シナリオ詳細
妖しい牧師と黒い魔女
オープニング
●依頼とサン=シール領について
幻想の南側に位置するサン=シール家が治める領地に向かうには、王都メフ・メフィートとの間に広がる森を抜けるか、大幅な迂回が必要であった。その交通の便の悪さ故に昔から人の出入りが少なく、田舎扱いされている。しかし、近年は領主代行として実権を握ったアウグスタ=サン=シールによって、観光地化のための開拓事業が進められている。
森と海岸線を有する小規模な領地ながらも、農地の拡大、観光事業の推進に力を入れてきたサン=シール領は、一層の発展を遂げるように思われた――。
観光地として盛況な様子を見せるサン=シール領だったが、海岸線を整備する段階になって、ある問題が浮上した。海水浴場として解放されるはずだった浜辺に、魔物の群れが棲みつく事態が生じているのだ。
夏の海開きのシーズンは間近に迫っている。整備を進めるにはわずかでも時間が惜しい──そう判断したアウグスタはギルド・ローレットの評判を聞きつけ、イレギュラーズを領地に呼び寄せるに至った。
「魔物討伐に御尽力いただけること、心より感謝致します。ローレットの皆様の評判はお聞きしていますわ──」
アウグスタは屋敷の応接間でイレギュラーズを出迎え、優雅に紅茶を味わいながら依頼の詳細を語る。
浜辺に棲みつき始めたのは、巨大なヤドカリのような姿をした魔物である。その大きさ、強靭さ故に、体を覆う外殻部分の大半は、くり抜かれた岩や船の残骸などである。魔物はそれらを背負う形で地中に埋まり、浜辺に点在する岩などになって風景に溶け込んでいる。
魔物の生態を斥候に探らせていたアウグスタは、より有用な情報をイレギュラーズにもたらす。
ヤドカリのような魔物は、外殻を背負っているときは非常に鈍重な動きをしているが、外殻を破壊されるなどして失った場合、驚くべき速さを見せるという。迅速な動きで海底、あるいは地中深くに逃げ込む恐れがあり、最も厄介な点と言える。しかし、外殻を失った魔物は最も無防備な状態をさらけ出すため、速さを制することができれば一撃で仕留められると予測できる。動きを阻害できる手段があれば、更に有用だろう。
「魔物に関しては、こんなところでしょうか」と一息ついたアウグスタは、魔物討伐に向かうイレギュラーズに対し期待の眼差しを向け、改めて要請した。
「──皆様ほどの方にお力添えいただけるなら安心ですわね。安全を確保するためにも、どうか討ち漏らさないようお願い致しますわ」
屋敷の応接間でアウグスタと向き合うイレギュラーズの中には、『謎めいた牧師』ナイジェル=シン(p3p003705)の姿もあった。
他の者がアウグスタと世間話を交えて談笑する間、ナイジェルはローレットでの情報屋とのやり取りを思い返す。
●アウグスタのウワサについて
「『サン=シールの魔女』のウワサをご存知ですか?」
『強欲情報屋』マギト・カーマイン(p3n000209)は紹介状を手渡しながら、アウグスタことサン=シール夫人の黒いウワサについて語った。
「サン=シール夫人の当主としての才覚を妬んだ者の流言といえば流言でしょうが、彼女が領主代理になった経緯が“あれ”なのでね――」
アウグスタが嫁いで間もなく夫は失踪、アウグスタの義父にあたる当主は病床にふせるようになり、人前に姿を見せなくなった。
アウグスタが嫁いでから立て続けに不幸が重なった訳だが、アウグスタ自身は気丈に振る舞っているのか、裏で糸を引く黒幕だからこそなのか、平然と日々を過ごす姿が領民たちの目に映っている。
黒いウワサの中心であるアウグスタだが、「まあ、金払いのいい客なら、俺は誰でも歓迎ですよ」とマギトは称した。
イレギュラーズを歓待するアウグスタは、観光地で販売する予定の新作の氷菓についても気さくに語る。
「紅茶を花型に冷やし固めたものに練乳や花蜜をかけていただく、新作の氷菓なのです。仕事を終えた時には、皆様もぜひお召し上がりになって――」
そう話すアウグスタと目が合ったナイジェルは、一見にこやかに言葉を返す。
「お気遣い感謝する、サン=シール夫人。魔物は我々がすべて駆逐することをお約束しよう」
- 妖しい牧師と黒い魔女完了
- GM名夏雨
