シナリオ詳細
戻らぬ弟子の影
オープニング
●
覇竜に現れた巨大なアリの姿をしたアダマンアント。
それらはクイーンを中心として徐々に大きな勢力となっていき、亜竜種達の住む里を攻め、中には滅ぼされてしまった集落すら存在している。
先日の戦いでイレギュラーズを中心とするチームが掃討し、クイーンを討伐するに至ってはいるが、依然としてアダマンアント自体は繁殖を続けているとも言われている。
ここからが本題だが、その戦いの最中、イレギュラーズは蟻帝種という存在に出会う。
「アンティノアと呼ばれるそれらはすでに第2世代まで生まれているって話さ」
『海賊淑女』オリヴィア・ミラン(p3n000011)は苦々しい顔で今回の事件を語る。
先の<真・覇竜侵食>で、イレギュラーズの一隊は岩場の集落を攻めていた蟻帝種、王・浩然の討伐に至る。
そのベースとなったのは、亜竜種の青年で覇竜轟雷拳の門下生。アダマンアントによって帝化処理を施された存在であったという。
「じゃ、本物はどうなったのかって、その時立ち会ったメンバーは思ったのだそうさ」
ジェイク・夜乃(p3p001103)、オウェード=ランドマスター(p3p009184)の2人は覇竜の地で聞き込みを行い、実際に現地へと向かうなどして調査を重ねていたのだが……。
残念ながら、帝化処理を受けた者は帰らぬ者となってしまうことが他の依頼報告などから分かった。
「蟻どもめ……」
「最後はいかなる心地持ちだったのじゃろうな」
調査の結果、アダマンアント達の人を人とも思わぬ実体が明らかとなった上、もはや元となった亜竜種の青年、王・浩然が戻ってこないという現実を突きつけられた形だ。
「そうか、浩然はもう……」
覇竜轟雷拳師範、徐・宇航は弟子の死を聞き、無念さをにじませる。
巨大アリ駆除に当たっては覇竜轟雷拳の面々も対処に当たっていた。
覇竜の地では運が悪ければ、亜竜や魔物にやられ、餌となってしまう者も珍しくはない。
だから、弟子もそうした者と変わらないと言えるが、死してなおその姿見が利用され、知識や武術までも利用されていた事実に宇航は静かな怒りを感じていたようだ。
「そんなアンタらに面白くない事件を解決してもらわないといけないんだ」
神妙な顔で、オリヴィアが語った依頼とは……。
●
覇竜某所。
前回狙われた岩場に囲まれた集落シャウデ。
その入り口傍で待機していたイレギュラーズと1人の亜竜種がそれらの来訪を待っていた。
「なんだぁ、あんたらは」
呆れた顔をしてやってきたのは、王・浩然と瓜二つの姿をした蟻帝種だった。
そいつは赤青2体のアダマンアントを連れている。
通常種とは異なって戦闘特化の個体であり、いずれも手ごわい相手なのは間違いない。
それらの迎え撃つにあたり、メンバー達が手早く対策を練っていたが、この場にいた亜竜種……覇竜轟雷拳師範、徐・宇航が表情を険しくして。
「違うな、貴様が浩然であろうはずがない」
「は? 誰だジジイ。俺に喧嘩打ってんのぉ、ウケる」
そいつは宇航の言うように、浩然の皮を被っただけの別人である。
蟻帝種は第2世代へと進んでいたが、祖となっている第1世代とは異なって知識や技術を身につけてはいない。
この蟻帝種の男もたまたま王・浩然の姿をしているが、性格すら異なっているのはその為だ。
「黙れ」
並々ならぬ怒りに燃え上がる宇航の気迫に、敵だけでなく、イレギュラーズも何か感じることがあったようだ。
「下賤な輩がその姿で悪事を働くのを見過ごせはせぬ」
宇航師範に続き、イレギュラーズも思い思いに敵意を示せば、蟻帝種も太刀を抜いて。
「うざってぇなぁ、切り刻んでやるぜぇ!」
配下の戦闘種と共に、そいつは嬉々として飛びかかってきたのだった。
- 戻らぬ弟子の影完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年08月25日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
