シナリオ詳細
夜にしか取れない薬草を求めて
オープニング
●ある調合師の悩み
私は薬草の調合を生業としている、民間の医者のようなものだ。熱冷ましから痛み止め、あまり作りたくはないが毒薬まで薬と名のつくものなら大概のものは調合できる自負がある。けれどそれには薬草や、薬のもとになるとされる鉱石、それから清らかな水が必要不可欠となる。
ある難病に効く薬を作ってほしい。できるだけ急ぐという依頼を受けたのは昨日のこと。伝染性のあるその病に効く特効薬を作れるものは限られていて、私はその薬を調合できる。だが問題が一つ。この辺りでは材料が取れないのだ。
必要不可欠で、替えが利かない薬草が生えている場所に最近ゴブリンが住み着いた。何度も言うが私は薬を朝護するものであって戦士ではない。毒薬を駆使すれば倒すことはできるかもしれないが私が怪我をしては特効薬を作れるものがいなくなってしまう。
だが依頼人のもとに薬が届かなければ多くの人が苦しみながら死ぬだろう。
ゆえに。私はローレットの扉をたたいた。
●満月の夜の森を舞台に
「難病の特効薬の調合を任された調合師さんからの依頼です。満月の夜に月の光を受けて活性化する薬草を摘んできてほしいと。本来ならば調合師さんが自分で赴く方が確実なのですが、そのあたりにどうも夜行性のゴブリンが住み着いているとかで退治を兼ねて皆さんにお任せしたいんです。
薬草の識別に自信がないようであれば護衛をしっかりして調合師さんに同行してもらった方がいいかもしれませんね。満月を逃すと著しく効能が落ちるそうですし、難病は伝染するため一刻も早い薬の配送が望まれます。
確実性を取るか、依頼人の身の安全を取るかは皆さんにお任せしますよ」
ゴブリンの数は十体前後だという。こん棒に粗末な布の服を身にまとい、戦闘能力は高くない。協調性もあまりないが薬草を踏み荒らさないように戦う必要はある。また夜であることと月の光をしっかりと薬草にそそぐことを考えるとあまり灯りを持ち込まないのが好ましいらしい。
「依頼人の方は確実に薬草を入手できるのであれば自分が同行することは構わない、ただし戦力にはならないことを頭に入れておいてほしいといっていました。自分ができるのはけがの手当てくらいで、それは皆さんのほうが向いているだろう、と。
伝染性の難病、放っておけば多くの被害が出ます。どうか一刻も早い解決をお願いします」
舞台は夜の森、そこだけ切り取ったように木の生えていない小さな空き地にて。もう少しロマンチックな敵との邂逅を望みたい美しい舞台だが相手は見にくいゴブリンだ。
だが美醜を問わず倒さなければ困る人たちがいる。油断せずにしっかり討伐してきてくださいね、と職員は地図を手渡したのだった。
- 夜にしか取れない薬草を求めて完了
- GM名秋月雅哉
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年08月13日 21時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●情報収集
イレギュラーズたち八人は昼間の空いた時間を使って調合師のもとを訪れていた。今回彼女は現場に同行しないため事前に薬草の特徴やどの程度の光、痛みに耐えられるかを確認するためだ。
『薬屋 エトランジュ』と書かれた看板をノックすると三十代半ばほどの女性が応対に出る。彼女が依頼人らしい。
「やぁ、よく来てくれたね。薬草について聞きたいことがあるんだろう? 散らかっているけど入っておくれ」
作業台とは別に用意してあったテーブルに全員で車座に座る。
「病気はやる。タイヘンだゾ! じーちゃん、ばーちゃんイチコロ。子供イチコロ。大人もバタンキュー。村全滅。タイヘンだゾッ」
『特異運命座標原人』リナリナ(p3p006258)がそう口にすると調合師はほのかに口元を緩めた。
「そう、大変なんだ。そのために君たちにゴブリン退治をお願いしたんだよ、お嬢さん。そして私は薬を作る。ローレットから薬作りに専念するように準備をしておいてくれって言われたけど、私が同行しなくても大丈夫って信じていいんだね?」
「アンタが疲れてたら仕事に支障が出るし、これ以外にも後々仕事はあるだろう? アンタはアンタしかできない部分を頼む。それで……薬草の特徴、特に花の部分と葉の部分の説明と図を描けるなら用意してもらいたいんだ」
『黒雪』アルク・ロード(p3p001865)の言葉にもっともだね、と調合師はうなずいて説明を始めた。
