PandoraPartyProject

シナリオ詳細

花枯のジュリエッタ

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング



「その結婚……少々、お待ち頂けないでしょうか!」

 老いぼれ枯れた貴族達の思惑と欲に塗れた、若き二人の結婚式。それは花嫁の裏切りによって全てが頓挫する。中断された結婚式。連れ去られた――否、逃げ出した花嫁。
 過ぎ去った流行のドレスの裾は引きちぎられ最早白いワンピースにしか見えない。ヴェールもティアラも投げ捨てて、彼女は『幸せな花嫁』をやめた。
 ヒールを折り、腕に抱きついて、『なんてことない平民の恋人』として走り出す。
「ねぇ、どこまで逃げられるかな」
「わからないけど……でも、俺、やれるところまでやるって決めてる。その為なら……お前の為なら、死ねるよ」
「だめだよ、二人で幸せになるんだから!」
 愛らしく笑って『ね?』と笑い続ける女。その唇にキスを落としまたスピードをあげる――その背を追う者が入ることも知らずに。

 結婚式の日付、旅路は早いほうが良いと真夜中に手配された海洋行きのチケット。
 引き払われた家、荷物は少ない。
 男――ロミオには帰る場所も後戻りが出来るチャンスもない。世間知らずのお嬢様――貴族たる花嫁のジュリエッタ。彼女との駆け落ちも、逢瀬も、正しく禁断の恋に他ならなかった。
 ……それでも、結ばれたいと。愛し合いたいと思ってしまったのだ。

 ただ人を好きになることが間違いであろうか。
 ただ生まれた身分が違うだけで恋をしてはいけないのだろうか?

 そんな思いをするくらいならば、いっそ。
 こんな世界捨てて、逃げ出してしまいたい。


「いや、何。そう固くなる必要はないさ、楽に座りなさい」
 二人の初老の男性に出迎えられた特異運命座標。ひとりの顔はあくまで穏やか、もうひとりの顔は悲しみに満ちている。
「……それで、本当に良いんだね?」
「ああ。ジュリエッタがあんなことをするなんて……」
 嘆き悲しむは『花嫁の父親』。穏やかに対応するは『花婿の父親』だ。
「済まないね、彼は古くからの付き合いなんだが……娘に何かが起こるといつも『こう』なのさ」
 出された紅茶は恐らくは名のあるもののはずであろう。
 それなのに味を感じることが出来ない。花婿の父親である男の笑みは崩れない。
「二人で話し合った結末なのだが……花嫁のジュリエッタを連れ戻して頂けないかな?」
 何も貴族と結ばれるだけが幸せではないだろうけれど、と前置きを置いて男は語り続ける。
「それでも……せめて責任はとってもらわないといけないしね。僕達とて本位ではないのだけれど、ジュリエッタは今回は少々おいたが過ぎたのさ」
「まぁまぁ父上、義父様。どうか落ち着いてください」
 若い男が追加で紅茶を入れる。恐らくは花婿だ。
「いいや、あの庭師がジュリエッタをたぶらかしたに違いない!」
 憤慨する花嫁の父親はあくまで身勝手だ。
「だからね、君たちには頼みたいんだ」

 ――花嫁を連れ戻して欲しい。

NMコメント

 ウェディングドレスを資料で漁ったところ形が多すぎてそっとブラウザバックしましたどうも染です!
 夢物語は夢であるからこそ美しいですね。

●依頼内容
 花嫁『ジュリエッタ』を取り戻す。

 実質のところは駆け落ちとなっていますが、彼女らの両親はあくまで『誘拐された』というスタンスです。
 皆さんの気持ちはどうあれ依頼ですので連れ戻してください。

●状況
 リプレイの描写開始時点での時刻は夜23時頃を予定しております。つまるところその辺りが二人の行動開始予定時刻です。
 早朝4時出港の船に乗って二人は逃走する予定です。

●ロケーション
 幻想の裏通り。港までは一本道ですがやや距離があります。
 花嫁や花婿の父親からの『手厚い支援』により、ある程度の金銭的無茶や物的無茶が叶えられる状態になっています。

●エネミー
 ・『花屋の』ロミオ
 赤茶の髪をした青年。花屋の一人息子。両親は既に亡くなっています。
 代々ジュリエッタの家系に仕える使用人一族の末裔。
 ジュリエッタとの恋におちました。

 戦闘は不得意ですので捕まえようと思えば捕まえられるでしょうが、道に罠を仕掛けているようです。
 変装やボイスチェンジャーなどなど様々な方法で皆さんの目から逃れます。
 また予め毒の塗られた短剣を護身用に複数本持っています。彼もまた本気です。

