シナリオ詳細
幻想の日常風景
オープニング
●よくある話
一等星も迷子になった暗い夜更け。
とある国の山小屋。板を打ち付けた窓の隙間からオレンジ色の灯りがちらちらと揺れている。
小屋の中で蠢くのは複数の男達。自身の獲物を手に『何か』の準備をしている。ある者は鉄製の防具を丁寧に磨き、ある者は弓に弦を張り、ある者は戦斧を研ぐ。
「過去は捨てろ。抵抗するものは容赦はするな」
頬に大きな傷を持つ男は獲物の手入れをしながら静かにそう言った。男は小屋の中で陣取る位置や甲冑の装飾からもリーダー格のようである。男の呼びかけに他の者達は小さく頷く。
凶行を画策するこの者たちは、ただの山賊とは思えない質の装備を有した。それもそのはず、彼らはどこかの国の元傭兵。より安全な道を選んだのか、或いは国に居られない何らかの理由があったのかは分からない。装備に刻まれた紋章は上から削った跡があり、読み取れない。
でも――『幻想』において、こんなことは何も珍しくはない。むしろ日常茶飯事である。
●よくある依頼?
「ある筋から情報を入手したのです!」
ローレットに所属する情報屋であるユリーカ・ユリカ(p3n00002)は、イレギュラーズ達を前に熱心に説明を始めた。
曰く、どこかの国の傭兵が山賊に堕ちて幻想に流れ着いたとか。そして略奪を始めようとしていると。根城は首都メフ・メフィートの北、アーベントロート領近くの山にある放棄されたはずの小屋。狙いは恐らく麓にある果樹栽培が盛んな村。丁度収穫が終わった後で潤っているのだとか。
また事前調査により、村を襲撃するタイミングはおおよそ検討がついているとのこと。
「しかし、油断は禁物なのです!」
ユリーカは最後に付け加えた。ただの山賊と思わない方がよいと。装備もさることながら、連携などの戦闘技術は数多の戦場を生き抜いてきた百戦錬磨の傭兵そのもの。こちらも連携を意識して挑まなければ厳しい戦いになる。くれぐれも注意してほしい――のです。とのことである。
- 幻想の日常風景完了
- GM名日高ロマン
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年01月28日 21時25分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
月も星も飲み込んでしまった宵闇。
その下で、イレギュラーズ達は二組に分かれて山道を進む。目的は傭兵崩れの討伐。目指すのは山奥に寂し気に佇む小さな小屋。
●囮組
「狼さん、お願いね」
『布合わせ』那木口・葵(p3p000514)は練達上位式を行使し、ぬいぐるみの『狼』を使役。奇襲組の支援に向かわせる。
「式神とはなかなか便利なものだね」
『路傍の鉄』カザン・ストーオーディン(p3p001156)は走り去る狼のぬいぐるみを見ながら感心する。
「戦闘はできないんですけど、会話はできるんですよ。とっても可愛いんです」
葵は練達上位式を、よくぬいぐるみに使うのだ。彼女は誇らしげな笑みを見せる。
「訪問時の演技は俺に任せてくれ」
『堕ちた光』アレフ(p3p000794)はそう言うと囮組の先頭を行く。手にするランタンの灯りが、彼の端正な顔立ちを幻想的に染め上げる。相手が傭兵崩れなどではなく麗しき乙女であれば、彼の演技の虜になるだろう。
「俺は囮に聊か向いていない気がするが……まぁ旅人は千差万別……多少の怪しさは、流してくれればよいがな」
石動 グヴァラ 凱(p3p001051)はアレフに続きながら、やや自信なさげに独り言ちた。
●奇襲組
(何がそこまで追い込んだ)
『尾花栗毛』ラダ・ジグリ(p3p000271)は手にした獲物の安全装置の確認を済ませ思案する。どこの国から流れたのか。いずれにしろ――やるだけだ。そう意を結ぶと左手を挙げる。『準備完了』の合図だ。
