シナリオ詳細
ゴブリンの王~リベンジェンス~
オープニング
●始まりは些細な過去から
『ゴブリンを倒せ!』
『ゴブリンめ、よくも村を!』
『魔物は皆殺しだ!』
幾度となく巡るのは過去の記憶。
落ち行く感覚と共に過ぎて行くのはかつての仲間達の死相。
虫酸が走った。ただ、ただ眠るだけでこうして苛まれる理由が、何故奴等の事なのだ。
『おい、こいつは……?』
『旅人かも知れない、こんなゴブリンはいない筈だ』
『あんた、名前は? 喋れるか?』
冒険者。バウンティハンター。騎士。狩人。そして、特異運命座標と呼ばれる者達。
自身が身を寄せたゴブリンの群れや集落、賊の類は悉くがそういった人間達に滅ぼされた。どういうわけか、気の合う友達は人間と友好的なゴブリン達と比べて酷く憎まれていた。
何故だ、そう問うと人間達は必ず口にするのは善と悪の概念だった。
自分だけは人間に近い見た目だったせいか、いつも生き延びてしまった。
もう何も話さなくなって冷たくなっていく仲間の骸が、惨い視線を送っていた。
そんな事ばかり、日々夢見て、時々想っている。
我慢は出来なかった。
『お、おい! 止めろ!! よせぇぇ……!?』
『ひぃぃ!? だれっ、誰かたすけッ』
『なんでだよ! お前は、どうして……ぐげぇァッ!!』
「……それはお前達が『悪』だからさ」
暗闇の中からぽつりぽつりと姿を現す他のゴブリン達に、振り向く。
何故だろう。一線を越えてしまうと途端に頭の中がスッキリして、何もかもが鮮明に見えて来た。
夢の中だと言うのに、それはまるで現実味を帯びていて……
「奴等は俺の名前を聞いていたな。
聞け、同胞達! これより耳にする名を憶えろ、そしてその名目指してついてこい!!」
この日。
ゼシュテル鉄帝国のとある地で、一人の【王】が産声を挙げた。
●蹂躙された村
その日のローレットも様々な話題が飛び交い、賑わいを見せている。
一画では卓に着いた数人のイレギュラーズを前に数人の老婆と男が向かい合っていた。
「皆様にご依頼したいのは、私達の村を滅茶苦茶にしたゴブリンの集団の退治です。
数日前、数え切れないほどのゴブリンが突然村の四方八方から攻めて来て……男は殆ど動けなくなるまで痛めつけられ、女も浚われ、物資を全て奪われてしまいました。
その動きは全体が恐ろしく統率に優れ、まるで仲間を庇ったり、中には回復効果のある魔術を使うゴブリンまで……あれほど恐ろしい光景を見たのは我が国の軍人様の模擬戦観戦以来でした」
息を飲み、そして痛々しい傷を晒す男は語る。
その姿に同情しながらも、イレギュラーズはそれぞれ質問をしていった。
「はぁ、頭領の存在ですか……分かりません。連中はゴブリンの癖に本当に手際が良く……領主様の兵が到着するより早く撤退したほどです」
「ああ、お待ちを。それならば私が見ました! あれはきっとゴブリン達の親玉に違いありません、
その背丈は軽く私の二倍はありましょう。そして傍らには同じだけの巨大な戦鎚を、隆々とした逞しき肉体に身に着けていたのはきっと鎧でしょう!」
「本当なのか? そんな化け物、見てないぞ」
「確かに見ましたわい、離れた所から一人。高みから見下ろしていたのですじゃ」
老婆は一つずつ思い出すように語る。
高みとは何処なのか尋ねた。
「村の周りには背の高い丘が東西南北にありますゆえ、あの時どこに居たのだったか……村の外に40mほどだったか……」
イレギュラーズはそんなゴブリンを操る様な手合いならば、オーガか何かかも知れないと考えた。
後で、情報屋に心当たりがないか聞いてみよう……と。
●
後日、情報屋として最近ローレットに身を寄せている『完璧なオペレーター』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)は彼等に資料を持って来た。
「信じ難いですが、そちらはつい最近の報告書になります。ローレットは過去に接敵したこのゴブリンを『ゴブリン・ロード』と名付けて記録していました。
