PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<濃々淡々>夜海に溺れん

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 水平線が光る朝に、きらきらと波は揺らめいた。
 遠く昇る太陽は女の頬を撫で、緩やかに髪を、布を浚う。
 朧気に浮かんだあぶくは泡沫、遠き日の想いすらもくだけていくような悲しい匂いがした。
 鼻孔を擽る潮風が女の足をゆっくりと砂浜へ攫っていく。

 ひた ひた ひた ひた

 湿って柔らかな小さな砂粒が足に纏わり付く。嫌だ、嫌だと思っても海の中に足が進んでいく。
 そうして下半身が、上半身が、みるみる海に飲み込まれてしまったころには――ざぷん。
 海の中をぐるりと泳げてしまうくらいの、大きな泡に包まれていたのだそうな。

 ――――
 ――

「って話だ」
「へぇ……」
「猫のくせして淡々としてやがる、面白くねえな」
「だって、行く予定も無いしね」
「へーへーそうかよ、あーつまんねえ!」
 へそを曲げる傘屋をたしなめた絢。海は嫌いじゃあないが、海の中に入ったとてどうなるというのだろう。
 遠い海を渡ってやってきたのだという図鑑を読めば魚の種類は知れる。
 漁師ではないから、海の中に入れなくたって、泳げなくたってかまわない。というか、それでいい。
 なんとなく。水の近くは、好きになれないのだ。きっと猫の習性なのだろう。別にそれでも構わないのだけれど、得意になれないのは悔しくって意地を張る。
「……まぁ、行ってみても良いかもね」
「言ったな? じゃあ金をやるから行って来い。それでいいだろ?」
「そ、そこまでして行かせたいの?」
「おお。お前が怯えた顔が見られれば一番いいんだがな!」
 性格が悪いのか意地が悪いのか。そこまで言われたのならば行かないわけにも行かず。
 こうして一匹の猫は、海へと行くことになったのだ。



「ってことでね、あんまり気乗りはしないんだけど一緒に海に行ってほしいんだ」
 やれやれと肩を竦める。口元の笑みはやや凍っている。
「とりあえず下調べをしておいたんだけど、海の中に入ると自然と泡で包まれるみたい。だから呼吸も、溺れる心配もないんだって」
 よっぽど嫌なのか。それともただ単に依頼のためか。
 今回ばかりは真相もわかるまい。手にしていたメモをめくりながら絢は語る。
「あ、でも一応濡れるとは思うから、気になるようだったら水着を着てきてね。おれも……なにか用意しておかないとなあ」
 やれやれ、と溜め息をついた絢。これでは折角の夏の陽気ですら湿気ってしまいそうだ。
「気乗りはしないんだけど! ……まぁ、皆のことをまってるよ。はぁ……」
 どうしたものか。絢の溜め息は、ますます重くなるのだった。

NMコメント

 海に入ったときに足元になまこが居たのがトラウマです。
 こんにちは、染です。
 海中探索と洒落込みましょう。

●依頼内容
 夜の海へ行く

 ちょっぴり変わった海のようです。
 水面も水中も、星が落ちてきた錯覚を覚えるほどにきらきらときらめいています。もしかしたら、ほんとうに落ちてきているのかもしれません、
 海の中に入ると身体を包み込む泡で囲まれて、すいすいと移動することが可能になります。
 魚や大昔の建物などなど、海の中に沈んでいるものを見に行ってみましょう。
 運が良ければなにか見つかるかもしれません。

●世界観
 和風世界『濃々淡々』。

 色彩やかで、四季折々の自然や街並みの美しい世界。
 また、ヒトと妖の住まう和の世界でもあります。
 軍隊がこの世界の統制を行っており、悪しきものは退治したり、困りごとを解決するのもその軍隊のようです。
 中心にそびえる大きな桜の木がシンボルであり神様的存在です。
(大まかには、明治時代の日本を想定した世界となっています)

