PandoraPartyProject

シナリオ詳細

追憶の紫陽花迷宮

完了

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オープニング

●逢、会、愛。
 雨が降っていた。
 傘は差していないのに身体に当たる雨は冷たくなくて、此方に寄り添うように振り続けている。誰かの涙の様だと、ぼんやりと思った。
 見渡す限り一面の紫陽花畑。
 赤、紫、青、白。
 雨粒で着飾った紫陽花は、六月の花嫁の様に美しい微笑みを湛えあなたを待っていた。

「ああ、そういえばあの日もこんな雨だった」
 学校からの帰り道、慌てて帰るあなたの目に留まった段ボール。
 雨で滲んだインクの文字は「拾ってください」と歪に書かれていて申し訳程度に敷かれた新聞紙と僅かな餌だけ与えられたラブラドールの子犬が震えていた。
 幼いながらにこの子を助けなきゃと、お気に入りの服が汚れるのも構わずに子犬を包んで自宅へと急いだ。その子犬は後に自分の家族になった。
 大切な友達で、大切な家族。
 昨年、虹の橋を渡ったときは人目も振らず泣いて泣いて、暫く立ち直れなかった。
 会えるのであれば、もう一度逢いたい。
 逢いたいに決まっている。

 ――ばうっ。

 はっと目を見開いた。聞き間違いだろうか、いやそんなはずはない。
「嘘……?」  
 ゆっくり、ゆっくり振り返った。
 ふわふわの毛並みで嬉しそうに尻尾を振って逢いたかった彼が居た。
「ばうっ!」
 夢中で駆け出してその身体を抱きしめた。暖かな体温も匂いも全部全部思い出の中の彼と相違は無い。涙が零れて地面の水溜りに落ちて混ざって溶けていった。
 この世界は所詮一時的なものにすぎないと分かっている。
 明日へ歩き出すために、傷を癒す為の場所。
「……あえて良かった」
 名残惜しくはあれど、いつまでもこの場所には居られない。
 額に優しく一つキスを落して、別れを告げる。
 視界が白んでいき、気づくと見慣れた日常にあなたは立っていた。
 

 紫陽花迷宮。
 優しい雨が降り注ぎ、鮮やかな紫陽花に囲まれた夢幻回廊。
 
  
●追憶の紫陽花迷宮
「お前さん達には忘れられない人や逢いたい一はいるかい」
 黒衣の境界案内人、朧が鮮やかな紫陽花を過敏に飾りながらあなたに問いかける。
 いつも膝の上でゴロゴロ喉を鳴らしたあの子。
 お姉ちゃんと呼んでついて回ってきた可愛い子。
 白百合を手向けた棺で眠る大切なあの人。
 エトセトラ、エトセトラ。
 瞼を閉じれば蘇る光景にあなたは何を想うのだろうか。

「俺? そうさなぁ……もう、忘れちまったよ」
 朧はそう言ってあなたを送り出した。

NMコメント

 初めましての方は初めまして。
 そうでない方は今回もよろしくお願いします、白です。
 紫陽花が綺麗な季節ですねって言おうとしたら六月終わりかけでした。そんな馬鹿な。
 今回はしっとり目、シリアスな優しいラリーです。

●目標
 逢いたい人に逢う
 元の世界に置いてきてしまった人。虹の橋を渡って天使になった可愛い子。
 もう一度だけでも。夢でもいいから逢いたいと願う人に逢うことが出来ます。
 その姿は幻、一時の優しい夢に過ぎません。混沌世界に何の影響も及ぼしません。
 それでも、屹度あなたに寄り添ってくれる想いでになるでしょう。

●場所
 紫陽花迷宮という何処かの異世界にある幻想的な迷宮です。
 幻想的な雰囲気で常に雨が降っており、一面紫陽花の花畑になっています。

 
●NPC
 朧
 黒衣の境界案内人です。ご指名が無ければ登場しませんがご指名があればホイホイついていきます。
 大切な人はいるのか聞かれると「忘れちまったよ」とはぐらかします。
 また、もし過去の拙作のシナリオから逢いたいNPCがいればシナリオ名とNPCが居れば記載してくだされば登場させられます。

