PandoraPartyProject

シナリオ詳細

魔女の夢

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

・魔女は眠り続ける

 王国を守るために、魔女は生きていたはずなのだ。

 将来立派な聖女になる。幼い頃はそんなことを言われて、もてはやされた。強い魔力を持った子どもは、いずれ国に降りかかる災厄を祓うことができるからと。

 自分にそんなことができるかなんて、彼女には分からなかった。ただ人より魔力が強く生まれただけ。それ以上の価値が本当に自分にあるのかと、自分に問い続けた。
 とはいえ、期待に応えなければ捨てられてしまう気がした。だから必死に魔術の鍛錬をして、学問も身に着けて、周りから必要とされる「聖女」になろうとした。

 才能は燻ぶらせたままでは蕾のままだ。しかし条件が揃えば花は開く。
 彼女が成長した頃、国の中で一番の魔術の使い手になっていた。これなら国を守れるのではないか。そう思ったのもつかの間、聖女の役を降ろされた。

「聖女の皮を被った悪人が、国を乗っ取ろうとしているらしい」

 どこからか、そんな噂が流れたのだ。彼女を妬んでのことなのか、本当にそう思い込んでいたのか、真実は分からない。ただその噂に翻弄された王家は、聖女をひどく恐れた。

「あれは魔女だ。何の悪さもできぬように、封印してしまうのが良いだろう」

 その時の魔女に、逆らうだけの気力は残されていなかった。裏切られた絶望、捨てられた悲しみに暮れ、生きようとする気持ちが削がれていたのだ。

 そうして魔女は封印され、国のはずれの荒れ地で眠らされている。

 夢の中で、魔術の鍛錬に励んでいた頃を思い出す。必要とされなくなることのないようにと、脇目もふらずに励んでいたのに、結局こんな場所に一人にされてしまった。
 時折現れる捨てられたときの記憶は、胸が苦しくなるから見たくない。だけど脳にこびりついたそれは、決して魔女を解放してはくれない。

 魔女のことを覚えている者が誰もいなくなるまで、目覚めたくはない。蔑むような目で見られるのも、冷たく扱われるのも嫌だからだ。しかし、このままひとりでいるのは寂しいとも思うのだ。

 国の外のひとなら、大丈夫だろうか。そう思い魔女は、夢の中で願いを込めた。

 誰か私と、ほんのひとときの時間を過ごして。


・夢の世界

「魔女さんの夢の中へ、招待が来たわ」

 境界案内人のカトレアが、一冊の本を腕に抱えながらそっと微笑む。

「魔女はもともと魔女ではなかったの。だけど、今は魔女として封印されているわ」

 もともと、魔女は聖女として扱われてきた。周りの期待に応えるために魔術を身に着けていたのに、人々に疑われ、魔女として扱われ、捨てられてしまった。

「寂しいんですって。でも、まだ目を覚ますのは怖いみたいで」

 夢の中で、一緒に時間を過ごしてあげてほしいの。そうカトレアは口元に笑みを浮かべた。

「お喋りをするとか、一緒に食事をするとか。夢の中だから、ちょっとした小道具は用意できるわ」

 魔女は自分を疑うこともしない、心穏やかに過ごせる誰かを探している。国の外ならばそんな人がいるのではないかと、こちらに手を伸ばしたのだ。

 あの子をよろしくね。カトレアはそう呟いて、本を丁寧に抱きしめた。

NMコメント

 こんにちは。椿叶です。
 魔女として扱われている元聖女と時間を過ごす話です。

世界観:
 聖女の魔術で国を守っている王国です。聖女はいずれ来る災厄に備え、魔力の高い者が選ばれます。この物語に登場する「魔女」はそのために選ばれた聖女です。
 彼女は聖女としての力を努力の末に身に着けましたが、彼女を悪人扱いする噂が流れたせいで、魔女として扱われることになってしまいました。
 この世界において、魔女と呼ばれる存在は、災厄をもたらすものの仲間です。彼女は国のはずれに封印されることになり、ひとりで夢の中に沈み込んでいます。