覇竜、某所。
メンバー達はフリアノンを経由して岩場に囲まれた小さな集落シャウデを目指す。
「ドラゴニアの同胞の姿を盗みあまつさえ悪事を働く……防人としてその凶行看過できません」
『亜竜祓い』アンバー・タイラント(p3p010470)は今なお活動を続ける蟻帝種を見過ごせぬ様子。
実際、亜竜種が利用された第一世代の討伐に立ち会ったメンバーもこの場にはいる。
『巻き返す為の賭け』オウェード=ランドマスター(p3p009184)などは本人の消息をたどっていたのだが……。
「そうか……本物の王殿は亡くなっていたのか……」
その事実に残念がるオウェードだが、彼以上に師である覇竜轟雷拳師範、徐・宇航以下、門下生達が無念さを滲ませている。
「徐先生や門下生達の無念、わたしにも察せられます」
『諦めない』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は師弟というものが血の繋がりを持たない絆と推察する。
「血のつながりは無くとも、彼らは家族だったのだろうな」
『残秋』冬越 弾正(p3p007105)はかつて弟と戦った時に生きた心地がしなかったことを思い出す。
「なんだか悲しい依頼なのにゃ……」
状況を聞いて『少年猫又』杜里 ちぐさ(p3p010035)はしんみりとしてしまう。
「……やりきれんな」
『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)は愛弟子、あるいは仲間が蟻共に奪われた覇竜轟雷拳の面々の怒りを感じ、やるせなさを感じさせる。
「それ以上に悲しみとか『大切に想うからこその復讐心』みたいなのを感じるのにゃ……」
「その蟻が愛弟子の姿と技を盗んで悪さをしているんだ。許せるわけがない」
ちぐさやジェイクが自分達の内なる気持ちを代弁したことで、宇航や門下生も気持ちの整理がついてきたようだ。
そこで、それにしてもと『ドラネコ配達便の恩返し』ユーフォニー(p3p010323)が考えていたのは、倒したはずの浩然の姿をした蟻帝種が第二世代として再び現れたということ。
「どこかに、もしくは誰かが浩然さんの生体情報を保管しているのでしょうか。それとも……」
すでに前回の襲撃前に生まれていたのか……。
この状況に様々な考えを巡らせながらも、メンバー達は現地へと向かう。
●
さて、現地に向かう前にメンバー達は多少の情報収集なども行っていたが、特に弾正は第一世代の王・浩然との戦闘についての資料に目を通し、そのくせ、動きなどを確認していた。
「性格が変わっていても、無意識の部分では近しい部分もあるだろうからな」
弾正はそういうものの、同じ顔で別の人格を実際に目の当たりにすると……。
「俺に喧嘩売ってんの、ウケる」
あからさまに違う性格の存在の浩然に、覇竜轟雷拳の面々の表情が陰る。
なお、途中で宇航は数名の門下生を引き連れて別所に向かっており、こちらは門下生3名が残るのみだ。
「帝化処理を受けた青年の姿を被っただけ、虎の威を借る……いや、それ以下か」
「あぁ?」
『燼灰の墓守』フォルエスク・グレイブツリー(p3p010721)の言葉に、蟻帝種はこちらを睨みつけてきた。
「初めまして、ユーフォニーです。あなたのお名前は何ですか?」
「俺様は偉大なる蟻帝種、王・浩然だ。覚えておけ」
ユーフォニーが呼びかけると、そいつは鼻を鳴らして名乗る。
覇竜轟雷拳メンバーが蟻帝種を睨み返すものの、ポーカーフェイスで努めて平静を装うユーフォニーは彼らを制して。
「今日はどうしてこちらに?」
「そら、仲間は多い方がいいっしょ」
「どこからいらしたのでしょうか。ここまで遠くなかったですか?」
「説明うぜぇな」
含み笑いする浩然。後ろに控えるアダマンアント戦闘種2体は黙したまま指示を待っているようだ。
「ご家族はいますか」
