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シナリオ詳細

【月夜の華】いずれ蝶になるとしても

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

・生まれ変わる、その時

 華国。それは牡丹の香りの漂う常夜の国。月と星ばかりが空に浮かぶ、死者の国と隣り合った場所。

「ここの場所とも、もう、さようならね」

 池のほとりに佇むのは、鬼、つまり死霊だった。彼女は水の中に揺蕩う満月を眺めながら、ほうと息を吐く。

 この世界では、魂は生まれ変わる。生を与えられては死に、鬼となって時間を過ごし、再び人に生まれ落とされる。
 満月の夜に、鬼は蝶に変わる。そうして、新たな命へと変わるのだ。だけど、生まれ変わったときには、一人の人間として生きた記憶も、鬼として過ごした記憶も全てなくなってしまう。

「分かっていたのよ。ただ、少し寂しいだけ」

 鬼になってからのことも含めると、それなりに人生は長かった。大切なひともできたし、思い出の場所もできた。だから、その記憶が失われてしまうのは、ひどく虚しいのだ。

 蝶に変わることを、恐れているわけではない。この世の理なのだから、逆らったところでどうにもならない。ただ、気持ちの整理ができていないだけなのだ。

「誰か、話し相手になってくれる人がいたらいいのだけれど」

 ぽつりと呟いた女の手足は、ほんのりと金色の粒子に包まれている。蝶に変わりはじめているのだ。

 この池には、最期の思い出に浸ろうとする者たちが数多く集う。生きた間のこと、鬼になってからのことを一つひとつ思い出しながら、蝶になるまでの間をじっと耐えている。虚しさや悲しさを感じている者も一人ではなく、何人もの鬼が胸に痛みを感じているのだった。

「私たちが蝶になる、ほんの少しの間。付き合ってくれないかしら」


・蝶に変わる、一瞬

「この世界では、生まれ変わる瞬間は蝶になるらしいよ」

 蝶、綺麗だよねえ。そう呟いたのは境界案内人の雨雪だ。彼は本の表紙を指先で弄りながら、すいと視線を逸らした。

「生まれ変わるときには、それまでの記憶は全部なくなるんだ。当たり前のことだけど、それを待つのは、鬼――死霊にとっては寂しいみたいでさ」

 鬼は死者の国と華国を自由に行き来できる。だから今までの生の道行を辿ることも、思い出の場所を巡ることもできてしまう。その性質故に、生まれ変わることを知っているが故に、己が存在していた間のことを恋しく思うようだ。

「気持ちが追い付かないだけなんだ。悪さをしようとは考えていないよ、彼らは」

 満月の夜に、鬼は蝶に変わる。
 鬼が生まれ変わるまで、あと少し。その短い間、彼らに寄り添ってはくれないだろうか。

NMコメント

 こんにちは。椿叶です。
 中華風味の世界で、死者の生まれ変わりを見送る話です。「月夜の華」の四番目のお話ですが、今までのものを読んでいなくても問題ありません。

世界観:
 中華に和を混ぜたような「華」という国です。牡丹の花が年中咲き乱れているこの国は、月や星ばかりが空を支配する常夜の世界です。
 華国では、人間は死ぬと「鬼」と呼ばれる死霊になります。死者の国と華国は隣り合っており、鬼はその両方を自由に行き来することができます。
 この国では死者は生まれ変わります。新たに人として生まれる前に、鬼は蝶に姿を変え、どこかに飛んでいくようです。

目的:
 生まれ変わる直前の鬼と対話をすることです。
 鬼は生前の記憶も保持しているため、生まれ変わる前に、今までの出来事を思い出しては、虚しく思ったり、寂しく思ったりするようです。
 舞台となるこの池は、多くの者の思い出の地であったのでしょう。蝶になる前の鬼たちが足をとめ、大切な思い出を一つひとつ思い出しています。
 彼らは生まれ変わることを受け入れています。ただ、生まれ変わるときに記憶がなくなってしまうことが悲しいようです。彼らと話をすることで、彼らの気持ちを解きほぐしてあげてください。

