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シナリオ詳細

花蝶天女譚:花はあなたを求めてる

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●花愛でる娘、花のような娘
 彼女は花の蜜が好きだった。
 呼吸する様に花愛でる娘は、それと同じくらいには花の蜜が好きだった。きっと、蜜の味と花の美しさ、どちらも好きだったのだ。
「ハチドリは常に蜜を吸わないと生きていけないのよね。儚くて、でも羨ましい。そうして生きていく道もあるのね、鳥や蝶には」
 彼女はそんなふうに笑っていたなと、今でもわたしは覚えている。
 ああ、だから。
 『わたし』のもとへと訪れた歪なまでに美しいそれは、彼女なのだと合点がいった。
 わたしはもう声も出せないけれど、献身的な素振りで『わたし』を育て、蜜を吸う姿は美しかった。
 だからわたしも、彼女の想いに応えるのだ。
 ──いただきます。余さず迷わず、残さずに。

●天女の戯れ
「皆さんは、『天女』という存在についてはご存知でしょうか。豊穣に現れる肉腫(ガイアキャンサー)の一種で、『衆合地獄』華盆屋 善衛門により改造された少女達を指します。原則として救済不可能――そう思って頂いて結構です」
 『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦(p3n000097)はイレギュラーズ達に(特に豊穣に渡るのが初めての者にも分かるように)段階を踏んでの説明を始めた。
 肉腫は、基本的に『複製肉腫』と呼ばれる一般種族から変異したものは救済可能だ。これが更に反転するなどした場合、別物となって救えなくなってしまう。今回の場合は、肉腫化に加えて肉体改造や変異が不可逆性を伴うために救済不可能となったもの、『天女』と称されるものが敵となる。ここまでは、『神逐』を経たイレギュラーズなら多くが知る話である。
「今回は、別々の地点に現れた2体の天女をそれぞれ隔離し、各個撃破するのが目的です。これは、この2体が非常に強い共生関係にあり、しかも強い精神的繋がりを窺わせる素振りを見せているためです。片一方だけ先んじて倒せば、間違いなく後々の称障害となるでしょう。だから、同時がいい」
 彼女はそう言うと、眼鏡を通して豊穣のいち地域、2つの村の中間地点と、そのうち東側の村へマーキングをつける。髑髏の、だ。
「この村々ではここ数日、多数の行方不明者が出ています。あまりに急激だったため原因究明の依頼が来ていましたが、不明者をリストアップしたところで疑念がうまれました。東西それぞれの村で日を置かずして少女が一人ずつ行方不明になり、その後暫くして西の村で徐々に人が減り始めたあと、東の村で人が減るようになりました。別働隊が対応する『蝶の天女』の介入で加速度的に被害が増加してるようですね」
 つまりは当初の二人が『天女』となった時期に若干のズレがあり、『蝶の天女』こと東の村の少女が活動を始めたことで、危機感が激増したといえる。
「東西の村の中間地点の天女は非移動型で、植物ベース……まあ花ですね、そういう造形なのだそうです。これは比較的早期に確認し、逃げ果せた西の村人から確認できています。強烈な幻惑を見せる香気を振りまき、山に入った人々を引き寄せて栄養源としていたとされます。当然ですが根や蔦などで長距離攻撃も可能で、すでにかなり栄養を蓄えていることから種を飛ばすなどして寄生攻撃を仕掛けてくる事も考えられます。……それと、顕著な危険を伴う情報がふたつ」
 ここまでもかなり危険な情報だったと思うが? そう抗議の視線を向けるイレギュラーズに、三弦は肩を竦めた。
「ひとつ。彼女は『実』を投擲することで特定の対象にマーキングし、重点的に攻撃するようになる……謂わば皆さんが敵の視線を引き付ける技術の逆、『特定の相手を選択的且つ積極的に攻撃するようになる』。
 ふたつ、件の『蝶の天女』の行動により、『戦場に一般人が流入する危険性が大である』。こちらは状態異常の治療を行えば正気に戻りますが、早期に対応しなければ射程圏に入り殺されるでしょう」
「この敵を放置したらどのくらいヤベェのか、こっちだけ狩りそこねた場合どうなるのか、お前は大体予測できてんじゃねえか? 教えてくれよ」
 それまで話を聞いていたトキノエ(p3p009181)が鋭い視線を伴い問いかけてくる。危険なことは百も承知だが、重要なのはこれを放置した最悪の想定、ないしだいぶ『悪い』想定だ。三弦はしばし言葉に詰まってから、ようやく口を開いた。
「双方生き延びた場合が最悪、村は全滅するでしょう。『花』だけが生き延びた場合、減少は限定的ですから『イレギュラーズが排除できなかった』相手の追討を諦め、屈服します。つまり、『肉腫の神格化』ですよ。余り想像したくはありませんね」

