シナリオ詳細
夜な夜なドライブ。或いは、出発“飛馬羅矢愚連隊”…。
オープニング
●夜な夜なの騒音
練達。
再現性東京のとある環状自動車道。
日夜、数多の車が走るその場所を、夜な夜な騒がす者たちがいた。
彼らは一様に紅いライダースーツを纏い、白いマフラーを風に躍らせ、バイクを駆るのだ。
走る車と車の間を潜り抜け。
ただただ、速度を増して走り続ける。
目的なんて無い。
走ることが気持ちいいのだ。
風より速く、速度を増すのが快感なのだ。
「この世界には俺らよりもまだまだ速いバイク乗りがいるって話だ。だが、俺たちだって負けてねぇ!」
先頭を走る小柄な男が、風に負けじと吠え猛る。
後ろに続く、都合30人の集団は男の声に応えるように雄叫びをあげた。
彼らが目標とするのは、ある1人のバイク乗り。
若い女性であることと、派手な色の髪をしていること以外は一切不明という謎の存在だ。
「さぁ、かっ飛ばそうぜ! “飛馬羅矢愚連隊”のパレードだ!」
そう叫ぶと、先頭を走る男はバイクの速度をあげる。
後続の30人も、エンジンを唸らせた。
タイヤがアスファルトを斬りつける。
排気ガスと、白いマフラーをたなびかせ……男たちは、夜の闇を切り裂き走る。
疾く疾く……何より疾く。
彼らは知らない。
彼らのリーダー“飛馬”の心に、1匹の夜妖が住みついていることを。
●飛馬羅矢愚連隊
「皆さん……バイクは厄介なのです」
そう呟いた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の顔色は悪い。
バイクに何か良くない思い出でもあるのかもしれない。
「まずはこちらを見るのです」
ユリーカがモニターに映した映像には、夜の道路を猛スピードで駆け抜けるバイカーたちの姿があった。
通常のバイクでは出せない速度は、徹底したチューンナップによるものか、或いは飛馬に取り憑いた夜妖の影響によるものか。
「バイクに跳ねられれば【飛】【必殺】【致命】を、掠めただけでも【ブレイク】ぐらいは受けそうなのです」
加えて、飛馬たちは何らかの夜妖の影響下にある。
猛スピードで走るバイクを乗りこなすために、幾らかの精神的、身体的な影響を受けていることが予想された。例えばそれは【怒り】や【恍惚】といった異常を受けず、ただ速度のみを追い求めるという類のものであることを、ユリーカは予想していた。
「飛馬さんは元々喧嘩が強かったみたいです。でも、夜妖に憑かれて以降は、さらなる力を手に入れたみたいです」
そして、飛馬に連なる隊員たちも、一般人を幾らか超える膂力やタフネスを得ているらしい。
その身体能力の向上こそが“飛馬羅矢愚連隊”が今をもって野放しになっている理由であった。
つまり、警察程度では彼らの暴走を止められないのだ。
公にはされていないが、以前、彼らを検挙しようとした一部隊が抗争の末に撤退へ追い込まれたこともあるという。
「暴走を続ける彼らに追いつくのは至難の業なのです。でも、チャンスが無いわけではありません」
例えば、無人のパーキング。
例えば、自動車道を降りたところにある廃工場。
例えば、自動車道を抜けた先にある港。
それらは“飛馬羅矢愚連隊”のたまり場になっているという。
「いずれかに追い込むことが出来れば、少しは仕事もしやすくなるかもしれないです。ただ……」
問題があるとすれば、それは飛馬に憑いた夜妖の存在だろうか。
普段は飛馬の心の奥深くに潜んでおり、少しずつ周囲に影響を及ぼし続けるという性質をもっているようだ。
当然、人前に姿を現すことは無い。
「何らかの方法で飛馬さんに“負け”を認めさせないと、夜妖には手が届かないです」
と、そう言って。
ユリーカは深いため息を零した。
- 夜な夜なドライブ。或いは、出発“飛馬羅矢愚連隊”…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年06月15日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●飛馬羅矢愚連隊、疾る