鬼について:
 所謂死霊です。生前の姿のまま、生前の記憶を保ったまま、生まれ変わるまでの時間を過ごしている者たちです。
 人間の域を出た者たちですが、大した力は持っていません。生まれ変わるときに一度蝶になりますが、その時に今までの記憶は全て消え去ります。
 この物語に登場する鬼は皆、死や転生を受け入れていますが、記憶が消えてしまうことが虚しいようです。死者は成長をしないため、気持ちの整理がひとりではできない者も多いようです。

できること:
・鬼と対話する
・蝶を見送る


サンプルプレイング:

 そう、あなたはもうこの世からいなくなってしまうのですね。ああ、いや、また戻ってくるんでしょうけど、その時はあなたではなくなっているのですよね。
 寂しい、ですか。そうですよね。私も、今の記憶がなくなると言われたら、辛いです。
 だからせめて、今、あなたと共にいたいと思います。いいですか……?


 出会う鬼に希望があれば、特徴(性格、境遇、見た目など)をプレイングに記載していただければと思います。オープニングで台詞のあった鬼以外にも、数多くの鬼がおります。
 記載がなければこちらで出会う鬼を選ばせていただきます。
 よろしくお願いします。

  • 【月夜の華】いずれ蝶になるとしても完了
  • NM名花籠しずく
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年06月08日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

シャスラ(p3p003217)
電ノ悪神
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
紲 寿馨(p3p010459)
紲家
フロイント ハイン(p3p010570)
謳う死神

リプレイ

・夢の語り手

 風が静かに吹くたびに、水面が小さく揺れ動く。その動きに合わせて満月はちらちらと形を曖昧にし、淡い光を零していく。
 暗い中を照らす光。水辺に漂う牡丹の香り。それらの中に紛れるようにして『電ノ悪神』シャスラ(p3p003217)はゆっくりと歩いていた。池や月を見つめる鬼たちの姿を見つけて、その一人にそっと近寄る。

「ああ。ここにいてくれるのか」

 振り返ったのは、まだ若い男だった。彼はシャスラの顔をじっと眺めて、どこか安心したように表情を崩した。

「そうだとも。……すべて語るといい」

 例え心残りがあったとしても、きっと次の生で果たされるだろう。
 ただ、その時の間をたったひとりで過ごすのはきっと、悲しくも虚しくもあるだろうから。話を聞いていたいと思うのだ。

 仮面に隠れた自分の顔なら、表情を気にせずに話すことができるだろう。それがつくりものであるとはいえ、青年にとって安心するならいい。

「汝の言葉を覚えよう。長くとも短くとも、語られた生を覚えよう」

 シャスラの言葉に、良いのかとでも言うように青年が首を傾げる。そこに浮かぶ戸惑いも、どこか諦めたような様子も感じとれるから、静かに首を振ってみせた。

「ならばこそ、聞かせてくれ」

 喜びを感じた時はいつだったか。どのような出来事だったか。
 悲しいことでも良い。不満もただ聞いているつもりだ。それでこの青年の気が晴れて、次の生を歩んでいけるのなら、それで良い。

 青年は寂しそうに笑って、それからぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始めた。

「旅をしてみたかったんだ。身体が弱くて、生きている間は叶わなかったんだけど」

 彼は語る。子どもの頃から病に侵されては、何度も生死を彷徨ったこと。そうして大人になってすぐ、命を落としたこと。

「冒険したいなんて夢、持っていてもいいだろ? こんな身体でもさ」

 だから、鬼になってからようやく自由に動けるようになって、嬉しかったという。生きている間にできなかったことが、叶ったのだから。

 夢は進めば進むほど膨らんでいくから、このまま二つ目の生が失われていくのは惜しい。虚しい。青年はそう寂しそうに笑う。だけどその表情には確かに満足気なものも浮かんでいて、シャスラは思わず息を零した。

