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シナリオ詳細

<太陽と月の祝福>迷った時にするべき三つのこと

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●森を取り戻せ、昨日をとりもどせ
 炎のあがる森のなかに、レニンスカヤ・チュレンコフ・ウサビッチ(p3p006499)とレナート=アーテリス(p3p010281)はいた。
「これは……どういう状況なんですか。明らかにマズイことだけは分かりますが」
 『森林火災』という単語ほど、深緑国内で恐れられるものはない。幼い頃、枯れた葉っぱに火を付けて遊んだのを地元の老人たちに頭をひっぱたかれるレベルで怒られたものだ。
「地元の危機だというので戻ってきたら……まずは消火活動を?」
「それもイイんだけどねえ。これって多分、水かけても消えないと思うよ」
 ウサビッチは手を胸の谷間に突っ込むと、どういう理屈なのか拳銃を取り出した。
 前見てみ、と顎を上げてみせた彼女。つられて視線を動かすと、燃える木々の間から『人型の炎』がゆらゆらと姿を見せ始めた。
 突き刺すような敵意を向けられ、レナートは咄嗟に魔術を発動。近くの植物を引っ張ると茨のムチを作り出す。
「彼らがコレを?」
「違うけど大体そう、かな。『炎の嘆き』シェームってゆー奴、知ってる?」
「ほのお……なげき……」
 初めてハンバーガーショップに入った人みたいな反応を示すレナートに、ウサビッチは『これは説明が必要みたいだねえ』と小さく二度ほど頷いた。

 かつてより、深緑全体には免疫機構が存在していた。危険な存在を察知した時、人体でいう白血球のように出現し目につく異物を無差別に攻撃するというものでこれを『大樹の嘆き』という。
 森林迷宮各所の霊樹に備わっているというこれらに、あるとき炎の精霊が合わさった。それが『炎の嘆き』シェームである。
 彼は独特の価値観と行動規則を持ち、これまでの精霊達にない動きをもって怠惰の冠位魔種カロンに協力する姿勢をとっていた。
「コイツらはそのシェームの眷属だね。『ビェーチ・ブラーミャ』ていったかな。略してブラーミャ」
 ウサビッチは両手で握った拳銃の狙いをブラーミャにつけると、ゆらゆらと左右にゆれる頭部をピンポイントで狙って連続発砲。
 レナートもそれにつられる形で鞭を放つとブラーミャは弾けるように消滅した。
 が、残るブラーミャたちが激高したように『オオオオオ』と叫び初め、腕をふるって炎を飛ばしてくる。
 たちまち炎に包まれたウサビッチだが、レナートが即座に火避けの魔法を唱えたことでその炎を振り払った。
 かつて地元の老人に頭をひっぱたかれた時、怒るついでに教わった呪文だ。まさかこんなところで役に立つとは。
「これは、他の場所もかなりヤバくなってそうだねえ」
 嫌そうな顔をするウサビッチに、レナートが問いかける。
「しかし、どうしたら良いのでしょう。あたりは燃えているし、私の地元だって危ないかもしれない。私はどうしたら……」
 混乱しつつあるレナートの肩を、ウサビッチがポンと叩く。
「うさはねえ、こういうときに何をすればいいか知ってるんだよ」
「え……」
 親指と人差し指、ついでに小指を順番に立てて、彼女は言った。
「前を見て、脚を動かして、走るんだよ」

 世は終末間近。深緑国家存亡の危機。
 冠位魔種カロンを倒さねばこの国は永遠に呪いに閉ざされるだろうとすら言われる中で、彼らは走り出した。
 燃える森の中を。炎と戦いながら。
 これはそんな、『走り出した者たち』の物語だ。

GMコメント

●オーダー
 皆さんは現在、深緑を滅ぼさんとする冠位魔種カロンたちを倒すべくファルカウ中層部を突き進んでいます。
 それを阻むべく現れたのは『ビェーチ・ブラーミャ』という精霊系のモンスターでした。
 皆さんは燃えさかる森を走り抜け、妨害するべく襲いかかってくるブラーミャたちを蹴散らしながらとにかく走るのです。

●フィールドとシチュエーション
 ファルカウ中層部にある森のなかを走っています。大樹の中に森、というなんともスケールのでかいフィールドなのですが、只今色々あって燃えさかっています。
 これを皆で走り抜け、突破するというのが今回のシチュエーションとなっています。
 森は魔法的な炎で燃えているので水をぶっかけても消すことができません。
 また、不思議な動きで近くのものに燃え移ったりするので皆さんにも炎がふりかかることがあります。

