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シナリオ詳細

馬車に突っ込んでいく亜竜種の姿が見たい

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●という電波を受信しましたが割と真面目です、ごめんなさい
「フリアノンの周囲に現れる比較的弱い亜竜を可能な限り倒しておきたい」
 というのが、ローレットにもたらされた依頼の概要だった。亜竜、というと含意が広いため判別が困難だが、付記されていた内容からすると飛龍、ワイバーンと呼び習わされる亜竜の類であるらしい。
 なんでも、近頃フリアノン周辺に少し強力な個体が現れたということでそれにともなってワイバーンも増加、結果としてフリアノン周辺の危険度がほんの僅かに上がっているのだという。
 力ある亜竜種が護衛につけば危険性は下がるが、絶対はない。そのため、これを機にローレットの助力を借りて掃討を進めたいというのが要旨である。
「……というわけで貴兄らを呼んだのだが、此方に居られるのはあの飛龍もどき共の行動原理に詳しい方だ。名を春・腐旬(しゅん・ぷーしゃん)と言う」
「ひ、ひひ……わ、私のことはどう、どうでもいい。彼等のげ、撃滅についてはの、のぞむところだ。ぶ、物資が来ないのは困る……」
 依頼人である亜竜種の大男(名乗らずそそくさと退席した)に連れられてきたのは、春と呼ばれた人物だった。そこそこの長身であろうが極端な猫背で人並みか小さめに見え、角や翼は言われないと分からぬ程小さい。というか、フードを目深に被りローブに身を覆った女性の姿は、パッと見人間種にほど近い。
 イレギュラーズが視線を移すと、春はフードを引き下げて恨みがましい視線をあなたたちに向けた。
「わ、私のことは、ど、どうでも、いいだろう。今回、の、掃討、戦には、お、おお、囮になって、も、もらう者が、ほ、ほしい。ざ、ざっくり話そう」
 ……と、春の会話が冗長になるため話の内容を噛み砕こう。
 春はフリアノンからラサ、そして他国へと密かに通じる貿易について回る魔術師であり研究家であるのだという。無論、亜竜に対しての、だ。
 だが、亜竜といっても千差万別なため、知識が直接役に立つことは少なく、閑職に甘んじていたのだという。
 そんな流れで閑職を温めるのみだった彼女に脚光が浴びるきっかけとなったのは、とある交易の際に現れた飛龍から行商団を逃した功績ゆえである。
 なんでも、飛龍達は空から行商団を襲ったらしいのだが、馬車に飛びついて中身を襲うものの、近くの亜竜種達にはついぞ襲いかからなかったのだと言う。まるで彼等を見失ったかのように。
 その際、行商達を馬車から引き剥がして一目散に逃げたことで、荷物こそ全滅したものの人命は無事で済んだのだと。
「そ、それで、奴らの行動からすると、ば、ばば、馬車……に、好奇心を、しし、刺激……されてるらしい。だ、だから、掃討、なら、馬車による車列を、つ、作って、狙い撃ち、に、すれば……少しは楽、に、た、倒せる……はずだ」
 それで、と春は言葉を切ると、一冊の本を出す。どうやらどこかで仕入れたらしい薄くて高い本だ。
「この、本だと、他の、せ、世界では……飛龍が馬車に、け、懸想する、らしい、な。似たこと、が、おきている……の、かもしれない」
「それはないと思うんだよな」
 春が取り出した薄くて高くて絶対成人向け(とてもニッチ)な情報にイレギュラーズはツッコミを入れた。
「で、でも、く、くく食いつきがいいのは確か、なんだ。だ、だから飛び回られる、よりは、楽。あと……れ、練達? に、いたワイバーンが、いる、と、情報屋に、聞いた」
 私もついていく。そんな爆弾発言はさておき、その情報が正しければ、練達で討ち漏らした亜竜達が首謀である可能性が高い。
 ここで倒せれば、もしくは減らせれば、後々の為になるのかもしれない。
「こ、交易路、は、一部の、亜竜種にとっても死活問題、だ。私、も手伝う。よ、よよ、よろしく……頼む」

GMコメント

●成功条件(1章)
 ワイバーンの一定数撃破
 ワイバーン・アクアリス一体の撃破

●ワイバーン×シナリオ通しで20~
 空を飛ぶ亜竜です。
 常時飛行しておりますが、不利益を被りません。
 ブレスなどは使えませんが、ランディングアタック(超物単・【移動】【副】)など結構面倒くさい攻撃が多いです。
 翼や爪などの攻撃が主体。カタログスペックとしては通常のNORMALで2~3体出ればいいかなぐらいの性能評価です。
 ……ですが、後述の参加者が確保できていれば強敵度はぐっとさがります。1節複数体も夢じゃないぞ!

