及した『Life is fragile』鴉羽・九鬼(p3p006158)が、『特異運命座標』猫崎・桜(p3p000109)の満面の笑みに曖昧に頷く。
「なるほど……?」
「早くもふもふしたいね!」
 そうだけどそうじゃない気もする、と桜は発言してから思った。

 重厚な扉を桜とリインが開く。
「わぁ!」
「もふもふです……!」
 舞踏会でも開けそうな、広々としたエントランスホールには、全長三メートルの大きなうさぎが五匹。奥部にある階段に三匹。
「二匹足りない」
「あの奥だ」
 眉根を寄せたユウに、アレクサンダーが一階の開け放たれたままの扉を鼻先で示す。彼もまた、クレアと同じく嗅覚が鋭かった。
「ブー!」
 うさぎという生き物は犬や猫と違い、声帯を持たない。しかし、鼻を鳴らすなどして音を発する。どうやら魔術をかけられ巨大化しても、それは同じらしい。
 八匹のうさぎたちが、特異運命座標たちを見て一斉に鳴く。残りの二匹はまだ出てきていない。最後尾の美咲がさっと扉を閉めた。
「多少の流れ弾は問題なし。みんな頑張れー」
 もちろん、美咲が傍観者になるという意味ではない。前衛に出ないというだけだ。
「グルアアアアア!」
「キュー!」
 四足で床を踏みしめたアレクサンダーが咆哮する。びりびりと空気が震え、窓ガラスまでがたがた揺れた。うさぎたちは本能的に怯え、開け放たれた扉の近くにいた二匹が、部屋に駆けこんでしまった。
 すかさず九鬼が走る。扉を蹴るように閉めた。
「そんなに持たないわよ!」
 意図を察したユウがフロストチェインで扉を封鎖する。我に返ったうさぎたちが、内側からどんどんと扉を叩く音がした。
「ふむ。ひとまず六匹か」
「すぐ五匹になります!」
 始まりの赤を用いたテテスにリインが疾走しながら応え、跳躍。得物を回転させ、大鎌の平面で叩くことを意識する。狙いはあくまで不殺だ。
「はぁっ!」
「ビッ」
「わおん!」
 首に一撃を食らったうさぎがよろめく。すかさずクレアが逆側から突進した。
「さあ、存分にもふもふしてあげますからね!」
 鞘ごと大太刀を抜いた九鬼が堂々と名乗りを上げる。エントランスホールにいた三体の気を引いた九鬼は、できるだけ仲間たちから敵を引き離すため走り出した。
「させぬぞ」
 手負いのうさぎをかばおうとしたのか、前に出かけた個体にアレクサンダーが前足を振るう。
「おとなしくしていろ」
 PSOを生成したテテスは、もう一匹にそれを投げつける。
「とーう!」
「はっ」
 手傷を負ったうさぎに桜が蹴りを見舞う。さらにユウが遠距離の術式を発動させると、ようやくうさぎが気を失った。
「キュウ」
 ぽん、と気の抜ける音がしたかと思えば、三メートルあったうさぎが二十センチほどに縮んでいる。
「かわいい~!」
 絶賛しつつ、桜が一般的な大きさになったうさぎを抱えて後ろに飛んだ。テテスから毒を浴びせられたうさぎが、一瞬遅れて彼女がいたところに前足を振り下ろす。
「うさぎは部屋の隅か、こっちに集めよっか」
「了解だよー!」
 魔力を破壊力として射出した美咲が提案する。テテスと美咲の元に戻るには、うさぎをもう一匹、仕留めるかやりすごすしかないと判断した桜は、部屋の隅に置くことを選んだ。

「ひあっ」
 三匹を引き受けている九鬼が、攻撃をかわそうとして転ぶ。幸い鋭い爪に頭をとられずにすんだが、別のうさぎに胴を踏みつけられた。
「くぅ……っ」
 三メートルのうさぎは重い。重い体で踏みつけられると痛い。肉球がどうとか言っていられない。
「わおおおん!」
 そこに駆けつけたクレアが吼えた。うさぎの気がそちらを向いた隙に、アレクサンダーが一体に突進して吹き飛ばす。
「こやつは引き受けよう」
「わう!」
「ありがとうございます……っ、さあ、まだまだ私は大丈夫ですよ!」
 九鬼は残った二匹の気を引いた。