 森とブラーミャの炎が燃え移ると【火炎】~【炎獄】のBS効果を受けるだけでなく、走り抜けるスピードがちょっと落ちるという追加効果を受けます(速度低下効果は火炎無効やBS無効の効果でもキャンセルできません)。
 これを防ぐためにはBS回復スキルなどを使って炎を払いのける必要が出るでしょう。

 出現するブラーミャの数は不明です。とにかく走り抜けるというのが成功条件ですので、相手の数よりも『どんだけ追いつかれるか』が重要になってくるでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <太陽と月の祝福>迷った時にするべき三つのこと完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年06月28日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

彼者誰(p3p004449)
決別せし過去
レニンスカヤ・チュレンコフ・ウサビッチ(p3p006499)
恩義のために
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女
フローラ・フローライト(p3p009875)
輝いてくださいませ、私のお嬢様
ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)
陽気な骸骨兵
レナート=アーテリス(p3p010281)
きっと平和のために

リプレイ

●飛べ、あるいは走れ
「ッスゥーーー」
 『恩義のために』レニンスカヤ・チュレンコフ・ウサビッチ(p3p006499)が息を吸うと、周囲の黒煙が思いっきり入っていった。
「ごっほ!? う、うーじゃす……」
「だ、大丈夫ですか!? 煙を吸うと一酸化炭素がどうにかなって死んでしまいますぞ!?」
 見ようによっては自殺みたいなマネだが、おろおろしながら『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)を相手にウサビッチはビッと親指を立てた。なんかもう、ちょっと死にそうな顔ではあったが、必死に生きる感じの顔ではあった。
「うさはここの空気に慣れた」
「慣れとかあるのですか!?」
「熟達した水泳選手には、いっそ水を飲むことで自ら直接酸素を取り込む方がおりますね。本当かどうかは知りませんが」
 やれやれと行った様子でネクタイをゆるめる『酔狂者』バルガル・ミフィスト(p3p007978)。
 彼らは皆、燃えさかる森の中を走っていた。
 燃える森から逃げ出すことはあっても、向かっていくことはそうそうない。消防士の訓練でもうけなければ、この手の技術に熟達しはしないだろう。
「所でこれ、あとどれだけ走ればいいんですかねぇ。
 そろそろ60歳見えてきている身にとってはもうかなりしんどいですけど」
「兵士の仕事は走ること、だそうですよ」
 『肉壁バトラー』彼者誰(p3p004449)が重い剣を手にしているというのにしっかりとした速度で走っている。
 ウサビッチに向けてキラリと流麗な目を向ける。
「脆い貴女をお守りするのは、いつだって私だったでしょう? だから大丈夫ですよ、今回もきっと」
「たのもしー! けど速度! 速度あげて!」
「馬でも持ってくればよかったでしょうか」
 などと言いつつも、彼者誰はちゃっかりとジャイアントモルモットへと飛び乗った。
 『桜花の決意』キルシェ=キルシュ(p3p009805)のリチェルカーレだ。
「あっ、一緒にのる?」
「乗馬の心得は御座います。ご安心をキルシェ殿」
「馬……なのかな?」
 キルシェは『まあいいか』と呟いてリチェルカーレの頭をぽふぽふとやると、更に加速するように求めた。
 遠くで燃えた気が倒れる音がする。大切なファルカウが燃えていく姿に心が動かない深緑民はいないだろう。
「けど、ここで呆然としてる暇はないわ。
 森を抜けてからじゃないと火を止められないなら、火を止めるためにも急いで森を抜けましょう。リチェ、熱いけど頑張ろうね」
 モキュッと気合いの入った顔(?)をするリチェルカーレ。
「コャー……ファルカウがここまで燃えるとは、なの。
 わたしとしても座視はできぬので、がんばるのよ」
 『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)は右手できゅっと狐のサインを出すと、ゆらめく炎が狐型の使役体へと変わった。先の様子を見させるために走らせると、後続の二人へと振り返った。
 『華奢なる原石』フローラ・フローライト(p3p009875)はいかにもマラソンなんてしたことないといった風貌だが、それでも必死に腕を振ってついてきている。
「昔から体は弱くて、足も遅くて。炎の中で、怖くて脚も震えるけれど……。
 立ち止まっては、居られないんです……!」
「その意気だね!」
 ウサビッチがフローラをがしりと掴むと、両腕で抱えるようにして抱き上げた。
「助かり、ます」
 息を整えたフローラは、魔法の籠もったカードを手に取って火よけの魔法をとなえた。
 ウサビッチたちにふりかかる火の粉が払われ、速度が更に増した。
「はは、まさか久しぶりの帰郷でこんなことになるとは思いませんでしたよ!」
 倒れ、未だ燃えている木を強引に飛び越える『ヒーラー見習い』レナート=アーテリス(p3p010281)。
 ごろんと一度地面を転がるが、すぐに起き上がって走り出した。
「ですが。前を見て、脚を動かして、走る…シンプルですがいい言葉ですね。
 国の行く先も家族の安否も気に掛かりますが今はただ為すべきことを成すだけ」
 葉の燃えかすなのか、炎がレナートめがけ雨のように降り注ぐ。だがレナートは昔習った火よけの魔法を唱えてそれを振り払い、走る脚に力を込める。
「つまりは、足を止めずに走ります」