 ふと、金色の鱗粉が舞う。見れば、彼の足先の輪郭が揺れていた。

「楽しかったなあ」

 彼はもう蝶に変わってしまう。だけどその時まで、側にいようと思った。


・意味

 記憶の一つも引き継げないというのに、今ここで彼等に語り掛けたところで何か意味があるのだろうか。熱く雄弁を振るったところで、癒した鬼の心も全て無に帰すのだ。そう思いながら、『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は月の浮かぶ水面を見つめる。
 果てしない徒労だ。泣き言の一つや二つ言いたくなる。しかし、今回はそのために来たのだ。やるべきことはきちんとやるつもりだ。

 辺りを軽く見まわすと、空をぼんやりと見つめている女性が目に入った。声をかけると、彼女は静かに笑った。聞けば、生まれ変わることが少し怖いのだという。

「なぁに。記憶が消えようと、別の存在に変わろうといいじゃないか」

 ここで大人しくしているということは、ある程度は割り切れているのだろう。ならば、後はなるようになるだけだ。

「あなた、かっこいいのね」

 女性の言葉に、世界は頭をかいた。どうかな、なんて言葉を漏らす。
 あと少しで自分が自分じゃなくなるなんて状態になったら、穏やかな気持ちでいるのは難しいだろう。だから分かるとは言わないけれど、彼女の気持ちは想像できる。

 ならば、その時が来るまで駄弁るとしようか。別の事を考えていれば、気も紛れる。生まれ変わることに関する悩みも忘れられるだろう。ある種の現実逃避とも言えるが、真面目に向き合ったところで最終的に得られるものがある訳でもないのだから。

「私の話をたくさんすると、泣いてしまいそう。あなたの話を聞かせてほしいわ」

 どんな話がいいのか問うと、普段何をしているのかと尋ねられた。日常の話も、少し特別ことも、時間が許す限り聞きたいらしかった。

「ああ、そうだな。じゃあ、まずは――」

 境界図書館によく足を向けること。昨日あったこと。そんなとりとめのないことを話す。女性はその話に相槌を打ちながら聞いていて、時折寂しそうに笑った。

 話しているうちに、彼女の手足から零れる金色の粒子が、段々増えてきた。女性もそれに気が付いたようで、ありがとう、と微笑んだ。
 その表情がふわりと崩れて、人の形を無くす。やがて残ったのは鮮やかな輝きを持つ蝶で、思わず目を細めた。

 結局彼女にとって、自分との会話は意味のないものに成り果ててしまった。だけど自分にとっては、何か得られるものがあった。そういうことに、しておこう。

 徒労だけは御免だからな。そう呟きながら、世界は飛び去って行く蝶を見送った。


・好きな香り

 宴の時に出会った、二胡弾きに会おうと思ったのだ。そんなに得意な場所ではないけれど、行かないともう会えない気がした。いろいろあった華国だ。どうしているのかが心配だった。
『紲家』紲 寿馨(p3p010459)が足を踏み出すたびに、牡丹の香りが散る。水の香りの混ざる池のほとりを、一人の女性を探して歩く。すると、他の鬼と少し離れた場所から、二胡の音が聞こえてきた。