●他NPC
 ・ジュリエッタ
 本来ならば結婚していた花嫁です。金髪ロングヘア。
 世間知らずのお嬢様というわけではないので、しっかり変装をしています。
 簡単な護身術で反抗してくるでしょう。

 ・パリス
 ジュリエッタと本来結婚する予定だった花婿。
 ジュリエッタとは元々幼馴染であり彼女の恋も知っていました。
 それでもジュリエッタを愛しています。
 必要であれば同行します。ある程度の剣術が使えます。
 
●依頼主
 ・花嫁と花婿の父親。
 あくまで誘拐されたというスタンスです。ので、皆さんには不都合をもみけして頂くべく暗躍してもらうつもりで依頼を出しました。
 ロミオに関しては否定的。

●注意事項
 この依頼は『カジュアルシナリオ』です。
 どんな形でも成功はしますが成功以上の判定は出ません。

  • 花枯のジュリエッタ完了
  • NM名
  • 種別カジュアル
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年08月28日 22時15分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

アルプス・ローダー(p3p000034)
特異運命座標
アオ(p3p007136)
忘却の彼方
弟橘 ヨミコ(p3p010577)
えにしを縫う乙女
四(p3p010736)
特異運命座標

リプレイ



『ああロミオ、あなたはどうしてロミオなの?』

 という一説が有名な地球の戯曲を思い出す。
 彼等のようになるのか、或いは。
「抑えられない気持ちから駆け落ちを選択されたんでしょうね。ですが、花嫁を取り戻す依頼を受けた身としては叙情酌量を挟む余地はありませんけどね」
 パリスを背に乗せて走る『特異運命座標』アルプス・ローダー(p3p000034)は、今日もハイスピードで飛ばしていく。
 幻想の早朝を揺らすエンジン音。交流用アバターたる少女はバイクに困惑するパリスを眺めながら、つぶやいた。
「けれどこうしてあの手この手で攻撃したり、非戦スキルを使いこなしたり、夜逃げする算段をした手際を見ると思わずにはいれません。
 ロミオさんは、こうして戦える度胸があるなら何故正攻法でジュリエッタさんと結婚されようとしなかったんでしょうか」
「…………幻想貴族は、身分差が大きいからかな。僕にもわからないんだ」
 あくまで陽気に笑うパリス。
 自らと結婚するはずであった花嫁が逃げ出したのに、そう気丈に振る舞える理由が解らない。
「表向きは誘拐事件だからジュリエッタは無傷の方がいいだろうがロミオは多少怪我をしていても大丈夫だろう。私は説得は不向きだから物理的に行かせてもらう」
 定められた平穏と、許されざる純愛。『特異運命座標』四(p3p010736)の表情はあくまでイレギュラーズとしてのものだった。
 今だけを切り取れば確かに熱も上がるだろうけれど、祝福されないのなら幸せとは呼べない。永遠にも近い時を過ごすのだから、尚更に。
「ただの自己満足に浸ってないで、ちゃんと意志をぶつけ合わせるべきじゃない? 認めてもらえないと諦めたなら、それはただの無責任だ」
 恋だの愛だの煩わしい。『忘却の彼方』アオ(p3p007136)は皮肉たっぷりに笑った。
 唸るエンジンを追いかけて、『えにしを縫う乙女』弟橘 ヨミコ(p3p010577)も含めた三人はその背中を追いかけた。
「それにしても真っ暗だが、君は大丈夫なのかい?」
 美少女アバターに語りかけるパリス。ぱち、とまばたいたアルプスのアバターは、予めプログラミングの内に含まれていたであろう笑顔で微笑んだ。
「大丈夫です。なにせ僕の専門は、」
 ぶるるるるん、とエンジンが吠える。唸る。それは怪しい二人の人影――ロミオとジュリエッタを阻む。
 キィ、とブレーキが音を鳴らした。どん、と壁に体当りしたバイクは、その障害物すらもぶちこわして進んでいく。
「おっと、後でサビのチェックをしたほうが良さそうですね」
 勿論、ジョークだ。少なくともこの陰湿な場を切り抜けるためなら、ジョークのひとつくらい安いものなのだ。