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2022年06月22日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
サン=シール領内、海水浴場として利用されるはずの封鎖された浜辺。封鎖される原因となった魔物らを一掃すべく、その場所に立ち入るイレギュラーズの姿があった。
『謎めいた牧師』ナイジェル=シン(p3p003705)は、どこか物思いに耽るようにサン=シール家の屋敷の方角を顧みる。
――アウグスタは、元気でやっているようだな。
その思いを知ってか知らずか、屋敷の方を見つめるナイジェルに、『ふわふわ』えくれあ(p3p009062)は「氷のおかし、すーっごく楽しみだね!」と声をかけた。
「サヨナキドリでもね、夏に氷のおかしをだすんだよ! だから、しょーにんさんもいろいろ食べてアイデアだしてねって……あっ、これ言っちゃだめだった!」
そう言って慌てるえくれあの様子に苦笑するナイジェルに対し、えくれあは「しーっ!」と内緒のジェスチャーをしてみせた。
「氷菓もおいしそうデスガ、ヤドカリは塩茹でがおいしいと聞いたデス」
えくれあのそばでそうつぶやいた『不死呪』アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)は、全身黒色の水着姿を披露していた。女性らしいオフショルダータイプのデザインの水着に、腰に巻いたフリルの付いたパレオをなびかせ、アオゾラはすっかりリゾートの住人と化している。そんなアオゾラの一言に『赤い頭巾の断罪狼』Я・E・D(p3p009532)は「うんうん、美味しそうだよね」と相槌を打つ。
「イセエビみたいな味がするって言うし、楽しみだよね」
無邪気に食い意地を張るЯ・E・Dに対し「料理するなら任せろ」と『ベンデグースの赤竜』シャールカーニ・レーカ(p3p010392)は応じた。
──酒のアテになるならちょうど良さそうでもあるが、このサイズだと大味だろうか……。
「ま、早いところ倒して氷菓にもありつきたいところだな」
『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)は、どこか物憂げなナイジェルの様子を気にかけつつも、不自然に岩が並ぶ浜辺に視線を戻し、仕事にかかろうとする。
――裏事情についてはあまり語る立場ではないにせよ……。
「人々の憩いの場が増えるのはいいことだ。一肌脱ごうじゃないか」
『陽気な骸骨兵』ヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)は、早速捜索に乗り出す。
「海開きを邪魔する悪い子は、塩茹でにでも壺焼きにでもしてしまいましょう!」
エーレンは浜辺のあちこちに見える岩を眺めながら、
「話には聞いていたが、わかりやすい目印だな」
違和感を持つ存在を前にして剣を構えた。
Я・E・Dは、各々の能力を生かして魔物を追い詰めることを提案する。
「――いっぺんに戦わないで、少しずつ袋叩きにしていこうか」
アオゾラはその辺の石や流木を岩に向かって投げつけてみるが、魔物はじっと身を潜めている。その様子を見た『友人/死神』フロイント ハイン(p3p010570)は、ヤドカリの魔物の習性を導き出す。
「無理矢理にでも動かさない限り、じっとしているようですね」
その場に固まっている3つの岩──魔物3体に向けて、Я・E・Dは早速攻撃を開始する。
Я・E・Dは自らの指先から瞬時に光の糸を放つ。無数に分かれた糸はまとめて魔物らを縛り上げ、その体ごと巻き取られ浜辺を引きずられる。地中から引きずり出された巨大なヤドカリに向けて、イレギュラーズは攻撃を畳みかけた。
「へいへーい、かかってこいデス」と堂々とヤドカリを挑発するアオゾラは、自らの闘気を操り変換し、無数の強靭な糸にして放つ。ヴェルミリオも自在に魔物に巻きつけた闘気の糸を引き絞り、魔物の動きを封じようと攻撃を展開していく。
鉄線のように魔物の1体――魔物Aを締め付ける糸はヒビを刻み、背負っている岩の表面を崩すほどだった。
重量のある岩を背負っているせいか、魔物らは攻撃に怯みながらもゆっくりと鈍重なうごきで後退しようとする。
3体の魔物を絡め取るЯ・E・Dたちは、抵抗する魔物をその場に引き留めようと全力を注ぐ。岩を背負った巨体をゆっくりと横移動させる魔物だったが、前触れもなく岩との間から攻撃を打ち出した。