 窓の近くにいた個体に、リインが襲いかかる。
「そっちはだめです!」
「ブー!」
「きゃっ」
 攻撃を受けた個体が痛みに構わずリインを殴り飛ばす。どうにか中空で姿勢を制御し、愛らしい死神は両足と片手で着地した。
「たぁっ!」
 追撃しようとしたうさぎの体側を、桜の踵が叩く。
「大丈夫?」
「はいっ」
 首を傾けた桜に応じ、鎌を持ち直したリインの背後で遠距離術式が発動する。
「あと五匹。急いで」
 硬い声でユウが言う。簡易的な扉の封印は、長く持たない。

 毒を受けた個体は前衛たちの不意を突き、美咲とテテスに迫っていた。
「試してみたいことがあるんだけど、いい?」
「構わんが、テテスに時間稼ぎはできないぞ」
 回復か状態異常を与えることはできても、盾にはなれない。構わないと美咲は頷いた。
 テテスの隣で美咲はときを待つ。もう少し。
「今!」
「ブー!」
 至近距離に近づいたうさぎに、エーテルガトリング。テテスは眼前の光景に目を細める。
「さて」
 体をむしばむ毒と、命中した驟雨のような魔術弾に足元をふらつかせるうさぎに、美咲は言葉を投げる。
「降伏すれば殺さないわ」
 動物疎通による勧告は、弱ったうさぎの心を揺らした。
「キュウ……」
「いい子」
 続いて、魔眼による催眠。意識を手放したうさぎは、愛らしい大きさになる。美咲はそれを自身とテテスの後ろに寝かせた。
「いい方法だな」
「でしょう?」
 残りは四匹と、間もなくやってくる四匹。

 もふもふのうさぎたちは、獰猛だった。
 気を失うまで慈悲のかけらもなく攻撃してくる。草食動物ながら絶対の殺意を持つ彼らに対し、特異運命座標たちはあくまで不殺を貫いた。気遣いながら戦う、というのは枷でしかない。
 それでもどうにかエントランスホールの六匹を倒し、扉をぶち破って登場した四匹のうち、一匹を倒して。
 残りは三匹になっていた。

 ああ、それでも限界でしょう、と九鬼は迫る爪を見て思う。何度も回復を受けた。回避だってした。手傷を負ったすべての経験が告げている。
 これは致命傷になる。
「なんて……!」
 受け入れられるはずがない。ここで戦闘不能なんて、認められない。
 うさぎが九鬼を引っ掻き、払うように投げる。パンドラを使用していた九鬼は壁にぶつかる前に姿勢を制御し、壁面を軽く蹴って着地した。
「あと少しだ」
「はい……っ」
 痛む体にテテスがPDSを見舞う。傷と痛みが癒えていく。
 まだ戦えると、九鬼は大太刀を握った。

「はぁっ、はぁっ」
 息が上がる。深手は癒してもらえるし、ついでに痛みは緩和されるが、疲労は蓄積するばかりだ。
「はぁぁっ!」
 それでもリインは大鎌を振るう。うさぎの下顎に命中した。喜ぶ余裕などない。反撃とばかりにうさぎが殴ってくる。
 吹き飛び、床に着地したリインの耳にアレクサンダーの切羽詰まった声が届いた。
「リイン!」
 彼とクレアが交戦し、美咲が援護していた個体が唐突に向きを変え、リインに爪を振り下ろす。回避しようとして、その間近に先ほど自身が攻撃したうさぎがいることを、確認してしまった。
 逃げ場がない。
「負けません!」
 こんなところで負けられない。最後まで戦いたい。
 攻撃を受けたリインはパンドラを使用し、即座に大鎌でうさぎの爪を斬った。

 個室に封じていた四体のうさぎは、厳密にはエントランスホールの六体を倒しきってから出てきたわけではない。およそ二分、乱戦になった。
 疲れ果てていた九鬼に代わり、その四体の囮役を引き受けたのが桜だ。後衛にもかかわらず今回は前衛で戦ったり逃げ回ったりしたため、さすがに彼女の顔にも疲労の色が乗っている。
「うあ……っ」
 九鬼を倒したと思っているうさぎが、今度は桜に向かってきた。鋭い爪を避けようとする、が間にあわない。
「わんっ!」
「クレア君!?」
 走り寄ってきたクレアが勢いを殺さないまま、桜を頭で突き飛ばす。当然、うさぎの攻撃はクレアに命中した。
「わおおおん!」
 これはクレアにとって、最初の依頼だ。絶対に失敗させないし、誰も殺させないし、自分も死なない。
 パンドラを使用した手負いの犬は、勝利の凱歌を歌うように、高らかに咆哮する。
「はぁっ!」
 うさぎの懐に潜りこんだ九鬼による一閃。間髪いれずクレアが前足でうさぎを殴り、跳ねるように起き上がった桜が蹴りを叩きこんだ。
 残り二体。

