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シナリオ詳細

再現性東京202X:ひとくいこうがいびるぢんぐ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●違法建築だ! 潰せ!
 希望ヶ浜の郊外に、突如として――一晩のうちに――ボロボロに崩れ落ちそうなビルが姿を現した。それが、一週間ほど前の話である。
 当然だが郊外とはいえ土地としての諸々の関係上、即座に排除せねば差し障りがあるもので、常日頃の厄介事に加えてジャバーウォック襲撃の後処理(表向きには汎ゆる言い訳で糊塗されているが)が積み重なっていく状況下での騒ぎは極力避けたいというのが希望ヶ浜住民の総意であった。
 話が厄介なのは、外観調査でわかったそのビルの出自。『希望ヶ浜38号ビル』と称されたその雑居ビルは、数ヶ月前に取り壊しが完了した旨、解体業者から元の所在地の地主に報告が上がっている。進捗報告に完全解体後、そして建材搬出後、そして爾後の整地に至るまでの状況写真が添付されていたので事実と見て差し支えあるまい。
 なら、なぜ関係のない郊外の土地に現れたのか?
 その疑問に正確に回答し得る者は、少なくとも一般人の中にはいなかった。さりとて、倒壊の危険のある違法建築など放って置いていいわけがない。
 例外的ではあるが、即座に解体業者とコンタクトを取り、機材を見積もり、揃え、解体作業が開始された。調査の折押収された解体計画書に準じて動いたのがかなり大きいといえる。
 斯くして、解体作業は開始され。
 そして、一日で頓挫した。
 理由は単純明快で、解体作業にあたっていた作業員、重機オペレータ、及び現場管理者諸共に失踪してしまったからである。
 当時は騒音が激しく、また現地と周辺民家までの距離が遠く状況を知る者はいなかったが、幾つか状況証拠が残されている。

 ひとつ、作業員達の衣類。
 ふたつ、それらにこびりついた粘液(血やその他体液が混じっている)。
 みっつ、現場管理者が所持していたと思われるカメラのSDカードに残された数多の写真。

 それらの情報に関して、表沙汰にされることはなかった。数日後、外見年齢も背格好もまちまちの者達がその場に訪れたことは……きっと、周辺住人達にすら知らされていまい。

●『擬態型』ですね
「……というのが表向きの報告書で、この情報に関して幾つか偽情報が交えてあります。ああ、失踪のくだりは『石綿作業主任者不在の発覚により急きょ中断』と周囲には触れ回っています」
 日高 三弦 (p3n000097)はふたつの封筒、一般的な茶封筒をトントンと叩き一同に告げた。そしてもうひとつの黒い封筒から写真がプリントされたA3用紙の束と、もう少し突っ込んだ詳細情報が記載されていた。
 写真の内容は問題なく進む作業状況……と思いきや、モンケンハンマーが建物に食い込んだ写真、そこから湧き出したなにかの写真、襲われる作業員達、その経過にいたるまでがかなりの枚数残されていた
 それらの写真を信じるなら、『38号ビル』自体が巨大な夜妖であり、それからわき出した某かが人々を襲ったと見るのが自然だろう。
「この外見から考えるに、コウガイビルと呼ばれる肉食のヒルを模した夜妖であり、ビルそのものも巨大な個体の擬態であると考えられます。……流石にビルまるごとというより、幻覚を交えた中型個体とみるのが正しいでしょうが」
 ビルの形態を維持しつつ内部からヒルの大群を送り込み、それらを倒していくことで本体の力を削ぐことができる。そして、擬態を解かない限りは恐らく撃破も難しいと思われる。
「コウガイビルの特性そのままであれば麻痺毒などを備えた肉食軟体で、粘液により行動面に不利を被る可能性があります。軟体なので物理攻撃に耐性がある可能性もあり……ああ、そうでした」
 これが大事でした、と三弦は三枚の書面を取り出した。
 ひとつは、今般の事件現場の空き地周辺の白地図。表向きの話と違い、幾つか民家が確認できるか。
 ふたつめ、半壊した住宅の写真。粘液のようなものが這った痕跡がある。
 みっつめ

 生活感を残したまま、衣類のみ残して失踪した家族と、流れ続けるテレビの映像。

GMコメント

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

(しまった……タイトルがタイトルなのにガチ気味なやつにしちゃった……)