●ワイバーン・アクアリス×1(1章)
 『<Jabberwock>phreatic explosion』に登場したちょっと強力なワイバーンの個体です。
 以下は旧データ。
・竜鱗(偽-):個々の攻撃に対して、確率で1段階低下(業火→火炎など)。
・竜血(偽):ターン終了時の被付与BS数3個以上で能力向上
・主に高圧の水、及び強烈な冷気のブレスを吐く。強烈だが、やや直線的。
 上記に加え、攻撃の一部に殺意が増しました。
 ワイバーン達と同じくランディングアタック他が使えます。
 後述の誘導が使えず、機動が高く動き回るため怒りで引き付けるのが困難になりました。

●参加分類
【A】飛龍誘導
 馬車やそれに準ずる移動アイテムを用い車列を形成(または単体で移動し)、ワイバーンを惹き付ける役割となります。
 基本的にやや無防備となりますし、当該車両操縦中は戦闘に参加できません。
 完全に車両(馬車頭)が破壊されたら戦闘参加可能です。それまではボロボロになっても逃げ回りましょう。
(システム上破壊判定などはありません。ニュアンスとしてです。また、馬車に興味がありますが馬は襲われないため、【騎乗戦闘】で使える馬車なんて奇矯なものがあっても判定で性能が損なわれることはありません)
 単体採用があった場合、逃げ回った末に隙を作った、その後戦闘したor離脱したなどの描写になります(単体採用は可能な限り避けます)。

【B】飛龍遊撃
 Aの周囲でワイバーンを落としていきます。
 Aの活躍如何で滅茶苦茶楽な戦闘になるでしょう。
 ひとまず戦闘全振りのプレイングで大丈夫だと思います。

【C】氷亜竜牽制
 A、Bに氷亜竜が近づかないよう誘導や牽制主体となります。倒していけないとはいっていない。
 ですが偏りが酷いと採用率が落ちます。適度にいきましょう。

●書式
 遵守したほうが採用しやすいです。
1行目:【A】~【C】参加タグ
2行目:同行者タグまたはID(参加タグ横断推奨)
3行目以降:本文

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 馬車に突っ込んでいく亜竜種の姿が見たい完了
  • GM名ふみの
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年06月23日 21時20分
  • 章数1章
  • 総採用数13人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー
アルハ・オーグ・アルハット(p3p010355)
名高きアルハットの裔


