シナリオ詳細
<タレイアの心臓>楽園にて
オープニング
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可愛いネーヴェ。
此処はとても静かで、俺も眠ってしまいそうだ。
可愛いネーヴェ。
君はあれからどうしているだろうか。元気にしているかな。
領地では危ない獣がいた。俺が守ってあげられたけど。
あれから危ない目にあったりしていないだろうか。
君に伝えたい。此処は楽園だ。
妖精郷への道を、君と一緒に歩きたい。
いつか妖精の国を朗らかに語った君は、どんな顔をするだろうか。
喜ぶだろうか。
はにかむだろうか。
ああ。ネーヴェ。
俺の大切な可愛いネーヴェ。
今なら言える。
一緒に行こう。何処までも。
何があろうとも、俺が守ってみせる。
●
“タレイアの心臓”。
魔種と奪い合いになったが手に入れる事が出来た、“咎茨の呪い”の解除用宝珠。
妖精郷からアンテローゼ大聖堂へ到り、そしてやっとイレギュラーズは、大樹ファルカウへと進軍する事が出来るようになった。
ファルカウの下層は幻想種の住処だ。上層は信仰のよるべとなっているため昇る事は出来ないが、此処を取り戻し守る事には重大な意義がある。
――どちらにとっても。
魔種たちはファルカウのあちこちに潜んでいる。
ファルカウと共に眠りたい“怠惰”。
ファルカウ全てを呑み込まんとする“暴食”。
そして、時折賑やかしのように現れる“色欲”。
イレギュラーズは彼らを撃破して、このファルカウを守り通さねばならない。
茨で深緑を鎖し、眠りの呪いをかけた元凶は“冠位”怠惰カロン。
だが其の前には、数多の魔種と大樹の嘆き、更には邪妖精が待ち受けている――
其のファルカウの下層、“啄木鳥の領域”。
耳を澄ませば幻想種の寝息が聞こえてくる、静かな領域に。
一人の魔種がいる。穏やかに眠る幻想種の頬を指で撫で、笑った。
「大丈夫。俺は君たちを傷付ける気はないよ。――待っているんだ」
そう、待っているんだ。
可愛いあの子を、ずっとずっと。
だから、君たちを傷付ける気はないけど……人質になって貰うよ。
茶髪を揺らしながら穏やかに笑う男。其の真意のように、宙を蹄で蹴り尾びれを揺らして邪妖精が笑った。
ひひひん。全ては夏の世の夢。
- <タレイアの心臓>楽園にて完了
- GM名奇古譚
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年06月05日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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楽園なんて、此処にはないね。
『闇之雲』武器商人(p3p001107)は嘲るように思う。此処に在るのは楽園なんかじゃない。今は静寂に包まれた、ただの激戦区だ。放置すれば腐ってしまうか、焼け野原になるかのどちらかだ。
「だって、私は夢魔だから」
『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)は誇るように呟く。きっと今ファルカウで眠りにつく人たちは、夢も見ていないんだろう。敢えて夢魔の姿をとり、彼女は奔る。決定権も何もなく、押し付けられるように与えられた怠惰なんて、絶対に良いものじゃない。
マルク・シリング(p3p001309)は、ケルピー――馬の嘶きを聞いた。
事前の情報では二桁の数いるという。戦局を見極めて動かなければ、戦力差で競り負けるのは此方だ。
『酔狂者』バルガル・ミフィスト(p3p007978)はさて、どの邪妖精から首を刎ねてやろうかと計算する。魔種も厄介だが、担当者は既に相談して決めてある。己はただ只管に、邪妖精を伐り、刎ねればいい。なにせ、やる気を削がれるというのは死活問題なので。
『正義の味方』ルビー・アールオース(p3p009378)は、魔種ルドラスの在り方に疑問を感じている。
――本当にその人を護りたいなら、命を守るだけじゃダメなの。其の心も護らなきゃ意味がない。きっと歪んでしまっているんだ。護るという意味を履き違えて、そのまま信奉してしまっているんだ。
『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)は、ルドラスという魔種が堕ちなかったらのIFを知っている。現実の世界で“一緒に行こう”と手を差し伸べた彼は何処か恐ろしくて。でも、仮想世界の彼は一人で援軍を信じて戦った、強くて優しい人だった。決心が鈍りそうになる。でもね、駄目だよ。ファルカウは眠りの国なんかじゃない。生命に溢れた国だから!