 美咲とともにいたテテスは、気づけば分断され、今は木片に変わった扉の真横にいた。
「本当に凶悪なもふもふだな!」
 後衛のテテスも無事ではない。突進するなよ、起き上がるのちょっと大変なんだぞ、と車いすと自身の体から伸びる蔦を撫でた。
 眼前には、もう少しで気絶しそうなうさぎが一匹。振り下ろされる爪。
「もっと小さい方が可愛いぞ」
 死の運命を回避しうさぎに言い放った彼女の目には、俊敏な動きで白い獣の背に飛び乗り、頭を大鎌で殴ろうとしているリインが映っていた。

 ユウがフロストチェインで動きをとめた、右前足の爪がない個体を、アレクサンダーが殴る。美咲も魔力放出を行ってから、瀕死になったうさぎに動物疎通と魔眼による催眠を行った。
「終わったね」
「うむ」
 はぁ、と美咲は深い息をつく。アレクサンダーは深呼吸で息を整え、ユウは崩れそうになる足を叱咤した。
「うさぎ、集めないといけないわね」
 本当に殺さずにすんだことに安堵しながら、ユウは周囲を見回した。

●森の魔女
 ずいぶんと小さくなってしまったうさぎを、桜がまとめて抱え、顔をうずめる。
「もふもふ~!」
 多少は乱れているとはいえ、いい毛並みだ。リインも気絶しているうさぎを一匹、抱き上げる。
「もふもふですっ」
「あああ……もふもふです……っ」
 とろけそうなほど頬を緩めた九鬼に、ずっとうずうずしていたテテスがついに手を上げた。
「テテスも抱き上げていいか?」
「はい、どうぞ」
「これは……いいな……」
 うさぎを回収していたユウから二匹、膝に貰い受けてテテスも相好を崩す。ふわふわで温かくて柔らかくて、ずっと触っていられそうだった。
「さすがに、こんだけおってもこの大きさなら、普通に飼えると思うのじゃがな」
 床で伸びているうさぎを、前足でつついてアレクサンダーが目を細める。
 とはいえ、今は安全というだけで、目が覚めればまた凶暴になったり、異常な繁殖や成長を遂げたりするかもしれない。せめて森の魔女に術を解いてもらう必要があることは、分かっている。
「くぅん」
 先ほどまで戦っていたものの、今はか弱い生き物にしか見えないうさぎを、クレアが鼻先で押した。
「三、四、六、七、八。で、十。ぴったりいるね」
 それぞれが持っていたり構っていたりするうさぎと、自分が抱き上げているうさぎを数えた美咲が頷く。
「では、森の魔女さんのところに行きましょう……!」
「わんっ」
「あ、その二匹はテテスが持つぞ」
「任せるねっ」
 持っていたうさぎをテテスに預けた桜が、クレアとアレクサンダーの前のうさぎを抱き上げた。