ラダの合図を見て『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)はこくりと頷いた。彼女も既に準備が完了している。いつでも奇襲可能な状態だ。
『黒陽の君』ルシフェル・V・フェイト(p3p002084)は配置についた後、目を閉じて思案する。彼らの手を絶対に悪に染めたくない。かつての心を取り戻して欲しいと。村は絶対に襲わせない。そう決意すると静かに目を開ける。
(よいしょっと……おっと、ありがとよ)
『いっぴきおおかみ』クテイ・ヴォーガーク(p3p004437)は葵の練達上位式の支援で音もなく小屋の屋根に登りきった。狼さんの助けなしで老朽化した小屋に登ったならば、奇襲作戦は失敗していたことだろう。
●不思議な訪問者
「もし、」
アレフは小屋の扉の正面に立ち、中に向かって話しかけた。やや声のトーンを落として困っている一般人を装う算段である。
「道に迷ってしまって、難儀しております」
引っかからないか。ならば、とアレフが次の一声をかけようとした時、扉が開き中から甲冑を着込んだ若い男が姿を見せた。当然ながら警戒しているようで、小屋の中からは出てこない。
「……何の用だ?」
若い男はアレフの後ろにいる凱と葵にも気が付き、より一層訝しげに視線を送る。
「……刺客だ。射ろ」
そこに頬に大きな傷のある男、『傭兵崩れのリーダー』が現れ、凱を見るなり部下に命じた。眉一つ動かさずに。
――引くぞ。
凱は葵とアレフの腕を引き、急遽戸口から離れる――間一髪、アレフの頬を矢がかすめる。
すぐさま、小屋の戸口からは傭兵崩れの集団が次々と飛び出してくる。リーダーは最後に悠々と現れこう言った。
「お前、普通じゃないな。俺達と同じ匂いがする。或いはもっとどす黒い経験をしているかもしれん」
凱は何も言わず、手甲を身に着ける。元より覚悟は決まっていた。見破られたなら後は『やるだけ』だ。
「もう一人いたのか……鉄騎種か」
カザンを見るなり傭兵崩れのリーダーは何やら思案する。
「揃わぬ風体の集団――お前らはイレギュラーズか。ギルドはそんな奴らを寄こすのか。俺達も有名になったものだ」
自嘲気味にそう言うと、大型の戦斧を片手で軽々と持ち上げ、肩に担ぐ。
「面白い。やってる。いずれにしろ作戦前に姿を見られた場合は皆殺しにするつもりだったからな」
傭兵崩れのリーダーが左を上げると、彼の部隊は瞬く間に陣形を形成する。前衛は戦斧、槍、大剣の3人。後衛は弓が2人。ローレットの情報通りの構成だった。
部隊の前衛がじりじりと前進しイレギュラーズとの間合いを詰め始める。戦闘の幕は静かに上がったのだ。傭兵崩れが5人。イレギュラーズは4人。当然ながら不利な状況である。
そして、前衛の槍使いがカザンに飛び掛かろうとしたそのとき――
『――アオーーンッッ!』
狼の遠吠えが戦場に木霊する。
「ふっ。腹をすかせた奴らが待っているようだ」
狼は葵の式。遠吠えは奇襲の合図。突如、傭兵崩れの陣形の背後に黒ずくめの集団が現れ、速攻を仕掛ける。つまり奇襲は成功したのだ。
「まずはお前さんを、天国に御招待だぜ」
小屋の屋根に陣取るのは仮面の男クテイ。クテイは小屋の上からムーンサルトで華麗な弧を描いて着地。そこから地を這うような迅速な足運びで弓使いを背後からクラッチして強烈なスープレックスを見舞う。それに続くように鶫、ラダ、ルシフェルが弾幕を形成しプレッシャーをかけていく。
「かかったね」
奇襲組に呼応するようにカザン達、囮組みも動き出す。
「ふっ……」
傭兵崩れのリーダーは挟撃を受ける最中、左手を上げる。すると敵の五人は一旦引き、陣形の再編を始める。その際、術式と射撃を受け続けても意に返さない。ある程度のダメージを覚悟してでも混乱を収束させる。それは歴戦を切り抜けてきた戦士の正しき判断であった。
イレギュラーズと傭兵崩れたちはお互い陣形を再編して向かい合う。傭兵崩れのリーダーは左腕に刺さった矢を抜き、
「仕切り直しといこうか。イレギュラーズよ――いや、処刑人と呼ぶべきか」