身体的特徴は前回と差異があるようですが……ゴブリン達の異常な闘争心を促す能力に加え、カリスマ性、頭脳、戦術、完全に指揮官としてはとても厄介な存在です。
皆様がお受けした依頼が確かならば、再び出会う機会はあるでしょうね」
ロード? と、イレギュラーズの何人かは首を傾げた。
ミリタリアは彼等に「そうですね」と腕を組んで応える。
「対峙しないと分からないものかも知れませんね、『王』とはちょっとした特別な存在ですから」
- ゴブリンの王~リベンジェンス~Lv:4以上完了
- GM名ちくわブレード(休止中)
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年08月29日 22時25分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●静寂無き夜
何故か静けさを感じられない夜だった。
「例のゴブリン……これだけ組織的にやってるんだ。どこかの丘に拠点を拵える位はやっていそうだが」
『翡翠の霊性』イーディス=フィニー(p3p005419)は村の外を警戒しながら呟いた。
『彼』は鉄帝の兵士と共に日中の間にルフト=Y=アルゼンタム(p3p004511)と村内の各防衛地点に罠の類を仕掛けていた。殺傷力のある物は用意できなかったものの、数は多く、何かしら助けになるだろうと思う。
「今夜は来ないんじゃないか?」
「油断は出来んぞ」
横で欠伸をしながらも警戒を共にしている兵士二人も【発光】を用いながら目を凝らして丘の上を観察している。
彼等遊撃班は中央の物見櫓の傍にある家の屋根上から周囲を見回していた。尤も、手元の光源だけでは限度があったが。
(それでもやらないよりはマシだろう)
丁度そんな時……不意に何かが蠢くのが見えた気がした。
「……!」
───「敵襲だ! 敵影、東……!」
───「まずいぞ……北側の丘に敵影、九、十……十二!?」
瞬間、物見櫓から不吉の報せが轟いた。
イーディスがそちらへ視線を向けようとすると、入れ替わる様に一人飛び降りて来る。
「唯のゴブリンなら楽だったんだがな。奴等、一斉に襲撃を掛けて来たようだ」
ゴーグルを額に上げる『記憶喪失の旅人』ティバン・イグニス(p3p000458)はゴブリンの群れが北、東、南から迫っている事を告げた。特に北から来ている数は戦力が濃く、その数は十二。他も九体ずつ確認できているという。
「俺が向かうか?」
「北側にはリジアがいる、そっちにはレナへ伝令をやって向かわせた。イーディスには輪廻の援軍に向かって貰いたい」
「ああ、分かった」
屋根上から兵士達と飛び降りると、イーディスは村の南へ駆けて行く。
ティバンに指示された伝令役の兵士達は『森羅万象爆裂魔人』レナ・フォルトゥス(p3p001242)と『治癒士』セシリア・アーデット(p3p002242)の居る遊撃班へ向けて予め決めていた発光パターン信号を使って指示を出していた。
(さて、これ以上被害を広げるわけにはいかねえ、ここが年貢の納め時ってやつだ……───ッ!?)
再び櫓へ上がりながらティバンはゴーグルを掛ける。未だ見えない敵は存在する以上、彼は警戒を解く事は出来ない。
……そう思っていた矢先、彼は『西』に現れた怪物を目にして直ぐに戦闘が始まってしまった仲間達の元へ伝令を走らせる事になった。
●遭遇 ”エンカウント”
『戦好きのハイエナ』Briga=Crocuta(p3p002861)は尋常ではない気配を感じて振り向いた。
何かあった事に気付き、伝令を待ちながら『西』に配置された兵士達に火矢の用意と隊列を整えさせていたのが幸運だった。
「……てめェら、戦闘態勢。急げッ!!」
『──────GOOAAAAHHHHHHHHHHHッッッ!!!』
彼女が一喝したのと同時、見上げる丘の上に姿を現した影は夜闇の静寂を断ち切るかの如く。稲妻に等しき豪喝が村全体に轟いた。
大気を震わせるその声は紛れも無く魔獣や鬼の類。ピリピリと肌すら痛む雄叫びを聞いたBrigaは獰猛な笑みを浮かべた。
「……厄介そうな相手だなァ……面白そうじゃねェか!」