GMコメント

 蜜の話を考えてレジャーシナリオになるはずだった初期稿がわずか数時間の労働の間にこんななるなんて皆思った? 俺は思わなかった。
 なお連動になった理由は「続き物にしたら多分みんな忘れるし」でした。

●注意事項
 このシナリオは『花蝶天女譚:あなたの魅惑へ』と時系列同時進行となります。
 そのため、参加はいずれかに限定されます。ご了承ください。

●成功条件
 天女『無限香花』の撃破。
 └撃破後、遺体を完全滅却のうえ、周囲の土壌も軽く掘り返すなどしておく。

●失敗条件
 流入してきた一般人が戦闘終了時までに全滅する

●無限香花
 『衆合地獄』華盆屋 善衛門によって作られた『天女』の一体。素体は西の村の少女です。
 色々と湿っぽい事情がありますが今回はノイズなので脇においておきます。なお、人肉食性だったため、蜜も『そういう』傾向があったが為に天女『極楽蝶』の性質を歪めた疑惑があります。
 原則として移動を行いませんが、非常に堅牢性に振った設計になっています。【巧妙(小)】所持。
 OPにある通り、『罪の果実(物超単:【無】【万能】、マーキング状態付与)』によって選択的に自身に対処に対して擬似的な【怒り】を付与できます。勿論移動はできないので、遠距離攻撃とか仕掛けますが。
 他諸々の攻撃はOPにも記載がありますが、『寄生種(物中列:【麻痺系列】【凍結系列】)』や地面から根を這い出しての攻撃など、多岐にわたります。
 一部の攻撃には当然ながら【必殺】も存在します。攻撃の全容は判明していませんが、物理攻撃力がそこそこあり、【ブレイク】や【無策】などで尽く対策をぶち壊しにいく可能性を留意して下さい。
 なお、一般人を捕食することで若干の性能強化とHA回復が伴います。

●寄生植生
 『寄生種』が回避されたり、規定の人数に命中しなかった場合に地面に落ちて発生します。増殖数に上限はありません。
 攻撃力他、性能は雑魚といえば雑魚ですが命中精度の高い蔦攻撃で妨害を行ってくるでしょう。楽観視せず適宜潰したほうがいいです。

●一般人
 戦闘開始後しばらくすると出現します。
 こちらは『あなたの魅惑へ』の状況に左右されますが、必ず少数でも出現するのでご注意下さい。歩調は遅く、戦場(無限香花のレンジ外)から80m地点で視認可能となり、戦場へは3ターン程度で侵入してきます。そのまえに【BS回復】などで状態を解除し下がらせるのがベストです。状況が悪ければどんどん入ってきます。面倒ですね。

●戦場
 ふたつの村の中間の森の中。
 戦闘には支障はありません。足元の草だけは足を取られないよう気をつけたほうがいいでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

  • 花蝶天女譚:花はあなたを求めてる完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2022年08月23日 23時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形
トキノエ(p3p009181)
恨み辛みも肴にかえて
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ


「よくもまあここまで……」
「珠緒さん、落ち着いて。大丈夫。村の人達を守るためにも、あの化け物にはここで朽ち果ててもらうわよ!」
 『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)の短い声は、しかしその内に篭った敵意の発露が想像以上に深いものであることを匂わせた。少なくとも、『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)にはその感情が十二分に伝わってくる。そして、その気持ちは彼女にも十分に理解できた。だからこそ、距離をおいて対峙する無限香花の放つ香気の濃さに不快感を刺激される。東側に――仲間の戦場側に身を置き、彼等の健闘を祈りながら手にした書は、意思を反映し輝きを増した。
「……なんて、ひどいこと。もう戻れない、のなら、ニルは……せめて、傷つく人が少しでも減るようにしなきゃって、そう、思うのです」
「助けてやれりゃ良かったんでしょうが、仕方ありませんの」
(しくじれば村の全滅と、"肉腫の神格化"か……思ってた以上に性質悪ぃな)
 『眠らぬ者』ニル(p3p009185)の愕然とした表情は、次第に終わらせる方向へと熱情を帯びていく。『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)はその声に冷静に頷き、割り切った者の身振りでもって身構える。感情が無い訳では無い。終わってしまったものを、きちんと幕引きするのもイレギュラーズの役目なのだ。だからこそ、聞き知った最悪の可能性に『酒豪』トキノエ(p3p009181)の胸と喉は締め上げられる。炎に燃える人を見た。溜め込んだ悪感情で燃え盛る犠牲を見た。あれよりも酷い有様が、目の前にある。
「はぁ、全く厄介な花だな。いや、厄介なのは蝶か? ……どっちもだな」
「作り替えられ、人食いとなり、悲劇をもたらす存在。泥人形の俺にでもわかる。この天女を作った悪意はひどく度し難い……蝶も花も、不幸に違いないとも」
 『戦支柱』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は敵の厄介さに舌打ちし、改めて自分達と、別の戦場にいる者達の置かれた状況に目眩を覚えた。戦ったあとになお対処を強いられる。ここまで厄介な相手が他にいようか? いたこともあったろうが、ここまでやる気の起きない相手も珍しい。『死と泥の果より』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)の鼻孔に忍び寄る甘ったるい無限香花の香りは、泥人形を自称する彼であっても滅入る感覚を覚えるほど。こんなものに狂わされた極楽蝶も、この二人を作り変えた元凶も。理解が及ばぬところにあるということだけは確か。
「時間の余裕なんて考えちゃいられない、与えちゃくれないか……なら状況が悪化するまえに、確実に討伐するしかないな!」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は可能であれば無限香花に近づけぬよう、戦場を封鎖するつもりで居た。が、状況は余裕というものとは縁遠く、周囲の木々のざわめきこそが――人の顔すら見当たらぬ、得体のしれぬ肉腫の脅威を表しているのかもしれない。
 けたけた、けたけた。
 顔のない花から唐突に漏れ出た笑気に、一同は瞠目する。
 十分な距離を取っていたはずなのに、気付けば踏み出していた。戦闘距離だ、ここは。
 香気が揺蕩う場では、精神を固く締め上げてもなお――か。
 吐き出された罪の果実のその味は、一体。


「いきなり私かよ、クソったれ!」
「俺がすべて引き受けよう。その間に『クソったれ』を叩き潰してやれ」
「分かってるよ!」
 顔面モロで果実の汁をひっかぶったマニエラが毒づくより早く、無限香花の根が槍の如くに直下から突き出される。最初の一撃は胴部を激しく貫いたが、二度目はマッダラーが許さなかった。彼を貫いた根が、果たして彼に興味を示すのか否か。そして、その威力は如何ほどなりや。
「いくぞ、全力で……消し飛ばす!!」
 呪符を破り捨て、全身から爆発的な気力を吐き出したイズマは、一気に距離を詰めると拷問が如き空間術式で敵を固定した上で、全霊の魔力を叩き込む。最大火力を惜しまない。そも、目減りせぬものを惜しむ理由などないのだとばかりに吐き出された魔術の乱舞は、成る程、確かに無限香花に一定の成果を上げたようではあった。あったが、魔力の残滓が晴れた先にあるそれは身じろぎすると、寄生種を吐き出し健在であることを誇示しようとする。
 当たれば面倒、当たらずとも根を張り暴れる、イレギュラーズにとっては厄介なダブルバインドだが……しかし、それをあえて受ける者がいた。蛍だ。
「皆の邪魔をされるくらいなら、ボクが受ければ問題ないよ」
「蛍さんの献身を無碍にする甘さは、珠緒にはありません。正しく報います」
 珠緒は蛍が取り零した種から生まれた寄生植物を薙ぎ払い、蛍の動きに繋ぐ。蛍は猛攻を受けてなお、肉体に表立って不調を見せてはいなかった。
 そのまま残された寄生植物の指向性を己に向ける余裕の見せ方は、連携を最大限に発揮する状況でこそ尚輝く。
「こいつに効くかどうか分からねえけど、だいたい植物は『雷』でも『炎』でも燃えるだろ!?」
「蛍さんに当たらないように、ニルは植物を泥でえいってします」
 ニルの放った魔力の汚泥。それを被ったものが命を繋いでいられるかは別として――少なくともトキノエの追撃を、満足に避けることができないことだけは誰しもが理解できた。物理法則と、命の有限性。どちらに割り振っても、彼の攻撃は十二分に戦場で通用する。
「ばらまいた種が芽吹かなくて口惜しいですのう。ですが、これだけじゃ終わりません」
 支佐手は次撃を構えようとした無限香花に一気に距離を詰めると、己の巫術のありったけを叩き込みにかかる。次、次、まだ次を。受けるだけの全ての不調を相手に押し付け、戦いの趨勢を一瞬のうちに。
 全ては速度だ。イズマの猛攻しかり、防御を度外視したマニエラの接近魔術しかり、蛍と珠緒の連携しかり。何もさせず、全てが動く前に片付ける。相手の手管を全て封じて勝利する――それが、出来る全てだった。
 だった、はずだ。