●絢(けん)
 華奢な男。飴屋の主人であり、濃々淡々生まれの境界案内人です。
 手押しの屋台を引いて飴を売り、日銭を稼いでいます。
 屋台には飴細工やら瓶詰めの丸い飴やらがあります。
 彼の正体は化け猫。温厚で聞き上手です。

 やや怯えながら海に入っています。頑張って水着も用意したようです。

●サンプルプレイング(絢)
 ……はぁ。うー、海かぁ。
 嫌だけど仕方ない。どうして猫ってこんなに不便なんだろう……!
 海の中では魚を追いかけてみようかな。もしかしたら大群にも会えるかもしれないし。
 あ、でも深すぎるところは怖いから絶対にいかない。絶対に。

 以上となります。どうぞ宜しくお願い致します。

  • <濃々淡々>夜海に溺れん完了
  • NM名
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年08月16日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
アオ(p3p007136)
忘却の彼方
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女

リプレイ


「海の中。全ての命が生まれ還る場所。静かで暗い世界はとても安心するよ。そう思わない?」
 ラッシュガードに半ズボン。そんな男装の装いで『忘却の彼方』アオ(p3p007136)は水中を泳ぐあぶくをつついて消した。
 アオの問いを理解しているのか、そうでないのか。悪戯に笑う緋色の小狐。くるくると周囲を囲うように泳ぎながら、アオへとじゃれつく。海が苦手だと言っていたくせに、結局は楽しいんで居るじゃないか。
 きらきら輝く綺麗な水面は高くて遠い。地上に居るときよりも近い空(うえ)であるはずなのに、うんと遠いような錯覚。見上げるよりも、様々な色を纏って泳ぐ美しい魚の群れよりも、海に沈んだ不思議な遺跡や静かに眠る船よりも深く、深く、沈んでいく。
 海の中は暗くて温い。いのちのはじまり。いのちのみなもと。緩やかに、安堵が溶けていく。
「……ああ、本当。眠くなっちゃうよね」
 なんてひとりごちる。昏い海の底に月がないなんて誰が言ったのだろう?
 夜空の細腕に抱かれて眠るようだ。音もなければ空気もないはず。それなのに胸の中はこんなに満たされている。
 くぁ、と小さくあくびをしたころには緋狐はくぅくぅとアオの腕の中を陣取ってぐっすりと眠りについている。
「僕の気も知らないで。キミは好き勝手して、勝手にこんなになって。お気楽でいいよね」
 ほっぺをつんつんとつついてやれば、眠りの邪魔をするなと言うようにぺちぺちと手を叩かれる。
「……はぁ」
 やれやれ、困ったものだ。
 こんなにも穏やかで満ちている時間が許されない。特異運命座標の宿命と言うものは!
 世界の創造主たるこの僕でさえ、穏やかに眠り続けることを許されないのだから。

「星の降る夜に海中散歩なんて凄くロマンチックだと思うわ! ちゃんと水着も用意してきたの」
 お祭りに向けて折角仕立てたものだし、なにより海と言えば水着だ。夜の色をしたフリルが層になったトップスと、花弁が広がったようなパレオを纏った『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)はふんすと腰に手を当てて。
「『おいで、Delphinus』」
 魔を紡ぐ言の葉。
 きゅいー、と呑気に鳴いたDelphinus――つまるところイルカの使い魔。水でできている彼等は柔らかくてぷるぷる。召喚主たるセレナに懐いている。
「ふふ、来てくれて有難う。海の中を見てみたいの、力を貸してくれる?」
「きゅいー!」
 セレナに背に乗るように促したDelphinusは、セレナがしっかり掴まったのを確認すると、ぴゅーんと海の中を進んでいった。

