シナリオ詳細
<濃々淡々>風鈴に願いを込めて
オープニング
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<濃々淡々>にも幾度目かの夏が訪れる。
蝉が鳴き、空は青く高く、そして蒸せるような熱気が辺りに満ちている。
緩やかに流れていく雲の流れは今日がどれほど穏やかであるかを教えてくれる。
色取り取りの鮮やかな色──つまるところは夏仕様の色に変わった暖簾は、暑くも吹き流れる風に揺れる。
りん、りん、と風が吹く度に鳴り響く涼やかな風鈴の音色は暑さを忘れさせてくれるような心地。氷につかったラムネ瓶が頬をひんやりと冷やしていく。
街並みを彩るように朝顔がつるを伸ばし空へと高く手を伸ばす。そう、それはまるで夏を待ちわびていたと言わんばかりに。
「さて、と。今年も夏がやってきたわけだけれど……」
「あら絢くん、暇ならちょっと寄っていってちょうだいよ」
「勿論です、是非」
顔馴染みの女性から手招きされ暖簾をくぐった人のかたち。本当は妖のひとりである男──絢は、穏やかな笑みを浮かべて。
顔に向けて仰いで居た扇子を今ばかりは腰に挿して、女性が差し出したものを見た。
「……それは?」
「これは今年の取り組みさ。年々暑さが増して辛いからねえ、少しでも涼し気な取り組みができないものかと思って」
「この短冊に願い事をかけば良いんですか?」
「ああ。願い事じゃなくても、抱負だったり、目標だったりしてもいい。好きな風鈴を選んで絵を書いて、好きなところに飾っておいで」
「ありがとうございます。……そうだ、友人を誘っても?」
「勿論さね、持っておいきよ」
「やった、ありがとうございます」
からからと雨の屋台を押しているだけではなくなった穏やかなおとこは。きっとこの世界に来てくれるあろう友の姿を思い、満足気に頷いたのだった。
●
「やっぱり来てくれた、良かった」
実は少し不安だったんだ。なんて語って見せる絢。隠していたのだろうしっぽをのびのびと伸ばして、うんと暑い夏にくったりと肩を落とす。
「夏が来たんだ、おれたちの世界にも。そこで町おこしみたいなお祭りがあるんだって」
去年も数日に渡って続いて居たイベントがあったような、と思い返してみる。
それに近いものだと語った絢は、手元に風鈴を用意し、此方へと見せた。
「これ。街に笹が飾ってあるから、願い事を書いて飾って欲しいんだって」
何かがしっかりと叶う約束なんて出来はしないけれど、一種の願掛けのようなものだ。
幸せは信じていなければ訪れない。七夕のふたりだって、きっと愛を信じているから再会を待つことが出来るのだと。
「ねぇ、一緒に行ってみない?」
- <濃々淡々>風鈴に願いを込めて完了
- NM名染
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年07月18日 22時05分
- 参加人数4/4人
- 相談4日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
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空は何処までも高い、ように思われた。
夏の空は高い。そんな風に見えるらしい。どこかで聞いた話を思い返しながら、『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)はうちわで陽光を遮った。
「ええ、ほんに……気持ちのええお空。うちも夏用のお着物とは言え、暑いわぁ。でも、このままやと干上がってしまいそう」
「このクソ重い服着てれば汗が止まるはずも無いわね。水、水買いに行かない……?」
吸熱色たる黒を纏っているのだから致し方ないとは言え、ばさばさとスカートを上下させて歩く『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)。心配そうに『特異運命座標』佐倉・望乃(p3p010720)はその様子を眺める。
「その辺の屋台を見ていきましょ、折角来たんだしさ」
「そうですね。境界案内人の絢さんは飴屋さんなんですよね。絢さんの屋台を見つけたら、飴をおひとつ頂きたいです」
「だな。願い事も書かなきゃいけないし」
『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は早速短冊を手にとって書いていく。……金の文字が短冊に踊っている。
「短冊に願い事ね……こういうのは叶ったためしが無いんだ。まあ最初から期待なんて然程して無いし別にいいがな。そもそも、祈ってまで叶えたい願いも無いし」
「願っただけでは叶わない事もまた、よお知っているけれど。それでも願ってしまうんよね」
「お願い事、何にしましょうか……」
「今はこの暑さが憎いわ、『夏が早く終わりますように』って感じ」