真夜中の環状自動車道。
列を為して走る車の間を、風の群れがすり抜ける。
揃いの紅いライダースーツに、闇夜に泳ぐ白いマフラー。
エンジンを唸らせ、タイヤで地面を切りさいて……。
飛馬羅矢愚連隊。
“速さ”に憑かれた男たちは、今宵も一迅の風になる。
目的地のない疾走。
走って、走って、走り疲れたら巣に戻る。
男とはそう言うものだ。
巣とはつまり、たまり場にしている廃工場か、広い海が一望できる港のことを指す。
ひと走りの締めくくりは警察組織との追いかけっことなるのが常だ。しかし、その夜は様子が違った。
「おい、なんか今夜は自棄に走りやすいな!」
「あぁ、車がいねぇからだろ!」
エンジン音に負けぬよう、大声を張り上げ男たちが言葉を交わす。
手下たちのそんな会話を耳にして、リーダーである飛馬は脳裏に疑問を過らせる。
「……おい。なんで車がいねぇんだ? 田舎道じゃあるまいし、ここでそんなことがあるのか?」
異変を感じた飛馬が、思わず周囲を見回した。
視界の端に、白い肌の女の姿が……『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)の姿が見えた気がしたが、すぐにそれは見えなくなった。
不気味な夜だ。
胸の奥で、何かがざわつく。
暫く前から、飛馬の感じている違和感。胸の中に、自分ではない何かが住みついているかのような感覚。
少しずつ、ざわつきが大きくなっている。
何かが来る。
そう感じた、刹那……。
「うぉ、何だ!?」
背後で1つ、悲鳴があがる。
次いで、静かなエンジンの音。
まるで影から滲み出て来たように……静かに、速く、1台のバイクが飛馬に並ぶ。
黒いライダースーツに黒いヘルメット。背は高いが、その体格からライダーの性別が女性であることが分かる。
ライダー……『再現性首都高ミッドナイトバトル 優勝』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)は、無言のままアクセルを空けた。
瞬間、彼女の駆るバイクが飛馬よりも前に出た。
それはつまり、飛馬への……飛馬羅矢愚連隊への挑戦に他ならない。
パーキングエリアに停車しているバイクは3台。
目の前を飛馬羅矢愚連隊が通過していく。
モカは既に、飛馬と接触したようだ。
港にまで誘い込んで勝負を挑むつもりだったが、どうやら飛馬はすっかりモカにノせられたらしい。
「よし。俺たちも行くか……てめぇら、ブッ込んでいこうぜ四露死苦!」
様になった号令だ。
『無限ライダー2号』鵜来巣 冥夜(p3p008218)がマシンのアクセルを全開に開ける。
エンジンが唸る。
空転するタイヤがアスファルトを削る。
昔取った杵柄か。
愛機の制御は完璧だった。
1台、2台、3台……次々と見知らぬバイクが増える。
はじめに現れた女を含め、女が2人、男が2人。
『マイクロビキニを着てローションまみれになった』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)と『フラッチェ』ヴュルガー(p3p010434)に割り込まれ、飛馬は手下たちから孤立している。
否、問題ない。
4人とも、飛馬にも劣らぬライダーだ。
マシンの性能に物を言わせて、スピードを出すことしかできない手下たちでは相手にならない。
それでも必死に追いかけて来ているが、飛馬に対する忠誠心の為せる業か、それとも負けん気に火がついたのか。
どうでもいい。
どうせ手下たちは追いついて来られない。
「だが、俺は手下どもとはわけが違うぜ」
常勝無敗。
かつて見た、憧れの女に逢うまでは決して負けぬと己自身と約束したのだ。
月のきれいな夜だった。