●成功条件
・『人喰い38号ビル』の撃破

●人喰い38号ビル
 近頃中心市街地で解体されたばかりのビルに偽装した、巨大(本体推定6m弱、直径2mほど)なコウガイビルの夜妖。
 発生経緯は不明だが、晩春から初夏に至る最近の流れやヒル関係への嫌悪、ジャバーウォック襲来の余波で半壊し解体されたビルというものに対する無形の虞などの集合体と思われる。
 本体が攻撃に参加することは終盤までない(動き出すとビルの幻覚が消えます)ですが、ヒルの量産、粘液の生産などを常時行う為厄介極まりないです。
 HPはかなり高いですし、幻覚発生中は正確な肉体位置が把握できずビルに指向した攻撃は空振り扱いになります。強力な物理耐性を持ちます。

●コウガイビル×多数(毎ターン追加)
 耐久そのものは大したことありませんが、基本理念として「仲間を犠牲にして接近し敵に取り付き襲いかかる」特性を有しており、数に任せ互いをかばいながら接近してきます。
 ですので怒り付与による範囲誘導や範囲攻撃は(当然の如く有効でこそあれ)通常時より効果が薄いです。取りつかれる可能性、ダメージへの覚悟などはしておいたほうがいいでしょう。
 基本的に【毒系列】【不吉系列】のBSを付与してくる消化液による低威力~中威力至近攻撃が主体となります。なお【弱点】持ち。
 なお、特定の方向に特化したメンバーを察知した場合、それに適応したヒルが出現しますが、追加数や追加スパンが落ちる上にそれに対応する分他の性能が落ちます。

●フィールド情報
 38号ビル解体現場(柵内部)。
 広さは申し分ありませんが、周囲には供給され続ける粘液が足元に溢れており、地上にいる限り【麻痺系列】のBSを被ります。
 なお、飛んでいても数ターンに1回、ビルから命中精度がそれなりの粘液が飛んできます。飛んでる相手全員に。
 足止系列などのBSは発揮されません。

  • 再現性東京202X:ひとくいこうがいびるぢんぐ完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年05月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イルリカ・アルマ・ローゼニア(p3p008338)
ローゼニアの騎士
越智内 定(p3p009033)
約束
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール
アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(p3p010347)
アーリオ・オーリオ
荒御鋒・陵鳴(p3p010418)
アラミサキ
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者
朱雀院・美南(p3p010615)
不死身の朱雀レッド

リプレイ


 夕焼けがビルを反射して地表を照らす。ガラスの自然な反射とは何処か異なる、生物の表皮をなでつけたような光だった。それがとても不気味で、この状況の異様さの直喩にすら思えた。
「怪人や怪物は世界に大勢居るけど、まさかビル自体が怪物っていうのは初めて見たね」
「擬態型って言うと最近流行りのアレを思い出すよね。『でかぶちゃ』だっけ、でかくてぶちゃいく。あれよりもタチ悪そうだけど……周囲にも被害出てしまってるようだし」
 『不死身の朱雀レッド』朱雀院・美南(p3p010615)は柵の向こうから覗く『38号ビル』の威容を確認し、それ自体が夜妖であるという事実に改めて寒気を覚えた。しかもヒルの類なのだという。不気味というより気持ち悪さが先行するその存在は、それなり経験を積んでいても理解し難い不気味さを湛えている。
 『なけなしの一歩』越智内 定(p3p009033)が真っ先に思い浮かんだのは、最近になって希望ヶ浜でバズり始めたWeb漫画シリーズで、体躯が大きく不細工なモンスターたちが小さい生物をいじめて回る様子をコミカルに描いたものだ。彼がそんなものに喩えたのは、目の前に現れた夜妖が割と冗談ではない不気味さと被害規模を有しているから……というのもあろう。小馬鹿にでもしてやらねば正気で居るのも疑わしいほどになる。
「擬態。幻覚。粘液。数の暴力。何れも厄介な性質だが此れ以上の被害は食い止めねばならん。……まさか一般人が未だ何処かに居る、とは言い出すまいな?」
「擬態し、狩猟する……自然界では普通な姿はこうも歪になれるのですね。私達が介入している以上、逃げ遅れはいないと信じたいですが……」
 『アラミサキ』荒御鋒・陵鳴(p3p010418)がふと吐き出した不安に、『アーリオ・オーリオ』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(p3p010347)はそわそわと周囲を見回し、『まさか』と口ずさむ。陵鳴によって放たれた式神は、少ししてからふっとその感触を失う……まるで『食われた』ように。内部状況を十分クリアリングできたわけではないが、相手は夜妖だ。『今この瞬間はいなかった』、と認識する他はあるまい。
「まさかビル自体が怪物っていうのは初めて見たね」
 ローゼニアの騎士』イルリカ・アルマ・ローゼニア(p3p008338)は、怪物というものを理解しつつもここまでのスケールは想定外だったらしく、酷く苦い顔だ。これに巻き込まれた人々のことを思えば、その不快感も当たり前だろう。……但し、イルリカは『日常を壊す』相手に対し、酷く嫌悪感を抱いて入るが。
「ふーん? ずいぶんメイワクそうな夜妖なのね? 解体業社さん狙い撃ちって感じ?」
「……はっ、つまり郊外のビルでコウガイビルってこと!? よく思いついたなそんな言葉遊び!」
「え? あー……そういう?」
 『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)は38号ビルそのものの悪辣さに、強敵を前にしたような身震いを覚えた。賢いな、と。しかしながら、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は別の意味で『賢い』と思った。言葉遊びですらも夜妖になるか。京は言われて気付いたようだったが。
「覇竜に生息するモンスターはどれも純粋に脅威って感じだけど、練達……それも希望ヶ浜近辺に現れる怪異……夜妖って言うのは趣味が悪いわね」
 『炎の剣』朱華(p3p010458)は38号ビルを見上げ、改めて敵のやりたい放題ぶりに嫌悪感をあらわにした。イメージの怪物とはいえ、そこまでのものになるとはどれほどの悪意を重ねたものか。
「朱華達の手であの違法建築物……だったかしら? さっさと叩き潰しちゃいましょっ!」
「さーて、もしかしたらか弱い女の子に見えちゃうかもだけど……こー見えてアタシ、ぶっ壊すのは得意なのよ! 解体してあげるわ、38号ビル!」
 朱華と京は、そんな相手でも構うこと無く啖呵を切った。
 その勇ましさに、イズマと定はただただ「元気だなあ」などと感心しつつ、溢れてくるコウガイビルの群れに油断なく目を向けた。