「他んとこ亜竜種狩り行ってんじゃね?」
「蟻帝種たるあなた方にとってはただの生存戦略なのでしょうが……その有様は私達の怒りを呼び起こすだけです……」
アンバーが静かな怒りに打ち震える傍で、門下生らも拳を震わせていた。
(もし、わたしが死んだら……)
やり取りを目にしてココロは思う。そうなれば、お師匠様はどんな気持ちになるのだろう、と。
逆に、お師匠様を失ったら……そこで彼女は首を大きく横に振る。
今は自分も無念を晴らす手伝いをと、ココロは目の前の状況に集中する。
「徐・宇航も、王・浩然の尊厳が守られることを願っているだろう。そして人の生と死は須らく尊いものだ」
仲間達の問答を軽くあしらう相手の様子に、フェルエスクは我慢ならず、別所に向かった宇航の胸中を代弁して。
「だからこそ……その姿で醜く囀るな、反吐が出る」
「徐殿達や亡くなった王殿の為に彼らに報いという物を与えなければならん……」
オウェードも同調し、イキる蟻帝種へと片手斧を差し向けた。
「ガハハ……いいじゃろう……王殿の仇、ワシらで討ってやろう!」
「今度は共に、紛い物を打ち滅ぼすぞ」
「負の連鎖を断ち切る為、王・浩然……貴様の魂をイーゼラー様の身元に還す」
ジェイクの呼びかけに門下生達が構えをとると、弾正も続く。
「それこそがイーゼラー教《Nine of Swords》――黒の信徒たる俺の役目だ!」
せめて、自身の刃で。アンバーもまた武器に手をかけて。
「我が名はアンバー……アンバー・タイラント! 我が刃恐れぬのならば掛かってきなさい」
「門下生の人が全員無事で帰れるように頑張るにゃ!」
「お前達は徐・宇航の厳しい指導を受けて覇竜轟雷拳を身に着けたんだ! そのお前達がまがい物に負けるわけがない! 今こそ師の教えを思い出すんだ!」
ちぐさの傍では、ジェイクが門下生らの統率をとり、士気を高める。
「さあ、おっぱじめようぜ!」
「ハァ、調子乗んじゃねぇぞ!」
血管を浮き上がらせ、浩然を名乗る蟻帝種はアダマンアント戦闘種と共に襲い掛かってきたのだった。
●
亜竜種の集落を狙ってきた蟻帝種以下アダマンアント戦闘種2体。
数は3体。少数精鋭の実力者とみていいだろう。
「後方支援に回るにゃ」
素早く立ち回り始めていたちぐさは敵から仲間の支援ができる程度に距離をとり、集中力を高める。
「お前達は戦闘種を頼む!」
門下生へと指示を出したジェイクは敵……王・浩然の抑えに動き出す。
その門下生より少し早く、イレギュラーズが戦闘種2体の討伐を目指す。
戦闘種は炎タイプのアグニと氷タイプのアーシュラ。それぞれが得意とする属性を織り交ぜ、手にする両手武器を振り払ってくる。
「まずはアーシュラから集中攻撃だ」
先んじてフォルエスクが飛び出し、黒き大鎌に暗闇を纏わせて斬りかかる。
フォルエスクの初撃は手傷を与える程度。アーシュラも最小限に傷を抑えつつも、凍てつく棍を叩きつけてくる。
フェルエスクもそれを受け止めていたが、続けて吹き付けてくるアグニの炎には涼しい顔をしてみせた。
ギギ……。
奇怪な鳴き声を上げる敵にアンバーが迫る。
「炎に氷……問題ありませんね」
思ったより速い敵に少し出遅れた形となったアンバーだが、広く戦場を見回す視点を持つよう心掛けて動く。
その上で、アンバーは名乗りを上げて相手の抑えに当たる。
ただ、相手の炎や氷は食い止められても、斬撃、打撃まで無効化できるわけではない。
「対巨大生物を主眼に製造された大薙刀『屠龍』の威力、お見せしましょう!」
閉じた聖域によって守りを固めたアンバーはリーチの長さを活かして敵を牽制する。
少しずつジェイクが戦闘種より離していく浩然へ、共に仕掛ける弾正が鋭い目つきで仕掛ける。
「戦闘種を倒すまで足止めをしておく作戦だが……別に、倒してしまっても構わないんだろう?」
仲間に気を取られる蟻帝種へ、摂理の視を得て一角獣の矜持を強く持つ弾正は一気に攻め入り、残像を展開しつつ蛇鞭剣で斬りかかっていく。