 うさぎは殺さず捕獲、森の魔女に返すという作戦だったため、当然、彼女の居場所は聞いている。屋敷にきたときと同じくローレットが用意した乗り物で、一同は幻想内のある避暑地の近くに広がる森にやってきた。
 連絡を受けていたのだろう、森の入り口あたりに、心配そうな顔で十七歳くらいの少女が立っている。
「あ、あ、ローレットの?」
「いかにも」
「森の魔女さんですね! うさぎさんを届けにきましたっ」
「十匹に増えたけどね」
 満面の笑みを浮かべたリインと、肩をすくめたユウがそれぞれ腕に抱いたうさぎを魔女に見せる。他の面々もそれに従った。クレアは行儀よく座り、尻尾をふらりと振る。
「十匹……。話には聞いてたけど、ううん。実験はどっちにしても失敗だったかなぁ」
 しょんぼりした魔女がまずリインからうさぎを受けとる。すぐに自分の両腕では余ると悟って、足元の大きな藤籠にここまでまったく目覚めなかったうさぎを入れていった。
「あ、あの……。うさぎさん、一匹いただけませんか……?」
 可愛いもの好きの九鬼が、恥じ入るように目を伏せながら申し出る。
「くぅん」
 術を解けば安全なうさぎになるんじゃ? とクレアも後押しするように鳴いた。
「テテスからもお願いしたい。一匹くらい頂戴することってできないか?」
「大きくなって増えちゃうのは勘弁なんですけど……、でもそうじゃないなら私も……」
 おずおずとリインも挙手する。
「うさぎの状態を元に戻せば、一匹で繁殖することもなかろう」
 すでに食い甲斐も狩り甲斐もないうさぎだが、仲間が欲しがるなら説得を手伝ってもいいだろうと、アレクサンダーも発言した。
「私は別にいらないんだけど、言いたいことがひとつ」
「はいっ」
 困惑していた魔女がユウの声に背筋を正す。
「うさぎを盗られると思ってなかった、なんて言いわけよ。術をかけたなら責任を持ちなさい。貴方の管理不足も問題なのよ」
「はい……。次からはしっかりと小屋に入れておきます……」
「大きいもふもふ、とってもいいと思うんだ! でも、あれは危ないよ~」
 激戦を思い出した桜が目をきゅっとつむる。命の危機を迎えてまで、もふもふしたくはない。
「振り回されたうさぎさんが可哀想だわ」
 小さなため息交じりに、美咲が言って目蓋を半分伏せた。すっかり小さくなっていた森の魔女は、特異運命座標たちと藤籠のうさぎを見比べ、決意したように顔を上げる。
「ごめんなさい。うさぎさんはあげられません」
「まさか普通のウサギに戻せないのか?」
「わんっ!?」
 まさかそんな、とクレアはアレクサンダーを見た。魔女は自身のローブをきゅっと握る。
「戻せるんですけど、後遺症みたいに術の残滓が残るかもしれなくて……。それに、異常な増え方をした子たちだから、術を解いてもどうなるか……」
「そう、ですよね」
 断られることは予想していたが、どうしても九鬼は少し落ちこんでしまう。リインも名残惜しくうさぎたちを見下ろした。
「ではときどき見にくるのは? 見にきて、もふもふするのはどうだ?」
「それなら僕も!」
 元気よく桜が飛び跳ねて主張する。提案したテテスの目は、真剣そのものだった。九鬼とリイン、クレアも懇願するような視線になる。アレクサンダーは冷静に魔女を見ていた。
 森の魔女が責任をもってうさぎを飼うならどちらでもいい、と互いに思っていることを、ユウと美咲は視線を交えたことで確認しあう。
「……はい、それなら」
「よし」
「やった……っ」
「わーい!」
「ありがとうございます!」
 頷いた森の魔女に、うさぎとの別れを寂しがっていた四人が喜ぶ。
「その代わり、というのは申し訳ないのですが、こちらを例の少女に届けていただけませんか?」
「……うさぎね」
 蓋が閉じられた小さな箱のような藤籠を、森の魔女が一番近くにいたユウに渡した。木製の留め具を外したユウは、眉を少しひそめて呟く。
「術はかかっていません。先ほど森で捕まえたうさぎさんです。まだ子どもですよ。その子を、届けてあげてほしいんです」
「事件のあとよ? うさぎを飼いたいなんて思う?」
 うさぎを盗んだ貴族の令嬢は、しばらくうさぎなんて見たくないと思っていてもおかしくない。少女が飼育を望んでも、両親が拒否する可能性は十分にあった。
 美咲の指摘に森の魔女は頷く。
「受けとりを拒否されたら、お手数ですがうさぎさんをまたここに連れてきてください。今度は私が、責任をもって飼います」
「わん!」
「……請け負おう」
 厳かにアレクサンダーが頷く。蓋を閉めたユウも、複雑な表情で首肯した。
「お嬢さんがうさぎを飼いたいとおっしゃったら、私も説得を手伝います……!」
 九鬼がぐっとこぶしを握る。
「テテスも後押ししよう」
「わ、私も……!」
「僕も僕も!」
「桜さんは先に着替えようね?」
 まだバニーガール姿の桜は、美咲の指摘にえへへと笑う。
「……仕方ないわね。私も手伝うわ」
 呆れたような口振りに反して、ユウは藤籠を両手で大切に持っていた。クレアが嬉しそうに尻尾を振る。
「よろしくお願いします」
 深く頭を下げた森の魔女にそれぞれ言葉をかけ、一同は貴族一家が避難している屋敷に向かった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、ご参加ありがとうございました!
うさぎさんは持ち帰れませんでしたが、ときどきもふもふしに行ってみてください。
皆様の説得の甲斐あり、お嬢さんはうさぎの飼育を許されたそうですよ。ただし、「責任をもって世話をする」という条件付きで。

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