「ふふ。それなら……かき氷なんてどやろ。きっと涼しゅうなると思います」
「わぁ、素敵です。是非!」
がさがさと笹に手を突っ込んだ世界は短冊を既に忘れ、四人は祭りへと足を進め。ついでに絢を探すことにしたのだった。
「お面屋あるじゃない! 買っていい? お面。狐のにしましょ」
祭りは楽しく。それが異世界のものならば尚更に。おお、と目を輝かせたコルネリアは黒い狐のものを買い、さっそく身につけた。
「どう? ずる賢いお狐さまって奴よ!」
「よぉ似合うとります。こんこん、やね」
「そおよ、こんこん鳴いちゃうわ! 蜻蛉も何か買わない? ほらほら、お揃いのでもいいのよぉ」
「……そやね、折角やもの。色違いのものを頂きましょ」
白い狐のお面を手に取った蜻蛉は、お面を斜めにつけてコルネリアと対の形に。
「あっ、あんなところに飴のお店があります」
「ということは……絢の店だろうな。寄ってもいいか?」
「いいわよぉ。飴も美味しいしね」
「うちも、大丈夫です。行きましょ」
いや別に集団行動が苦手とかそういうんじゃないんだ。ただ面子的に明らかに俺が浮くのが目に見えてるのが辛い。
男心はやはり人目を少々気にしてしまうのだ。一行は絢のお店にも向かうことに。
「あ、皆だ。いらっしゃい、買いに来てくれたの?」
「こんにちは。わぁ、まんまるでキラキラで宝石みたい……こっちは飴細工、ですか?」
「うん、こんにちは。そうだね、飴細工だよ」
望乃に頷いた絢は優しく微笑んだ。きらきらと瞳を輝かせる様子は微笑ましく。
「あ、あの、わたし、お花と甘いものが大好きなので。お花の飴細工って、ありますか? よければ、頂きたいんですけど……」
「あるよ。とはいっても、今作るよりかは後で取りに来てもらえると嬉しいな」
「わかりました! ……そ、それから、もし良かったら。絢さんも一緒に、お祭りを見て回りませんか?」
「……いいの?」
目を瞬かせた絢は四人の顔を見る。頷いた女性陣。それから力強く腕を掴んだ世界。
「俺の為に来い」
「はは、推しが強くてありがたいね。それじゃあ是非、一緒に行かせてもらうよ」
こうして四人に絢が加わり。一同はまた足を進めた。
りん、りん。と。
埋め尽くされた笹の並木は、鬱陶しいようで、けれど涼しくて。
笹の緑に短冊の色彩が映える。きらきらと星飾りが風に揺れれば、それはまるで天の川のようで。
「あ、かき氷だ」
「そういえばコルネリアは暑いとか言ってたな」
「そうだったわ。かき氷のお店、寄ってもいいかしら」
「はい、勿論です」
「じゃあ、行ってみましょ」
からからと下駄や草履の擦れる音がする。
ごりごりと氷を削っているのは雪女&雪男の妖怪の夫妻、お雪と銀司だ。去年も同じように食べた蜻蛉がぺこりと頭を下げれば、二人はひらりと手を振って。
「アタシはぶどう味を選ぶ、ほらほら早い者勝ちよぉ、アンタらはどうするぅ?」
「じゃ、じゃあわたしは練乳マシマシの苺味のかき氷を!」
「じゃあうちは普通の苺味をお願いします。溶けた氷を飲むのが、好きよ」
「おれは……うーん、みぞれで」
各々が注文していく中、世界だけはふっと得意げに腕を組み微笑んで。
「世界は何にする? 持参してたりするのかな」
「ふっ……甘いな絢。かき氷より甘い」
きらきらと召喚陣がきらめく。後ろから現れた小さな精霊たちは、世界の使い魔だ。
「俺は全種類のシロップを一つずつ買わせてもらうぜ。持てない分は荷物持ちもとい召喚陣から召喚した精霊がいる。俺は本気だ!」
「……ご、豪快ね」
「ふふ。それも贅沢やね」
「かっこいいです……!」
「はは、そっか。じゃあ世界はきーんってずっとしてることになるね」
「甘いものを食べる為なら多少の困難はつきものだろう。致し方ない犠牲だ」
からからと、夏の空に笑い声が響く。
それは何処までも遠く――そして、いつの間にか日は暮れ夜に染まっていく。屋台は最高潮、世界の腕には綿あめやチョコバナナ、りんご飴にカステラ。沢山の食べ物が並んでいた。
「コルネリアは狙いのものは取れたのか?」
「まぁね。アタシにかかれば余裕よぉ」
射的を楽しんでいたコルネリアは、たこ焼きを食べながら景品を指さした。獲物はしっかりと取れたらしい。
「うちらも沢山楽しませて貰いました。望乃さんも、楽しめとる?」
「はい! ヨーヨー、初めてしました……!」
「よし。じゃあ今日の依頼の本題も、お願いしようかな」
それぞれに笑顔があることを確認し笑った絢は、それぞれに色取り取りの短冊を手渡していく。
蒸し暑さも落ち着けば過ごしやすいというもの。今宵も祭りは徐々に終盤へと近付いていくものだ。今日が、終わっていく。
「……うーん」
唸るコルネリアは、短冊とにらめっこしていた。
(願い事なんて幾らでもあるし、催し物でのこと、簡単に考えれば良い。けど、だからこそ――)
――優しい人達が一日でも永く笑顔でありますように。