『カモミーユの剣』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)は、胸に何か重いものを抱えている。なんとなく、其の名前を知っているような気がする。けれど今は見ぬふりをしなければならない。其れに向き合っていては、ルドラスの剣に負けてしまう。
――ネーヴェさんはルドラスさんを捜していた。再会を待ち望んでいた。でもその相手は、もう今のルドラスさんじゃない。……此処で、終わらせるんだ。
そして『とべないうさぎ』ネーヴェ(p3p007199)は、魔種ルドラスと対峙する。
「ああ、来たね」
知らない誰かの寝床から立ち上がり、ゆっくりとイレギュラーズに向き直る彼は、見てくれだけは本当にいつかのままだった。
どうして歪んでしまったの。どうして貴方が此処に居るの。
義足に慣れない足が痛む。痛むのは心かもしれない。どちらでも変わらない、ネーヴェは痛みに耐えながら戦うほかない。
「ルド、様」
「ネーヴェ……どうしたんだい、脚をなくして。また無茶をしたんだろう」
語り掛ける彼はこんなに優しく見えるのに。
脚をなくしたことをこんなに軽い調子で話す人ではなかった。
「俺がいれば、そんな無茶はさせなかったのに。ネーヴェ、君はどうして」
ピイ!
まるで牽制するように、ケルピーが鳴いた。
いや、其れは断末魔だったのかもしれない。超速を威力に変えたルビーの一撃が、邪妖精の身体を酷く痛めつける。
じゃらり。
其れはバルガルがナイフを手繰る音。
獲物に向かって集まってきたケルピーを、一緒くたに切り刻む。其の硬い皮膚を突き破る刃は、バルガルにも傷をつけるけれど。其れでもそんなもの、生を掴むためのスパイス程度にしか感じない。
「ネーヴェ」
ルドラスが一歩、前に出る。反応したのはネーヴェではなく武器商人だった。うさぎの娘を庇うように前に出て、ルドラスの道行きを遮る。
「どいてくれないか」
「退かないよ。やりたいなら退かせてみると良い」
「何故君は俺の邪魔をするんだ? 俺はただ、ネーヴェと一緒に旅に出たいだけなんだ。俺がいれば、もうネーヴェを傷付けさせない。俺がいれば、もう二度とネーヴェは傷付かない」
「大した自信だねェ。キミがいる事で、うさぎの娘が心を痛めているなんて一つも思っていないんだろう?」
「俺がいる事で……? 何故?」
ケルピーが宙を走り回る音がする。
――可愛いお馬さんたち、私がいい夢を魅せてあげる。
夢魔としての力を解放した利香が、魔眼たる金瞳で愛らしくウィンクして邪妖精の心を引き付ける。夢魔の力はヒトを引き付ける為だけのものじゃないのです。ほうら、お馬さんたちがふらふらとこっちに寄ってきた。其の軌跡にぷくぷくと泡立つのは――
「……う」
其の泡の虹色を見た瞬間、利香の意識がぐらりと揺れた。何よ、こんなの聞いてないわ。目にしただけで意識を揺らすのは夢へと誘う魔性の泡。ケルピーが生み出す、夢幻の結界。
指の動きが鈍い。頭の奥が重くて、ぐらぐらする。眠いというより、まるで深淵に引きずりこまれるかのような感覚がする。
「精神にまで作用するなんて、生意気で可愛い子……」
ケルピーは誘惑されるままに、崩れ落ちた利香へと殺到する。其れをカバーするのはルビーとバルガルだ。
「利香さんのダイイングメッセージ、しっかりと理解しましたよぉ!」
「いや、死んでないから……!」
ケルピーはぷくぷくと泡の軌跡を描く。今度は水色に輝く泡たちがバルガルとルビーを囲んで、其の戦意を削り取って行く。
「見るだけで効果を持つ泡とは、また厄介ですねぇ」
何もしたくない。ああ面倒臭い。そんな気持ちを振り払うように、バルガルは己の左腕にナイフを突き立てた。
「バルガルさん……ッ!?」
其の隙をルビーは見逃せない。戸惑いながらも繰り出した一撃で、ケルピーの尾びれが粉砕された。半身を失った邪妖精は大地に落ちて、藻掻くように蹄を奔るように動かして……やがて、動かなくなる。
「なぁに、気付けですよ! この程度、“後ろの二人”が後で綺麗に治してくれますとも!」