魔物の口元から砂がレーザーのように鋭く放たれ、次々にイレギュラーズを襲う。大量の砂が舞う中、ナイジェルは魔光を放つ術式を発動する。魔物Aが背負う岩はその光線によって激しく穿たれ、魔物Aは瞬時に砂を吐き出すのを止めた。その隙に乗じて、レーカは魔物Aの至近距離へと迫った。
間合いへと飛び込んだレーカに向けて、魔物Aは岩の下から覗くハサミによって強烈なフックを打ち出した。勢いを保ったまま突撃したレーカは、自身の周囲に展開されたエネルギー障壁を利用し、魔物Aのハサミがひび割れるほどに弾き返してみせた。
更に攻撃を畳みかけるイレギュラーズは、魔物らの勢いを削いでいく。
「みんなー! がんばれー!!」とエールを送るえくれあは、その愛らしい見た目と能力で皆を癒し、鼓舞することに力を注ぐ。えくれあの応援は、皆の力を引き出す特殊な号令となって戦意を盛り上げた。
苛烈に攻めかかるイレギュラーズの攻撃が魔物Aの岩をボロボロに崩壊させ、早速海に逃げ込もうとする動きを見せる。しかし、魔物Aは張り巡らされた特殊な糸によって動きを阻まれる。その糸を操るヴェルミリオによって、魔物Aは浜辺に縫い止められるようにして必死に抵抗を続けた。
魔物Aはハサミがちぎれるほどの力で拘束を脱し、海面に向かおうとする。その瞬間、ハインは魔物Aに向けて魔弾を放つ。ハインからの攻撃を認識し切れず、魔物Aは思わず動きを止めた。
方向転換しようとした魔物Aだったが、ハインの援護によってエーレンは魔物Aと突撃し、接近を許した対象へ斬りかかる。岩の下の剥き身の状態をさらけ出していた魔物Aは、あえなくエーレンの刃を受けて寸断された。
一太刀で魔物Aを斬り伏せたエーレンは、
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。恨みはないが、狩らせてもらうぞ」
その宣言通り、躊躇なく魔物Bへの突撃を開始した。岩の下からはみ出ている魔物Bの脚の一部を、エーレンは即座に斬り離す。後退する間もなく、魔物Bは猛攻にさらされる。ハインやЯ・E・Dは、離れた距離から魔物Bに対し追撃を行う。
エーレンらが前線で魔物を引きつける一方で、Я・E・Dは岩をも貫く魔力を引き出す。砲撃と化す魔力を放つЯ・E・Dの援護は、接近戦に望む者らを強力にサポートした。
ある程度の硬さを備えているものの、魔物らはイレギュラーズの連携の取れた動きについていけず、尽(ことご)く食材になる運命をたどっていく。
イレギュラーズは順調に浜辺の掃除を果たしていき、浜辺の隅に固まっている、残された5体に狙いを定めた。その5体は、すでに海面へと移動を始めていた。大きな岩や船体の残骸を背負ったままの鈍重な動きで横移動しつつ、その触覚はいずれもイレギュラーズを警戒するように向けられている。
魔物らを間合に捉える前に、イレギュラーズに向けて次々と砂のレーザーが吐き出される。このまま砂に埋もれそうなほどの攻撃にさらされ、大量の砂が舞う中、その糸は正確に魔物Cのある部分に向けて伸ばされた。
魔物Cが背負う船体の残骸──かつては帆を張っていたはずの柱部分に巻き付けられた糸は、瞬時にアオゾラの体を手繰り寄せた。分厚い砂の幕から宙へと飛び出すようにして、魔物Cの真上に現れたアオゾラは、縦横無尽に糸を張り巡らせる。アオゾラが着地するまでのわずかな間にも、魔物Cの船体には無数の切創が刻まれた。
魔物らがアオゾラの動きに気を取られる間にも、攻撃を凌いだ他の者も即座に加勢する態勢を整える。
反撃に出たЯ・E・Dは、魔物らの足元の砂地を吹き飛ばすほどの魔力を一気に放った。その勢いに押される魔物らに向けて、イレギュラーズは攻撃を畳みかける。
激しい攻勢に出る者らを後押しするために、ナイジェルもえくれあと共に支援に乗り出す。
ナイジェルを中心にして神々しい輝きが発散され、光に包まれる者の傷を癒していく。
えくれあは魔物の攻撃にもめげず、皆の支援に徹する。
「あともう少し! みんなにはぼくがついてるよー!」
えくれあはその愛らしい歌声に癒しの力を込め、負傷した者の治癒を促進させる能力を発揮する。