 セレナを歓迎するように群れをなしてくるくると泳ぐ魚たち。
 ふわふわと浮かんで沈んでを繰り返していく海月。
 あぶくが砕ける様はまるで銀河のようだ。
「海の生き物たちも気になるけど、今回は海底にあるものを見てみたいの。連れて行ってくれる?」
「きゅいきゅい!」
 さらに深くへと潜っていけば、そこには和風建築の痕がいくつも沈んでいる。
 恐らくは大きな神社のようなものがあったのだろう、鳥居が海底でもしっかりと立っていた。海藻に塗れていたりはしたけれど神社らしい風格を感じる。
 少しだけ奥へ進んで見ることにした。
 一般的な神社の建築と代わりはないらしいが、狛犬たちの座っていたであろうところだけ存在していない。代わりにアオがくうくうと眠っていた。
 後ろの方でやや恐る恐る水をかき分ける音が聞こえたものだからそっと振り返ってみれば、此処へと案内してくれた黒猫がひらりと手を振っていた。
「そこの猫の人、しぃー……。確か、絢って言ったかしら?」
「え、な、なんで?」
「此処で寝てる人がいるのよ」
「なるほど……ありがとう、セレナ」
「水の中はあまり得意じゃ無さそうね。もしかして……猫だから?」
「あはは、うん。ちょっとだけ苦手かな」
「その様子だとちょっとじゃ済まなさそうだけれど……それよりほら、もう少しこっちに来ない?」
 手招くセレナに首を傾げる。鳥居を越えて、アオたちの眠る境内も越えて。
「あっちに大きな建物が見えたのよ。一緒に見てみましょうよ」
「わ、本当だね。うーん……でも、此処ってかなり深いよ?」
「ちょっと深い場所だけど……怖い? 大丈夫よ、わたしも居るから、ねっ?」
「……怖くなんか無いよ。それじゃあ、行こう」
 怖いという言葉にはむっと頬を膨らませて。絢が進んでいくのをくすくすと見守って、その背を追いかけたセレナなのであった。


「わぁ! ルシェ夜の海って初めて! 海洋の海と違ってここの海は泡に包まれて呼吸も出来るのね! 不思議!」
 『桜花の決意』キルシェ=キルシュ(p3p009805)は不思議そうに身体を包む泡をつつきながら、ざぶんと海へ飛び込んだ。
 海へと入るのはやはり苦手なのだろう、ゆっくりと浸かっていく絢を不安そうに見つめる。
「絢お兄さん……」
「あはは、これでもちょっとは平気になったほうなんだよ?」
「そっか、猫さん濡れるの好きじゃないものね。お外にタオル用意してるから、上がったらすぐに拭けるのよ!」
「準備万端だね。おれも用意しておいたんだけど、必要なさそうかも」」
 キルシェの小さな背を見守る絢。しっかりと進んでいくキルシェにおいていかれないようにせかせかとその背中を追いかける。
「ルシェは泳げるか分からないけど、ここの海なら溺れないから多分大丈夫なのよ!」
「おれも泳げないから、気をつけないとなあ」
 真夜中の海で溺れてしまっては誰も助けてはくれないから。
 それでもきっと絢ならなんとかしてしまうのだろうけれど。
「夜の海で真っ暗なイメージだったけど、凄くきらきらしてるわ! 海の中なのに、星空の中にいるみたいね!」
「ふふ。ただの海なんだけどね」
「手を伸ばしたらお星様掴めちゃうかも知れないわ! ……本当に掴めちゃったのよ!?」
 手の中でくるくると回転しながら瞬く星。もしかしたらヒトデなのかもしれないが、絢は何も言わない。
 星が降ってきたと言われるだけある海なのだから、星があっても不思議ではない。
「……ごめんねお星様、お外出たらちゃんとお空に返すからね。海の中にいる間はお星様も一緒に行動しましょ!」
 キルシェの足元を照らすように煌く星。すいすいと進むキルシェの動きに合わせて色を変えていく。
「そういえばあの影何かしら? 建物みたいだけど……」
「あれは神社だね。さっきセレナが居たはずだけど」
「わぁ……! 大きな建物ね! でも海の中に建物……?」
 きっと太古の昔に沈んでしまったのだろう。
 セレナがまだ探索をしていたからゆっくりと近付いていく。
「セレナお姉さんとアオさんは何か面白い物見つけたかしら?」
「アオさんはあそこでまだ寝ていたわ。けどこの建物、きっと海を守っているんじゃないかしら」
「そうなの?」
「ええ。魚たちがここに来てゆっくり寝ていたから。サメも、小さな魚もね」
 セレナの成果にキルシェは瞳を輝かせて。魚たちが眠る横にそっと腰掛けたは良いけれど。
「夜の海だから、お昼寝、してきたけど……いつもより遅いし、はしゃぎすぎて眠いわ……」
「キルシェ?」
「もっと、見たいのに……絢おにーさん……また、つれてきて……」
「……仕方ないなぁ」
「その子、寝ちゃったの?」
「うん。また運んでおかなくちゃなあ」
 キルシェをおぶった絢は、ゆっくりと海の中を歩くことにしたのだった。