「そうだよ! ねっ、マルク先輩!」
「ああ。今のところは順調みたいだ。……魔種をみんなが引き付けてくれているお陰かな」
治癒はフランに任せるよ、と、マルクは閃光で利香に群れるケルピーをまるっと攻撃する。ばちん! と泡が弾ける音がして、ケルピーがピイ! と嘶く。
「皆! まだまだ序盤だよ、がんばろ!」
利香を動かす訳にはいかない。彼女の矜持を懸けた誘惑はケルピーを引き付けてくれている。なら、彼女に最も応える術は、ケルピーを全て討ち果たす事だろう。
「利香先輩……任せてね、あたし達が全部倒してみせるから! 大丈夫だから!」
何故だろう、泣きたくなるのは。
大丈夫だという度に、R.O.O.で闘い続けたルドラスの姿が蘇る。
ネーヴェの領地で出会ったルドラスとは違う、優しくて強い彼の姿。
――あたしが泣いちゃ駄目。本当に泣きたいのは……
●
「……ルド様」
「何だい、ネーヴェ」
剣戟の音が響き渡る中で、其れでもルドラスの声は穏やかだった。
武器商人とシャルティエ、そしてネーヴェがルドラスの導線を阻むように位置どる。ルドラスは導線が欲しくて移動するけれど、三人は其れを許さない。三人がかりで阻まれては、さしものルドラスも動けない。剣を振るう。其れは特別な何かをもたらす事はなかったけれど、咄嗟に狙われた武器商人に深い切り傷を与えた。
――読めるようで、読めない。
斬られると判るのは其の寸前だけ。狙いが何処にあるのか見定める事が難しい。
まるで霧の中で狙われているような感覚に、武器商人は内心で舌打ちをした。
「……ッ!」
シャルティエが歯噛みする。ルドラスはシャルティエの剣を己の剣で受けて、受け流す。剣士としての経験が、技量が違う。判っていても挑まずにはいられない。彼はネーヴェを何度も泣かせたのだから。己は其れを、拭ってやる事すら……出来ずに!
「ルド様は、……変わってしまわれました、ね」
「俺が? 俺は何処も変わっていないよ、ネーヴェ。君こそ、すごく元気になった。領地も持って、偉いじゃないか。でも、あの領地は危なかった。危険な獣が沢山いたのを知っているかい」
「……昔のルド様なら、獣が人を襲わないように、仕掛けを、して下さったでしょう。でも、今のルド様は、……違う。今でも、わたくしを大切にしてくれる、けれど……周りを思いやる人でも、あったのに」
「……」
微笑みながら、ルドラスの流浪の剣はシャルティエを狙う。狙われる寸前で気付いたシャルティエが剣を横に構えれば、きゃりん、と鉄同士が鋭く触れ合う音がした。
「……ッ!! どうして!」
もう堪えられなかった。視線で武器商人に制されても、シャルティエはもう、我慢が出来なかった。
「どうして貴方が堕ちてしまったんだ! ネーヴェさんは貴方をずっと探して、貴方を……!!」
相手の膂力を利用して、一気にカウンターを放つ。きん、と真上に剣を跳ね上げられて、ルドラスが初めてシャルティエを見た。
「……君が、」
ルドラスの瞳は、恐ろしい程つるりと澄み渡っていた。
彼の目にはもう、かの白うさぎしか映っていないのだ。
「ネーヴェの何を、知っていると?」
「!! クラリウスの旦那!」
咄嗟に前に出た武器商人の胴を。
跳ね上げられたルドラスの剣が一直線に振り落ちて。
深く深く、斬り裂いた。
「商人さん!」
「大丈夫だよ、コレくらい……! 斬られたのがアタシで良かったってものさ……!」
きらり、と小さな奇跡が煌めいた。
一気に武器商人の体力を持って行った一撃。……ルドラスの纏うオーラが変わっていた。
「……ネーヴェ」
其れでも、彼女を呼ぶ声は優しいのだ。
「俺は今度こそ、次こそ、……ずっとずっと、君を守ってみせる。ネーヴェ、一緒に行こう」
手を伸ばす。其の先には、白うさぎ。
「俺が死にかけて後悔したような、あんな想いを君にはさせない。ずっと俺が傍にいて、君をあらゆる災厄から守ってみせる」
俺が守るから。ずっとずっと護るから。
だからこの手を取ってくれ、ネーヴェ。
「――」