イレギュラーズに接近を許した魔物らは、海面に向かうことを優先し、少しずつ距離を詰めていく。重い宿を背負って必死に移動するが、歩いても充分に追いつける速さだ。イレギュラーズから逃れることは、到底不可能だろう。
魔物Cへ距離を詰めたヴェルミリオは、飛び出すハサミの動きに注意を向けた。
ヴェルミリオが放つ糸が魔物Cの片方のハサミを巻き取ったことで、エーレンやレーカは魔物Cを迅速に間合いに捉える。
自身の周囲に障壁を展開すると同時に、レーカは魔物Cの体に激しく衝突した。その衝撃によって、魔物Cの体は大きく傾く。ひっくり返る寸前の魔物Cに向けて、ほんのわずかな間にその刃は迫った。魔物Cを斬り上げるエーレンの刃は深々とその腹部をなぞり、吹き飛ばされた魔物Cはそのまま動かなくなる。
懸命に逃げ出そうとする他の魔物の攻撃は続き、時間を稼ごうとするように連続で砂のレーザーが打ち出される。
イレギュラーズを圧倒しようとする魔物らの攻撃に対し、ハインの魔弾が襲いかかる。援護に臨むハインは、戦場全体を把握し続け、海面に向かおうとする魔物への足止めを繰り返した。
ハインの援護やあらゆる能力による妨害によって、魔物らは多くの動きを制限される。いくつもの岩の欠片がバラバラと砕け散り、イレギュラーズの攻撃は苛烈さを増していった。
残る2体は最後の抵抗を試みるように、岩の中に閉じ込もる。
「さあさあ、恥ずかしがらずに出てきてください!」
そう言って、ヴェルミリオは地中に向けて無数の糸を放ち、閉じ込もる魔物Dの真下からその糸を出現させた。
魔物Dの岩はぐらつき、引きずり出そうとするヴェルミリオの糸に対し抵抗を続ける。更にЯ・E・Dの放つ魔力によって、岩には大きな風穴を空けられる。Я・E・Dの一撃は魔物Dの岩を貫通し、魔物Eの岩にまでその衝撃が達した。
一瞬で魔物Dの至近距離に迫ったレーカは、勢いに乗って魔物Dの岩を突き破る。
崩された岩の下で魔物Dはもがく様子を見せたが──。
「塩茹でになってもらうデス!」
アオゾラはその一言を皮切りに、魔物Dに向けて連続で波動を放った。アオゾラの攻撃は魔物Dの体を鋭く切り裂き、瞬く間にヤドカリの切り身ができあがる。
最後の1体となっても、イレギュラーズは激しい攻勢を貫き、徹底的に魔物Eへ攻めかかる。魔物Eはその勢いに圧倒され、岩の中に閉じこもっていたが、ゆっくりと海に向かって動き始めた。
まだ逃げ出すことをあきらめていない魔物Eに迫ったエーレンは、その刃を鋭く振り抜いた。エーレンの放った一太刀によって、魔物Eの岩には大きな亀裂が生じる。
魔物Eの生身の体が、大きく生じた隙間から覗く。即座に構えたナイジェルは魔光を射出し、確実に魔物Dの急所を捉えて撃ち抜いた。
アウグスタは魔物の討伐を終えたイレギュラーズを出迎え、想像以上に砂まみれになった一同の姿を見て苦笑した。
「そのままではいけませんわね」とつぶやいたアウグスタは、すでにイレギュラーズのために大浴場の準備を整えていた。
洗濯した砂まみれの服が乾くまでの代わりにと、アウグスタは人数分のバスローブまで用意していた。観光地でも貸し出すものらしく、胸元にはサン=シール領の刻印が刺繍されている。
イレギュラーズの働きを労うお茶会は、海側に面した広いバルコニーで開かれた。用意されたテーブルの上に並べられた色鮮やかな氷菓は、まさしく話題に上っていた紅茶の氷菓で間違いなかった。紅茶といえば茶色のものをイメージしていたが、その中には鮮やかな赤や青色のものも見られる。
えくれあは真っ先に用意された席に着き、無邪気に表情を輝かせながら言った。
「すごーい! 見た目もお花の形で、すごくきれい!」
えくれあの反応を見たアウグスタは、誇らしげな様子で語る。
「地元の菓子職人に依頼して作らせましたの。味も皆様のお墨付きを頂けたら嬉しいですわ」
すすめられた練乳や花蜜をかけてひと口食べれば、アウグスタの自信に満ちた表情にも納得の味が感じられる。
練乳やシロップの甘みが程良い紅茶の渋みとマッチし、シャクシャクとした氷の食感にも夢中になれる一品である。
「これで海水浴場の整備も進められる感じかなぁ? この氷菓も観光地の目玉として完璧だね」
Я・E・Dは「こんな好待遇な依頼ばかりだったらいいんだけどねぇ」と心中でつぶやきつつ、アウグスタのもてなしを受けて存分にくつろいでいた。
「この一杯のために働いている……というやつですな!」