波のざわめき、遠くで聞こえるエンジンの音。
暗い海に波がさざめく。
「一般車も行き交う道路を暴走するなんて危険極まりないね。彼等がサーキットに行ったところで同じだろう」
係船柱(港で片足を乗せるあれ)に腰を下ろして『氷狼の誓い』リーディア・ノイ・ヴォルク(p3p008298)は視線を後ろへ。
港の入り口付近に立った『( ‘ᾥ’ )』リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)と『友人/死神』フロイント ハイン(p3p010570)は、ライダーたちの到着を今か今かと待っている。
2人の手には、クラッカーとゴールテープ。
なるほど、これならだれが勝者か分かりやすいか。
「首尾は?」
リーディアは暗がりへ向けてそう問うた。
「上々です。鮫島建設の協力もありますし、連中はここに辿り着くまで環状から降りられません。後は……善きリズム。善き躍動にて。皆様の想いの儘に」
音もなく、暗がりから現れたアッシュが応えを返す。
モカ、ミルヴィ、冥夜、ヴュルガーの4人は今頃、飛馬とレース中だろうか。
勝敗がどうなるにせよ、そう遠くないうちに一行は港に着くはずだ。
溜め息を1つ。
リーディアは、ライフル銃を手に取った。
●夜に走る
テールランプが、黒に赤い線を引く。
スピードが音を置き去りにした。
心臓の鼓動だけが妙に煩い。
ドクン、とひとつ跳ねる度に心臓から全身の血管へと熱い血潮が送り込まれる。
意識が研ぎ澄まされ、バイクと自身が一体となるような奇妙な感覚に包まれた。
幾つもの夜を超えて来た。
しかし、今日ほど胸の躍る日は無かった。
過去最速。
昨日の自分よりも、今日の自分の方が速いという実感があった。
それでも、少し前を走る女に追いつけない。
急なカーブに差し掛かる。
するり、と滑るような走りでモカがカーブを抜けていく。
飛馬はほんの一瞬、ブレーキをかけた。
刹那の減速。
外へ大きく膨らみかけた車体を、体重移動で強引にインコースへと送り込む。
極限まで無駄を削れ。
一等冴えたタイミングでアクセルを開け。
カーブを抜ける直前に加速しろ。
今日の自分ならそれが出来る。
ハンドルを握る手に力を込めた。
瞬間、肩に何かが掠めた。
虫か、風か……否、夜に一条、テールランプのラインを描いてミルヴィが駆け抜けていったのだ。
「っ……タイミングを外された」
「ふっふー、コーナリングは得意なんだよネ♪」
軽々とした女の声が耳に届いた。
走り抜けていくミルヴィを追って、一拍遅れて速度をあげた。
接戦。
飛馬羅矢愚連隊の者たちにとって、それは初めて見る光景だ。
飛馬の本気。
それに勝るとも劣らないライダーが2人。
「てめぇら、大将を援護しろ!」
「おぉ! 野郎、どこのチームか知らねぇが道路に叩き落してやらぁ!」
怒声をあげる男たち。
ポケットの中をまさぐって、携帯端末や財布、携行していたナイフなどを取り出した。
ミルヴィやモカへ向けて、それを投げつけるつもりなのだ。
高速の世界では、僅かな軌道のズレが致命傷となる。
例えば、猛スピードで回転するタイヤが拳サイズの石に乗り上げたとしよう。
たったそれだけで、バイクは事故を起こすのだ。
当然、乗っているライダーも無事では済まない。
1人。
先頭を走っていた若い男が、刃を出したナイフを投げた。
銃声が響く。
投擲されたナイフに弾丸が命中。
砕け散ったそれが、道路に散らばる。
「ら、ライフル……本物か!」
「見てただろ。あいつ、やべぇって!」
たった1つの銃声が。
たった1発の銃弾が。
男たちを動揺させた。
ライフルを片手に構えたまま、ヴュルガーは飛馬羅矢愚連隊の前へと移動。
隣に並んだ冥夜が、ヘルメットを脱ぎ捨て背後を振り返る。
「おめぇら、頭の勝負に水さす様な真似してんじゃねぇぞ! 邪魔立てするってんなら、この『遮尼奈異斗(しゃーまないと)』の元頭、冥夜様が相手てしてやらァ!」