「そう言えば……こっちの世界の海に来るんは初めてやないかしら?」
「たぶんきっと、そうだね」
「まだまだ行ったことのない場所がよおけあるんね。水着を着て遊びに行ける機会は限られとるから、その分思いっきり遊びましょ」
 永遠よりも、ずうっとずうっと煌めく。柔らかなオーガンジーの水着に身を包んだ『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)は笑って。
「髪、切ったんだ」
「そやのよ。……似合うとる?」
「ああ、とっても。……少しもったいない気もするけど、なんだか表情も晴れやかだし」
 きっと涙の雨も晴れたのだろう。絢は何も言わず笑った。
「さ、て。海に入る前は、体をある程度動かしておいてから……ほら、体操やね。猫みたいに伸びをして、って……うち、猫でした。ふふ」
「おれだって、猫だよ?」
「そやね。じゃあ、うんと猫の伸びをしまひょ」
 ぐっと伸びをしたなら準備もよし。二人はそっと、海へと浸っていく。
「絢くんは、海の中は怖いんかしら。大丈夫、誰かと一緒なら平気よ」
「蜻蛉こそ、猫なのに怖くないの?」
「んふふ、そやね言われてみれば。猫やのに水が平気って、確かに変わっとるかも」
 大切な人の潮の香りがするから。恐れるよりもきっと、穏やかに安堵する。
 水面の天球は不定に瞬く。月の光を砕いてちらした海空は、永遠に輝いて。
「こっちのお魚綺麗よ、鮮やかな黄色と蒼、紫も。お名前は何て言うのやろ、可愛らし」
「おれも知らないなあ、後で帰ったら見てみようか」
「そうしましょ。イソギンチャクに隠れてるんは、クマノミかしら。お魚は寝てる子もいるし……起きてる子も。ごめんなさい、起こしてしもた」
「ふふ、蜻蛉に起こされたなら本望だと思うよ」
「うまいこと言いはる。絢くん、いつの間にそないになったん?」
「いつからだろうね。蜻蛉と出会ってからかも?」
 暗い奥には近付かない。光のない闇には近寄らない。
「沈みそうになったら、うちが引き上げに来て見つけ出してあげるから、大丈夫よ」
「そう? ……それは、さいわいだね」
 底知れぬ闇に、囚われる事のないように。仄かに曇る顔は、見過ごすことはないけれど。
 海藻の群れが揺らめく場所。二人は顔を見合わせて。
「あっちも何かありそうやよ、行ってみいひん? 1人やと見つけられないものも、2人なら見つけられるかも」
「いいね、賛成。お宝が眠ってる気がする」
「お宝は見つけたら山分けやよ?」
「ふふ、そうだね。猫は光り物には目がないからね」


成否

成功

状態異常

なし

PAGETOPPAGEBOTTOM