其の声は何処か悲痛で、だから誰もの耳に届いていた。
誰もが沈黙して、ネーヴェを見ていた。
ネーヴェは、紅い瞳を揺らして、
「貴方がいたならば、……脚を失わない未来が、あったかもしれない」
「!」
シャルティエが罪悪感に肩を揺らす。
マルクが、フランが、痛まし気に目を伏せながら武器商人へと治癒を紡ぐ。
「そうであれば、……其の誘いに、載っていたのかも、しれません」
利香は静かに眠っている。
まるで彼女の眷属であるかのように周囲を巡るケルピーを、バルガルとルビーが掃討していく。
「けれど、脚を失ったからこそ……わたくしは、大切な人を泣かせられない、と」
「心も護りたいと、思ったのです」
「だからもう」
何も失くせないの。
そう言ったネーヴェの瞳は、もう、弱い白うさぎではなかった。
楽園の過去に決別した少女の瞳だった。
「貴方と共には、いけません! 護られてばかりの、子兎ではないから」
きっぱりと言い放ったネーヴェに、少しの間ルドラスは呆然としていた。
様々な人の感情を見てきた武器商人は知っている。信じていたものを裏切られた時の顔だった。魔種でもそんな顔をするのかと、治癒を受けながら心中で笑った。
「……そうか」
ルドラスが剣を握り直す。
「なら」
「ケルピーの掃討、終わりましたよぉ!」
「殺すしかないのか」
「魔種に集中する!」
ルドラスの呟きと、利香をそっと戦場の隅へ移動させたルビーが同じタイミングで声をあげた。
●
バルガルのナイフが煌めく。
其れを片手剣で弾いたルドラスが、シャルティエへと反動をつけて剣を振り下ろした。
「ッ!」
「遅い」
冷たい言葉と共に、鋭い音が墜ちる。
ルドラスの剣がシャルティエの剣を叩き折り、其の胴を斬り裂き、シャルティエの剣の半身が大地へ落ちる音だった。
「クラリウス様……!」
「こっちにも目を向けてもらいたいね!」
―― 一日のうち、最も暗いのは夜明け前。
キミの恐れは何だ? うさぎの娘を失う事か? 応えて御覧よ、見せてあげよう。空の色は覚えてきたかい? お前にはもう、朝のひばりは囀らない。ファルカウに入る前に見た空が、キミの最後に見る空だよ。
武器商人の手痛い一撃が、強かにルドラスを撃つ。
「マルク先輩!」
「わかってる、僕が先に」
癒しの手は万全だ。斬り裂かれたシャルティエへと、マルクとフランが二段構えの癒しを打つ。より多くの傷を、より深く癒すための術を片方が残し、其れを二番手が拾う。出来得る限りの癒しの術で、シャルティエの傷はある程度は浅くなる。
――さても痛みは、猪鹿蝶!
一気に肉薄したバルガルが、ルドラスへと仕掛ける三連撃。ぱちんと花札を叩くがごとくさっぱりと斬り抜く。ルドラスの視線がバルガルへと向いて、……ええ、其れで良いのです。下手に回避する方が手間、どうせなのでそのまま自分を見て置いて頂けます?
「一緒に、ヒーローになるって約束したんだ……!」
ルビーの視界が霞む。ケルピーを掃討する際に、極彩色の泡を浴びたのだ。夢へと誘う呼び声は、時を追うごとに大きくなって。けれど、まだ、せめてこの魔種を倒すまでは、まだ! 安らぎの中にいるよりも、素晴らしいもの……其の為に戦うって、あの子と誓ったんだ! だから、こんなモノに負けてはいられない!
加速したルビーを最早魔種は視認できず、だから其の一撃を喰らった時、まるで中空が殴りつけてきたような心地がした。
魔種が吹っ飛び、どん、と木をくりぬいた壁にぶつかる。啄木鳥の領域が鳴動し、……其れでも、幻想種は目を覚まさない。
「変わったのは、お互い、同じ」
ばちばち、とネーヴェの両手の間に集まった力が弾ける。
「……弱い身体は、こうして動けるように、なって」
「脚を喪ってでも、護りたいと思う人たちが、出来て」
「……判りますか」
わたくしも、貴方も、昔と同じようには、なれない。
もう、過去の楽園には、戻れないのです。
貴方が道を塞ぐなら、イレギュラーズ(わたくしたち)は貴方を倒して、先に行く。
……そうでなければ、いけないんです!