美味な氷菓に舌鼓を打つヴェルミリオは、改めてアウグスタに感謝を示す。
「――お誘いいただきまして感謝いたします、サン=シール夫人」
ヴェルミリオのそばでじっくりと氷菓を味わうアオゾラはつぶやく。
「見た目も綺麗で、食べてもおいしいデス」
練乳をたっぷり贅沢にかけて味わうひと口に、アオゾラの表情は綻んだ。
「氷菓もいただけて、お土産もいっぱいで満足デス」
アオゾラが言うお土産が何を指しているのか、レーカはすぐに察した。大量のヤドカリ――魔物の切り身を厨房に預け、下処理を頼んでおいたのだ。「大味でも、酒のアテにはなるだろう」と、レーカも土産のことを考える。
「海水浴は身体が火照る。甘い氷菓は身体を冷やすにも、エネルギーを補給するにもいい。いいアイデアだな……」
氷菓を称賛するエーレンに対し、アウグスタは満足そうに微笑んだ。
一方で、ハインはバルコニーの端で海を眺めながら、氷菓を味わっていた。
「これが、レジャーというものなのですね」
にぎやかに氷菓を食べる皆の様子を一瞥し、ハインはつぶやいた。
――やっぱり、食べ物の味はよくわかりませんが、さざ波の音を耳にしながら何かを咀嚼するというのは、存外に気分が良いです。
海の方に視線を戻そうとしたハインだったが、ふとナイジェルの姿に視線を向けた。
バルコニーの手すりに寄りかかり、ナイジェルは遠巻きにアウグスタたちの様子を眺めていた。お茶会を楽しむ一同とは裏腹に、ナイジェルの表情はどこか曇っていた。
――彼女の聡明さならば状況証拠から私の正体に気付いていてもおかしくない。
笑顔を見せるアウグスタに背を向け、ナイジェルは1人海を眺め始めた。
ナイジェルは、サン=シール領の領主についてよく知っていた。その領主が仮病を使い、アウグスタに領主代行の仕事を押し付けているに違いないことも。
――私が彼女の下を去らなければ、代わってやることはできずとも、せめて支えとなることはできていただろう。
アウグスタに強い負い目を感じているナイジェルだが、その口から真実を語ろうとはしない。
――それをせず、私は贖罪などという自己満足のために正体を隠して牧師の真似事をやっているのだ。
許されることではないと自責の念に駆られるナイジェル。その横顔に視線を向けていたハインは、「海が綺麗ですね」と言ってナイジェルの横に並んだ。どこか上の空だったナイジェルだが、ハインの存在に気づき言葉を返す。
「ああ、綺麗だな」
アウグスタは何気ない様子でお茶会に興じていたが、ガラス扉に反射して映るナイジェルの姿をこっそり盗み見る。
アウグスタは人知れず、ナイジェルに対してつぶやいた。
「記憶が曇ろうとも、わたくしを誤魔化せるなどと思わないことです」
――わたくしはあなたの妻、サン=シール夫人なのですから。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
GMコメント
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●成功条件
巨大なヤドカリ型の魔物×20体のせん滅。
●戦闘場所について
広々とした海水浴場。魔物の群れの出現によって、現在は封鎖されている。
浜辺の各所に岩や船の残骸が点在し、魔物はそれらに擬態している。
晴れ晴れとした陽気だが、海水浴に適した気温というにはまだはやい。競技用っぽい水着ならサン=シール側で用意してもらえる。(もちろん自前でも可)
●魔物について
全長およそ2メートルのヤドカリの怪物。
移動する動きは非常に鈍いが、背負った外殻の下から飛び出す攻撃、高速フック(物至単)の勢いは凄まじい。また、砂をレーザーのように吐き出す(物中貫)ことで対象を狙う。
魔物の外殻が破壊されて丸裸になった場合、回避能力が飛躍的に向上し、戦闘を放棄して高速で逃げ出そうとする。麻痺や足止め系列のBSが有効である。
海底に逃げ出した場合、水中で力を発揮できる者ならば追尾可能だろう。
●アウグスタからの誘い
依頼完遂後、アウグスタからお茶会に誘われています。おいしい氷菓をごちそうしてくれるようです。
個性豊かなイレギュラーズの皆さんの参加をお待ちしています。
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