オウェードの位置も気掛け、弾正は身構えながらもこちらの策を悟らせぬよう積極的に攻撃を仕掛ける。
「はああああっ!」
そこに空を切って、アーシュラへと1人の門下生が飛びげりを食らわせる。他2人も門下生も間断なく飛び込み、己の拳を、蹴りを、尻尾を食らわせていった。
時を同じくして、ジェイクが王・浩然を抑え始める。
彼は激しく立ち回る仲間の陰で気配を消し、全てを見通す視座で戦況を把握しつつ、二丁の銃を発砲させて浩然を狙う。
「丸見えだけど~!?」
自身の身長と同等の長さの太刀を振るい、斬りかかってくる浩然を抑えるのはジェイクを庇うオウェードだ。
「敵は覇竜轟雷拳を封印した代わりに基礎能力を上げたと思った方がいい……それ以上の技を繰り出すかも知れぬ……」
戦略眼を働かせ、敵の猛攻を食い止めつつ、オウェードは考える。
先に討伐したいのはアーシュラだと考える彼だが、そちらはアンバーらに任せて歯を食いしばり、防御集中して長い刃を抑えつける。
「この太刀は大きさは確かにあるのう……だからと言ってワシの守りを破るのは容易な事じゃないワイ!」
できる限り、浩然の攻撃を自らの体で受けようとするオウェード。
そんな盾となるメンバーや覇竜轟雷拳の面々も含め、ココロは纏めて聖体頌歌を歌い聞かせる。
(1人の敵討ちなのにまた弟子を減らさせたくない)
皆が治癒を受けられるようにと気にかけ、ココロは少しずつ位置取りを変えつつ更なる癒しを仲間達へともたらす。
「何か困っていることはありませんか」
互いが傷つく戦況を常に把握しつつ、ユーフォニーが浩然への呼びかけを続けて。
「もしあるなら、私たちが力になれることはありませんか?」
「なら、俺達の為に亜竜種差し出せっての!!」
「…………」
もはや、完全に蟻帝種としての自我しか持たぬこの敵に、ユーフォニーも首を振る。
「護るための色を、護るための万華鏡を」
敵の周囲へと展開される万華鏡の中、アダマンアント達が目まぐるしく変わる色にその身を包まれて苦しむ。
「誰ひとり死なせません……!」
「やっぱ~、俺達とそれ以外は相容れないっつーか」
軽薄さを感じさせつつも、浩然は瞳と共に刃を煌めかすのである。
●
亜竜種の集落シャウデを蟻帝種の侵攻から護るべく、イレギュラーズの奮闘は続く。
ちぐさも戦闘種対処へと回り、閃光を放ってアダマンアント戦闘種アーシュラに痺れを走らせる。
だが、その相方アグニは予想以上の力を見せ、炎で力を高めて恐ろしいまでの鉾捌きを見せつけてきたのだ。
ギ、ギシャアアアアア!!
引付に当たるアンバーの脇を抜け、アグニはフォルエスクへと炎の鉾の乱舞を浴びせかける。
フォルエスクに炎は効かない。彼だけでなくメンバーの半数は炎対策を講じていたのを敵も理解していたのだろう。それ故に、アグニは物理火力を高める起爆剤として炎を使い、物理攻撃寄りでの攻撃を行ってきていたのだ。
アンバーもそちらへと回ろうとするが、自身の得意攻撃が封じられたと感じたアグニの猛攻は止まらない。
ギシャアアアアアアッ!!
激しいアグニの攻撃がフォルエスクの体を抉る。
彼は途切れかける意識をパンドラで繋ぎ止め、攻め来るアグニをアンバーが抑えつけたことからソニックエッジでアーシュラを攻め立てる。
「はあああっ!!」
「てえええええい!!」
門下生達もそれに続き、打撃を打ち込んでいく。
「このまま同じことが繰り返されても負の感情が紡がれるだけ。覇竜のみなさんの悲しみや怒りを増やしたくないんです!」
その間にユーフォニーが苦しむ亜竜種の友を思い浮かべながら、胸の内を語る。
根本的な解決に繋がる何かを少しでも掴めるなら……チャンスは逃したくはない。
全身の感覚を研ぎ澄ませ、戦況を把握するユーフォニー。
「集落には絶対行かせません!」
力を溜めた彼女が発するのは鮮やかな色の光。
ギ、ギギギィ……。
目から光を失ったアグニはそのまま地面へと横倒しになっていく。
ギイイィィ!