「フリアノン最速伝説、アルハ・オーグ・アルハットである!」
 『名高きアルハットの裔』アルハ・オーグ・アルハット(p3p010355)は大枚はたいて用意した馬車を駆り、見事な鞭捌きで以て襲い来るワイバーンから逃げ回っていた。逃げ切れるのか? という問いに対しては「全力移動ならギリやろ」ってところである。あっ、幌に爪先がちょっと掠った。
「真っ直ぐ走るだけでは単調で狙われやすいであろう、なれば蛇行せねば……ちと無理を強いるぞ!」
 アルハはそう告げると、馬のいななきとともに馬車を右に左に振り回す。
 その思い切りのよさが吉と出たか、ワイバーン達はその動きに一瞬だけ動揺を示した、ように思えた。
「こんちわーッ!」
 その隙を、『航空猟兵』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)は見逃さなかった。
 飛行戦闘に長けたブランシュには大変不服であろうが、馬車を狙って低空飛行していた個体は唐突な斬撃にバランスを崩し、錐揉みしつつ地面に激突する。それでも体を上げて交戦の意思を見せるが、その体たらくで対応できる相手でないことは明らかだ。
「まず一体落としたのですよ。あっちからまた来るですね」
 馬車を切り返し猛然と突っ込んでくるアルハの姿を視認すると、すぐさま次の準備に入る。姿を隠し気配を殺し、必死に馬車に食らいつくワイバーンを迎え撃つべく絶塊を握る。
「それにしてもなんで馬車に体当たりしてくるですよ……? まあ確かに蛇行してる姿は『尻を振っている』とも表現すると思うですが」
「なんのことだ? わらわにはわからぬぞ♪ 説明せよ♡」
 ブランシュの声を遠くからキャッチしたアルハは、悲鳴じみた声で問いを投げかけながら駆け抜けていく。ワイバーンがどんどん蛇行運転に対応し始めてあっ幌がふっとばされた。
「ブランシュにもちょっとわからないですよ……でも骨は拾うから安心してくださいですよ」
「き、貴様~~~~♡♡♪♪♡♪♡」
 馬車の幌がなくなったら完全に馬なので、もうアルハがワイバーンに追いかけられる理由がなくなってしまう。しまった。
 それを見計らったように現れたリク(ワイバーン)が並走して鼻で笑ってきたので彼女は腹を蹴りつけようとし、勢いそちらに乗り換えてしまった。
 そしてこうなったら空中戦闘ができるのでは? と嬉々とした表情を見せたのがブランシュである。
 これはしたりと反撃に出たアルハ共々、割とマジ気味に本格的に怒り狂うワイバーンたちに立ち向かうことになるのだった。
 ――ワイバーン撃破数、推定2~3。

成否

成功


第1章 第2節

モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
メイ・ノファーマ(p3p009486)
大艦巨砲なピーターパン


「メイさん、相手はワイバーンだ! 可能な限り振り切れるように運転するけど、そこから先はメイさんが頼りだ、くれぐれも――」
「大丈夫だよモカおねーさん、馬車が壊されないようにどーん! とうちおとせばいいんだね!」
 『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)と『青き大空のピーターパン』メイ・ノファーマ(p3p009486)の二人は、可能な限りワイバーンを一直線に並べるべく動き回る。モカは馬車を駆り、メイが迎撃する格好だ。
 とはいえ、モカには一抹の不安があった。それは……。
 ぼふっ。
「あっ、失敗失敗。次こそはちゃんとやるよ!」
「……っていう可能性が怖かったんだよなあ……」
 この通り、メイの失敗である。
 世の中突き詰めればメイよりも失敗しやすい人種はいるのだろうが、それを差し引いてもメイはちょっとだけ失敗しやすかった。だが、そうは言っても一端のイレギュラーズである。
 モカはやや前方上空から伸びる光条をたしかに見た。続けざまにもう一度。
 メイが為した事に間違いなかろうが、改めて見てもかなり派手だ。上空からはギャアギャアと悲鳴じみた鳴き声が聞こえてくるのが確認できれば、成果を上げていることは窺える。
「メイさん、9回攻撃したら不発でも直ぐ逃げるぞ! 馬車さえ置いていけば逃げ切れる筈だからな!」
「モカおねーさんの言うことなら……わかった……」
 モカの叫びに頷いたメイは、指折り数えながら魔砲の発動回数を数えた。7回。ワイバーンの一体が地上にきりもみ落下する。8回。狙いがそれて明後日の方向に飛んでいった、その次の詠唱にはいったところで、ワイバーンはついぞ堪らず、メイを握りつぶすべく鉤爪を振り下ろす。
 魔砲を撃つ事に注力していた彼女はまともに捉えられ、真っ逆さまに地面に落下……する直前でモカの馬車の幌に落下し、激突だけは辛くも避けられた。
「逃げるぞ! あとは馬車を囮にする!」
 モカはメイを抱えると、一目散に逃げに転じた。幸いにして、背後ではワイバーン達が馬車に飛びかかろうとする真っ只中。少々の犠牲はあれど、一体のワイバーンを撃退することには成功したのだった。