「うわあああああ! こいつら超くっついてくる! 倒して! 倒して!」
 定は自らに這い上がってくるヒル達のあまりの気持ち悪さに思わず悲鳴をあげる。言うほど強敵ではないのだが、的確にトラウマを刺激してくる。学校での田植え体験、祖母の手伝いでやった田植え。何れの場合にも足先から這い上がるヒルの記憶が延命にこびり付く。悲鳴を上げながら、しかし彼は一歩も退かずにヒル達を堰き止める。悲鳴に混じって放たれた希望の声は、ひときわ離れた位置にあったヒル達を弾き飛ばした。
「フハハハ! 僕こそが悪の秘密結社『シュヴァルツァーミトス』所属、怪人『不死身の朱雀レッド』さ! さあ、ビル君達。僕は逃げも隠れもしないよ! 全力で来るがいいさ!」
「怪人なのに凄くかっこいい名乗りなの凄く……なんか凄くミスマッチだよな、ってそんなこと言ってる場合じゃない!」
 美南は高らかにヒル達に宣言し、定(の後ろのイズマ達)へ襲いかかろうとするヒルの何割かを引き付ける。今まで堂々たる名乗りを仲間達が上げるのを幾度も聞いたイズマではあるが、ここまで『悪』と怪人名がミスマッチしているケースの珍しい。悪ならざる悪なら凄く見た気がするが、とちらりと浮かんだ想像を切り捨てると、彼は仲間達に賦活の音響を授けていく。
「二人は頑張ってるけど、それでもどんどん進んでくるね……なら、私も抑えに回らなきゃね」
 イルリカは定と美南が受け止める端から漏れ出てくる個体に顔を顰め、仲間の為にと一歩、進み出た。次の瞬間に放たれた魔砲は真っ直ぐにヒル達を蹴散らしその密度を僅かに落とし、確かな勢いを感じさせる。襲いかかってくる。避けられる――きっと。
 思い込みを糧に仁王立ちしたイルリカは贔屓目に見ても身軽な方ではない、然しながら、飛びかかるヒルの何体かを確かに躱した。常の動きよりも遥かに機敏に、正確に。それが長続きするかは脇においても、自己暗示の凄まじさは本物らしい。
「――威を示せ、炎の剣よっ!」
 朱華の声とともに突き出された灼炎の剱は、纏った炎を真っ直ぐに38号ビル目掛けて吐き出し、その慮外の熱量を叩きつける。余波とばかりに蹴散らされたヒル達と、黒く焦げた(ように見える)外壁。ビル本体には如何許も傷が増したようには思えぬが、されど彼女の敵意は十分に伝わったことだろう。……刺すような視線、それそのものに熱量がある錯覚すら覚えたはずだ。
「イズマくーん、ありがとー、助かっちゃうぜー!」
「あ、ありがとう……ってそれはいいんだ! 京さんも気をつけて!」
 京はイズマに向かって投げキッスを飛ばすと、コウガイビル達に極めて不敵な笑みを浮かべた。ヒルが特に集積している38号ビル入り口まで飛び込むと、踵落としでビルごと巻き込むようにヒルを蹴散らし、次の瞬間には大きく飛び退いている。一瞬だけぽっかりと空いたヒル達の空隙は、次々と現れる新手に埋め尽くされていく。投げキスを受けたイズマはといえば、必死に庇いつつ踏ん張る定の体を覆う粘液をシャボンスプレーで洗い流してやるぐらい。……そもそも動きを鈍らせるヒルの権能を無効化しているだけで多大な貢献なのだが。
「生きる力を、戦い続ける活力を満たし続けましょう!」
「お味方と矛先を合わせて戦う、単純な事だが……まこと心強きこと」
 アンジェリカは前に出た三名を重点的に治療しつつ、次々溢れ出てくるヒル達に嫌悪の目を向ける。が、仲間達を最後まで倒れさせまいという使命感に燃える目は本物だ。そんな彼女へと迫った個体群を、陵鳴は一撃のもとに打ち払い、仲間達の流れるような連携に嘆息した。ああでありたい、あのように戦いたい。なれば、より攻勢を強め、力を奮い、その勇猛を知らしめるのみ。
「僕以外に目が行くなんて浮気性だね? こんなに美味しそうな僕を無視するのかな?」
 美南はアンジェリカ達に迫るヒルにちらりと視線を向け、不敵に笑う。誘引の技量ではなく、単純に『美味しそうな自分』をアピールしただけ、だがヒル達にとっては『より美味そうな相手』としての意識が刷り込まれ、彼女を狙うべく群がっていく。……ただただ、『食べられる為に生まれた少女』という業の深さがこの状況で異常なまでに適合しているのだ。
 コウガイビル達は、徐々に其々の特性を学び取ったような個体も生まれつつある。……つまりそれは、個体の発生数を抑えうるということでもある。
 数的劣勢を感受するか、戦局的不利を地力で覆すか。
 そんなもの、『どうあっても勝つ』以外の結論は無いのである。


