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シナリオ詳細

峻厳の獅子と黄金の鳥籠

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●選択式
「この仕事は、ええ――天義(ネメシス)の全ての仕事がそうであるのと同じように。
 きっと、天の御心に沿うものとなりましょう」
 荘厳なフォン・ルーベルグの大神殿でイレギュラーズを出迎えたのは、修羅場を超えた彼等をしても緊張を隠す事の出来ない実に『豪華』な二人であった。
「皆様をここに遣わせたのもまた天の配剤。
 これも、大いなる意志の導きならばこれに到る罪もまた意味を持ちましょうや。
 そうは思いません事、レオパル卿」
 美しい声で朗々と――何処か蠱惑的に――言った女はアネモネ・バードケージ。その両手を拘束バンドで封じた色素の薄いハーモニアの美女は、この真白い聖都、聖堂の光景の中でも一際の異彩を放っているかのように見える。ネメシスに仕える異端審問官たる彼女は、不自由な両手の代わりに神から奇跡を行使する力を与えられたという。その苛烈なまでの信仰心と徹底した仕事ぶりから『束縛の聖女』の異名を持つ何とも天義らしい人物であった。
「全くその通り――何れにせよ、このレオパル・ド・ティゲールと聖騎士団が在る限りは全ての悪は断罪されなければならない。諸君等も、崇高なるネメシスの理想を理解しているからこそ、この場に在ると確信しているが」
 水を向けられ、アネモネの言葉に応じたのは聖教国ネメシスの聖騎士団長レオパル・ド・ティゲールであった。彼は決して政治家では無いが、強烈なカリスマでトップダウンの統治を続ける国王フェネスト六世からの信頼は絶大で、この国の事実上のNo.2ともされる人物である。
「今一度、情報を整理し――依頼内容を説明しよう」
 こんな個性的な二人にイレギュラーズが呼び出されたのは当然ながら厄介事の解決の為である。頷いたイレギュラーズにレオパルは続ける。
「我が国、北西部の山岳地帯――ゼシュテル鉄帝国との国境沿いに近頃盗賊団が出没している。まぁ、不逞の輩は何処にでも沸いてくるものだが、問題はその盗賊団がとある村ぐるみで行われているという噂がある事だ」
「村ぐるみの盗賊団?」
「如何にも。盗賊団の活動圏内に存在する『ネリアーリ』という貧しい山村が盗賊団を組織し、不法行為を働いているという正義の告発が行われたのだ。盗賊団は国境を荒らし、主にゼシュテルの商人等に被害を与えていると聞いているが」
「……ちょっと待ってくれ」
「うむ?」
「ゼシュテルはネメシスの敵国、だよな……?」
「当然だ。彼等は我が国の敵である。だが、敵や異教徒からであろうとも謂れなき収奪を行う事は正義ではない。そのような不正義は確実に正されなければならない」
「――――」
 イレギュラーズはレオパルの断言に納得した。成る程、峻厳の白獅子は何処までも潔癖である。一分の嘘も欺瞞もなくそれを言い切っているのだろう。
「そこで諸君等には彼等、盗賊団を捕縛し――フォン・ルーベルグに連行して頂きたい」
「神の思し召しに沿うことでしょう」
 柔らかく微笑んだアネモネにレオパルは咳払いをした。
「本来ならば、我が聖騎士団が預かる管轄だが、何分ネリアーリは国境の村。余り目立つ聖騎士を派遣したくない事情もある。それより何より、このアネモネ殿がこの件は是非自分が預かりたいと……そこで陛下も期待を寄せる諸君に此度を預ける判断となった」
「皆様には、彼等を捕縛して頂いて――『私』か『レオパル卿』のどちらかに引き渡して頂きたく。
 ……まぁ、どちらも譲らなかった結果の折衷案と思って頂ければ」
「管轄は我等聖騎士団の仕事だが、彼等に『背信』の強い疑いがあると言われればな。
 尤も、聖女の手を借りるまでもなく、この私は真実を見落とすような事は無いのだが――」
 実権でレオパルを上回る人間はフェネスト六世を除いておるまいが、当のレオパルは敬虔な神の信徒であり、実直かつ素晴らしき騎士でもある。聖職にあり、まがりにも聖女の名を頂くアネモネに粘られれば押し切り難かったのも想像は出来るか。
「この仕事は諸君等への期待値を改めて知るものにもなるだろう。重ねて、宜しく頼みたい」
 さて、伏魔神殿に踏み入ったイレギュラーズはどう出るか――