両腕の外骨格をギシリと軋ませ、拳を握った彼女の眼前に現れた巨影の正体が何なのか。問うまでも無い。
ゴブリンの王を名乗る怪物だった。
●猛攻の悪鬼
突如雄叫びが聴こえて来たかと思った瞬間。丘の上からけたたましい怒号が幾つも重なり、複数の小柄な影が一斉に駆け下りて来る。
村の北側、防衛線上に並ぶのは『生誕の刻天使』リジア(p3p002864)とレナの二人。そして彼女達に付き従う勇気ある鉄帝の兵士達。
「さてと、森羅万象爆裂魔人が魔物を屠る様をご覧あれ」
その手の指輪が煌めく。彼女はその場から一人一直線に迫り来るゴブリンへ駆けると、赤い軌跡を描いて跳躍した。
自ら敵の陣形に突進して来るとは、なんと愚かなのだろう。過剰な敵意と殺意に満ちたゴブリン達は宙を舞うレナを嘲笑いながらその手の刃を鈍く輝かせた。きっと頭の中にはどうやって殺すかという考えしかないのだ。
しかし、視界を埋め尽くす紅蓮の光が思考すら消し去って行く。熱と衝撃を以て。
「GYAAAAAA!?」
指先を弾いたレナを中心に発生した爆発は数体のゴブリンを盾ごと吹き飛ばし、盾役より前に出ていた前衛ゴブリンを火達磨にしたのだ。
「……前進するぞ、レナの班の者は彼女の魔法を阻害しない程度に近接援護を。私達は後方支援だ」
「「応!!」」
レナへゴブリン達が再び集中する前にリジア達が支援に加わる。
兵士達は手近なゴブリンへ矢を射かけたり、投石紐で打ち込みながらどうにか包囲を崩そうとする。その最中を突っ切ってレナの攻撃範囲に入らない位置へ来たリジアは背の光翼を展開した。
視界に嫌でも入る忌々しい光。兵士達の【発光】も相当憎たらしいが、ゴブリン達にとってはリジアの羽根の方が何故か無性に暗い感情を昂らせるのだ。
一気に四体の敵が彼女を囲み、手斧や短剣を叩き付ける。しかし耳鳴りに似た金属音が響き渡った直後、いつの間にか全身を覆う様に広がった翼がゴブリン達を斬撃の嵐に見舞いながら弾き返した。
吹き散らされる鮮血を冷凛とした瞳で見つめるリジアは羽根を広げて目を細めた。
(……生き物とは、分からない。何故奪い、何故守り……何故戦うのか)
羽根が一瞬動いた直後、気付かぬ間に触れられていたゴブリンの一体が突然崩れ落ちた自身の腕に悲鳴を上げた。
「来るが良い」
憎悪に満ちた戦場の中……紅蓮の閃光と蒼白の煌めきが夜闇の中で何度も瞬く。
●
建物の陰を縫う様に迂回し、鳴り響く木板の音を頼りに走る。
「兎にも角にも、一匹ずつの確実な撃破を心がけていくぞ。まずは着実に、数を覆す!」
先陣を切るイーディスは両手を打ち合わせ、術式を起動した。夜闇を切り裂かんばかりに顕現した大戦斧が新緑に輝き腰元から振り被られる。
一軒。二戸。三壁。予め仲間が切り抜いておいた壁や建物を彼等は走り抜け、目指す場所へ辿り着くと同時に杖を持ったゴブリンの横面にイーディスの戦斧が眩い極光を放ち薙ぎ払われた。
「ッ!?」
声にならぬ断末魔。赤黒い軌跡を残して地を転がる小鬼。
「斬り込め!」
「鉄帝魂を見せてくれるァ!!」
後続の兵士達も壁を抜けて、交戦中だったゴブリン達を側面から叩きに行く。先手を取った事で士気は高い様だ。
対して、数少ない回復役が死んだ事で動揺していたゴブリン達は隙を突かれ、兵士達の集中攻撃にまた一匹倒れる。
「援軍ね、助かったわ」
「輪廻……その傷」
「私は大丈夫よ、形勢は逆転した。なら次はこちらの番よ」
『ナインライヴス』秋空 輪廻(p3p004212)の着物は所々に切れ目と赤い染みが広がっていた。イーディスが駆け寄ろうとするが、「傷は浅いから」と制止した彼女は袖から出した鉄扇を構える。
南側でもかなり村の内部に追い込まれたのは、戦力的に不利だった事やゴブリン達の攻撃が悉く『致命打になる偶然』を得たからである。今援軍が来た状況ならば充分に体制は立て直せるだろう。
「GOBRRR!」
「……フッ……!」
イーディスと共に前へ出る彼女は姿勢を低くして駆け抜けて来たゴブリンを飛び抜ける。