「相性がいいとか悪いとかよりも、そもそも数が多すぎない……!?」
 斬って捨て、また斬って。『トロン』にこびりつく粘液の濃さは徐々に増しているように思え、足取りは想定以上に、重い。が、イルリカは不平不満を口にしつつも剣を振る手を止めなかった。物凄い勢いで体力が削り取られ、アンジェリカの賦活に頼っている事実はあれどそれでも倒れないのは、偏に騎士を名乗る意地ゆえか。僅かに鈍った手に群がったヒルは、もう戦うことを拒絶しているようでもある。
「それは、そう……! でも、ほら。僕らイレギュラーズじゃん? 怖いけど! 滅茶苦茶怖い相手だけど! 気持ち悪いけど、だからって逃げるわけにはいかないからね!」
「然り。一般人がいなければ、オレ達が退く理由はない。ここで退いて、入り込む筈がなかった一般人の犠牲が増えた時、きっと後悔しきれない……と、思うね」
 追い詰められた声で叫ぶ定は、然しその声から希望を失っては居なかった。彼が強いのは、そこだ。芯の強い精神は、追い詰められてなお輝く。だから、その声に乗せた希望はコウガイビルを次々と蹴散らしていく。その姿を目にし、陵鳴はここで退けぬと改めて決意する。イルリカに群がるコウガイビルを散らし、定に張り付いた粘液ごと更に吹き飛ばす。
 悲劇はここで終わらせる。これ以上、見えないところで誰かが死ぬのは勘弁願いたいのだ。
「まだまだまだまだ、焼き尽くすまで止まらないわよ! 少し頑丈になった程度で負けないと思わないでよ!」
 朱華はあらん限りの勢いで炎を叩き込み、辺り一面を燃やし尽くす勢いで攻め上がる。少しコウガイビルが死ににくくなったように思えるが構うものか。
「さぁ早く本体の姿を見せろ!」
「そうそう、これ以上子供……子供? を殺され続けて自分だけ高みの見物ってのは感心しないね!」
 イズマは攻めの音階で近場に寄り付く個体を蹴散らし、京はヒットアンドアウェイを駆使し只管に踵落としを爆撃の如くに叩き込む。
 数が数だけに、飛び寄ってくる個体に僅かに足並みを乱されることはある。だが、少し鈍った程度で彼女の速度はとめられない。イズマも、物理と神秘の両輪で以て、多少の耐性を覆していく……イレギュラーズに、小手先の技術はまるで意味がないのだ。

 おおおおおおおお――――!!