GMコメント

 YAMIDEITEIです。
 ちょいと特殊なシナリオです。
 以下詳細。

●依頼達成条件
1、ネリアーリ盗賊団の主要人物を捕縛し、フォン・ルーベルグに連行する

 1は絶対条件です。
 1を達成した後、イレギュラーズは2か3のどちらかを選択出来ます。

2、盗賊団を『束縛の聖女』アネモネ・バードケージに引き渡す
3、盗賊団を『峻厳たる白の大壁』レオパル・ド・ティゲールに引き渡す

 どちらを選んでも成功します。選んで下さい。(PCがプレイングで表明した意見の過半数を採用します。同数だった場合、半分ずつ引き渡します)

●ネリアーリ
 ネメシス北西部の山岳地帯にある主に鳥種で構成される山村。
 村ぐるみで盗賊団を結成するまで追い込まれているようです。
 貧しい村であり、盗賊行為を働いているのは恐らくは生きる為と思われます。自国民は襲撃しておらず、あくまで盗賊行為の対象はゼシュテル鉄帝国です。
 また誰かを必要以上に傷付けたり、人殺し等をしたという話はありません。
 盗賊団(戦える男を中心にした集団)は二十名以下であるという情報があります。
 イレギュラーズより個々は弱いです。

●『峻厳たる白の大壁』レオパル・ド・ティゲール
 ネメシス最高の聖騎士。聖騎士団長。
 全ての嘘を看破する蒼き魔眼を持ち合わせています。
 国家重鎮であり、国王フェネスト六世からの信望を受けています。

●『束縛の聖女』アネモネ・バードケージ
『束縛の聖女』の異名を持つ異端審問官。
 両手を拘束具で封じたハーモニアの美女。それを代償に特別な力を持つとも。
 美しい女性ですが、何とも底知れない部分もあります。
 今回干渉した目的も不明です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 かなり変化球を投げてみました。
 宜しければご参加下さいませませ。

  • 峻厳の獅子と黄金の鳥籠Lv:4以上完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年08月23日 20時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シェリー(p3p000008)
泡沫の夢
テテス・V・ユグドルティン(p3p000275)
樹妖精の錬金術士
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
御堂・D・豪斗(p3p001181)
例のゴッド
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
松庭 黄瀬(p3p004236)
気まぐれドクター
タツミ・サイトウ・フォルトナー(p3p004688)
TS [the Seeker]
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先