刹那、その手から月の色を有した扇が半月を描いて宙を飛び回った。弾かれる短剣、火花が散ったそこへ後方で狙いを定めていた、輪廻の仲間である兵士達が次々に矢を射掛けた。
「ッ、グ、ァ」
無数の矢を生やした小鬼の手が荒々しく振り回されるが、次の瞬間には輪廻の脚が頭部を打ち抜いて絶命させる。次いで援軍の兵士が切り掛かっているゴブリンへ目を付けた彼女は壁を伝い走り、一気に鋭い蹴りを浴びせて行った。
「行きましょう。まだゴブリンは六はいる筈よ」
「……ああ」
彼等は互いに頷き合うと打ち合っている兵士の元へ向かう。
暫くの間戦闘音が続くこの南防衛線で再び静寂が戻るのと、伝令が到着するのは同時だった。
●
重傷を負った兵士にライトヒールを施している所へ、瀕死のゴブリンが放った一撃が彼の肩口を抉った。
「ぐぅぅ……俺の事は置いて行ってくれ……」
「守りたいモノや大切なモノのためにも動け。ここで死ぬよりも、生きる為に戦うんだ」
後退を迫られるルフトの額に汗が伝い、頬から鮮血が滴り落ちる。
既に物見の者達へ援軍を要請する信号は送っていた。だが、交戦して数分未だに仲間が来る気配が無い。
信号は無い、何かあったのか。あるいは……だがそれを確かめる為に今のルフト達に新たに【発光】による信号を出している暇も無かった。
「ルフト! 援軍をまだ待つのか!?」
「無理は禁物だ。後退する」
片手間に雷撃を放って二体のゴブリンを焼いて麻痺させても、後方の術師が先頭にいる敵の傷を癒してしまう。他の盾ゴブリンまで出て来てしまえばトドメも刺せなくなってしまう。
初撃こそ、彼等が予め用意していた簡易的な【沼】に嵌めて速攻で二体仕留めたのだが。全ては手数が足りなかった事が彼等を苦しめていた。
(……それでも、ここまでの防戦は間違っていない)
更なる痛手を負った兵士を手当てしながら、ルフトは防衛線として定めていた村の民家を目指し駆ける。
(次第にゴブリンの術師の回復頻度が減って来た……恐らく体力切れの筈だ)
民家の近くにある草むらに張られた縄を飛び越える。横合いに開けていた穴から家屋へ入った彼等はそのまま中を駆け抜け、更に隣の民家へと壁の穴を越えて抜けて行く。
(だが決め手に欠ける……俺一人でやれないとは言わないが)
「……! 誰だ!」
物陰に兵士を休ませたルフトの耳に、何者かが別方向から近付いて来るのを察知する。
誰何の声に応じたのは───
「リジア嬢の者だ! ルフト殿かそちらにいるのは!」
「伝令と援軍を兼ねて参った!」
三人の兵士。彼等は優勢と見たリジアの指示によってティバンの今の状況を伝える役目と、いざという時の為に『治癒士』セシリア・アーデット(p3p002242)が用意していた【救急箱】を携えて駆け付けて来たのだ。
ルフトは彼等の一人にまともに動けなくなった兵を預け、立ち上がる。
「一人はここで動けない者の手当てを頼む。後の二人と俺達二人の四人でやるぞ」
民家と民家の間に張られた縄。そしてルフトの言葉に続いて辺りに鳴り広がる鳴子板の音。
「─────」
深呼吸。そして今一度瞼を閉じる。
サバイバルには、慣れていると……静かに彼は久しく感じていなかった感覚を掴みながらその瞳を露わにした。
反撃が始まる。
●叶わぬ願い
「このクソッタレが!! ここがッ! てめェの墓場だ!!!」
Brigaが地を踏み砕いて水平に跳び込み、踏み込んだ瞬間。強化外骨格すら軋む音を奏でて渾身の拳が肉の壁を打つ。
「ッッ!!」
肉薄するは長身、巨体にして強大の鬼。基となっているモンスターがゴブリンとは思えぬ魔人の存在、『ゴブリンロード』。
Brigaの打った拳に体内の空気を吐き出させられ、全身を駆け巡る鈍痛に緑肌の顔に苦悶の色が浮かぶ。だが止まらない。ロードの握り締めた戦鎚の柄が懐に潜り込んだ彼女を突き崩し、振り払う。
暴風の如き一撃にたちまちBrigaは薙ぎ払われて大地を転がる。それでも彼女は途中で反転、後転し、再び弾かれたようにロードへ突っ込んで行く。
打ち、打ち合い、打つ。殴り、殴り合い、殴打する。