●ビェーチ・ブラーミャ
 燃える木々の間から人型のなにかが姿を現す。
 それは炎であり、くるりと振り返った頭には目と口のような黒いもやが見えた。
「ブラーミャ!」
 キルシェが杖を掲げ、ブラーミャもまた手をかざし炎を吹き付ける。
 たちまちジャイアントモルモットごと炎に包まれたが、キルシェが杖をひとふりすると綺麗な花吹雪が散り炎をすぐに吹き消してしまった。
「失礼。ここを通してもらいましょう」
 彼者誰はリチェルカーレの上で拳銃を抜くと、ブラーミャめがけて撃ちまくる。
 耐久力はさしてないらしく、彼者誰の銃撃だけでブラーミャを倒す事ができそうだ。
「さあ、お嬢様。皆様。道を開けておきましたよ!」
「はらしょー!」
 矢面にたつと即座に燃えそうだと思ったのか、ウサビッチは彼者誰の後ろ(というかリチェルカーレの後ろ)に隠れる形で走っていた。だが道が開けばこっちのものだ。
「フローラ、回復お願い!」
「は、はい」
 フローラがカードを握って治癒の魔法を発動すると、彼女を中心に黒く半透明なフィールドが展開された。くるくると回っているので若干わかりづらいが、どうやら正十二面体らしい。
 そんな彼女らに、横をすり抜けられまいと炎を両サイドからぶつけてくるブラーミャ。ウサビッチは『うじゃーっす!』と叫びながら炎の中を跳躍した。
 火の輪くぐりなど目じゃない、炎の壁へのダイブだ。
 なんとかすりぬけ、そして炎によるダメージをフィールド内の力で急速修復した二人。
 それに続いて、胡桃も一緒に炎の壁を走り抜けた。
 そして『モード・スレイプニル』を発動両足を炎が包み、獣の脚めいたシルエットをつくる。
 ぐっと深く踏み込んだ脚は、更にもう一度飛ぶことを許していた。
「こやんぱんち」
 更に遠くから遠距離砲撃を仕掛けようとしていたブラーミャがいたが、胡桃はその距離をたった一度のジャンプで詰め、そして炎を纏い巨獣の腕めいたシルエットを作った拳で殴りつけた。
「いまのうちに」
「助かりましたぞ!」
「いやあこれぞまさに熱烈歓迎ですなあ」
 レナートの手を引いて走るヴェルミリオとバルガル。最後尾を走ってはいるが、なんだか気分は楽そうである。バルガルに至ってはわざとサムいことを言ってみせる始末。
 両サイドからヌッと現れたブラーミャを、ヴェルミリオとバルガルが同時にそれぞれを睨む。
「レナート殿!」
「火避けの結界を頼みます」
「――はい!」
 二人に頼まれ、レナートは更に強化し周囲の炎を吹き払う魔法を唱えた。
 渦巻く清らかな風が花びらをのせ、ブラーミャたちの吹き付ける炎を即座に打ち払う。それ以上の炎をぶつけようと構えるブラーミャたちだが、バルガルたちがそれを許すはずがなかった。
 鎖突きナイフの『ベラムスキー』をビュンと振り回し、勢いを付けて投擲したナイフがブラーミャへと突き刺さる。ブラーミャが崩れ落ちると同時に鎖をひいてナイフを引き戻すバルカルのその一方で、ヴェルミリオは魔法の籠もったランタンで思い切りブラーミャを殴りつけた。
 ボンッとイエローカラーの光が爆ぜ、ブラーミャを弾き飛ばす。
「この調子ならば安全に――むっ!」
 ヴェルミリオが安堵のため息をつこうとしたところで、慌てた様子で後ろを振り返った。
 それまで大した俊敏さをみせなかったブラーミャが、地面に両手をつくような姿勢をとったかと思うと物凄い速さでこちらを追跡し始めたではないか。
「早あっ!?」
 ヴェルミリオが目を飛び出させた。いや、目っていうか髑髏の眼窩にある赤い光をボッて露出させた。
 同じく振り返り、冷や汗を流すレナート。
「ブラーミャって走るんですか!? しかも四つ脚で!」
 バルガルはといえば前を向いたまま、眼鏡に光を反射させながら淡々としゃべり出した。
「意外かもしれませんが、人間も両手を地に着けるとかなりのスピードが出せますよ。ほぼ直進のみで高低差に弱いですが」
「そういうことを聞いてるんじゃないです!」
「いずれにせよ、このままでは追いつかれるでしょう」
 バルガルが大きく手を振り、先頭を走るウサビッチや胡桃たちを呼び止める。
「迎撃陣形にチェンジしましょう! 頼めますか!?」
 応えたのはウサビッチ、胡桃、そしてキルシェだった。
 ザッとブレーキをかけ、そのまま前後反転ターンをかける。
 炭の混じった砂が散り、特にリチェルカーレがスライドターンしたことであがった砂が周囲の火を払いのける。
「任せて! 時間を稼ぐわ!」