リプレイ

●不幸せな国
「『盗賊行為』を行っている者たちの捕縛、か」
 ポツリと呟いた『樹妖精の錬金術士』テテス・V・ユグドルティン(p3p000275)の口調は無機質ながら何処か彼女の内心を表すかのようだった。
「生きるために致し方ない事とは聞くが、こうして依頼されてしまってはな。テテスは依頼をこなすだけだ」
「うん。どんな理由があろうと他の者を傷つけて来たのだし、その分はきちんと償って貰わないといけない」
 頷いた『慈愛の恩恵』ポテト チップ(p3p000294)だが、彼女が求めるはあくまで『公正かつ適切な対処』である。
 清く美しい源流は多くの命を育む。
 混ざり気無く汚れ無く――完全なる清潔は確かに素晴らしいものなのだろう。
 さりとて、生き物が生きるという事は汚れを許容する事と等しい。
 多くの生命は汗を掻き、排泄を行い、他の命を奪い、生活の折り合いをつける為に多少の汚れを看過する。
 それは当然の事である。許容されるべき事であり、緊急避難の法則に拠らずとも――エゴは業では無く必要悪である事もあろう。
 故に、きっと『唯美しい事』のみが求められるこの国――聖教国ネメシスは、総ゆる国家の中でも――高度な社会性を獲得した人類の国家であるが故に、何処までも特別な存在であると言えるだろう。
「彼らもあの方々の基準で言うならば『貧困の試練を自助努力で切り抜けられず罪を重ねた罪人』と言った所でしょうか」
「ジャスティスとは立場によって変わる故なぁ……」
「どちらにせよ、どちらにも興味はありませんし私はただ依頼をこなすだけですが」と続けた『泡沫の夢』シェリー(p3p000008)に応えた何とも歯切れの悪い『不知火』御堂・D・豪斗(p3p001181)の言葉は、神の視点、俯瞰する者が故だろう。
 人間のやる事は常に欺瞞と矛盾に満ちている。
 不完全である事、それ自体がアイデンティティであるかのように――楽園の林檎を齧ったその日から人の世は満ち足りぬ。
「……まあゴッドは本来正義の味方ではなくゴッド自身がジャスティスである!
 ワールドやカントリーのルールには従うがそこはアンタッチャブル故に!」
 八人のイレギュラーズが今日受けた依頼は、国家重鎮たる聖騎士団長レオパル・ド・ティゲール及び聖女アネモネ・バードケージ二人の肝入りであった。ネメシス北西部の山岳地帯、国境付近を荒らす盗賊団の対処と言えば聞こえはいいが、その実彼等は生きるに困窮した唯の村人であるらしい。ネリアーリの村の若者を中心とした『ならず者』達は主に隣国であるゼシュテル鉄帝国の商隊等を襲っているらしいが、この事件に重篤な人死にも重傷者も出ていないのは確かであった。
 持ち合わせる悪意の分量が如何ほどにせよ、事件が起きている以上はレオパルが対処をするのは当然の事と言える。国境付近の事件であるが故、敵国(ゼシュテル)を刺激したくないと述べた彼の言も一定の論理性を持っているように思えた。しかし、この事件に『敢えて介入をした』と聞くアネモネの方の思惑は全く不明のままであった。
「なんつーか、どうにも胡散臭ぇ仕事だなぁ……
 今回はベルナルドと因縁のあるヤツが相手みてぇだし、こっちも上手く立ち回ってみせるけどな」
「ベルナルドくんを合法的に弄れると聞いたんだけどー、なんか違ったみたいだね?
 大丈夫大丈夫、きょうも元気にお仕事するからねー」
「……ありがとな」
 頬を掻いて呟いた『TS [the Seeker]』タツミ・サイトウ・フォルトナー(p3p004688)と掴み所の無い何時もの調子で独特に言う『気まぐれドクター』松庭 黄瀬(p3p004236)に『黒翼のバラッド』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)が頷いた。
 ベルナルドは元々顔色がいい方では無いが、今日は文字通りの土気色である。精悍な彼の面立ちがある種の緊張――或いは恐怖――に染まっている事実そのものが、この依頼における『不穏』を表しているかのようである。
「我儘を言うようですまんが、協力を宜しく頼む」
 アネモネと只ならぬ過去を持つベルナルドは少なくとも彼女が『聖女』と呼ばれるべき人間でない事は誰よりも知っている。
 今回の事件――ネリアーリ村の盗賊団を引き渡せと要求した彼女の動きをてこにして、彼はその真実を明らかにせんと考えていた。
 パーティは捕縛した盗賊を双方に半分ずつ引き渡す事を決めていた。レオパルに引き渡すのはシェリー、ポテト、黄瀬、タツミの四人。一方でアネモネ側に回るのはテテス、豪斗、リア、そして無論ベルナルドの四人である。
 双方に半分ずつというのは非常に玉虫色の対応ではあるが、アネモネの真実を暴くという意味でも、レオパル――ひいてはネメシスなる国の裁きと正義を見極めるという意味でも理に適った手段と言えるだろうか。
「レオパル騎士団長ならギフトもあって罪に応じた罰を与えてくれると信じているしな」
 熱っぽく騎士団長の素晴らしき勇名を語る恋人の姿を脳裏に描き、ポテトが頷く。
 一方で憂いを帯びた『サフィールの瞳』リア・クォーツ(p3p004937)が吐息を漏らす。
「……少しでも、いい結末を探せればいいんだけど」
 独白めいた彼女のクオリア(ギフト)は対象の感情を旋律として捉え、彼女にそれを知らしめる。
 それは時に言葉より、表情よりも雄弁に――剥き出しの音色を彼女の突き刺す刃ともなろう。
 罪は罪、罪は罰として贖われるべき――それは間違いない真実に違いないけれど。
(――でも、彼等はあたし達を恨むでしょう)
 ――死ねと言われて受け入れる者は恐らく居ない。
 それがローレットであろうとも、ネメシス聖騎士団であろうとも、鎌を携えた死神等、歓迎される筈も無いのだから。