目的:
 魔女の寂しさを紛らわせることです。
 彼女はもともと、誰かの期待を裏切ること、捨てられることを恐れて聖女になろうとしていました。彼女が最も恐れていた孤独が、今の彼女を捕えています。
 魔女と話をしたり、食事をしたりして、魔女の孤独を一時の間忘れさせてあげてください。食事等に必要な小道具は、夢の中なので願えば出てきます。
 夢の世界に飛び込むことになりますが、魔女の魔術のおかげで自由に動けます。魔女自身も自由に話したり動いたりできるので、お好きなように過ごしていただければと思います。

魔女について:
 元々は聖女と呼ばれる存在でした。魔力が他の人よりも強いだけの子どもでしたが、孤独を恐れる心から努力を重ね、やがて聖女としての立場を手に入れました。しかし今では魔女として封印され、孤独な時間を過ごしています。
 自力で封印を解くだけの力はありますが、まだ目を覚ますのは怖いようです。しかしひとりの時間に耐えるのはつらく、誰かと共に時間を過ごしたいと思っています。

できること:
・魔女と対話をする
・食事をする、等


サンプルプレイング:

 ここが魔女さんの夢の中ですか。なんだろう、寂しい雰囲気がしますね。魔女さんの心はこんな感じなのかな。
 一番恐れていた孤独の中に閉じ込められて、つらいですよね。裏切られて、つらかったですよね。短い間だけど、私が一緒にいるので。少しでも寂しいこととか、つらいこととかを、忘れてください。


 食べたいものや必要な小道具があればプレイングに記載していただければと思います。
 よろしくお願いします。

  • 魔女の夢完了
  • NM名椿叶
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2022年05月22日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

回言 世界(p3p007315)
狂言回し
ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)
レ・ミゼラブル
玉ノ緒月虹 桜花(p3p010588)
神ではない誰か
朱雀院・美南(p3p010615)
不死身の朱雀レッド

リプレイ

・一人と一匹

 足を踏み入れた場所は、花畑のような場所だった。花を踏まないように歩み寄り、『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は座り込む魔女を見下ろした。

 孤独というものは、慣れれば悪くはない。とはいえ望まない人間、それこそ魔女にとっては苦痛なのだろう。
 会話をする程度なら自分にもできるし、特に難しいこともない。会話で彼女の気が済むのなら、相手をしてやろうと思う。

 足音に気が付いた魔女が、すいとこちらを見上げる。その瞳には、期待の中に安堵が混ざりこんでいた。

 この魔女は、自力で目覚められるという。封印の力が弱まったのではなければ、それほど強力な魔術を使えるということなのだろう。それなら、王家が恐れるのも分かるような気がした。

「来てくれたのね」
「まあな」

 孤独を癒すとなれば、手っ取り早いのは他者との触れあいだろう。当然、世界が触れてしまえば夢の中であれども社会的制裁は免れない。そんなわけで用意したのが、このウサギだ。

「私に?」

 ふわもこ角ウサギを魔女に抱えさせると、彼女の表情が綻んだ。ウサギは魔女を多少警戒しているようだったが、暴れることなく大人しくしている。

「こいつなら幾らでも撫でられるし、モフモフするのも自由だ。好物の林檎とかをあげればすぐに打ち解けられるさ」

 かわいいわね。そう呟きながら、魔女が細く切られた林檎を作り出す。それをウサギに食べさせて、小さく歓声を上げた。随分気に入ったらしい。

「さて、独りぼっちを簡単に解決する方法が実はある」

 ウサギを撫でている魔女と、ぱちんと目が合う。

「コイツを現実の方に持っていくから、そこで飼ってみればいい」

 角ウサギは少しわんぱくで、乱暴なところもある。ただ、知能は高いし、人懐っこい。今も魔女に可愛がられて嬉しそうにしている。だから、木の実が生い茂る森に小屋でも建てて、一人と一匹で暮らせばいい。