成否

成功


第1章 第3節

ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘


「飛龍が馬車に懸想? それは……いや、なんでもない」
「エーレンさん……知ってるの……?」
「いいや知らない、知ってるわけがない! こ、こういうときはこう言うのだったな――ハイヨーシルバー!!」
 『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)はくだんの亜竜の振る舞いについて思い当たる点があった。ありすぎた、とすら言えよう。だが、荷台の『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)を始め女性陣の耳には入れられない。気合を一ついれると、手綱を握って馬車を走らせた。
「じゃあ思いっきり囮の仕事がんばるね……」
「って、エーレンさん……私の倍以上も速い……!?」
「ユーフォニー、心配はいらん! 直線的には動かない! フラーゴラも、振り落とされるなよ!」
 『ためらいには勇気を』ユーフォニー(p3p010323)はエーレンのロケットスタートに思わず目を剥くが、さりとて単独行の危険性はエーレンも重々承知だった。そして、加速しすぎれば仲間もワイバーンも振り切ってしまうという事実。然るに彼は、仲間がそうしたように素早い方向転換を繰り返し、ワイバーンの誘導を開始する。
「馬車を護衛しながら戦う感じだったかな?」
『久方振りだが平気か?』
「まあ、何とかなるというか依頼だから頑張る」
 『穢翼の死神』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)は胸元の『契約者』と役割を確認しつつ、馬車と並走する形で飛び回る。エーレンの馬車に次々と群がり始めたワイバーンは、近づくより早くユーフォニーに牽制射を受け、すかさずティアの呪歌によって高度を下げた。効いている。いるが、それで懲りるほど彼らも若輩でも弱卒でもなし。
「ギャアアアアゥゥ!!」
「それくらい……!」
 うち一体のワイバーンが仕掛けた落下攻撃は、馬車の幌に飛び乗ったフラーゴラがライオットシールドで受け流す。バランスを崩したそれは、直後にユーフォニーの一撃を受け更に高度を下げた。地を舐めるほどの低空飛行は着地準備にも見え、倒れはせずとも追撃は当分不可能だろう。
「まだまだ、逃げ回ってみせよう!」
 エーレンは顛末を見届けぬまま手綱を握りしめ、更にアクロバティックに馬車を操る。ワイバーン達が翻弄されるように、しかし確実に馬車を追従するのは、きっとフラーゴラが撒いたスパイスの香りもあろうか。
『真上、手負いがいるぞ』
「見えてるから大丈夫」
 ティアの頭上まで近づいたワイバーンは、馬車ごと彼女を引き裂こうと爪を広げた。だが遅い。
 ほとんど相手を見ぬまま突き出された手から放たれた魔力はワイバーンを穿ち、直後に散ったフラーゴラの手による炎が逃げ場を奪う。
 合図もなしに打ち込まれた連携でワイバーンは無様に地面に転がり、翼をあらぬ方向に折り曲げ崩れ落ちる。
 既に動いていた仲間達の連携と、彼ら【撃走】の手により、ワイバーンは二桁に迫ろうかという数が撃墜された。
 当然、氷亜竜はそれを好ましくは思っていない。高圧の水鉄砲を思わせるブレスが馬車を庇うフラーゴラの盾に叩きつけられ、思わず馬車諸共にバランスを崩す。
 が、そこはエーレンの手綱さばきが一日の長を見せ、軌道修正に成功。このまま戦ってもよかろうが、態勢が崩れたままでは厳しいか。
「一旦離れるぞ! あのボスをなんとかしないと焼け石に水だ!」
「う、うん……わかった……!」
 エーレンの声にフラーゴラが応じ、ティアとユーフォニーもどうにかして馬車内へと引っ込む。いきおい、直進にて急加速を見せたエーレンの馬車はワイバーンの警戒圏から抜け出たものの、驚異はいまだ潰えず。

(ワイバーン・アクアリス撃破が最優先目標に変更されました。以後、NPCを含め【A】は最低1人いるものとして扱うため、送信済みを除き【C】を推奨致します)