雷の一撃が、ルドラスを貫いて。
天を仰ぐように、魔種はばたりと倒れ伏し。
最早何も言う事はないというように。
何かを残す事を世界に許されなかったかのように。
あっという間に光の粒子となって、消えていった。
●
――雨が降っている。
そっとフランが呼んだ、不思議な室内の雨だ。
「……治療完了だ。それにしても、此れだけ傷を負っても起きないなんて」
魅了によってケルピーのターゲットになっていた利香の治療を済ませて、マルクがその様子を見る。利香は傷の痛みで目を覚ます事すらなく、ずっと眠っているようだった。
「早く目を覚ますと良いんだけど」
「そうだね。さて、じゃあ次はバルガルさん……ん? ルビーさん?」
「ごめん、……私も、眠……」
ぱたり、と倒れ込んでしまったルビーを慌ててマルクは抱き上げる。
「……眠ってる」
「ケルピーの泡のせいでしょうか」
「……バルガルさんは?」
「自分は至って健康です。あの泡を受けないように立ち回っていたのが幸いでしたか」
「そうか……じゃあ、取り敢えず腕の治療だね」
「はい、どうも宜しくお願い致します」
「……」
「大事な武器(コ)、折れちゃったね」
ひょい、と顔を出した武器商人に、シャルティエは思わず仰け反る。
「しょ、商人さん……あ」
「ん?」
「あの時は、庇って頂いてありがとうございました」
ぺこり、と頭を下げるシャルティエ。
「いいよ。傷を負えば負うほど強くなるのが我(アタシ)だからね。これも一つの戦略ってものさ。……でも、」
「?」
「なんだかすっきりしてない顔だ」
「……判りますか」
「判るとも」
「……僕は、護る強さも、迷わない心もなくて。あまつさえ、癒えない傷を残させた。……其れでも、彼女の傍にいたいんです。僕は……」
胸元を握り締める。其処にある真っ黒な感情に、シャルティエはもう気が付いている。僕はきっと、自分が思っているよりずっと醜いのだ。でも、だけれど……
「生きていれば、そう思う事もあるよ」
「……商人さん」
「……代わりの武器(コ)が欲しくなったら、訪ねて来ると良い。紹介するよ」
ぽん、と肩を叩いた武器商人。其の手にはまだ傷が残っていた。
シャルティエは雨に打たれるまま、そっと……少し先に佇むネーヴェを見つめる。
「……ルドラスさん、幻想種の人たちには攻撃しなかったね」
静かにルドラスが斃れた場所に佇むネーヴェの隣に、フランが並ぶ。
「……」
「……興味がなかったんだと思うけど、……」
優しさだったのかな、なんて言ったら、きっと其れは傲慢だ。
だからフランは優しく黙り込んだ。
「ネーヴェさん、泣いても良いんだよ」
「……わたくしは、」
「良いんだよ。だって、あたしはもう泣いてるもん」
そう言うフランの声は震えていた。
ネーヴェの方を見たくるりとした瞳は、揺れていた。
「あんなに、R.O.O.では、優しかった、のに、ね」
「……ヴィラネル、さま」
「なんで、……なんでだろ、ね……」
ネーヴェはフランの細い肩をそっと抱いて、……抱き締めて、……だから、フランだけが、ネーヴェの嗚咽を聞いていた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
魔種ルドラスは討伐されました。もう、ネーヴェさんの前に現れる事はないでしょう。
楽園とは、辿り着けないから、もう手を伸ばせないから楽園と呼ぶもので。
本当の楽園なんて、きっと何処にもないのかもしれません。
――それでも。思い返すしか出来なくても、あの時間は紛れもなく、二人にとっての楽園だったのでしょう。
ネーヴェさんに称号“楽園を背に”を付与します。
ご参加ありがとうございました。
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。
いよいよルドラスとの決戦となります。
●目標
ファルカウ下層「啄木鳥の領域」の安全を確保せよ
●立地
大樹ファルカウの下層をくりぬいて作られている、幻想種たちの住処です。
明確な住所はありませんが、啄木鳥がよく巣を作っていたので「啄木鳥の領域」という名称がつけられています。
幻想種たちは皆眠ってしまっています。木を巧妙にくりぬいて作った家は静かです。
所々に茨が巻き付いていたような跡がありますが、現在は大丈夫です。
ファルカウ上層部は信仰の対象となっており、昇る事は出来ません。
枝を折ったり無理矢理登ったりするのは例えイレギュラーズであってもタブーと認識されますのでご注意下さい。
●エネミー
魔種“ルドラス”x1
邪妖精“ケルピー”x10
ルドラスは幾度かイレギュラーズと交戦経験のある魔種です。
剣での物理的戦闘を行います(特殊な能力はないようですが純粋に強敵です)
ケルピーは馬の上半身と魚の下半身を合わせたような邪妖精です。
縦横無尽に走り回り 走った跡に“触れるとやる気を削る”泡を作り出します。
また、狙った敵の足元を水場に変えて足止する攻撃や、対象を眠らせ、後述の“夢檻”状態に陥れる攻撃をしてきます。
●『夢檻』
当シナリオでは<タレイアの心臓>専用の特殊判定『夢檻』状態に陥る可能性が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●
此処まで読んで下さりありがとうございました。
アドリブが多くなる傾向にあります。
NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
では、いってらっしゃい。
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