 不便な生活にはなるし、幸せになれる保証もできない。当然人との交流ができるわけでもない。

「だからまあ、気が向いたらでいいから、その時は呼んでくれ。こう見えて人里離れたところに暮らしているからな。多少のアドバイスはできるだろう」

 魔女は驚いたようにこちらを見つめていたが、やがてふわりと微笑んだ。

「この子と一緒に暮らせるのね。きっと、夢の世界にいるより、温かくて優しい時間を送れるわ」

 ありがとう。素直に零された言葉がくすぐったくて、世界は顔を逸らした。


・わるいもの

「はじめまして、私はミザリィ。ミザリィ・メルヒェンと申します」

 スカートを摘まんでお辞儀をしたのは、『ライカンスロープ』ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)だ。ほっとしたように笑みを浮かべる魔女に食事をしようと言うと、曖昧な色を放っていた空間が洋風の屋敷に変わった。

「御伽噺に出てくる魔女は、わるいものとして描かれていました。狼もまた、同じように『わるいもの』とされていることが多いです」

 注いだ紅茶の赤色に、ミザリィの顔が映る。カップを傾けると、その水面も揺らいだ。

 御伽噺の魔女も狼も、物語の最後にこらしめられたり、痛い目に遭ったりするものが多い。この夢の中にいるのは、そんな魔女と狼の二人組。

「おそろいですね。私たち」

 ミザリィは、元の世界で強大な力を持っていた。それをきちんとコントロールすることができなくて、誰かを傷つけてしまうのが怖かった。だからずっと、書庫に閉じ籠っていた。

 母だけが自分の救いで、でも姉弟とはまともに会話することができなかった。羨望と嫉妬にまみれてしまったのが、その理由だ。
 自分はずっと、己の力を恐れながら、たったひとりで生きていくのだと思っていたのだ。

「でも、あなたは違う」

 魔女は自分の力が、良いものにも悪いものになるとも知っている。それをコントロールするだけの技術も持っている。だから大丈夫。大丈夫なのだ。

 どうか、私と同じようにならないでください。

 祈るような言葉を、紅茶を口に含んで閉じ込める。どうかしたのかと首を傾げる魔女に、何でもないのだと首を振った。

「今は難しくても、あなたがその力を良き方向に使っていけば。きっと、あなたを信じてくれる人が現れます」

 ミザリィも、見つけたのだ。この世界でようやく、見つけることができた。
 手を差し伸べてくれたひとがいた。その手を握ることは、とても怖かったけれど。それでも、太陽みたいなひとを見つけることができたのだ。

「どうか恐れないで。少なくとも私は、狼は、魔女の味方ですよ」

 自分が太陽に出会えたように、彼女にも光のもとへ導いてくれる誰かが現れたらいい。彼女とはわるいもの同士だからこそ、心の底からそう思うのだ。

「そう言ってもらえると、心強いわ」

 魔女が微笑んで、ミザリィを見つめる。その表情には優しい明るさが灯っていて、思わず息が零れた。


・居場所

「初めまして、私は違う世界で神主をしていた者です。今は社を失い信仰も無くした元神主ですが」

 空に浮かぶのは、無数の星々。月がゆらりと煌めくその場所で、『神ではない誰か』玉ノ緒月虹 桜花(p3p010588)は魔女の側に腰かけた。

 何があったのかと問えば、魔女はぽつぽつと今までのことを話してくれた。

 彼女はまつりごとに利用されたのだ。信じていたものから裏切られることは、苦しく、悲しい。自分も経験があるから、彼女に寄り添ってあげられる気がする。だからこそ、相談に乗ろうと思った。

 力というものを、人は恐れる。相手を引きずり降ろそうとする者もいる。人と違うというだけで、避けられてしまう。
 世間は自分に無いもの、自分の手元で操れないものを恐れる。だから彼女を封印したのだろう。