●the primitive
 猛烈な速度で追跡をしかけてくるブラーミャたち。
 レナートはこのまま走り続けるだけでは追いつかれると察し、脚をいっそのこと止めた。
 集落の中で外の世界を知らずに過ごし、一生森のサイクルを維持する一環として生き続けるだろうと漠然と思っていたレナートにとって、この半年はあまりにもめまぐるしかった。世界の終わりのような光景が幾度も眼前を通り過ぎ、そのたびに勝ち残る人類の姿。
 その中に自分がいるのだと……今なら実感できる。
 客観ではなく、主観として。
「戦います! 『森の茨よ――』!」
 森に語りかけるための魔術詠唱を始めると、レナートの指先から魔法の茨が飛び出した。それはくるりと腕にまきつき固定すると、鞭のようにしなって飛びかかるブラーミャへと躍りかかる。
 今まさに攻撃可能範囲内まで迫ったブラーミャはほぼ前足となった腕で地を打ち飛び上がり、狼のように大きく開いた口でレナートの頭にかじりつこう――という寸前で側頭部を鞭がはらう。
 ビシャッと鮮血のごとく火の粉が散り、そこへヴェルミリオのランタンが思い切り投げつけられた。
 今度こそ完璧に打ち据えたようで、ブラーミャはその場にどさりと倒れけいれんしたような動きを取る。
「こいつは後回しですぞ! 先に――!」
 ヴェルミリオは落としたランタンを拾わず、ホネの腕でファイティングポーズをとる。それも両手を開いてジュワッとしたポーズだ。なぜそんな……と思っていると、飛びかかる第二のブラーミャの腕を斜めに割り込むように、あるいは抱きあうかのように懐へ滑り込むと相手の頭部を平手で抑え、そのまま肩を押し当ててズンと相手を突き飛ばす。
 思い切り吹き飛ばしたブラーミャが木の幹にぶつかり転がる一方で、ヴェルミリオは目をギランと赤く光らせた。
「骨法ですぞ」
「いやそれ骨法ではないですね」
 合気道ですね。と言いながらバルガルもナイフを逆手に握ると、腕を回してチェーンを素早く右腕へと巻き付ける。どういうことかとレナートが首をかしげると、バルガルは片眉だけをあげてからブラーミャに対し半身に構え繰り出された炎の爪を逆手ナイフで弧を描くようにして受け流した。無論それだけで減じる衝撃ではないが、残る衝撃は巻いたチェーンによる摩擦によって『ナイフの先から肩にかけてのすべて』で受け流しが行われる。
「こうです」
 いやそれもこっぽーなのかな? と全然知らないレナートは思ったがバルガルは得意げである。なんか顔つきからしてちょっと嘘っぽいが。
「おまたせみんな!」
 先を行っていたキルシェが、というかリチェルカーレが突進してくる。リチェルカーレは突っ込んでくるブラーミャに対しておもむろの正面衝突をかますと、ぶみょんと空気をいれた頬袋で衝撃を吸収して弾き飛ばした。
 その威力たるや凄まじく。まったくダメージがない代わりにブラーミャは仰向けに倒れて転がり、高速移動形態が解除されてしまった。
「そこです!」
 リチェルカーレから飛び降り、ブラーミャを大上段から斬り殺す彼者誰。
「さあ、行きましょう。皆様! 森の夜明けはすぐそこのようです!!」