「でかいのが出てきた! 怖い!」
「でも、定さんなら?」
「……勝つよ、勝って見せるとも!」
 悲鳴のような振動が周囲を揺らし、38号ビルが突如消失する。そこに現れたのは相当な体躯を誇るコウガイビル。手負いなのか、先頭部分が二つに裂けてそれぞれが頭部になっている。定の悲鳴に、イズマは冗談めかして問いかけ、定もそれに息を深く吐いて応じた。冗談を言い合えるなら、彼等はまだ、敗北がありえないということだ。
「あと一息です、皆さん! このまま戦い抜きましょう!」
「神秘には明るくないが、果たして物理とどちらが通るか……」
 陵鳴は荒御鉾・陵鳴に神秘の力を籠め、巨大ヒルへと叩き込む。得手ではない分、案の定というべきか、通りが悪い。これが物理であれば、どうか。減衰した分で、今を超えられるか?
「あら、答えは簡単よ陵鳴。強力な物理耐性を持ってようが完全耐性を持ってないなら上からぶん殴るだけよっ!」
「……なるほど」
 その答えを出したのは朱華。単純明快、そして最高効率の実力の発露でもって、多少の不利を悠然と覆したのである。巨大ヒルはたまらず身じろぎし、彼女を照準する。
「罪なき人達を喰らって来たんだ……その報いを受け入れるがいい。不死身の朱雀レッドが、その攻撃を受け止める!」
 が、直前で美南が割り込み自らを手で示し、かかってこいと叫ぶ。その魅力になにが抗えようか。
「私が聞くことは叶わないけど、あなたに息絶えて欲しいと祈る人が居たと願うよ。だからその願いは、私達が叶える」
「本気出したげるよ! 跡形も無く燃やし尽くしてあげるわ!」
 いよいよもって、本体を殺すのみとなった。これ以上力をセーブすることも、倒れぬよう工夫する必要もなくなった。
 なればあとは本気を出せばいいだけ。今まで以上に、倒れるまで。
 イルリカは一気に間合いを詰め、苛烈な一撃を。
 そして京は、長らく果たし合ってきたヒル達への怒りを、傷を、そのまま巨大ヒルへと叩き込むべく走り出す。
 地上でイルリカが胴に傷を与え、ぶれた上体めがけ京の光る脚部が振り下ろされる。快刀乱麻もかくやという勢いでずるりと切断されていくそれは、粘液による守りなどなかったかのようになめらかな切断面を残し倒れ伏した。
「……勝ち、かな?」
 定の問いかけに、一同はしばらく言葉を発せなかった。まるでそれまでの出来事が嘘であるかのように、ビルもバリケードも残されていなかったのだから。


 残されたのは、重機類と衣類の残骸、そして周囲にたしかに残された家屋たちだ。バリケードすらも、人を引き込むための仕掛けだったというのだろうか?
「きっと辛かったのでしょう、怖かったのでしょう。身動き出来ぬまま、自らの命を少しずつ貪られていくのは想像し難い程に悲惨な最期だったでしょう」
 アンジェリカは遺品を集め整理しつつ、その無念を思う。
 旅人たる希望ヶ浜の住人で、『元の世界に』と願う者がどれほどいるかはわからない。『この世界が正常だ』と現実を妄想で糊塗した者達に、どこまで正気があっただろうか?
「しかしながら竜種の残した傷は余りに大きいな。物理的にも。精神的にも。彼等が心穏やかに過ごせる様、何か策が必要かね」
「どうかなー、あんまりこっちでせかせか対策考えるとその動揺が皆に伝わっちゃうかもよ?」
 ボロボロになりつつ、定は懸念を示す陵鳴に笑いかけた。
 日常は日常のまま、一般人の皮を被って。
 今はただ、平穏の顔で塗り固めるのが、その下の傷に塩を塗り込まぬ工夫とばかりに彼は笑った。

成否

成功

MVP

越智内 定(p3p009033)
約束

状態異常

イルリカ・アルマ・ローゼニア(p3p008338)[重傷]
ローゼニアの騎士

あとがき

 いまはまだ、日常だけを繰り返しましょう。

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