 協奏馬がアラートをかき鳴らす。
 珠緒の耳に、草を踏む音が流れ込む。
 イレギュラーズは一斉に身を固くする。
「お出まし、ってか」
「……声が、届きませんでした」
 トキノエの顔が、苦虫を噛み潰したように歪む。
 ニルは使い魔越しに、夢遊病のなかにいるかのような人々を見た。顔に浮かぶのは喜色……否、いびつな使命感? ニルには全く理解できない類の感情だ。
「一般人が優先だ。絶対に……」
「近付けさせないんだろ。そっちは任せた」
 マニエラは決して頑丈ではなく、そして命も削られている身だ。出来れば倒れては欲しくない。だが、現れた人々が死ぬのはもっと最悪だ。マッダラーの逡巡に応じるように、マニエラはさらに前進する。マッダラーは踵を返し、人々を庇うべく動く。
 状況はどんどんと変わっていく。……少なくとも、よろしくはない方へ。


「珠緒さん、そっちの状況は?」
「一般人は引き剥がしています。けれど、寄生植物の数がやはり……」
「先にそっちを片付けよう、正気に戻っても死んでちゃ意味がない!」
 珠緒と蛍は、ふた手に分かれて其々に一般人の対処と寄生植物の排除を進め、なんとか犠牲を出さぬように腐心していた。如何に蛍が機敏に動こうと、やはり体は一つ、そして種子の散布は広範だ。健闘著しいが、対症療法に押し込まれるのは無理からぬ話。
 彼女達が念話ではなく肉声を交わし合う行為は、或いは無駄に見えるかもしれないが……少なくとも、その行為で強く結びつくものがある。湧き立つ力があるのだ。
「綻びができてるのはもう分かってる。無駄な攻撃をしたつもりは一瞬だってない。その花、燃やし尽くす!」
「頑丈っちゅうのは厄介ですが、百回やって百回成功はせんでしょう。根比べと、いきましょうか」
 イズマは呪符の効果が切れて尚、出来る限りの攻勢を止めなかった。40秒の狂乱は、確実に無限香花の体力を奪っているはずだ。花が弱っているはずだ。
 支佐手の猛然たる巫術だって、守りが硬かろうと、呪いへの抵抗があろうと、何度も止められはしないはずだ。だから、多分――勝利できる。
「……けた」
 また、聞こえた。
 笑っている? 語っている?
 無限香花の花びらには、口が見えない。だから、顔など失ったものと。発声器官などうしなったものと。誰しもが思っていた。だが違う。
「見つけた」
 全力を振るうために接近していたマニエラと支佐手は、足元が抜けた無重力感で意識が軽く飛び。
 そして、足元に。地面に開いた穴の底から覗く乙女の顔に。『ふたつのかおに』。
 再び意識と、そして正気を手放しかけた。