 ですよねお嬢、と小さくだけ振り返って微笑む彼者誰に、ウサビッチは胸の谷間から小ぶりな拳銃を取り出した。ガール・ミニとかいうグリップがピンク色の銃であった。見るからに二発くらいしか撃てないしあんなグリプで狙いを付けるのは無理そうだったが、抱えていたフローラを放り投げスライディングで接近し、そしてブラーミャの顎に銃口をあてた今となってはもう何でも当たるだろう。
「はらしょー」
 重く、二発連射。
 一方投げ出されたフローラはというと、『わわっ』といいながらなんとか着地。
(……幼い頃から憧れた、物語の英雄たちに。そして今を生きている英雄に、近付くためにも)
 更に追いついてくるブラーミャの集団に向けて、不吉な絵が描かれたカードを投げた。
 普通ではまず届かないような距離を飛んでいったカードがブラーミャの一体に命中。と同時にズゥンという重く鈍い音と共に黒い魔力が波紋のように広がった。
 音どおりというべきか、激しい重圧をうけたブラーミャたちは地面に思い切りめり込み、『伏せ』の姿勢のままぶるぶると振るえている。おそらく重圧に抵抗しようとしているのだろう。
「脚は押さえました、いけます!」
 フローラがややかすれた声で叫んだ、その瞬間。隊列側面よりブラーミャが同時にとびかかってきた。
 回り込んできた個体がいたようだ。
 思わず身構えてしまうフローラだが、このシチュエーションで攻撃をかわしきるのはおそらく無理だ。
 覚悟をきめるしかないかと思い目を瞑り、繰り出されたブラーミャの爪は……刺さらなかった。一瞬目を瞑ってしまったことを後悔しつつも目を開けると、見えたのは彼者誰の背中であった。
「ふふ、くすぐったさしか感じませんね」
 彼者誰は爪の攻撃を受け血を流していたが、燃え上がる炎を無視して優雅に笑っていた。
「下がっていてくださいフローラ殿」
 彼者誰がぱっと空いた手をかざすと、ウサビッチが拳銃をパスしてくる。それを軽やかにキャッチし、至近距離から打ちまくる彼者誰。ノックバックするブラーミャに更なる銃撃を加えると、解放した弾倉から空薬莢を落とし、それを手袋をした手ですべて受け止めた。握って手首を返すと、まるで手品みたいに空薬莢が全て同じ方向に揃った状態で並んでいる。
「まだもう一体、残ってるのよ」
 そう言うと、胡桃が自らの炎を纏って変化させた脚と腕による高速移動でフローラの背後を固める。奇襲を狙っていたのだろうか。気付かれては仕方ないとばかりに飛び出してきたブラーミャに、胡桃は至近距離からの『こやんぱんち&こやんふぁいあ〜』を叩き込んだ。
 見事なカウンターとなったようで、ブラーミャが吹き飛び樹幹へと激突する。
「仕上げ、なの」
 胡桃は両手をパッと翳すと、両腕に纏っていた炎を解除し空中へ拡散。その全てが狐の形をとると、空を走って遠くへと飛んでいった。ボンッと炎があがったかと思うと、こちらを見つけ接近しようと試みていたブラーミャたちに食らいつき足止めしているのがわかった。
 これでオッケー、と親指をたてる胡桃。
 仲間達は顔を見合わせ、頷き合い、そして再び走り出す。
 目指すはファルカウ上層深部。この森を脅かす首魁たちのもとへ。

成否

成功

MVP

胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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