日頃の怜悧をかなぐり捨てて、激情のままに冥夜は叫んだ。
ざわり、と。
エンジン音にも負けぬほどに、男たちがざわついた。
「遮尼奈異斗って……おい、マジか」
「なんだって遮尼奈異斗の頭がこんなところに。引退したって聞いたぞ!」
「ヤクザになったんじゃねぇのか? ってことは、この勝負はヤクザ絡みか?」
「ヤクザ? 土建屋じゃなかったか?」
「馬鹿野郎。冥夜さんはホストだろうが!」
情報はどうやら錯綜しているようである。
最も、冥夜の声は男たちの心にしかと響いたらしい。
言葉でなく、心で理解したのだ。
「我らに必要なのは"技術"ではない! "覚悟"でしょう!」
ヴュルガーが告げる。
いつだって、男が高みにあがる瞬間は、胸に1つの“覚悟”を決めた時なのだから。
今、高みへと昇ろうとしている飛馬を、誰が止められるだろうか。
走りは荒い。
筋はいいが、経験が足りない。
「ただただ速さのみを求めるのも……若さ、ゆえか」
ミラーに映った飛馬を見て、モカはくすりと笑みを零す。
「そんなに“不運”(ファンブル)と“踊”(ダンス)りたいか。ならば私がお膳立てをしてあげよう」
アクセルを開ける。
上体を前へと倒す。
ここにきてモカは、もう1段階、速度をあげた。
アクセルは全開だ。
エンジンだって焼き切れる寸前だろう。
けれど、追いつけない。
どれだけ速度を上げても、目の前を走る女には手が届かない。
数メートル。
たったそれだけの距離が、どうしてか縮められないでいた。
「もうすぐ……港か」
チームの皆と夜通し走って、何度も港で朝日が昇る瞬間を見た。
その度に飛馬羅矢愚連隊の絆を感じた。
社会のはみだしものばかり。
自分も、子分たちも、人に迷惑をかけねば生きていけぬ連中だ。
社会のどこにも居場所のない飛馬たちにとって、この世界はとにかく息苦しい。
しかし、バイクに乗っている間だけは、スピードの果てに昇る朝日を眺めている時間だけは、気分が晴れやかだった。
「負けらんねぇ」
誰よりも速く。
昇る朝日を背に、かつて手下たちにそう約束したはずだ。
「……あ」
ほんの一瞬。
胸が痛んで意識が跳んだ。
気づけばバイクが傾いている。
スピードが付き過ぎた。
このままだと転倒する。
否、もはや操縦が追い付かない。
転倒は確実だろう。
そして、転倒すれば大怪我は免れない。
最悪は命を落とすだろうか。
あんまりだ。
こんな決着は望んでいない。
だが、飛馬にはもうどうしようもなかった。
浮遊感。
冷たい風が頬を撫でる。
時間の流れがひどくゆっくりに感じて……。
「まったく、世話が焼けるにゃぁ」
横に並んだミルヴィが、飛馬の身体を押し戻す。
代わりに、ミルヴィのバイクが地面を滑った。投げ出されたミルヴィが、アスファルトの上を転がっていく。
ブレーキを握る手に力がこもる。
刹那……。
「前だけ向いてろ! 男をあげろ! アクセル開けて“特攻”めや!」
冥夜の怒声が背中を打った。
次いで、手下たちの声援。
負けられない、と。
胸の奥で、自分の知らぬ誰かが囁く声がした。
モカのバイクがゴールテープを2つに切った。
アスファルトに跡を残しながら、モカは車体を滑らせ止まる。
数秒遅れて港に辿り着いた飛馬は、バイクを止めてヘルメットを脱ぎ捨てる。髪から滴る汗の雫に、げっそりとこけた頬。
まるで幽鬼のような様だが、その瞳には確かな熱が、意思がある。
スピード勝負は飛馬の負けだ。
彼の意思がどうであれ、本能が“敗北”を認めたのだろう。
ざわり、と。
飛馬の身体から影が滲んだ。
引き剥がされまいと、必死に飛馬の心にしがみついているのだ。
「夜妖ですね。出発(デッパツ)と行きましょうか」
氷の槍を手にもって、アッシュが1歩前へ出た。
そんな彼女を、モカが片手で制止する。
「総長! 勝負の結果は!」
「勝ったんっすよね! 総長! そう……おい、何だありゃ?」