「ニルッ!」
「はい……!」
 トキノエの叫び声に、ニルの反応は素早かった。支佐手に放った治癒は、ギリギリのところで彼を此岸に引き戻す。正気と狂気の狭間、味方を向き、巫術を放った彼の目は一瞬前まで完全に狂っていたのだから。
 だが、マニエラは間に合わない。少数ながらも流れ込み、寄生植物を遠ざけるのでも厳しいというのに、治癒の手を従前に回せる可能性はここにあっただろうか?
 蟻の一穴という言葉がある。少しの疑念、少しの緩み、少しの不足が状況を悪化させる。
 イレギュラーズは、正しく『よくやった』部類である。
 あるが、それでも、森の中に遺体を引きずって向かってくる者がいるとすれば。
 そしてその遺体に対する一瞬の躊躇が、地面に植えられたウツボカズラのような『顔』に吸い込まれていった、とすれば。
 彼等はその状況がどれほど絶望的かを、身を以て知ることになろう。
 森から去っていく人々を救えたのは幸いである。少なくとも、この戦いの直ぐ後にこんな化け物を神格として奉る愚か者は現れないのだから。
 村で尽きた命を持ち込まれたのは災いである。人の肉、人の血であらば、それは生きている必要など最初からなかったのだから。
 そしてイレギュラーズ達は、僅かにでも、依頼の正当性を疑った己を呪った。 


「……村の方は大丈夫でしょうか?」
 無限香花の元へと流れていく人は、ひとまず消えたように見える。未だ健在なそれの影を認めながら、ニルは苦々しい声で問いを投げかけた。誰へともなく、だ。
「あっちに回った面々もプロでありますからのう、わしらに出来んかった分はカバーしとってくれる筈です。何より、東から人は流れてきていない」
「珠緒が東側を確認しました。烏滸がましい言い方をすれば『辛勝』ですが、勝ちは勝ちです」
 支佐手と珠緒はそれぞれの使い魔によって、東側の森の中、そして極楽蝶の行動を観察していた。極楽蝶は撃破され、今まさに存在を抹消されつつある。その戦闘の余波で森に迷い込む者の可能性を危惧した支佐手であったが、その点も含めあちらのチームはやり遂げたようであった。
「残されたアレが今後どうなるか。誰か想像できるか?」
「分かりたくもねえ」
 イズマが誰へでもなく問うと、マニエラは吐き捨てるようにそう告げた。全身はズタズタに引き裂かれ、呼吸もままならない状態で、しかし相手への敵意は確かにある。理解したくもないが、アレはその『理解できないところ』に強さを抱えていたのだろう。
「寄生植物の種を撒き散らしていたこと、人を餌にしていたこと、極楽蝶が現れる前から人を引き込んでいたこと……考えたくありませんが、珠緒には心当たりが幾つもあります」
「そうね、ボクも……考えたくないけど、想像はできる」
 珠緒と蛍は、ともに脳裏に浮かんだ最悪の想定に顔を顰めた。無限香花の花の香りがどこまで届くのかは未知数なれど、自力での繁茂が可能だとすれば、人を引きずり込む手段など枚挙に暇がない。
 極楽蝶が仕留められた今、相手の意図は後退させられたとはいえ事態がふりだしに戻っただけだ。
「きっとまた別の村で、別の天女が出てくるぜ。倒せなければ、周りを滅ぼすまで続く。その繰り返しだ」
 トキノエの苦々しい言葉は、誰に向けられたものでもない。ただ、この結末を招いてしまった自分自身に言い聞かせているようでもあった。
「死に行く魂にも、未だ闇の中にある魂にも、救いを差し伸べることは叶わなかった。そして俺は、命を差し出せなかった」
 マッダラーは喉を押さえ、己が差し出しきれていないものを想う。遠くから、未だ不愉快なほどに甘い香気が漂っている……。

 きっとあの香気は、残された人々を蝕むのだろう。人身御供にするのだろう。
 そして人々はついぞそれを、拒む手段すら失うのだ。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)[重傷]
記憶に刻め
トキノエ(p3p009181)[重傷]
恨み辛みも肴にかえて
物部 支佐手(p3p009422)[重傷]
黒蛇

あとがき

 残念ながら、今回の依頼に関しては『撃破失敗』が結果のすべてです。
 ひとまずは、かなり被害も大きかったと思われます為、十分休んでいただければ幸いです。
 お疲れ様でした。

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