「花の形はスズランに似ているがスズランより小さな花で花だけを目印にすると見落としやすい。葉も小さくて全長はスズランとは違って十センチほどの小さな花だよ。すらりと伸びるというより地に這うように生えている。こんな花さ」
私が描くより図鑑で見た方が時間の節約になるだろう、と調合師が出した図鑑をイレギュラーズたちがのぞき込む。
「あの辺の空き地は背の高い雑草が多くてね。その隙間に何輪かずつ生えているんだ。群生地と説明したのは今まで見た中で一番安定して採取ができるからなのさ。見ての通り花の色は白じゃなく藍色。この色も相まって夜はなおさら見つけにくい」
「薬草を人工的に栽培できるのか? できるならその持ち帰り方は?」
アルクが問いを重ねると難しいだろうね、と彼女は答える。
「環境の変化に弱い花だし……民家の近くで栽培するとなるとどうしても明かりが届く。あまり離れた場所に栽培しても薬草畑だと気づかなかった人に踏み荒らされるだろうしね。土の成分については私は専門じゃないけどそっちも影響してるんじゃないかな」
もう少し育てるのに適した花ならこんなことにはならなかったんだけどね、と調合師はハーブで作ったお茶をふるまう。スッと鼻を抜ける香りがさわやかなお茶なのにほのかな甘みがある。
「採取方法、保管、運搬方法の注意、薬草の調合時間から逆算して薬が最速で患者に提供成されるために必要な期間時間を訪ねたい」
質問手はアルクから『殲機』ヴィクター・ランバート(p3p002402)へと変わった。
「茎にも薬効があってちぎると汁として漏れてしまうからできれば根元から土ごと、花を移植するように持ち帰ってほしい。苗袋と光を遮る特注の覆いがあるからそれを使うといい。運搬方法は一にも二にも光に充てないこと。しっかり覆いをかけて、可能であればその上から別のシートか何かが欲しいな。街中は夜間でもこの辺は明るいからね。採取から一時間ほどで光に対する過剰反応は収まるから調合はそれからになる。討伐を済ませて、薬草を探して。すぐ持ってきてくれて構わないよ。早い方がいいが正確に指定した薬草を持ってきてほしいからね」
「自分の依頼のために、依頼するなんて、やさしい人、なんだね。病気の人はもちろん、調合師の人も、助けたいな。ぜったい持って帰ってくるから、あなたは準備して、すぐに調合できるように、まってて」
ほかに気を付けることがあるかと尋ねたのは 『孤兎』コゼット(p3p002755)で調合師は少し考えて。
「茎に傷のあるものよりないものが好ましいね。小さな花だから汁が少し出ただけで必要となる量が違うんだ」
医療知識をもとに必要な量は三十株ほどだと聞いて今まで仲間がきいた知識をメモしていた 『ペリドット・グリーンの決意』藤野 蛍(p3p003861)は感慨深い気持ちになった。
「人々の命を救うって、すごく素晴らしいお仕事ね。もといた日本に比べると命の価値が軽く感じられるこの異世界で、やっと目にすることができた希望の光というか……ぜぎボクにも貴女のお手伝いをさせてほしいわ!」
「あぁ、私も君たちがゴブリン退治をしてくれるのは助かるよ。素人がゴブリン相手に戦って、怪我をしたら人を救えないからね。頼りにしている」
ルフト=Y=アルゼンタム(p3p004511)は地図を描いてもらいながら配置や進入路の確認に余念がない。
(見知らぬ誰かのために奔走する、か。……俺にできるのはその理念、信念の手助けくらいだ。だからこそ、成し遂げて見せよう)
「ゴブリンはもともとこの森周辺に生息しているのか? 周辺の住人から目撃情報がなかったか聞いておきたい。それと知らないならそれで構わないがなぜあの場所を縄張りにしたかもだ。理由があるなら今後別のゴブリンが居つくかもしれないからな」
クライム(p3p006190)の問いに調合師は流れ者だ、と答える。
「きこりや炭焼き職人の知り合いがあの森に通っているがゴブリンと遭遇したという話は聞いたことがない。拠点にしている理由は戦闘が門外漢の私にはわからないが……ほかに邪魔する生き物がいなかったから、とかじゃないかな。縄張り争いをせずに縄張りにできたから住み着いたとか」
その答えにクライムはそうか、と答える。もともと住んでいて最近住処を変えたならいろいろと厄介だったがそういうわけではなかったらしい。そうだったとしても討伐することに変わりはないが。