 ヨミコの足元にある罠を指摘し解除しながら、四とアオも追いかけていく。
「追いついた」
「ああ、そうだな」
 四が手早く拳銃を取り出して、威嚇ついでに一発放つ。
「止まらないと男の足を打ち抜く」
 四の威嚇。けれど二人は止まらない。ので。宣言どおりに正確無比な弾丸が、ロミオの足を貫いた。
「ぐっ……!!!!」
 呻くことはしない。ジュリエッタを庇うように立った彼の姿は正しく悲劇の主人公のそれ。敵だとみなされたイレギュラーズは、ただ等しく睨まれる。
「抵抗をやめろ。ジュリエッタを解放しないと、次は心臓を撃つ」
「……俺達が何をしたっていうんだよ」
「やめて。彼を撃つのは……やめて」
「じゃあ、こちらにこい」
「いやよ。行った後に撃つことだってできるじゃない」
 ジュリエッタは頑なだ。イレギュラーズを前に、未だに勝算を探している。
「愛する人と一緒に生きることは確かに幸せかもしれないけれど、そんなのこの先の生活が保証されていることが前提だよ。
 駆け落ちした先で親にも頼れず、慣れない生活を強いられ、意図しなくても最愛の人は誘拐犯という犯罪者に仕立て上げられた世界は本当に望むものなのかい?」
「…………そんなの、させるわけないでしょう」
「でも今僕達がここにいるのが現実で答えだよ。だいたい親に筋も通さず逃げ出したら怒るし嫌われるのは当たり前だろう」
 アオの言葉に苦々しい顔をしたジュリエッタ。アオは口を閉ざすことはなく、次はロミオを見据えた。
「それに、男としてそんな情けないやり方しか出来ないで、どうやって愛しい人を今後守り続けるつもりなのさ。愛だけじゃ世の中生きていけないんだぜ、残酷なことにな」
 厭味ったらしく笑う。
 そんなアオの様子にぎりぎりと歯を食いしばったロミオ。出血は今も止まらず、それでも立ち続ける。
「家を優先させるのも彼女を優先させるのも構わないけれど、身を滅ぼす選択はしなくて良いよ。
 つまりは全員頭冷やして現実を見据えた上できっちり話し合え。自分たちが納得して生きる為にね」
 対立構造にあるイレギュラーズと彼等逃走者。
 そんな中を取り持つように、アルプスは間に入った。
「ロミオさん。どうしてジュリエッタさんと逃げようと思ったんですか?」
「え?」
「僕にはわからない。身分差があろうと、今の混沌は少しばかりは寛容になったと思いますから」
「……俺は、ジュリエッタの家に仕える花屋なんだよ」
「はい」
「ジュリエッタは……そこの男の家に売られるんだ。家の借金のためにな」
 何も語られることはなかった。
 ただ連れ戻せと言われただけだった。
 物語の裏にはいつだって真実と心が隠れている。
「貴族でなければ血が悪いと命に値段をつけられる。でも貴族だって、借金のために命に値段をつけられる。……どれだけそいつがジュリエッタを愛していたって、命に値段が付けられた結婚で、ジュリエッタが幸せになれるとは思えなかったんだ」
 だから、と。
 ロミオがジュリエッタを押した。

「走れ、ジュリエッタ!!!」

 チケットを押し付けたロミオは、ジュリエッタをその背に庇う。
 走り出したジュリエッタ。
 その手にはチケットだけ。荷物もなにも関係ない。ただ逃げろと叫んだロミオの願いを叶えんと、すべてを捨てて走り出した。
「くそっ……!!!」
 四はロミオの心臓を撃ち抜いた。
「私にはわからないな。堅実な未来を投げ出してまで好きな人間と逃避行とは……その先で幸せになれるともわからないのに、どうして」
 それは皮肉か動揺か。
 撃ち抜いてなお心臓を止血する四に首を横に振って、ロミオは笑った。
「……あいしてる、から。です、よ」
「え?」
「どうしても。ジュリエッタ、と。じゃ、なきゃ。しあわせに、なれない……」
「……私にはそんな博打のような選択はできないな」
 腕の中で冷たくなっていく身体。
 アオとアルプス、それからパリスがジュリエッタを追いかける。
 ロミオは、四に見守られながら、ちっぽけな首謀者として散っていった。
 パリスがジュリエッタを抱きしめる。ジュリエッタは泣きながら、チケットを飲み込んだ。
 この意志は誰にも破らせないと。奪うことは出来ないのだというように。
 ロミオが散った夜が明けていく。空が静かに白み始めていた。そんな朝だった。
 静かに眠るロミオの頬を撫でキスをしたジュリエッタ。パリスは困ったように笑い、その肩に触れる。
「私、貴方なんか愛せない」
「それでも僕は、君を愛してる」
 思いは交わらない。願いは叶わない。それでも、ただ君と行きたい。君と、行きたいし生きたい世界があった。
 その為なら、死んだって構わなかったのだ。

 誘拐犯の死亡。イレギュラーズの活躍。
 新聞を飾る一大タイトル。

 二人の逃避行は、幕を下ろしたのだった。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

PAGETOPPAGEBOTTOM