●戦う意味も無い
「……問題ありません。では、行きましょう」
 シェリーの使い魔(ファミリアー)がネリアーリ村を俯瞰し、概ね情報通りの人数が揃っている事を確認していた。
 彼等が『仕事』に出ていたならば、追いかけてそれを阻止する必要も産まれただろうが、幸いと言うべきか恐らく『首謀者』という事になるであろう男連中は今日は村に残っているようだった。
「逃走の気配を感じたら合図を出します。こちらは監視と保険を徹底しますので、交渉なりはお任せします」
 シェリーの言葉に仲間達が頷いた。
 事前の打ち合わせから、彼女が戦いに出るのは必要がある時のみと決めていた。
 問題は相手の戦闘能力よりも数が多い事から来る逃走の可能性の問題なのだから、やり方としては妥当な所か。
「実力を示し、投降を呼びかける方向だったな」
「説得に応じてくれればいいが」
「いずれにせよ、まずはトークから始めたい所だな!」
 テテスにポテトと豪斗が頷いた。
「硬軟使い分けて……ってな。多少脅かす必要はあるかも知れねぇけどな」
「ま、上手くいくかどうかは分からないけど、医者としても妥当な所だと思うよ。
 ……疑わないでよ。ちゃんと医者だからね? ぼくは」
 飴と鞭、或いはマッチポンプ――優しい言葉をかけられるイレギュラーズが他にいるならば自身は憎まれ役が妥当だろうとタツミは言う。
 何処まで冗句か分からない黄瀬の言葉に一同が小さく笑った。
 因果な仕事とは言え、受けた以上は完遂するのみ――されど、基本的に彼等は善良である。
 願わくば相手を傷付けずに、願わくば、依頼の先に良い結果を――レオン辺りに言わせれば「ローレットは正義の味方じゃない」等と嘯くのだろうが、その彼にしても「どうせなら寝覚めが良い方がマシ」なのは確かなのである。
 果たして、イレギュラーズはネリアーリ村へと歩みを進め、己が作戦を遂行せんとする。
 彼等が告げるのは中央の把握した盗賊行為への言及と投降の呼び声である。

 ――お願いします。まずは、話を聞いてください――

 必死の表情で敵意の無い事を伝え、訴えかけるリアは八方塞がりの状況にも気丈に望む。
 緊張し、困惑する村人達から伝わる『旋律』が如何に彼女の胸をざわつかせるものであろうとも。
「要するに、詰んでる感じなんだよね」
 黄瀬の人の悪さ(キャラクター)はこういう時にこそ役に立つ。
「国が君らを不正義として断罪しようとしている。
 中央がそれを掴んだ以上は……このままじゃきみらの大切なひとたちまで処分されるだろーね。
 きみたちは食い詰めて悪事をしている訳だから、逃げ出すような余力もない。ちがう?
 ……でもきみらがぼくらに従ってくれるなら、大切なひとたちに出来る限りの手助けをするよ」
 敢えて言葉を選ばない真っ直ぐな直言は同時に彼の人の良さ(キャラクター)を示すものでもある。
「説得に応じて欲しい。私の力(ギフト)で村の畑を借りて出来る限りの野菜を育てよう。
 全ての解決にならなくても、少しはこの村の足しになるはずだ」
 ポテトの言葉に辺りがざわめく。
 どうするか――どうしなければならないのか、困惑と逡巡のクオリアがリアの中に流れ込んでいた。
 だが、しかし。
「……特異運命座標ってのは……」
 パーティの正体と目的を知った村人の一人、血の気の多そうな鳥種の若者が絞り出すように呟いた。
「……………救世主サマってやつじゃなかったのかよ……!」
「テテスたちの仕事は盗賊団の主要人物の捕縛だ、どういう意味か分かるな」
「俺達に死ねって言ってるのかよ――」
「――そうではないが、交渉を受け付けないのならばそれもまたそれでよし。
 テテスとしてはお前たちが投降してくれた方が仕事が楽になるというだけの話だからな。
 依頼対象外の奴も連行することになるかもしれんが、それも貴様らの選択の結果だ」
「……っ……!」
 テテスの言葉に若者の顔色が赤らむ。
「ユー達を傷つけたくはない……が、スルーする訳にもいかぬ!」
 ネリアーリが悪事を続けるのならば、傷付く者も失う者も絶えはすまい。
 正されぬ彼等が何時かエスカレートした時、悲劇が起きないとも限らず、当然ながら豪斗はそれを看過出来ない。
「だが、キッズがハングリーに倒れる姿を見て何もせぬもまたノットジャスティス!
 リトルパゥワーなれど、ゴッド達は残された村人のフューチャーの為、できる限りの事はすると約束しよう!」
「信じられるか!」
 豪斗の言葉を一喝した彼の言葉を契機に――恐らくは――首謀者達の殺気が爆発する。
 手に武器を構えた彼等は悲しいかな、言葉だけで留まるタイミングを失っていた。
「……まぁ、そりゃそうだよな」
 ベルナルドの言葉がやや自嘲めいていたのは気の所為ではないだろう。
 他ならぬ彼が『アネモネに引き渡される運命』を自身に重ねない筈もない。
 だが、こうなれば『実力を示すフェーズ』が必要なのは余りにも明白だった。
 傷付ける事無く事が全て済めば最上だが――世の中はそう上手く出来ていない。
 多くの局面がそうであるのと同じように、今日も現実(ドラマ)は嗜虐的なのだ。
「弱ぇヤツらがつるんで、もっと弱ぇヤツらから奪ってんだって? つまんねーヤツらだぜ!」
 タツミの煽り文句を受けた首謀者達が一斉に襲いかからんとする。
 結論から言えば、その先は語る必要も無い程の些事であった。
 イレギュラーズは多くの実戦を積み、修羅場をくぐってきた戦士達だ。
 何でも屋と言ってしまえばそれまでだが、多種多様の能力を持ち合わせるスイーパー業の彼等は搦め手も強硬手段も圧倒的に場慣れしている。
 食い詰めた若者達の――それも相手を傷付ける心算も殺す度胸もない連中が迷いを抱えながら同じ土俵で戦うには余りに相手が悪すぎる。
 ネリアーリ村の鎮圧は大きな労苦も無く終了を迎え、イレギュラーズは自身の言葉通り『出来る事』をしてフォン・ルーベルグへの帰路へついたのである。