来い。男はカザンに戦斧を突き付けてそう言った。
「……」
流石に挟み撃ちのまま圧勝とはいかないか。そこは経験豊富なだけはある。カザンは今一度気持ちを引き締めた。
●イレギュラーズの実力
敵の前衛二人が波状攻撃を仕掛ける。ターゲットは凱。
一人は槍で速攻をかけ、一人はバスタードソードによる重撃を放つ。続けざまに後方からは矢が射られる。
「……いい連携だ」
凱が一身に攻撃を受けるも一歩も引きはしない。ルシフェルが凱を支えている。
「俺に任せろ!」
ルシフェルが短尺の詠唱を行使。凱の傷を癒すことで前衛の均衡が保たれる。
だが、敵の連携は止まらず傭兵崩れのリーダーも戦線に躍り出て凱に狙いを定める。
「くそっ! 向こうも各個撃破狙いかよ」
先方は数で負けている以上、取るべき戦術は限られる。前衛の数を徐々に減らしていくか、或いは前衛を突破して後衛を一気に落とすか。
「何とかする!」
ルシフェルが全ての魔力を解放して仲間の治療に当たる。彼がイレギュラーズの守りの要、『癒し手』なのだ。
「お前さん達の好き勝手にさせないぜ」
クテイは、カザンと凱と共に流れを変えるべく攻勢に転じる。バスタードソードを持った男に狙いを定め体術のコンビネーションを見舞っていく。
「任せて」
ラダが必中の狩人、鶫が弓術の達人なら、葵は魔弾の射手。掌から魔力の塊を打出し前衛のターゲットに合わせて追い打ちをかける。
凱が攻め時とばかりに突出する。後衛から放たれた矢が彼の左肩に突き刺さるが、それでも突進は止まらない。
「ぬん!」
凱は攻撃を食らいながらも、敵前衛に渾身の右拳を見舞い、転倒させる。
「貴様らも戦士ならば俺を止めて見せよ。それとも山賊に成り下がったか」
「黙れ!」
凱の言葉に感情的になったリーダーが左手を上げて指示を出す。それは前衛を落とすのは諦め、後衛を落とすための戦術に切り替える合図。傭兵崩れたちがせわしなく動き始める。
「させないよ」
カザンが凱とクテイの動きに合わせて敵の陣形の先端を抑える。乱戦には持ち込ませない。
「イレギュラーズ。手ごわいな」
カザンの動きに傭兵崩れのリーダーは思わず舌打ちをした。
●入る楔
戦線はやや膠着状況の中、カザンが傭兵崩れのリーダーと対峙する。
「ここは通さないよ」
「受けてみよ!」
柄の長い重量のある獲物に、遠心力をかけ独楽の様に回転。そこから必殺の斬撃が放たれる。その一閃で刎ねてきた首の数は百を超える。カザンは鉄の両腕で防ぐことができたが、視界が揺らぎ星が飛ぶ。カザンでなければ体を両断されていたことだろう。そこに後衛からの射撃が入り左肩に矢が突き刺さる。
揺らぐ視界。カザンは思わず膝をつきそうになる。
「確かに強い――だけど、ここで膝を屈するつもりはない」
歯を食いしばり、仁王立ち。膝をつくことなく踏みとどまった。
「どこをみているんだ?」
クテイが戦線に躍り出て、バスタードソードを持った相手に速攻をかける。
「スープレックスは、後ろからしか掛けられないと思っているのか?」
重たい武器が命取りだぜ――クテイは素早くフロントから組み付きそのまま後方に急角度で投げ落とした。相手は歯を食いしばり立ち上がるも、足元がおぼつかない。
「隙だらけです」
ふらついた相手を目がけて鶫は矢を放つ。その矢は敵の防具を貫き下腹部に突き刺さる。鎧の中でもチェインメイルになっている薄めの部分を狙った精密な射撃であった。
「これで終わりだ……一人目」
ラダは鶫に射られた相手に止めを狙う。ラダの放った銃撃が右肩を防具ごと貫通し、傭兵崩れの一人を戦闘不能に追い込んだ。
だが、敵はイレギュラーズの攻勢の隙を付き、葵をターゲットに連携を仕掛ける。
葵は咄嗟に盾を仕込んだバッグで槍をガード。
「きゃっ!」
一撃目は運よく防ぐことができたが、すぐさま後衛から矢が放たれる。だが射られる直前に凱が立ち塞がり身代わりになる。カザンに凱。二人とも相当量のダメージが蓄積している。ルシフェルのヒールは間に合わない。魔力が尽きていたのだ。