●サンプルプレイング
 逢いたい人(人間でなくとも可)とその反応をお願いします。名前があれば名前もお願いいたします。
 なお亡くなったPC、運営が管理するNPCは登場させられません。
 
 逢いたい人:昨年亡くなった愛犬
 逢いたかった人に逢える不思議な紫陽花畑なんて、信じてなかったけど。
 ああ、本当に……! あの子だ!
 おいで、おいで!

 こんな感じです。
 今回のラリーは第一章構成を予定しておりますが何度でも参加可能です。
 貴方の想いでの一助と鳴れたら幸いです。それでは、いってらっしゃい。

  • 追憶の紫陽花迷宮完了
  • NM名
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年07月19日 00時00分
  • 章数1章
  • 総採用数4人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

 雨に濡れる紫陽花畑でクウハは飽きるほど見た顔を見つけた。

「よォ。久しぶりだな、クソババア」
『だれがクソババアだい』
 元の世界で共に各地を巡り、最期まで一緒だった老婆だった。

『相変わらずの口の悪さだねぇ』
「はっ、口が悪ィのは昔っからだろ」
『本当になんにも変わってないねぇお前は』
「あァ、何にも変わっちゃいねーよ」

 まだ子供だったコイツとその仲間に叩きのめされ捕まえられ。
 いつか呪い殺すと固く誓ったが。

 結局、最期まで付き合ってしまった。

 皮と骨ばっかりになった手を握って。
 碌に動かせやしない唇で最後に吐き棄てた言葉は。

 ――自由に好きなところへ行きな。

「オマエそう言ったなァ。よく言ったもんだよ』
『年取ると耳が遠くなっちまってね』
「都合よすぎんぞオマエ!」
 あの時だって、そのまま勝手に成仏しやがった。
「……そういうとこだぜ、クソババアがよ」
『あ? 誰がクソババアだって?』
「聞こえてんじゃねぇか!」
 言葉を交わす度に思い出が鮮やかに浮かんで消えていく。
「妙なトコに来ちまったが、まァ上手くやるさ。心配すんな」
『そうかい、まぁお前なら大丈夫だろ』
 口調とは裏腹にその眼差しは優しい。

 いつか屹度そっちへ往く時が来る。
 その時はタンマリ持ってそっちに行ってやるから。

「じゃーな、クソババア! そっちで塩と砂糖間違えんなよォ!」
 思いっきり手を振って、クウハは光の粒子になって空へ昇る彼女を見送った。


成否

成功


第1章 第2節

フーガ・リリオ(p3p010595)
青薔薇救護隊

「忘れられない人ねえ……今逢いたくて仕方ないヤツならいるよ」
 それは雨に濡れ淡く咲く紫陽花じゃない。
 青空の下で美しく咲く百合の花。

『黄金の百合(ドラド・リリオ)』

 ずっと一緒で兄弟の様だった。
 フーガは手元に権限させたトランペットを見た。確かに見た目はそっくりだがアイツじゃない。

 最近音の調子が悪かったので、王国で一番有名な楽器の修理屋に出していた。
 それが最後の別れとなった。
 なかなか覚めない夢のせいで手に取ることすら叶わない。
 
(今頃どうしているのか……すっげえ口元が寂しい)

 権限させたトランペットのマウスピースが触れても、心までは埋まらなかった。
「早くアンタに会いたいよ、ドラド。綺麗で元気な音、聞かせてくれ」
 だから、この夢(世界)の事を聞いた時半信半疑で来た。
 実際に不思議な夢なのだ。何が起こっても不思議じゃない。
 一時の夢でもいいから、逢いたい。
 そう強く願った時だった。