成否

成功


第1章 第4節

ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘


「ひ、飛竜は、か、かなり減った……あ、あとは、頼んだ、ぞ……!」
 春・腐旬は馬車を駆ってあちこち走り回った挙げ句、追ってくるワイバーンがいないことを確認し走り去っていく。その幌を僅かに冷凍ブレスが掠めた事実は、彼女が知らなくて幸運だった出来事のひとつだ。
「もう、護衛は必要ないんだよね?」
『油断するなよ?』
 契約者の警句に小さく頷くと、ティアは高らかに咆えた氷亜竜へ向けて魔砲を放つ。空を我が物とするそれが迫る閃光を見逃すはずはなかったが、結論から言えば初撃を許すことになる。
「お、お願い……止まって!」
 『特異運命座標』岩倉・鈴音(p3p006119)が放った一射が、届かずとも牽制として用を成し、氷亜竜に回避を強いた結果である。
「――――!!」
「アクアリスさんは元々この近くに住んでいたのでしょうか。だとしたら申し訳ないです……」
「でもちょっかいかけたのはあっちが先だから……張り切って竜退治だよ……!」
 咆哮が荒野に高らかに響く。まるで自分の領地だと言わんばかりに。しかし、それに動揺する程度の根性では戦えない。ユーフォニーは一片の同情を示しつつ、戦うことに躊躇しない。フラーゴラに至っては、相手を調理する算段まで立てている始末。一同そろって割と覚悟が決まっているが……。
「では改めて――鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。空飛ぶお前と地を蹴る俺、ひとつ競走と行こうじゃないか!」
「エーレンさん……相変わらず速いよね……!」
 尤も、この状況で一番覚悟ができているのはエーレンなのだろう。フラーゴラはユーフォニーの俯瞰を参考に、仲間の動きを把握しようとする。号令を掛けて一気呵成に、といけばよかったが、彼女の身軽さをしてもエーレンの足に追いつくのは困難だ。驚異的なのは、氷亜竜はその動きにすらついていくという事実。
「足が速いね……動きを止められないかな?」
『当たってはいるが、動きは乱れていないな。一発では難しそうだが』
「なら、止まるまで繰り返せばいいよね?」
 ティアは足止めの一射を打ち込むが、氷亜竜は気にも留めず舞い上がる。おそらく、堅固な鱗による守りか。厄介極まりないが、さりとて無意味というわけでもない。傷は着実に負わせているはずだ。
「氷亜竜さん、よく知りませんがやはり薄い本に興味津々ですか?」
「それは亜竜ではなく依頼人殿の話であってだな……! ええい、言ってる場合ではないというのに!」
 鈴音が首を傾げ考え込む仕草を見せるのを視界の隅で確認しつつ、エーレンは氷亜竜との距離を測る。針のような敵意を受け、氷亜竜は咆哮とともに彼を狙う。
「ワタシが支える、だから倒れないで……!」
「――恩に着る!」
 エーレンの構えが整うより早く振り抜かれた鉤爪の降下攻撃(ランディングアタック)は、しかし彼に届く前にフラーゴラが受け止め、いなし、そのバランスを崩しにかかる。
 となれば、氷亜竜は必然としてエーレンの前に首を晒すことになる。居合の一刀は、躱すに能わず。
「フラーゴラさん、大丈夫ですか!?」
「大丈夫……! 今の攻撃はもう見切ったよ……!」
 ユーフォニーと鈴音が治療に回るが、思いの外フラーゴラの状態は悪くない。正面から受け止めなかったのが奏功したか。はたまた、ワイバーン戦での知見が役に立ったか。
「近づいてくれたなら、遠慮はいらないね?」
「もう飛んで逃げられるなんて思わないことです……!」
 ティアとユーフォニーは息を合わせ、砂嵐と呪歌を叩き込む。何れも動きを止めるための技能なれば、いっときであれ、限定的であれ。氷亜竜の動きを封じることは出来よう。
「不調になればなるほど強くなる……なら、強くなる前に倒せばノーカンだよね……!」
「正しい認識だ。今の俺達なら、それができる」
 フラーゴラは僅かに獰猛さを交えた笑みを見せると、魔弾で以て氷亜竜を追い詰めていく。能力が強化されようと、動けなければ意味がない。動き出すのが遅いなら、その前に倒しきれば良い。脳筋極まりない考え方だが、仲間達の認識も同じだからこそ成立するものだ。こと、エーレンなどはその典型例だろう。
 練達に訪れたその個体を、イレギュラーズは正しく畏れ、しかし追い返した。一体を落とすまでに。
 そして今、あのときから鍛え続けた者達が――氷亜竜を追い落とす。

成否

成功

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