足元を割り砕き土砂を撒き上げ目潰しをして動きを止めたロードの側頭部、鼓膜を両側から打ち抜いてその意識に乱れを生じさせる。捻り、音を感知できなくなった巨体を熾烈な猛連打が次々に直撃して大きく仰け反らせた。
「トドメだ、オラァッ!!!」
微かに血の気が引いているにも関わらず、彼女の咆哮と共に激しい連撃がロードに突き刺さった。
直後、轟音を鳴り響かせその巨体は大地に強かに打ちつけて倒れた。
「ぜェ……ぜェ……ッ、案外大した事なかったな……ッ」
全身が不快な痛みと軋みを訴える最中、彼女は片目を動かした。
ロードにはゴブリンの雑兵が三体付き従っていたが、上手くBriga自身が前で惹き付けた事で後方支援に徹していた兵士達は無事生還出来た。途中から敵の雑兵が兵士を狙い出した時は焦った物だったが……
(生きてるならそれでいい。アイツらにも家族とか大事なヤツがいるだろうし……そういうヤツを亡くすのは、オレだけで十分だ)
疲労困憊の様子でその場に座り込みながらBrigaは村の方を眺めて息を吐いた。
まだ戦闘が開始されてそう時間が経っていないというのに、イヤに静かだと思い仲間の安否が気になったのだ。
「流石にやられた奴はいないと思いてェが……ん?」
突然視界の端で白い光がチラつき、彼女は目を細めて光源の正体を確かめようとする。
村の中央から駆けて来るのは仲間のセシリアとティバン達だった。
「おーい、ロードどもは皆殺しにしたぜ……ッ!?」
刹那。反射的に彼女は防御行動を取りながらその場から飛び退こうとした。
『────GOAAHHHHHッッ!!』
しかし、Brigaの耳が鋭い痛みを発した瞬間。全身が何故か動かなくなった事に彼女は目を見開いた。ロードが放った【豪鬼喝】の直撃を受けて吹き飛ばされてしまったのだ。
何度も地に叩き付けられ跳ね上がる彼女は今度は受け身も取れずに、今度は起き上がれない。
「バリガさん!!」
「セシリア、また頼む……奴は俺達が仕留める」
駆け付けたセシリア達は、片や癒しの光を。片や兵士四人を連れてその槍を構え跳躍する。
事前情報によれば鎧を着ていると聞いていたティバンだったが、とんでもない。ロードの身には鎖帷子を繋げて上からベルトを巻いた腰部分以外に、装備品は巨大戦鎚程度の物しかなかったのである。
あるのは肥大化し盛り上がった筋肉。そして全身から溢れ出る殺意。Brigaの攻撃を耐え切って立ち上がって来たカラクリは、恐るべき我慢強さと再生能力に他ならなかった。
(だが瞬時に治癒している訳じゃない)
兵士達の雄叫びと共に繰り出した全力の一撃をあしらい、ティバン目掛け振るわれる轟撃。しかし彼は槍の穂先を唸らせ正面からそれを打ち払う。
果たしてロードはティバンが体重を落とした瞬間の動きが見えたか。巨体を穿つ獣の槍は鮮血を噴き出させた。
「っく……!!」
だがしかし倒れない。巨体は未だティバンを殴り飛ばせる力を有していた。
「これ以上被害を広げさせるわけには行かない……!」
地面に叩き付けられるその瞬間、セシリアの癒しの光が寸前にティバンを守護するように包み込む。
地を滑る彼はすぐさま起き上がると再び槍を構えて駆け出した。
「こっちだ」「こっちよ」
ティバンと交差する二つの一閃。クロスアタックに成功したのは丘の側から回り込み一斉に飛び掛かって来たイーディスと輪廻の二人である。
少なくないダメージに巨体が揺れ動く。
「おのれ、イレギュラーズ! 貴様等ニンゲンがァァ!!」
「吠えますわね──魔物に私達がこれまで何を越えて来たのか分かるとでも?」
輪廻が足元を鉄扇で切り裂いて駆け抜けた直後、赤髪を揺らしてロードの眼前に躍り出て来たレナの指先が眩い閃光を放つ。瞬く魔力の砲撃は丸太の如き腕を宙へ飛ばした。
駆け巡る激痛に泡を食いながらロードは周囲に幾つもの気配が、『ニンゲン』の匂いが集まりつつあるのを感じた。
我武者羅に戦鎚を薙ぎ払う。イーディスと輪廻が巻き込まれるが、やはりその瞬間も癒しの光がベールのように彼等を包んだ。
「何としてもここで止める! みんなは、私が癒してみせる!」
「~~ッ!!」
セシリアに向く憎悪。
それを遮る様に現れたのは微かに手傷を負ったリジアの姿だった。