●黄金の鳥籠

 ――眠れぬ夜は鳥籠の夢を見る。
 ……まるで、痛みばかりの思い出だった。
 聖女の皮を被った悪魔は文字通り俺から多くを『毟り取った』。
 あの蠱惑の美貌を『清らかな』笑顔に染め、何度も、何度も。泣いても、喚いても、怒っても。
 消えない悪夢から逃れようと飲めもしねぇ酒に溺れたフリをして――自分自身を誤魔化して。
 溺死寸前だった俺を助け出してくれたのはローレットで出会った仲間達だ。
 だからこそ、俺はその力を信じて奴に挑む。
 マントゥールの悪行を白日の元に晒した俺達ならアネモネの真実も晒けだせるさ――

 いざ事に臨む前、独白したベルナルドの言葉は重く深いものだった。
 彼女の本質を仲間達は知らない、実感も出来ない。唯、それを語るベルナルドは何処までも真摯だった。
 果たして、ネメシスの白き聖堂にて、その対面の時は訪れる。
「よぉ、聖女様。久し振りだな?
 アンタが空にした鳥籠の鳥はここにいる。
 主人が迎えに来ないもんで、つい俺の方から出向いて来ちまったよ」
「あら――これは――」
 気安いベルナルドの挨拶を受けたアネモネの目が一瞬丸く大きくなった。
 整った口元がまるで下品な笑みを堪えるように奇妙に歪んでいる。
「依頼通りの引き渡しだ。半分になったがな」
 自身を凝視するアネモネにそう言うベルナルドは青褪めている。
 だが、虚勢はこの時こそ張るものだ。震えそうになる膝をこらえて、彼は彼女が何かを言う前に飄々と告げた。
「……人の世の事に口は出さぬが基本だが、此度はオーダーを受けた立場故問おう!
 ガバメントを預かる者がピープルの貧困をスルーするはジャスティスかね?」
 ベルナルド以外見えてない、といった風のアネモネに豪斗が問う。
 小首を傾げた彼女はそれで我に返ったのか、彼に向き直りニッコリと笑う。
「私、政治家ではございませんので。私は神の名の元に異端を、悪を問うものです。
 私の仕事において、神の意志に優先する理由(もの)等何処にございましょうや」
 彼等の信じるそれでは無いが――『神』たる豪斗の存在は余りに皮肉だ。これには苦笑する他無い。
「聖女サマは、とても良い旋律をお持ちのようですね。しっかり覚えました」
 リアの感じた音色は忘れようにも忘れる事の出来ないものだ。
 真っ赤。純粋な赤、刺々しく一色に塗り潰されたその色味が彼女の世界だとするならば、それは。
「あぁ、聖女様? 単なる個人的な好奇心から聞くが一体何を企んでいるんだ?
 面白そうなことを考えてるんだったらぜひ聞かせてほしいな――」
「企んでいるなんて、そんな馬鹿な」
 テテスに柔らかく応じたアネモネは言葉を続ける。

 ――全ては神の御心のままに。
   でもね。ベルナルド? 貴方は『すぐに戻ってきても構わない』のよ?