「久しぶり」

 彼女はこちらを見て、ああ、と一言呟いた。彼女は一度演奏を止め、寿馨に側に座るように促してきた。

「間に合ってよかった。今更だけど、オレは寿馨と言うんだ」

 名前を尋ねると、彼女は翠蘭と名乗った。

「あなた、寿馨っていうのね」
「実はね」

 寿馨は苦笑した。
 ひとと向き合うには名乗りは必要なことだとも教わったのだ。それに、ここまで来ておいて隠すつもりもない。

「最近いろいろあったようだけど、厄介事に巻き込まれなくて安心したよ」
「知ってたの?」
「あー、まぁね」

 思わず目を逸らすと、今度は翠蘭が苦笑した。楽しそうな表情にも見えたけれど、臆病だと思われていたら否定できなくなる。本題に入ろう。

「アンタも生まれ変わるんだな」

 翠蘭は頷いて、二胡をそっと撫でた。

「そうね。もうすぐ、私は消えるわ」
「気持ちの整理はつけられそう? よかったら話を聞くよ」

 ありがと。そう呟いた翠蘭に、微笑みを返した。

 翠蘭は、今まで色々な場所で演奏をしてきたらしい。生前は二胡弾きとして生き、鬼になってからもその音色を奏で続けたそうだ。

 一つのものに打ち込む熱意やプライドを持てるのは、ちょっと尊敬する。だから、そんな彼女の二胡が聞けなくなるのは残念だった。

「生まれ変わってもまたなんか弾いてよ」
「私、また二胡を弾けるかしら」
「手放したくないほど大切だったんだろ? 魂は覚えているもんだよ」

 自分も、彼女の音色を覚えているし、忘れられない。だから導かれるようにしてこの場所に来たのだ。

「多分、二胡も消えるの。私の魂と一緒に連れていけると思う?」
「連れて行けるさ、きっと」

 それならいいと彼女は呟き、二胡を抱きしめた。


「最後に好きな香りか花を教えてくれる?」

 自分にできるのは、調香師らしく香りを届けることだ。だから、その旅路を香りが導くように、祝福があるように願っている。

 蝋梅の香りが漂う中、二胡の音が響く。やがて音が止み、光り輝く蝶がひらりと飛び立った。


・アナタの物語

 とぷり。池の中に、満月が沈んでいるようだった。池の近くを歩きながら、『友人/死神』フロイント ハイン(p3p010570)は池のほとりに座り込む鬼たちを見つめた。

 声をかけたのは、数人の若者たちだった。身を寄せ合うように座り込んでいたものだから、何だか放っておけなかった。
 鬼に自分なりの生死観を話して聞かせ、彼等の悲哀を少しでも取り除けるようにしたい。そう思った。

「ボクは、少し前に自我と呼べるモノを獲得しました」

 ハインが語りだすと、鬼たちはしんと静まり、こちらの話にじっと耳を傾けた。

 自我らしきものを得る前の自分と、得た後の自分。それは別人だ。だからそれが獲得なのか、喪失なのか、自分では分からない。
 確かなのは、例え人が不老不死を得たとしても、「自分」であり続けたまま生きるのは不可能ということだ。

「大抵のヒトは死ぬことを、死ぬことによって『自分』が失われることを恐れます」

 死を恐れるのは、生物に備わった本能だ。それに加えて、積み上げてきたものを失うのを、人は恐れる。
 しかし、世界は変わり続けるものなのだ。「自分」に執着し、全ての変化を拒むものは、いずれ世界との繋がりも失ってしまう。

「それでは、生きているとは言えません」

 ただそこに「在る」だけ。そう伝えると、鬼たちは顔を見合わせた。

 世界の中で「自分」は、いつか終わりを迎える宿命から逃れることはできないのだ。だから彼らの生が一つ終わるのは、おかしなことではなく必然なのだ。

「ですが、『自分』の生の意味を集約した何かを、未来に残すことはできます」

 価値ある何かを生み出すこと。意味ある何かを伝えること。希望となる何かを守ること。それらは受け継がれていくものだ。力の限りそれらを行い、繋げられていくことが確信できたのなら。終わりを受け入れ、満ち足りた想いの中で消えてゆけるのではないだろうか。

「でも、何て言うか」
「思いつかなくて」

 目を伏せる鬼たちに、ハインも同じように目を伏せる。ああ、ならば。

「では、ボクがアナタたちの最期を見届けましょう」

 彼らは確かにここにいた。彼らが誰にも知られずに消え去ることは、もはやあり得ない。真っすぐに生きた彼らの物語を、自分が語り継ごう。

 ですから、どうか。良い来世を。

 安心したように笑う鬼たちの姿が、蝶に変わる。それを見送っていると、金色の輝きが手のひらの上に、静かに舞い降りてきた。

成否

成功

状態異常

なし

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