アーシュラも徐々に追い込まれ、焦りが見える。
炎ほどではないが、氷もまた対策済みのメンバーがおり、そいつもまた氷ブレスなどは牽制に留めて凍った棍で殴り掛かってくる。
それをアンバーが冷静に捌き、頭、喉、鳩尾と3か所の急所を一突きで貫き、アーシュラの態勢を崩す。
「今です!」
「支援するにゃ!」
合間にちぐさが迸る光でアーシュラの体も灼く。
好機と見たメンバーが畳みかける中、ジェイクがその胸部や脳天を撃ち抜き、大きく上体が仰け反ると、態勢を立て直したアンバーが切り込む。
「鉄帝の武技……その身に刻んで差し上げます」
亜竜種である長身のアンバーは、鉄騎種と遜色ないパワーで刃をアーシュラの体へと埋め込む。
…………ギィ……。
小さく嗚咽を漏らし、氷の思わせる体躯を持つアダマンアントは地面へと伏していった。
横目で見ていた蟻帝種、王・浩然は舌打ちして。
「戦闘種マジ使えねえ!」
こちらを見下していた浩然は劣勢になったことで露骨に苛立ち始める。
そんな彼に、門下生らも嘆息しながら本物を弔うべく鍛えぬいた技を叩き込む。
(……死した友人知人隣人の顔、記憶を持った別の何かが襲い掛かってくるとかどんな悪夢ですか……)
共に鍛錬に励んだ仲間の姿をした敵。門下生達も少なからずその攻撃に迷いがあるはずだとアンバーは考える。
ともあれ、攻撃の手は緩めるわけにはいかない。彼女もまた大薙刀で変幻自在の攻勢で相手を休ませない。
「大丈夫。そのまま行きましょう」
ココロは門下生達へと統制を働かせ、戦闘種との戦いで傷ついたメンバーに聖体頌歌を響かせる。
「ユーフォニーさん、皆さんの異常の回復を」
「任せてください!」
ココロの呼びかけもあり、ユーフォニーは戦闘種の残した炎や氷、そして浩然の刃で血を流す仲間達へ支援するのは、海青の凪。止まった風の中で広がる波紋がメンバー達に活力を与えた。
彼女達の癒しによって傷を塞ぎ、ジェイクは相手の太刀の間合い外から銃口を向けて。
「前の『王』よりは強くなっているようだが、まがい物が本物の俺達に勝てる道理はない!」
敢えて直撃させず、弾丸を掠めることでジェイクは浩然を煽る。敵はジェイクへと強引に切りかかり、突きを繰り出すが、こちらも仲間の手当てを受けていたオウェードが冷静にそれを片手斧で切り払う。
「戦いの焦点は前回の戦いを知っているかどうかじゃ! ワシらは当然、敵もまた同じ事じゃよ!」
状況は圧倒的にこちらが有利。ただ、手負いの獣は危険と認識するオウェードは己の傷を塞ぎ、強打を撃ち込んで意志の強さを浩然へと見せつける。
「『本物』の浩然のためにも全員生きて帰るにゃ! 悲しみを断ち切るのにゃ!」
ちぐさの言葉に並々ならぬ力を滾らせた門下生達がかつての同志の姿をした敵へと拳を、蹴りを、頭突きを、尻尾を叩きつけ、激しいタックルで押し倒さんとする。
さらに、ちぐさ自身も歪みの力で蟻帝種の体を蝕むと、慎重に攻め込んでいたフォルエスクがここぞと迅速に大鎌で切りかかる。
「お前の死をここに刻む――!」
音速の殺術は相手の急所を全て切り裂く。
だが、浩然もしぶとく踏みとどまって。
「こいつら、うぜえ……!」
全身から体液を流す浩然。それが赤い血でないことで、皆改めて彼が別の存在であることを再認識して。
「確実に潰させてもらう」
逃走など許さじと身構えていた弾正は仲間と共に包囲した敵目掛け、読み難く避け難い斬撃を見舞う。
「マジ、ありえねえ……!」
最後まで軽薄さを感じさせ、蟻帝種は崩れ落ちていった。
●
全てのアダマンアントを討伐して。
ちぐさは覇竜轟雷拳の面々が無茶していなかったかと気にかけて駆け寄る。
「大丈夫だ」
皆が無事であることを確認し、ちぐさは安堵していた。
「これ以上、誰かが欠けるなんて悲し過ぎるのにゃ……」
周囲では、弾正が神に祈りを捧げている。
「王・浩然の三代目とその祖の魂が二度と穢される事なく、イーゼラー様の身元に還る事ができるように……」
そういえばとオウェードが倒した敵について考察する。
(実は連れのアダマンアントの方が強かったと考えていたが……)
できるなら、本物の浩然の遺体を発見して集落に帰して葬儀できればいいが、どこで研究されていたのだろうか。