「え?」
 手の中にしっかりとした存在を感じた。
「……ドラド?」
 この重さ、感触。間違いがない、でもまだ確信が持てなかった。
 逸る気持ちを抑えながら、恐る恐る吹いてみる。
 ……♪

(ああ、この音だ)
 何度焦がれて、思い描いただろう。
 ぼろぼろと瞳から大粒の涙が零れ落ちていった。
 だめだ、演奏に乱れが出てしまう。わかってはいるが止められない。

 嬉しそうにフーガの手の中で花開いた黄金の百合の音色が響いていた。 

成否

成功


第1章 第3節

雑賀 千代(p3p010694)
立派な姫騎士

 紫陽花の中で見慣れた背中を見つけた時、千代は駆け出していた。
 水溜りが跳ねてお気に入りのブーツが濡れたがそんなことはどうでも良かった。
「姉さん……!」
 抱きしめたその身体は温かく、本当に生きている様だった。
 いつだって自分を守ってくれた優しい義姉。
 依頼が終わったら美味しいもの食べようかなんて話していたその日。
 
 ――美咲は千代を庇って死んだ。

 運悪く魔種に遭遇し足が竦んで動けなかった千代を美咲は突き飛ばした。
 美咲から噴き出した鮮烈な赤をいまだに覚えている。

「会いたかった! 会って……謝りたかった!」
 幼子の様に額を擦り付け泣きじゃくる。涙に呑まれて言葉が上手く紡げない。
「父さんも母さんも一夜も……私の所為じゃないと言うけど……ずっと後悔してた、私の未熟さを」
 自分がもっと強ければ、美咲は死なずに済んだのだ。
 だが幾度後悔し、星々へ懺悔しても美咲は帰ってくることはないと知った。

 代わりに千代に芽生えたのは『大切な人を喪うのはもう嫌だ』という感情。
 嗚咽を漏らしていていた千代だが、涙を拭い顔を上げた。
「……うん、だから私強くなる。姉さんみたいに……この「八咫烏」を正式に継承できる強い人になるから……ありがとう、姉さん」
 雑賀の象徴ともいえる三本足の鴉。それが象られた愛銃をなぞり千代は微笑んだ。
 同時に頭を撫でたのは美咲ではなく。
「あれ、どうして頭をなでるのミサキちゃん……?」
 
 

成否

成功


第1章 第4節

ブラッド・バートレット(p3p008661)
0℃の博愛

(正直、これは会いたいという気持ちか分かりません)
 紫陽花迷宮の噺を聞いた時にブラッドに浮かんだのは、自分をこの世界に産み落とした両親のことだった。
 物心つく前から彼は新緑の教会で育っていて、それが当たり前だったから。
 だからこれは『逢いたいという願い』ではなく『どんな人だったのかという興味』に近いのだろう、薄情と言われたらそうかも知れない。

(けれど……名前も、顔も、声も、一緒にいた時間さえ記憶に無いのなら『親に会いたい気持ちに理由はいらない』というのは生物の本能なのでしょうか)
 雫のカーテンの向こうに二つの人影が見える。顔は見えない。
 ブラッドにとって家族とは自身を育ててくれた教会の人々であり、面倒を見ている子どもたちの事である。
 だからあの人影が今にも消えてしまいそうなのは、自分にとって『二人はそういう存在なのだろう』とブラッドは結論付けた。
 そしてこの場所が「逢いたいと願う人に逢える場所」ということからブラッドは察しがついていた。

(存命かさえ知らなかった存在とここで逢うというのはきっと『そういう事』なのでしょう……)
 目を伏せ、すぐに顔を上げた。相変わらず二人の顔は霧に包まれているようだ。
 雨の音が静かに三人を包み込む。
 すぐそこに存在しているのに、脚が動こうとしないのは。

「――俺が、本当に逢いたいか。分からないからなのでしょうか」
 頬を濡らした雨粒の冷たさが心地よかった。

成否

成功

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