こんな飾った言葉を見られてしまうのはなんだか恥ずかしい。というよりは、クサい。歳をとったのか、はたまたお人好しになったのか。自虐気味に笑う。けれど肩ひじを張らず、素直に願うことができるのは今日くらいのものだろうか。
せめて見られぬ内にと隠しながら青い風鈴を手に取る。描かれていく不器用な雲と太陽。
「……こんなもんでしょ」
曖昧でいて叶う筈も無さそうな願い事。だがそれでいい。気に病む必要は、ない。
自らの手で叶えられそうに無いからこそ祈り、想いを短冊に込められるのだから。
青空の色をした短冊に望乃は健康第一、と可愛らしい字で描き、まんまるの風鈴に結んでいく。
薄桃色の短冊に天の川の絵が描かれた蜻蛉の短冊は、猫の風鈴に結ばれた。
「蜻蛉の短冊はどんなの?」
「皆が元気でおってくれますように……って」
「いいわね。アタシもそんなのにすればよかった!」
「うちはコルネリアさんの短冊、好きよ」
「……そ、ありがと」
嘘だ。
本当の願いは――優しい人たちの笑顔を望む人が、幸せになりますように。
気がついたら書いていた。けれど後悔はない。真っ直ぐな、願いだから。
(声を掛けてくれて、一緒におってくれる事、気ぃつこてくれてるんやなって勘違いかもしれんけど……コルネリアさんの優しさが沁みて、嬉しかったから)
コルネリアが笹に結ぶのを見届けて、蜻蛉も同じように笹に結ぶ。
うんしょと背伸びをしていた望乃は絢に手伝ってもらい、高いところに短冊を結びつけた。
「絢は何か書いた? 飴屋の繁盛とかかしら、それとも健康祈願とか?」
「うーん……悩んでるんだよね。やっぱり繁盛にしておこうかな」
「繁盛は大事だ。金が大事だからな」
「やっぱり? じゃあそうしちゃおう」
さっさと書いて結んだ絢は、ふぅと息を吐く。
「じゃあこれにて依頼完了、だね。今日は皆ありがとう」
「あら、絢くん。まだ依頼は終わっとらんよ」
蜻蛉がふふ、と笑えば絢は首をかしげる。
「あれ、まだ何かあったっけ」
「絢くんの飴が食べたいんよ、作ってくれる?」
「あ。そういえば、望乃にも作ってなかったよね。じゃあ屋台に戻ろうか」
「ふふ、ごめんなさいね。それに望乃さん、絢くんの作った飴は世界で一番美味しいんよ」
「ほ、ほんとうですか……楽しみです!」
「大げさだよ。これは責任重大だなあ……」
「じゃあ俺も。俺は三つくらい頼む、持って帰るよ」
「アタシも! アタシは猫のにしてちょうだい」
「うん、わかった。これはさっそく願い事が叶った気がするよ」
「……うん、うちも」
コルネリアが笑い。世界が笑い。望乃が笑い。絢が笑い。
そんな光景が胸の奥を温める。
望乃の故郷にはない風鈴の音が夜空を澄み渡らせる。頭上に瞬いた星々は笹を照らすように輝いた。
――揺れる。揺れる。皆の願い事が。
――皆さんの願い事が叶いますように。
そう願った、望乃の短冊も。その願いは、少しずつ叶っている。そんなことは、だれも知らないけれど。
ただ、幸せになればいい。暗いことなんてなくなってしまって、皆が笑える世界になればいい。
そうすれば願うことなんてきっと減っていく。幸せが溢れていくから。
凛と鳴った風鈴の音は、短冊に書かれた願いを後押しするように、風にとけていく。
星月夜の願い――どうか、叶いますように。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
夏は暑くて苦手ですが、アイスがあればがんばれます。
どうも、染です。風鈴を自宅にも飾ってみたいです。
●目標
願い事を短冊に書こう。
小さなお祭りをしている町からのお願いです。
なんでも、どんなものでも大丈夫です。
商店街のような役割を果たしている街路には笹が飾られており、そこに風鈴とともに飾って欲しいそう。
七夕飾りもついて風になびくと一層きれいになるそうです。
風鈴は沢山の形があり、また好きに絵を書いても大丈夫です。
風鈴はご希望があれば持って帰ることも可能ですよ。
●世界観
和風世界『濃々淡々』。
色彩やかで、四季折々の自然や街並みの美しい世界。
また、ヒトと妖の住まう和の世界でもあります。
軍隊がこの世界の統制を行っており、悪しきものは退治したり、困りごとを解決するのもその軍隊のようです。
中心にそびえる大きな桜の木がシンボルであり神様的存在です。
(大まかには、明治時代の日本を想定した世界となっています)
●絢(けん)
華奢な男。飴屋の主人であり、濃々淡々生まれの境界案内人です。
手押しの屋台を引いて飴を売り、日銭を稼いでいます。
屋台には飴細工やら瓶詰めの丸い飴やらがあります。
彼の正体は化け猫。温厚で聞き上手です。
呼ばれればお供します。
●サンプルプレイング(絢)
おれの願い事は……そうだな、夏を楽しめますように。
折角やってきたんだ、楽しまなきゃ損だし。
それにかき氷が美味しい季節だからね。どうだろう?
以上となります。ご参加をお待ちしております。
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