「伝染病から人々を救う……素晴らしい仕事です。住処を定めたゴブリンたちには申し訳ありませんが、私は正義ではなく人間の味方なのです」
薬草の見分け方や採取方法、必要量などを確認したことを改めて復唱して間違いがないか確認を取ってもらいながら『特異運命座標』リリアーヌ・リヴェラ(p3p006284)は慌てて現地に到着しても夜までは採取できないし昼間の間にしっかりと準備に時間を使うべきだと考えていて、それは他のイレギュラーズたちにとっても同じだった。
時刻は過ぎて夕方、そろそろゴブリン退治に出かけるといって席を立つイレギュラーズたちを調合師の女性は気を付けて、と見送ったのだった。
●討伐、開始
サイバーゴーグルを着用し闇に備えたメンバーは遠くから群生地の様子を確認する。ゴブリンは奥まった場所でうろうろし始めているようだがまだ気づかれていないようだ。
ハンドサインでそれを伝えあい、薬草を視認できるか目を凝らすが調合師が言っていたように背の高い雑草が邪魔でどの辺に生えているのかはわかりにくい。
誘導班が誘導する間気配遮断で気配を絶ったランバートは戦闘に備えてごく静かに呼吸を整えていた。
アルクとリリアーヌが先行して群生地に踏み込むと十数体のゴブリンたちはこん棒を片手に野卑な叫び声をあげながら群がってきた。
二人はじりじりと後退し仲間のもとへ。一番被害が少ないと思われる空き地の入り口付近で待機していた仲間と合流すると釣り野伏のように強襲した。
アルクの雄たけびによってゴブリンたちの注意は彼に集中している。リリアーヌはその護衛として来ていたが連携を取る気がなく各々好き勝手に片言で人を侮辱する言葉を叫びながら殴りかかってくるゴブリンは数こそ多いが戦力としてはそれほど脅威ではない。
できるだけ空き地に入らずゴブリンを誘導することはできた。あとは逃げられないように退治をして薬草を採取して、光に当てないように持ち帰るのが自分たちの仕事だ。
ランバートが魔弾を放てば魔弾という名にふさわしい長大な射程と貫通力がゴブリンの動きを縫い留める。
コゼットが縫い留められたゴブリンにテンポのいい打撃を連続して当てて一匹がまず仕留められた。
「……綺麗な場所だけど、ゴブリンで台無し、だね。でもこのゴブリン、耐久力はあまりない、みたい……? 逃げられないように注意して威力の高いのを当てていけばすぐすむ、かも……」
攻撃を集中して受けているアルクを蛍が回復して、回復を受けてからアルクはふたたび雄たけびを上げてゴブリンたちの意識を引き付けて逃さないようにする。
ルフトはそんなアルクの近くで仲間が傷を負わせたゴブリンと接触し、生命の再生力を逆転させ細胞を破壊してダメージを与えていく。
クライムは集中力を高めた後鋭い踏み込みから激しく肉薄し動作の精度が際立っていることを利とした一撃を放っている。
「顔色の悪いオッサンたち、邪魔。回収の邪魔。やっつける! やっつけてヤクソー回収!」
リナリナがクライムが弱体化させた敵にとどめを刺し、気づけば半数以上のゴブリンをイレギュラーズたちは屠っていた。縄張り争いを避けてこの場所に住み着いていたのはゴブリンたちが弱かったからなのかもしれない。
自由なる攻勢で戦いの主導権を握ったリリアーヌは手甲や脚甲を軽量化と総合化した改良型の武装で格闘戦を挑みながら残りのゴブリンを沈めていく。
戦闘中に折を見て高い跳躍力とジェットパックを利用してゴブリンたちが逃げ出した時に備えて他の方向へしか行けないようにするリリアーヌにコゼットもそちらに回って援護するとそこからまた打撃の連打に移った。
アルクが複合暗器を形状を組み替えてどちらから仕留めるべきか右往左往して、結果背中を見せたゴブリンに奇襲を仕掛ける。
最後の一匹は蛍の遠距離魔術式によってどう、と倒れた。
「薬草の採取を可能であれば手伝いたい、が。……難しい。ここ原生の薬草か。本機のデータには存在しない。帰還後、もし調合の仕事を手伝うならすりつぶすなどの力仕事を手伝いたく思う」
ランバートはそういうとゴブリンの死骸をクライムの提案で空き地の前に移動させる。大量の死骸はほかの生物へ恐怖を覚えさせるため今後、この空き地を縄張りを横取りしようとする他の生物への警告とするためだった。
「三十株だったな。蛍、お前の知識、頼りにしてる」
ルフトが植物と意思を交わし、蛍が医療と薬学に対する知識で探し求めている薬草を何とか三十株確保すると苗袋に入れて土がこぼれないようにして覆いをかけてコゼットが用意した馬車に積み込み、一同は調合師の元へ戻る。