●峻厳の獅子
 ネリアーリ村の事件を鎮めたイレギュラーズは王城でレオパルとフェネスト六世への謁見を許された。
「ええ、ティゲール様は『盗賊団を捕縛しろ』と仰いましたから。
 今度こそ、あの村に残った方々も貧困という試練を乗り越える為の自助努力に努める事でしょう」
 シェリーの言葉にレオパルは鷹揚に頷いた。
 引き渡しが半数になった事を彼は咎める心算は無いらしく、バランスを取った事に対して十分な理解をしているようだった。
(コイツ等も自分達が生きるためにやむを得ずやってたみてぇだし、寛大な処置になるといいんだがな)
 縄を引くタツミが内心だけでそう呟いた。
 嫌われ役を買って出たタツミだったが、そこはそれ。本音を言えばそうなる所だ。
「これが首謀者か」
「……」
 レオパルの視線に俯き、唇を噛む若者は騎士団長のプレッシャーに震えていた。
 四人はレオパルの求めに応じ、捕縛した『盗賊』――リーダー格のあの若者のみを連れてきたという訳である。
「彼らは確かに罪を犯した。罰が必要だ。だが、彼等の生活は厳しいものだったのは知っていて欲しい」
「まあ、薬も食料も足りなかったよねえ」
 ポテトの言葉に黄瀬が頷く。
 彼等は自身の出来る限りでネリアーリに残せるものを残してきたが、それで解決は難しい。
 彼等は貧しく、働き手を多く失った以上――一層にその生活が成り立たなくなるのは確定的に明らかだった。
「これから、彼等はどうなるんだ?」
 ポテトの問いをレオパルは片手で制した。
「罪人よ」
「……はい」
「お前は悪心を持っているか」
「……」
「答えよ」
「……いいえ。持っていない心算です」
「もう一つ尋ねる。お前は、神を信じているか?」
「信じています」
 嘆息したレオパルの青い瞳から僅かに剣呑が薄れていた。
 玉座のフェネスト六世へ視線をやり、彼が小さく頷くのを確認してから厳粛に宣言する。
「ネリアーリ盗賊団全員を収監し、重労役に処す。
 また、ネリアーリ盗賊団を幇助したと疑われる村民をフォン・ルーベルグの更生施設へと移し、神への奉仕を命じる事とする」
「はー、成る程。そっち系かー」
「――!」
 黄瀬が感心したように言い、ポテトの、タツミの表情が晴れる。
 顔を上げた若者が予想外の裁きに目を見開いていた。
 死罪ならぬ労役、そして村民の施設収容。働き手を失った村が冬を越せないのは明らかで――言い換えれば、これは。
「正義に努めよ。不正義を看過するな。許容するな。どれ程の試練を受けようとも」
 峻厳の白獅子は言って、イレギュラーズに視線を送る。
「この度の仕事に礼を言おう。これからも諸君の正義に期待している」



 かくてネリアーリ村の事件は終焉を迎えた。
 レオパルの言葉通り、彼に引き渡された首謀者一派は収監され、残された村人はフォン・ルーベルグで管理された。
 一方でアネモネ。束縛の聖女に引き渡された半数は『分からない』。
 何故ならば――黄金の鳥籠に囚われた鳥種達は、二度と他人の前に姿を見せる事は無かったのだから。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 YAMIDEITEIっす。

 綺麗な天義らしいシナリオなんじゃないかな、と思わなくもないのですが。
 綺麗なだけじゃ済まない半端ない禍々しさもあるような気もするので、中和なのです。

 アネモネサイドは悪名も増えていますが、アネモネも悪名持ち(プラスも持ってますが)なので、市民感情的な所と思って下さい。名声とは微妙に揺らぐものなのです。

 シナリオ、お疲れ様でした。

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