しばらくして、別所のアダマンアント掃討を終えた徐・宇航や門下生が合流する。
彼らは弟子の、あるいは同門の仲間の姿をした別人の姿を見ずに済んでよかったのか。はたまた……。共闘した門下生達の複雑な表情を見る限り、悩ましいところである。
そこで、ココロが宇航らを労いつつ、彼にこう志願する。
「徐先生、覇竜轟雷拳の指導を受けたいのですが」
亜竜種向けの拳法であるが、海種のココロが修めたいと話したのに浩然も門下生達も驚く。
弟子はまだ多く存在する。力量が足りずこの依頼に来られなかった者も数多くいるはずだ。
「翼や尻尾も攻撃に利用する覇竜轟雷拳。種族の違う貴公がどの程度修められるか分からぬが、それでも良いのか?」
「はい、わたしにも稽古をつけさせてください!」
ココロとしては、指導や修行に専念させ、浩然や門下生の気を他に向けさせるべきと判断したのだ。
「覇竜の道、険しいぞ」
「はい!」
後は彼らの気持ちを時間が解決することを願い、ココロは大きな声で返事したのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPは敵の抑え、討伐と活躍を見せたあなたへ。数名の方に称号もお送りしています。
覇竜轟雷拳師範、門下生、及び徐・宇航の説明に不備がありました。
今回は門下生数名を同伴の上での戦闘としており(宇航は不参加としました)、マスタリングも考慮の上で調整しております。誠に申し訳ございませんでした。
今回はご参加、ありがとうございました。
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
覇竜、蟻帝種シナリオです。またジェイク・夜乃(p3p001103)さん、オウェード=ランドマスター(p3p009184)さん、両者のアフターアクションによって発生したシナリオです。
●概要
先日の<真・覇竜侵食>において発生したシナリオ、「<真・覇竜侵食>亜竜を飲み込む蟻帝」で、交戦した蟻帝種。
彼は亜竜種の拳法家をベースに作られた存在で、ベースとなった亜竜種はすでに亡き者となっていることを知ります。
この蟻帝種が率いる一団を撃退していただきますよう願います。
今回は前回と違い、岩場の外での戦いとなる為、集落側を除けば広くスペースを利用できます。
●敵……アダマンタイト一隊
○蟻帝種『第二世代』:王・浩然(ワン・ハオラン)
覇竜轟雷拳師範、門下生だった亜竜種青年が帝化処理をうけた第一世代の姿を映しただけの存在です。
先日の依頼で登場した蟻帝種とは別個体です。
加えて、生前の知識を得ておらず、元となった本人とは全く異なる動きをし、身長ほどある太刀で斬りかかってきます。
○アダマンアント戦闘種×2体
4足歩行のアダマンアントで戦闘に特化した個体を指します。他のアダマンアントとは異形化とも呼べるほど変貌しています。
・アグニ
全長3m。全身が炎を思わせるように赤く、上方に向けて肌が炎のように逆立っているのが特徴です。
燃える鉾を振り回し、炎ブレスや火柱と炎を操ってきます。
・アーシュラ
こちらも全長3m。全身が氷を思わせるように青く、上方に向けて刺々しい氷が生えているのが特徴的です。
氷ブレスや氷柱を操りつつ、凍てつく棍で殴りかかってきます。
●NPC……覇竜轟雷拳師範、門下生
ペイトにて徐・宇航が開いた武術の一派。
翼や尻尾までも技に活かし、極めるには亜竜種であることが必須です。全身を凶器として利用することで、思いもしない攻撃が可能であり、覇竜の亜竜、魔物とも互角以上に渡り合うことができると言われています。
今回は弟子の無念を感じつつ、弟子の姿をした蟻帝種との戦いを決意します。
○徐・宇航(じょ・ゆーはん)
長く伸びた髭が特徴的な45歳男性。師範。
攫われた門下生の身を案じ、同じ姿をした敵との交戦が叶わぬことに無念さを感じながらも、イレギュラーズに今回の状況を託して別の戦地へと向かいます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
それでは、よろしくお願いいたします。
Tweet