「影? 総長の様子がおかしいぞ!」
次々と港に乗り込んでくる男たち。
バイクを止めて、飛馬の元へ駆け寄ろうとする彼らの前に2人の少女が立ちはだかった。
「お初にお目にかかります。ボクはフロイント ハインと申す者です」
「あ? なんだこの餓鬼?」
「そう剣呑に構えずとも、潮風が心地良いこんな日に、無粋な真似をするつもりはありません」
「あおーん! 今日のボク達は公正で可憐なレフェリーだよ!」
夜の港に似つかわしくない2人の姿に、男たちは訝しむ。
思わず足を止めた男たちを前に、ハインとリコリスは微笑んでみせた。
その態度から男たちは1つの答えに辿り着く。
先のスピード勝負も、飛馬の身に起きている異変も……きっと予定調和の一幕なのだ。
少なくとも、彼女たちにとっては。
「レフェリーって、何のだよ? ってか、その耳ぁ飾りか? 犬……狼か?」
若い男がそう問うた。
リコリスはそんな彼の前に迫ると、にこりと微笑み言葉を返す。
「ボクを狼扱いしてくれた人には、特別に尻尾をモフる権利をあげちゃうよ!」
「……いらねぇ。それより、どういう状況だ? 説明がねぇなら」
「分かんないかな? まだ勝負は終わってないってことだよ」
なんて。
笑みを消したリコリスは、淡々と言葉を吐いたのだった。
●夜明け前に
「俺ぁ……喧嘩も強いんだ」
口の端から唾液を垂らし、呟くように飛馬は言う。
目の焦点が合っていない。
その精神は、夜妖に汚染されているのだろう。
「もう勝負はついたはず。あまり調子に乗りますと……バラ肉にして差し上げますよ」
「まぁ待てアッシュさん。いいよ、殴り合おう」
アッシュを制止し、モカは両手の指を鳴らした。
「勝者の余裕ですか?」
「いや、オトナの余裕ってやつだ」
「というわけで、どうぞご観覧ください。アナタ達のリーダー、飛馬さんと一対一(サシ)で勝負をするのは、モカさんです」
「おい、レフェリーったってあんたらは俺らの敵だろうが。審判役なんぞ任せられるか!」
総長の異変を見て取って、男たちは焦り始めた。
きっと、飛馬の身が心配なのだろう。
荒くれ者の集まりとはいえ、仲間同士の絆というものはある。
きっと、暴走族もイレギュラーズも、そこに何の差もないはずだ。
「安心してよ、仁義を通す無頼者同士ならわかるはずさ。不正な審判で得た勝利という汚名を、味方に着せる様なことは有ってはならないってことをね!」
「信義に賭けて誓いましょう。ボク達がモカさんに甘い審判をすることは決してありません」
憤る男たちを押し留め、リコリスとハインは“公平”を誓った。
その眼差しに射られた男たちは足を止める。
2人の“覚悟”を、その瞳から見て取ったのだ。
勝負は一瞬。
されど、一撃にあらず。
モカと飛馬は同時に地面を蹴って駆け出す。
2人が肉薄した刹那、肉を打つ鈍い音が響いた。
絶え間なく、何度も、何度も。
その度に飛馬の身体は震え、白目を剥いて空を仰いだ。
勝敗は、誰の目にも明らかだ。
宿主の完全敗北。
もはや夜妖が飛馬の身にしがみつくことは叶わない。
影の集合体とも言うべき異形が、飛馬の胸から飛び出した。それは夜の闇に溶けるように、徐々に周囲に霧散していく。
他人の心を喰らわねば、他人の身に潜まねば、十全に力を発揮できない類の夜妖だ。
性質は厄介極まりないが、本体を晒してしまえば恐れるほどのことはない。
しゅるり、と。
夜妖の手足をアッシュの気糸が拘束した。
次いで、渇いた銃声が1つ。
「――氷の狼の遠吠えを聞くがいい」
リーディアの放った弾丸が、夜妖の眉間を撃ち抜いた。
あっさりと。
悲鳴の1つもあげないままに、夜妖が霧散する。
「さて……君達がしてきた行為は、人の命を奪いかねない事だ。殺されたくなければ頭に叩き込んでおくんだね」
銃口を下げたリーディアは、茫然とする男たちへとそう告げた。
返答はない。
しかし、この夜の出来事を彼らは生涯忘れまい。