「それでも俺が守る!」
術で追いつかないならば身体を使え――ルシフェルは凱をかばった。彼の大腿に深々と矢が突き刺さる。だが、それでも前衛に立ち一歩も引かない。
「何がお前たちをそうした! まだ間に合う。武器を置け!」
返る言葉はない。ルシフェルの悲痛な叫びが木霊する。
●攻め時
「一人落とした……ここが攻め時だ」
アレフは掌から魔力を放ち、手負いに狙いを定める。葵が呼応するように魔弾を放ちそれを直撃させる。相手が膝を付かせたところに、鶫が両腕に矢を射る。流れるような連携攻撃で二人目も戦闘不能に追い込んだ。
「残るは三人だ。勝ち目はない。諦めろ」
凱は連撃を長い時間受け続け、装備や衣服は襤褸切れのようになっていたが、堂々と言い切った。
「受け入れられん。我々には戻る国は――居場所がないのだ」
傭兵崩れのリーダーは提案を断固拒否する。その手は戦斧を強く握りしめている。昂る戦意によるものか、焦燥によるものかは分からない。
「受け入れなければ……? ならば決まっているだろう。最後まで、だ」
凱は手甲の位置を直し、戦闘続行を意を示す。クテイは、敵に速攻を仕掛けるべく間合いを測る。
「ボス! あんたが生きていれば傭兵団は再建できる。生きてくれ。俺が食い止める」
「若者よ。散るか」
傭兵崩れの若者が槍を構えリーダーをかばうように立ちはだかり、凱に向かって突進してきた。
凱も呼応するように全力で突進する。串刺しになることも恐れぬ命知らずの突進――槍が凱の顔を掠める。だが、次の瞬間には相手の顔面に凱の拳が突き刺さる。
「お寝んねの時間だ」
クテイは凱がダメージを与えた相手に狙いを定め、後頭部を強打する受け身が取れない強烈なスープレックスを決めた。男は倒れたまま起き上がることはなかった。
「無駄死にはするな」
ラダは残り一人の後衛の膝を打ち抜き戦闘不能に追い込んだ。彼女もまた無駄に命を奪う気はない。
「これでは終われん――!」
リーダーは残り一人になってもまだ諦めがつかない。それもそのはず、もはや彼らには退路がないのだ。最後の反撃に出ようとした瞬間、彼の視界は反転し、後頭部に強烈な衝撃を受けた。
「立てよ。お前さん、そんなもんじゃないだろ?」
最後の拳語り。クテイは手招きした。
●拳語り
クテイの右拳が一人になったリーダーの左頬に食い込む。次に左ひざが腹に。左拳が右頬に。クテイは続けざまに何発も殴り続ける。
「いつになったら心折れるかね……?」
「ぐっ……」
リーダーは戦斧を使う間もなくクテイの体術に翻弄される。不意に後方に視界がいくと――鶫が縄で四人を縛り上げるのが見えた。
「お仕舞か」
無念。リーダーは地面に座り込みそう言った。
「止めを刺せ。頼む。おめおめ生き残っては部下に面目が立たない」
「介錯希望か? それが本当にお前の望みなのか」
ラダは引き金を引くつもりはなかったが、ライフルをリーダーの頭に向け問う。
「待ってくれ。俺に任せてくれ」
アレフが間に入る。そう、彼は『真実の目』を持つ者。
●審判
「お前の真実を聞かせてもらおう。私に嘘は通じない」
アレは幻想に流れるに至った経緯を聞き出す。リーダーも観念したのかイレギュラーズに『物語』を話した。
かつて、幻想に名を轟かせた騎士団が存在した。
義を重んじ悪を挫くその姿は、騎士団の鏡と賛美されるほどだった。
だが、主君の叛逆が原因で騎士団は取り壊しに。政治犯として元騎士団の面々も国を追われることになり、仲間と共に某国に逃げ、その地で傭兵団を結成することになる。
傭兵としてのその日暮らしの生活。部下たちに楽をさせるため、再び主君を探して騎士に返り咲きたいと考えるようになった。
ある時、傭兵団をそのまま召し抱えてくれるという主君が見つかり、安堵したのも束の間、思想の違いから主君と不和を起こしてしまう。そして某国にもいられなくなった。