「……貴様という存在が、全てを擲ち、存在した証を立てるならば……それは受けてやろう。 来い」
「GOAAHHHH……っ、ッ!?」
望み通りにボロ布にしてやろうと息を吸った瞬間。ロードの呼吸が止まった。
「間に合ったか……」
兵士二人に肩を借りながら現れたルフトは自身の雷撃が直撃した事を確認して不敵に笑う。気が付けば、ロードは膝を着いたまま肉体を巡る雷電に自由を奪われ、立つ事が出来ないでいた。
「よォ……」
霞がかったロードの視界の中央に、先程確かに倒した筈のBrigaが立っていた。
星空にも似た輝きを身に纏っているそれが、イレギュラーズにしか無い能力だとは知らない。セシリアは傷を癒しただけに過ぎない。
トン、と。僅かに大地を弾んだロードの体を、Brigaの拳が捉えた。
「言っただろうが、ここがてめェの墓場だってなァ!!」
空気を切り裂いて唸る拳は最早外骨格すら砕いて肉の塊を鞠の如く跳ね飛ばし、眼下の村へと吹き飛んで地面に頭から突き刺さって土砂の柱を立てる。
数瞬遅れて空へ轟いた衝撃音が如何に凄まじい一撃だったかを物語っていた。
……今度は、もう治癒する事なく。
ゴブリンの王は命の灯火を散らしたのだった。
●
(……これが)
王を名乗ったがばかりに多くの仲間を死なせた。
(これが俺のねが……ぃ……?)
何も為せないのは、敗北者の常だった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
ゴブリンは、倒せるからゴブリンなのだと大昔から言われています。
お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。
鉄帝の兵士で死者は出なかったようです、これも皆様の作戦が巡り巡って上手く機能した結果です。
改めて皆様お疲れ様でした。またの機会をお待ちしております。
GMコメント
ちくわブレードです、皆様よろしくお願いします。
以下情報
●依頼成功条件
ゴブリンの殲滅
ゴブリンを統率するロードの討伐
●村での迎撃
鉄帝国のとある平野にある村が夜中に襲われました。どうやらその後も領主の兵が度々襲われている事から、再び襲いに来るのではと予想されています。
皆様には村へ行ってもらい、ここで領主の兵と共にゴブリン達の迎撃。討伐を遂行して頂きます。
村には幾つかの家屋や、二階建ての集会場、本作戦の為に用意した物見塔があります(高度10m)。
村人達は既に領主の用意したキャンプ地へ避難しています。
●味方勢力
領主が派遣した兵が二十、皆様の指示があればその通りに従います。
ただし、彼等はゴブリンに囲まれたりするとあっという間に総崩れになる可能性があります。指示を出す場合は『攻め過ぎない』を心得た作戦が好ましいでしょう。
兵士達は全員【発光】のスキルを有しています。
●敵勢力
ゴブリンロードに統率された精鋭集団。村人達からの話を基に想定されるその戦力数は約三十以上。
いずれも三人一組で連携している節があり、必ず盾役と攻撃役、回復を担う者がいます。恐らく相当の力押しならば正面から盾役を突破出来る可能性はあります。
襲撃は深夜とされています(リプレイ開始時)
そんな彼等を指揮し、意図的に攻撃性を増幅させて操っているのがゴブリンロードです。
別件におけるロードは倒されたり、スキルを無効化・封印する効果のスキル等を受けた事で他のゴブリンが弱体化したという報告がありました。参考にしても損は無いでしょう。
ロード自体の戦闘力は未知数です。どうか気をつけて下さい。
●情報精度B
依頼主や情報屋からの情報以外に不明点があります、慎重に作戦に臨んで下さい。
以上、皆様の健闘を祈ります。
※アドリブ可、アドリブ多、等の記載がキャラクタープロフィール下部の通信欄にてあればシナリオ中で場面や展開、活躍に応じてセリフが増える場合があります。
ご参考までにどうぞ宜しくお願いします。
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