ならば、今はそれでいい。
「夜妖、お前の満足の出来る走りはできたかよ? ドライブに行く時、時々お前を思い出して走ってやるよ。それが走り屋なりの手向けってやつだ」
なんて。
東の空に昇り始めた朝日を見やり、冥夜はそう呟いた。
空が白い。
「俺は負けたのか」
目を覚ました飛馬が、掠れた声でそう呟いた。
「意識せずと言えども、あんな物の力を借りて"本物"になれるわけはないでしょう」
独り言のつもりだったが、意に反して誰かの言葉が耳に届く。
痛む首を傾けて、声のした方へと視線を向けた。
そこにいたのはヴュルガーだった。
彼に支えられるようにして、血塗れ、傷だらけのミルヴィの姿もある。
姿が見えないと思ったが、転倒したミルヴィの回収に向かっていたらしい。
生きていたのか。
よかった、と。
思わず安堵の吐息を零した。
「あ、アタシがしっかりしろって言う筋合いもないし……でっかいお世話を承知で言わせて貰うよ」
痛みに震える声でミルヴィは言葉を紡ぐ。
「……なんだ?」
敗者には、勝者の声に耳を傾ける義務がある。
「……何より早く走るんだったらもっといい世界があるよ。誰かに憧れて探し求めるより向こうから会いたくなるオトコになってごらんよ?」
アンタの本当に目指したいものは何?
ミルヴィの告げたその一言は、この先ずっと、飛馬の胸に残り続ける。
速さで負けて、喧嘩で負けて。
それでも胸に燻る熱の根源は、果たして……。
彼がその答えに辿り着くのは、きっと先のことになる。
だからそれは。
今はまだ、誰も知らない、1人の男の物語。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
夜妖は討たれ、飛馬は男を上げました。
依頼は成功となります。
この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
●余談
バイクの事故には皆さまも重々お気を付けください。
私はかつてモンキーで遊んでいて、膝を深く削りました。
ギアチェンすると車体が跳ねるような小さいバイクをなぜ設計したのか……。
GMコメント
●ミッション
“飛馬羅矢愚連隊”に憑いた夜妖の討伐。
●ターゲット
・飛馬
“飛馬羅矢愚連隊”の総長を務める男性。
年齢は23歳。
小柄だが腕っぷしが強く、“飛馬羅矢愚連隊”を結成する以前から荒くれ者として知られていた。
現在は夜妖に憑かれたことで、身体能力も格段に上昇しているようだ。
飛馬に憑いた夜妖は、飛馬が“負け”を認めることで現出する模様。
飛馬の攻撃には【必殺】【致命】が付与される。
・“飛馬羅矢愚連隊”
飛馬に従う30人のバイク乗りたち。
夜妖の影響を幾らか受けているようで、飛馬ほどではないが身体能力が向上している。
彼らの攻撃には【ブレイク】が付与される。
※飛馬および“飛馬羅矢愚連隊”は【怒り】【恍惚】の影響を受けないようだ。
特攻(ブッコミ):物遠単に特大ダメージ、必殺、致命、飛
バイクによる特攻。かなりの猛スピードだが、操縦者にも大きなダメージが入る。彼らはそれを「“不運”と“踊”った」と呼んでいる。
上等(ジョートー):物近単に中ダメージ、ブレイク
要するに急接近からの殴打である。彼らはそれを「“上等”をかます」と呼んでいる。
●フィールド
再現性東京。
夜の環状自動車道。
当然ながら、普通の自動車も多く走行している。
自動車道の途中には幾つかのパーキングエリアが存在する。他の自動車が侵入してくることもあるが、最も自動車道から近い。
自動車道を降りた場所には廃工場。“飛馬羅矢愚連隊”の集会所の1つで、治安が良くないためか人の通りはほとんど無い。
自動車道をひた走ると、やがて港へ出る道がある。海は広いし、潮風が気持ちいい。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
Tweet