追っ手を撃退しているうちに、一人また一人と倒れ、某国を脱出する頃には30人いた傭兵団も残りは自分を含めて5人になった。
どうしようもなく、幻想に流れ着き、山賊になってでも生き永らえようとしたのだ。自分を慕ってくれる仲間が一人でも生きているのであれば。
それが、山賊に堕ちた元傭兵達の真実。
「襲撃を企てた事は事実なのですから、罪を償う必要はあります。でも抵抗しないと約束するのなら、誰一人の命も奪いません」
鶫は誠実な心のあり方を見せ、
「お前、気に入ったぜ! 生き残って俺とまたやろうぜ!」
クテイは漢らしく再戦を誓う。
「今からでもまっとうな仕事につく道だってある! まだ村を襲っていないから、まだ間に合うはずだ!」
ルシフェルは更生の可能性を示唆し、
「微力であってもできることはするべきだ。日常を変えるために」
カザンは日々に抗うための勇気を説く。
「その稼業そんなに潰しがきかなかったか。お前は向いていないのかもしれんな」
穏やかに生きろ。それがラダの真意。
「憲兵に突き出すことにはなるかもしれません。でも諦めなければやり直すことはきっとできます」
葵もまた誠実さと、更生の道を示す。
「お前達は……こちら側にくるべきではない」
凱の言葉もまた、情の深さ故。
「審判の時だ――どちらを選ぶ?」
道を選べ。アレフは『縄』と鶫から借りた一本の『矢』を差し出す。
リーダーは逡巡した後に、鶫の矢を手に取る。そして矢を自分の喉元に当て――
●東雲色に染まる帰路
戦いを終えたイレギュラーズ一行は大型の馬車に乗り込み、一路ローレットを目指す。
皆、疲労困憊でぐったりしている。ルシフェルの活躍もあり、重傷者はいなかった。
「かつての力を取り戻していれば、一瞬でこの場の全員を全開にできるんだけどなっ!」
「え? なんて」
ラダが不思議そうな顔で問う。
「い、いや。なんでもない」
ルシフェルは慌てて首を横に振った。
「それにしても――」
葵は馬車の荷台から身を乗り出して東雲色の空を見上げ微笑んだ。
「うん。正しい道を選んでくれてよかった」
鶫は笑顔で応じた。
傭兵崩れのリーダーが選んだのは再生の道。憲兵隊に出頭する道を選んだ。すなわち仲間たちと共に最後まで生きること。
ローレットまでまだかかる。少し休もうか。葵がそう言って振り返ると、全員が眠りに落ちていた。少し前まで話していた鶫とラダもだ。
「行軍も含め徹夜だったし、能力を使い切る接戦だったし、しょうがないか」
私も寝ようかな。狼さん、近くなったら起こしてね。そういうと式を見張りに残して葵も夢の世界に向かい始める。
イレギュラーズを乗せた馬車は東雲色に染まる世界を背に走り続ける。
向かう先に待つのは新たな死線かもしれない。だが、今の彼らはどんな安寧な未来よりも半時の睡眠を欲するのではないか。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。
見事成功となりました。
GMコメント
日高ロマンと申します。
何卒よろしくお願いいたします。
●依頼達成条件
山賊の無力化(生死不問)
※山賊が村の略奪をしてしまうと、その時点で任務失敗となります
●情報確度
A(オープニングとこの補足情報に記されていない事は絶対に起きません)
●山賊概要
・5人(3人が前衛で近接武器を装備、2人が後衛で遠隔武器を装備)
・盾は持たず、防具は金属製
・集中攻撃が得意
●その他補足
・山賊は夜間に村を襲撃します
・山小屋は老朽化しているので山賊は立て籠ることはありません
・戦闘の舞台は選択可能です
⇒山小屋を強襲
⇒道中で待伏せ
⇒村人に化けて不意打ち、etc
・山小屋周辺は平らな地形です
・道中はなだらかな斜面で背が高く逞しい樹木が点在します
・村は果樹栽培で潤っているだけあり立派な家が多いです(特に村長の家が立派)
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