「貴女の寂しさを癒やせるか分かりませんが、貴女にも信じている大切なものはありませんか?」

 聖女の彼女に魔術を教えるのは不思議であるが、力の向きの問題だろうか。彼女に術を教えると、そのまま馴染んでいくような気がする。

 手を使って、四角だったり、家の形だったりを示す。彼女がそれを真似したのを見て、桜花は語り掛ける。

「大切なものを心に思い浮かべてください。そして大切なものを、心の家、棚でもいいので、イメージして作ってください」

 魔女が目を閉じる。その心にはきっと、大切な「家」が出来上がっているのだろう。

 何か悩みが出来たり、苦しくなったりしたら、一度その家の中に逃げればいい。そうして大切なものと相談するのだ。

 心の神殿、教会、隠れ家。何でもいい。その中で大切なものに相談すること。心に余裕を作ることが大切だ。

「こんな風に自分の場所を作れるなんて、思いもしなかったわ。この夢だけが、私の居場所じゃないのね」

 魔女が柔らかく微笑んで、空を見上げる。

「もし目覚めるのにまだ恐れがあるのなら、我々を思い出してください」

 魔女の傍に、自分たちはいる。心はいつでも寄り添って、その苦しみも悲しみも、共に飲み込んでやれる。

「ですから、ご心配なく」

 もし目覚めても元の場所に戻らないのなら、引き取ろうかとも思っている。だけど今は、悪夢から目覚められるように祈ろう。

 手を握って励ますと、彼女は照れくさそうにはにかんだ。「ありがとう」

 魔女の後ろに浮かぶ空に、きらりと流れ星が光る。その輝きが、彼女の持つ希望のように思えた。


・名前

「フハハハ! 誰かの助けを求める声に参上!」

 飛び込んだ夢の中は、茨で囲まれたような場所だった。誰も寄せ付けない茨の中央で、魔女が膝を抱えて座っている。

「僕こそは悪の秘密結社「シュヴァルツァーミトス」所属、怪人『不死身の朱雀レッド』さ!」

 君が魔女君かい? 安心してね、僕が来た☆

 きらりとした光と豪快な音と共に名乗り上げたのは、『不死身の朱雀レッド』朱雀院・美南(p3p010615)だ。

 魔女の方を見ると、彼女を囲う茨がほどけて、美南が進む道を作っていく。導かれるまま彼女の前に立つと、彼女はほっとしたように微笑んだ。魔女に視線を合わせるように、屈みこむ。

「さて、裏切られてこうして幽閉されていると聞いたけど、とんでもない連中だ!」

 ここにいる魔女は、こんなにも強くて優しいひとなのに。

 強いといっても、それは肉体的な意味でも、魔術的な意味ではない。心の強さだ。
 こんなに辛い目にあっても、苦しい目にあっても、彼女は怒りに囚われていない。復讐をしようと思うわけでもなく、こうやって一番恐れていた孤独の中にあえているのだ。

「誰にでも出来ることじゃない。本当に尊敬に値する」

 彼女の手を握ると、冷えた皮膚が触れた。それを内側から温めるように、包み込んでいく。

「正に聖女の様だ、『悪の怪人』の僕が保証するさ」

 彼女は戸惑うように頷き、やがてそっと微笑んだ。

「私のこと、まだ聖女と呼んでくれるのね」

 手のひらの温度は、いつの間にか一緒になっていた。きっと、触れられない内側の部分も、同じ温かさになっているのだろう。

「ねえ、よかったら、僕と友達になってくれないかい?」

 この聖女となら、本当の自分とでも仲良くできそうだと思うのだ。

「僕の本当の名前は、『祝優』。『贄の少女』さ」

 祝優。聖女の唇から、繰り返し音が紡がれる。

「祝優と、呼んでいいのかしら」
「もちろんさ。君の名前を、教えてくれないかい?」

 静かに問えば、聖女は照れ臭そうに目を逸らした。

「そうね。昔は、レナと呼ばれていたわ」

 レナがしたのと同じように、彼女の名前を繰り返す。すると彼女は、泣き出しそうな顔で微笑んだ。
 懐かしくて、嬉しい。そういったものが、言葉にせずとも伝わってくる。

「これからよろしく」

 周囲を囲う茨が金色の雫に変わる。それは地面に塗れた痕を残して、消えた。

 この場所に来てよかった。心からそう思った。

成否

成功

状態異常

なし

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