手伝わせてほしい、というイレギュラーズたちに調合師は微笑んでお礼を言って各々が申告したできることを参考に作業を分担した。
光に過剰反応する時間は移動時間を合わせると後三十分ほどで切れるのでその間に夜目の効く調合師が細かい傷にきくという薬でイレギュラーズたちを治療し、少しだけ休憩をとる。
「対応方法はないのだろうか。旅人もかからないと限らないし、旅人がかかった場合潜伏期間中に滞在した先々で伝染する恐れがあるが」
「一次感染源を特定しようと研究者や医者が躍起になってるところ。ある日突然発症して伝染を繰り返す。予防は今のところ十分な栄養と睡眠をとって罹患者の吐瀉物や血液、唾液なんかに触れないってことだね。ただ空気感染もするから一度広まると薬がないと厳しい。これで感染源がわかるといいんだけど。一次感染源から人体に移った後は同種の個体にしか伝染しないってことを考えると厄介な病気だよ」
ランバートが乳鉢で薬草をすりつぶしながら尋ねた問いに調合師は難しい顔をして答える。
コゼットは簡単な作業や荷物運びならできるから、とみなが作業しやすいように場を整えたり次に必要な器具を調合師に渡したりしている。
医療に対する基礎知識と薬学の知識と素養を持つ蛍は本格的に調合師を手伝っていた。
「ゴブリンの命を奪ってきたこの手で、人々の命を救いたいなんて、自己満足の偽善かもしれないけど……」
「そんなことを言わずに胸を張りなさい。昼間貴方の仲間が言ってたじゃない。自分は正義の味方じゃなくて人の味方だ、って。誰に対しても平等な人はすごいよ。でもそれは誰も選んでないってことだと私は思う。貴方たちはゴブリンじゃなく人を助けることを選んだ。それが偽善だって言ったらゴブリンも助けられた人も救われないよ」
人にはできることとできないことがあるから助け合うのさ、そんな風に気負わずに語る調合師の言葉を聞いて蛍はこの女性が気さくな口調ながら高潔な人だということを再確認した。
自然会話で薬草になると情報を得たルフトは必要ならば使ってほしい、と摘んできた薬草を調合師に事前に手渡している。彼はゴブリンの死体の山にそっと木の実と花を供える優しさも、見せていたがこっそりと行っていたため気づくものはいなかった。
(深緑の同胞のもとにも良い薬が流通するといいんだが)
そんな思いを抱きながら依頼を受けた時に決めた通り調合師の信念の手助けのために力を尽くした。
深夜過ぎに特効薬は出来上がって大至急で病が猛威を振るっている村へと届けられてこの依頼は達成されたのだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
事前の情報収集や事後の調合師への手伝いに字数を割いてくださっている方が多かったので5:5というより2:8くらいになってしまいました。
皆様のおかげで薬は完成し、きっと村人の皆さんは救われたことでしょう。
お礼を申し上げます。
ご参加とプレイングをありがとうございました
GMコメント
目的
ゴブリンの撃破及び薬草の入手(場合によっては調合師が同行するためその護衛)
調合師
三十歳半ばほどの女性。薬と名のつくものなら大概のものは調合できるが戦闘能力は皆無。夜目はきくので夜にしか採取できない薬草でも過たずに採取できる。
難病で伝染性のある病に効く特効薬をつくるために必要な薬草の群生地に住み着いたゴブリンの退治を依頼した人。
薬草
ぱっと見他の野草と識別が付きにくい目立たない草。満月の夜に咲く花が月の光を浴びると薬効が増す。他の光が邪魔をすると薬効が落ちる。
ゴブリン
十数体で群れて行動する。武器はこん棒、防具は布の服。片言の言語能力ありだが和解を受け入れるほどの知能はなし。
縄張りと称した薬草の群生地に足を踏み入れると敵とみなして襲い掛かってきます。
順番としては戦闘→薬草の採取(ゴブリンが真っ先に襲い掛かってくるため事前の薬草の採取は不可能)
踏み荒らされないように注意することはもちろん、薬効を引き出すためにあまり灯りを用いないことが必要になります。
シナリオの内訳は戦闘5:依頼人との会話や手伝い5くらい。
プレイングによって変動しますが目安程度に。
GM的に得意なのは純戦闘よりも心情を持ち込んだシナリオです。
皆様のご参加をお待ちしております。
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